≪ 2011 06   - - - - - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 - - - - - -  2011 08 ≫
*admin*entry*file*plugin
2011年07月の記事一覧

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


『優位なもの』(2/2) 

「無理無理。いくら私でもこんな深い山、一人じゃ絶対迷うよ」

 まず、元薬草採りのチコが山の深さに驚いた。
 彼女が生まれ育った山とは、段違いに草丈が深い。
 それに加え、獣道も相当細かった。

「あァ、その通りだぁ。
 五年くらい前に他所者が一人で山に入っていったけど、結局帰ってはこンかったよ」

 ニルは淡々と話しているが、コヨーテらはいい気分ではない。

「だから村長さんが気を利かせて案内役まで付けてくださったんですね……」

「……早速だが小川へ向かう。場所を教えてくれ」

「分かったぁ。小川はこっちだぁ」

 ニルが指し示した方向へ、レンツォを先頭にして進む。
 万が一に備え、ニルにはミリアを付け、しんがりはコヨーテとチコが務める。
 小川への道は割と近く、少しもしない内に辿り着けた。

「外敵の脅威がある以上、あまり離れない方がいい。
 チコとレンツォを中心に、二手に分かれよう。
 何かあったら、すぐに知らせてくれ」

 こうしてレンツォ、バリー、ミリアが上流、チコ、コヨーテ、ルナ、ニルが下流を調査する事にした。
 しばらく調査している内に、レンツォがある痕跡を見つけた。

「これは……足跡? それにしてもデカいな、人間の二倍はある」

 なるべく足場を荒らさないよう、注意しつつ足跡を辿る。
 少し歩いた後に、『それ』はあった。

「……ッ!!」

「おい、何か見つけたのか!?」

 下流を調査していたコヨーテらも、レンツォのところへ集まりだす。

「――ちくしょう!」

 地面の足跡、そのすぐ傍らに落ちている『もの』を見たとき、レンツォの言葉の意味を知った。

「ひっ……!?」

 ルナが悲鳴を上げる。
 他の連中も一様に険しい表情を作る。
 そこに落ちていた『もの』、それは腐り始めた人間の手だった。

「これは……大きさから見て子供の手だわ。
 惨い事に、食い千切られてしまっている……」

「ヒィッ!! こんな……バケモンが……ンぷッ!
 村の近くにいるなンて……ンぷッ!ンぷッ!!」

 その手を持ち上げるミリアの表情は険しい。
 恐ろしい程に冷たいその手の上を、虫がそろそろと歩いていく。
 虫を振り払い、レンツォが眉間に皺を寄せて手を観察する。

「……腕の切り口を見る限り、間違いなく噛み千切られた跡だね。
 そして、この巨大な足跡。
 信じたくないけど、おそらくオーガの仕業だろうね」

「オーガだとォ!?」

 普段冷静なバリーも、このときは流石に声を荒げた。
 駆け出しの冒険者が立ち向かっても、まず無事では帰れない。
 それほどまでに、オーガという生物は危険なのだ。

 オーガとは食人鬼と呼ばれ、その呼び名の通り人肉を好んで食する極めて狂暴な怪物である。
 二メートルを越す、その体格にふさわしい腕力と生命力を誇る。
 知能は低いが、軽々しく立ち向かって勝てる相手ではない。

「という事は、村人たちはおそらく……」

 レンツォはその先を言わなかったが、その必要もない。
 無言で子供の手の泥や細かい虫を払い落とし、油紙にくるんで荷物にしまった。

「は、早く帰りましょう!
 オーガなんて相手にできっこありませんよ!」

 一瞬の静寂の後、我を取り戻したルナが叫んだ。
 コヨーテの腕を、必死に掴んでいる。

「落ち着け、ルナ」

「お、落ち着いてなんかいられません!
 相手はあのオーガなんですよ!?
 早く逃げないと、私たちまで……食べられちゃいますよぅ!!」

 パァン! という乾いた音が、小川に響き渡る。
 誰もが声を出せず、川のせせらぎだけが耳をついた。

「頼むから、落ち着いてくれ」

 ルナは頬を押さえ、涙目になりながらも頷いた。
 コヨーテは震えるルナの肩に触れる。

「……調査を続けるにしろ、逃げるにしろ、ここはまだ相手のテリトリーだ。
 ここで冷静さを欠いてしまっては、万が一の事だって起こり得る。
 まずは落ち着いて、これからの事を考えよう……いいな?」

 優しく言い聞かせるようなコヨーテの物言いに、ルナは何度も頷く。
 どうにか平静を取り戻した事を確認すると、コヨーテはバリーの方へ向き直る。

「どう考える?」

「あ、あァ。そうだな……」

 一瞬呆けてしまっていたバリーは、言葉を詰まらせてしまった。

「今回の事件の原因がオーガである事は、ほぼ間違いないだろう。
 大男である樵を容易く殺し、死体も見つからないという事は、自分の巣に持ち帰って喰らっているから、という理由付けもできる。

 たがよォ……」

「だが、なんだ?」

「可能性は一〇割じゃあねぇ。
 オーガではない可能性も僅かながらある、ってこった。
 仮に村長に原因はオーガでしたと伝えて、実は違ったという事になったらどうなる?」

「私たちの信用は地に落ちるわ……無能で臆病者の冒険者だと、ね」

 バリーの言葉を、ミリアが引きついだ。
 信用を失うという事は、冒険者としてやっていけないという事だ。
 冒険者の世界では、実力よりも信用・信頼が重視される事もある。

「つまり、原因が確実にオーガだと証明できなければ駄目だという事か」

「或いは、オーガの棲み処を見つければいい。
 居場所を報告できれば、無能呼ばわりされる事はないだろうぜ。
 幸い、手がかりはすぐそこにあるんだ」

 バリーは足跡を指して言っている。

「よし、奴らの棲み処を探そう。レンツォ、足跡を辿ってくれ」

「……分かったよ」

 指示を受けたレンツォはすぐに足跡の調査に取り掛かる。
 調査が始まった事を確認したコヨーテは、ルナの方へ向き直った。

「ルナ、怖いか?」

「……はい」

 その問いに、ルナはこくりと頷いた。

「オレはオーガよりも、仲間を失う事の方がよっぽど怖いんだ。
 もしこれから誰かが大怪我をしても、君がいれば助ける事ができるかもしれない。
 オレにとって君は、どんな英雄よりもずっとずっと心強いんだ」 

 コヨーテの言葉に、ルナは顔を上げて真っ直ぐに彼の瞳を見た。
 薄っぺらな励ましなどではない、嘘を言っている眼ではない。
 これが彼の本音なのだという事は、すぐに理解できる。

「コヨーテ、足跡を追うよ」

 足跡の行方を丁寧に調べていたレンツォは、北へ続いている事を発見した。
 だが、誰も歩みだそうとしない。
 彼らの視線は、ルナとコヨーテに向いていた。

「……私も、行きます」

 しばらくの逡巡の後、ルナはやっとそう言った。



 『それ』の棲み処は山頂を越えた、隣村の領域にあった。
 隣村の領域を侵す事は、村ではタブーだったらしく、ニルでも案内は不可能だという。
 とはいえ、進むしかない一行は足跡だけを頼りに進み、洞窟を発見した。

「間違いないな、足跡はこの洞窟の中まで伸びている」

「さて。これで棲み処の場所は分かった……どうするコヨーテ?」

 バリーの問いは、戦うか逃げるかの二択である。
 前述の通りここまで調査してしまえば、逃げ帰っても問題ない。
 あとは凄腕の冒険者になり何なりに任せてしまえばいい。

「オレの考えは……例え相手がオーガであろうと戦うべきだと思う」

 突然のコヨーテの意外な好戦的な考えに、全員が驚いた。

「考えてみてくれ。
 原因が判明していない今までですら受け手がいなかったんだ。
 オーガ退治の依頼となっては、更に受け手は減るだろう。
 こんな片田舎の騒動に軍が動くとも思えない。

 ……つまり、今この時点でオーガに立ち向かえるのはオレたちしかいないんだ」

「ちょっと待て、自惚れが過ぎないか?
 例え俺たちだろうが、あのオーガに立ち向かえるとは思えねぇ」

「オーガに立ち向かうには、力は重要じゃない。
 真正面から戦うときは必要だろうが、オレたちは真正面から戦わない。
 奴らには無くて、オレたちにあるもの……知恵を使って戦うんだ」

 コヨーテの言葉が途切れると、辺りは静寂に包まれた。
 誰も言葉が出せない。
 果たしてその話は正しいのか、誤っているのかの判断がつかないのだ。

「コヨーテ、正気か?」 

 静寂を破ったのはバリーだった。
 コヨーテは「勿論だ」と頷く。

「そうか……ならば俺も賛成しよう」

「バリー!? 何を言って……」

「レンツォ、オマエはこの地形を見て何とも思わないか?」

 レンツォの言葉を遮るように、バリーは洞窟を指差した。

「……洞窟の出口付近は草がある程度伸びてる。
 確かにあの辺りにスネアでも仕掛ければ効果的だろう。だけど、それだけじゃ……」

「そうだ、奴はここを出入り口に使っているんだ。
 つまり俺たちは、ここで奴を待ち伏せる事ができる。
 レンツォの言うとおり、罠を仕掛けてな。
 罠に嵌めちまえば、絶望的な確率も半々くらいには持って行けるんじゃねぇか?」

 罠というものは、古来から相手を不利な状況へ陥れるために使われてきた。
 それを用いれば、上手くいけばそれだけで勝負が決する事もある。
 勝負を決めるまでに至らずとも、行動を鈍らせるだけでも大いに意味がある。

 バリーの提案で、僅かながら希望の光が見えてきた。
 だが、それはあくまで『僅かな』希望であり、楽観視はできない。

「オレたちはこれから、オーガを相手にする事になる。
 異論のある者はいるか?」

 コヨーテはぐるり、と仲間を見渡した。
 ルナやチコの表情は硬いが、否定はしていない。

「……決まりだな、村へ戻ろう」

「村へ? どうして?」

「決まってる、罠の材料を調たちするのさ。
 刃物をいくらか借りれば、スネアと加えて殺傷性のある罠を作れるからな」

 勿論、目的は罠の強化だけではない。
 この事を村長に報告し、村人の協力を仰がねばならない。

 コヨーテらはすぐに村へ戻り、村長に報告へ向かった。
 『オーガが出た』という報告を受けた村長は、顔を真っ青にしてしばらく呆けてしまった。
 ややあって平静を取り戻すと、村長は勢い良く頭を下げる。

「お願いします……! どうか……どうか、おぞましい人食い鬼を退治してください……!」

 村長は、何度も何度も頭を下げた。
 ただでさえ悪かった事態が、更に悪化したのだ。
 いつオーガが『食事』をしに村を訪れるかも分からない。

「ああ、元からそういう約束だからな……」

 コヨーテの言葉に、村長は搾り出すような声で「どうか、よろしくお願いします……」とだけ言った。

「コヨーテ、僕は刃物を探してくるよ。

 ……皆も手分けして罠に使えそうなものを探した方がいい。
 オーガが洞窟の外に出ちゃったら、罠は使えなくなるからね」

 現時点での最大の懸念はオーガの行動だ。
 洞窟の中にいるからこそ、出口に罠を張れば効果的なのである。
 もし洞窟の外に出られては、罠を張っている最中に襲われる危険もある。

「それと……悪いけど、これは任せるよ」

 レンツォは荷物袋から、例の油紙にくるんだ子供の手を渡した。
 村には家族の帰りを待つ村人もいる。
 だが、その生存は絶望的だという事も伝えなければならない。

「分かった、レンツォは罠の方へ集中してくれ」

 複雑な表情で、コヨーテはそれを受け取る。
 ずしりとした、ともすれば不快に感じるような重さが伝わってくる。

「……コヨーテ、私も行きます」

 ルナが同行を申し出たが、コヨーテは無言でそれに頷いた。
 目的の家の扉をノックすると、すぐに中年の男が顔を出した。
 山へ入る前に尋ねた、この子の実親だ。

「あンたたちか、どォした?」

「言いにくいが……山裾の小川の近くで見つけたものだ」

 コヨーテは油紙をまくり、子供の手を見せた。
 男は真っ青になり、ガタガタと震えだす。
 彼が思い描いていただろう最悪の予想が、現実となってしまったのだ。

「こ、こ、この手ッ……この手はッ……!
 嘘だ、オ、俺ェは信じねェぞッ!!」

「………………」

「嘘だ、嘘だ、そんな……こんな……う、わあぁぁああ!!!」

 男は震える手で、変わり果てた姿の息子の手を握り締める。
 その場でうずくまり、大声で泣き始めた。
 コヨーテとルナは居た堪れなくなって、その場を離れた。

「私……何も、言えなかった……」

 次の村人を訪ねようと歩いている途中、ルナが独り言のように呟く。

「あんなに苦しそうにしているのに、何も言葉が出なかった……
 どんな言葉を口に出しても、何の意味も成さない気がして……」

「ルナ……」

「神は、何故あの親子にこのような過酷な試練を与えたもうたのでしょうか……」

 胸の前で十字を切り、哀れな親子に対する祈りを捧げた。
 それに対して、コヨーテも何も言えない。
 ただ、自分に対する無力感だけが胸の内に残っていた。

 世の中には、救いようのない理不尽というものが存在する。
 それの前では、神の意思など関係ないように、人は不幸になってしまう。

 かつて、コヨーテも理不尽と戦った。
 戦い、抗い抜いた末に、今の生を得ている。
 だからこそ、その理不尽の有り得ないほどの『大きさ』を知っている。

「ルナ、行こう。急がないと……」

「ええ……」

 理不尽を呪う慟哭を背に、コヨーテとルナは再び歩き出した。



「……これだけあれば、ある程度の効果は得られるな」

 結局、村中を回って集まったものは、油壷、槍、数本の刃物、ロープ等であった。
 その中の槍は、行方不明になった村人の父親から、半ば強引に渡されたものである。
 「息子に持たせるつもりだった」という、手作りである事がありありと分かる、粗末な槍だった。

 受け取ったミリアは、その意を汲み「必ずこれを人食い鬼に突き立ててあげるわ」と約束していた。

「あとは、適当な薪を見つけなきゃね」

 チコの提案で、洞窟に向けて『燻り出し』を行う事にした。
 洞窟の中のオーガを罠に誘い出すために、最も安全な手法だからだ。

「急ごう……!」

 一行は急いで薪の切り出し場へと向かい、適当に切り出して背負う。
 それを運び、再び洞窟の前についた頃には、日は傾きつつあった。

「まずはスネアを作る。ミリア、ルナ、手伝ってくれ」

 レンツォが洞窟の入り口近くの草を結わえて輪を作る。
 一つ一つが、オーガの剛力に耐えうるように生木の枝で補強する。
 ミリアとルナは倒れるであろうポイントに、刃物を上向きにして地面に立てた。
 上手くいけば、オーガの自重で深々と刺さるだろう。

「この地形。上手くいけば強力な罠が作れるな」

 バリーは地形を観察し、粗末な槍を手に取る。
 ロープと木の枝を利用して、あたかも巨大な弓矢のような罠を仕掛けた。
 洞窟の入り口のロープが切れれば、枝のしなりを利用して槍が発射される仕組みだ。

 コヨーテは油壺の口に、ボロ布の導火線を取り付けた。
 ここに火を点けて相手に投げつければ、相手は火達磨となる。

 チコは運び込んだ柴を積み、そこに青草を乗せる。
 その上から水を振り掛け、湿らせた。
 これで火を点ければ、大量の煙が洞窟へと流れ込む。

 ここまでの罠を、初めてながらも迅速に準備した。
 後は燻りだすだけ。
 そう思った矢先に、レンツォがある違和感に気づいた。

「こ、れは……!!」

「どうしました、レンツォ?」
 
「……マズい、皆ちょっと集まってくれ」

 レンツォがいつにも増して深刻な表情を浮かべていた。
 それを見て、いい予感がするはずもない。

「これを見てくれ。
 ここまで近づいてようやく分かった、これは二体分の足跡だ……!」

 絶望的なその言葉に、全員は耳を疑った。
 なるほど、よくよく見れば微妙に大きさの違う足跡がある。

 オーガが集団で生活する事は、無いに等しい。
 だが、であれば話は別だ。
 数が多すぎない事が、逆に現実味を帯びてしまっていた。

「……皆、手ごろな石を拾って集めてくれ」

 予想外の事態に凍った空気を、コヨーテが打ち破る。

「どうするんだ?」

「二体いるのなら、一体だけでも罠で倒しておかないと、勝ち目は薄いだろう。
 投石でも何でもして、少しでもダメージを与えなければな」

「わ、わかった!」

 ここまで罠を張っておいて、今更逃げるわけにはいかない。
 最早やるかやられるか、その二択しか選択肢はないのだ。

 案内役のニルは、さっきからゲップが止まらないらしく、遠く離れた茂みの中に消えていた。
 猫の手も借りたい状況ではあるが、無理に戦わせるわけにもいかない。

「皆、気を引き締めろ。絶対に、全員で生きて帰るんだ!」

 ごくり、とミリアの喉が鳴り、チコが速射に備えて矢筒から矢を数本引き出した。
 ルナはぎゅっ、と十字架を握り締め、バリーは精神を集中させる。

「行くぞ……レンツォ、点火だ」

 こくり、と頷いて、レンツォが火口箱で柴に火を点ける。
 たちまち、柴からは白い煙がもうもうと立ち上がる。
 それは出口を塞ぐように、洞窟の中へも流れ出した。

 それからしばらく経ったとき、足音が洞窟から聞こえてきた。
 その音に、一行に緊張が走る。

「来た!」

 煙の中から、醜悪なオーガが姿を現す。
 どうやら大量の煙を吸い込んだようで、激しく咳き込んでいた。
 突然の煙攻めに混乱しているのだろう、ヨロヨロと足を踏み出し、スネアに足をとられた。

「……! ……!!」

 前のめりに転倒したオーガに、仕掛けてあった刃物が突き刺さる。
 苦痛の雄叫びが、森の中に響き渡る。

「一気に仕掛けるぞ!」

 チコは弓で主に足を狙い、バリーは【魔法の矢】で腕を狙う。
 遠距離攻撃の手段のない他のメンバーは、それぞれ投石でダメージを与える。

「オオォォォォォォ!!」

 オーガは搾るような咆哮をあげた。
 突然の奇襲で困惑し、傷つけられた事に対する怒りが入り混じった叫びだ。
 オーガは攻撃に耐えながらも、こちらへ向けて怒号を発した。

「……来なよ! こっちへ来て、僕らを殺してみろ!!」

 レンツォの叫びに呼応するように、オーガは足を踏み出した。
 逆上したオーガは、足にロープが引っかかった事に気づかずに、突撃する。

 ひゅん! と、村人から預かった槍が、風切り音と共に一直線にオーガ目掛けて飛来した。
 オーガの突進と、槍の推進力。
 いかに粗末な槍とは言えども、オーガの喉を易々と刺し貫いた。

「ガ……ゴ……」

 オーガは声も上げれぬまま、大地に崩れ落ちた。
 小刻みに痙攣しているところを見るに、どうやらもう立ち上がる事はないだろう。

 安心したのも束の間、洞窟の奥から新たな足音が聞こえてくる。
 もう一体のオーガが、たまらず出てきたようだ。

 一体目が草を踏み荒らしたせいで、スネアは機能しなくなっている。
 新手のオーガは一行の姿を見るや、怒号と共に真っ直ぐに襲い掛かってきた。

「それっ!」

 出鼻を挫くように、レンツォが放った油壷が、オーガの胸にぶつかって砕け散る。
 当然ボロ布の導火線には火が点いており、飛び散った油に引火する。
 一瞬でオーガの体表は炎に包まれ、辺りに肉を焦がす異臭を撒き散らした。

「オオオオォォォォォォン!!!」

 オーガは苦痛と怒りと困惑から、のた打ち回った。

「チャンスだ! 攻めるぞッ!!」

 コヨーテは剣を構えてオーガの右側へ駆け寄る。
 遅れないように、ミリアも剣を抜いて左側へと陣取る。

「オオォ!!」

 オーガは向かってくるコヨーテに向けて、力任せに腕を振り回す。
 だが、怒りに任せた攻撃ほど読みやすいものはない。
 一瞬だけ足を止め、横へ飛びのく事で回避する。

 その隙にミリアの剣が、オーガの左の脇腹を浅く切り裂く。
 激痛に反応して振り回した腕を、バリーの【魔法の矢】が刺し貫いた。

「うおおっ!?」

 怒り狂ったオーガは、足元の土ごとバリーに向けて蹴り飛ばした。
 バリーは飛散した土砂をまともに受け、額から血を流す。

「バリー、しっかり!」

 どうにか後方へ退いたバリーを、ルナが支える。
 バリーの額の傷はそれほど深くなく、ルナの紡いだ【癒身の法】によって全快した。

「こんのっ!」

 レンツォが接近してナイフを振りかぶり、オーガもそれに反応した。
 だが、レンツォは振りかぶったまま、横へ跳躍してオーガの攻撃の射程外へと退く。
 フェイントである。

「バァーカ」

 レンツォの嘲笑の言葉も、オーガには半分しか聞き取れなかったはずだ。
 背後から近づく気配に振り返ったオーガの耳を、チコの矢が削ぎ切っていた。

「――!!」

 痛みに身を強張らせたオーガの胴を、ミリアの左剣が薙いだ。
 引っ張られるように体勢を崩したオーガの首を、コヨーテの剣が貫いた。

「ゴ……! ……!」

 大量の血液と共に搾り出したオーガの最期の声は、自らの巨体が木々を薙ぎ倒す音に掻き消された。



「皆様、この度は本当に……本当にありがとうございました……!」

 村長は何度目か分からない礼を述べて頭を下げた。
 彼が頭を下げるのはこれで十二度目になる。
 村の脅威が取り除かれたのだ、今までの気苦労を考えると仕方ないのかもしれない。

「しかし、村人は……」

 オーガを倒した後、洞窟へと進んだコヨーテらは、オーガの『食べ残し』を発見した。
 無残にも食い散らかされた人間の残骸を調べたところ、人骨は約九名分あり、数が合わない。
 そのため、隣村にも問い合わせたところ、行方不明者の数はアリメ村と併せて一致した。

 辛うじて人骨に残っていた服装や装身具などで死体を特定し、いくつかは持ち帰った。
 とはいえ、最早原型が人間だという事すら疑わしくもあったが。

「確かに、村の者たちは残念でなりません。
 しかし皆様の働きがなければ、この村は滅んでいたでしょう……」

 決して誇張ではなかった。
 このまま放置していれば、アリメ村か隣村のどちらかへオーガは行動範囲を広げただろう。

 村長は銀貨の入った袋をコヨーテへ手渡す。
 中の枚数を数え、確かに八〇〇枚入っている事を確認した。

「では村長、オレたちはこれで」

「はい。皆様、御達者で……」

 そう言って、村長はまたしても深々と頭を下げる。
 村長の家を出て、街道へ向けて山道を下る途中、ふとあの笛の音が聞こえてきた。
 その旋律は悲しく深く、冒険者たちの胸にも響き渡った。



【あとがき】
今回のシナリオは22エンケーさんの「優位なもの」です。
私的に、序盤の短編シナリオではトップクラスの名作だと思います。
駆け出し冒険者にとって手に余る強敵であるオーガを相手に、どのように対処するか。
その答えが、シナリオの中に詰め込まれています。

山の探索はそれほどマップが広くないので、ほとんどストレスを感じません。
案内役のニルさんも、簡潔に方向を教えてくれますしね。
今回はストーリーの都合上、各場所を回りませんでしたが、実は山の中の至るところでアイテムを発見できます。
オーガの足跡を追う途中で、【薬草】と【幻覚茸】は発見できましたが。

シナリオ添付テキストにも明記してありますが、レベルに応じて難易度が修正されるみたいですね。
適正レベル以上のPCで挑もうとすると、能力や行動によってペナルティが発生する事もあるようです。
ただ、私としてはこのシナリオはやはり適正レベル(1~2)でやるのが一番だと思います。

今回、あまりに長くなりすぎたので分割しました。
パーティ結成編を8~10KB縛りでやってたのに、このリプレイは30KB超えてました。
個性を出すために会話量を増やしてたらこんな事に……


☆今回の功労者☆
レンツォ。【フェイント】が成功した後のラッシュで勝てました。

報酬:
800sp

戦利品:
【薬草】
【幻覚茸】

銀貨袋の中身→4000sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『優位なもの』(22エンケー様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。


スポンサーサイト
(△お好みの文字サイズになるまでクリックしてください)

周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

Info.
当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。