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2016年10月の記事一覧

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第三七話:『解放祭パランティア』 

 先日の依頼を終えた日、リューン近郊は急激に天候が崩れた。
 雨風吹きすさぶ中を好き好んで外出しようとする者は少ない。
 だがそれよりも先日の依頼の最中にルナが病魔に侵された事もあって『月歌を紡ぐ者たち』には休息が必要だった。
 六月に入るまで依頼を請けないと取り決め、それぞれが自由な休日を送っていた。

「で、進展あった?」

 ミリアとルナ、チコの三人はリューン蒲公英通りに存在する『サボテンと黄色い花』というオープンテラスのカフェで朝食を摂っていた。
 たまには女子だけで、という理由で誘われたのだが本当の目的はそちらだったか。

「……何の話です?」

 一応すっとぼけてみたが、ミリアはじっとりとした視線で睨んでくる。

「看病イベント的なものはなかったの?」

「ないですよ、もう……」

「ん? 何で元気なさげなのよ。何かあったの?」

「何もなかったんですよ」

 察したようにミリアは引き下がった。
 ルナにしてみれば熱にうなされてただ夢を見ていただけで、実際には手を繋いだだけであって。
 その後も仕事でドタバタしていてコヨーテともあまり話ができていない。

「じゃあさー、もう今日動かないとダメじゃん? 明日からまた仕事するんでしょー」

 黙々とフレンチトーストを胃袋に収めていたチコが口元を拭きながら言う。
 ちなみに彼女はホットサンドをすでに二皿も平らげている。
 食べ盛りとはいえさすがにちょっと食べすぎじゃないかと心配になってくる。

「でも、どうすればいいのか……」

「それよね。いつもいつも女子のほうが相手をどう誘うか考えなくちゃいけないなんてありえないでしょ」

「だってそうしなきゃ……」

「だーかーらー、次からはコヨーテから誘ってもらえるように今回がんばれってことだよー」

 この仲間たちは平然と無茶を言う。
 というか他人事だからと楽しんでいる節さえある。

「いい、ルナ? あんたは今でしか使えない最強の切り札を持っているのよ。」

 ミリアが言っているのは以前の請けた依頼の最中にコヨーテと取り交わした約束の事だ。
 多少ミリアの中で話が膨らんでいる気がするが、一応は確かに約束はある。

「この期におねだりしておかないと次のチャンスがいつ来るか分かったものじゃないわ」

「うーん……わ、分かりましたよ」

 確かにミリアの言うとおり休日なんて次にいつ訪れるか分からない。
 それ以前に冒険者という職業で明日の命があると保障できる術は何もない。

「でもさー、休日なのはみんな一緒だし、コヨーテって今日あいてるのかなー?」

「……あ、」

 当たり前の事がすっぽりと頭から抜け落ちていたルナは、急いで会計を済ませて『大いなる日輪亭』へ向かった。
 表通りは昨日の雨が嘘のように水が捌けている。
 これなら急いで走っても裾を汚す心配がない。

 宿に辿りつくまでそう時間は掛からなかった。
 やや乱暴に扉を開け放ち、一階の酒場に視線を巡らせる。
 驚いた様子で宿の娘さんがこちらを見て目を瞬かせているのが視界に入った。

「ルナさん? どうしたんです?」

「コ、コヨーテは……?」

「コヨーテさんなら少し前に出かけましたけど」

「えー!!」

 ルナはがっくりと膝から崩れ落ちた。
 まさかの戦う前から試合終了である。

「でも、ルナさん宛てに伝言預かっていますけど」

「え!?」

「『パランティアに先に行っているから後から追いついてほしい』って」

「パランティア?」

 宿の娘さんはボードから貼り紙を取ると、それをルナに示して見せる。
 それは依頼の貼り紙ではなかった。

「木漏れ日通りで一日限りのバザー……ですか?」

「そう、年に一度しか開かれないすっごい大きなバザーなんですけど……知りませんか?」

「……お恥ずかしながら」

 ルナは一年前まで修道院で生活していた身だ。
 あまりそういったイベントには関わりがなかった。

「かなり大きな催し物で、色んな国から掘り出し物が集まる一種のお祭りみたいなものですよ。うちの宿の冒険者さんたちも結構な人数がパランティアに出かけるそうですよ」

「だから今朝はがらんとしているんですね」

「まぁ、お祭りですからね。朝食もそちらで摂ろうとする人が多いんですよ。私も行きたいのにお父さんが許してくれなくて……ガッデム」

 ものすごい黒いオーラを纏う娘さんがそこにはいた。
 あまり関わるとものすごいとばっちりを受けそうで、ルナはそっとその場を後にしようとする。
 しかしルナは知らなかった。

「バザーに行くならちょっと頼まれてくれません?」

 宿の娘からは逃げられない!

「ひっ……、え、えっと……何をです?」

「新しい髪飾りが欲しいんですよー! お願いします、すっごい感謝するから買ってきて?」

 宿の娘の一見裏表のなさそうな純真無垢な笑顔攻撃が炸裂。
 ルナは一切逆らえない。
 窮したルナの首を縦に振る攻撃によって全てが決着した。

「じゃ、頼みましたよ。おみやげ楽しみにしてるから! いってらっしゃい!」

「は、はぁ……」

 半ば放り出される形で、ルナは宿を出た。
 コヨーテの呼び出しとあっては断る理由なんかない。
 それに初めて見るバザーというものがどんなお祭りなのかにも興味がない訳ではなし。

「……でも、追いつけと言われてもコヨーテはどこにいるのでしょう?」

 事態は早くも前途多難な様相を呈している。

 そんなルナが会場についた頃にはすでにバザーが始まっていた。
 リューンの街でも有数の大きな広場ではあるが、それを埋め尽くすほど大勢の人が歩いている。

「これは……、下手すれば迷子になって一日が終わってしまいますね……」

 などと早々に途方に暮れていると、

「おう、どうしたお嬢ちゃん。どうやらどこに行ったらいいか分からねえって顔してるな?」

 やたらとチャラチャラした若い男がそう話しかけてきた。

「あんた、運がいいぜぇ。この会場で一番の情報通のこの俺様に出会えたんだからな」

「は、はぁ……? つまり物知りさんという事ですか?」

「おうよ。知りたい事があったら聞いてくれ。ま、情報によっちゃ代価を頂く事もあるがな」

 胡散臭い感じもするが、ルナはその言葉に甘える事にした。
 正真正銘、右も左も分からない状態だ。
 せめてコヨーテが立ち寄りそうな場所を聞いておかないとどうしようもない。

 若い男は親切にも丁寧にバザーについて教えてくれた。
 売り場は大まかに分類して武具区、道具区、書物区の三つに分かれているらしい。
 また時間帯によって地区ごとに安売りの時間が訪れるとの事で、これもコヨーテを探すのに一役買ってくれるかもしれない。

 若い男と別れ、ルナは売り場へ向かって歩き出した。

「そういえばうちの冒険者も来ているんでしたっけ……誰かに会えるといいな」



 ルナがまず訪れたのは武具区だった。
 というのも、三つの地区の内もっとも彼が興味を示しそうな場所がここだっただけだ。
 武具区という事もあってか、一般人より冒険者や傭兵のほうが多い印象である。

「こんなに人が多いなんて……」

 世界中の荒くれ者が集まってきたような光景にルナは軽く眩暈を覚えた。
 長身で筋肉質な男性が多いせいか、ルナの視界はほとんど塞がれている。
 『大いなる日輪亭』の中でもルナの身長はかなり低いほうだ。

 そしてコヨーテもそれほど身長が高いほうではない。
 どこかで誰かが「大きなお世話だ」と言ったような気がしたが、気のせいだろう。

「おや? これはこれはルナちゃんじゃあないか」

 呼ばれた気がして振り返ると、そこには同じ『大いなる日輪亭』の冒険者マーガレット・ヤンガーがいた。
 相変わらず白いというより蒼白な顔色ながらも笑みだけは絶やしていない。
 本人としては親しみやすいつもりでやっているらしいが、正直ちょっと怖い。

「一人かい? 珍しいねぇ」

「マーガレットさんもお買い物ですか?」

「うん。レギウスと出かけようとしたら置いてかれたんだよ」

 何もかも諦めたように乾いた笑いを漏らすマーガレットはなんだか黒いオーラを纏っていて非常に不気味だった。
 あんまり触れないほうがいいと感じたルナは愛想笑いするしかなかった。

「ま、冗談だけどね。本当はちょっとした戦力強化さ」

「戦力強化?」

「またいつどこであの吸血鬼どもと刃を交える事になるか分からないからね。冷やかしがてら使えそうなものでも探そうかと思ったんだよ」

 ロスウェル五月祭に起きた吸血鬼による大規模テロ、通称『紅蓮の夜』。
 マーガレットはそこで『吸血鬼の組合』の吸血鬼メアリー・スポットライトと死闘を繰り広げていた。
 彼女ほどの使い手が決着をつけられなかった相手が、更にこちらを狙っているとあれば対策を練るのは当たり前か。

「……何か、目に付くものはありました?」

「いーや全然。さすがに大鎌まで扱ってるところは少ないよ」

 肩を竦めてマーガレットは笑う。
 彼女が扱う大鎌はいわゆる特注品らしく、彼女に合わせて造られているらしい。
 それを越える品となればそうそう見つかるものではないだろう。

「まぁいいのさ。それより君のほうはどうなんだい?」

「いえ、実はまるっきり買い物に来たという訳では……あの、コヨーテを見ませんでしたか?」

「コヨーテ君なら泥棒の少年を捕まえたとか何とか、また妙な事に巻き込まれていたようだったけど」

「うっ、いつものコヨーテ……! ど、どちらへ言ったか分かります?」

「それもだいぶ前の話だしねぇ。今頃は別の地区かもだよ」

 とはいえコヨーテが辿った道筋を知っていたほうが会える可能性がある。
 大雑把に方向を教えてもらったルナは律儀に礼を述べて駆け出した。

「……会えるといいねぇ、せっかくのお祭りなんだしさ」



 ややあってルナは道具区を訪れていた。
 マーガレットから聞いた方向へ彷徨ってはみたもののやはり収穫はなく、仕方なしに流れてきた按配である。
 武具区とは違って、こちらは一般人も多く見られた。

 だからといってコヨーテを探しやすいという訳ではない。
 むしろ様々な背格好の老若男女が入り混じっていて余計に分かりにくい気がする。

「あっ、そういえば娘さんから髪飾りを頼まれていましたね」

 とはいえルナは自分のセンスなど微妙もいいところだと思っている。
 ゆえにアクセサリーを専門に扱う店にあっても特に目を引くそれを手にしてもしばらく悩む羽目になった。

(……似合うとは思うのですが、派手すぎでしょうか)

 天使の羽をイメージしたような髪飾りは、高慢そうな美人の女性店主曰く「冒険者の男からの貢ぎ物だけど地味だからいらないわ」だそうだ。
 それを聞いて色々と思うところはあったのだが結局は娘さんに似合うはず、というインスピレーションに従って購入を決意した。
 散々言われている髪飾りではあるが銀貨二〇〇枚と結構なお値段だったが、いつもお世話になっているお礼と思えばそう高い買い物でもない。

「ほら、やっぱりルナだよ!」

「おー、ほんとだ。目ぇいいねレンツォ!」

「……はい?」

 人混みのずっと向こうから聞こえてきたのはやたらと聞きなれた声だった。
 というより片方が名前を喋っていたが、いくらなんでもこんな人混みの中で大声を出さないでほしい。

 『大いなる日輪亭』の冒険者レンツォ・ディ・ピントとカイル・ヘイウッド。
 どちらも盗賊の役職を専門とする冒険者で、別パーティではあるがやたらと仲のいい二人である。
 この二人が絡んでいると大体は軽い悪事に手を染めていたりもするが、今回がそうでない事を切に願うばかりだ。

「へぇー、ふーん。ルナさんでもこんなところに来るんだ?」

「カイル君……私を何者だと思っているんですか」

「箱入りのお嬢様でしょ?」

「そりゃ昔の話だよ。今じゃ立派に僕らと同レベルさ」

「……その通りですけどなぜかレンツォに言われるとちょっぴり腹が立ちますね?」

 テンション高めに笑って、レンツォは冗談だよと言葉を濁した。

「でもまぁ、意外に思ったのは一人でいる事なんだけどね。ミリアたちは一緒じゃないのかい?」

「朝食後にはみんなバラバラに別れまして」

「ふぅん?」

 レンツォは明らかに訝しがっている様子だ。
 確かにルナは一人で外を出歩く事は多くない。
 とはいえ、まったくない訳ではないのだ。
 何か別の思惑があると思われるのは少し心外である。

(いや、別の思惑というか理由があるのは間違いないのですけれど)

 しかしそれを明かす事はできない。
 コヨーテへの想いは大っぴらにしていいものではないだろう。
 それがあちらからの誘いだとしても、妙な誤解を与えそうな言動は慎むべきだ。

 ルナは手に持った紙袋を掲げた。
 それには先ほど購入した髪飾りが入っている。

「宿に戻ったら娘さんからお土産をねだられたのです」

「うわぁ、マジか。よかった、こっそり出て……」

「レンツォも日頃のお礼を兼ねて買ってあげたらいいのでは?」

 と言うと、レンツォは露骨に嫌そうな顔をした。
 何もそこまで嫌がらなくても。

「ルナさんは自分のは何か買ったりしなかったの?」

「ええ、目的あって来た訳ではありませんし」

「まぁ、雰囲気を楽しむだけでもいいかもね。ぶっちゃけハズレも多いからね」

 彼らは盗賊の鑑定眼を用いて品定めをしているらしい。
 だからなのか、彼らの背負う荷物袋のはいつもより膨らんでいるように見える。

「どうせだし、ルナさんが買ったそれも鑑定したげよっか?」

「結構です。贈り物ですし、こういうのは気持ちが大事なのですから」

「そう? タダでいいのに」

 カイルは早速取り出していたルーペを仕舞いつつ言った。
 お金にがめつい彼が無料で鑑定しようとするとは、よほどの収穫があったのだろうか。

「ところでコヨーテを見ませんでしたか?」

「少し前に見たけど、あいつ昼食を摂るって言ってたからもうこの辺にはいないと思うけど」

「もうそんな時間でしたか……ちなみにどちらへ行ったか分かります? 私もお昼にします」

 何だか言い訳じみた言葉を付け足してしまったが、とにかくコヨーテの足取りは掴めた。
 それが無駄骨に終ってしまう前に動くべきだ。
 ルナはやや急ぎ足でレンツォの指した方向へ向かった。

「……あんなに急ぐなんて、そんなにお腹減ってたのかな」



 書物区を歩くルナは元々少ない口数が完全になくなっていた。
 とにかくコヨーテに会おうと必死に足を動かし続けていたが、どうあっても見つからない。
 そうこうしている内に、完全に食事のタイミングを見失った。

「………………」

 お昼時を過ぎた辺りから撤収していく人々が増え始めていた。
 人の入れ替わりが激しくなって余計に区別が付きづらくなっている。

 とはいえ書物区だ。
 商っている品は古書が多く、中でも魔術書と思われる書物がところ狭しと並んでいる。
 そのせいか、客層は魔術師のみならず冒険者たちも多い。
 中にはローブを目深に被ったいかにもな人物や、魔女然とした老婆まで、怪しさはこれまでの区の比ではない。

「はぁ、」

 思わずため息がこぼれた。
 朝からコヨーテを探してずっと歩き詰めなのだ。
 さすがに辟易してしまう。

「……コヨーテの、ばか」

 周りは嫌になるほど騒がしく、その言葉は誰の耳にも入らない。

(あんな伝言を残しておくなら、待ち合わせ場所も決めていてくれたらいいのに)

 そうすればこんなに歩き回らなくても済んだのに。
 考えれば考えるほど気分が落ち込んでくる。

 どれもこれも、全部コヨーテのせいだ。

(こんなに疲れているのも、こんなに空腹なのも、……こんなに会いたいのも、全部)

 結局、ルナはあの伝言がなくてもここに足を運んでいただろう。
 同じように会場を巡りながら彼の後を追って、同じように辟易していただろう。

 何も変わりはしなかった。
 ただひとつ、コヨーテの伝言があった事でルナの心に光が差した事以外は。

「……だったら、諦められませんよね」

 俯き気味だった顔を上げ、さぁ一歩を踏み出すぞ、といったところでルナは固まった。
 目の前にピンクのドレスを纏い、頭の大きなリボンが特徴的な女の子がこちらを見ていたからだ。
 『大いなる日輪亭』の冒険者、クロエ・キャンベルである。

「ルナさんはずいぶんと大きなひとりごとをされるですのね? わたくしおぼえましたわ!」

「いやいやいや! 忘れてください今すぐにっ!!」

 ぎゃー! と叫んでルナは必死に否定した。
 そんな純粋な瞳で他人を独り言の多いカワイソウな人だと思わないでほしい。
 割と切実に。

「……こほん。ええと、クロエちゃんもお買い物ですか?」

「はいですの。ししょーはまだ出歩くにははやいですし、わたくしが代わりに呪文書をあさってるですの」

 クロエの言う『ししょー』とは『大いなる日輪亭』の冒険者レギウス・エスメラルダの事だ。
 彼は『紅蓮の夜』においてロスウェルの街と人を守るために、自ら左眼を犠牲にしていた。
 治療は十分に行い、現在は休養とリハビリに専念しているが、未だに失った左眼が疼くらしい。

「ごめんなさい。聖北の奇跡も万能ではないから……」

「いえいえ、ししょーが生きていられるだけでもありがたいですの。それに、あのうしなった左眼はししょーがロスウェルを救った証明ですの。いうなら名誉のキズですの!」

「クロエちゃんは強いですね」

「それほどでもないですの!」

 真剣な表情をしていたかと思うと、一気に表情が綻んだ。
 ころころと変わる表情が愛らしく思える。

「さて、わたくしはそろそろ宿にもどりますわ。コヨーテさんからおみやげもいただきましたし、はやく帰らなきゃですの」

「――はい? え? コヨーテに会ったんですか? いつ? どこで? どこへ行きました?」

「ちょ、ルナさんこわいですの! ちょっとはなれてですの!」

 聞き捨てならない言葉につい力が入ってしまった。
 クロエの肩をがっしと掴んでいた手を解いて、深呼吸して心を落ち着かせる。

「ついさっき、会場外でみかけたからごあいさつしたですの。そうしたらおみやげにってお肉の串焼きをいただいたですの。ちょっとさめちゃってるですの」

「さっき? という事は、まだそこにいるんですか?」

「さぁ、そこまでは……でも、どこか元気がなさそうでしたしつかれて休憩しているかもですの」

 ここにきて一気にコヨーテに近づく情報が得られるとは思わなかった。
 クロエから件の場所を聞き出すと、疲れと空腹も忘れたルナは足早にその場所へ向かった。

「……はっ、なにやらお役にたてた予感がいたしますの!」



 会場から少し離れたところにある小さな公園には立派な広葉樹が聳え立っていた。
 その幹に背中を預けて座り込んでいるのは、銀髪赤眼の少年だ。

「探しましたよ」

 半日ぶりに見たその顔は、ルナの記憶の中と一切変わらない。
 だのに、何だかいつもと違う雰囲気を纏っているように感じられた。
 どこか緊張している様子だ。

「ああ……来てしまったか」

「? あなたが呼んだのでは?」

「いや、こっちの話だよ」

 コヨーテ・エイムズは視線を逸らして黙ってしまった。
 まるで出すべき言葉を探しているように、彼の視線は彷徨っている。
 やがて彼が選んだ言葉は、

「座りなよ」

 という、引き伸ばしだった。
 コヨーテは外套の裾を広げて「どうぞ」と促すので、ルナは素直にそこへ腰を下ろす。
 しばしの沈黙が流れる。

「迷っていたんだ」

 ややあって彼が口を開いた。

「迷子ですか?」

 茶化すつもりはなかったが、コヨーテは少しだけ微笑んで否定する。
 コヨーテを探して右往左往していたルナこそが迷子気味だったのでつい口に出てしまっただけだ。

「怒らないでほしい。……オレは、君に会うのを迷っていた」

「それって、どういう……?」

 これは単なる世間話ではない、と感じた。
 何か重要な、それもルナの想いに影響の出るような何かの話だ。
 そう感じた瞬間、ルナの心臓が早鐘を打ち始めた。

「一方的に呼び出しておいて不躾だとは思う。だけど、なかなか踏ん切りがつかなかった」

「……、」

「ルナ」

 コヨーテはまっすぐにルナの瞳を見つめた。
 このまま破裂してしまうんじゃないか、というくらいに心臓が伸縮を繰り返す。

「オレは……、」

 心臓の音がやたらと大きく感じるのに、コヨーテの声だけはクリアに聞こえた。
 周囲の雑音、少し遠くには未だ大盛況のバザー会場があるというのに。

 コヨーテは意を決したように、

「――オレは君の事が知りたい」

「っ……!」

 ろくに言葉も出なかった。
 もしかして、という妄想が頭の中を駆け巡っていく。
 ルナはひたすら荒くなりつつある呼吸を繰り返すだけで、コヨーテの言葉をただ待つしかない。

「何が好きなのか、何が嫌いなのか、何が嬉しいのか、何が悲しいのか、……君の過去に何があったのか。聞かせてほしい」

「っ、どうして……」

 ようやく出せた言葉は、未だに現実を疑っていた。
 つくづく臆病すぎる自分が嫌になる。

「どうしてだろうな……いや、きっとオレは後悔したくないんだ。何も知らないまま、不変のまま生きていくなんてオレにはできない」

 その答えはルナが聞きたかった事とは少し違った。
 だとしても嬉しかった。
 想い人が自分に興味を持ってくれただけでも、飛び上がるほど嬉しい。

「もちろん、話したくないなら無理にとは言わない。誰にだって話したくない過去はあるからな」

「いっ、いいえ! 嫌じゃないですっ!!」

「……何か無理してないか?」

「そんな事ないですから! ……あっ、でも条件があります」

 ふとした思い付きだが、それはとても魅力的な条件に思えた。
 コヨーテはきょとんとした表情で次の言葉を待っている。

「その、……私もコヨーテの事が知りたいのです」

「オレも話せ、と?」

 コヨーテは驚いた表情で目を瞬かせている。
 そんなに予想外の言葉だったのだろうか。

「……あまり人に話しても面白い話はないと思うぞ」

「構いませんよ。私も似たようなものですし……」

「分かった。その条件を呑もう」

 そう言って、コヨーテは微笑んだ。
 心なしかその表情はいくらか和らいでいる気がする。
 この場で会った時に見せていた緊張したような雰囲気はどこかへ消え去っていた。

「……コヨーテ、覚えていますか? 少し前に交わした約束」

「あぁ、あったな。むしろそちらが忘れているかと思っていたよ」

 優柔不断ですみません。

「あ、あのですね。現在はともかく、過去の事を話すのはあまり聞かれたくない事もありますから……できれば、二人きりがいいのです」

「……そんな事でいいのか?」

 いいに決まっていた。
 あんなに軽い口約束だったし、それで悩みっぱなしになるくらいならいっそ流れに任せたほうがずっといい。

「もう少しわがままを言ってもいいのなら、誘うのはコヨーテからにしてください」

「いいのか? オレだけ一方的に……」

「言い出したのはあなたですよ?」

 うぐ、とコヨーテは言葉を詰まらせた。
 そんなに頑なにフェアにしようとしなくてもいいのに。
 しかしそんな彼だからこそ、ルナは一緒にいて心地よいと感じるのだろう。

「あはは、安心したらお腹が空きました。そういえばお昼抜きになっちゃったんですよね」

「オレも結局食べられなかったんだよな……」

「あれ? クロエちゃんにお肉の串焼きを渡したって聞きましたけど」

「……喉を通らなかったんだ」

 そう言って、コヨーテは鼻の頭を掻いた。
 照れている時、彼はそういった仕草をする癖があるのは知っている。

「それじゃ、少し遅いですけどお昼ご飯、行きましょうか」

「オレの奢りで?」

「もちろん!」

 だってコヨーテのせいだから。
 こんなに嬉しいのも、こんなに楽しいのも、こんなに満たされているのも、全部コヨーテのせいだから。

 その代わり、コヨーテのおかげで今日も笑って生きていけたんだ。



【あとがき】
今回のシナリオはチーム ニルヴァーナ(Djinnさん、Y2つさん)さんの「解放祭パランティア」です。
アイテムやスキルを購入するのに目に見える情報は圧倒的に少ないという一風変わった店シナリオです。
しかも一回こっきり、まわる順番によって変動する商品……などなど、イベント感あふれる作品ですね。
盗賊PCが輝きますよ!

今回は単純にPCを強化したかったのと、コヨーテとルナの関係を少し進めたかったのです。
お互いに気にしていながらも一切動きませんでしたからね……それも第三六話の出来事がきっかけとなりました。
そして数話前から残っていたルナのおねだりも消化しました。

ちなみに結構な数のPCが舞台裏で動いていました。
月歌の外からはカイル、ターニャ、マーガレット、エリック、クロエ、ガイア……
それぞれが同時にシナリオに突入したていで進行したので、パーティ間での品物移動は行っていません。
結果は下のほうに記載しています。

冒頭に出てきた『サボテンと黄色い花』は某小説に出てきた某所です。
詳細な説明は作中時間で一ヵ月後くらいに……桜林さんありがとうございます!!(唐突)

さて、次回は第三八話です。
大雑把にしか方向性を決めていないのでどう転ぶか分かりません。
乞うご期待!?

【地味に月歌はプラマイゼロ】


☆今回の功労者☆
レンツォ。さすがの鑑定眼で大儲け!

購入:
・月歌(収支:±0sp)
【黙示録の剣】-600sp
【ナブラの竪琴】-500sp → 2000sp
【金鉱石】-200sp
【巨大な赤石】-500sp → 【金鉱石】
【抗魔の髪飾り】-200sp → 【刹那の閃き】、【高潔の光】

・星追(収支:-3300sp)
【逆刺の十字架】-300sp → 【悪意のナイフ】 → 【マンドラコラ】 → 【エア・ウォーカー】 → 【聖・ジュエル】 → 【疾風】 → 【「無」の法】
【魔法薬】-500sp
【盗賊王の地図】-100sp → 100sp
【聖絶対退魔光】-1500sp(セール中) → 【シャイ・リング】
【曙光の法】-1000sp(セール中) → 【ミューズの涙】

・陽光(収支:-2200sp)
【白銀の麗刀】-1500sp → 【還魂の法】
【還魂の法】-700sp(セール中) → 【寡黙の戦士】


銀貨袋の中身→9077sp

≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『解放祭パランティア』(チーム ニルヴァーナ様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。

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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

Info.
当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

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