FC2ブログ
≪ 2018 10   - - - - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 -  2018 12 ≫
*admin*entry*file*plugin

第四二話:七月七日 常宿襲撃事件(2/2) 

 二人が『大いなる日輪亭』に戻ったのは赤々とした夕陽が山の裾へ触れ始める時分であった。
 宿に帰るや否や、すでに準備万端で待ち構えていた亭主エイブラハムと冒険者連中のサプライズを浴びたコヨーテ――と、巻き添えをくらったルナ――はそのままグラスを渡され、シームレスに誕生パーティへと移行した。
 朝から出かけていたミリアやエリックたちもいつの間に戻ってきていた。

「――ほらよ」

 手始めにレギウスから渡されたのは真紅色の織物だった。
 やけに細長く、リボンのような形状に見える。

「……まさかお前からプレゼントを貰うとは予想していなかった」

「馬鹿か。そいつァ研究成果だ。今朝も見ただろ」

 確かにこの真紅色には覚えがある。
 レギウスが研究していたという、超大型移送魔具『神族の帆船』の帆だ。

「成果と言われても……ただの布じゃないのか、これ」

「面倒くせェ、論より証拠だ」

 レギウスは更に【黙示録の剣】と【ダーインスレイヴ】を差し出してくる。

「『神族の帆船』が移送用の魔具だってのは先に言ったとおりだが、どういう原理で大質量を船内に格納してるかってェと、簡単に言えばして強引に収めてやがるんだ。吸血鬼が持つ霧化の能力を用いた、いわば魔術にとっても裏技みてェなモンだがな」

 ヘンリエッタは人員を運ぶとは言っていたが人間を運ぶとは一言も言っていない。
 おそらくは吸血鬼のような不死、あるいは霧化の能力を一端でも扱える種族でないと乗れないのだろう。

「船での帆は霧化の制御機構だ。つまりある程度の容量ならこの織物だけで収納できちまう」

「……つまり、これを身に着けていれば見えない荷物袋になる、と?」

「やってみろよ。半吸血鬼オマエなら感覚で扱えるはずだぜ」

 半信半疑のまま、コヨーテは魔剣を受け取って『真紅のリボン』に意識を集中した。
 まるでそうなる事が自然であるかのように、さあっ、と魔剣二振りはその姿を消失させる。

「おお……!」

 驚きながらも、今度は【黙示録の剣】を意識して右手を握る。
 白い霧が漂い出し、まるでイリュージョンのように魔剣が手の中に現れた。

「動作は良好、だな。これでいくらでも魔剣を持ち歩けるぜ?」

「……くれるのか?」

「俺がただ自慢するためにオマエに実演させたと思ってんのか?」

「だが、こんな便利な代物を……」

「ところがそう便利でもねェのさ。さっきも言ったが、霧化のプロセスを感覚的にでも理解しておかねェと中の物資を永久に閉じ込めちまう。誰でも使えるわけじゃねェんだ。それに俺は魔術的な手段でしか収納も解放もできねェし。言うなりゃ時間と魔力の無駄だな」

 つまりは真に吸血鬼のための道具という事か。
 しかし吸血鬼は道具を用いない連中がほとんどで、そんなに大きな荷物を携帯する理由も少ない。
 どちらかといえば半吸血鬼であり魔剣使いであるコヨーテが持つのがふさわしい。

「ほ~ら、コヨーテ! しゃがんでしゃがんで、つけたげる~!」

 後ろからステラにタックルされつつ、言われた通りに姿勢を低くした。
 コヨーテは普段からその長い髪を一つにまとめているが、ステラはそこに真紅のリボンを巻いた。

「……ありがとう。大事に使わせてもらう」

 ふん、と鼻を鳴らして、ステラを伴ってレギウスはさっさと二階へ昇って行ってしまった。
 本調子を取り戻してはいるようだが、さすがにまだ酒を控えているのか。

「……びっくりです」

 ふと気づけば隣にルナが立っていた。
 どうやら先ほどのやり取りを見ていた様子だ。

「ルナ?」

「い、いえ。その……、えーっと……」

 やたらと歯切れが悪い。
 慌てているような、しかし困っているような、分かりやすくオタオタオロオロしていた。

「……大丈夫か?」

「――ッ、これ!」

 意を決して差し出されたのは見覚えのある包みだった。
 そう、ルナが昼間に巻き込まれた聖堂襲撃事件、その際に異界に閉じ込められた彼女たちと連絡を取るために用いられた道具が、まさにそんな模様の包みに入れられていたはずだ。

「コ、コヨーテにはずっとお世話になっていますし、何度も命を救っていただいていますし、もうすぐ出会って一年ですし、今日も迷惑かけちゃいましたし、……その、ひ、日頃のお礼も兼ねてですね!?」

 贈られたのは真っ赤な輝きの紅玉ルビーがあしらわれたイヤリングだった。
 やはり見覚えがある、あの時のイヤリングだ。

「……君が選んだのか?」

「え、ええ。もちろん」

 昼間はこれがだと思っていなかったが、今は違う。
 ルナの意志で選ばれ、彼女の気持ちとしてコヨーテに贈られている。
 さすがのコヨーテも頬が熱くなる。
 コヨーテの脳内にはルビーの宝石言葉がつらつらと思い出されていた。

「愛の炎……」

 無意識に思考が漏れ出して、うっかり声になってルナに届いてしまった。

「え、えええええぇぇぇ!? なっ、なんで知って……!? どうして!?」

「……前にも言ったと思うけど、知り合いから宝石類のレクチャー受けたんだ。当然その中には宝石言葉もあって」

「むーーー!!」

 ルナは声にならない声を上げて、何故かコヨーテの胸をぽかぽかと叩いてきた。

「ち、ちち違うんです! 違うんですよ! そう、ナ、ナギさんが恋人に贈るプレゼントを買うという事で、その、便乗して私も選んだと言いますか! そ、その、生命力! そう、生命力! 最近、色々と物騒ですし!? 長く息災でいてほしいなーって思いまして! ハイ!!」

「そっ、そうだったのか! 納得! 納得したから!」

 興奮が頂点に達している様子のルナは目をぐるぐる回しながら一息で言い切った。
 表情を隠すように俯いてしまったので、コヨーテからはうめき声に似た何かしか聞こえてこない。
 ふと、彼女の右耳に同じイヤリングが光っている事に気づいた。

「ありがとうな、ルナ」

 コヨーテはルビーのイヤリングを左耳につけて、ルナの頭を優しく撫でた。
 びくっ、と顔を跳ね上げたルナは、驚いた表情でコヨーテの左耳をみつめた。

「……やっぱり。コヨーテには赤が似合うって思いました」

 そう言って、嬉しそうにルナは笑った。
 波乱万丈と言っても過言ではない今日という一日で、一番の笑顔を見た気がする。
 いつぞやのお返しか、とコヨーテも照れくさくなって誤魔化すように笑った。

「なんか、色々とおそろいになっちゃったな」

 二人の耳にはルビーのイヤリング、髪を飾るのは紅と白のリボン。
 あっ、とその事実に気づいたルナは顔を真っ赤にして、「ぴゃああああ!!」という奇声を上げながら今度こそ走って逃げてしまった。



 自室に立てこもりを決め込んだルナが再び一階に戻ってきたは午後五時頃、唐突に『選定の剣亭』の面々がでっかいホールケーキを担いで来店してきた時分であった。
 もはやテンションが振り切れた冒険者たちは飲み比べはともかく何故だかアームレスリング大会だったり魔術論争を始めたりととにかく騒げるだけ騒いだ。
 そうしていたらあっという間に宿内の酒を飲み尽くし、逆に総出で『選定の剣亭』にお邪魔するという迷惑行為に走ったのが午後八時過ぎだった。

 お土産にもらったいくつかの酒と、誰かの行きつけの酒場で調達した安酒を抱えて『大いなる日輪亭』に戻ったのが午後十一時頃。
 それからは限界を迎えて沈んだ者、未だにちびちびと酒を呑る者に分かれ、それでも七月七日が終わる時分には宿内の連中はすべからく眠りについた。

 コヨーテも同じく眠りについたのだが、目の前の人物が明け方頃に押しかけてきたので叩き起こされた形となった。
 結構無理に飲まされたはずだが、その酔いも一瞬で覚めるほどに目の前の人物は危険なにおいがする。

「いい夜でしたね」

 黒を基調とした衣服に黒い髪、赤い瞳、蒼白な肌。
 そして頭と腰からはそれぞれ黒い蝙蝠のような翼が生えている。
 気配を探らなくても分かるほどに、目の前の女性は吸血鬼であった。

「……ずっと覗き見していたのか?」

「いいえ。聖剣使いさんに見つかると大変そうだったので、あなたが宿に戻ってからですよ」

 しっかり見てるじゃないか、とツッコみたかったが我慢した。
 気軽にそんな問答ができる相手ではない。
 何しろコヨーテは目の前の相手の名前すら知らないのだ。

「私はモーガン。『不死の王ノーライフキング』モーガン・ツァリ。近しい者からは親しみを込めて『厄介者トランプル』と、相対する者からは憎しみを込めて『厄介者やっかいもの』と呼ばれております」

 予想通りといえばそうなるが、それでもコヨーテは面食らった。
 『貴族ノーブル』、『王族ロイヤル』……それくらいは越えてくるだろうと考えていたらまさかの大物である。
 おまけに自ら名乗った『厄介者』とはおそらくは特異能力だろう。

「おや。そのご様子だと『厄介者』に興味津々でしょうか。よろしい、お話しましょう!」

 一人でしゃべって一人でテンションを上げているモーガンだった。
 どうにも敵意はなさそうな感じではあるが、特異能力持ちの『不死の王』を相手に油断するわけにはいかない。

「私の『厄介者』は吸血鬼の持つ不老性を特化させた力になります。老いとは死への道。私はそれへの距離を自在に操り、踏み倒す術を得ました。即ち――たとえ今この場で心臓を穿たれようと頭を刎ね飛ばされようと、滅びに向かう事はありません」

「聖剣でもか」

「試した事はありませんが。おそらくは」

 いくら吸血鬼といえども全身に血液を送り出す心臓が穿たれれば灰となって滅びを迎える。
 首を刎ねられればそれだけで死ぬ事はなくても胴と再接続しなければ再生には膨大な時間がかかる。
 だというのに、本当に特異能力という奴はとんでもない。
 厄介程度で済むものか。

「さて、自己紹介はこれくらいにして、本題に入りたいのですが」

「オレはお前にとっとと帰ってほしいんだが」

「明け方に不躾な訪問をした事は謝ります。しかし我々にとっては一大事だったのです。一刻も早くあなたの耳に入れたかった」

 コヨーテは静かに息を吐いた。
 吸血鬼というのはとにかく我が強い奴らが多い。
 話を聞かない限り退いてはくれないだろう。

「アイランズの遺産という言葉に聞き覚えはありますか」

「……ない」

 アルフレド・アイランズはコヨーテの父親だが、その死は唐突だった。
 とても遺言など残す暇はなかっただろうし、それこそ彼の研究データに関してはとっくの昔に組合に略取されているだろう。

「アルフレド・アイランズはもともと研究畑の吸血鬼でして。彼が扱う研究は多岐に渡りますが、その中でもより価値のある……あなたがた人間の視点に立てば、がそう呼ばれているのです。例えばそう、『神族の帆船』を設計したのも彼です」

 『神族の帆船』はかの紅蓮の夜で深緑都市ロスウェルの五月祭を恐怖に陥れた侵略の象徴だ。
 あの悪夢のような事件はまだ記憶に新しい。
 それすらもアルフレドが一枚噛んでいたとは。

「あんなものが他にもまだあるのか」

「ええ。しかし彼の研究データはすべて暗号化されており、遺産の在り処は隠されていました。複雑怪奇な暗号を解読できたものは未だにごくわずか……だったのは昨日までです」

「昨日……」

「共通の解法が発見され、着々と解読が進みつつあります。すべての遺産が発見されるまでそう時間はかからないはずです。おそらく、年内には」

 あの悪夢が年内に再び起こる。
 それも一度だけでは済まないかもしれない。
 遺産が見つかるたびに、遺産の数だけ、人々を恐怖のどん底に叩き落とす。
 そんな事があってたまるか。

「……それで、お前は何のためにその情報をオレに?」

「いくら組合の吸血鬼とはいえ、あれはアルフレド・アイランズ個人の遺産ですよ。あなたが受け継ぐべきです」

「馬鹿にしているのか」

「大真面目ですよ。それが道理だというのにヘンリエッタ・ジェラードの派閥は聞き入れないのです。腹立ちますよ」

「あんたも組合の吸血鬼だろう。ヘンリエッタの仲間じゃないのか」

「アルフレド・アイランズが吸血鬼の組合を創設した事はご存知ですよね」

「……?」

 確かに組合の創始者はアルフレドだと聞いている。
 それは――すでに故人であるのに不思議な話ではあるが――本人の口から伝え聞いた事だ。

「吸血鬼の組合は三名の『不死の王』から始まりました。一人はアルフレド・アイランズ、もう一人がヘンリエッタ・ジェラード。そして最後の一人がこの私、モーガン・ツァリ。私も私自身の派閥を持っているのですよ」

 何故かモーガンは胸を張って自慢げに言った。

「アルフレド・アイランズと共に彼の派閥は消滅しましたが、かつては彼とヘンリエッタ・ジェラードの派閥が衝突するたびに間を取り持ったものです。その頃から私の派閥は中立を保っています。便宜上ではヘンリエッタ・ジェラードとは組合の仲間ではありますが、その考えに賛同してはいないのです」

「……だったらなぜ組合と敵対しているはずのオレに情報を渡す? 中立派のやる事とは思えないぞ」

「さっきも言いましたがあなたがアルフレド・アイランズの子だからです」

 そう言って、モーガンは微笑んだ。
 まるで子を思う母親のような、慈愛に満ちた眼差しが向けられている。
 そっと彼女の手がコヨーテの頬を撫でる。

「……大きくなりましたね、コヨーテ・アイランズ。あなたは覚えていないでしょうが、私は赤ん坊のあなたを抱いた事もあるのですよ」

「――ッ、」

 コヨーテはその所作に一切身動ぎできなかった。
 それどころかエイムズではなくアイランズと呼ばれたのに不思議と嫌な感じもしなかった。
 ぞっとして、コヨーテは彼女の手を払いのける。

「オレは……、アイランズじゃない……!」

「人として、エイムズとして生きるのですね。……それもいいでしょう。あなたはその権利がある」

 しかし、とモーガンは目を細める。

「あなたを待ち受ける運命は辛く、苦しいものとなるでしょう。ヘンリエッタ・ジェラードが進めている計画の全容は知り得ませんが、彼女があなたを狙って何かを画策している事は間違いありませんから……私はそれが心配でなりません」

「およそ吸血鬼とは思えない言葉だ」

「私は人間が大好きなのです。もちろん食事としてではなく、同じ世界に生きる生命として。

 嘘のような言葉だった。
 吸血鬼にコヨーテを人間だと認める者がいる事も、人間を愛していると言ってはばからない者がいる事も、まるでコヨーテが望んだような言葉を吐くのだから。

「……信じて……いいのか? 吸血鬼を……、『不死の王』であるあんたを……」

「それはあなたが決める事です」

 モーガンはまっすぐ手を差し出した。
 その掌の上には小さな蝙蝠が静かに羽を折りたたんでいる。

「解読できた情報は逐一お伝えします。この子は連絡用術式としてあなたとあなたのお仲間の分をお渡ししますから、それからどうするかはあなたの判断にお任せします」

「……分かった」

 小さく鳴いた蝙蝠は闇色の翼を羽ばたかせてコヨーテに近づき、そして見えなくなった。
 単なる生命体ではなく、あくまで術式として生成された仮初の姿という事だろう。

「夜が明けましたね」

 屋根裏部屋はコヨーテが安心して眠れる場所だけあって、ひとつだけの採光窓が照らすのは部屋の一部分だけだった。
 それでもモーガンは太陽光のスポットライトを浴びても何の反応もしない。
 日の下を歩くものデイ・ウォーカーが頭を過ぎったが、それよりもさっき彼女の口から聞いた特異能力を思い出した。

「吸血鬼の弱点すら踏み倒せる……?」

「ええ、日光による負傷を一万年後に先延ばしにしています。流水も、神聖なるものも同様に」

 そんなのはもはや吸血鬼のレベルを超えている。 
 吸血鬼としての力を残したまま人間と同じように生きられるなんて嘘のような話だ。

「痛みは蓄積しています。仮にあなたの『叛逆者』が『厄介者』を破壊した時、私の肉体はおそらく欠片も残らないでしょう。……もし私が疑わしいと感じたらいつでも構いません。あなたの翼で私を穿てばよろしいのです」

「『叛逆者』は踏み倒せないのか」

「おそらくは。何でも斬れる剣があっても柄が折れては振るう事はできませんから」

 そういうものか、とコヨーテは納得した。
 特異能力とはそもそも規格外の力を発揮するものが多い印象だが、特に叛逆者は頭一つ飛びぬけて特殊なようだ。

「さて。一日遅れてしまいましたが、私からも贈り物を。ちょっと失礼します」

 唐突にコヨーテは引き寄せられ、そっと抱きしめられた。

「……はっ?」

 やたらと柔らかい感触が返ってくる。
 混乱し、硬直している間に頭まで撫でられてしまう始末である。

「あああぁぁぁ……可愛い、可愛いですねコヨーテ・エイムズ」

「ちょ、っと! 放してくれ!」

 無理に引き剥がすと、モーガンは目に見えてしょんぼりしていた。
 人間を愛しているとは言っていたが半分吸血鬼なのにまったくお構いなしというか、それを抜きにしても度が過ぎていないか。

「……何がしたいんだ、あんた」

「ここにお水がありまして」

 取り出したるは飲料水を持ち歩くための革袋だった。
 おもむろに封を開け、それをコヨーテに向けてぶちまけた。

「――ッ!?」

 もはや言うまでもなくコヨーテは半吸血鬼であり、流水は吸血鬼共通の弱点である。
 痛みを伴う事はないが、急激に力が抜けていく感覚が全身を襲う。

「なに……!?」

 ――はずだった。

「厄介者が踏み倒せるのは私のみではありません。あなたの流水に対する損害は一万年後に支払うものとしました。ただし、この踏み倒しの権利はあなたに移りますので私が一方的に解除する事はできません。本心から望めば、すぐにでもこの踏み倒しは無効にできます。もちろん叛逆者で破壊しても同様です」

 確かに彼女の言う通り、先の仕事で海に叩きこまれた時のような不快感や疲労感は一切感じない。
 まるで感覚の一部を切り落とされたように、逆に不思議な感覚となってコヨーテはを困惑させた。

「……本当に無茶苦茶だな。一応、礼を言ったほうがいいのか?」

「お気になさらず。一日遅れの誕生日プレゼントと思っていただければ、それで」

 モーガンは採光窓を開けた。
 来た時と同じく、入り口からでなく窓から出ていくつもりだろう。

「……抱きつく必要はあったのか?」

「それもお気になさらず。私の趣味です。私は人間が大好きですから」

 そう言って、モーガンは優しく笑んだ。
 とても意味深というか、ただの変質者みたいな言葉ではあるが、確かにその愛は本物のように感じられた。
 彼女が変態であるかどうかはさておくとして、だ。

「それではごきげんよう、コヨーテ・エイムズ」

 スカートの裾をつまんで恭しいカーテシーを見せると、モーガンは採光窓から飛び去って行った。

 アイランズの遺産を巡る戦い。
 それはヘンリエッタ率いる組合と真っ向から正面衝突する事と同義だ。
 すでに計画に組み込まれているとはいえ、これから始まる熾烈な争奪戦を思うと、コヨーテはため息を吐かざるを得なかった。

 特別な日は過ぎ去り、またいつもの日常が始まる。
 今日がその日ではない事を願いつつ、コヨーテは十八歳となって最初の一日に臨むのだった。



【あとがき】
今回は特別編という事で、コヨーテの誕生日である七月七日に焦点をあてつつ、次につながる八日までを書きあげました。
タイトルは七月七日なのに一行目から八日になっているのはご愛嬌という事でひとつ。
コンセプトとしては幕間ですが、特に回収したかったところとしては魔剣についての整理、真紅のリボン、そしてアイランズの遺産です。

魔剣についてはレーヴァティンの進化と合わせて元となる神話についての話を挟みました。
特に北欧神話については筆者独自の解釈も織り交ぜていますので、そういうものなんだな、と認識していただければ嬉しいです。
それにしても魔剣神剣魔鎚……増えたものです。

真紅のリボン、こちらは某所では当リプレイに関わりのある、とあるキャラクターが数年前から愛用しているものの逆輸入となります。
(厳密には五月祭前の時点ですでに設定が存在し、いずれリプレイにも登場させるつもりだったアイテムの先行登場ではありますが)
特に魔剣類のようにやたらとかさばるものに関してCardWirthにおける荷物袋を再現したい、という思いから生まれたアイテムになります。
こうでもしない限り、ダーインスレイヴを持ち出す理由があまりにもなくなりますからね……

アイランズの遺産。
こちらはかつての五月祭のような新たな戦いへの導入となります。
初期からの構想には存在しない、吸血鬼の組合との対立が激化していく過程のストーリーとなり、かつ無限に分岐する未来のひとつに辿り着くための布石でもあります。
要するに魔剣をはじめとした各種魔具を揃えていこう、という企画です。
可能なら今度は本格的なコラボとして考えたいものですが……ああ、考える時間がほしいです。

さて、タイトルを見て頂ければお分かりかと思いますが、今回はこちらでもご紹介させていただきました、桜林囃子さんによる短編小説『七月七日 聖堂襲撃事件』でのコラボを大前提として書かせていただいております。
読まれていない方はどうか、なにとぞ、是非にそちらも読んでくださいね!

こちらのコラボ小説を頂いたのが二〇一五年の七月七日……回収するのになんと三年以上も掛かってしまいました。
回収する気マンマンだと宣言して早三年。本当に、本当にお待たせ致しました……!!
おそらくコヨーテにとってもルナにとっても一生思い出に残る七月七日です。幸せ者め!

今回から初登場となるイクシリオン家の庭師の少年、そしてモーガン・ツァリ。
両名に関しては七月七日を描く事で役割の生まれたキャラクターです。
前者、庭師の少年はまたいつか出番があるでしょう。
後者、モーガンさんはもともと構想にあった組合を創った『三人目』を遺産争奪戦にかこつけて登場させました。
組合に対抗するのに他の吸血鬼のサポートがないというのはかなり絶望的な状況ですからね……

厄介者に関しては実はすでに某所で明かしておりました。
フリーで遊べる冒険者として新規宿を建てた際に、『三人目』を強く個性付けした姿が彼女です。
人間が大好きで、人間と共に歩むために強引に踏み倒す。
そんな彼女がなぜこうも変質者チックなひとになってしまったのか不思議ですね?

そして、実はコヨーテが『大いなる日輪亭』に戻ってきたのは第三九話以来です。
ですので収支に関してはそれまでの分をまとめた形になります。
え? 鉱石の数が合わない?
……以前、『月歌を紡ぐ者たち』から『陽光を求める者たち』に【ミョルニル】が譲渡されていますので、その穴埋めという形でエリックから受け取っています。
ちなみにガンロク村産です。金、碧、黒の三つ。
ミリアが使い込んで冷え込んだ月歌の財布を即座に温めるコヨーテはやはりみんなのリーダーですね!?


☆今回の功労者☆
ルナ。あえてここは彼女だと言い張ります。


交換:
「魔剣工房」
【金鉱石】+500sp
【金鉱石】+500sp
【金鉱石】+500sp
【紅曜石】+500sp
【碧曜石】+1000sp
【碧曜石】+1000sp
【黒曜石】+1000sp

戦利品:
「魔剣工房」
【レーヴァティン】→【レーヴァティン】※真なる魔剣
【バロの右手】
【早足の靴】
【魔崑石】


銀貨袋の中身→6117sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『魔剣工房』(Djinn 様)

今回使用させて頂いた固有名詞
『選定の剣亭』『ナギ』(出典:『半月紀行』 作者:春秋村道の駅(酒月 肴様、桜林 囃子様))
『シューザー村』『ジェベータ』(出典:『呪われし者の昼と夜』 作者:ほしみ様)
『紅し夜』(出典:『紅し夜に踊りて』 作者:ほしみ様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。

スポンサーサイト



(△お好みの文字サイズになるまでクリックしてください)

周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

Info.
当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

QRコード