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ロスウェル五月祭 アナザーサイド/ミリア 

 薄暗い室内は紫煙で満たされていた。
 まだ日は高いというのにどの窓も締め切られていて、換気すら望めない。
 本来、賭場というのは違法である。
 しかし盗賊ギルド等の大組織が資金繰りを兼ねてそういう場を開く事は、ロスウェルのような中規模以上の街では暗黙の了解として容認されている。

(こんな祭りの日にも僕らは通常営業、ってね)

 手の中のカードをいじりつつ、レンツォは表情を読まれないように控えめに笑んだ。
 とにかく今日のレンツォは絶不調である。
 ことごとく負けが続き、昼前だというのにすでに軍資金のほとんどが誰かの懐に飛んで行ってしまった。

 しかし、この手札からはそういった負けの雰囲気は一切感じられない。
 何しろ配布された手札でジョーカーを含めたフラッシュが完成するという恐ろしさである。

 通常、賭場で行われるポーカーではジョーカーを使用しないのだが、ロスウェル盗賊ギルドが主催する賭場ではワイルドポーカールールを採用している。
 深緑都市にちなんでか、緑色が最も高い一〇〇点のチップになっているなど、街の特色ごとに設定されるハウスルールが旅先での賭場での楽しみ方であるとレンツォは考えている。

「あー、おほん」

 物思いに耽っていたら隣のプレイヤーから催促された。
 すぐさま我に返ったレンツォはオープニングベットの宣言を行うために思考を進める。

 手札は限りなく最高に近い。
 交換前に強力な手札が揃っているのだ。
 ここは勝負に出るべきだ。

 しかし焦ってはいけない。
 迂闊にレイズを宣言してしまえば手札の質を公開するのと同義である。
 ここは欲を張らずにコールを宣言して周囲のプレイヤーの警戒度を抑えなければならない場面だ。
 この手を最後の最後まで隠し、他のプレイヤーにより多くのチップを吐き出させなければならない。

 場を見れば、全てのプレイヤーがチェックを宣言しているらしい。
 ここはレンツォも同じようにチェックを宣言する。
 続いて反時計回りにターンが回り、それぞれチップを賭けていく。

「いいねぇ、コールだ」

 あえて明るめに、レンツォはコールを宣言した。
 すでにここ何戦もか同じようにコールして負け続けている。
 いわゆるブラフのブラフである。
 たかだかファーストベット程度のチップを得てもつまらない。
 これでも自称欲を張っていない賭け方である。

 レンツォのコールに続けて半数のプレイヤーがコールを宣言した。
 絶不調のレンツォなど眼中にないといったところだろう。
 それが彼の術中に嵌っているとも知らずに。

「レイズ、二五だ」

 レンツォの右隣のプレイヤーが掛け金を上乗せした。
 彼はここまで絶好調の流れを掴んでおり、その手元にはチップが山のように積まれている。
 ブラフにしてもその手札は役なしブタではない気がする。

 改めてそのプレイヤーを見てみると怪しい風体だった。
 暗めの色合いのニット帽をかぶり、身体の線を隠す大きめの外套は、時代錯誤の暗殺者を髣髴とさせる。
 しかしその顔立ちはなかなかに整っていて、身体の線が隠れている事も相まって声を聞かなければ女性に見間違えても不思議ではないだろう。

 右隣の男のレイズにより、以降のプレイヤーは軒並みドロップしてしまった。
 レンツォの前にコールしていたプレイヤーからは恨めしそうにその男を睨みつける始末である。
 案の定、ターンが回ってくる前に他のプレイヤーは全て降りてしまった。

「あらら……ま、僕はそれでもコールするよ。降りるにゃ惜しい手なんでね」

 ゆったりとコールを宣言し、チップを払う。
 同時にレンツォは右隣の男の様子を窺った。
 向こうから仕掛けておいたくせに、男はこちらを見もしない。

(余裕だね。相当強い手か……)

 レンツォの心に警戒の色が滲み出た。
 確かにフラッシュは強力な手だが、それでも十分に負けはあり得る。
 とすれば、カード交換のタイミングで相手の役を判断するしかない。

「僕は交換しない」

「二枚交換する」

 ざわり、と場が沸いた。
 勝負から降りた連中のさえずりがひどくやかましく聴こえる。

(二枚……となれば残りはスリーカード? あるいはフラッシュ狙いか?)

 レンツォが恐れていたのは一枚交換だけだ。
 二枚交換となれば残りの手札がおおよそ見えるが、一枚交換であればフォーカードの可能性が残るからだ。
 確定フォーカードの目が消えた今、すでにレンツォの手札にジョーカーが存在する事実によりスリーカード以上の役が成立する可能性は限りなく低くなった。

(何しろあちらさんは自信満々に初手レイズしたんだ。最低でも初期手札の時点で多少は勝負できる役があったんだろう。つまりあちらの手札はスリーカードで間違いない。プレイヤーが減って僕も交換していない以上、フォーカードもフルハウスも可能性はありえない!)

 拾った幸運を物にするため、レンツォの頭脳が即座に確率演算を済ませた。
 勝利の可能性は九割を悠々と超えている。

「僕はコールする」

「……コール」

「っ! へぇ、受けるんだ?」

 ターンの周りが逆だったらどれだけ楽だったか。
 この状況においてドロップしないという事はスリーカードでも十分に戦えると判断したか、あるいはフルハウス以上の役に化けたかどちらかしかない。
 内心で冷や汗をかきながらも、レンツォは手の中のフラッシュを信じた。
 いや、信じるしかなかった。

 互いのベットが終了し、いよいよショウダウンとなる。
 ターンの都合上、公開はレンツォが先だった。

「フラッシュだ」

 公開と同時に男の様子を窺う。
 端正な顔立ちがじわりと揺れた。
 心臓が跳ねる。

(どっちだ!?)

 ほんの数秒の出来事のはずなのに、心臓の鼓動が早まって時間が引き延ばされて感じる。
 まるで自分の頭が壊れたように男の手がゆっくりゆっくり動いているように錯覚した。

 やがて開かれた男の手札は、ジャックのスリーカードとナインのペア。

「フルハウス、だって……?」

 信じられるはずがない。
 男が交換したのは二枚だったはずだ。
 だとしたらその二枚の交換でナインのペアを引いてきた事になる。

 レンツォも歴戦の勝負師ギャンブラーだ。
 あの男がイカサマの類をしていない事くらい分かる。
 つまりはたった一枚の差、勝敗を分けたのは単なる運だけだ。

「く、そ……!」

 勝利への道筋は空いていたはずだ。
 だのに、最後の最後で相手が蹴った小石がレンツォを転ばせてしまった。

「言っておくが運じゃないぞ。俺にはペアが来ると分かっていた」

「……はっ、つまらないオカルトかい?」

「俺の勘は当たるんだ。俺はそれに全力で乗っかっただけだ」

「ご高説痛み入るね。だけど次はこうはいかない――」

 そう言いかけた途端、賭場がにわかに騒がしくなった。
 先ほどのざわつきよりも明らかに動揺したものだ。
 ふと見れば、目の前の男も顔色を変えている様子だ。

「どうした?」

「やべえ……まさか、『あいつ』が来たんじゃねえだろうな」

「『あいつ』?」

 訝しがるレンツォを気にする様子もなく、男は急いでチップを換金してその場を立ち去った。
 取り残されて白けてしまったレンツォもまた、自分のチップを集めて換金した。
 思ったよりも額が少ない。

「……つーかあの野郎、ベットした分以上に取っていきやがった!」

 叫んだところで男の姿はもうなかった。
 予想外の敗北に心が動揺して見逃したとはいえ、負けた上に余計な追い打ちを喰らったまま終わってはたまらない。
 レンツォもすぐに賭場を飛び出して影も形もない男の背中を追っていった。

 余談ではあるが、出入り口付近でレンツォは暗い色のローブを身に纏った男とすれ違った。
 いや、何事もなくすれ違えた。
 レンツォにとってはそれこそが賭場での最大の幸運だったのかもしれない。



 鍛冶屋へ向かった自身の双剣と【レーヴァティン】を預けたミリアは中央広場のオープンカフェで紅茶を嗜んでいた。
 テーブルには新鮮野菜のサラダとハムサンドが載っている。
 さすがに全て地元で採れたばかりの食材を使っているだけあって、どれも非常に美味だ。

「それで、その男を捜すのを手伝えって?」

 テーブルを挟んだ向こう側には、息を切らしたレンツォがただ頷いていた。
 どうやら相当に走り回ったらしい。

「冗談じゃないわ。何だってあんたの不始末に手を貸さなきゃならないのよ」

「冷たっ、ひどいよミリアー!」

「せっかくの祭りなのにわざわざ賭場に出かけて掛け金ちょろまかされるくらい油断するほうも悪いとは思わないの?」

「……旅打ちの醍醐味とは」

「あー、いい。いい。聞きたくない。どうせ私じゃ共感できないわ」

 ハムサンドの最後の一切れを口に運びながら、適当にあしらう。
 武芸一辺倒なミリアではレンツォと口論して勝てるはずがない。
 だからこそ、こうして始めから聞かないのだ。

「大体さ、ミリアだって暇でしょ? 観光ついでに街中まわってさ、一緒に犯人見つけない?」

「お断りね。そもそも私は暇じゃない……ああ、レンツォ。ちょっと左へずれてくれる?」

 訝しげな表情を作るレンツォはそれでも律儀に移動した後、ミリアの視線の先を追った。
 そこでは五月祭の儀式を終えた少年少女の一段が中央広場へ戻ってきたところである。

「うひょう、いいねいいね。うっすら汗ばんでる少年いいわ、最高だわ……」

 レンツォのあからさまな「うわぁ……」というドン引きの声にもミリアは屈しない。
 こちとらこれが見たくてわざわざ中央広場に面したカフェで待機していたのだ。

 そもそも開始直後を狙って宿を出たものの鍛冶屋の用件を済ませなければならなかったため、その一団を見失ってしまった。
 宛てもなく街中を走り回るのも非効率的なため、最終的に中央広場に戻ってくるところを狙ったのである。
 結果的に、白い衣装が汗ばんで身体に張り付いてしまい、うっすら透ける少年たちの身体を記憶に刻み込めたので結果オーライだ。

「絶対こんなの間違ってる……」

「うっさいわね、自覚はあるわよ」

「自覚あるんならここ離れよう!? そんでデートがてら街に出ようぜ!? さっきすれ違ったカップルがさぁ! クレープ食べるとかなんとか言っててさぁ、滅茶苦茶羨ましかったんだよぉ!!」

「はぁ? せめて一〇年は若返ってから言いなさいよ」

「さらっと無茶言うなよ!?」

「そのくらいの無茶をこなしてからじゃないとあんたとデートなんて夢物語よ」

「……じゃあデートじゃなくていいから街まわろうぜ?」

「せめて一二年は若返ってから言いなさいよ」

「なんで難易度上がってんだよ!?」

 そんなこんなで言い合いしているうちに儀式を終えた少年たちは解散していた。
 鑑賞タイムが短かった事だけは残念だがそれでも堪能はできたからよし。
 ミリアはそう納得してティーカップを乾した。 

「さぁてと。それじゃ私は宿に戻って寝るわ」

「うわ、マジで帰る気だ」

「こちとら昨日からほとんど寝てないのよ。たまにはゆっくり寝かせてよね」

「それってなんだか僕が君を昨日寝かせなかったように聞こえ――はぶっ!」

 とても失礼な事をほざいたのでとりあえず殴っておいた。

「――相変わらずの傍若無人っぷりですね」

 急に横合いから声をかけられたからか、レンツォは上ずった声を上げた。
 いや、それよりもこの声はミリアには覚えがあった。
 振り返ってみれば、端正な顔立ちの少女が立っている。

「キロル……」

 見覚えのある金色の髪、碧の瞳、尖った耳。
 ミリアと同じく、目の前の少女キロルはエルフである。

「お久しぶりです、

「ね、姉さまぁ!? ミリアって妹いたの!?」

「……、」

 キロルはぎろりとレンツォを睨んだ。
 狼狽するレンツォがこちらに助けを求めるように視線を移してきたが、ミリアは微妙な表情でため息をつくばかりだ。
 突然で驚いたのだろうが、切に空気を読んでほしい。

「その左眼。やはりあなたは……」

 視線を移したキロルが睨めつけているのはミリアの左眼の周りを飾る紋様だ。
 昨夜の戦いでミリアに起こった変化、そしてその代償として刻まれたのがこの紋様である。
 『黒化の刻印』と呼ばれるそれはキルヴィのエルフにのみ現れる、ダークエルフに堕ちた者の証である。

「何か文句でもあるの?」

「その刻印の意味を知らないはずはないでしょう」

「当然でしょ? 里の長老連中に聞かされすぎて耳タコよ」

「であれば正気とは思えません」

 キロルは腰に吊っているショートソードに手をかけた。
 左右で一振りずつ、彼女は二本の剣をそれぞれ両手に握る。
 反対にミリアは自身の得物を鍛冶屋へと預けたままだ。

「だぁー! やめやめ、ストップストーップ!!」

 一触即発の空気の中、その緊張をぶち切ったのはレンツォだった。

「街中で刃傷沙汰とかありえないから! そもそも姉妹だってんなら喧嘩するなよ!」

「……さっきから何ですかこの男は」

「仲間よ。今の私のね」

「こんなしょうもない男が……?」

「ヘイ小娘。初対面でいきなりしょうもないとか言われたらその後の人間関係がうまくいかなくなるって知ってるか?」

 レンツォが怒りを抑えつつ言うが、当のキロルは彼に興味がないのか、視線すら合わせようとしない。
 それもそうだろう。
 

ロスウェルここには観光で来たのよ。別に里に戻ろうとしているわけじゃない」

「……であれば構いませんが。くれぐれも里には近づかないようにしてください」

 すっぱりと言い切ってキロルは踵を返していった。
 その後ろ姿を眺めつつ、レンツォは冷や汗をぬぐっている。

「こっわぁ……何あれ、本当にミリアの妹なの?」

「血は繋がってないわよ」

「ふぅん? もしかして複雑な家庭環境だったり?」

「どうだっていいわ。それよりあんた、さっき言ってた話はもういいの?」

「あっ」

 思いのほか話し込んでしまった事もあり、その時すでに正午を回っていた。
 ただでさえ人の多い中央広場には昼食を求める人々がわんさかあふれ出している。
 こんな中でたったひとりの特別な特徴もない男を探せと言うのは無理な話である。

「いいや僕は諦めない! あの趣味悪いニット野郎を取っ捕まえてせめて負け分補填しないと僕の明日がやばいんだから!!」

「ま、がんばんなさいねー」

 燃え上がるレンツォを適当にあしらいつつ、ミリアははしたなく大きな欠伸をすると、そのまま宿のほうへと歩いて行った。



【あとがき】
今回は五月祭編のミリアサイドストーリーです。
五月祭本編ではあまり出番に恵まれなかった彼女ですが、実は祭り自体は彼女なりに堪能していました。
(レンツォは散々でしたが……)
出番はレンツォのほうが多いのにミリア編とはこれいかに、というツッコミもどうか呑み込んでください!

ここでミリアの妹、キロルが登場します。
本来は五月祭ゲストキャラの予定だったのですが、完全にタイミング逃しましたね……
そして『黒化の刻印』に関しても決着をつける予定が本筋に入らなかったという惨状です。
だがしかし、こんな事でめげるわたしではないのでエルフ編をお待ちくださいませ。

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周摩

Author:周摩
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