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月歌を紡ぐ為に(4/4)  

「ゲホ……! ガハッ!」

「あらら、終わりですかねぇ?」

 パブロがわざとらしい口調で問う。
 その顔にはニヤニヤとした厭らしい笑みが貼りついている。
 もはやコヨーテが戦えないのは誰の目にも明らかだ。

「コヨーテ――!」

「ば、か……近づくな!」

 ルナは忠告を無視してコヨーテに走り寄る。
 当然、その隙を逃す吸血鬼ではない。
 吸血鬼の目的はルナの血を吸う事だ。
 コヨーテが動けない今なら、彼女を狙ってくるのは明白だった。

「ル、ナアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!」

 鋭い痛みを跳ね除け、苦しい呼吸を無視して、コヨーテは跳んだ。
 ルナの背後には剣を振りかぶった吸血鬼の姿。
 もはや攻撃を防いでルナを助ける事はできない。

 迷わず、コヨーテはルナを突き飛ばした。
 その一瞬後、吸血鬼の一閃がコヨーテの腿を引き裂いた。
 ばっくりと開いた傷口から鮮血が噴水のように噴き出る。

「あっははは!!
 これは素晴らしい、お涙頂戴モノですねぇ」

 吸血鬼の狙いはルナであり、逃げられないように脚を狙ったのだろう。
 コヨーテが庇わなければ片足が吹き飛んでいたはずだ。

「……離れてろ、ルナ。
 オレなら大丈夫だから、待っててくれよ」

「ダ……ダメです!
 はやく血を止めないと……!」

「は……?」

 ここで、ようやくコヨーテは気がついた。
 ルナは秘蹟によって傷を癒そうと近づいたのだと。
 自分が狙われている事よりも、コヨーテが死にかけている現実がルナの足を動かしたのだと。

「はは……」

「コヨーテ……?」

 ルナの心はとても美しい。
 およそ吸血鬼にはできない発想だ。
 こんな高潔な心を持った人間が、何故こんな理不尽な目に遭うのか。

 これが神の定めた運命だというのなら。
 どうしておまえは自分に縋る人間を簡単に蹴落とせるんだよ。
 ドロテアだってルナだって、お前を信じて疑わなかったのに。

 だからコヨーテは力を欲した。
 神などに頼らない方法で誰かを救いたかったから。
 神が手放した人たちを、この手で救いたかったから。

 

「ルナ」

 だから、一言だけでもいい。

「――オレを、信じてくれるか?」

 この場を凌ぐ為だけでもいい。
 自分という魂を燃やす為の、糧が欲しい。

 突然の質問にルナは逡巡するが、それでも真剣な面持ちで答えてくれた。

「……はい。ずっと、信じています」

 それだけで十分だった。
 コヨーテの身体に異変が起こる。
 正確には体内での変化。

 心臓が活発に動き、新しい血液を全身に巡らせる。
 その血液は純粋なコヨーテのものではない。
 ここへ来る前に飲んだ、とある秘術を内包した吸血鬼の血液が混じり合ったものだ。

「な、に……!?」

 吸血鬼が驚いたような声を上げる。
 ルナも、驚愕に言葉を失っていた。

 身体中の傷がどんどん塞がっていくのだから、無理もない。
 折れた肋骨が何事もなかったように元の位置に戻り、繋がる。
 裂けた肩口や腿の肉が埋まり、傷跡すら残らない。

 コヨーテは力の使い方が下手だ。
 本来なら身体強化の延長線でしかない【鬼手捕縛】に大きく力を取られるし、意識しなければ治癒も鈍い。
 しかし、コヨーテは一点に力を叩き込むという点では凄まじい才能を発揮する。

「貴方、まさか――!?」

「気づくのが遅すぎるんだよ、吸血鬼」

 一瞬だけ呆気にとられた吸血鬼の隙を見逃さず、【レーヴァティン】を振るう。
 ほんの二秒三秒の間に、激しい運動が可能なほど傷は塞がっていた。
 吸血鬼は油断していたためか碌に反応できず、反射的に差し出した右腕を切り飛ばされた。

「ぐっ、うおおおおおぉぉぉぉぉあああああああ!!!」

 吸血鬼の右腕はくるくると回転し、花壇の中へ落ちて行った。
 今度は完全に切り離した為、繋げるには断面を合わせて固定しなければならない。
 つまり回復には相当の隙が生まれ、時間がかかる。

 『霧』や『蝙蝠』に変化すれば、その隙を無くす事も容易にできる。
 だが、目の前の吸血鬼は所詮『従者』であり、そんな能力は持っていない。

「覚悟はできたか吸血鬼? オレはもう済ませたぞ」

「ぐおお……何の、覚悟だとッ!?」

「『大切なものを失う覚悟』だ」

「ば、馬鹿馬鹿しいッ!
 すでに吸血鬼となった私には、失うものなど何もないッ!!」

「ひとつだけあるだろう。お前の、『存在』が」

 そう、吸血鬼となった元人間には失うものは何もなくなる。
 唯一あるとすれば、闘争に生きる吸血鬼が闘争を続けられない事だけだろう。

 コヨーテはそれを奪う。
 死んでいるのに生きている、そんな歪な存在を消し去る。

「は、やれるものなら……やってみろォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 吸血鬼は吼え、残った手で剣を振るう。
 いくら吸血鬼の方が格上とはいえ、いくら剣術の腕の差があるとして。
 片腕だけで戦えるほどの差はない。

 心臓を狙って突き出された一撃を、【レーヴァティン】が弾く。
 片腕を失って上手く身体を制御できない吸血鬼は、大きくバランスを崩した。

「ぐううぅぅおおおおおおお!!」

 吼える吸血鬼めがけて、コヨーテは【レーヴァティン】を両手で掴み、叩き潰すように振り下ろす。
 狙いは残った左腕だったが、咄嗟に突き出された剣に阻まれてしまった。
 金属が激しくぶつかり合う音が響き、吸血鬼が膝をつく。

 追撃を恐れたのか、吸血鬼は爆発的な跳躍で距離を取った。
 無理な体勢からの跳躍で、左の足首が普通でない方向を向いている。

「こ、の……半端者がッ!」

「ようやく気づいたのか」

「人間の臭いがするから油断していました……だがッ!
 所詮は半端者、純粋な吸血鬼である私に敵うはずもないッ!!」

 ゴキゴキと鈍い音を立てて、吸血鬼は足首を元の位置へ戻す。
 格下に追い詰められている屈辱と怒りで、精悍だった吸血鬼の顔は醜く歪んでいた。

「そんな理屈に価値はない。
 格上だ格下だなんていうランク付けなんざ、油断一つで容易にひっくり返るんだ。
 それに――」

 コヨーテは吸血鬼から視線を外す。
 向けられた先は、外へと通じるイクシリオン家の門。
 つられるように吸血鬼の視線もそちらへ向けられ、目を見開いた。

?」

 そこに立っていたのは、赤毛の魔術師、オッドアイの少女、エルフの双剣士、盗賊の若者。
 紛れもなく『月歌を紡ぐ者たち』の面々である。

「……にわかには信じられねぇが」

「そうね。
 腕を斬り飛ばされても平然と動いて、止血もしていないのに数秒後には血が止まってる」

「おまけに足首が折れるほどの、あの跳躍」

「そして折れた足首を強引に元通りにして、もう治ってる。
 さっきの吸血鬼云々発言もあながち冗談じゃなさそーだね」

 彼らにしてみれば、ただコヨーテに呼ばれただけだ。
 だが、そのコヨーテがボロボロの血塗れになっており、相対する男はおよそ人間離れした挙動をしている。
 何らかの理由でコヨーテが戦っている事は疑いようのない光景だった。

「ぐっ……何故、何故!?
 この私が追い詰められている!?」

 敗北の未来が見えつつあるのか、吸血鬼の心が焦りに縛られる。
 もう、この男に戦う意思はない。
 あるのはひとつ、逃走の意思のみだ。

 吸血鬼の足が半歩後ずさった瞬間、コヨーテは一気に踏み込んでいた。
 【レーヴァティン】を振るい、吸血鬼の剣を思い切り叩いた。
 戦いとは別のベクトルへ思考をシフトさせていた吸血鬼は、それだけで剣を弾かれてしまう。

 ジリ貧となった吸血鬼は、懐からナイフを取り出してコヨーテへ投げつける。
 攻勢に出ていたコヨーテは、これを一切無視して更に踏み込んだ。
 わずかに狙いの逸れたナイフがコヨーテの頬を掠めていく。
 吸血鬼の残った左腕が【レーヴァティン】の腹で叩き伏せられた。

「ごぉああああッ!!」

 思わず耳を覆いたくなるような鈍い音を立てて、左腕の骨が砕け散る。
 両手が潰された圧倒的に不利な状況にも関わらず、吸血鬼は凄絶な笑みを浮かべた。

「くくくっ、ははは! お見事です、が!
 この程度の損傷、今の私は一〇秒もあれば完治できる!」

 吸血鬼はバランス感覚がガタガタになりながらも塀へと駆ける。
 数メートルの距離を矢のような速度で駆け、大きく跳躍した。

 一度退いて、傷を癒せばまだ勝機はある。
 半刻もあれば回復する傷だ。
 適当に腹を満たして傷を癒せば、今度こそ皆殺しにできる。

 と、そう考えていたのだろうが。
 吸血鬼は面白いくらいコヨーテの狙い通りに動いてくれていた。
 最初の一撃で頚椎を狙ったのもその後も執拗に両腕を狙ったのも、全てはこの時の為。

「――そのくらい分かってるさ。
 だが、お前は一〇秒の間、両手を防御に回せない。
 それだけで十分だ」

 コヨーテの左手が吸血鬼へまっすぐに伸ばされる。
 彼の根本を叩く為に。
 彼の心臓を穿つ為に。

「終わりだ、吸血鬼」

 吸血鬼の敗北を決定付けるようにコヨーテは宣言する。
 そして、劇的な変化が起こった。

 コヨーテの左腕が、一瞬にして黒い毛並みの狼へと変じた。
 吸血鬼の能力ではかなり有名だろう、狼への変化。
 『組合』はそれを腕一本で成し遂げられるように秘術を改めた。

 それは、【天狼突破】と呼ばれた。
 己の腕を砲台とし、極めて瞬発力・破壊力に長ける狼を射出する秘術だ。

「おッ……おおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオァァァァァァァ!!」

 吸血鬼は吼えた。
 コヨーテの思惑が、ようやく理解できたからだ。

 吸血鬼は心臓を穿たれた程度では消滅しない。
 だが、それにも限界はある。
 たとえば心臓を、再生する術がない。

 ギラギラと輝く狼の真っ赤な双眸が、吸血鬼を射抜く。
 大きく裂けた口からは涎が溢れ、今にも飛び掛ろうと全身が不気味に蠢いている。

「お、のれ半端者がああああああァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「――喰らえ」

 合図と同時に、黒狼が飛び立った。



 黒い尾を引きながら恐ろしい速度で飛来する狼は、どこか流星と似ていた。
 放ったコヨーテですらよろめくほどの一撃は、それほどまでの威力と勢いを感じさせる。

「うばっがッ! ぅぅうううがああああああああああああああああッ!!」

 左胸を黒狼に食い破られ、吸血鬼は地に堕ちた。
 胸と口から信じられない量の血液が流れ出している。
 目の前に、心臓を咥えてコヨーテの下へ歩く黒狼を見つけて手を伸ばすも、力なく前のめりに倒れこんでしまった。

「消えてなくなれ。お前は人間としての矜持を失った、ただの吸血鬼バケモノだ」

 吸血鬼はコヨーテを、そしてその傍らで心臓を咥えて尻尾を振っている黒狼を睨みつける。

「ふん、何が……人間の矜持ですか……出来損ないの分際で、何を偉そうに……」

「そう、オレは出来損ないさ。
 だがそれでいい。
 お前たちに対抗できる人間の味方であれば、それでいい」

「人間の味方ぁ?
 何を、馬鹿な……貴方は人間でも、吸血鬼でもない……
 双方から疎まれ、恨まれ……憎まれて……死んでしまえ……」

「………………」

 コヨーテは無言で黒狼の頭を撫ぜる。
 それが合図となり、黒狼が咀嚼を始めた。
 吸血鬼の身体がびくんと跳ね、そのまま灰となって風に流されていく。

 ――終わった。

 そう確信した瞬間、コヨーテの身体から力が抜けた。
 【天狼突破】で急速に血の力を失った影響か。
 視界が揺れて足元がおぼつかず、とても立っていられない。

「コ、コヨーテ! ……むぎゃっ」

 危うく後ろに倒れかかったところを、ルナに受け止められた。
 受け止められたというよりは、支えきれなかったルナ諸共倒れ込んだというのが正しいか。
 めげずに起き上ったルナは、なるべく楽な体勢にしようとコヨーテの頭を膝に乗せた。

「……ルナ」

「何です?」

「――生きていてくれて、ありがとう」

「あっ……う……お礼を言うのは、私でしょう……?」

 その言葉を聞いたルナの両目から、涙が溢れてきた。
 感謝や疑問や恐怖や安堵が、一気に襲いかかってきたのだろう。
 そんな風に感情を表に出しているルナを見て、コヨーテの心は満たされていた。

 守りたかったものを守れた。
 一〇年前と同じ轍を踏まずに済んだ。

「……コヨーテ」

「みんな」

 バリーらが横たわるコヨーテの元へ近づいてきた。
 その表情は複雑だった。
 コヨーテの左腕は未だに黒狼となったままであり、その反応も無理もない。

「………………」

 コヨーテの意思を察したのか、黒狼は名残惜しそうに左腕へと戻った。
 あまりにも奇妙な光景だ。
 何らかの魔術だとしても無理があり、バリーでも理解が及ばないのだろう。

「……色々と聞きたい事がある」

「そうだな、オレもみんなに話したい事がある」

 ついに、コヨーテは真の戦いに臨む。
 力も知恵も関係のない、信頼と恐怖の戦いだ。

「――オレは、」

 自分の素性を親父とアンジュ以外に話すのは始めてだ。
 今までずっと話せなかった、コヨーテという存在の秘密。
 それを、バリーらは半信半疑でもなく冗談ともなく聞いてくれている。

 全てを話し終えた時、ついさっきまで戦場だったイクシリオン家の庭は、異常なほどに静まり返っていた。
 頬の傷はすでに血の力で治癒されたらしい。
 その通常ではありえない治癒速度が、コヨーテの告白に説得力を上乗せしていた。

 修飾もへったくれもなく、ありのままの言葉を吐き出した。
 『人間』として初めて得た仲間に、飾り付けた言葉を聞かせたくなかった。

「オレの正体を知った以上、今まで通りという訳にもいかないだろう」

 悩んで悩んで悩み抜いた末に出した結論が、コヨーテの中にはある。
 考えるのも辛かったが、言葉に出すのはもっと辛い。
 それでも、伝えなければならない。
 みんなの為にも、自分の為にも。

「――『月歌を紡ぐ者たち』は解散する」

「う、嘘……です、よね?」

「冗談でも何でもない」

 怪我をしていないはずの胸がずきずきと痛む。
 半年以上生死を共にした仲間だ、本当なら解散なんてしたくはない。

 だが、それでも半吸血鬼という存在は危険すぎる。
 いつまたルナのように吸血鬼の闘争に巻き込まれるとも知れない。
 そんな過酷な運命に、大切な仲間を巻き込みたくはない。

「……お前がそう言うのなら、俺は従うぜ」

 バリーはいつも通りだ。
 コヨーテの決定に筋が通っていれば、必ず肯定してくれる。
 だが、胸の痛みは更に加速した。

「ただし、解散したとしても俺はお前につく。
 化け物だろうが吸血鬼だろうが知った事じゃねぇ。

 危険だって事くらい分かってらぁ。
 それを踏まえてもお前と一緒に居たいから言ってんだぜ。
 分かったか馬鹿野郎」

「バリー……」

「あら、先に言われちゃったわね。

 私もバリーと同じ意見よコヨーテ。
 そもそも私自身が人間じゃないし種族の違いで差別なんかしないわよ。
 むしろ、より一層あなたの味方をしたくなったわ」

「そうそう、大丈夫だよコヨーテ。
 私だってずっと思い悩んでた事、みんなが一緒に背負ってくれた。
 コヨーテの悩みも、みんなが背負ってくれるから。
 だから、もう一人で苦しまなくてもいいんだよ?」

「ミリア、チコ……」

「いや、本音を言えば吸血鬼の相手なんざ懲り懲りだよ。
 でもさ、その吸血鬼の力を持ったリーダーなんて頼りになるじゃん?
 僕としてはコヨーテが僕らに牙を剥かないって約束してくれれば、今まで通りで居たいんだよね」

「レンツォ……」

 心に沁みたとは、こういう事をいうのだろう。
 さっきまで痛みを訴えていた胸が、随分と穏やかになっている。

「コヨーテ、私の気持ちを聞いてくれますか?」

 ルナの表情からは、どんな感情も読み取れなかった。

「私は、吸血鬼という存在を邪なものだと思っています。
 過去二度……今日も含めると三度、吸血鬼という存在をこの目で見ました。
 どの吸血鬼も人間とは共存できないような考え方をしていて、決して相容れる事はないと確信しました」

「……そう、か」

 つまり、コヨーテから離れるという事。
 身体からどんどん力が抜けていくのを感じる。

「でも、あなたは違うじゃないですか」

「――え?」

「あなたは、人間です。
 私を救ってくれたあなたが、化け物であるはずがありません。

 私たちはみんな、あなたを信じています。
 だから……私たちの事も信じてください。

 以前、言いましたよね。
 コヨーテだって守られていいんです、って。
 みんなを守ろうとするあなたを守るのは私たちの役目です。
 それが私たち『月歌を紡ぐ者たち』じゃないんですか?

 ……それとも、私たちとは一緒に居たくありませんか?」

「――そんな訳ない。オレだって、みんなと居たい」

「だったら、迷う事はありません。
 コヨーテのその気持ちがあれば、私たちはずっと一緒ですよ」

 ルナの言葉があまりにも心の奥底へ届くものだから、コヨーテは逆に不安になった。
 恐る恐る、他の面々の表情を窺う。
 しかし、誰もが気持ちを一つにしているような、そんな気がする。

「みんな……」

 結局、みんながコヨーテと同じ気持ちだった。
 誰も失いたくない、誰とも離れたくない。

「――ありがとう」

 一二月の寒空の下でも、あたたかい。
 『月歌を紡ぐ者たち』という仲間の絆を、確かに感じた。

 彼らが信じてくれるなら、悩む事は何もない。
 この呪われた運命を戦い抜いてみせよう。

 月歌を紡ぐ為に。



 『月歌を紡ぐ者たち』は解散しなかった。
 解散したとしても、全員がコヨーテの下に戻るのであれば意味がない。
 彼らは離れる事なく、更に絆を深めて『大いなる日輪亭』へと戻った。

 吸血鬼・パブロが暴れたイクシリオン家の人間は、彼の宣言通り命を落とした者はいなかった。
 それでも数日は療養してもらう必要があり、邸内はしばらく騒然としていたそうだ。
 パブロに蹴飛ばされて気絶していたダーレンは幸運にもかすり傷だけでピンピンしている。
 あの事件以来、当日家を空けていたイクリシオン家当主――ルナの父でありダーレンの兄――を相手に屋敷の警備の見直しで忙しそうにしている。

 リューン騎士団では一名の騎士が行方不明とされた。
 聖夜の一日で誰にも目撃される事なく影も形もなく消えている為、事件は迷宮入りとなる。
 同じ団員であるダーレンは、当夜の出来事を黙秘した。
 コヨーテらは今回の事件についてはダーレンに真実を伝えなかったのだ。
 そもそも事件の概要を説明したとして、信じてもらえるとは思えない。

 これが、コヨーテの周辺で起きた事件の顛末である。
 世間から見れば他愛もない事件だが、とりわけコヨーテにとっては大きな意味を持つ。

 『組合』の要請を受諾し、格上の吸血鬼との対立及び討伐。
 吸血鬼を殺しうる秘術【天狼突破】の習得。
 『月歌を紡ぐ者たち』がコヨーテを受け入れたという事実。

 この三つの要素は後に全ての吸血鬼という存在においても大きな意味を持つ事になるが、現時点でそれを知る者はいなかった。
 ただ一人、吸血鬼ラクスマン・クレヴァーを除いては。


 某日某所。
 とある暗闇で、ラクスマン・クレヴァーは密かに笑んでいた。
 コヨーテが年末に巻き込まれた事件を思い返すと、嬉しさしか込み上げてこない。

「……良くやったよコヨーテ。
 君が『従者』を狩った事で、『組合』は君を生かし続けるだろう」

 『組合』は組織の不利益になる者を排除するが、利益となる者には寛容だ。
 違反吸血鬼の排除に協力したコヨーテはしばらくの間は泳がされるはずである。
 もし再び組合からの協力要請があっても、【天狼突破】があれば現時点でも『下等』までなら戦えるはずだ。

「――だが、結局彼は気付く事はなかった」

 ラクスマンはぐにゃりと表情を変え、ほくそ笑む。
 まるで自分が考えたプランが最高の結果を残したかのように。

「何故あの『従者』が都合よく君の仲間……特にを狙った?
 幼い頃ですでに世界の理不尽を知った君を、最も刺激する恰好の標的が狙われたのは偶然か?
 あるはずがない、そんな偶然」

 偶然とは必然の裏返しだ。
 必然と必然の間に挟まった偶然は、もはや偶然とは呼べない。

 コヨーテも疑ってはいた、憤ってはいた。
 だが、それまでだ。
 彼はこのラクスマンという吸血鬼を信じてしまった。

 それが、どんな方向へ進んでしまったのかを理解せずに。

「仲間を守りたいと思うコヨーテから、仲間を引き剥がしては意味がない。
 常に一緒に居させる事で更に危険は増し、コヨーテは次なる戦いに身を投じる。
 そういう連鎖に陥ってしまった事を気付けなかった」

 粘ついた闇の中、ギチギチと裂ける口元を晒しながらラクスマンは歩く。
 答えの見えない迷路を、まるで正しいルートを知っているかの進む。

……」

 ラクスマンはかつて存在した吸血鬼の名を口にした。
 吸血鬼の歴史に強烈に名を刻んだ、尊敬すべき男の名を。

 そして思い返す。
 その男の心臓を穿つ銀の刃、それを持つ少年コヨーテ。

「――もうすぐです。必ず、あなたの仇は討つ」

 そう強く言い放ち、彼は更なる闇の中へと消えていった。



【あとがき】
今回は完全オリジナルストーリーでございます。
次へステップアップするために必要とはいえ、かなりの難産でした。
それでも戦闘シーンは妥協したくなかったのでがんばりました。
たぶんこれが限界です。

後々に重要になる伏線をありったけ張っています。
正直、全部回収できるか怪しいですが……

今回は敢えて時間軸をめちゃくちゃにしています。
一応、各区切りのスタートは昇順には並んでいますけどね。
何と言うか、ミスリードを誘うような文章になってたら嬉しいです。

今回登場したオリジナルのキャラクターはいずれ出番がある気がします。
ルナの叔父のダーレンとか、冒険者のレティシアとか。
パブロは完全に死滅したので出番はありませんけど。
あ、ちなみに『ささやかな宝』でルナに十字架を贈ったのはダーレンさんですよ。念のため。

次回からちゃんとシナリオリプレイを再開したいです。
しかし今更になって細かい場所の説明不足が発覚したので後日談みたいなのを作りたかったり……
オリジナルストーリーは用法・用量を守って正しく使いましょう。


☆今回の功労者☆
コヨーテ。今までほぼ無傷だった分、思いっきり怪我しました。

報酬:
なし

購入:
【天狼突破】-1000sp→コヨーテ
(吸血鬼の組合)


銀貨袋の中身→2347sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『吸血鬼の組合』(周摩)

今回使用させて頂いたキャラクター
『アリメ村のオーガ』(出典:『優位なもの』 作者:22エンケー様)
『ミューレルのエイベル』(出典:『盲目の道筋』 作者:takazo様)
『ヨーク村の吸血鬼』(出典:『石の棺』 作者:おぺ吉様)
『グリグオリグ修道院の吸血鬼』(出典:『みえないともだち』 作者:Fuckin'S2002様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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この記事へのコメント

あけましておめでとうございます。

月歌を紡ぐ為に完結、お疲れ様でした。
3話目でも結構ぼろぼろだったのに、今回の話で「うわああ、コヨーテえええ」と叫びそうになりました。ダンピールだけど、きっと仲間の体面があって回復使えないんだろうな、と思っていましたが、意識しないと使えないというのもあるんですね。
「お前の正体が何だろうが仲間だ」と、まずバリーが切り出してくれたのが凄い嬉しかったです。そう言うとこ、バリーはシビアに判断しかねないと思ってたので・・・あんた漢だよ、バリー!(何)
ラクスマンの計画も徐々に明らかになってきたっぽいし、ますます目が離せませんね。お仕事が新年から大変になったようですが、お体に気をつけてゲームを楽しんでくださいませ。
あけましておめでとうございます(現在:一月末)
コメントありがとうございます。
Leeffesさんの更新速度に目を白黒させています。
その筆の速さを分けてくださいぃぃぃ……!

治癒ついては、コヨーテが無意識にコントロールしていた、という事ですね。
作中で急速に回復したのは無意識に止めている分を解放、つまりリミッターを解除しているだけなんです。
まぁ、リミッターを解除した上に更に集中を加えていたので高速回復が実現したわけなのですが。

実は旧作の時点で、真っ先にコヨーテの味方をするのは魔術師役と決めていました。
バリーからすれば信頼できる前衛であるコヨーテを手放すのは惜しい、という理屈をこねる事もできます。
それは言わないお約束、というヤツですが。

ラクスマンの計画……全貌が明かせる日が来るのでしょうか……?(泣)
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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

Info.
当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

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