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『劇団カンタペルメ』(2/2) 

『昔々のお話です。
 あるところにシンディーリアという美しい娘がおりました……』

 <語り手>役であるバリーが舞台の片隅で物語を紡ぐ。
 バリーは椅子に脚を組んで腰掛け、小道具の古ぼけた本を捲っている。
 <語り手バリー>が『シンディーリア』という童話を読み進める構成なのだ。

『収穫祭を間近に控えたある秋の日。
 シンディーリアはいつものように、草原で羊たちの面倒を見ていました』

『シンディー! シーンディー!』

 舞台袖から、チコが元気良く舞台の中央まで走っていく。
 <村娘>役の彼女は子供らしい、可愛げのある声を劇場中に響かせた。

『シンディー、どこのいるの?
 たいへんな知らせがあるのよ。
 聞かないときっと悔しい思いをするわよー!』

『私ならここよ。そんなに大声を出したら羊が逃げちゃうじゃない』

 <シンディーリア>役のルナは穏やかに、淑やかに役を演じる。
 ルナの声は決して大きくはないが、それでも透き通るような柔らかな声は良く通る。

『もうすぐお城で、舞踏会が開かれるのは知ってるよね。
 王子様達の成人の日に』

『ええ。双子の王子様がどちらも成人される、おめでたい日ね。
 それがどうしたの?』

『あなたの家に招待状が届いているのよ!』

『私の家に? 舞踏会の招待状が? 何かの間違いじゃないかしら?
 たしかに私の家はこの村の村長筋だけれど、今までお城の催しに招待なんて一度もされた事なんてないわよ?』

『今度のお祝いは特別なんですって。
 私のような村人だって、パレードを見ることが出来るそうなの!
 舞踏会に行けるなんて、素敵……あなたが羨ましいわ、シンディー』

 でも、と<シンディーリアルナ>は<村娘チコ>から眼を背ける。

『私たぶん行かないわよ。
 そんなものに興味はないもの。
 家には古いドレスが一着しかないし、姉さんが着ていくと思うわ。
 私は行かなくていい』

『行かないですって、シンディー。
 あなたも聞いた事があるでしょう?
 お城はとってもきらびやかだって。

 私はずっと夢だったのよ。
 綺麗なドレスを着て、華やかなホールで踊る事が。
 それでもし素敵な殿方に出会えたら、最高だと思わない?』

『……そうかしら、そんなにいいかしら?
 私はあのお城、嫌いだわ。
 ゴテゴテしていて見かけばかりきれいで。
 この草原のほうがきれいよ。
 それとも、この薄桃色の花の方が。
 殿方にもあんまり興味はないの』

 そう、<シンディーリアルナ>は薄く笑う。
 対して<村娘チコ>は、呆れたように肩をすくめた。

『まあ、あなたって欲っていうものがないの、シンディー。
 もしも、もしもよ、高貴な方に見初められでもしたら、こんな生活からさよなら出来るっていうのに』

『さよなら? どうして? 嫌よ、そんなの。
 私は大好きなの、私をとりまくこの世界が。
 羊も、草も、花も、木々もみんな。
 お城や舞踏会なんかよりずっと素敵よ』

『……もったいないわ、あなたって本当に綺麗なのに。
 あなたくらい綺麗だったら、きっと殿方の注目の的なのに。
 たくさんダンスの相手を申し込まれるに決まっているのに。
 もったいないわ……』

 残念がる<村娘チコ>の言葉を最後に第一幕は終了、舞台は闇に包まれる。
 この間に役者を入れ替えるのだ。
 余談だが、実はさっきから舞台の上部から照明担当の赤い髪の少女が頑張っているのだが、この仕事っぷりが観客から見えないのも勿体無い気がする。

 入れ替えが完了したら、再び照明装置に明かりが灯される。
 粗末な椅子に腰掛けたミリアと、その向かいに立つ<シンディーリアルナ>が暗闇の舞台に浮かぶ。

『行けない……ですって、姉さん?』

『ええ。見ての通りよ……』

 <シンディーリアの姉>役のミリアは足首に巻いた包帯を指して、暗い調子で台詞を続ける。
 普段は明るい性格のミリアにとっては難しい役であるが、それでも彼女は見事に演じていた。

『ダンスの練習をしていたら、張り切りすぎて足をくじいてしまったの。
 ドレスも破けてしまったわ。これでは舞踏会には行けない……

 ……夢だったのに。
 あの美しいお城で、人々の視線を浴びながら、娘らしく花咲いてみたかったのに。
 田舎娘だという事を忘れて、一夜でいいからお姫様になってみたかった。
 それなのに、それなのに、ああ……!』

 <シンディーリアの姉ミリア>は両手で顔を覆って嘆く。
 そして、縋るように<シンディーリアルナ>の手を握った。

『お願い、シンディー。私の代わりに舞踏会へ行って?
 そして後からお話を聞かせて。
 あなたを通じて、お姫様になった夢を私に見せてちょうだい。

 お願い……』

 <シンディーリアの姉ミリア>は畳み掛けるように項垂れる。

『姉さん……』

 <シンディーリアルナ>も、強くその手を握り返し、

『分かったわ、姉さんの代わりに行く。
 帰ったらたくさんお話を聞かせてあげるから、待っていてね』

『ええ、ええ。ありがとうシンディー……』

 ここで再び場面が暗転する。
 今度はお城の様子だ。

『弟よ。気に入る女はいたか?』

 <兄王子>役のレンツォは豪奢な椅子に足を組んで座っている。
 いかにも偉そうな態度であるが、なかなかにハマっている気がするのが不思議だ。
 普段は気品の欠片もない癖に。

『……いえ、特には。兄上はどうなのです?』

 <弟王子>役のコヨーテはほとんどいつも通りの佇まいだ。
 そもそも美形な彼には豪奢な舞台衣装は非常によく似合っている。
 衣装を用意した座長も驚いたほどだ。

『ダメだな、どの女も分厚い化粧で誤魔化しているだけだ。
 醜女しこめ……とまでは言わんがな。
 たまに綺麗なのがいると思えば、頭の方が足りないときている。
 この舞踏会では妃候補は見つからんな』

『妃を見つけようとは思っていないのですが……
 ただ楽しく踊ろうにも、相手がそうさせてはくれません』

 <兄王子レンツォ>はハッ、と短く笑う。

『それはそうだろう。
 どの女も、お前の向こうに金と名誉とを見ているからな。
 無論、私に対しても同じだが。

 ……しかしつまらん舞踏会だ。
 何とか理由をつけて引き上げられないものか。

 ん、あれは……なんだ?』

 王子兄弟を照らす光が消え、代わりに<シンディーリアルナ>が照らされる。
 その数秒後に<語り手バリー>が照らされた。

『そこに現れたのは、普段の格好そのままのシンディーリアでした。
 羊たちと戯れながら生活している彼女の服は、あちこちがほつれ、汚れています。

 ところが、それでもなおシンディーリアは美しかったのです。
 広間にいる、他のどの娘よりも。
 シンディーリアは、聞こえよがしの中傷をものともせずに毅然と歩いていきます』

『――なんと綺麗な娘だ』

『あの格好であの美しさとは、磨けばどれほどのものになろう』

『………………』

 <弟王子コヨーテ>は一瞬だけ<兄王子レンツォ>を見やると、無言で立ち上がった。
 そして<シンディーリアルナ>の傍へ歩み寄ると、優雅に手を差し伸べる。

『美しいご婦人。よろしければ、私と踊っていただけませんか?』

『まあ、王子様。
 私はこの通り、みすぼらしい下賎の娘です。
 踊りだって練習はしたのですけど下手ですし……、それでもよろしいの?』

『――貴女だから踊りたいのです』

 <弟王子コヨーテ>は柔らかな笑みを浮かべ、そして一瞬だけ笑みを崩した。
 視界の端に、低い姿勢で客席を密やかに走る影を捉えたのだ。

(――動いた!)

 コヨーテは事前に打ち合わせしていた通りに舞台袖のメンバーに合図を送る。



「『王子様」より合図を確認! あの合図は……下手側だよっ!」

「ええ、見つけたわ。あいつらね! 追うわよ!」

 舞台袖で待機しているのはバリーと、出番が終わったミリアとチコである。

 不審者は五名で、舞台袖に入り込もうとしている。
 どうやらそこから照明用の階段を使って舞台上部の宝石を狙うつもりのようだ。
 こちらに気づいた僧侶風の女が、杖を構えた。

「あら、残念ながら歓迎できない客が現れたみたいですね」

「……真夜中の鐘にゃまだ早いが、お帰り願おうか」

「ちょっとバリー、格好つけてるところ悪いけど台本読んでない彼らには意味わかんないと思うよ」

 案の定、リーダー格らしい冴えない男は頭の上に『?』を浮かべている。

「って、なんだ。
 アンタら、誰かと思ったら舞台に出てる俳優サンじゃねーか。
 いやすいませんねぇ、俺ってばシンディーリアちゃんがあんまり可愛くてー、つい傍で見たくなっちゃってェ」

「あのねリーダー、こいつら冒険者よ?」

 盗賊風の女が呆れた風に言う。
 かなり強烈な冷たい視線は、彼の言葉があながち嘘じゃないと語っているようだ。

「ぬぬぬあ、ぬあんだってぇ!?
 なんで冒険者がこんなとこにいて舞台なんかに上がってんだよ、おかしいだろ!?」

「えへへ……なんでだろーね。むしろこっちが聞きたいよ……」

 あまりに正論過ぎて乾いた笑いしか出てこない。
 よくよく考えたら妙な依頼を受けたものだ。

「ともかく、アンタたち『ミューゼルの美』を狙っているんでしょ?
 今までの数々の嫌がらせもアンタたちの仕業ね?」

「うっ……だ、だったらどうだってんだよ!」

「二度とそんな気が起きないようにここで成敗してあげるわ! 覚悟!」

 ミリアが双剣を構える。
 それに呼応するように、盗賊風の女がナイフを抜く。

「うふふ、『覚悟!』なんて、東方のお芝居みたいで素敵ね。
 受けてたってあげようじゃないの!」

「ちょまっ! リザ姉、勝手な事言うなよォ! こいつら強そうじゃねーか!」

「あちらは三人、対してこちらは五人。
 数の上ではこちらが有利。やれない相手ではありません」

「おほほほほほ、わたくしの華麗な魔術を見せて差し上げますわ!」

「だぁからマッダレーナはすぐ自分が魔術師だって明かすのやめろっての!
 あーもう仕方ねぇなぁ、やるよ、やってやんよ!

 今度のヤマはデカいからな、腹ァ括るか。
 受けてたつぜ!」

 リーダー格らしい冴えない男はヤケクソ気味に剣を抜いた。
 非常に賑やかなパーティであるが、油断は禁物だ。
 僧侶風の女の言う通り、こちらの方が人数は少ないのだ。

「よし、マルコ! いっけえええ男を見せろおおおおおおお!!」

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 ガタイのいい戦士風の男が雄叫びを上げながら突っ込んできた。
 不運な事にミリアたちの立つ両脇には舞台に使う小道具が所狭しと置かれていて、左右に回避する事ができない。

「って、ちょっと待った! こ、この位置はヤバいって!」

「馬鹿! こっちに来るんじゃねぇ!」

 つまり、ミリアたちの後方にしか移動が出来ない訳で。
 後方とは要するに舞台上な訳で。

 飛び込むような形でミリアら三人と戦士風の男、そして優勢と見て他四名が舞台上に踊り出た。

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 恐ろしく長い沈黙が劇場を包み込んだ。
 コヨーテらの後方、上手側の舞台袖から座長の声にならない叫びと殺気にも似た何かが伝わってくる。
 あまりに突然に雰囲気をぶち破った乱入者に、さすがにおかしいと思った観客がざわつきだした。

『――りっ、隣国からの侵攻だッ!!』

 そんな空気を打ち破ったのが、<兄王子レンツォ>の一言だ。

『我が城に直接乗り込んでくるとは、二年前に結んだ休戦協定を忘れたのか!
 皆の者、奴らを捕らえろーッ!!』

「はっ?」

「(――ナイスだレンツォ! 後でエール奢ってやるぜ!)」

 指を差された冴えない男はぽかんとしていたが、コヨーテらにとっては値千金の一言だ。
 いち早く状況を立て直すために、コヨーテは【レーヴァティン】を抜いて構える。

『……兄上、私も日ごろ鍛えた剣の腕を見せる時が来たようですね』

 事態を察したルナが杖を構えたのを見て、慌ててコヨーテが制する。
 あくまでこれは演出の一環だと観客には思ってもらわなければならない。
 ここで羊飼いの娘が戦いに参加するのはあまりにも非現実的だ。

『――貴女は下がっていてください。
 怪我でもされたら私は一生悔やまねばならなくなる』

『は、はい……』

 ルナは頬を赤らめて大人しくコヨーテの後方へと回った。
 完全なアドリブからのあの台詞は、色々と反則級の威力があったようだ。
 状況が状況だけに混乱していた冴えない男はようやく事態を察したらしく、自らの得物を高々と掲げた。

『わーれこそはァー帝国騎士団にその人ありと謳われたーァ!』

「(ちょっとリーダー! あんた何やってんのよ!)」

「(いいじゃん! ちょっとやってみたかったんだって!)」

 冴えない男と盗賊風の女が言い合いを始めてしまった。
 彼らの仲間も『こんな時に何やってるんだ』と言いたげな疲れた表情をしている。
 それを横目に、冷静にバリーは言葉を紡ぐ。

「《眠りをもたらす白雲よ、抱いて沈め微睡まどろみの底に》……」

「はっ。こ、この詠唱は……!」

 魔術師風の女が気づいたが、すでに遅い。
 というより、基本的に魔術の発動までの時間にはそう個人差がない。
 相手が何を唱えているかに気づいた時点で、かつそれがこちらの行動を封じるものだった場合、抵抗に成功する他に回避する術がないのだ。

「……《眠れ》」

 バリーが【眠りの雲】の詠唱を完成させた。
 事前に気づいて精神を集中させた魔術師風の女以外の、全員が強烈な眠気に襲われる。

「ええー、ちょっ、マジかよぉぉぉぉむにゃむにゃ……」

「ちいぃっ!」

 盗賊風の女は片手で口元を抑えて冴えない男の襟を引っ張って軽いステップで後退する。
 ――が、

「ちょっとだけ我慢しなさいね」

 後退した先には、速報からのミリアの強烈な蹴りが待っていた。

「がっ!?」

 両手が塞がっていた盗賊風の女はまともに防御できず、一撃で舞台袖まで蹴り飛ばされる。
 ミリアはバリーが詠唱を完了し、【眠りの雲】の術式を展開した場所から、相手がどう動くかを予想して先回りしていたのだ。
 冴えない男は盗賊風の女が蹴っ飛ばされた為、床にしこたま頭をぶつけた。
 
「うげっ! ……ちくしょう、先手を取られちま――ぎゃん!」

 頭を擦りながら立ち上がろうとしていた男に、何か大きなものがぶつかった。
 見ると、それは戦士風の男だった。
 頑丈さを売りとする彼がこうも易々と昏倒している事実は、期待が裏返った衝撃と共に冴えない男の鼓動を跳ね上がらせる。

 驚愕に目を見開いた冴えない男は呆然と視線を上げる。
 その先には長剣を軽々と振り回し、構えなおすコヨーテの姿があった。
 戦士風の男が殴り飛ばされたのだと理解するまで数秒の時間を要し、力自慢の彼の一撃をコヨーテが片手で受け止めたと理解するのに、更に数秒の時間を要した。

「う、ううっ!?」

 左右を見渡すと惨澹たる光景が広がっていた。
 僧侶風の女はミリアの回し蹴りを頬に喰らって弾き飛ばされ、魔術師風の女はバリーの唱えた【魔法の矢】を受けて倒れた。
 そして最後に、

「ひいっ!」

「大丈夫だ、暴れないなら痛くないさ。

 残った冴えない男はコヨーテの【鬼手捕縛】によって掴まれ、そのまま舞台袖まで放られた。



『……邪魔が入りましたが、ダンスの続きを踊ってくれますか?』

『は、はい、王子様』

『二人は手を取り、曲に合わせて踊り出しました。
 互いの瞳は互いのみを見つめ、もはや他の何ものも映しません』

『ふふっ。周りの娘たちの視線が痛いわ。嫉妬されているみたい』

『そうかもしれない。今日、ダンスを申し込んだのは貴女が初めてだから』

『まあ。どの娘も王子様と踊りたかったと思いますわ。
 いったいどうして?』

『誘う気になれなかったんだ。
 皆、私の向こうに王妃の座を見ていたから』

『私は、違うと仰いますのね。どうして分かりますの?』

『分かるさ。君はそんなものを見ていない。
 君の瞳に映っているのは乱れ咲く花々、草原を渡る風、燃えるような夕焼けだ。

 こんなに美しいものを、他に私は知らない』

 ふわり、と笑ってみせる<弟王子コヨーテ>に、演技でなく<シンディーリアルナ>は顔を赤くした。
 リハーサルの時もそうだったが、コヨーテの演じる本気の『王子様』は女性にとって破壊力抜群なのだ。
 観客席にも色めき立った様子の女性がちらほら見られる。

 ここで、照明担当の女の子が鐘を鳴らす。

『い、いけない、もうこんな時間。早く帰らなくては。明日も羊の世話がありますの』

『時刻はもう夜半を過ぎていました。
 シンディーリアはひらりと身を翻し、広間を駆け出していきます』

『ああ、だめだ、待ってくれ!』

 <弟王子コヨーテ>の声にも耳を貸さず、<シンディーリアルナ>は舞台袖へと走る。
 わざとつまづく演技を入れ、靴だけを置き去りにした。
 後にルナが語るには、この演技が一番難易度が高かったらしい。

『シンディーリアは階段の途中でつまづいて、靴を脱ぎ落としてしまいました。
 けれど追いかけてくる王子を見て、靴を取りに戻るのを諦めます。

 シンディーリアも、すでに王子に心惹かれていました。
 だからこそ想いを断ち切るように、背中を見せて、走り去ったのです』

 一度舞台が暗転し、再びバリーを照明が照らす。

『そして、舞踏会の夜から三日が過ぎました』

 舞台の上では<シンディーリアルナ>と<シンディーリアの姉ミリア>が椅子に腰掛けている。
 照明担当の女の子が小道具の戸板をノックする。

『あら、誰かしら。シンディー、悪いけれど見てきてくれる?』

『ええ、姉さん。

 どちらさま? ……まあ!』

『立っていたのは、双子の王子でした。
 夢かと目をこするシンディーリアですが、どちらも本物です。
 そして、兄王子の手にはガラスで出来た美しい靴が。
 弟王子の手には舞踏会の夜に落としてしまったぼろぼろの靴が、それぞれ掲げてありました』

 照明が、<弟王子コヨーテ>と<兄王子レンツォ>を照らす。
 同時に二人の王子は跪いた。

『美しい私の姫君。どうか一緒に城へおいでください。私の妻として。
 このとおり、捧げ物も用意しております。
 貴女の足に合わせて作らせた、特注のガラスの靴です。美しいでしょう。

 もちろん城に来れば、もっともっと多くのものが貴女の物になりましょう。
 どうか、妻として、私と共に』

 <シンディーリアルナ>は黙ったまま、じっと<弟王子コヨーテ>を見つめる。
 <弟王子コヨーテ>も面を上げて、<シンディーリアルナ>を見つめている。

『それで、あなた様は何の為に来られたのです?』

『私は――これを貴女にお返しに来たのです』

 <弟王子コヨーテ>が差し出したのは<シンディーリアルナ>が舞踏会の夜に置き去りにした靴だった。
 <兄王子レンツォ>の持ってきたガラスの靴と比べると天地の差があるぼろぼろの靴だ。

『動きやすそうな良い靴だ。
 片方だけ失くされて、さぞお困りだろうと。
 でも――』

 ガラスの靴へと視線を移し、

『貴女がガラスの靴をお選びになるのなら、これはもう必要ないものでしょう。
 その時は、このまま持ち帰る事をどうかお許しください。
 叶わなかった恋の、せめてもの思い出としたいのです』

『――いいえ。持ち帰られては困ります。
 私は羊飼いの娘。今もこれからも。
 その靴でないと草原が駆けづらくって、困っていたところでしたの』

『……ではっ!』

 照明は、<語り手バリー>のみを照らした。

『シンディーリアはぼろぼろの靴を選びました。
 弟王子は感極まってシンディーリアを抱き締め、シンディーリアも黙って目を閉じ、その愛に応えました。

 月日は過ぎ……』

 再び、時間の経過を表す暗闇を経て、<語り手バリー>が照らされる。

『草原には、大人になってなお美しいシンディーリア。
 その傍らで優しい笑顔を浮かべる弟王子――そして、二人の子供たちがいました。

 一家は、羊に囲まれて、いつまでも幸せに暮らしたと……そう、語られています』

 <語り手バリー>は持っていた本を閉じて立ち上がる。
 そして深々と一礼し、演劇の終了を告げた。

 次の瞬間、割れんばかりの歓声と拍手が『カンタペルメ』の大劇場に響いた。

「――すごいわ! 大歓声よ!」

 舞台袖で眺めていた座長も興奮を抑えきれない様子だった。
 何故か冒険者の冴えない男がぼろぼろと涙を零しながら、

「くそっ、悔しいが超良かったぜ! シンディーちゃん俺だー! 結婚してくれー!!」

 とシャウトしていた。
 次の瞬間には盗賊風の女に強烈なツッコミを入れられていたが、意外と真面目に劇に見入っていたのだろうか。

 観客の歓呼と熱気に包まれながら、『シンディーリア』の幕は下りた。



 『劇団カンタペルメ』と『シンディーリア』の評判はあっという間に街中に広まった。
 とりわけ、いずこからか突如現れた無名の役者たちの熱演と、迫力のある剣戟シーンは語り草になったという。

 『劇団カンタペルメ』から離れていった役者たちも劇場に足を運んでいたらしく、コヨーテらの熱演を見て『カンタペルメ』に戻りたいと言って来たらしい。
 座長曰く、コヨーテらの舞台に胸を打たれたとの事だ。

 劇団員が戻ってきても、コヨーテたちが良ければいつでも主演で臨時公演をうってくれるとも言っていた。
 どうも演劇の方面では有名になるのは相当早いらしい。
 とはいえ、別の働き口が見つかったという見方をすれば悪くないのかもしれない。
 冒険者を辞めるつもりはさらさらないが。

 冴えない男らは舞台の間にブチギレた座長に怯えつつ、二度と公演の邪魔をしないと誓いを立てさせられたらしい。
 彼らはどうも金欠を拗らせてこのような怪しげな依頼を受けたらしく、『しばらくはツケで……』という現実的な内輪話を聞いていると、バリーらはどうにも他人事に思えなかったという。
 別れ際に、冴えない男がルナに求婚してきたので盗賊風の女から再びぶん殴られていた。
 あれはあれで仲がいいパーティなのかもしれない。

 ちなみに、彼らに対して怒りをあらわにしたのは座長だけではなかった。
 
「必死に覚えた台詞を一瞬で頭から吹き飛ばされた恨みは忘れませんよ!
 どうにかリカバリーできたから良かったものの……下手すれば大ブーイングでしたよ」

 この日の為に血のにじむような努力を水の泡にされかかったルナはご立腹だった。
 彼女としては非常に綱渡りな演技になっていたらしい。
 観客側はそれすらも『非日常に動揺する娘の演技』だと受け取ったらしく、結果的には評価されたらしいのだが。
 ひょっとすると、座長の言うとおりルナは女優の卵なのかもしれない。

 ちなみに、『で、でもコヨーテのあのアドリブが聞けたので、よしとします』というルナの呟きは、誰の耳に入る事もなく消え去った。



【あとがき】
今回は柚子さんの「劇団カンタペルメ」です。
冒険者たちが演劇に挑戦する、という何とも風変わりなシナリオですね。
PCの個性によって台詞や展開が変化するので、新しいPTを作ったらプレイしたくなる名作です。

ちなみに今回のシナリオは環菜さんのリクエストでした。
約一五ヶ月の時を経て、ようやくリクエストを消化できましたよ……
い、いかがだったでしょうか?(戦々恐々としながら)

今回に限った事ではありませんが、CardWirthの短編シナリオはとにかく文章にしづらいです。
だって短編なのにPCとNPC含めて登場人物が一〇人くらい出るんですぜ?
短編ゆえに各人を緻密に描写する事も出来ず……(無理すると蛇足になりますし)

ぶっちゃけ、今回のシナリオは原作をプレイしてもらった方が億倍楽しいです。
新しい演目も増えた事ですし、未プレイの方はぜひとも。

配役の決定は作者の脳内で適当にやりましたが、リプレイにする際にあれこれ理由をつけました。
特にコヨーテたちの配役の理由が『演技を成功させる』より『不審者を捕らえる』要素が強いのが彼ららしいところです。


☆今回の功労者☆
レンツォ。あとでエールを奢ってあげます。

報酬:700sp

LEVEL UP
バリー→4

銀貨袋の中身→2422sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『劇団カンタペルメ』(柚子様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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この記事へのコメント

お久しぶりです、環菜です。
メインパソコンの故障からようやくカードワースできる環境へ戻ってまいりました!
カンタペルメうれしいです、ルナの最後の一言がかわいいですね。
ついにまにましてしまいます。
次の話…より前に21話の続きかな?どちらにしても楽しみに待っています。
……私もリクエスト、早く消化しないとなぁ(焦)。
いらっしゃいませ、お久しぶりです!
そしてCardWirth環境復活おめでとうございます!

ルナは戦闘面ではコヨーテに、知識面ではバリーに勝てないので活躍させるのが難しいんですよね……
おかげで次回以降に購入するスキルの選択にも頭を悩ませています。うぅ~ん(泣)


環菜さんのリプレイ復活を心待ちにしております。
近頃は暑くなってきましたのでバテないようにお気をつけくださいネ。
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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

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当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

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