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大空に輝く光 常夜の森-RAXMAN- 

 とある地方に不思議な森が存在するのをご存知だろうか。

 その森は草木が生い茂り、足を踏み入れてしまえばそうそう日の光を見る事はない。
 ほんの少しだけ開いた隙間からは細い光の筋がぼんやりと地面を照らすが、まるで常夜の世界のようである。
 温かみを感じない森の中は、常にじっとりとした雰囲気が侵入者を拒んでいる。

 未踏とまでは言わないまでも、この森を通った事がある人間はごくわずかなものだろう。
 そう、


 常夜の森を、ラクスマン・クレヴァーは歩く。
 いつものように裾の長い夜色のローブを目深に被っていて、特徴的な灰色の髪さえも見えない。

 ラクスマン・クレヴァーは吸血鬼である。
 上位の階級である『貴族ノーブル』であるが、未だに『日の下を歩く者デイ・ウォーカー』には至れていない。
 そもそもラクスマンは魔術より武術を重んずるタイプの吸血鬼という事もあるのだが。

 彼のローブは防寒具にしては少し薄くも見えるものの、抜群の遮光性を誇る一品だ。
 時刻は未だ昼過ぎくらいだが、自然のカーテンが日光を殺してくれるのでちょっとした遮光装備でもこの森は出歩ける。

 隣には彼と同じようなローブを被った人影が追従するように歩いている。
 ただそれだけで、その人影が吸血鬼である事は理解できる。

「うだぁーっ!!」

 追従する人影の叫びが、森を揺らした。
 ぎゃあぎゃあと鳴いて飛び立つのが真っ黒な鴉しかいないというのも、この森の不気味さに拍車をかけている。

「……うるさいぞ」

「だってだって! どうしてあっしがラクスマンさんの後任なんスか!?」

「何度言ったら分かる。
 上層部うえの決定だ。文句があるならそっちへ言え。
 大体だエコマ、お前だって馴れ合いは嫌いだから独りが良いと言っていただろう」

「分かってます、分かってますけども!」

 エコマと呼ばれた吸血鬼はぶるぶると震えて怒りをあらわにする。
 その様子を呆れたように眺めるラクスマンは、この後に出てくるであろう言葉を予測してため息をついた。
 こいつの愚痴を聞かされるのも何度目だ?

「あっしだってまだ若くて将来性のある吸血鬼なのに!
 あんな暗くて埃っぽくて娯楽の欠片もなくて年に二桁の来客があったらラッキー、みたいな洞窟になんて行きたくないッスよ!」

 散々な言われようだ。
 ラクスマンは任された支部で来訪者の足音から人となりを予想するという娯楽を考え付いていたが、思い返せばとんでもなく根暗な遊びだと思う。

「仕方があるまい」

 確かにエコマは若く、強い。
 純粋な戦闘力だけを鑑みれば、『組合』でも上位に位置するだろう。
 それでもエコマが正当な評価を得られず、閑職に追いやられる事になったのには理由がある。

 単純に、今の吸血鬼の世界は平和すぎるのだ。
 戦いという舞台に上がれない武芸者など、湿気たたきぎと同じである。
 エコマの存在は、必ずしも『組合』にとって必要ではないのだ。

 逆に『組合』が多少の事では揺らがない、堅固な体制を敷いているという事でもある。
 平和とは、戦いに生きて死ぬ吸血鬼にとっては苦痛でもあるのだ。

「このままじゃ退屈すぎて、うっかり塵に還っちゃうッスよ。
 なんかこう、心躍るような事件でも起きませんかね?」

「事件か。それならとっくに起きているが」

「マジッスか!?」

「そもそもお前、どうして私の後任に選ばれたと思っている。
 私が今回の粛清任務に当たる間、留守を任されたのだと聞かなかったのか?」

「ちっとも聞いてませんよ!
 何スかそれ、事前に聞いてりゃ立候補したのに!!」

「……お前はもう少し情報というものの大切さについて学ぶべきだな」

 やれやれとため息をつきながら、ラクスマンは頭を振った。
 一方のエコマは怒りからか悔しさからか唸り声を上げている。

「エコマ、そんなに退屈か?」

「当たり前ッス。毎日毎日やる事もなく、無駄に日々を過ごすなんて絶対おかしいッス」

「では、『組合』を抜ければいいだろう。
 そうすれば毎日毎時、お前以上の力を持つ吸血鬼に追われるぞ」

 半ば冗談のようにラクスマンは持ちかけた。
 これに対してエコマがどのような反応をするのか、とても楽しみだ。

 エコマは暢気に額に手を当てて唸っている。
 悩んでいるのだろうか、それとも何も考えていないのか。
 やがて顔を上げたエコマは、

「――それも良いッスかねぇ」

 軽い感じで、そう答えた。

 ほう、とラクスマンが息を漏らした瞬間、二人は同時に表情を変えた。
 獲物を狩る獅子の眼だ。

「二人ッスね」

「ああ。何とも珍しい」

 二人が感知したのは、人間の気配だった。
 ラクスマンもエコマも『探索者サーチャー』寄りではないが、この程度の感知は朝飯前である。
 やや右手寄りの前方に、二つの生命の気配を感じる。

 特に脅威はないものとして、ラクスマンは表情を戻す。
 そして、おもむろに切り出した。

「エコマよ、さっきの話の続きだが」

「あい?」

「本気で『組合』を抜けるつもりはあるか?」

「や、やだなぁ。そんな怖い顔しないでくださいよ」

 エコマは苦笑いして手をぱたぱたと振る。
 が、目が笑っていないどころか、さりげなくラクスマンとの距離を開けようとしている。
 この吸血鬼は一言たりとも『冗談ですよ』とは言っておらず、さっきの言葉を訂正してないのだ。

「嘘を吐かないのではなく、のはお前のいいところだ。実に分かりやすい」

「ううっ、誘導尋問なんてズルいッス……」

「阿呆。そんな調子だから重要な仕事が回ってこないのだ」

 嘘を吐けないエコマには機密情報は扱えない。
 何しろ、訊ねられれば知らん振りすら出来ないのだ。
 ここまで極端な不器用っぷりはおそらく生前の出来事が関係しているのだろうが、ラクスマンには聞くつもりはなかった。
 死者にとって生前とは、何よりも不可侵でなくてはならない領域なのだから。

「あのぅ、ラクスマンさん……もしかしてあっしも粛清対象になっちゃいました?」

 おずおずとした様子のエコマの言葉を聞いて、ラクスマンは鼻で笑う。

 『組合』では来る者を拒む事はしないが、去る者は徹底的に追う掟がある。
 というのも、組織を抜けるという行為自体が『組合』の定めたルールに従うつもりがない事を主張しているようなもので、立派な反逆として扱われるのだ。

 しかしラクスマンがあの発言を上層部へ告げ口しても、エコマに追っ手が掛かる事はない。
 ただ単に、『組合』のメンバー全員に反逆の恐れがあると伝えられるだけだ。
 それだけなのだが意外とこれが苦しいもので、以降は必ず無視を決め込まれる。
 どれだけ腰を低く拝み倒そうと、どれだけ居丈高に挑発しようと、他の吸血鬼は永遠にエコマを無視するだろう。
 例え冗談で発言したとしても、行われる事は変わらない。

 つまり、何も出来なくなるのだ。
 会話も戦いも行動の自由も何もかも。
 たいていの吸血鬼はそんな日々に嫌気が差して自ら掟を破って反逆するか、本当に『組合』を抜けるだろう。
 そうしてからようやく追っ手が掛かるのだ。

「私の胸先三寸、といったところだが……どうだかな。
 お前の性格じゃいずれ他の者にも同じように話してしまうだろうよ。
 どのみちお前には粛清の未来しかない」

「そんなぁ。ちょっといいかもって思っただけじゃないッスかぁ」

 言葉こそ後悔している風だが、エコマの表情は明るかった。
 本当に、この吸血鬼は戦いを欲しているのだろう。

「そんなに戦いたいのか?」

「ええ、そりゃあもう」

 エコマの瞳が笑っていた。
 目の前のあなたでも構いませんよ、と言外に語りかけるように。

 ラクスマンはやれやれと頭を振る。
 どうやらとんでもないじゃじゃ馬の手綱を手に取ってしまったらしい。

「――戦わせてやろうか?」

 望むところだ。
 どのみち、ラクスマンの計画には手練の吸血鬼の協力が必要なのだ。
 目的を果たす為に必要ならば、どんな事だってやり遂げてみせる。

「私の言う事を聞くならば、という条件はつけさせてもらうがな。
 そうだな、まずは……」

 くい、と視線を右方に向ける。
 正確にはやや右手寄りの前方に。

「殺して持ってこい」

 『常夜の森』を通った事がある人間が少ないのは、つまりはそういう事だ。


To Be Continued...  Next→
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周摩

Author:周摩
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