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大空に輝く光 闘技都市-COYOTE- 

 年が明けて間もない今日、リューンよりも幾許か厳しい寒風を頬に感じながら、コヨーテは額の汗を拭う。
 上がり過ぎた体温を一定値まで下げようとする生理現象、即ち発汗するまでにかれこれ二刻半も走り回る羽目になってしまった。

 吸血鬼は代謝機能が著しく悪い。
 というのも、そもそも吸血鬼の身体は死んでいる為、呼吸や食事を必要としないのだ。
 必然、発汗も起こらず垢も出ない。

 コヨーテは半吸血鬼である。
 少しばかり人間寄りである為、正常な人間と比べると半分以下であるがきちんと代謝は働いている。
 本格的な修練に向けて身体を温めるのにも、雪の季節である事を差し引いたところで常人の倍以上掛かってしまうのだ。

「おぉいコヨーテ君、身体は温まったかね?」

 背後から、ここ数日で聞き慣れた声がかけられた。

「……ある程度は」

 簡素に答えつつ、コヨーテは振り返る。
 初老に差し掛かったくらいの中年男が外套の裾を靡かせながら近づいてきている。

「そうか、では行こう」

「その前にダーレンさん。とても今更な質問で恐縮だが、オレは何故ここに?」

「ん? 君が言ったんじゃないか『対人剣術を教えてほしい』と」

「確かに言った、けど……リューンの外に出る破目になるとは思わなかった」

 コヨーテのため息は白い靄となって広がってゆく。
 この強引な男が本当にあの引っ込み思案気味なルナの叔父なのかと疑わずにはいられない。

 ダーレン=イクシリオン。
 交易都市リューンが誇る騎士団に属する実戦的な武闘派騎士であり、ルナの叔父でもある。
 聖夜の、吸血鬼によるイクシリオン家襲撃事件の際、彼と彼の姪の命を救った事がきっかけで交流が始まった。
 なお余談ではあるが、彼には聖夜の事件の概要を『パブロという騎士が錯乱してダーレンとルナに暴行を働き、偶然通りかかったコヨーテによって撃退され、いずこかへ消え去った』と伝えている。

 聖夜の戦いでコヨーテが学んだ事は多い。
 生き死にの結果だけ見ればコヨーテは勝ったのだろうが、結局は相手の慢心とそれに付け込んだ奇襲で勝ったに過ぎない。
 油断無しに剣を打ち合った段階では、コヨーテは敗北していたのだ。
 聞けば、パブロという騎士の実力は騎士団の若手の中では上の下程度だったらしい。

 圧倒的に足りない。
 コヨーテが扱う吸血鬼の秘術は、【鬼手捕縛サポート】と【天狼突破きりふだ】のみである。
 どちらも決定力に欠ける、連発できないという弱点を持ち合わせているのだ。
 それらを補うには、地力をつけるしかない。
 つまりは剣術の上達だ。

 その点、ダーレンは『教師役』に適任だった。
 彼は貴重な実戦経験者、という触れ込みで剣術指南役として隣街の騎士団へ合同訓練に駆り出された事が多々あるらしい。
 あのパブロを育てたのも彼だと言う話であり、学べる事は多いはずだ。

 こうしてわざわざリューンを離れ、はるばる闘技都市と名高いヴァンドールの街まで赴いたのも、何か理由があっての事だろう。

「俺もそう時間があるわけじゃないからなぁ。
 残った休暇もそんなに残っていないし、これだけじゃ君が納得できるような指導はできない。
 だったら、少しでも時間を圧縮するしかないだろう」

「……つまり、この街に来た目的は闘技場にあると?」

「ふっふっふ、その通り。
 強くなるのに近道はないと知った風な口を利く者もいるが、俺はそうは思わん。
 素振りを一〇〇〇回した者と実戦を一〇回経験した奴じゃ後者の方がより強くなる。

 要は、消耗する時間をどれだけ大切に出来るか、だよ。
 全ての動作に常に疑問を持ち、その瞬間でのベストの行動を起こせば自ずと無駄のない動きとなる。
 いわゆる『戦いの勘』という奴だが、それを磨くには実戦が一番。
 そして二番は模擬実戦となる闘技場での決闘だ」

 話によればヴァンドール闘技場の決闘はかなり実戦に近いらしい。
 試合に勝てば賞金が出るシステムのお陰で全員が本気の手加減なしで戦い、かつ試合である為(あくまで比較的ではあるが)死者も少ない。
 形式は一対一で、一方が降参もしくは続行不可能と判断された時点で終了となる。

 打たれ強い吸血鬼である自分が参戦するのには少し気が引けるが、あくまで目的は賞金ではないのだ。
 むしろお金を払ってでも試合に臨みたいくらいだった。

(しかし、闘技場か。面倒な事にならないと良いが)

 繰り返すが、コヨーテは半吸血鬼である。
 人間離れした膂力は誤魔化しが効こうが、傷の治癒速度は誤魔化せない。
 ダーレンの話しぶりを聞く限りでは時間いっぱいを使って試合に出続けるのだろう。
 連戦となれば無傷での勝利など望めるはずもない。

(傷ついた片っ端から治っていってちゃ、さすがに怪しまれるよな)

 そもそもこの闘技場の参加費が無料なのは、少なくとも必ず一方は怪我を負うからだ。
 闘技場側が用意した医療施設を使わせる事である程度の銀貨を回収しているはずだ。
 中には自前の術式や道具で傷を治癒してしまう者もいるだろうが、それでも限度はある。

 その点、吸血鬼の治癒は桁外れにコストが安い。
 仮に一〇戦中、三回しか勝つ事が出来ずとも、ろくな消耗もなしでそれなりの銀貨を手に入れられる。
 どうやら荒稼ぎは確定しているようだ。

(そもそも経験を積む事が重要なのであって、勝つ事もそんなに重要じゃないんだろうな)

 そんな事を考えながら、コヨーテは闘技場の門をくぐった。


「――すまなかった!」

 ざわつく観客席の中、ダーレンが頭を下げている。
 彼の正面に立つコヨーテは釈然としない表情を作っていた。

「えっと、つまりどういう事なんだ?」

 コヨーテはついさっき、一戦終えてきたばかりである。
 ひとまず初戦の感想を聞こうとダーレンの元へやってきたらいきなり頭を下げられたのだ。

「つまり……その、君の実力を下に見すぎていたんだ。
 まさか初戦から一撃で勝負を決めるとは思っていなかったんだよ……!」

「その程度、謝る必要もないんじゃないか?」

「いや、非常に言いにくいんだが……」

 歯切れの悪いダーレンの様子に、コヨーテは嫌な予感がした。

「もう教える事は何も無い……」

「何も教えてもらってないんだが?」

「だからごめんって! 怒らないでくれ、すみませんでしたー!」

 今までで一番大きいため息をつくと、コヨーテは肩を落とした。
 こうしていっぱいいっぱいになっている様子が、彼の姪のルナと重なって見えて、どうにも怒る気力もなくなってしまう。
 しかし、よりによってこういうところが似なくてもいいだろう。

「君の実力ならジュニア級を制覇する事は容易いだろうが……」

「ミドル級に参加できるかどうかは別、か」

 初戦の相手がひ弱すぎたのだとしても、どうにもジュニア級にコヨーテより格上が存在する気がしない。
 同格や格下と戦ってもレベルアップには繋がりにくいと考えていたからこそ、この街へ足を運んだはずなのだが何やら本末転倒な展開になっている。

「しかし他にプランを考えている訳でもないし、とりあえず参加の手続きしてくるよ。
 素振りより試合の方がわずかにでも効果が高いのは確かなんだし」

 ばつが悪そうな表情を浮かべつつ、ダーレンは小さく頷いた。
 ここまでルナにそっくりだと、逆に笑えてくる。

(いや笑えないだろ! 下手すれば思い切り時間を無駄にする事になるからな……)

 これから当たる相手が同格以上である事を願うばかりである。
 過去に戦った吸血鬼との戦闘を思い出せるくらいの強敵がいれば、の話であるが。


To Be Continued...  Next→
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周摩

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