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大空に輝く光 錬金工房-LEGIUS- 

 術式の組み立てというのは料理の盛り付けに似ている。
 いい加減なヤツほど仕上がりの見て呉れは大雑把になるものだ。
 雑な料理を見て気分の乗る人間がいるだろうか。
 はっきり否と答えられる自分は、少なくともそこまで無頓着な人間ではないらしい。

(……くっだらねぇ)

 どうかしている、とレギウスは自嘲する。
 今はそんな些細な事に思いを巡らせていられる状況ではない。

 知り合いのツテでこの錬金工房を借りたのは、当然ながら理由がある。
 以前、とある経緯で入手した【隠者の杖】のアップグレードを行う為だ。

「――、――――。――。――――」

 通常よりも仄暗く調整された灯りに照らされる魔道書の字句を読み上げる。
 それはいわゆる呪文の詠唱というヤツで、仕上げのここぞという段階にあった。
 下手をすれば術式は上手く定着せず、媒体とした【隠者の杖】は修復不可能なほどに破壊されてしまう。

 そんな状況でくらだない妄想に思考を奪われるなどあってはならない。

「チッ」

 思わず、レギウスは舌を打った。

「何だ、失敗しちまったのか?」

 背後からそう声をかけたのは、先輩冒険者であるバリーだ。
 後の取引の為に呼んでおいたのだが予想以上に静かに待っていたので、今の今まで存在を忘れていた。
 知的好奇心の強い彼ならば要所要所で気配を見せると思っていたのだが、どうやらマナーについては厳しい方らしい。

 魔術師は術式の見学者がみだりに発声したり行動を起こしたり、いわゆる集中を乱す言動を激しく嫌う。
 魔術の使用には大なり小なりリスクが伴うもので、軽いもので術式の失敗、重いものでは他人を巻き込んでの自爆という形で現れる。
 術式の構築をなるべく単独で行うのはそういった背景が関係しているのだが、さすがにバリーは熟知している。

「この程度の術式で俺が失敗すると思ってんのか?」

「砂粒ほども思わんな」

「ハッ。おら、試してみな」

 レギウスは羊皮紙を作業台に広げ、杖をバリーへと渡した。
 広げた羊皮紙の中身はテスト用にレギウス自身が記した古代語の文章だ。
 すぐさまバリーは杖の先端を羊皮紙に押し当ててコマンドワードを紡ぐ。

「――《解み読け》」

 仄かな魔力の流れが杖から羊皮紙へと移り、朱色の魔力が文字をなぞっていく。

 この【識者の杖】の利点は三つ。
 必要な魔力量が驚くほど少ないという事、わざわざ【解読】の術式を習得する必要がない事、【解読】に加えて【隠者の杖】の術式が同居している事などが上げられる。
 【解読の巻物】と比べると、回数制限がないというのも魅力の一つだろう。

「なるほど、上々だ。だが――」

「心配しなくても【隠者の杖】そっちの方は弄っちゃいねェよ」

「そうじゃない。本当に【理知の剣】と交換でいいのかって聞きたいんだよ」

 レギウスは不敵な笑みを浮かべ、頷く。

「いいんだよ、俺は剣がいい。以前から考えていた戦い方を再現するには【理知の剣】が必要だ」

 理想を求めれば、少なくとも【隠者の杖】よりは【理知の剣】の方が手っ取り早い。
 戦いにおいて無駄というのは切れ味を殺す錆だ。
 完全に落とす事は不可能でも、可能な限り削ぎ落とさなければならない。

「お前の事だ、何か考えがあるんだろうが……
 それじゃあ俺の気が済まん。
 そいつもくれてやるよ、持っていけ」

 バリーは机に置かれたスクロールを指した。
 それは解読術式の解析に使いたいと借りた、【解読の巻物】という道具だ。
 確かに【識者の杖】があれば不要なのだろうが、あのスクロールは今は入手困難な貴重なものである。

「まぁ、いらねェってんなら貰うけどよ」

 しかし解読術式の解析は完了しているのだ。
 あとは理論を組み立て、術式として成立させればこのスクロールはレギウスにとっても不要となる。

(それでも、役に立つか分からねェ術式に脳細胞を費やすのも勿体無ェ話だ。適材適所とはよく言ったモンだぜ)

 そんな事を考えながらレギウスは工房を片付け始めたのだが、

「ししょー! ししょーいないですのー!?」

 工房の入り口の方から、舌足らずな少女の声が聞こえてきた。

「あの声は……! クソッタレ、誰が教えやがったんだ!」

 苦い表情を作りつつ、急いで工房の片付けを進める。
 あの声には心当たりがありすぎた。

 『大いなる日輪亭』の冒険者パーティ『陽光を求める者たち』の魔術師、クロエに違いない。
 弱冠一二歳にして一端に魔術を扱える彼女はこの界隈では才女扱いされているのだが、ある日レギウスが大人気なく術式理論の解れを指摘したところ大泣きされてしまったというエピソードがある。
 それが彼女の中でどう昇華されたのか分からないが、その翌日からレギウスを師匠ししょー扱いして追い掛け回しているのだ。

「逃げ準備しなくてもいいじゃねぇか、相手してやれよ」

「ガキのお守りは一人で間に合ってんだよ!
 ――って、バリー! 離しやがれクソッ!」

 バリーはレギウスの上着の裾をがっしりと掴んで離さない。
 そして不気味な笑みを浮かべ、

「まぁそう言うな。
 クロエが理論の組み立てに失敗しやすい年頃だって分かってんだろ?
 あのままじゃ近くない将来高確率でヤケドする事になるんだ、ちゃんと教えてやれ」

「ふざけんな!
 だったらオマエが教えてやりゃあいいだろうがよ!」

「俺には懐いていないんだ、アイツ」

 そんな問答を繰り返していると、工房の扉がバターン! と開いた。
 ひょっこりと顔を出した、青髪に赤いリボンが特徴的な少女が大きな青い瞳にお星様を輝かせて天使のような笑みを見せる。

「見つけましたのっ、ししょー! 今日組みたてた理論は前ほどあまくありませんのよー!!」

「あ~、いたいた! レギウス見っけ~!」

 どさくさにまぎれる形で、何故かステラも着いてきていた。
 レギウスは、この二人が同時に絡んでくると殊更に疲れる事を知っている。
 足止めしていたバリーもさすがにここまで予想していなかったらしく、そっぽを向いて知らぬふりをしていた。

「――ッバァァァァリィィィィィィィィィィ!!!」

 貸し工房に若い魔術師の怒声が響き渡る。


To Be Continued...  Next→
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