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大空に輝く光 闘技都市-JENE=DOE- 

「が……くっ……!」

 呻いたのは吸血鬼だ。
 顔面に受けた衝撃で二、三歩たたらを踏む。

(でき、た……!?)

 コヨーテがやった事は実にシンプルだ。
 吸血鬼の雨のような刺突に対して『回避』は役に立たない。
 、それだけである。

 吸血鬼の攻撃は苛烈ではあったが正確ではなかった。
 一撃の重さにむらがあった。
 言い換えれば力の入れ方が一定でない事の証明であり、読みきれば確実な隙を見出す事ができると踏んだ。
 傍から見ても理解できないであろう、ほんの一瞬に賭けた。

 最も威力のある刺突を読み、柄頭で細剣を滑らすように軌道を変え、そのまま【レーヴァティン】を振りぬいたのだ。
 それは美しいほど完璧なカウンターだった。
 結果として吸血鬼は顔面を【レーヴァティン】の腹で殴られて呻いている。
 刃を立てなかったのは闘技場のルールに準拠したからでなく、殺意の雨を掻い潜るという無茶に対して払った代償だ。

(……なるほど)

 唐突に、コヨーテは理解する。
 これがダーレンの言っていた『戦いの勘』である事を。
 彼の言っていた言葉は正しかったのだと。

「やるじゃないスか……ちょっと痛かったッスよ」

「オレは規約には詳しくないが、お前の行為は懲罰対象なんじゃないのか?」

「マジメな話、対象外ッス。
 これは模擬戦であって命の奪い合いじゃないッスからね。
 だからね、この試合が終了すればあっしは大人しく引き下がりますよ?」

「明らかに殺意を持って攻撃してきたくせに白々しいな」

「そこらへんはねぇ、いろいろと事情があるんスけどお話しするわけにもいきませんし。
 ひとつだけはっきりさせておくなら――」

 言葉の途中で吸血鬼の身体が揺れる。
 コヨーテはすぐに【レーヴァティン】を盾のように構え、心臓を防御する。

「――あっしはあなたを殺そうとしてますよ。規約なんて関係なしに、ね」

 ギィィィン! という金属音が響き渡る。
 コヨーテの予想通りに細剣の切っ先は心臓めがけて一直線に襲い掛かってきていた。
 防御が間に合わなければ衝撃で心臓が外に飛び出ていただろう。

 受け止めた細剣を手首を捻って逸らし、【レーヴァティン】を吸血鬼に叩き込む。
 細剣を引き戻した吸血鬼はそれを鍔迫り合いの形で受け止めた。

 チェックメイトだ。
 コヨーテはそう確信した。

 あの細剣では折れるのも時間の問題だ。
 吸血鬼が押すにしろ引くにしろ、その隙を突く形で試合を終わらせる一撃を見舞える。
 時間を稼げば武器破壊、そうでなくても一撃をもらう。

 それに加えてコヨーテ自身が驚くほど、【レーヴァティン】がその手に馴染んでいた。
 まるで自らの腕から直接生えているように錯覚するほどの馴染み具合だ。
 これならそのポテンシャルを十二分に発揮できる。

 限りなく詰みの状態だった。
 だが、

「――ひとつ勘違いしてないスか?」

 そのはずなのだが、この吸血鬼は動じない。
 何かを見落としている。

「規約なんて関係ない、と宣言したはずッスけど聞こえてなかったんスか?
 理解できてないならもう一言付け足しておきましょう。

 

「お前……まさか!」

 ざわり、と。
 形容しがたい悪寒がコヨーテの全身を包み込む。
 それは変異の感知だった。

「やめろ! 自分が何をしようとしているのか分かってるのか!?」

「分かってますとも。
 勝つ為に、ほんのちょっとチカラを解放するだけッス。
 なぁに大した事じゃありません、『天狼』一匹分ですよ」

 この吸血鬼は衆人環視の中で、『組合』の秘術たる【天狼突破】を使用するつもりだ。
 とても正気とは思えない。
 確かにそうすればコヨーテの心臓くらい簡単に貫けるだろう。

 しかしその後の混乱と恐怖は、吸血鬼という種の破滅を呼び込む事になりかねない。
 だからこその『組合』なのだが、こいつはそれを軽々とぶち壊そうとしている。

 殺すべきだ。
 コヨーテの中の吸血鬼の血が、そう囁く。
 殺すべきだ。
 コヨーテの中の人間の血が、そう叫ぶ。

 典型的な快楽主義者エピキュリアン
 他者の事など欠片ほども考えちゃいない、こいつの中にある事柄は全て『自分』から始まっている。
 コヨーテとはおよそ相容れないものの考え方だ。

(何か……何かないか、この場を切り抜ける策……!

 こちらの手持ちは【レーヴァティン】ひとつ、使える秘術は【鬼手捕縛】と【天狼突破】のみ。
 身体能力は相手が上、秘術の扱いも相手が上。
 反面、こちらは秘術の使用と相手の殺害が封じられている)

 考えれば考えるほど絶望的な状況だ。
 詰みかけた状況を覆した吸血鬼の一手は、チェス盤をひっくり返すような無作法だった。
 コヨーテにはその無作法を止める術も覆す術もなかった。

「さて、何か言い残す事とかあります?」

「……普通ならこういう時、神に祈ったりするんだろうな。
 あるいは世の理不尽を呪い、神を罵倒するのか?」

 極限まで追い詰められた事で逆に肝が据わったのか、コヨーテは自嘲するように笑み、

「オレは神には祈らない、奇跡やラッキーなんかに頼ったりしない。
 神を罵倒する事もしない、そんな事はもう言い飽きた。

 だから、オレはオレの力でお前を斃す。
 『天狼』を撃ち出すというのなら、オレはそれより早くお前の心臓を貫いてやる」

「――くはっ!」

 再び、吸血鬼は狂った笑い声を上げる。
 狼の被り物の下では、裂けるほど口の端が釣り上がっているのだろう。
 そんな笑い声だった。

「最ッ高スよコヨーテさん。
 こんな興奮、未だかつて味わった事がないくらいッスよ。

 けど、残念ッス。

「な、に!?」

 唐突に、吸血鬼はバックステップで後退する。
 予想外の行動にコヨーテは慌てて追撃を見舞うも、細剣で防御されてしまった。
 そう、防御されてしまったのだ。

「あーれー」

 気の抜けた声と共に、吸血鬼は細剣を放り捨てた。

「何を……している?」

 予想外の連続に、コヨーテから戦いの熱が奪われつつある。
 吸血鬼は放り捨てた細剣を拾おうともせず、両手を挙げている。
 それはまるで『降参』を表すように。

「不本意なんスけど、時間切れッス。
 こうなる可能性はあったらしいんスけど、まさか本当に『属性』の強化が始まっているとは……」

「何の事だ、何を言っている?」

「つまりですね、あっしはこれ以上戦えません。
 

 まぁでも、あんな神サマになんか感謝しなくていいッスよ。
 感謝するなら、自分自身の……えーと、どう表現したらいいのか分かんないッスね。
 まぁ、自分自身とその剣に感謝するといいッスよ」

 それだけ言って、吸血鬼は懐からスクロールを取り出した。
 ボソボソとコマンドワードを唱え、術式が発動する。
 何となく、コヨーテにはそれが攻撃用の術式でないと感じ取れた。

「そういえばまだ自己紹介してなかったッスね。
 あっしはエコマと申します。
 また会いましょう、コヨーテさん。
 次に合う時は決着つけられるといいッスね。

 あ、そうそう。
 たぶんこれからコヨーテさんを殺そうとする吸血鬼は『組合』にはいなくなると思いますよ。
 いろいろ疑問に思うところがあるかもですけど、とりあえずそういう事なんでヨロシク」

 パシュッ! という音と白い光と共に、吸血鬼の姿が消失した。
 恐らくあのスクロールに込められた術式は【帰還の法】だったのだろう。
 脅威が去った事に胸を撫で下ろしつつ、コヨーテは要領を得ない吸血鬼の言葉に眉をしかめた。

 試合が終了した事により、係が賞金の袋を渡してきた。
 それを受け取ったコヨーテの手に、ふと何かがぶつかった。

「雨……?」

 それは水滴だった。
 見上げれば、いつの間にか分厚い雲が空を覆っている。
 嫌な予感がしたコヨーテは、急いで闘技場の屋根の下へと走った。

 まばらに降る雨は次第に勢いを増し、すぐに土砂降りとなった。
 コヨーテは半吸血鬼である。
 水に濡れると著しく体力を消耗してしまう。

(待てよ、まさかこの雨……!?)

 あの吸血鬼は『戦えなくなった』言った。
 退いたのはこの雨を感知したからなのかもしれない。
 吸血鬼は雨のような『水』としか認識できないものに対しては極端に耐性がなく、触れただけで皮膚がぐずぐずに溶けてしまう。
 土砂降りの中に放り込まれた吸血鬼は一瞬で力を奪われ、少しもしない内に完全に溶けきってしまうだろう。
 エコマと名乗る吸血鬼は、それを恐れたのだろうか。

(いやいや、馬鹿かオレは!
 そうじゃないだろう、重要なのはそこじゃない。
 とはどういう事だ!?
 それに『属性』の強化だとか言っていたが、何の事だ!?)

 問いに対する答えはこの場にはない。
 エコマは嵐のように現れ、大量の謎を撒き散らして去ってしまった。
 何も分からないままコヨーテは放り出された。

 形容しがたい不安と嫌な予感に頭痛を起こしながら、ひとまず早く雨が止む事を切に願う。


To Be Continued...  Next→
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周摩

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