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『墓守の苦悩』 

「――オレはカルバチアへ向かう」

 唐突にそう切り出したのはコヨーテだった。
 焦燥と動揺に染まった表情は、いつもの彼らしくない。
 あまりにも唐突な発言に言葉を失った『月歌の紡ぐたち』のメンバーは、そのただならない様子を察して目の色を変えた。

「魔術関連の問題か? リューンの施設じゃ解決できねぇレベルなのかよ」

 カルバチアは魔術師連合の本部が設置され、それゆえに一般的に魔導都市と呼ばれる。
 冒険者がそこへ向かうとすれば特色である魔術関連か、魔導用触媒の採集に利用されるコフィンの森のどちらかだろう。

「いいや。これを見てほしい」

 そう言ってコヨーテが取り出したのは一枚の羊皮紙だった。
 冒険者には良く見慣れた依頼の貼り紙である。

「どれどれー……」

 テーブルに広げられた貼り紙を覗き込んだチコはその文面を読み上げる。

「『冒険者求む! 最近、我が墓地にて起こっている不可解な事件の解明をしてくれる勇敢な冒険者を探しています。依頼をお引き受け下さるお方はカルバチアの市営墓地までお越し下さい。カルバチアの墓守ガルシア』……」

 聞いた限りでは何の変哲もない依頼だ。
 『不可解な事件』というのは確かに引っかかるものがあるが、コヨーテが動揺するような内容でもなさそうである。

「……ガルシア氏の管理する市営墓地には旧い友人が眠っている」

 友人という言葉を口にしたコヨーテの表情が曇る。
 ほんの一瞬の変化だったので、それに気づけたのはルナだけだった。
 『月歌を紡ぐ者たち』のメンバーは依頼の貼り紙を覗き込んでいた最中であり、どうしてルナが気づけたのかは不明である。

「あの娘が今も静かに眠れているのはガルシア氏が管理してくれているからだ。
 恩返しという訳ではないが、彼女が眠っている場所を騒がしくしたままにしたくない」

「なるほど、唐突に何かと思ったら随分とアンタらしい理由じゃない」

「つってもねぇ、肝心の『不可解な事件』ってところに何の情報も書かれてないってのはなぁ……」

「そこは考え方を変えればいいんですよ。
 コヨーテの友人に挨拶しに行くついでだと思えば無駄骨になりません。
 それに……」

「それに?」

「……いえ、何でもありません」

 言葉を濁したルナに他のメンバーは怪訝な表情を見せるも、大した事ではないと判断して深く追求しなかった。
 事実、そう大した事ではない。
 ただ単に『月歌』として依頼を請けないのだとしてもコヨーテ一人だけでもカルバチアへ向かってしまいそうな、そんな予感がしただけだ。



 それから数日後、『月歌を紡ぐ者たち』はカルバチアへと到着した。
 日の高い内に到着した事もあり、すぐさま依頼主であるガルシア氏の住む市営墓地近くの館へと足を進める。
 市営墓地の位置はコヨーテが把握しており迷うような事はなかった。
 とはいえカルバチアの中心部から遠く外れた場所、町外れといっても過言ではないような場所だったので迷う事はなかっただろう。

「ど、どうも。あ、あなた方が私の依頼を請けてきて下さった冒険者の方々ですね?」

 こちらの存在に気づいたのだろう、大柄な男が館の庭から駆け寄ってきてそう言った。
 その体躯といかつい容姿に似合わない気弱な感じの口調からは、疲れのようなものが滲み出ていた。
 恐らく『不可解な事件』によって悩まされているのだろう。

 自らをガルシアと名乗った大柄の男は『早速ですが』と前置きし、概要を話し出す。

「貼り紙にも書いたとおり、最近になって墓地で『不可解な事件』が起こっておりまして……
 あの、ここだけの話にして下さいね……、実はですねぇ、死体が消えるのですよ」

「死体が消える?」

「あ、でも目の前から消える、とかそういうんじゃないんですよ。
 埋葬したはずの死体が次の日には無くなっているんです。
 地面に掘り返したような跡を残して消えているものですから、最初は金持ちの墓から金品を盗み出す墓荒らしの類かと思ったんです。
 しかし、墓荒らしなら金品を一緒に埋葬していないはずの一般人用の区域を荒らす事はないでしょう?
 それにわざわざ死体を隠す理由も分かりません」

 ガルシアは深くため息をつき、

「分かっているのは、死体が消えるのはここ二週間ほど前からです。
 私、こう見えても怖がりでして……、一人では原因の究明も出来ないので冒険者の方に依頼した次第なのです」

「なるほどな……」

 憮然とした表情で、バリーは萎縮したガルシアを眺める。
 もし夜の暗闇でこんな大男に話しかけられたら誰でも肝を冷やすだろうに、と思ったが口には出さない。

 大まかな説明が終わったところで、一向は現場の市営墓地へと足を進めた。
 ガルシアの先導の下、到着した市営墓地はなかなかに立派なものだった。

「この辺が一般市民用の区画でして、あちらの方が……、おや?」

 他の区画を説明しようとしたガルシアの視線が墓地の入り口へと向けられる。
 そこには白地のローブを纏った一団が墓地へと入ってきたところだった。
 どうやら聖北の僧侶たちのようで、場所を鑑みるに葬儀の関係者だろうか。

「デュソー司教様!」

「おやガルシアさん、こちらにいらしたのですか。
 本日の埋葬にやって参ったのですが、館の方にいらっしゃらなかったので……」

 デュソーと呼ばれた聖職者は、聖北教会の司教である事が一目で分かる服装をしていた。
 仕事の話を済ませたガルシアは『月歌を紡ぐ者たち』へ向き直り、

「あ、みなさん。
 紹介いたしますと、こちらは聖北教会の司教をなさっているデュソー様です」

「どうも、デュソーと申します」

「ルナと申します。お目にかかれて光栄です、司教様」

 恭しくルナが挨拶すると、デュソーは笑みを作った。
 外見の通り、気性の穏やかな人間なのだろう。

「司教様、この方々は最近の死体消失事件の捜査をなさって下さる冒険者の方々なんですよ」

「……、そうですか。
 皆様、よろしくお願いいたします。
 それでは私は仕事がありますので、これにて失礼」

 デュソー司教はそそくさと一団の方へ戻っていった。

 それからしばらく一行は墓地の説明を受けた。
 市営墓地では多種多様な人物の死体が貧富の差無く埋葬されるが、金持ち連中はそうした制度を良く思っておらず、金に物を言わせて別の区画を希望する事が多い。
 そうして出来上がったのが一般人用とそれ以外の区画であるが、取り立てて被害の多い区画というものは存在せず、一般人用もそれ以外にもほぼ均等に被害が出ていてどうにも犯人の目的が読めない。

「つーかさぁ、現場くらい綺麗に残しておいてほしいもんだよね。馬鹿にしてんのかな」

「仕方ないですよ、ここはお墓参りに来られる方も多いんですから。
 掘り返された跡を見られたら評判がガタ落ちになりますし、不利益な噂を流される可能性もありますからね」

 そう、掘り返された跡は綺麗さっぱりなくなっていたのだ。
 ルナの言う通りにガルシアが整えたのだろうが、これでは調査のしようがない。
 分かった事といえば、ガルシアがこうして隠しおおせているという事実から、日中には墓荒らしが発生しないという事だけだった。
 結局、手がかりゼロという絶望的な状況で夜を迎える事になる。

 肩を落として墓地を後にしようとする『月歌を紡ぐ者たち』は、一人メンバーが足りない事に気づいた。
 コヨーテだ。
 見回せば、一般人用の区画の隅っこで墓石を見つめる彼の姿があった。

「ドロテアさん……ですか」

「ああ……、彼女の墓まで荒らされていなくて安心した」

 言葉通り、コヨーテは目を細めて息を吐いた。
 心の底からドロテアという少女の安寧を願っていなければ出来ない表情だ。
 自分の知りえないコヨーテの過去に妙な寂しさを感じつつも、ルナは死者へ祈りの言葉を捧げる。
 
(ドロテア。もう少しだけ我慢してくれ。
 オレたちが必ず、ここを再び静かな環境へと戻してみせる)



 今日という日が終わる。
 そんな時分にあって夜空には巨大な満月が煌々と輝いてた。
 月光は市営墓地をあまねく照らし、コヨーテらの視野を広げる手助けとなっている。

 コヨーテらは墓地のすぐ近くに各々息を潜めて待機している。
 六名という人数が隠れられる場所等はそうそうありはせず、二人一組で適当な物陰に隠れていた。


 後方、ガルシアの館と墓地を結ぶ道中の茂み。

「毎回思うんだけどさー、二人組作る時ってこの組み合わせ多くない?」

「(お前なぁ、張り込みの意味分かってんのか? 声は抑えろよ)」

「(むう、これでいい?)」

「(上出来だ。……二人組の理由なんざ簡単だ。目的に沿ってるからに決まってんだろォが)」

 答えを言ったにも関わらず、チコは頭に『?』を飛ばしている。
 どうやらこの完全アウトドア娘、事前の打ち合わせを話半分に聞いていたらしい。

「(お前……レンツォが索敵、速攻の得意なミリアが最前線なのは妥当だって話はしたはずだぜ?)」

「(そだっけ? あー、だから遠距離から狙撃できる私たちが後方で、両方のサポートがしやすいコヨーテとルナが中継なんだね?)」

「(クソ、一度ルナが渋ったから三回目だぞ、この説明!)」

「(そりゃねぇ。ルナにとっちゃあんまりなシチュエーションだもん)」

 やれやれと頭を振ったチコに、今度はバリーが『?』を飛ばす番だった。


 中継地、墓地入り口付近の塀の陰。

「(……張り込みを始めてしばらく経ったが、索敵組からの指示はまだ来ないな。この分だと後方のバリーとチコもうんざりしている頃だろう)」

「(今日は何も起きないのでしょうか?)」

「(どうだろうな。話によれば二週間前から毎日起こっているそうだし、今日だけ何も無いというのは考えにくい)」

「(私たちの存在が察知されたという可能性は?)」

「(だとしたらもっと簡単に解決すると思うぞ。オレたちがここに来ている事を知っているのは依頼人であるガルシアを除けば昼間のデュソー司教と葬儀の為に来ていた聖北教会の一団だけだ。もし何も起こらなければそいつらを問い詰めるだけでいい)」

「(何か起きてもらわないと、また教会の嫌な面を見せてしまうかもしれないという事ですか……)」

「(それはそうとルナ、もうちょっとこっちに寄ってくれ)」

「(えっ、いや、それは)」

「(体が陰から出てしまう……、そもそもどうしてそんなに離れてるんだ。オレ、何かしたか?)」

「(いえ、コヨーテは何も……くぅぅ! おのれミリア、隠れる場所なんてもっと広いところが色々あったでしょうにっ……!!)」

 意味不明なルナの心の叫びに、コヨーテは『?』を飛ばすばかりだった。


 最前線、墓地内の大樹の陰。

「(今頃あの二人、上手くやってんのかしらねぇ)」

「(何の事?)」

「(アンタは知らなくていいわ。何か面倒な事になりそうだし)」

「(……ミリアさん仕事して下さい。無理ならせめて僕の集中乱さないで)」

「(じゃあ真面目に仕事の話を)」

「(だからさぁ……)」

「(この事件に関して、アンタはどう思ってる?)」

「(僕の役割は『目』と『耳』だろ。そういうのはバリーとやってくれ。僕のアタマじゃ一割も役立たないよ)」

「(あら、そんなのただの思考停止よ。バリーだって全知って訳じゃないんだし、私たちだって考えなきゃ。一が無理なら小数点以下でも協力しないと)」

 だったら僕の仕事を小数点以下でも楽にしてくれとレンツォは心の中で叫ぶが、口には出せなかった。
 どうもこのエルフ、暇が高じて話し相手が欲しいらしい。
 無駄話をしながらでも仕事ができると信頼されているのだろうが、どうにも納得のいかないレンツォだった。

「(……金品に興味を示さず、死体だけを消し去る墓荒らし。だったら目的なんかは大体想像できるでしょ)」

「(やっぱこれって死霊術師ネクロマンサーの仕業だと思う?)」

「(たぶんね。にとってどんな利益があるのか、って腑に落ちない点があるんだけど……おっと、お喋りはここまでだよ)」

 レンツォの手が握り締められ、後方にハンドシグナルを送る。



「(異常発生、警戒開始……か)」

 シグナルを察したコヨーテは、同様に後方へとハンドシグナルを送る。

「(動いたんですね)」

「(ああ、すぐにでも動けるように準備しておくんだ)」

 ややあって、再びレンツォからシグナルが発せられた。
 今度は『隠密行動、支援』だ。
 コヨーテは後方へ中継すると、すぐに決めていたルートを通って前線へと向かう。

 その途中から、奇妙な音が耳に入ってきた。
 ドチャ……グチャリ……と、湿った土が動かされるような不快な音が規則正しく聞こえてくる。
 その不快な音は途切れる事無く、しかしひどくゆっくりと続く。

「(……妙だぞ。どうしてこんなにゆっくりなんだ?)」

 墓荒らしにしてはあまりにも悠長な音だった。
 深夜で誰も見ていないはずだとしても、普通ならもう少し急いだ気配があってもいいはずなのに。

 前線に到着すると、レンツォが物陰から指示を出していた。
 事前に打ち合わせたハンドシグナルではない。
 どうにもそれは、『あちらを見ろ』という意味のように見えた。

「(あれは……!?)」

 墓地の片隅、それは昼間に見た教会の一団が死体を埋葬していた場所だったが、そこで何かが動いていた。
 しかし人影は見えない、それにしては土の掘り返される音は続いている。

 その土は、

 あまりにも現実離れした光景に、『月歌』の面々は息を呑んだ。
 まるで水中から酸素を求めてもがくように、地面からいくつかの腕が地上へと生えている。
 その腕が地面を掘り返し、湿った土をそこかしこへ飛ばしているのだ。

 呆然とコヨーテらが見守る中、その不気味な作業は続き、ついにはあちらこちらで土の小山が出来るほどに掘り出されていった。
 土が掘り起こされた場所、本来ならば天に召された者たちの肉体が埋葬されている場所から、人影が現れる。
 『それ』らは緩慢な動作で、幾分震えながらも動き出す。
 その奇妙で不気味な一団はコヨーテらに気づく事無く、全員が一方向を向いて緩やかな行進を開始した。

「(予想通り死霊術ネクロマンシーの類かよ。だが、だったら丁度良い)」

 悪い方の予想が当たった事で舌打ちしたものの、それならそれで策を考え付くのが『月歌』の策士バリーである。
 聖北流儀で清められたはずの死体が何もなしにアンデッドとなる事はまずない。
 それが自然に起こった異変でないのなら、どこかに必ず黒幕が存在する。

「(――奴らの跡を追う。ゾンビ共がこっちに気づいた様子はねぇし、このままお山の大将のところまで案内してもらおうぜ。……だからよォ、お前らちょっと落ち着け。すぐに元凶の元へ連れて行ってやるからよ)」

 軽くため息をついて、バリーは告げる。
 ルナは見るからに激しく、コヨーテは静かながらも確かに、その瞳に怒りの炎を燃やしていた。


 ガルシアの住む館と墓地はカルバチアでも街の外れに位置しており、街をぐるりと囲むように広がるコフィンの森がすぐ近くにある。
 死者の一団の後を追うと、彼らは森の中へ足を進める。
 更に森の奥へとしばらく進むと、一団は洞窟らしきところへと入っていった。

「こりゃまた、いかにもって感じじゃん。死体弄りしててもそう簡単に見つかるような場所じゃないだろうね」

 洞窟の入り口には生い茂った草木が天然のカーテンとなっていて、素直にレンツォは感心した。
 下手に草木を動かしてしまえば、素人はともかくレンツォのような玄人には一瞬で見破られていただろう。

「……っと、お出ましだよ」

 洞窟に近づいた途端、周辺の茂みから小さな何かが飛び出してくる。
 それは人間の手――ただし手首から先は切り落とされており、その血色は青を通り越して腐ったような茶色をしていた。
 これらは死霊術の秘術によって操られる『ゾンビハンド』と呼ばれるものだ。
 丸々一人分の死体よりも低コストかつ低リスクで操る事ができる反面、より簡素な単一の命令でしか動かせないという利便性に欠けたところがある。

 彼ら(?)に与えられた命令は『侵入者に突き刺され』くらいのものだろう。
 足を持たない彼らは跳ぶ事で移動するが、よほど経験の浅いか油断に油断を重ねた冒険者でなければあしらう事は容易い。

「《残虐なる焔王のため息よ、欠片も残さず包み込め》――《囲え!》」

 多数のゾンビハンドを逐一打ち落とすのは面倒だと判断したバリーは【炎網の囲い】で一気に殲滅した。
 ゾンビハンドは特に炎に弱い訳ではないものの、バリーの対処の選択は不正解ではない。
 相手が人間大のゾンビなら不正解極まりない回答なのだが、体積の小さいゾンビハンドなら焼き尽くす事が可能なのだ。
 というのも、ゾンビに痛覚は存在しないので火傷の苦痛は通用せず、下手すれば人や物に炎が燃え移ってしまう危険がある。
 燃え盛るゾンビほど手に負えないものは無い。

「――さてさて、それじゃあクソッタレの死霊術師の面ァ拝みに行こうじゃねぇか」

 腐敗臭に彩られているであろう洞窟へ、それでも迷い無く『月歌』は足を進めた。



 予想通り、洞窟の中は酷い臭いが充満していた。
 洞窟の奥に進むにつれて腐敗臭はその濃度を増していく。
 
「(ストップ。敵じゃないけど気になるものを見つけた)」

 先導するレンツォが見つけたのは天然の洞窟にあるまじき人工物、木製のドアだった。
 しばらく聞き耳を立てて室内の様子を探ると、いつの間に取り出したのか数種類のピックを鍵穴に突っ込む。
 手練の彼にしては珍しく開錠に苦戦しているらしく、やがて首を振って道具をしまった。

「(……こりゃ普通の鍵じゃないね。【魔法の鍵】が使われているのかもしれない)」

 時としてレンツォ以上のマスターキーとなるコヨーテも、隠密行動中ではドアを蹴り破る訳にもいかない。
 ドアを調査したレンツォの言うところによればあの部屋からは腐臭がしなかったらしい。
 開かないものは仕方がないので、ドアは無視して先へと進む。

 洞窟を進む内に、頭がおかしくなるくらいの激臭を放つ一角へと差し掛かった。
 激臭の原因たる死体は所狭しと打ち捨てられ、その数もは生半可なものではない。
 一口に死体といっても死体でいる時間が異なるものが種種様々あり、まだ残った肉から蛆が湧き出ている者もいれば、皮が剥がれてきて赤い何か筋のようなものがはみ出ている者もいる。

 いずれにせよ常人が見たならば吐き気を催さずにはいられない光景だった。
 特に『月歌』は以前にこれと似たような状況を味わった事があるだけに、尚更だ。

 死体の小山の奥に、同じく人工物たるドアが見える。
 この向こうにもここと似たような光景が広がっているのかと思うと辟易する。

「(これもさっきのドアと同じく未知の鍵……だけど無用心だね、開いてるよ)」

 覚悟を決めてドアを開けると、そこには予想とは違う光景が広がっていた。
 そこは明らかに今までの洞窟の様子とは違っている。
 人工的に削り取られた壁面には薬品の詰まった瓶が並んだ棚で埋められている。
 部屋の中央には作業用のデスクがあり、そこに座っていた男がゆっくりとこちらへと向き直った。

「……何者だ貴様ら? まさか、デュソーの奴が?」

 いかにも不健康そうな頬のこけた中年男は、ぼさぼさの黒髪を掻き毟りながら言う。
 死霊術師の口から意外な名前が出てきた事に驚いていると、相手はそれを不識による沈黙と判断したらしい。

「ふん、何も知らん連中が紛れ込んだだけか。
 いずれにせよ、この場所を見られたからには死んでもらう他無い。
 安心して死ぬがいいさ、貴様らの死体はしっかりと活用させてもらうからなぁ!」

 死霊術師が何かを呟くと、背後から呪詛めいた声が聞こえだす。
 洞窟の中で見つけた死体の数は数え切れないほどあった。
 つまり、死霊術の下準備は万全だった。

「ククク、死人どもが仲間を欲しがって呻いておるわ」

 それ故、死霊術師が優越感に浸る理由は良く分かる。
 魔術師の本拠地、即ち工房アトリエは言うなれば要塞なのだから。
 特に死霊術師という一般には受け入れられないような背徳の者は、工房の守りには腕によりをかけて強固にしているはずだ。

 だが、その程度を予測・対処できない『月歌』ではない。
 格上の魔術師に対して敵意を抱くバリーにとって、むしろ対策は当然だ。

「なにっ!?」

 死霊術師は怪訝な声を上げる。
 無理もない、命令を飛ばしたはずの死体がただの一体もここへ入ってこないからだ。

「驚くほどの事じゃないでしょー。ここにおわすはどなたと心得るー」

 狼狽する死霊術師に笑いが堪えられないチコは、思い切り馬鹿にしたように言った。
 『月歌』は死霊術師の工房に細工をした訳ではなく、死体に細工をした訳でもない。
 対策はもっとシンプルなものだ。

「――土は土に、灰は灰に、塵は塵にearth to earth; ashes to ashes, dust to dust

「シスター……、聖北のっ!」

 ルナが捧げているのは【亡者退散】の祈り。
 しかし彼女はその秘蹟に触れた事は一度たりとてない。
 彼女の祈りを届かせる為のサポートには、夜を待つ内にデュソー司教からルナに贈られた【聖印】だ。

 一体のゾンビが呪詛めいた呻き声をあげながら、辛うじて這い寄ってくる。
 ルナはその姿を目を細めて見つめ、そして聖印を振りかざす。

「もう、そのような姿を晒す事はありません。あるべき姿に戻りなさい」

 ざあ、と。
 倒れ付したゾンビは塵芥となって消え去った。
 背後に感じていたゾンビの気配も嘘のようになくなっている。

「くっ、おのれ聖北の豚めが!」

 死霊術師は再び呪文を唱え、さっきよりも多くのゾンビを呼び出すが、彼らの攻撃が届く前に同じように塵芥と化した。
 聖北の【亡者退散】の秘蹟と低級アンデッドを呼び出す死霊術とでは相性が悪すぎる。
 さすがにそれを悟ったのか、死霊術師は自己を曲げてでも通常の魔術へと方向性をシフトする。

 しかし、それでは決定的に遅かった。
 第一波を易々と突破させた時点で死霊術による攻撃は諦めるべきだったのだ。
 そうすれば、こうも余裕を持って『月歌』の狩人に狙いをつけられる事はなかっただろう。

「こちとらさー、さんざん嫌なもの見せられて頭にきてるわけよ」

「……っあ?」

「殺しはしないよ。ちょっと痛いだけだから、我慢してね」

 死霊術師の腿から左右一本ずつ、白い羽のついた棒が生えていた。
 それを認識した瞬間、灼熱が炸裂する。

「ぐ、おおああああああああっ!!」

 死霊術師はデスクに手をつき、載っていた研究資料や薬瓶を撒き散らしつつもどうにか倒れずに踏みとどまる。
 激痛と焦燥により意識が高速で瞬く。
 顔中を脂汗まみれにしながら、死霊術師はぶつぶつとうわごとのように呪文でない言葉を呟き続ける。

「ぐ、くそ、いやだ、させるものか。この、私がっ、こんな奴らにっ!」

「狂った夢想は終わりだ。お前は法の下に裁かれる」

 コヨーテはらしくないほどに冷たい声で告げる。
 死霊術師の行った所業は悪戯程度で済まされる事ではない。
 聖北教会が管理し清めた死体を奪い取り、加えてアンデッドへと変えた死霊術師に死罪は免れないだろう。

「ふ、ふ、へ、ひゃは!
 た、ただで殺されてやるものかっ!
 『死霊魔道師』マハガスの最後にして最高の秘術を特と味わうが良い!!」

 狂ったように笑うと、死霊術師マハガスは机の上にあった薬瓶を一息に飲み干した。
 そして、劇的な変化が始まる。

「ぐ、ぐ……ぐわぁあああああああ!!」

 マハガスの体は生者のそれでなく、死人のように青白く生気の無い色へ染まりきった。
 そして仄かに燐光を発している。
 今の薬は自らをアンデッド化する為の秘薬だったのだろう。

……」 

 到底理解できない死霊術師の考えに呆れ果てたコヨーテはそう呟いた。
 その言葉が聞こえたのかは定かではないが、マハガスは口の端を吊り上げて凄絶な笑みを浮かべる。
 先ほどと同じ呪文を唱え、再び数体のゾンビを呼び起こした。

「これ以上死者を冒涜する事は許しません!」

 いくら死者を呼び出そうとも、【聖印】に秘められた【亡者退散】の秘蹟がある限り魔力の無駄遣いだ。
 そしてマハガス自身がアンデッドと化したという事は、彼も塵芥となって消滅する。
 

「――きゃっ!」

 アンデッドとは思えないほど俊敏な動きでルナに襲い掛かったマハガスは、阻止しようとしたコヨーテの一閃をもろに喰らってしまうも、ルナの手から【聖印】を打ち落とす事に成功していた。
 腐った手で地面からそれを拾い上げると、【聖印】は修復不可能な程に歪んでしまう。

 その光景は、つい最近にも見覚えがあった。
 祝福を施した祭祀者デュソーよりも強力な力を持つ亡者マハガスの前では、聖印は効力を失って腐り果ててしまう。

「……あのおっさん、相当高位のアンデッドに変異したみたいね」

「【亡者退散】が効かねぇって事はよ、あいつ自身が不死者にとって有利な結界じみたモンを張ってんだろうな。面倒な野郎だぜ」

 それでも【聖印】の力は完全に効かなかった訳ではない。
 マハガス以外のゾンビたちにはこの上なく有効だった。
 一瞬でも【聖印】が打ち落とされるのが早かったなら、大量のゾンビと泥仕合を組まれるハメになるところだったのだから。

「……つーかちょっと待って。見てよあいつの腕。さっきコヨーテが斬りつけたところ!」

 マハガスの左腕、正確には肘の辺りがぐちゃぐちゃと融けだしていく。
 液状化した肉の泡がいくつか弾けた時にはもう、裂傷は綺麗に塞がれていた。
 どうやら【再生】の力も持ち合わせているらしい。

「厄介だな」

 単純な感想を呟くバリーにコヨーテは肯定するように頷き、

「だが、厄介程度で収まってくれて何よりだ。
 不死の身体? 驚異的な再生能力? その程度でハシャいでるようじゃ、『最高の秘術』が聞いて呆れるな。
 くだらないプライドを持ち合わせているつもりはないが、それでも癪に障るから言わせてもらおう。
 
 ――?」

 生まれながらにして最強の夜の眷属たる吸血鬼の血を受け継ぐコヨーテは、静かにそう告げた。
 何がどう捻じ曲がってマハガスがこんな歪な存在を羨んだのかは知らない。
 たとえどんな理由があろうとも人間である事を放棄したマハガスを、どうしても許せなかった。

 もはや思考能力が全て失われたのか、マハガスは何も応えない。
 ただ敵意だけを剥き出しにして、『月歌』を迎え撃つ。



 無限の再生能力といのは厄介だ。
 生半可な攻撃ではどうにもならず、高火力の一撃を見舞うにも人間一人を消し去る威力が求められる。
 再生が間に合わないほどの攻撃はそう簡単に用意できるものではない。

 『月歌』で最高火力を生み出せるのはバリーをおいて他にないだろう。
 しかし彼の持つ炎の術式【炎網の囲い】は爆風で肉や骨を吹き飛ばすような一撃の威力に頼ったものではなく、【魔法の矢】ではせいぜい部位破壊が関の山だ。
 そもそも人間大のゾンビに炎の術式は自殺行為であり、手に負えない事を理解しているバリーにとってアンデッドと化したマハガスは厄介程度で収まる相手ではない。

「全く、本当に厄介ね」

 マハガスの左腕を切り飛ばしたミリアは、その腕が瞬く間に生え変わったところを見て、うんざりしたような調子で言った。
 対人用の斬撃では効果が薄い。

「あれだけ啖呵切ったって事は何か策があるんだろ?」

「もちろん。だが、オレが偉そうに言える事じゃないんだがな」

 コヨーテはマハガスの豪腕による攻撃を捌きつつ言った。
 簡単そうに見えるが、一般的な成人男性ならノーバウンドで壁に叩きつけられるくらい威力のある攻撃である。
 【レーヴァティン】の図抜けた耐久力を信頼していなければできない芸当だろう。

「詳しい説明は後回しだ。
 とにかく、シンプルに要求する。
 オレが合図したら全員で奴の両手足を封じてくれ!
 それまでは適当にあしらうだけでいい」

 コヨーテの指示を受けて、マハガスの強力な一撃を受けられないミリアとレンツォは回避に専念し、前線に出られないバリーとチコは腕や足を狙って攻撃を加える。
 どちらにせよ致命的な一撃を与えられない以上、あしらう事しかできないのだが。

「ちっくしょ、切っても切っても生えてくるってどこのヒドラよアンタ!」

「ぼやかないぼやかない。それより合図はまだかよコヨーテ!」

 何度も何度も切り落とされたマハガスの部位がそこら中に散らばり、バリーが焼き焦がした腐肉が酷い臭いを発する。
 チコの放った矢が切り落とされなかった身体に幾つも突き刺さり、まるでハリネズミのような姿になっている。
 一体どれだけの時間が流れたのかも不確かになるくらい、洞窟内は不気味な『死』の臭いで塗りつぶされていた。

「今だ、やってくれ!」

「「「「了解っ!!」」」」

 待ちに待った合図に、四人はそれぞれの双剣で、ナイフで、弓矢で、術式で、マハガスの両手足を封殺した。
 それらを確認するまでもなく、コヨーテは【レーヴァティン】を振るう。
 半吸血鬼の膂力から生み出された斬撃は、肩口から入って腰に抜けていき、魔法と物理の矢に貫かれた腕をも切り裂いてその身体を真っ二つにしてしまった。

「は……、何を!?」

 コヨーテがやった事は、それだけだった。
 一撃で元人間の身体を真っ二つにする剣技は驚嘆に値するが、まさかそれだけが策なのだろうか。
 あの程度の攻撃では、マハガスの再生能力に追いつかないだろう。

 しかし、劇的な変化は起きなかった。
 そう。
 

「何で……!? 再生しない!?」

 【レーヴァティン】に切り裂かれた断面は【再生】の証たる肉の泡はひとつも出来てこず、どす黒い腐肉を見せている。
 思考能力を失ったマハガスは何が起こっているのか理解できず、ただただ天を仰いで呻くだけだった。

 トン、と。
 軽い音と共に【レーヴァティン】の切っ先がマハガスの額を貫く。
 それきり、マハガスは動かなくなった。

 ゾンビは本能のままに動くが、その本能を司るのは脳だ。
 そこを破壊するか命令経路たる頚椎を破壊されてしまえば、いかに不朽の肉体といえども行動する事はできなくなってしまう。

「終わったか……、ったく。
 よく理解できねぇんだが、何がどォなってやがんだ」

「作戦の肝はこれだ」

 コヨーテは【レーヴァティン】をそこらにあったボロ布で丁寧に拭い、剣身を見せる。
 そこには仄かな光が瞬いている。
 どうやらランプの灯りを反射しただけではなさそうだ。
 何だこれはと問う前に、ルナが口を開いた。

「【聖別の法】という、聖北の秘蹟です。
 武器を聖別し、アンデッドやゴーストといった不浄な者を討つ補佐をする為の祈りですね」

「……【再生】の力が血液のように巡ってんなら焼き潰しちまえばいいって事か。
 だがよォ、そんなモンが使えるんなら事前に話しておいてくれよ」

「しっ、仕方がないのです。
 聖句を紡ぐのは難しくないのですが、武器は振り回すものですし上手くタイミングを合わせないと効力が発揮されません。
 コヨーテに手伝ってもらって何度か練習をしましたが、いきなり実戦で必要に迫られるとは思っていなかったんです」

 コヨーテだけが知っていたのはそういう理由だったのだ。
 おそらく彼女がこの秘蹟を修めたのは対吸血鬼用なのだろう。
 そして吸血鬼と戦う運命にあるコヨーテと、まずは歩調を合わせようとしたのだ。

「さて、それじゃとっとと帰ろーよ。もうにおいがキツすぎて耐えらんない」

 チコがブーたれ始めたので、他の面々も入り口へ踵を返す。
 正直、この死臭に満ち溢れた洞窟にはもはや一秒たりとも長居したくない。

「あー……ちょっと待ってみんな。面倒事が残ってるみたいだ」

 疲れた表情のレンツォは地面にしゃがんで一枚の羊皮紙を手に持っていた。
 その羊皮紙は書きかけの手紙のようで、インクが乾くまで放置されていたのだろう。

 手紙の内容は、一般的には脅迫状と呼ばれるものだった。
 送り主に対して、現状の死体の数では満足できない事、更なる死体の提供を求める事、こちらの要求をのめない場合は人質を処分してしまうといった内容が記されている。

「宛名は『聖北教会カルバチア支部デュソー司教』、だってさ」

「……ま、薄々そんな気はしてたがよ」

 死霊術というのは通常の魔術と違い、複雑な儀式か特殊な道具が必要になる。
 聖北が管理する死体にそういった細工ができるのは埋葬の直前、葬儀の最中にしか有り得ない。
 そして直前に渡された【亡者退散】の力を持つ【聖印】。
 どれもこれもが、あまりにも都合がよすぎた。

「たぶん、途中で見つけた開かないドアの部屋に人質が監禁されてるんだろうね」

「で、その鍵は?」

 戦闘の余波でデスクは砕け、棚はバラバラになり、薬瓶が幾つも砕けて、簡単に形容するとぐっちゃぐちゃになった部屋を見て、レンツォはため息をついた。
 ただでさえ滅茶苦茶な室内に加え、今はアンデッドたちの腐肉が散乱している。

「……もうさぁ、何も見なかったって事で帰っちゃおうか」

「ダメに決まってんでしょバーカ」



「エレナっ!」

「お父さんっ!」

 はたして、あの部屋には人質と思われる少女が監禁されていた。
 泣き腫らした目とやつれた頬を見れば、彼女がどれだけの恐怖を抱いたのか窺い知れる。
 教会の奥から出てきたデュソー司教を見た途端、残されたありったけの体力を使って走りよった少女は、父親の胸に顔をうずめて泣いた。

 しばらく親子は泣きながら抱き合った後、ようやく気づいたかの様に『月歌』へと向き直る。

「あなた方は昼間の……、我が子を助けて下さったのですね」

 今夜の経緯を説明すると、デュソー司教は深く頷いた。
 その表情からは覚悟の色が見て取れる。

「そう、ですか。あなた方があの男を……。ならば、私もあなた方に全てを話さなければなりませんね」

 デュソー司教は真相を語りだす。

 事の起こりは二週間前、一通の脅迫状と共に袋詰めにされた粉が届けられた。
 脅迫状にはデュソー司教の一人娘であるエレナを誘拐した事と、無事に返して欲しければ埋葬する死体に同封している袋の粉をかけるようにとの指示が書かれていたらしい。
 コヨーテらは洞窟で見た脅迫状の内容から大体想像は出来ていたが、おおよそその通りだ。

「死霊術で粉……、ってぇとゾンビパウダーか?」

「なにそれ?」

「ゾンビパウダーってのは死霊術師の秘術の結晶だ。
 特殊な儀式によって精製される粉末状の道具で、死体をゾンビとして蘇らせる効果がある。
 そして、ゾンビパウダーの最大の利点は粉の作成者がゾンビたちのマスターとなるってところだ。
 あのマハガスって野郎はそこを突いて、ローリスクで死体を作る方法を実行してたんだろうな」

 胸クソ悪ィ、とバリーは吐き捨てるように言った。

「……その通りです。
 私は、それが何であるか気づいていたにも関わらず……どうする事も出来ぬまま言いなりになってしまったのです」

 デュソー司教はがっくりとうなだれ、

「私は、神に仕える身でありながら本当に何という事をしてしまったのだろうか……、しかし分かってもらいたい!
 私は聖職者である以前に一人の父親なのです。
 この子の母親は、この子を産んですぐに死んでしまってもうおりません。
 今の私たちにとっては、お互いだけが唯一の家族なのです!」

 と、心中を吐露した。
 その言葉に特に衝撃を受けたのはルナだ。
 彼女もまた、エレナと同じように母親を失っているのだから。

「デュソー司教様。
 此度の事件、神はあなたへ試練をお与えになったのでしょう。
 愛する者を人質に取られ、おぞましい黒魔術の片棒を担がされた……
 しかし、あなたは乗り越えたのです」

「……、」

「【聖印】を私に託してくださったではありませんか。
 あの助けがなければ、私たちがこうして無事に戻る事も、もしかしたら死霊術師を倒す事もできなかったかもしれません。
 あなたは一度は脅迫に屈したのでしょうが、それでも最後の最後で邪悪を跳ね除けたのです」
 
 デュソー司教はうなだれたまま、肩を震わせた。
 ややあって顔を上げると、その表情からは幾分か苦いものが失せている気がする。

「あなた方には何とお礼を申し上げたらよいのか……
 もしあなた方がお困りの時は、いつでも訪ねて来てください。
 私に出来る事であれば、何としても協力させていただきます。
 本当に、ありがとうございました」

 頭を下げ続けるデュソー司教を背に、コヨーテらは墓地近くのガルシアの館へと足を進める。
 深夜ではあるが事件の動向が気がかりで寝付きが悪かったらしく、さほど嫌な顔をされずに招かれた。
 ガルシアは何も言わずに報酬を手渡して、デュソー司教と同様に深々と頭を下げた。


「――終わったよ」

 満月の光が降り注ぐ墓石に、コヨーテはポツリと呟いた。
 墓石には『ドロテア』と名が刻まれている。

「去っていった彼らも、今は静かに眠ってる」

 去り際に、バリーの炎の術式で洞窟内の死体を徹底的に焼いた。
 あのままでは野生の動物に食い散らかされる可能性だってある。
 それに元は人間だった者たちの死体を、このまま放っておくのは忍びなかった。

「……また来る」

 そう呟いて、コヨーテは踵を返す。
 昼間よりも墓の数が減った墓地を、月だけが変わらずに照らし続けていた。



【あとがき】
今回のシナリオはGroupAskさんの「墓守の苦悩」です。
これも公式シナリオのひとつなのですが、他のシナリオと違って『敵』がちょっと特殊です。
単純な妖魔退治の枠に収まらないストーリーは整合性・バランスに富む、非常にレベルの高いものだと思います。

流れるように展開する話は製作者として非常に参考になりました。結果は出せていませんけど……(泣)
「聖職者である以前に、一人の父親なのです」はCardWirth史に残る名台詞だと思います。
辛い板挟みを耐え抜いたデュソー司教、お疲れ様でした。

また、今回の依頼で使用した【聖別の法】を購入する為に『休息都市リラクシア』をプレイしました。
冒頭イベントのアレですね、銀貨袋に銀貨四〇〇枚をプラスしています。
どこかで聞いた技能名だと思ったら、アレトゥーザにも同名の秘蹟がありましたね。
なので、アレトゥーザのは『聖海』の、リラクシアのは『聖北』の秘蹟として扱おうかと思っています。

それにしても、前線に出られない魔術師、僧侶のスキルがどんどん充実していくな……戦闘用スキルのないレンツォは不憫な子。

☆今回の功労者☆
ルナ。対アンデッド用の秘蹟の威力はさすがです。

報酬:
1000sp
(『休息都市リラクシア』冒頭イベント +400sp)

購入:
【聖別の法】-1000sp→ルナ
(休息都市リラクシア)

LEVEL UP
コヨーテ、ミリア、レンツォ→4

銀貨袋の中身→2822sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『墓守の苦悩』(GroupAsk様)
『休息都市リラクシア』(CW息抜き企画(仮)様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。

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