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『滅びの呼び声』(1/2) 

 さめざめと降りしきる雨の中、コヨーテは歩く。
 防水仕様の外套のフードを目深に被り、できるだけ雨に触れないようにしながら不快な臭いを発する通りをひたすらに歩く。

 泥水の中に、子供が仰向けに倒れ込んでいる。
 見開かれた両目には今しがた降り始めた雨が注ぎ込んでいる。
 眼窩がんかの器をいっぱいにし、後から後から頬へ零れ落ちていく。
 その様はまるで滂沱の涙を流しているかのようだった。

「……、」

 大股に通り過ぎれば、骸が発していた死臭もすぐに他の雑多なにおいに紛れてしまった。
 むっと香り立つ雨のそれや、吐瀉物の酸っぱいそれに。

 城塞都市ツェナイグ。
 ここにあって死は日常だ。
 もしかすると、冒険者の縄張りよりもずっと。

 南方の村落での依頼を終えた『月歌を紡ぐ者たち』はリューンまでの帰り道の傍ら、商人の護衛を引き受けた。
 目的地である城塞都市ツェナイグに到着したのは夕刻の事である。
 商人と別れ、この街で一晩ゆっくり休養を取ってリューンへ発つ予定になっている。

 昨晩取った宿への帰路を行きながら、コヨーテは道の左右へと視線を滑らせた。
 路端には色々な人間がいる。

 天を仰ぎながら、高く低く唸り声をあげている男。
 虚ろに誘いをかける娼婦。
 ガラス玉のような目で施しを乞う子供たち。

 年寄りはいなかった。
 生きられないのだ、そこまで。

 無感情な瞳で、コヨーテは遠目に見える城塞都市と呼ばれる由縁たる『壁』を見つめた。
 周囲を堅牢な壁に覆われた街、ツェナイグ。
 外周のみならず街の内部にも年輪のように壁が連なっていて、中心へ向かうほど生活水準が高くなる。

 商人やその護衛を務める冒険者は街の中への通行を許可されているが、それでも円環の最も外側にあたる区画だけだ。
 市民権を持たず商人でない者――浮浪者、犯罪者、移民、異教徒――は街中には入れず、壁の外周でゴミと汚泥に塗れながら暮らしている。

 冒険者と彼らとの境界は、限りなく薄いのではないか。
 一歩間違えれば自分も『あちら側』の仲間入りかもしれない。
 コヨーテは半吸血鬼である。
 普通の冒険者と比べても、よっぽどこちらに近しいのではないか。

『せいぜい足掻けよ。僕らみたいになりたくなければね』

 かつて、穢れをよしとせず高貴な魂を守りながら生きた魔族の少年に告げられた言葉だ。
 あの頃から少しは変われたのだろうか、成長したのだろうか。

 そんな栓無き事を考えるのは、この陰鬱な空気にあてられているのだろうか。

 みすぼらしい身なりの女が、コヨーテの靴に取りすがろうとしている。
 その行動がまるで『あちら側』へ引きずり込もうとしている風に見えて、無意味な不安に駆られたコヨーテは足早にその場を後にした。
 ただひたすらに、コヨーテを待っている暖炉の暖かさを思い描きながら歩く。

 この場に長居してはいけない。
 外れる事の少ない彼の直感がそう囁いている。
 しかし立ちふさがるようにコヨーテの前に歩み出た男に、足を止められてしまった。

「よぅあんたよぅ……薬。薬持ってないかい……」

 ボロを纏った男が、焦点の合わない瞳を爛々と輝かせて話しかけてきた。
 足元はおぼつかず、手は震えている。
 言動から、彼が麻薬の類で壊れている事は明らかだった。

「いいや」

 この手の中毒者は何をしでかすか分からない。
 係わり合いにならないのが最善だ。
 脇を通り過ぎようとすると、視界の隅を鈍色の光が走った。

 カツン、という乾いた金属音が響く。
 振り下ろされた短剣を、コヨーテは【レーヴァティン】で易々と受け止めていた。
 それにしても浅い、素人以下の一撃だ。
 受け止めずとも大した傷は負わなかっただろう。

「何の真似だ」

 男を睨めつける。
 見るからに狼狽した男は訳の分からない奇声をあげながら、震える手で短剣を握り締めた。
 先ほどと同じような素人以下の攻撃を、ひたすらに繰り返す。

 短剣を握る手を横合いから掴み、相手の勢いをそのままに受け流す。
 思い切りバランスを崩した男の腹に、鹿皮のブーツの底がめり込んだ。
 男は嘔吐えずき、咳き込んだが胃の中のものを吐き出す事はなかった。
 薬と酒しか入っていないのかもしれない。

 男はそのまま腹を押さえて路端へ倒れ込んだ。
 苦しそうだが死にはしないだろう。
 死を与えた方が男にとって楽だったかもしれないと考えたが、馬鹿馬鹿しいと小さく頭を振った。

「なんとお強い御仁だ。そやつを懲らしめてくださり感謝の念に耐えませぬ」

 雨が更に濃密なにおいを増した。
 コヨーテの目の前に、ひっそりと置物のように佇んでいる者がいる。

 頭からすっぽりと大きめの外套を被っている為、体の線が判然としない。
 わずかに見える顔は成人した男のものだった。
 淀んだ瞳の人間が多いこの場所で、彼の瞳には理性の灯火が見える。

「……今日はよく通せんぼされる日だな」

 コヨーテの皮肉にもまったく動じず、男は言葉を紡ぎ続ける。

「そやつは二晩ほど前、薬が切れた頃からずっとその調子でして、周りの人間に当り散らすので迷惑しておりました。
 私も随分と殴られましたが、これでしばらくはそんな元気もありますまい」

「……、そうか」

 どことなく、コヨーテは違和感を覚えた。
 この街の外周にこれほど饒舌な人間が存在している事実が、虚構のように思えてならない。
 コヨーテの直感は外れる事の方が少ないのだ。
 今日は通せんぼだけでなく、面倒な手合いと関わる日でもあったらしい。

「あぁ、お待ちを。どうか、お礼にこれをお持ち下さい」

 男は羽織の下から何かを取り出し、コヨーテに差し出した。
 どうやら発条ゼンマイ式のオルゴールのようだ。
 細工は細かいが、あちこちが薄汚れ欠けており、古い代物であると察せられる。
 贔屓目に見ても高い価値がつくようには見えなかった。

「冒険者をしていた友に再会した折、貰い受けたものです。
 見ての通りボロで、ねじを巻いても音は鳴りません。

 しかし、わずかにですが魔法に抗する力があるそうで。
 私が持っていても仕方のない代物。
 お役に立てて下さればそれも喜びましょう」

「……オレなんかに渡さず、売って生活の足しにすればいい」

「いずれにせよ商いができる街の中へは入れませんので」

 確かに街の外周にも小さな市はたつ。
 興味本位で覘きに行って後悔した記憶は新しい。
 そこに並ぶものは、たいていが腐りかけのパンやほんのわずかな麦だったのだ。

(食えるものだけが……いや、だけが価値があるという事か)

 男がいっぱいに伸ばした手に、コヨーテは手を差し伸べた。
 オルゴールを受け取る時、男の左手の小指がない事に気づく。
 身体の欠損もここではそう珍しい事ではない。

「では」

 オルゴールを受け取った事を確認すると、男は去って行った。
 わずかもしない内に、その背は街の闇へと消え去った。

 少し雨が強まってきて、コヨーテは慌てて歩を進める。
 しばらく歩くと外周の門扉と気怠そうにしている門衛の姿が見えた。
 一瞥しただけでコヨーテを冒険者と判断したのだろう、通行証の確認もおざなりに中へ通された。

 昼は多くの隊商が積荷を下ろし、露天が立ち並んでいた通りを歩く。
 夜も深い今は野犬がガサガサと残飯を漁るだけで、人の姿はない。

 門から程近い場所に、仲間の待つ宿――『月の背中亭』――に到着した。
 同じ『月』という言葉が入っているから、という雑な理由で選んだ割には文句の言いようがない良い宿だ。
 店先で外套を脱いで雨水を払う。
 その下の服はまったく濡れていない訳ではないが、絞るほどではないだろうと判断し、コヨーテは扉を開けた。

 かららん、という軽いベルの音が鳴り、同時に賑やかな喧騒が耳に入る。
 冒険者や商人の集う宿は盛況だった。
 丁度夕食の頃合を過ぎた頃である。
 酒が酌み交わされ、調子外れの歌が歌われ、品のない笑い声が響いている。

 コヨーテはすぐに仲間たち――主にレンツォ――と他の客が賭博に沸いている卓を見つけた。
 あまり羽目を外さないようにと釘を刺しておいたが、ミリアが口を出さないところを見るとレンツォはそう無茶はしていないらしい。
 他の仲間も賭博に興じている訳ではなく、飲み物片手に物珍しそうに眺めているだけのようだ。

「やってるな」

 手近な椅子を拝借し、仲間たちと同じ卓につく。
 温めた葡萄酒をちびちびと飲んでいたルナが顔を上げ、表情を明るくした。

「おかえりなさい。雨、ひどかったでしょう?」

「本格的になる前に戻れて良かったよ」

「おー、おかえりー。依頼人は無事に旅立った?」

 チコがナッツを口いっぱいに頬張りながら聞いてきた。
 どこか小動物的な印象を受け、ちょっと和む。

「一緒の方向だったら良かったのに、ってずっと嘆いていたな」

「でしょうね。ここで雇いなおした冒険者、言っちゃあ悪いけど使えなさそうだったし」

「剣は新品、鎧も新品、弓も投擲武器もナシときた」

 ミリアの言葉を引き継いで、賭博に勝っているからか余裕の表情のレンツォが言う。
 こうやって笑い話にしているという事は、すでにレンツォの調べで商人たちの道中は問題ないと判断されたからだろう。
 いくら自分たちと関係ないと言っても、他者の不幸を笑うほど落ちぶれたつもりはない。

「ま、とはいえ僕らもリューンに帰りたいし。
 あくまでついでで請け負った護衛に過ぎないしね。
 恩もなければ義理もなく、そこまでしてやる理由もない」

「違いない」

 コヨーテは苦笑いし、卓を辞そうとする。
 酒で頬に朱をのぼらせたレンツォがくるくると銀貨をいじりながら、不平そうに問う。

「え、何? 混ざんないの?」

「ああ、うん。そうだな……なんとなく気分じゃない」

「ちぇ、つまんね。付き合い悪いぞ」

「まぁまぁ」

 チコが宥めにかかったので任せる事にした。
 どうやらレンツォは珍しく酔っているようだ。
 やはり前回の依頼で手に入った機巧の槍が影響しているのだろう。

 あの後、機巧の槍の買い手が見つかり、無事取引が終了した。
 親父の知り合いの好事家に話を通したところ、何と金貨五〇〇枚を越える金額で買い取られたのだ。
 銀貨にして五三七〇枚、端数は小刻みに値上げ交渉した結果と手数料を差し引いた額らしい。

 つまり、浮かれているのだ。
 結成以来、とても裕福とは言えなかった『月歌を紡ぐ者たち』がようやく一山掘り当てたのだから。
 それでも今回のように依頼を請けているのは、所詮お金は天下の回り物だからである。
 事実、早々にチコの弓術指南料とバリーの購入した魔術書によって依頼数回分の銀貨がなくなっている。

 数多の依頼においてレンツォは幾度も神経を尖らせて危険を回避してくれているのだ。
 たまには羽目を外してもらってもいいだろう。

「大丈夫ですか? 気分が悪いとか?」

「あれ、オレってそんなに酒飲んでるイメージあるか?」

「そんなつもりで言った訳ではなくてですね……雨に濡れたみたいだから」

「ちょっと体力奪われただけだよ。
 だからもう休もうかと……、ああ忘れるところだった。
 これ、預かっておいてくれ」

 コヨーテは懐から銀貨袋を取り出してルナに手渡す。
 ここツェナイグまでの商人護衛の報酬だ。

「ところで、バリーは? いないみたいだが」

「あー、上だよ。コヨーテと同じような事言って早々に引っ込んだよ」

「本でも読んでるんじゃないの。まったく本の虫め」

 管を巻くレンツォを適当にあしらい、テーブルのバスケットに積まれた黒パンを一つ手に取る。

「ちゃんと食べないとダメですよ」

「あの外周を歩いたらそんな気は起きなくなるよ」

 適当に言って、二階への階段を昇る。
 騒がしい酒場から遠ざかると、階段の軋む音がいやに耳につく。
 一定のリズムで鳴る階段の悲鳴を無視して、割り当てられた部屋の扉を開けた。



 全員で泊まる部屋だ。
 普段は男女で二部屋取っているのだが、あいにく部屋が空いていなかったらしい。
 決して広くはない部屋だが、居心地は悪くはなかった。

 暖炉の前には、バリーが座り込んで本を読み耽っている。
 黄色い羊皮紙のページを捲る音が時折聞こえてくる。
 あれは先日購入したという魔術書なのだろうか。

「……、」

 盛大にドアが軋んだのでコヨーテに気づかないはずもないのだが、書物に没頭しているバリーは視線も寄こさない。

(バリーみたいなのを書痴ビブリオマニアというんだろうか)

 そんな適当な事を考えながら、視界の隅にたっぷり水の入った水差しを見つけた。
 湿った服を乾かして暖を取りたいところだが、その前に喉が渇いている。

 杯に水を注ぎ、ほんのわずかの紅茶の葉を浸す。
 こうする事で杯の中にあるのは『水』から『物凄く薄い紅茶』へと定義が変わる。

 吸血鬼の血が流れるコヨーテにとって『水』としか認識できないものは身を殺す弱点となる。
 それは雨水や海水も例外でなく、あろう事か飲み水ですら対象となるのだ。

「なぁバリー」

「ん」

「お前も飲む?」

「…………、……ん」

 随分間があった上に生返事だったが、一応バリーの分も注いでやる。
 バリーは好きな事にはとことんのめり込むタイプだ。
 こうなる事も別段珍しくはない。

 薪の爆ぜる音がやたらと目立つ静かな室内に、窓を叩く雨音が割り込んできた。
 どうも雨足が強くなってきたようだ。

(明日は朝一で出立したいんだが、雨は止んでくれるだろうか。
 リューンへなら馬車も出ているだろうが、節約するに越した事はないしな)

「おっと」

 考え事をしながら水を注いでいたら溢れさせてしまうところだった。
 零すまいと極めて慎重に――零したら指先が微細なダメージを受けてしまう上に物凄く情けない気分になる――、瞬きも忘れるように読み耽るバリーの傍らに杯を置く。
 その時、うっかり指先がバリーの肘へ当たった。

「――ッ!!」

 バリーはびくん、と身体を震わせ、弾かれるようにこちらを見上げる。
 彼の集中を乱してしまったのだと思ったコヨーテは詫びようとするが、

「……コヨーテ」

 バリーは明らかに過剰な反応をしている。
 何か異質なものを見るような表情で、本を読んでいた時の姿勢のままこちらを注視している。

「ど、どうした? そんなに怖い顔――」

「脱げ」

「……………………………………は?」

「いいから早く服を脱げっ!」

 まさかそっちの道に目覚めたのかと背筋を凍らせるも、声を荒げるバリーに並々ならぬ何かを感じ取ったコヨーテは、元々火にあてて乾かすつもりだったしまぁいいか、と服を脱ぎ始める。
 それでもちょっと後ずさっていたのは間違いない。

「あ」

 シャツを脱いだ拍子に、浮浪者から貰ったオルゴールが床に零れ落ちた。
 拾おうと手を伸ばすコヨーテに、

「――それに触んな! 離れろ!」

 鞭のような一喝が飛ぶ。
 コヨーテの指先はオルゴールに触れる寸前で止まった。

「は、――え?」

 コヨーテは困惑した。
 バリーの言葉に対して、何故か強く不快な感情を抱いたからだ。

――どうして止める。拾わなければいけないのに。

 感情の出所が分からないまま、コヨーテは立ち尽くした。
 見知らぬ浮浪者から貰ったオルゴールが、そんなに大切だったのか?
 信頼の置ける仲間の忠告よりも大切なものなのか?

 オルゴールから視線を逸らさぬままにバリーは立ち上がり、暖炉の傍に立てかけていた【識者の杖】を手にした。
 杖の先端をオルゴールの傍近くに押し付ける。
 ややあって、唸るような低い声でバリーは告げる。

「――謀られたな」

「……なに?」

 コヨーテの疑問に答えず、油断なくオルゴールを見据えたまま、バリーは呪文を唱えつつゆっくりと杖を滑らせはじめた。
 オルゴールの周囲をくるり、くるりと弧を描くような動きだ。
 見つめている内に、コヨーテにもそれが【破魔の印】と同じ印を描いているのだと分かった。

「――!」

 バリーの唇から最後の一節が投げかけられたとき、オルゴールから強い光が放たれた。
 一瞬、部屋の中が真昼のように明るく照らし出される。

「……、コヨーテ。誰からこれを?」

 バリーは既にこれが誰かから譲渡されたものと察しているようだ。
 月並みな理由で手に入るような代物ではないという事か。

「壁の外周にたむろしている浮浪者からだ。
 チンピラを大人しくさせた礼だと言っていたが……これはマズい奴か?」

「マズいどころかヤバいを通り越してるぜ。持ってて何も感じねぇのか?」

 バリーは心なしか青ざめているようだ。
 彼のこんな表情はいつ以来だろう。

「ちょっとは魔力を感じ取れるかと思っていたが。案外鈍いんだな、お前」

「お前やレギウスに比べれば誰だって不感症だろう……それで、何なんだこれは」

 コヨーテには相変わらず何の変哲もないオルゴールにしか見えない。
 やや古びてはいるが、それだけだ。

「呪いがかかってやがる」

 バリーは眉をひそめ、

「所持してるだけで魔法への抵抗力が下がる、そんなところだろ。
 だが、そっちはどうにか解呪できた」

「……、今度から片時も離れず、どこに行く時も一緒に着いてきてくれ」

「用を足すのも一緒か? 勘弁してくれ」

 肩をすくめるが、顔は笑っていなかった。

「……こいつ、膨大な魔力を放ってやがる。
 途轍もなく禍々しい。
 色で表したら赤だな、血の色みてぇにな」

「まだ何かあるのか?」

「パッと見じゃ分からねぇが……危険な代物には違いねぇよ。
 詳しく調べようにも相応の施設がなくちゃ難しいだろォな」

「そうか……まったく妙なものを押し付けられたものだ。厄日か?」

 何にせよ、とコヨーテは窓を開けて、

「よく分からないが、こいつに付き合う義務はオレにはない。捨てよう」

 吸血鬼の膂力を以って、オルゴールを思い切り外に放り投げる。
 窓を叩いていた雨粒が襲い掛かってきたので、すぐに閉めた。

「よし、と」

 頷いて後ろを振り向くと、愕然とした表情のバリーと目が合う。
 眉をひそめながら、彼はコヨーテの右手を指さした。

「なに……?」

 オルゴールは、右手に握られたままだ。
 確かに窓の外に投げたはず、そのつもりだった。
 だが実際、それはコヨーテの右手に強く掴まれたまま、宙に飛び出す事はなかったのだ。

「……恐らく、コヨーテにはそれを捨てられねぇ。
 置いて遠くに離れる事もできねぇだろォな」

「……【天狼突破】で撃ち出したらどうなると思う?」

「左手も一緒に捨てるのか?」

「冗談だよ」

 言いつつ、薄気味の悪さに背筋が泡立つ。

「恐らく、コヨーテがそいつの『所有者』として認められてんだと思う」

 バリーによると、時折古代遺跡なんかで見つかる魔法の品物の中にも手にした人物を『所有者』として定めるものがあるのだそうだ。
 捨てたり焼いたりする事ができないらしい。

「どうすれば『所有者』でなくなるんだ?」

「まず、そいつを受け取った時の状況を聞かせてくれ。どんな風だった?」

「うん? それは、こう……こんな感じか」

「……なるほど、恐らく『受け取る意思のある他人』に『渡す』事で譲渡できるんだろォな」

「そうは言っても……あぁそうだバリー、貰ってくれないか?」

「冗談やめろよ」

 バリーはため息をつき、

「洒落じゃ済まねぇ問題なんだ。ちょっと真面目に考えようぜ」

「……みんなを呼んでくるよ」

 事の次第を説明した仲間の反応は、それぞれ異なった。

「でろでろでろでーん! コヨーテは のろわれて しまったー!?」

「人助けしておいて騙されるなんて、いかにもアンタらしいというか何というか……」

「こんなの解呪して売ったところで二束三文だよ、報われないなぁ」

「ええっ、大丈夫なんですか? と、取れますよねバリー?」

「……まぁ、なんていうか。本当にごめん」

 ミリアは深くため息をついて、

「仕方ないって事にしといたげる。
 それより、作戦会議もいいけどなるべく早く動いた方がいいんじゃないの?」

「そうだ。悠長に時間を浪費するのは下策だぜ。
 さっさといくつか方針立てて動くぞ」


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周摩

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