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『Criss×Cross(前編)』(1/2) 

「オラオラ姉ちゃんよぅ! ここは俺たち『暁の反乱団』のテリトリーだぜぇ!」

 交易都市リューン、その路地にコヨーテは突っ立っていた。
 野暮用で外に出た帰りなのだが、道のど真ん中で繰り広げられる寸劇のような展開を眺めつつ、様子を見ている。
 つまり、あれをどうにかしない限り通る事ができない。

 そこには金髪のいかにも勝気そうな女性と、柄の悪い典型的なチンピラですといった男三人が言い合いをしていた。
 言い合いというよりはチンピラ側が一方的に捲くし立てている感じである。

「通りたけりゃ通行料を払いな! 有り金全部か、それが嫌なら身体で払ってもらおうかな!?」

 ここまでテンプレート通りのチンピラも珍しい。
 彼らには没個性という言葉は通用しないのだろうか。

「……アンタらバカ? この道は公道よ、不法占拠でブタ箱送りされてもいいの?」

 一方の恐喝を受けているはずの女性は微塵も気後れする事なく言い放つ。
 見た目以上に勝気な性格のようだ。
 その言葉を受けてチンピラたちは更に声を荒げて威嚇しはじめた。

「(まったく、こういうのはエリックの領分だろう)」

 夜な夜なチンピラや暴漢を退治して回って正義の味方を自称する冒険者、それがエリックだ。
 何の因果かコヨーテと同じく『大いなる日輪亭』でパーティリーダーを務める彼にとっては、こういう状況は垂涎モノなのだろうが、コヨーテにとっては面倒だとしか感じられない。
 とは言え、こういう状況を見てみぬ振りできないのはもう数年前から自覚している。
 エリックに対してなかなか行動を慎むよう忠告できないのは、こういう側面がある。

 一応、得物は持ってきている。
 あの手のチンピラは大ぶりのナイフを持つ事が多く、もし手練が混じっていた場合は徒手では何かと辛い。
 数はあちらが三倍だが、こういったチンピラを相手にする時の『正攻法』で対処できそうな範囲だ。

 ため息一つついて、コヨーテは路地の陰から出た。
 いつも通りに石畳にブーツを叩きつけるように歩き、存在を示すように音を立てる。

「遅い! 何をやって――って、あ、あれっ?」

「けっ、女の一人歩きに思わせてちゃっかりボディガードつきかよ!」

「……え、ええ。当たり前じゃない、そんな事も見抜けないなんてやっぱりアンタらバカだわ」

 どうにも変な方向から勘違いされているようだが、訂正するのも面倒だし、コヨーテは無言でチンピラと女性の間に割り込んだ。
 【レーヴァティン】は抜かない、今はその必要がない。
 睨めつけると、チンピラは萎縮したように半身引いた。
 どうも喧嘩の経験も浅そうに見える。

「だ、だが三対一だ! 数の暴力は強いんだぞ! やっちまえー!!」

「一人の戦う理由のある冒険者は千の雑兵に勝るのよ、さぁ行きなさい!」

「初耳だよ……」

 ちょっとテンションが上がりつつある女性の言葉に小声で突っ込みを入れ、コヨーテは地を蹴った。
 狙いは最も大声でがなり立てていたチンピラだ。
 繰り出されたナイフの一撃を小刻みなサイドステップでかわし、伸びきった腕の関節に五割程度の力で肘を叩きつける。

「――がっあああ!」

 手加減したので折れてはいないだろうが、しばらくは痛みでまともに動く事すら難しいだろう。
 チンピラに対する『正攻法』とは出来る限り一撃で勝負を決する事、そしてその様子を他のチンピラに見せ付ける事だ。
 所詮、寄せ集めでしかない路地裏のチンピラは確固たる信念を持ってチンピラしている事は滅多にない。
 自分は痛まず楽がしたいだけの連中に現実を見せ付けてやれば、否応なしに体は強張ってしまう。

 コヨーテの積んだ経験は伊達ではない。
 そんな素人に毛が生えるか生えないか程度のチンピラに後れを取る事は決してない。
 わずか数十秒後には三人のチンピラは全て叩きのめされ、それぞれ腕や腹を押さえて呻いていた。

「く、くそー! 覚えてろよ!」

 お決まりの捨て台詞を吐いて、チンピラたちは逃げ去った。
 ここまで没個性だと却って貴重だな、とどうでもいい事を考えつつ、コヨーテは振り返る。
 遠目で見ている分にはよく分からなかったが、女性はなかなかに整った顔立ちをしていた。
 少なくとも、一目見ただけですぐに忘れる事はないくらいには。

「結構強いのね、見直したわ」

「……君こそ可愛い顔してなかなかキツい事言うじゃないか」

「だって苛立ってたんだもん。約束の時間なのにアイツらちっとも来ないんだもん」

 女性はげしげしと路地の石畳を蹴りつける。
 形の整った眉をしかめて頬を膨らませている様は、どこか子供っぽくも見える。

「おーい、エル――!」

 冒険者風の男二人が息を切らして女性に声をかけてきた。
 これが彼女の言う『アイツら』だろうと判断し、コヨーテは警戒を解く。
 女性を見てみれば、短くため息をついていた。

「やぁっと来たわね……遅い! 今何時だと思ってるの!!」

「無茶言うな! こちとら昨日下水道掃除に駆り出されて身も心もボロボロだったんだぜ!」

「ご、ごめんなさい。俺も朝寝坊しちゃって……」

「どーせ人がいないと思って夜遅くまで酒盛りでもしてたんでしょ、まったく……!」

 ひとしきり言い合いを終えると、エルと呼ばれた女性はコヨーテに向き直り、

「……ごめんなさいね。
 結果的にあなたを利用するような形になっちゃったわ。
 さっきチンピラに絡まれてる時、後ろにいるのはてっきりコイツかと思ったんだもの」

「いてっ、いてぇ! 叩くのやめろ!」

「とにかく、助けてくれてありがと。えーと……」

「『月歌を紡ぐ者たち』のコヨーテだ」

「コヨーテ……ね。私はエル。本当にありがとうね」

 エルはにこやかに手を差し出す。
 いまいち彼女の立場が分からないが、断る理由はない。

「……えーと、エル。そろそろ行かないと時間なくなっちゃうよ」

「え、やだもうこんな時間!? ったく、ホラとっとと行くわよ!」

 ぎゃあぎゃあと叫び、エルは戦士風の男の首根っこを掴んで走り出した。
 戦士風の男の二日酔い発言にも耳を貸さず、そのままずるずると引き摺っていく。
 冒険者風の男はコヨーテに頭を下げると、その後を追っていった。

 一人残されたコヨーテは、ようやく本来の目的を果たした事を思い出し、

「……帰るか」

 短く呟いて、踵を返した。


 しばらくして宿に帰ると、親父から新しい依頼の話を聞かされた。
 どうやらコヨーテ待ちだったらしく詳しい話はこれからのようだが、どうやら護衛の仕事らしい。

「護衛か。何となく、最近多く感じるな」

「以前請けた聖北の史跡局やカンタペルメでの依頼が尾を引いてるんだろう。
 特にあの二つはお前たちの名が広まる要因になったからな」

 護衛は一般的に難易度が高い部類に入る。
 前提として何かしらの危険が存在する為、荒事が発生する可能性が非常に高い。
 そういった場で、護衛対象というお荷物の存在は大きな足枷となってしまう。
 護衛対象へ意識を向けすぎた結果、遥か格下の相手にさえ普段の連携を発揮できずに壊滅したという冒険者は数え切れない。

 そんな護衛の依頼であるが、『月歌を紡ぐ者たち』は過去に何度かこなしている。
 積み重ねた実績が『荒事もこなせて護衛を得意とする』冒険者パーティとして、彼らの名を徐々に広めていた。
 史跡局の依頼では――相手が規格外という事もあったが――護衛対象に大怪我を負わせてしまうという普通はマイナスイメージに繋がるはずの出来事も、ルナの手際の良い治癒の秘蹟によってほぼ全快したという事実がプラスイメージに繋がったらしい。

「(……まぁ、風評を過剰に気にするのも間抜けな話だ)」

 気を持ち直して、コヨーテはいつものテーブルに向かう。
 『月歌を紡ぐ者たち』がいつも使っているそのテーブルに、見知らぬ金髪の男が座っている。
 彼が今回の護衛の依頼を持ってきたエドガーという行商人だそうだ。
 どことなく雰囲気が行商人とはかけ離れている気がするが、そこに突っ込むのは野暮なので黙っておいた。

「アレリウスという街を知っているかな?
 リューンから南東へ一週間程度の位置にある中~大規模な都市だが、そこまでの護衛を依頼したい」

「確定している危険は?」

「道中の街道には山賊が頻繁に出没するらしい。
 それでなくとも途中で山に差し掛かるのだが、そこで獣に襲われないとも限らないからな」

 コヨーテはバリーへ視線を移す。
 意図を汲み取ったバリーは首を横に振った。
 どうやらこれ以上の情報はないらしい。

「無事目的地に着く事ができたら、銀貨一〇〇〇枚を支払おう。
 ちなみに道中の必要経費は全てこちらで持つから安心して欲しい。
 ……最も、道中で贅沢できるような機会はそうないと思うが」

「ふむ、目的地に着くまでで一週間。
 復路は護衛の必要はないんだけど、拘束時間って意味では二週間かぁ。
 ちょっと長いかな」

「申し訳ない」

「あいや、文句じゃなくて純粋な感想だから。
 長いなら長いでどうにか折り合いつけるから大丈夫だよ」

 慌ててレンツォが取り直す。
 こういうところで依頼人に余計な印象を抱かれるのはよくない。

「……アレリウスは布織物の評判がいい街って事で聞いてるんだが、最近になって俺ら冒険者にとってよくない噂を耳にする機会が多い」

「さすがに耳聡いな。
 そう、最近になってアレリウスの領主が冒険者の排斥を始めたんだ。
 アレリウス領内における冒険者への依頼全てと、領内の宿を拠点に活動する事も禁止されてしまった。
 外部の冒険者が一時的に領内に出入りする事は許されているが、行商人の俺からしてみれば困ったものだよ」

「エドガーさんはアレリウスで行商をしているんですか?」

「出身もアレリウスだし、家も代々商人の家系だ。
 もっとも、行商を始めたのは俺の代からだけどな」

 元々その街の住人ならアレリウスの領内でも妙な事にはならないはずだ。
 結局、バリーにとってその一点が最大の問題だったのだろう。
 冒険者排斥のお触れが出ていなければ、拘束時間こそ長いものの経費は全てあちら持ちの銀貨一〇〇〇枚の護衛だ。
 決して割に合わないレベルの仕事ではない。

 バリーの問題なしとの判断からの決定は早かった。
 風評を過剰に気にするのはよくないが、それで仕事に困らなくなるなら片手間程度に考えてやるのも悪くない。



 『月歌を紡ぐ者たち』と依頼主エドガーが宿を出てしばらく経った。
 一気に人数が減り、いつもの騒がしさがなくなるひと時を寂しく感じつつも、親父は夜に向けての準備を黙々とこなす。
 不意に、宿の扉が開かれた。
 備え付けてある古びたベルが濁った音を立て、それを合図に親父は声をかけた。

「いらっしゃい!」

「すみません、ここは冒険者の宿ですよね?」

 開口一番、来客者はそう言った。
 普段であれば何の変哲のない言葉なのだが、親父はどことなく違和感を覚えた。
 それが何なのか分からずモヤモヤするが、今は来客の対応をするべきだと思い直し、

「ええ、そうですよ。依頼ですか?」

「依頼といいますか……
 実はある女性の冒険者を探していましてね、その人に依頼を持ってきているんですよ」

 男は幾つかの特徴を羅列していく。
 しかし親父にはそれらの特徴をもつ冒険者に心当たりはなかった。
 その旨を伝えると、男は見るからに落胆した様子で目を伏せる。

「うちの他にもリューン近郊に冒険者の宿は幾つかあります。
 そちらを訪ねてみたらいかがでしょう」

「そうですね……では、すみませんが他の宿の場所を教えていただけますか?」

「お安い御用です」

 親父は物置からリューンの地図を取ってくると、カウンターに広げた。
 この地図は複数の小さめの羊皮紙を幾つも繋ぎ合わせて作られたものだ。
 こうしておけば改版の際に地図全体を描き直す必要がない。

「ここが『純白の踊り子亭』、こちらが『狼の隠れ家』、ここが『小さき希望亭』、こっちが『星の道標』。
 そしてこちらが『風の旅路亭』、こっちが『くもつ亭』……」

「……、」

「……こちらが『瞬く星屑亭』、こちらが『運命の双六亭』、こちらが『帝國の導き亭』。
 そしてこれが『中天の俄雨亭』、以上ですね」

 半刻に及ぶ宿名の羅列が終わったところで、くたくたになった男は頬を掻きながら口を開く。

「はぁ、ありがとうございます。
 しかしたくさん宿があるんですね……」

「それはもう、交易あるところに冒険者はつきものですからね。
 ……しかし、このリューンにそれなりの実力を持った冒険者はうちの宿を含めて多数あります。
 どうして探し出してまでその冒険者に依頼をしたいと?」

「その方の実力を聞き及んでの事なのですが、お恥ずかしながら名前を忘れてしまいまして……
 では私は紹介していただいた宿を回ってみます。
 どうもありがとうございました」

 男は丁寧に礼を述べると、宿を出て行った。

 それからようやく、親父は違和感の正体を突き止めた。
 あの男は見た目と行動が釣り合っていない。
 これでも冒険者の宿を十数年切り盛りしてきたのだ、人を見る目には自信がある。
 あの男はどうにも人前に出るといった事が似合わないと、そう思えた。

 だからといって、特に何がどうなる訳でもない。
 モヤモヤが晴れてよかった、くらいにしか親父は思わなかった。

 それでも歯車は回る。
 誰が気づかずとも歯車は回る。
 回ってしまう。

 全ての事が思い通りに行く訳じゃない。
 時に思惑は交差し、食い違い、やがて正面切ってぶつかり合う。



 リューンを出発してしばらく経つが、これといって危険らしい危険はない。
 道の端にわずかに残った積雪も馬車の通行の邪魔になるほどではない。
 未だに主要都市に近い事もあるのだろうが、アレリウスに向かう道を選ぶ毎にすれ違う行商人や旅人は減っていった。

「おや」

 しばらく誰ともすれ違わなかったが、アレリウス方面から馬車が近づいてくる。
 エドガーによれば、この道はもうアレリウスか周辺の村々にしか繋がっていないらしい。
 馬車には多くの荷物が積み込まれており、交易をしている商人の一行だろうと思われる。
 御者が一人、商人らしき人間が一人、護衛に当たっていると思われる傭兵が一人の、合計三人で街道を進んできたようだ。

「あれだけの荷物を、あの少人数で進んできたのか?」

「よく道中で山賊に襲われなかったもんだな。もう討伐されちまったってぇ事はねぇだろォし」

 その馬車に積まれている荷物はエドガーのそれよりも遥かに多い。
 護衛の数も大違いなので、彼らよりは山賊に狙われる可能性は低いはずだ。
 それでも何かの足しになるならと、情報を得る為にコヨーテは馬車を操る御者へ声を掛ける。

「リューンから来たんですよね?
 悪い事は言いません、この街道を使うのは止めた方がいいですよ」

「はぁ?」

「私たちはアレリウスから来たんですが、途中の山に山賊が出るんですよ。
 ……私たちは幸いにも襲撃されずに済んだのですが、あなた方が襲われないとは限りませんからね」

「それじゃどうしてこの山賊の出る街道を通ってきたんだ? 他にもルートはあるんだろう?」

 御者は言い淀み、

「……その、山賊が出るって事を知らなかったからですよ」

 振り絞るように言った。
 明らかに様子のおかしい御者は改めて手綱を操り、馬車を進ませる。

「とにかく、この先に進むのは止めた方がいいですよ」

 そう言い残して、逃げるように馬車は去って行った。

「……妙だな」

「あんだけの積荷があって山賊に襲われなかったってだけでも不自然なのに、まるで山賊に遭って来たかのような口ぶりしてたしな」

「山賊には出遭ったけど襲われなかった……なんて、そっちの方が不自然だし有り得ないわね」

 あるいは山賊の気配を感じて逃げてきたのかもしれない。
 しかしあれだけの積荷を載せた馬車に追いつけないほど鈍重な山賊集団があるだろうか。
 常識では計り知れない何かがあるのかもしれない。

「エドガーさん、アレリウスへ行くにはこの街道を通るしかないの?」

「無論他にもルートはあるが、とんでもなく遠回りになってしまうんだ。
 リューンへの往路は遠回りのルートを選んだのだが、予想以上に時間と手間がかかってな。
 だったら多少リスクは増すが護衛を雇ってこのルートを選んだ方がいいと判断したんだ」

「……そもそも今からルートを変えるなんてできる訳がないだろう」

 護衛の仕事というのは依頼主を出来うる限り危険から遠ざける事が第一だ。
 その為なら『山賊の出る街道』というルート自体を変更する事もありえるが、今回のように脅威がハッキリしていない状況に怯えて安全策を取ってしまうのは三流のやる事だ。
 臆病者だと後ろ指を指される事になるし、何より依頼主の信頼を裏切る事になる。

 結局、得た情報はあまり役に立ちそうなものではなかった。
 かもしれない程度だった山賊の襲撃が濃厚であると知れただけでも収穫と捉えるべきか。
 山賊が出没すると聞いている場所からは未だ遠いが、馬車の速度に支障がない程度に警戒を強めて旅を続けた。

 しばらく進むと、小さな村落が見えてくる。
 事前の打ち合わせではあの村で食料等の物資の補給を行ってから、本格的に山賊が出没するとされる山道に臨む事になる。

 村の入り口でこちらの姿を見た子供が、慌てて村の中へ入っていったのが見て取れた。
 何事かと訝しがっていると、わらわらと幾人もの村人が顔を出した。
 その集団の中央に立つ老人はこの村の村長だろうか。

「おお、山賊退治を引き受けてくださった冒険者様ですか!」

「いや、オレたちは行商の護衛でここに立ち寄っただけなんだが……」

「そうですか、確かに到着が早いとは思いましたが……
 早合点してしまって申し訳ない、どうか今の事はお気になさらず旅を続けられますよう」

「むしろ詳しく話を聞かせて欲しい。
 山賊の話なんだろう、この先オレたちには必要な情報だ」

 村長と思われる老人は頷くと、事の始まりから詳しく話してくれた。
 この街道に山賊が住み着いたのは数ヶ月前で、それからは街道もこの村も寂れていく一方だという。
 領主に陳情し続けて数ヶ月経った後、最近になってようやくリューンの冒険者を山賊退治に遣わすと領主からお達しが届いた。
 コヨーテらを間違えたのはそういう経緯があったからだと、老人は語った。

「これってちょっと待ってたら山賊退治の依頼が来たのかな?」

 『大いなる日輪亭』に依頼が来るとは限らねぇだろ、とバリーは呆れたように言う。

「しかし、妙な話だ。
 この街道はリューンとアレリウスを繋ぐ重要な交易拠点のひとつのはず。
 ここが使えないって事はアレリウスの経済において大きな痛手となるはずだぜ。
 住民の陳情もあったってぇのに、どうして領主は数ヶ月も山賊どもを放置してやがった?」

「アレリウスの領主はリューンとの交易を重要視していなかった、とか?」

「それこそ馬鹿馬鹿しい話だ、リューンは西方諸国でも指折りの交易都市なんだぜ。
 こうして都市間を繋ぐ街道が整備されていたって事はお互い行き来が多かったってぇ事だ。
 要するに交易が盛んだったって証拠じゃねぇか。
 それに、領主がわざわざリューンの冒険者を雇うって話も気になるな。
 テメェで領地から追い出しておいて、そんな掌を返すような態度をとるなんざ何か裏がありそォだぜ」

 どうにも単純な山賊騒ぎではなさそうである。
 用心深く情報を聞き出すと、山賊には魔法を使える奴もいたとか、麻痺毒を塗った矢で遠くから射掛ける手口を得意としているといった、目撃情報を得られた。

「レンツォ、解毒剤はどのくらいある?」

「チコが以前持ち帰ってきた秘薬と併せると十分な数はあると思うよ。
 不安だったら補充していく?」

「いや、お前が十分だと判断したのならいい」

 エドガーが食料等の補給を終えた事を確認すると、一行は街道を進む。
 これからが本格的な護衛になるのだ。



 それからしばらくは順調に進んでいった。
 この辺りになると木々が鬱蒼と茂り、険しい道が続いている。
 道中で茂みに隠れた狼の群れを発見したが、バリーの【眠りの雲】で難なく撃退できた。

「ぜぇ、ぜぇ……予想はしていたがかなりきつい道だ……」

「少し休憩しよう。荷馬も参っているみたいだ」

 ここまでは順調に進んできており、多少立ち止まったところで行程に遅れは出ないはずだ。
 荷馬を近くの木に繋ぎ、それぞれ適当に見繕って腰を下ろした。
 ただしレンツォとコヨーテは周囲に異常がないか、軽く見回っている。

「何だこれ、キノコ?」

 レンツォが見つけたのは木の幹に生えているキノコのような何かだ。
 確信できなかったのは、それが今までに見た事のないような特徴的な形をしていたからだ。
 通常のキノコの傘と違い、やけにと曲がりくねっている。

「おー、それって【龍舞茸】じゃん! 珍しいキノコだよ」

「あ、知ってるんだ」

「昔『龍舞団』って有名な傭兵団があったんだが、そいつらは大剣をレイピアのように扱いどんな攻撃をも弾き返す鋼の肉体を持っていたとかなんとか。
 そして、そいつらがこのキノコを食べてたって伝説があるんだ」

「ふーん、それってマジな話?」

「もっとも、このキノコ自体は猛毒があるからうっかり口にしちまったら一巻の終わりだ。
 全身の筋肉が張り裂けて死んじまうらしいぜ」

「うげぇ……、ん?」

 ふと、レンツォの視線が宙を泳いだ。
 そして目つきを変えると、呟くような小声で言う。

「……何かいるね、見張られてる感じだ。複数人いるっぽいし、山賊かも」

「分かった。相手がどういう布陣を展開しているか分からない以上、下手に動けないな」

 コヨーテはすぐさまハンドシグナルで仲間たちに警戒を強めるように指示を出す。
 依頼主であるエドガーに対してはあえて状況を伝えない事にした。
 下手すれば移動しながらの迎撃となる場合も考え、無用な緊張を与えて体力・気力を削るのは得策ではない。
 ミリアには万が一の際にすぐに動けるよう、エドガーから離れない位置に立ってもらった。

 しばらく休憩を取ったが、未だに襲ってくる気配はない。
 レンツォはかもしれないと曖昧な発言をしていたが、行商人の荷馬車を見張るような真似をするのは山賊かそれに類する輩以外に考えにくい。
 気づいていない振りというのも長時間続ければ疲れるもので、あんまりな状況に耐えかねたレンツォがバリーへと視線を移す。
 こちらを見張る気配に届かないくらいの声量で、レンツォは切り出した。

「……どう思う?」

「ここまで徹底して襲って来ねぇってのは不気味だな。
 普通休憩中ってのは真っ先に狙われて然るべきタイミングだろォに」

「もしかして警戒してるって感づかれたのかねぇ」

「それほどに鼻の利くヤツが片田舎で山賊なんかやってる訳ァ……あったか」

「あー、『陽光』のスコットとガイアって元山賊だったっけ。でもあれは特殊すぎる例でしょ」

 『大いなる日輪亭』の専属冒険者のパーティ『陽光を求める者たち』のメンバー、盗賊のスコットと剣士のガイアは元山賊の頭領とその用心棒である。
 双方共に盗賊・剣士としての腕前は一流であり、環境が違えば英雄と称えられてもおかしくない程の実力を持っている。
 だがあれは例外中の例外だろう、とコヨーテが小声で会話に参加する。

「山賊たちが警戒の有無を判断する場合、恐らくエドガーさんの反応を見るはずだ。
 場数を踏んだ冒険者ならさり気無く警戒する事は造作もないが、素人の行商人なら必ずボロが出る。
 それを念頭に置いた上でエドガーさんには例の気配の話をしていないんだがな」

「つまり、相手に気づかれる要素は極力排除してるって訳だよな。
 相手がこちらの警戒に気づいていない事を前提に考えると、可能性は二つだ。

 まず一つ、山賊たちは襲う相手を選んでいる可能性。
 道中に山賊に遭った風な連中とすれ違っただろ、あいつらみてぇに俺たちも襲わないつもりなのかも知れねぇ。

 そしてもう一つ、休憩中よりも安全に確実に俺たちを一網打尽にできる方法を持っている可能性だ。
 分かりやすく言やぁブービートラップの類か、魔術なら【眠りの雲】ってところか」

「未だに監視が続いているところを見ると、後者の方が可能性高そうだね。
 魔術に関しては僕はまるっきり素人だから感知はバリー、あんたに任すよ」

「ま、こっちに関しちゃある程度対策は取れるんだが、いまいち面倒だからよ、いっそ迎え撃つってのもアリだぜ。
 このまま前に進んだところで先手は取られちまう訳だし、何よりこっちの神経に掛かる負担が減るからな」

「しかし無闇に挑発するような真似は避けたいんだがな。
 相手がこちらと事を構えるつもりがなかったら無駄な戦闘になってしまう」

「行商の馬車を長時間監視しておいて『襲うつもりはありませんでした』で済む訳ァねぇだろォが。
 獣じゃねぇとしたら、そいつらは山賊か、山賊くずれのどっちかだ。
 そして山賊か山賊くずれなら討伐されても文句は言えねぇ。
 未知の魔術を警戒してるってのは分かるが、もうちょっと頭ァ冷やして考えろ」

 かつて『月歌を紡ぐ者たち』はが操る傀儡の魔術でしつこく追撃された経験がある。
 それでなくともつい数日前にに正体不明の魔術を放たれてあわや全滅というところまで追い込まれたのだ。
 コヨーテが警戒するのは当然だった。
 以前とは違い、今回は護衛するべき一般人エドガーがいるのだから無理もない。

「魔術師ってのは慎重な奴が多い。
 それというのも大雑把な手法では術式が上手く機能しづらいってのも理由なんだが、最も恐れるのは術式が暴走して術者に跳ね返る事だ。
 そして魔術師同士の戦いの基本は術式に対する『解析』の応酬になる。
 術式の理論や構築を『解析』しちまえば、無力化するどころか第三者が意図的に暴走を誘発させる事だって可能だからだ。
 慎重に組み上げねぇと彼我の力量差を広げちまう要因になり得るからな。

 どこでも扱ってる魔術、【魔法の矢】や【眠りの雲】……どうして誰しもがアレを学ぶか知ってるか?
 あれだけ汎用性に優れた術式を大した魔力変換の手間もなく大多数が扱えるように、かつ解析されてるにも関わらずよっぽどの力量差がなけりゃ無力化も暴走もしないように繊細に調整されてるからだぜ」

 魔術は大前提として魔力を基に構築するものだ。
 一般的に魔力とは個々人でのわずかな差異はあれど、ほぼ同じものとして扱われる。
 例えば湯を沸かす際、水を湛えた鍋とかまどがあれば燃料は薪だろうが布だろうが結果は変わらない。
 『解析』とは湯を沸かす準備には水と鍋と竈が必要であると暴き出す事で、無力化とは竈を壊してしまう事で、意図的な暴走とは鍋の底にこっそりと穴を開ける事だと、余談ついでにバリーは語る。

「自分の力量によっぽど自信がある奴じゃねぇと最初から特殊な術式を使わないもんだ。
 逆に、こっちの力量が自分と同等やそれ以上だと思わせれば、そういう特殊な術式を引っ込める。
 俺と同程度の実力なら【魔法の矢】、【眠りの雲】、【蜘蛛の糸】ってぇところか」

 誰しもが聞き覚えのある術式だ。
 それぞれの術式の数少ない欠点も、スペシャリストであるバリーは完全に、そうでないコヨーテらもある程度は把握している。

 しかし、それでも懸念は残る。
 もし初撃に正体不明の魔術を使われたら力量の差を見せ付けるも何も無い。
 それを問うと、バリーは『問題ねぇ』と口角を上げた。

「幸いにも俺はこういう状況に最適なモノを貰ってんだよな。
 死人みてぇな顔色してるが俺よりも数倍の実力を持つ魔術師からよォ」

To Be Continued...  Next→
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周摩

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