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『泥人形退治』 

 本宅に入ってすぐ、目の前を大きな物体が通り過ぎていった。
 シルエットは人間と同じく、体格も一般的な成人男性とほぼ同じだ。
 その物体は器用にドアノブを回して、部屋の中に入っていった。

「……あれが例の泥人形ゴーレムか」

 コヨーテは油断なく【レーヴァティン】を握り直す。
 彼らはリューンの外れにあるカゼンヒキーの本宅に来ていた。

 今回の依頼人は魔術師パブロン=カゼンヒキー。
 カゼンヒキーは『賢者の塔』を離れて自宅で魔具アーティファクトの研究をしている人物だ。
 いわゆるはぐれ魔術師なのであるが、彼の研究する魔術は特に危険なものはないようだった。

 なのだが、今回冒険者に依頼したのは自作の泥人形の破壊なのだ。
 数日前に、主に実験道具として使う泥人形が謎の暴走をしてしまったとの事だった。
 暴走の原因究明は本人で行うという事で、冒険者には研究所の沈静化のみを依頼してきた。

 実験用に使用されていた泥人形は八体。
 その内の二体は特別な加工を施されており、強度が高めで寝台を投げ飛ばすほどの力を持っているらしい。
 熱や冷気にも体勢を持っているというのだから並の妖魔よりも厄介ではないだろうか。

「……面倒な相手ねぇ」

 泥人形の特性を思い出し、ミリアがため息をついた。

「愚痴っていても仕方ない。ともかく泥人形を追いかけよう」

 コヨーテを先頭に、泥人形が入った部屋へ向かう。
 知能があるかどうかは分からなかったが、鍵は掛けられていないようだ。
 突入前にルナが【聖霊の盾】の祈りを捧げ、奇襲を警戒しつつ油断なくドアを開ける。

 部屋の中では、狂ったように三体の泥人形が家具を壊していた。
 泥人形たちは冒険者の姿を見つけると、飛び跳ねながら襲い掛かってくる。
 コヨーテは【レーヴァティン】を構えて部屋の中央へ位置取った。
 入り口が狭いのでコヨーテが前に出なければ後衛はどうしようもない。

 中央の泥人形の拳を【レーヴァティン】受けたコヨーテはそれを最小限の動作で逸らし、肘を胸部に叩き込む。
 勢い良く跳ね飛ばされた泥人形は寝台を破壊しながら壁に叩きつけられた。
 中央の泥人形に構っている間に左右の泥人形が拳を繰り出す。
 後ろへは退けないコヨーテは、床を蹴って前方に回避する。

「がっ……!」

 だが腕の長い泥人形の大振りの一撃は、コヨーテの背中に叩きつけられた。
 鈍いとはいえ、吸血鬼にも痛覚はある。
 歯を食いしばって、倒れないように踏ん張る。

 もう一体の泥人形はミリアが足止めをしていてくれた為、追撃は免れた。

「《貫き徹す光の鏃、輝きを纏い疾く放たれよ》、――《穿て》!」

 バリーが放った【魔法の矢】は光の尾を引いて、コヨーテを攻撃した泥人形の胸に直撃した。
 あまりの衝撃に泥人形の体中にヒビが入る。
 硬直した隙を見逃さず、コヨーテは泥人形を一刀両断に斬り裂いた。

 ゴーレム等の魔法を加えて作られたものには魔法による攻撃が有効だ。
 それは泥人形も例外ではないらしい。

「――ッ! こいつ結構力あるわねッ!」

 狭い室内でいつもの機動性を活かせないミリアは泥人形の攻撃を受けきれず、弾き飛ばされる。
 サポートに入ろうとしたレンツォは、泥人形の振り向きざまの一撃に吹き飛ばされた。
 ルナが急いでレンツォを後ろへ下げ、【癒身の法】で傷を癒す。

「けどそんなに速くはないね、いい的だよー」

 チコの放った矢は次々と泥人形に突き立っていく。
 元々速射の腕には光る物があったが、【夕立】を習得してからは更に磨きがかかった。
 援護により体勢を立て直したミリアはトドメとばかりに泥人形の首を跳ね飛ばす。

 最初にコヨーテに跳ね飛ばされた一体はしぶとく暴れていたが、やがて【魔法の矢】によって倒された。
 倒した泥人形は全て元の泥に還り、部屋の中には三つの泥の小山が出来上がっている。

「……?」

 コヨーテはその中に、どう形容していいのか分からない何かの『欠片』を見つけた。
 それは今まで見た事の無いもので、次第に溶けてなくなってしまった。
 もしかしたら暴走の原因だったのかもしれないが、消えてしまったものはどうにもならない。

 体勢を整えてから、再び泥人形の探索を開始する。
 少し奥まったところにあるその部屋にはさっき戦ったものと同形の泥人形の他に、全身が黄色っぽい泥人形が居た。

「あれが例の特別な泥人形か」

 黄色の泥人形は特別な加工を施されたほうであろう。
 冒険者の姿を見つけるなり、今までの泥人形と比べ物にならないスピードで接近してくる。
 不意打ちに近い攻撃だったが、レンツォは辛うじて回避する。
 【聖霊の盾】のサポートがなければ直撃していたかもしれない。

「は、速っ! なにこいつ!?」

「落ち着きなさい、そいつは私とバリーで相手するわ! コヨーテとチコでもう1体をお願い!」

 速さに自信のあるミリアが対抗心を燃やして黄色の泥人形の一撃を双剣で受ける。
 黄色の泥人形の攻撃に対して片手一本で受けなかったのは聡明だった。
 防御の上からでも容赦なくミリアの手を痺れさせるパワー。
 どうやら特別な泥人形の力は通常の泥人形と同じかそれ以上らしい。

「このォ!」

 ミリアは牽制も兼ねて一閃を振るうが、黄色の泥人形は狭い部屋でもお構いなしに壁を蹴りつけて立体的に移動し、攻撃を避ける。
 図体は人間と変わらない癖に機動性は人を凌駕している。
 しかし桁外れの機動性という事ならミリアも負けてはいない。
 獅子のように荒々しく、獲物を逃がすまいと黄色の泥人形に飛び掛る。

「――《穿て》!」

 バリーの詠唱と共に【魔法の矢】が黄色の泥人形の胴をえぐる。
 ミリアの渾身の【飛影剣】によって、バランスを崩して隙だらけの黄色の泥人形の千切れかけていた胴体が真っ二つとなった。
 魔力による結合が絶たれたため、元の泥へと返った。
 もう一方の泥人形はコヨーテによってすでに泥の小山と化している。

「結構やるわね、こいつら」

 ミリアは荒くなった呼吸を整えながら愚痴をこぼす。
 魔力による攻撃に対しては弱いものの、精神を持たない泥人形は眠りもしなければ痛覚も存在しない。
 対集団に効果的な【眠りの雲】は通用せず、手数の多さで圧倒するミリアやチコはいつもの調子が出せないままだ。

 戦闘の余波で滅茶苦茶になった部屋の片隅から、レンツォがカゼンヒキーがつけていたと思われる日記帳を発見した。
 ここはカゼンヒキーの自室だったのだろう。
 泥人形を攻略する手口を求めて日記を読んでみたが、得られた情報は少ない。
 元々泥人形は研究の成果ではなく、実験に使われるものなのだから仕方ないのかもしれない。

 小休止を挟み、向かいの部屋を調査する事にした。
 そこはカゼンヒキー独りの住まいにしては大きな食堂であり、二体の泥人形が暴れている。
 場所が場所だけに、数が多いコヨーテらのほうが圧倒的に有利だった。
 連携攻撃を駆使して、特性を持たない泥人形をすぐさま切り伏せた。

「コヨーテ、これ見てみなよ」

 調査に移ったレンツォが、テーブルの下から書物を見つけてきた。
 表紙には『泥人形学書』とあり、どうやら泥人形の作成過程を記したものらしい。
 この書物から得られた情報は大きかったが、同時にため息が出るような内容だった。

 泥人形の作成時に媒体である泥に対して魔法を施す事で、特殊な泥人形の作成ができるようだ。
 そして最後に残った一体、これについては呆れ果てるような製法で作ってある。
 【魔法防御】に【魔法の鎧】といった、リューン賢者の塔が誇る防御及び回避魔法を幾重にも重ねて施されている。
 その強度は黄色の泥人形とは比べ物にならないものらしい。

 更に、暴走についても記してあった。
 『高度で複雑な魔法』に接すると暴走するというのは、その界隈では広く知られている事のようだ。
 つまり、泥人形は何かの魔法で狂わされた可能性がある。
 第三者の仕業である可能性が非常に高く、一行は更に気を引き締めて調査に取り掛かる。

 結局、それ以上の情報は手に入らなかったが、キッチンからは何故か【火晶石】がほぼ新品のまま見つかった。
 勝手に盗るのは憚られたが、万が一を考えて拝借する。
 残りは奥にある比較的立派な扉の部屋、はぐれ魔術師たるカゼンヒキーの自宅になければならない研究室だけだ。
 最後の泥人形もそこにいるのだろう。

「開けるぞ……」

 コヨーテが扉を開いて飛び入り、ミリアがそれに続く。
 研究室と思しきその部屋は壁や床が全て鋼で作られていて、多種多様な薬品の臭いが混じり合って刺激臭が充満している。
 そこには大方の予想通りに黒い泥人形がおり、素早い動きで飛び掛ってきた。

 跳躍と共に振り下ろされた腕の一撃を、コヨーテは転がるようにして回避する。
 そうせねばならないほどの威圧感があの一撃にはあった。
 事実、腕が叩きつけられた鋼の床が減り込んでいる。

 それを目の当たりにしたバリーは急いで詠唱を始めるが、それに呼応するかのように泥人形が襲い掛かってくる。
 『泥人形学書』にもあったが、泥人形は微細な魔力にも反応してその元を手当たり次第に襲う。
 コヨーテの内に秘める魔力よりも大きなそれを感知しての行動だろう。
 させまいと、ミリアの双剣が寸前で泥人形の腕を弾く。

「《穿て》ぇ!」

 どうにか詠唱を終えたバリーは頭部目掛けて【魔法の矢】を放つ。
 泥人形のバランスが大きく傾いた。
 チャンスとばかりに、ミリアが距離を詰める。

 しかし、まるでそれを待っていたかのように泥人形の【平手打ち】がミリアを襲う。
 人間では無理な体勢からの予想外の反撃に、ミリアはモロに喰らってしまった。

「きゃあッ!!」

 双剣での防御も間に合わずに腕で受けたものの、そのまま鋼の壁に叩きつけられる。
 ぶつかった衝撃で肺の中の空気が全て吐き出され、ミリアは激しく咳き込んだ。
 追撃させまいと、泥人形の足にチコの矢が幾本も放たれる。
 バランスを崩させる目的で放ったそれすら泥人形の硬度とパワーの前には役に立たない。

 泥人形は力任せに足を引き抜き、再びバリーへと迫る。
 防御が間に合わないと判断したコヨーテはバリーを蹴り飛ばして攻撃を回避させる。
 あとで謝らねばならない。

「大人しく……しろッ!」

 暴れまくる泥人形の【平手打ち】を避けると同時に、その勢いを利用してコヨーテは泥人形の腕を掴んで投げた。
 薬品棚に突っ込み、木製の棚と数多の薬瓶を破壊してようやく止まる。
 【鬼手捕縛】は攻撃に対するカウンターでこそ真価を発揮する。

「――よくもやってくれたわね!」

 好機を逃さすまいと、ミリアが倒れた泥人形へと駆け寄る。
 壁に叩きつけられたダメージは残っているだろうが、彼女はそれすら無視する。
 コヨーテもまた、ミリアとは逆の方向から距離を詰める。

 しかし倒れたままの状態で、泥人形は体を捻って蹴りを繰り出す。
 低い位置からの攻撃により足払いのような形になったため、二人はやむなく跳ぶ。
 コヨーテは前方へ向かってしまうと接近しすぎるため、その勢いを殺すために後方に。
 ミリアは体の軽さを活かして泥人形を飛び越えるように前方へ跳んだ。

 ミリアは空中で体を捻り、縦に回転を加える。
 左の剣で泥人形の腕を切り裂き、更に遠心力を利用して右手の剣を同じ軌道を通して更に深く切り込む。
 初撃でガードを崩し、脆くなった箇所に更なる一撃を叩き込むこの技は【月描き】という。

 腕を斬り飛ばされた泥人形に、コヨーテの追撃が加えられる。
 ギロチンのように体重を乗せて振り下ろされた【レーヴァティン】の刃は泥人形の首を跳ね飛ばした。
 泥人形の首が天井にぶつかると同時に、胴体も共に泥に戻る。

「――っはあ……、これで全部ね!」

 ミリアが荒い息を吐いて床に座り込んだ。
 まだダメージが尾を引いているのだろう、呼吸の回復が遅い。
 急いでルナが駆け寄ってミリアの傷を癒した。

 仲間の無事に安心したコヨーテは安堵のため息をつく。
 その時、天井に張り付いた泥の塊から何かの『欠片』が落ちてきた。
 さっきコヨーテが見た、泥人形から飛び出したものと同じだった。

「これ、何か分かるか?」

 コヨーテはバリーを見た。
 こういった魔術的なものは博識なバリーなら知っているだろうと踏んでいたのだが、当のバリーは渋い顔をして眉を顰めている。

「何かの生物の欠片か……? 正直、見当がつかん」

「では、カゼンヒキー氏に見せてみましょう。彼の作った泥人形から出てきたものですし」

 ルナの提案でその『欠片』を辛うじて割れずに残っていた空瓶に採取した。



 仮邸宅に着いたコヨーテが結果の報告を行うと、カゼンヒキーはいたく喜んだ様子で、コヨーテらを出迎えた。

「これで夜も安心して眠れますよ……感謝感謝です、誠に感謝しております」

 カゼンヒキーから受け取った袋には確かに事前に提示された額の銀貨が入っていた。
 更に、次回から何かあれば優先的に『大いなる日輪亭』へ依頼を回す事を約束してくれた。
 これは大きな収穫である。
 こういったコネクション作りも冒険者にとって必要な仕事だ。

「……ところでカゼンヒキーさん。これ、何か分かりますか?」

 ルナの手にはさっきの『欠片』の入った瓶がある。
 カゼンヒキーが覗き込んだ瞬間、ぶるりとその『欠片』が動いた。
 その『欠片』はまるで目覚めたように天辺に目玉を生やし、蓋のされていない瓶から飛び跳ねる。
 さっきまでの静かな『欠片』からは想像もできないほど俊敏な動きで、部屋の小さな隙間から出て行ってしまった。

「な、何ですかな? 今のは……?」

「……我々も見た事がありません。泥人形の内部から現れたものなのですが」

「随分と気味の悪い形をしておりましたな、緑色で目玉のようなものが……」

 そこで、はっとしたように言葉を切った。
 カゼンヒキーは口に手を宛て、ぴくぴくと眉を動かして、何かを考えているらしい。
 どうも心当たりがありそうな様子だ。

「前に見た事があるような気がするのです。
 天辺に目のようなものがついている、緑色の生物……
 そう、確か旧文明の兵器に関する書物で見かけた覚えがあります」

「兵器、か」

 コヨーテは呟くと、眉を顰めた。
 嫌な予感がする。
 彼の本能がそう告げていた。

「……正体は分からないが、あの物体が泥人形の暴走に関係あると見て間違いなさそうだな」

 コヨーテの言葉に、バリーも肯定するように頷く。
 カゼンヒキーは青ざめた顔で二人の顔を交互に見やる。

「皆様、新たな依頼をお頼みしてもよろしいですかな?」

「……どうぞ。大体予想はつくが」

「再び本宅へ戻っていただき、様子を見てきていただけませんでしょうか?
 勿論、追加分の報酬はお支払いいたします。
 どうか……!」

 ここまで頼み込まれては、無碍に断る事もできない。
 下手すればさっき結ばれたばかりのコネクションも消失してしまう。
 それに、今度は危険な目に遭いそうになったら逃げてもいい。
 得体の知れない相手ではあるが、一応の報酬は貰ったのだ。

「ちなみに報酬はいかほど?」

 レンツォがすでに交渉を始めていた。
 これから調査に戻るだけで銀貨五〇枚を、そして何かがあった場合にそれを排除すれば四五〇枚を貰える事で落ち着いた。
 どうあれ、コヨーテらのやる事は決まっている。

「受けよう。オレたちとしてもやりっ放しで帰るのも寝覚めが悪いからな」

 早速本宅に急いだコヨーテらは、運よくさっきの『欠片』を見つける事ができた。
 辛うじて眼で追える速度で、うねうねと本宅内を移動している。

「追いかけよう」

 宅内を奥へ奥へと進み、やがて『欠片』は立派な扉の隙間から器用に部屋の中に潜り込んだ。
 この先は、黒い泥人形と戦った部屋だ。

「……ここは研究室だったな」

 ドアを開けると、そこでは『欠片』がいくつも寄り集まり、蠢いていた。
 やがてそれは互いに融け合い、段々と大きさを増していく。

「おいおい、何の冗談だよ……!」

 恐ろしいスピードで巨大化した『欠片』の寄り集まりは、直径二メートルほどの球体になった。
 緑色の身体に巨大な目と口、複数の触手を持ち、浮遊する生命体。

「ビホルダーの欠片だったのか……初めて見るがグロテスクだな、ちくしょう」

 バリーが舌打ちしつつ言った。

「原因は分かったんだ、一旦退こう」

 ビホルダーが完全に戻りきらない内に、コヨーテは判断を下した。
 おそらくカゼンヒキーにビホルダーの名を告げれば何か情報を思い出してくれるだろう。
 そそくさと退散したコヨーテらはカゼンヒキーの仮邸宅へと戻ると、さっそく本宅での顛末を話した。

「ビホルダーですと!? 旧文明の哀しき遺産と称される、あの……?」

 カゼンヒキーの話によればビホルダーは古王国期に作成された魔法生物兵器だという。
 幾本もの目玉のついた触手から放たれる様々な光線を武器にする、危険な存在だ。
 いわゆる伝説で語られるような存在のはずなのだが、それがどうして専門外の魔術師の家に出現したのかは分からない。

「ああ、何という事でしょう……!
 どうしましょうか、どうしましょう!?
 私の邸宅が破壊されてしまいます……!」

 無理もないがやたらとパニックになっているカゼンヒキーを落ち着かせ、コヨーテはバリーへと向き直る。

「ビホルダーについてオレは良く知らないが、ヤバい相手か?」

「さァな、ヤツについては文献がろくに残ってねぇんだ。
 噂程度の情報ならあるが、未知の相手とそんな情報だけで戦うってのも心許ねぇぞ」

「当たって砕けろってヤツ?」

「砕けるは余計でしょ、シャレにならないよ」

 冗談を言い合いつつもレンツォは手持ちの魔法瓶の確認をしている。
 ビホルダーに対する有効な攻撃手段がはっきりとしていない現状、一発ずつ試していくしかない。
 相手によって手札を入れ替えられるのがレンツォの魔法瓶の強みではあるが、肝心の相手の情報がなければ効果は薄い。

 再び本宅へ戻り、研究室の扉の前で準備を行う。
 一撃での致命傷を避けるために、ルナの秘蹟で守りを固めた。

「まずは小手調べだな、すぐに退却できるように配置を変えよう。
 オレが前線に出て攻撃を誘ってみる。
 もしオレが動けなくなるような攻撃を受けたらミリア、君が引きずってでも退却してくれ。
 チコとレンツォはオレの援護、バリーは分析を頼む」

「……コヨーテ」

「ミリア、君の敏捷性や勇敢さは君の特徴であり長所だ。
 それと同じようにオレの体質もオレの特徴なんだ。
 足りない情報は身体を張ってでも集めるしかない……、そうだろ?」

「無茶はなしですからね?」

 微笑して、コヨーテは頷いた。
 コヨーテは半吸血鬼である。
 肉体的に死ににくい体質を持つ反面、秘蹟などの神聖なものには弱い。
 動けないほどの傷を受けてうっかりルナの秘蹟に傷を触れられたら大惨事になってしまう。

「行くぞ」

 短く告げ、コヨーテは研究室の扉を開け放った。
 宙を漂うビホルダーは先ほどとは違い、完全に本来の姿に戻っているようだ。
 室内はほとんど何も原型をとどめないくらいに破壊され、床や壁にも大きな窪みがいくつも見られた。
 おそらく、ビホルダーが暴れてこうなったのだろう。
 扉が破壊されていなかったのは僥倖だった。

「まずはこいつだ!」

 先手必勝とばかりにレンツォは【氷結瓶】を放る。
 放物線を描いてビホルダーの身体に当たった瓶は砕け、中身の魔力が溢れ出して急激に温度を下げた。
 しかし、

「あからさまに効いてませんって面してやがんなァ、おい」

「顔ってどこだよ……、なぁバリー。冷気があいつに届いていないように見えるが、気のせいか?」

「ありゃ届いてねぇな。冷気への耐性があるか、それを付与する術式でも組んであんだろ」

 ビホルダーも様子見しているのか、複数ある眼をこちらに向けて宙を漂っている。
 ならばとバリーは【炎網の囲い】を唱えるも、冷気と同様に炎がビホルダーに届く事はなかった。
 冷気のみならず炎への耐性もあるとなるとレンツォはお手上げだ。

「魔法生物兵器ってくらいだからな。
 【魔法の矢】は間違いなく有効打だろ、あとは物理的な攻撃か」

「どうも実体はあるみたいだしね、剣が当たるなら殺せるわ」

「じゃあ一撃、叩いてみようか」

 コヨーテは呟き、【レーヴァティン】を構えて距離を詰める。
 それに呼応するように、ただ浮遊するだけだったビホルダーの無数の触手が、正確には触手に付いた目玉がコヨーテを向いた。
 彼我の距離はおよそ七歩分、この程度の距離を詰めるのにいくらもかからない。

 魔法生物兵器であるビホルダーがこれに対処するにはやはり魔術的な何かによって行うのだろう。
 それに対して解析を行い、対抗策を導き出すのはバリーの役目だ。
 【レーヴァティン】を振り上げ、ビホルダーの大きな目玉を突く。
 ただそれだけを、コヨーテは実行すればいい。

「……な、」

 笛の音のような高い音が響いたかと思うと、コヨーテの視界は一瞬にしてぼやけ、ぐらついた。
 目の前のビホルダーがぐにゃりと歪む。

(催眠、魔法!? まずっ……!!)

 頭が危険を理解した時にはもう遅かった。
 ぐらぐらと揺れる頭で、必死に意識を取り戻そうとする。
 激しい衝撃が胸の辺りで爆ぜ、背後の壁に叩きつけられるまでどれだけの時間がかかったのだろうか。

「痛っ……、おかげで目は覚めたが」

 膝をついて俯くような姿勢で、ぶすぶすと白煙を上げて焦げる衣服の胸元を手で払う。
 両手両足が動く事を確認して【レーヴァティン】を杖代わりに立ち上がった。
 ダメージは大きいが内臓が傷ついた感覚はなく、火傷も打撲による鈍痛も辛うじて無視できる範囲だ。
 改めて周囲を見回すと他の仲間も同様に催眠魔法を受けているらしく、ある者は冷たい鋼の床に倒れ、ある者は眠気に堪えて頭を振っている。

 そちらへ向けてまるで狙いを定めるようにビホルダーの触手が不気味に蠢いた。
 意識が途切れかかった時に受けた攻撃の正体は分からない。
 しかし何らかの魔法であった事はほぼ間違いない。

「――くそっ!」

 コヨーテは床を蹴ってビホルダーへ接近する。
 【レーヴァティン】を振るい、その触手の二、三本を斬り飛ばした。
 しかしビホルダーは全く怯む気配を見せない。
 魔法生物ゆえに精神を持たず、痛覚すら存在しない可能性は高かった。

 ビホルダーの無数にある触手が発光する。
 それは先ほどコヨーテに向けられた攻撃魔法なのだろう。
 催眠魔法で身動きの取れないミリアへ向けて、それは放たれる。

「――ッ!!」

 真っ白な稲妻のような光が放たれ、ミリアの頭蓋があった場所を激しく叩いた。
 思わず息を呑むが、攻撃魔法が撒き散らした白煙が晴れればそこにミリアの姿はなかった。
 見れば、ほんのわずか後方に彼女の姿がある。

 どうやらいち早く催眠魔法の範囲から逃れたチコが、ミリアの足を引っ張って逃がしたようだ。
 ルナの姿もないため、すでにチコによって退避させられているのだろう。
 チコの狩人としての本能が確実な【弓の間合い】を図ったのだ。

 改めて着弾場所に目をやると、鋼の床が大きくへこんでいた。
 【魔法の矢】とは違い、回避可能な速度ではあるが衝撃が広範囲に及んでいる。

「コヨーテ、大丈夫!?」

「あぁ、どうにかな。ひとまず退こう、これじゃ戦いにならない」

 敵に背を向けたくはなかったが、事前のモーションなしで放たれる催眠魔法と高威力の攻撃魔法を相手に余計な時間を取りたくなかった。
 ゆえに、床に突っ伏したバリーとレンツォの襟を掴んで無造作に引きずっていく。
 あとで重ねて謝らねばならない。



 仮邸宅へ戻ったコヨーテらは、カゼンヒキーにビホルダーの情報を詳細に話した。
 一言一句を噛み砕くように吟味するカゼンヒキーの表情は魔術師にそれになっている。
 コヨーテらが身体を張って得た情報と、カゼンヒキーの持つ断片的な情報をすり合わせる。

「まとめてみると――」

 バリーは咳払いして解説を始めた。

 ビホルダーの触手から放たれる魔法は二種類ある。
 笛の音のような音で複数体を眠らせる催眠魔法と衝撃を叩きつける攻撃魔法だ。
 カゼンヒキーの補足によれば、それらは【誘眠音波】と【破壊光線】と呼ばれるらしい。
 前者は全員がその音を感知し、後者はチコとコヨーテがその発生を確認している。

「触手を全てダメにしちまえばそれらの魔法は使えねぇ。
 反撃を封じるって意味で触手から攻撃する手もあるが、如何せん数が多すぎる。
 そんな手間ァかけるくらいだったら直接本体をぶっ叩いたほうがマシだろォよ」

「つまり【誘眠音波】の被害を最小限に抑えるために散開して位置取り、誰かが【破壊光線】を喰らっても誰かが本体を叩く……と」

 最悪の可能性を考慮すれば、なるべく一箇所に固まらないようにメンバーを配置する必要があり、かつ各自のサポートが届く範囲という厳しい条件を満たさねばならない。
 それだけ、未知の存在を相手取るという事は難しいものだ。

「なんだ、ほとんどいつも通りじゃないのさー」

「僕のただでさえ低い戦闘力が限りなくゼロに近くなってるのもお忘れなく」

「レンツォはー、もし誰かが眠ったら叩き起こす役目で」

「耳栓しながらだと蹴って起こす事になるけどいいんだね?」

「私を足蹴にしたら一生口利いてやんないからねー」

「理不尽!」

「人生ってだいたいそんなもんだから」

 適当に言い合いながら、再び準備を進める。
 その間、コヨーテはずっと浮かない表情をしていた。

「やはり、足りないよな」

 ぽつり、とコヨーテは本音を漏らした。
 それが何に対する言葉なのか、口に出さなくても分かる。
 おそらく先ほどの戦闘でビホルダーの全ての情報が開示された訳ではないだろう。
 奥の手めいた魔法があっても不思議ではない。

「足りないのはいつもの事だろォが。
 それをどうにかこうにか埋めてここまで来てるんだ」

「……少し贅沢すぎたかな」

 コヨーテは自嘲的な笑みをこぼした。

 いつもいつも戦いで有利を取れる保証などない。
 無論、不利になるような要素を排除するのを怠っては元も子もない。
 それでも、どう努力したところで有利な状況へ持っていけない事は多々ある。
 そういった状況での判断力こそ、冒険者としての真価が問われる場面でもあるのだ。

「ま、いいじゃない。贅沢なんてしておくときにしておくもんよ」

 ミリアはバリーへ何かを放った。
 それを事も無げに受け取ると、バリーは目を見開いて顔色を変えた。

「お前っ、魔術書投げてんじゃねぇよ! あっぶねぇな!」

「依頼人さんからよ。役立ててくれって」

 魔術書は時折それ自体が魔力を有するものもあり、取り扱いを誤ればそれこそ大事故につながる恐れがある。
 おそらくその手の防衛機能等がない事はすでに知らされていたのだろう、ミリアはひらひらと適当に手を振ってレンツォのほうへ向かっていった。
 どうも何か瓶のようなものを手渡しているらしい。
 あれもカゼンヒキーから受け取ったものだろう。

「……どんな魔術書なんだ?」

 よどみなくページを捲るバリーはすでに読書モードにスイッチを切り替えているらしく、無言だった。
 のめり込むと周囲が見えなくなるのは彼の長所であり、短所でもある。
 仕方なく、コヨーテはミリアへ尋ねる事にした。

「あれね、依頼人さんが言うには【魔法の矢】を改良したヤツなんだって。
 魔法生物のビホルダーにはより効果があるだろう、ってくれたのよ」

「それは?」

「これは【爆水】って魔法道具らしいわ。
 魔力を圧縮して云々されたヤツで、瓶を割るとすごい爆発が起きるんだって。
 炎に耐性があろうが風圧が何たらでダメージ入るらしいわよ」

 ミリアの頭では小難しい理論は理解できなかったのだろう、かなり説明が曖昧だった。
 しかし、魔術師カゼンヒキーのお墨付きとあれば効果は見込めるだろう。
 どうやら今回は贅沢しても良かったらしい。

「よォし、準備できたぜ」

「……早いなバリー」

「理論自体は【魔法の矢】の応用だからな、多少の融通は利くもんだ。
 ……にしてもよくここまで綻びもないまま構築できるもんだ。
 正直、見事としか言い様がねぇぜ」

 苦い表情を隠すように、バリーはそっぽを向いた。
 またしても格上の魔術師に実力の差を思い知らされたと思ったのだろう。

 ともあれ、ビホルダーがいつまでもあの研究室のみに留まるとは考えにくい。
 他で暴れられたらただ被害は大きくなるだけだ。
 あまりのんびりもしていられない。

「行こう、今度こそ決着を付けるぞ」

 態勢を立て直したコヨーテらは再び本宅へ戻った。
 今度はビホルダーの情報が少なからず入っている。
 その上、魔術師カゼンヒキーの補助もある。
 万全とはいかないまでも、それなりに整った状態である事に間違いはない。

「良かった、まだここにいたんだ」

 つい先ほどまで戦闘を繰り広げていた研究室にビホルダーはいた。
 周りを観察してみると、さっきよりも破壊の爪痕が酷くなっている。
 このままではいかに鋼鉄造りの壁といえども破壊されてしまうのではないか。

「ウオオオオオオオオオオン!!」

 こちらに気づいたビホルダーが吼え、一行を威嚇する。
 さっきの戦闘で確実にこちらを敵だと認識したのだろう。

「まずはこいつだ、くらいな!」

 レンツォは先手必勝とばかりに【爆水】を放る。
 事前の説明が正しければ、乱戦となった後には使えない。
 放物線を描いた瓶はビホルダーには当たらなかった。
 すでに先の戦いでの投擲を見て軌道を読まれていたのだろう。
 泳ぐように移動したビホルダーを通り越して、瓶は背後の床へとぶつかって砕ける。

 それでも十分すぎるほどの威力を【爆水】は秘めていた。

「――ッッ!!」

 【爆水】によって生み出された爆風は凄まじいの一言に尽きる威力だった。
 下方から吹き上げるような爆風に掬い上げられたビホルダーは天井にぶつかり、二度三度バウンドしながら研究室内を跳ね回る。
 当然、コヨーテらにも被害は及ぶ。
 吹き荒れる爆風の逃げ場はコヨーテらの目の前に開け放たれた扉だけなのだ。

「が、あ……!!」

 コヨーテは外套の裾を翻して爆風を防ごうとするものの、すぐに弾き飛ばされて意味を成さない。
 誰が指示するまでもなく、各々が判断して床に這い蹲るように伏せる。
 室内にあった備品の破片が飛来し、恐ろしい速度で頭のわずか上を吹っ飛んでいった。
 ルナが事前に【聖霊の盾】の秘蹟で防御を整えていなければいくつかは直撃したかもしれない。

「め、滅茶苦茶だっ……! なんてとんでもない威力!!」

 おそらくカゼンヒキーも出来れば使いたくはなかったのだろう。
 こんなものを室内で使ったら普通の邸宅なら廃屋になってしまう。
 そんな爆風を至近距離で受けたビホルダーは煤まみれになりながらも浮遊していた。
 さっきまでのような余裕が感じられないのは目の錯覚ではないだろう。

「――チャンスだ!」

 コヨーテとミリアは同時に駆け出した。
 事前の打ち合わせ通り、左右に分かれて接近する。

「《貫き砕く光の波動、輝きを束ね疾く放たれよ》、――《抉れ》!」

 カゼンヒキーによって再構築され強化された【魔法の矢】がビホルダーに飛来する。
 いつもの【魔法の矢】とは違い、幾本もの光がひとつに束ねられている。
 その威力はもはや矢という表現では語弊があるかもしれない。
 ビホルダーの一部を貫き、半分近くの触手をも同時に吹き飛ばした。

「オオオオオォォォォォン!!」

 ビホルダーは吼える。
 破壊された身体から黒々とした緑色の液体を噴き出しながら、感じるはずのない痛みに耐えるように身をよじる。
 この隙をコヨーテ、ミリア両名が見逃すはずもなく、更に触手数本と身体を切り裂いた。

 いけると確信したバリーは再び【魔法の矢】の詠唱を始める。
 本能的に危機を察知したのか、ビホルダーはバリーに触手から光線を浴びせた。
 それは攻撃魔法の【破壊光線】ではなく、ほんのり紫がかった光だった。

「か……!? はっ……!」

 バリーは【識者の杖】を取り落とし、そのまま床に倒れこんだ。
 全身が不気味に震え、自ら両手で喉を絞めているようにも見える。

「どうしたんです、バリー!?」

 ルナとレンツォが駆け寄り、それを庇うようにチコがバリーの前に立ちふさがる。
 間近でバリーの様子を確認したルナは、彼に負けず劣らず顔を青ざめた。

「まずい……まずいですコヨーテ!
 あの光線は……、身体を麻痺させる類の魔術です!!」

 その声に、その場にいた全員に緊張が走った。
 麻痺の魔術ほど恐ろしいものはない。
 戦いの場において麻痺とはその部位を殺す事と同義であり、喉の筋肉を麻痺させるだけで人を死に至らしめる事ができる。

「レンツォ、アンタ麻痺用の解毒剤持ってたでしょ! 早くしなさいよ!」

「――ダメなんだ……!」

 バリーは不幸中の幸いというべきか、完全に麻痺した訳ではなかった。
 間合いがギリギリだったのか、細いながらも確実に呼吸はしている。
 しかし喉への麻痺は確実に及んでいた。

「規定量を一気に流し込んだら気管が詰まっちゃうんだ!
 長い時間をかけて喉の麻痺を癒しながら治療するしかないんだよ!」

 レンツォの悲痛な叫びが木霊する。
 この戦いにおいてバリーは戦闘不能となった。
 気管の半分以上が不自由となった彼を下手に動かせば、それこそ呼吸に影響が出る。

 逃げられない。
 そして負けられない。

「はあッ!!」

 コヨーテの渾身の一撃が、ビホルダーの巨体を跳ね飛ばす。
 すでにバランスを失っていたビホルダーは成す術なく壁にぶつかって、そこでようやく動きを止めた。
 追撃にミリアが跳ぶ。
 ビホルダーはぐりん、と残った触手を全て動かし、それらの照準を彼女に向ける。

「――ッ!!」

 ザザザザザッ! という風切り音。
 それと共に飛来した無数の矢が、数少なくなったビホルダーの触手全てを打ち抜いていた。
 瞳に激しい怒りを湛えたチコは指先だけを冷静にして、

「……よくもバリーを!」

 放ってようやく、怒りを声にした。

「――ナイス、チコ!」

 ミリアは双剣持つ両腕を身体の前でクロスさせ、一気に薙ぎ払う。
 極度の集中状態から繰り出される一撃と見紛う二撃は【湖面の一閃】という。
 だが彼女の攻撃はこれで終わりではなかった。

「もう一発ッ!!」

 空中で身体に縦の捻りを加えて回転し、トドメの攻撃を見舞う。
 【湖面の一閃】からの【月描き】の連撃を受けたビホルダーは、その大きな瞳を二度と閉じる事はなかった。



 戦闘が終わってすぐ、バリーはカゼンヒキーの仮邸宅へと運ばれた。
 レンツォの持つ解毒剤を少しずつ飲ませていたが、思ったよりも回復が早かったからだ。
 万が一を考えてカゼンヒキーに薬剤の提供をしてもらい、どうにか麻痺を癒す事に成功した。
 しばらくは安静にしていなければならないが、直に言葉も喋れるようになるはずだ。

 バリーの治療が終わって、カゼンヒキーは切り出した。

「実は私、とある魔法の開発の為にリューンの下水を採ってきてもらった事があるのですが……
 もしかしたらその下水サンプルにビホルダーの細胞が入っていた可能性があるのです」

「なるほどな、仮にそうだとすると辻褄が合う。
 それらが度重なる実験やらで拾い集めた微弱な魔力を喰っていたとなれば、泥人形を支配するくらいには成長するだろうな」

「にわかには信じがたい話ですが……
 あの欠片が個々の魔力を結集する為に合わさり、最終的にビホルダー本体となった、という事でしょう。
 詳しくは更に分析して見なければ分かりませんが、おそらくこの仮説に間違いはないでしょう」

 なぜビホルダーの細胞が粉々となっていたのかは分からない。
 元々謎の多い生物ゆえに仕方のない事だが、だからこそ研究室に飛び散ったビホルダーの破片は特に注意して処理しなければならない。
 また魔力を吸って復活する事もあり得るからだ。

「いや、ありがとうございます。
 ビホルダーの退治までしてくださって、なんとお礼を申し上げればよいか……感謝の言葉もございません」

 カゼンヒキーは袋に詰めた追加分の報酬と共に、高級なワインも報酬に追加してくれた。
 本宅から逃げる際に思わず持ってきたという高級酒ロマネ・コンディだ。
 バリーが動けるようになってから、『大いなる日輪亭』へと帰還する事にした。

 余談ではあるが、帰路の道中でバリーが貰った酒瓶を落として割ってしまった。
 まだ麻痺が完全に抜け切っていなかった影響だろうが、それは天からの救いの手だったのかもしれない。
 地面に飛び散った赤いワインに混じって、緑色の異物が混じっていたという。

 それはさっきまで戦っていた、の体色に良く似ていた。


【あとがき】
今回はTakahashiさんの「泥人形退治」です。
泥人形という特殊なゴーレムがエネミーという、一風変わったシナリオでした。
依頼人であるパブロン=カゼンヒキーさんは、名前もさることながら喋り方まで個性の塊のような人でした。
こういう魅力的なNPCがシナリオを盛り上げるんですよね。
数年前の私も見習わなければなりませんよ!(手遅れ)

最後の高級なワインは、宿に持って帰ってから恐ろしい事になります。
当リプレイでは怖すぎたので、割ってしまいました。
気になる方は、どうぞプレイしてみてください。

【弓の間合い】の用法が間違っていますが、リプレイ的表現という事でご容赦ください。
「逃走」のキーコードの解釈を戦闘外に移動すると仮定すれば……無理がありますかね。

今回入手した【魔法矢lv3】ですが、以後はこちらを【魔法の矢】として扱う事にします。
元の【魔法の矢】は処分するか迷ったのでひとまず宿のカード置き場に保管しておきます。
お金に困ったら売ってしまう事にします。
詠唱も必死に改変しました。間違えないようにしなければ……

久しぶりにPCのレベルアップです。
レベル5といえば強力な技能も増えてきますからね、燃えてきます!


☆今回の功労者☆
ミリア。技能が回り出したら手に負えない強さ。

購入:
【弓の間合い】-1000sp→チコ
【狩人の目】-1000sp→チコ
(追憶の書庫)
【月描き】-1000sp→ミリア
(アークライト傭兵団)

報酬:
泥人形退治→600sp
本宅再調査→50sp
ビホルダー退治→450sp

戦利品:
【火晶石】
【魔法矢lv3】→バリー

使用:
【火炎瓶】
【氷結瓶】
【キュア・パラ】

LEVEL UP
バリー→5

銀貨袋の中身→4702sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『泥人形退治』(Takahashi様)
『追憶の書庫』(のいん様)
『アークライト傭兵団』(飛魚様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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