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『賢者の果実』(3/4) 

「わっ……わたし! し、死んじゃったの~~~!?」

「馬鹿言ってんじゃねェ、生きてんだろうが。こんなうるせェ死人があってたまるか」

 あたふたするリスのステラを、レギウスが軽く叩いた。
 まるでカエルが潰されたような声を上げて、ステラは少し大人しくなる。

「だがねレギウス。死霊術、使い魔とは……一体全体どういう事だい」

「……笑ってはいられなくなったね」

「手がかりは仕入れた、推測も得た……婆さんの家へ向かうぞ。
 専門家の知恵を借りねェと、俺たちだけで判断するのは危険すぎる。
 幸い、あいつは信用できる人物みてェだしな」

「えっ、うたがってたの!?」

「ハァ? 疑わねェ理由があったかよ」

「うーわ相変わらず疑り深いねぇ」

 ターニャとカイルが呆れている中、ひとりマーガレットだけが真っ直ぐにレギウスを見つめている。
 まるで問い詰めるような、凍える視線。
 それに射抜かれてもレギウスは欠片も動じない。

「……もしかしてだがね、君はこの事を知っていたのかい?」

「……、……いいや。そうじゃねェかと思ってはいたがな。
 リスにしては妙だ、条件的には魔法生物に見えたが……はっきりとした確信はなかった」

「だから賢者の塔で調べるなんて言い出したんだね」

 その問いに対し、レギウスは答えない。
 否定していないという事は、肯定しているという事でもある。

「いつから気づいてたの、レギウス」

「……昨日の夕食時。。これはいわゆる魔物の摂り方だ」

「――うっそ……や、やっぱりわたし、ま、魔物になっちゃったの……!?」

「月の魔力も取り込んでたぜ」

「ええええええ~~~!?」

 思い切りパニクるステラは、マーガレットの懐でじたばたと暴れ出した。
 それをどうにか留めつつ、

「まぁ、そういじめるのは止したまえよ。どうせ君の事だ、アテがあるんだろう?」

「……、」

 レギウスはゆっくりと息を吐き出した。

「ついでに言っておく、オマエは注意が足りなさすぎる。
 魔法ってのは便利である半面、多かれ少なかれ危険が付き纏う代物だ。
 不用意に扱うと強烈なしっぺ返しを喰らうぞ。

 たった一度が取り返しの付かない事態に陥る場合もある。
 今回は姿がリスに変わっただけだが、下手すりゃそうならずに死んでた可能性だってある。
 肝に銘じておけ」

 さすがの能天気ステラもすっかり懲りたようで、静かに項垂れる。
 その様子からこれ以上の説教は必要ないと判断したのか、レギウスは小さく息を吐いた。

「で、君のアテっていうのは?」

 ぴくり、とリスのステラの耳が動いた。

「大した事じゃねェよ。婆さんと意見を交わす程度だ」

「ホントに大した事ないんだね。見なよ、このステラの落ち込みよう。項垂れすぎて丸まっちゃったじゃん」

「絶対わざとやってるよね……?」

 素知らぬふりしてレギウスはさっさと歩を進める。
 目指すは若葉通りのパウラ宅だ。

 少し歩いた先にある目的の民家の扉をノックする。
 すると勢い良くドアが撥ね開けられ、白髪の老婆パウラが顔を出した。

「おお、あんたたちかね! 待っとったんじゃよ!」

「……なんか老けてねェか婆さん」

「大きなお世話じゃ若造。単に調べるのに手間取っただけじゃ、久しぶりの徹夜じゃからの」

「えー、大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。まあ、上がりなさい」

 パウラは『星を追う者たち』を自宅へ招きいれ、全員が腰掛けた事を確認すると自身もまた腰を据えた。
 徹夜からの疲れなのか、はたまた芳しくない結果が出たのか、パウラは難しい顔をしている。

「……顔から察するにいい話じゃなさそうだな」

「まあな、ちと厄介なものが出てきたのでな」

 レギウスたちも新たな情報を得ているが、まずは彼女の話を聞くのが先だ。
 先を促すと、パウラはテーブルにすっかり酸化したりんごの欠片を置いた。
 昨日レギウスが渡した『力の実』の食べカスだろう。

「……調べたところ、死霊術の名残が出てきた」

「チッ、原因はやっぱりそこかよ」

「ふむ……、驚かんところを見ると、そっちの収穫はそれかね?」

「塔の魔術師曰く、こいつはどうやら死霊術の使い魔だと。
 『生きた血肉』、死霊術の本領発揮みてェな術だってよ」

「『生きた血肉』、か……なるほどな」

「ときにパウラさん。あなたは見て分からなかったのかい?」

 塔の魔術師には看破でき、彼女よりも上位の魔術師たるパウラに同条件で看破できないはずがない。
 至極最もな質問を投げかけると、パウラはばつが悪そうな表情を作る。

「すまん……、全く、儂の不明としか言いようがない。昨日は気づかなんだ」

 パウラはステラに向き直ると、

「じゃが、今ははっきりと分かる。魔の色が濃くなっておるな」

「ど、どういうこと……!?」

「……ステラや、ちょいとこっちへ来なさい」

 パウラは問いには答えず、ステラを招きよせて手をかざした。
 一言二言の呪を紡ぐと、眉間に皺を寄せる。

「うむ。ちと奇妙ではあるが、確かに人を使って創った使い魔というところじゃな」

「奇妙、とは?」

「魔力が全くと言っていいほどないんじゃよ。
 ううむ、これでは施されていた術と符合せんのお……
 こういう使い魔なら、必ず術と術者の魔力の影響があるはずなんじゃがな」

「確かに塔の魔術師も似たような事を言っていた。随分と変わった使い魔らしいな」

「ところで話は変わるが、さっきから言っておる塔の魔術師とは誰じゃ?」

「青髪のあいつだ。名前は忘れた。そういえばあんたによろしくだとか言ってたぜ」

「青髪……おお、あの子か。頑張っとるようじゃのお。
 あれはなかなか腕のいい魔術師じゃよ、強すぎる好奇心が玉に瑕じゃがな!」

 確かに彼女は好奇心がひどく強い印象を受けた。
 よっぽど怖かったのか、ステラは思い出した恐怖に身を震わせている。

「そんな事ぁどうでもいい。今回の件、あんたの意見が聞きてェ」

「そうじゃな……」

 パウラはしばし考えた後、『力の実』の食べカスを指して、

「何者かがこれに死霊術を施した。ステラは知らずに食べ、術に掛かった。いや、というのが正しいかな」

「……、」

「幸いに、というべきじゃろう。見たところ術式は完了しておらん」

「じゃ、じゃあ元に戻れるの!?」

 ようやく見えた希望に、ステラは縋りつくように声を上げた。
 しかしステラはもう少し考えるべきだったのだ。
 レギウスがパウラの意見を聞いた瞬間、全く表情を変えなかった事に。
 それはレギウスにとって予想通り、もしくは事態が何も変わらない情報である事の表れでもある。

「……素人の俺が聞いても相当に複雑な術式だ。解呪もそう簡単じゃねェだろ」

「そっ……そんな……!」

 こればかりはショックを隠しきれないのはステラだけではなかった。
 彼以上に魔術に対しての知識を持つ者は『大いなる日輪亭』でもそういない。
 ターニャやカイルにとってレギウスは自信家という印象が強い男ではあるが、それに見合う実力があると思っている。
 そのレギウスが嘘偽りなく、自らの実力以上の術式だと評価したのだ。

「術式が完了するまであとどれくらい猶予がある?」

「断言はできんが、このまま進めば……おおよそ一週間というところかの」

「予想はしてたが、余裕ねェなぁ」

「こんな術式は儂も初めて見るわい。
 非凡な腕の持ち主じゃろう、実にきれいなもんじゃったよ」

「きれい……?」

「無駄がなく、効率の良い極めて完成度の高い術式という事じゃ。
 術の痕跡も上手く消されておる、残されたわずかな魔力を探すのさえ苦労したわい。
 これではまず、誰も気づくまいな。
 ……見事なもんじゃよ、天才的と言ってもよい」

「……元々は魔に変化させるような術式だったのかい?」

「そうじゃな……、信じがたい事じゃが、おそらく取り込んだ者を直接使い魔にする術式じゃろう」

 これには誰もが絶句した。
 専門家のパウラですら聞いた事がない術式だ。
 魔術師であるレギウスや、素人のターニャらは想像した事すらないような術式だった。

「わ、わたし……わたし、やっぱりもう死んでるんだ~~~!!」

「落ち着け! 生きてるっつってんだろうが!!」

 レギウスはリスの首根っこを押さえて、無理やり動きを止めさせた。

「だけど、一体いつやられたってのさ。
 ジョギングから帰ってきて、すぐ食べたんでしょ?
 ねぇステラ、しくしくと泣いてないで思い出して、まだ可能性はあるんだから!」

「ううぇ……食べた。おなかが、すていたからぁ~………………あっ?」

「あ? どうやら心当たりがあるみてェだな、洗いざらい全部吐きやがれ、オラ」

「その、ええーっと……そういえば、なんだけどね?
 実は食べる前に、トイレに行ったんだよね。
 で、そのときに、その~……実を、カウンターの上に置いて……」

「………………」

 魔法アイテムに対する雑な扱い、とはいえ説教前の出来事だ。
 レギウスの眉間に皺が二、三本刻まれただけで終わった、気がした。

「いっ、いや、もう! しないから! 絶対しないから、気をつけるから!!」

「……もういい。他に目を離した時はねェのか」

「絶対ない! もらって、荷物袋に入れて帰って、食べようと思って置いたんだ」

「って事はだよ、トイレに行った隙に実に触った奴じゃないか! そいつが分かれば……!」

「宿に出入りする人間は多い。しかも朝の時間帯だろう、夕食時に次ぐ混雑している時間じゃないか」

「……だが、可能性はゼロじゃねェ。
 筆跡が残ってりゃ魔力を逆探知できるかもしれねェからな。
 それがダメだったら……あとは周辺の聞き込みか」

「問題は犯人が割れたところでどうやって探し出すか、だねぇ。
 一週間って期限があるしね、早めに盗賊ギルドを頼るのも手だよ」

「平行して別の手を考える必要がある、か……ここはレギウスに頼る他ないみたいだね」

「そりゃ別に構わねェが……」

 何となく歯切れが悪い。
 話を進めながら、別の思考をしていた様子だ。

「……ステラ、婆さんに貰った実は二種類だったな? 赤と黄の二つ、そうだな?」

「あっ……! そっか、そうだ! もうひとつはどうしたの!?」

「ふぇ? 荷物袋に入れたよ? ひとつ食べたあと……」

「オマエ自身が汚ねェ荷物袋の中に入ってよぉ、嫌ってほど調べただろうが。消えてんだよ、もう一方の実がな」

「うう~む……非常~に嫌な想像じゃが、何か意図があって盗んでいきよったかもしれん。
 使い魔の創造術式の媒体には魔力のあるものを使う事は知っておるな?
 つまり、儂の実も使えるという事じゃ、とはいえ普通はやらんがの。
 他人のものを扱うのは相当に難しい上に、わざわざ使う意味がない。

 じゃが、ステラにはそれを用いた。
 術に気づかせず食わせるためにな。
 もし奴にその気であれば――」

「――使う可能性は十分にあるだろうな」

「じゃあ、もう一個の実は死霊術師が持っている。
 もしかしたら、まだ何かに使うつもりがあるのかもしれない」

「可能性は高いだろうな……あるいは、もう何かに用いたか」

 可能性を挙げる度に絶望感が一行を包んでゆく。
 昨日、事件が発覚してからの行動にそう無駄はなかったとは思うものの、楽観視が過ぎたかもしれない。
 状況は予想以上に余裕がないものになっている。

「……宿に戻るぞ。まずは宿帳を調べ、それから宿近辺で聞き込みだ」

 急ぐぞ、と言う前にレギウスは立ち上がり、さっさと扉を開けて出て行ってしまう。
 肝を冷やしたターニャやカイルも、その後を追いかけていく。
 唯一、マーガレットだけが留まりステラを優しく手に取って、パウラに向き合った。

「ドタバタと済まないね、とても助かったよ。
 急いで調べてみるので、これで失礼するよ」

「待ちなさい、儂も連れていけ。これでも専門家じゃ、あの若造よりも役立とう」

「……感謝するよ」

 とは言っても高齢のパウラに冒険者並みの足を期待するのは間違いである。
 結局マーガレットとステラはのろのろと宿に戻らざるを得なかった。



 賢者の塔を出たのは昼頃となっていたが、長々と話し込んだせいか辺りはすでに夕刻となっている。
 空はひどく綺麗に赤く染まっており、『星を追う者たち』は奇妙な胸騒ぎを覚えた。
 急いで宿に戻ったレギウスは挨拶もそこそこに、周囲の客の顔を一頻り眺めた後に宿の亭主に詰め寄る。

「親父、宿帳を見せてくれ」

「んん? 別に構わんが……」

 宿の亭主は訝しみながらも宿帳を出してくれた。
 書物の速読に慣れているレギウスは恐るべき速さで宿帳をめくる。
 これでは手伝いも何もあったものではない。

「ねえ、親父さん。ここ最近で不審なひととか、おぼえてない?」

「不審……? 不審、と言われてもなぁ……大雑把すぎないか」

「いわゆる、親父さんの勘に引っかかるような人だよ」

 そう言われてもな、と宿の亭主が首を傾げていると、レギウスが宿帳を閉じた。
 何も言わずとも苛立ったようなため息が全てを物語っている。
 宿の亭主はそれで察したのか、表情を変えた。
 さすが、伊達に長年冒険者の宿の亭主をやっていない。

「泊まり客なら、専属冒険者か常連ばかりだよ。
 気になるようなのはいなかったと思うがね」

「ま、証拠を残すような事はしねェか、仮にも魔術師の端くれならな。
 文字を書けばそこから追跡される可能性がある事くらい危惧して当然か」

「親父さん、酒場のほうはどうなの? なにか気づいたこととか、ない?」

 これまた大雑把な質問に、それでも真面目に宿の亭主は考え込む。
 しばらく唸った後、特に変化はなかった事を伝えた。
 くるくると動いていた娘さんにも尋ねるも、結果は芳しくなかった。

「質問を変えよう。
 一昨日の朝、カウンターの上にりんごのような果物が置いてなかったか?
 うちの馬鹿の持ち物でな、赤と黄の二種類なんだが」

「あ、もしかしてこの間の朝、ステラさんが食べてたりんごの事ですか?」

「それだな、ステラ以外にそれに近づいた奴は見てねェか?」

「い、いえ、そこまでは……」

 有益な情報が得られなかったとなれば後は聞き込みしかない。
 さすがに一昨日と同一の客とはいかないまでも、常連客も居合わせたはずだ。
 早速、『星を追う者たち』総出で聞き込みを開始した。

 聞き込みを行うには『ステラ』と『赤と黄色の実』というふたつを説明しなければならず、その場に居ないステラに関しては隠し通せるはずもない。
 すでに宿の亭主や娘さん、勘のいい冒険者等には今回の件にステラが関わり、そして何らかの事情で姿を見せない事は知れ渡ってしまっただろう。
 とはいえ既に一刻を争う事態だ。
 このままずるずると時間切れへと向かうくらいなら、多少の危険を冒してでも情報がほしい。

「俺、一緒に朝メシ食ったぜ?」

 その一言を得るまでに、どれだけ時間が掛かった事か。
 窓の外はもう暗くなってきている。

「気になる事はなかったかい? 誰かが来たとか、とにかく何でも良いんだ」

「え? 一昨日だろ? まあ、朝メシ食って……あれ、食ったよな? 俺」

 情報提供者は『大いなる日輪亭』に良く顔を見せる冒険者ガルンテだった。
 彼は浅黒い肌をした屈強な大男で、いわゆる知恵働きよりも身体を張った仕事が得意な部類に入るだろう。
 だとしても一昨日の出来事をおぼえていないのはどうなのか。
 彼の仲間の冒険者も、ほとほと呆れ果てている。

「あ~いや、だからさ、なんつーか……その日、ヤツと約束しててよ。
 うん、間違いねぇ、ジョギングの後な。
 で、一緒に朝メシ食ったけどよぉ……、今思い返すと、なんかよく覚えてねーな」

 何だかとても不安になってきた。
 そもそもステラはレギウスら共に朝食を摂っているはずだ。
 彼の記憶が曖昧すぎる。

「あっ、いや待て! 今思い出すから! いくら俺でも覚えてるって!!」

「いいや、もういい。ありがとよ」

「いや、だから思い出すって! ちょっと待ってくれ!!」

「もういいっつってんだろ。覚えてねェんだろ?」

「ちょ、レギウスさん!? 思い出すって――!」

 なおも食い下がろうとするガルンテを尻目に、レギウスは顎に手を当てる。
 結局、その後もこれといった手がかりは得られなかった。
 不審者の目撃もない。
 覚えていない、と言うほうが正しいだろうか。

「誰も見ていないし、覚えてもいない……」

「元々多種多様な人間が出入りする場所だ、見かけねェ奴が居ても気にされねェ。
 それでなくとも、野郎が『目くらましの術式』を用いりゃこの状況は作り出せる」

「目くらまし?」

「人間の記憶ってのは元来そう脆いもんじゃねェんだよ。
 ステラと朝食を摂ったガルンテが何も覚えていないってのはまずありえねェ、いくら奴が間抜けでもな。
 その他大勢にしてもそうだ。
 世界は日々変化してってるってのに何の変化もなかったなんざありえねェんだよ」

 仮に目くらましの術式を用いられたと仮定すれば、この状況にも納得はいく。
 しかし、それは逆に捜査の手詰まりを物語る。
 使い魔創造術式の構築からして、相手は格別な実力を持つ猛者である事は疑いようがない。

 相手の魔力は『力の実』の食べカスにわずかに残ってはいる。
 しかし、それを基に出来る事といえば一人ずつリューン中の人間に当たって回るくらいだ。
 効率は最低最悪だし、そもそもそんな時間は残されていない。

 手詰まりを感じたマーガレットが部屋に戻る事を提案した時には、街に夜の帳が折り始めた時分だった。
 机の上のランプが、『星を追う者たち』とパウラを照らす。
 じりじりと、ランプの芯が燃える音だけが部屋に響き渡る。

「現時点で分かっているのは、どうやら死霊術師が関わっているらしい、という事だけ。手がかりがあまりにも少なすぎる」

「全く、どうしてその死霊術師はステラに目をつけたんだか……」

「さて、のう……目的あってか、単に思いついただけかもしれん。あるいは実験のつもりか」

 実験、という言葉にレギウスの眉が上がった。
 苛立っている様子がありありと伝わってくる。

「あくまで死霊術師の考える事じゃ……正確な事なんて分からんよ」

「その辺は置いておくとしてだ。要は、死霊術師が見つかればいい訳だね」

「だから、どうやってそいつを見つけるのさ。誰も見ていない、姿も名前も分からないんだよ」

 カイルもいい加減に苛立ってきた様子だ。
 情報に明るい彼にとっては丸一日動いてまるで進展がなかった事が堪えているのかもしれない。
 
「……姿や名前なら分かるだろうよ、例えば盗賊ギルドならな。
 手がかりがまるでない訳じゃあねェんだ、死霊術師だろうがここまで出来る奴はそうはいねェ。
 その辺りから絞り込めば、時間は掛かるが必ず奴に関する情報は手に入る。

 だとしても、それじゃ遅すぎんだよ。
 一週間しか猶予はねェ、ともすりゃそれより短いかもしれねェ。
 とても待ってはいられねェんだよ!」

 ついに、レギウスは声を荒げた。
 未だかつて魔術師相手にここまで追い込まれた事はそうない彼の事だ。
 それがどれほどの屈辱なのか、想像すらできない。

「……レギウス、?」

「な――!?」

 その場の誰もが耳を疑った。
 マーガレットはレギウスに諦めろと言ったのだ。

「マーガレット、あなたなにを……!?」

「もうダメだよ、ここまで来たら正攻法じゃとても無理だ。
 隠蔽術に関してはあちらに完全に軍配が上がっている、もはやボクらじゃ太刀打ちできない。
 ……

 含みのある言い方。
 それがひどくレギウスの癇に障る。
 だが、彼女の言葉に間違いは何ひとつなかった。

「……死霊術師を引きずり出す方法は、ある。
 たったひとつ、馬鹿みてェな方法がな……だがこれ以上は俺に言わせんな」

 レギウスは搾り出すように、そう言った。
 言わせるなとわざわざ付け加えたくらいだ。
 その内容がどれだけ非常識かつ危険なものかは覚悟しなければならない。

 レギウスはじっとランプの炎を見て、それからステラを見た。
 彼女もリスの身体でレギウスを見つめ返す。

「……このままでも、わたしは使い魔になっていくんでしょ?」

「あぁ、そうだな」

「いまさら、気休めの言葉なんて、いらない」

 一言一言を、しっかりとステラは言葉にした。

「わたしは馬鹿だけど、なんとなくわかるよ」

 ステラはパウラへと視線を移した。
 パウラも何を問われたかを理解し、小さく息を吐く。

「穏やかではあるが、魔の気配がだんだんと濃くなっとる。
 間違いなく、術式は今も進行中じゃ。
 このまま放っておけばお前さんはいずれ完全に術に喰われてしまうじゃろう」

「なんとか解呪はできないものかね?」

「術者なしではな……いや、できん事はないが、相当の時間が掛かる。
 実はもう塔には連絡は取ってあるからの、すぐにでも解呪は始められる準備は整えておる。
 じゃが……」

 パウラは言いよどんだ。
 その後に続く言葉が言わずとも分かってしまうが、ただじっと彼女の言葉を待つ。

「……術式の完了に間に合わんかもしれん。
 やってみなければ分からん。
 儂に言えるのは断言できん、という事じゃ。

 解呪に賭けるのもひとつの手ではある、もちろん儂らも全力を尽くす。
 ……賭けてみるかね?
 ある意味確実ではある、間に合いさえすればな」

 無論、と前置きして、パウラは続ける。

「死霊術師を捕らえられれば話は早いのじゃがの、あるいはそやつが死ぬか……」

 現状ではどちらの難易度も変わらないだろう。
 レギウスの言う馬鹿みたいな方法があれば死霊術師にアプローチできるかもしれないが、それは彼が言いよどむほどに危険な、それこそ賭けだ。
 彼が作戦を話さない以上、それを決行するか解呪を選ぶか、判断できるのは彼しかいない。
 『星を追う者たち』とパウラはレギウスへと視線を集める。

「………………」

 レギウスはちらり、とステラを見た。
 彼女も小さなリスの双眸で、レギウスを見ている。

「わたしは、レギウスを信じるよ」

 その一言が決め手となった、のだろう。
 レギウスは小さく息を吐いて覚悟を決めると、静かに言った。

「少し、我慢してろステラ。すぐに終わりにしてやるからよ」


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周摩

Author:周摩
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