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『賢者の果実』(4/4) 

 賢者の塔に赴いた『星を追う者たち』とパウラは、深夜帯だというのにすんなりと通された。
 さすがにパウラは顔が利くらしく、軽い身分証明だけでパスするというのは珍しい体験だ。
 勢いのまま件の青髪の魔術師の部屋まで乗り込んだ『星を追う者たち』とパウラは、そのまま奥の儀式場までなだれ込んだ。

 静かな暗室の中央にテーブル、その表面には複雑な魔法陣が形成されている。
 描く線は赤い、どうやら何かの生き物の血のようだ。
 その円の中央にステラは寝そべった。

「ステラや、これからお前さんに催眠を掛ける」

「ひゃ、はい」

「落ち着きなさい。焦ってもどうしようもならん」

 小さなリスの身体で、ステラは深呼吸する。
 しかしその程度で緊張が吹き飛んでしまえば苦労はしない。
 パウラもそれを理解しているのだろう、ゆっくりと丁寧に説明を続けていく。

 てきぱきと準備を整える青髪の魔術師とパウラの様子を、レギウスらは少し離れた場所で眺めていた。
 レギウスですら危険と判断するほどに繊細な術式の設定に、専門家以外の者はそうせざるを得ないのだ。

「……ではな、頑張るんじゃ。決して、諦めてはならんぞ!」

「うんっ、任せてよ!!」

 もはや緊張と興奮で極度のハイテンションになったステラはそう言い切った。
 とはいえそれくらいの気力を持っていてくれなければこれから行われる解呪は成功しないだろう。

 ぐらり、とした浮遊感。
 ほぼ時を同じくして、ステラの周囲を白銀の球体が包み込んだ。
 それの正体は幾本もの鎖で構成された『檻』だった。

 これはステラに対する魔術的な『縛り』を具現化したものだ。
 鎖の一本一本が術式とリンクしており、その経路を砕く事で強引な解呪を行う。

 ただし正当な手順でない以上、総当りは覚悟せねばならない。
 別の枝から分岐した鎖、すなわちダミーも多々ある。
 一手でも切断の順番を間違えてしまえばそこから術式が修復されてしまう。

 手探りを続けて、何度も失敗しながら、解に辿り着く。
 到底、一流の魔術師や専門家が選んだとは思えない方法ではある。
 ここから先は、誰の手出しもできない。
 ただひたすらステラと術式との戦いである。

「……あれだけ大言吐いたのに傍観ってのはどうなんだい?」

「婆さんはああ言ってはいたが、術者をひっ捕らえるってェのはあまり賛成できねェ。
 一部の呪術には術者の死によって効果が増幅、あるいは暴走するものもある。
 今回は死霊術だが、構築に呪術的要素を加えてねェと断言できねェからな」

「なんだ、要するに安全策かい。だったら君も手伝ってきたらどうなんだい?」

「手前で手前の首を絞めてどうする。そもそも俺たちの出番なんざ端からなかったんだよ」

 レギウスは自信家ではあるが、虚勢を張るのを極端に嫌う一面もあるのだ。
 そんなチープな自己満足の為に自分や誰かを犠牲にするなんてあってはならない。

「他人にステラの命を預けているにしては随分と落ち着いているね、レギウス?」

「……あン?」

「軽く推理してみたんだけど、君のその落ち着きは少し妙だ。
 もしかして、君はステラの身体に何か仕掛けをしていたのかい?
 『仕掛け』という言葉が気に食わないなら『保険』と言い換えてもいい」

 レギウスの眉がぴくりと動く。

「いや身体じゃないね。リスと入れ替わった状態でも効果があるとすれば、かい?」

「オマエ、本当に面倒くせェ奴だな」

「……レギウス、はぐらかしてないでこたえて。どういうこと?」

 深くため息をつくレギウスに、真剣な表情のターニャが詰め寄る。
 レギウスにとっては対して脅威にすらならないが、ステラの事を引き合いに出されては隠し通せる道理がない。

「あぁそうだよその通りだ。
 ステラの魂……要するに精神的骨格には俺の術式が施してある。
 内容は『魔法に対する防御を基礎とした延命』だ、魔力はステラ自身から賄って起動し続けている。
 俺とあいつがガキの頃に気づかれないように内密で施した、俺の術式でも最高傑作のひとつだ。
 ……これでいいかよ」

「ステラ自身から賄っている……? まさかそれってステラに影響があったりするの?」

「魔力ってのは生命力から造り出すモンだ。そりゃ体力に影響は出る」

「……それって!」

「まぁ落ち着きたまえよターニャ。なるほどだよレギウス、だから君はいつもステラに食事を分け与えている訳だ?」

 マーガレットはニタァ、という厭らしい笑みを浮かべる。

「君の手から直接渡された食事に君自身の魔力を混ぜ込めば維持するだけの魔力は確保できるからねぇ?」

 レギウスがステラに食事を分け与えているのは毎度毎度の事だ。
 すでに『星を追う者たち』の外にすら、その事実は知れ渡っている。
 彼ら二人が幼い頃からずっと食事を共にしていた事、ステラがそれを頑なに守ろうとしている事を知っている者もいるだろう。
 マーガレットの発言は全て推測ではあるが、レギウスが反論しないところを見ると間違いではなさそうだ。

「ステラは、このことを?」

「あいつには何も話しちゃいねェよ。全て俺の独断でやった事だ」

「んなっ、そんな――」

「――あぁそうだよ、全部俺のエゴだ。
 あいつを永らえさせるのもその方法を一方的に始めたのもそれら全てを隠蔽したのも俺のエゴだ。
 に壊されて俺に砕かれたあいつの人生を、どの面下げて俺が守るっつってんのか、オマエらに理解してもらおうとは思わねェよ」

 そう言ったきり、レギウスはそっぽを向いた。
 これ以上話す事は何もない、とでも言いたげに。
 しかしマーガレットの言葉は留まらない。
 まるで逃れられない死神の鎌のように、息の根を止めるような鋭さで。

「過去を話すつもりがないのは分かったさ。
 だがねレギウス、過去を詮索してほしくない意思を見せればボクが引き下がると思ったら大間違いだよ。
 話すつもりがないならそうわきまえた上で無神経にも踏み込むのがボクさ」

「……随分とイカした趣味してんじゃねェか」

 マーガレットは不気味に笑むと、よく言われるよ、とおどけた。

「話しぶりからすると、君が彼女の人生を壊した事を彼女は知らないみたいだね。
 どうして知らないのか教えてくれないかい?
 嫌われたくないからかな、それとも罪の意識に押しつぶされそうなのかい?」

「――両方だ、クソ野郎」

「おや、こらえ性のない事で。もう開き直っちゃったかぁつまんないなぁ」

「悪ィかよ」

「いいや、悪いだなんて一言も言っていないじゃないか。
 誰かに傷ついて欲しくないと思い、過ちを悔いて正そうとする者にどれだけの罪がある?
 誰かに生き永らえて欲しいと願い、実現させようともがき苦しむ事にどれだけの悪がある?

 断言しよう、君は間違っちゃいない」

 誰かを慮って生きるという事は多かれ少なかれ自分を殺して生きる事と同義だ。
 過ちがあったとして、それを償おうと必死な者をどれだけ責められるというのか。

「語られていない過去だ、ボクらには知りようがない。
 聞かされたところで納得はできても理解はできない。
 同情はできるが共感はできない。

 言葉なんてそのくらい脆いのさ。
 その程度のものを躊躇うなんて、君は一体何を恐れているんだい?」

 いつだったか、レギウスとマーガレットが初めて会った日の事。
 力にはなるけど味方にはならないよ、と彼女は言っていた。

 そしてレギウスはそれを了承した。

「……何と言おうが、俺から話す事は何もねェよ。

 オマエこそはぐらかしてんじゃねェぞ、今ここで俺とあいつの過去を暴いて何が変わる?
 事前の語りは全てターニャとカイルを味方につけるためだけの雰囲気作りだろうが。
 そうすりゃ俺がべらべら喋ると思ったか? 甘ェんだよ馬鹿」

 レギウスの言葉に、ターニャは笑みを消した。
 しばらく呆けたような表情を作っていたが、突然それは崩れる。

「……ぐっはぁー、ぜんっぜん可愛げないなこいつ! もういいよ、ボクの考え全てお見通しでさー、嫌になっちゃうよまったく!」

「え? は? ど、どういうことなの……?」

「オマエら能天気馬鹿はこの性悪馬鹿に乗せられてたって事だよ」

「そ、ゆ、こ、と。仲間だからって油断禁物だよ?」

 てへ、と舌を出してちっとも可愛くない可愛さアピールをしたマーガレットに思わず脱力するターニャとカイルであった。
 『星を追う者たち』という冒険者パーティはレギウスといいマーガレットといい、一筋縄でいかない問題児ばかりだというのは間違いない。

「もう、何やってんのさ! ステラが大変な時にさぁ!!」

「まぁ落ち着きたまえよ少年。こちとらステラが頑張ってる間は何もできないんだ」

「それにゃ賛成したくはねェが……ま、問題はねェだろ。あいつはこの程度でくたばるようなヤツじゃねェ」

「いやに言いきるね……?」

「当たり前だろ、あいつとどれだけの付き合いになると思ってやがる? オマエらとの一〇倍だぜ?」

 根拠の全くない、レギウスらしくない言葉であった。
 先ほどマーガレットから追求のあった仕掛け、言い換えれば保険とやらが効いているのかもしれない。
 どちらにせよ、ここまで堂々とされてはターニャらもステラが無事解呪を成し遂げる事を祈るしかなかった。



 結局。
 レギウスらの信じた通りに解呪は無事に済み、ステラは自分の身体を取り戻した。
 早急な対処が求められたため術式と解呪についての説明が後回しになってしまったが、どちらにせよそれが理解できるのはレギウスか、辛うじてマーガレットくらいであろう。
 それでも分かった事として、ステラに掛けられていたのはひどく奇妙な術式であったらしい事、そして解呪は奇跡的に間に合ったという事だ。

「はあ……、結構危なかったんだね」

「ったく、本当に人騒がせな馬鹿だ、あいつは」

「今更でしょ?」

 そう言って、カイルは笑った。
 つられるように、ターニャもパウラも笑顔になる。

「しかしだ、これで全てが解決した訳じゃないだろう? 件の死霊術師に関してはどうするんだね?」

「野郎が欲しかったのは術式の『結果』……つまりは使い魔だ。
 ステラにかけていた術式が破壊された事は向こうにも伝わってるだろうよ。
 そうなりゃどういうプロセスで解呪に至ったか、気づかねェはずがねェ。

 つまりはステラはもう用なしって事だ。
 どちらにせよ、こっちは相手の魔力を掴んでる。
 ステラにこれに対する迎撃術式を組み込めばそう大事にはなんねェだろうよ」

 さらりと術式を組み込むと言ってのけるが、同じ魔術師たるパウラが何も言わないところを見ると一般的な手なのかもしれない。
 暗に面倒くさい相手とは関わりたくない、と言っているのかもしれないが。

「婆さん……いや、パウラ」

 改まったように、真剣な表情のレギウスが口を開く。

「……礼を言う。あんたの助力がなけりゃ、あの馬鹿は今頃生きてねェ」

「いや、いや……元はといえば儂のせいじゃよ。儂の実のせいでこんな事になって本当に申し訳なかった」

「何もかも、あの馬鹿の不注意が原因だ。あんたが気に病む事はねェよ」

 レギウスは盛大なため息をついた。

「大騒ぎを起こして迷惑を掛けた、……あぁ、賢者の塔にもだな……悪かった。
 とにかく今後の課題はできた、すぐにでもあいつには対応策を考えるからよ」

 ターニャらはただぽかんとしてその様子を眺めていた。
 珍しく、なんてものじゃない。
 彼がこうして感謝や謝罪を行う光景を見た事なんてなかった。

「そ、それにしても、よく間に合ったよね……?」

「お前さんがたの思いと決断がこの結果を導いたのじゃよ。
 それにステラの諦めぬ気迫と、な。

 ……正直、儂は無理かもしれんと思っとったんじゃ。
 あんな術式は儂らも見た事がない、あまりにも高度なものじゃったからの。
 いやはや、お見事という他ないわい」

「まぁ、そんな特別な事じゃないさ。
 どんな時も諦めない、この命の最期の瞬間まで……それが冒険者ってやつさ」

「おお……ホレるわい!」

 パウラは感心したように言い、冒険者たちは笑った。

「つーかオマエ何もしてねェだろ」

 と、レギウスのツッコミが華麗に入ったところで、パウラは思い出したように辺りを見回した。

「ところで、ステラはどうしたんじゃ?」

「いまは……ジョギングに行ってるね。日課の」

「ほほお! あんな事があったというのに元気なもんじゃなあ!」

「あいつは馬鹿の上にマグロみてェなもんだ。止まると死ぬ」

 大きな仕事を終えて安心したからだろうか、みんなの笑いの沸点が低い気がする。
 早朝の『大いなる日輪亭』に今日も明るい笑い声が響く。

 後日、冒険者たちはパウラから知恵の実と力の実をもらった。
 今度は改良版らしく、両方を同時に食べても副作用は起こらないらしい。
 ただし、食べ合わせの問題は完全に解決した訳ではなく、効果が相殺され消滅するとの事だ。
 要はただのりんごになってしまう。

 パウラ曰く味は確かだという事だが、そこにこだわるのはもはや魔術師の思考じゃない。
 レギウスは冗談めかして大人しく農業でも始めたらどうだと告げると、意外と乗り気だったのはまた別のお話である。
 実際にはその後しっかりと余生まで魔術に捧げる宣言も成されたのだが、結局は味と安全を目指すとの事で台無しだったので記載は控えておこう。


 ちなみに。
 それからしばらく早朝のリューンにはこんな声が響いていたという。

「あ~~~~! 今日もサイッコ~~~~~!! 人間の身体ってすっばらし~~~~い!!!」



【あとがき】
今回の『星を追う者たち』初の五人揃っての冒険はありじごくさんの「賢者の果実」です。
レベル帯を問わないシナリオですが、ルートによっては相当危険な戦いが待っています。
序盤のコミカルさが嘘のようにじわじわと不安感を煽り、そして衝撃の終盤!
周摩もつい最近初プレイしたのですが、こんな名作を今の今までやっていなかったのは損した気分でした!

主人公にはステラを選びました。
そしたら彼女、あまりにもハマってくれてて凄く楽しめました。
ちなみに月歌でやるならチコ、陽光でやるならエリックかなぁ、とぼんやり思ったり。

レギウスたちは解呪ルートを選択しましたが、もう一方のルートでは非常に熱いやりとりが行われます。
しかしここでもコミカルさは失わないという素敵な雰囲気を醸し出しています。
一度は通ってみるのをお勧めします。
周摩としてはもう一方のルートのほうが若干好みだったりします。

あと、そちらのルートで盗賊ギルドに潜入し、盗賊と話すと「もしかして、捨てリスか!?」という台詞が。
惜しい、惜しいよお兄さん、それは確かにステ(ラ)リスだけど……!
と、一人ものすごい笑ってました。

そうそう、最後にもらえる報酬ですが、レギウスたちは黄色を選びました。
たぶん全員一致でそちらを選んだのでしょうね(笑)


☆今回の功労者☆
ステラ。解呪シーンは彼女の独壇場でした(描写なし)

報酬:
なし

戦利品:
【美味なリンゴ】

≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『賢者の果実』(ありじごく様)

今回使用させて頂いた固有名詞
『カンタペルメ』(出典:『劇団カンタペルメ』 作者:柚子様)
『シュレック』(出典:『隠者の庵』 作者:Fuckin'S2002様)


当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

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当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

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