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『蝙蝠屋敷』(1/2) 

「親父、朝飯だ! 美味な朝飯を所望する!!」

「朝っぱらからうるさい男だな……飯ならほれ、用意はできているよ」

 そう言って、宿の亭主エイブラハムは人数分の食事を『陽光を求める者たち』のテーブルまで運んで来る。
 ライ麦パンと根菜のスープというシンプルながらも『大いなる日輪亭』でもトップクラスの味を約束してくれるメニューである。

「冷める前に食えよ。せっかくの料理がまずくなるからな」

「いやいや、親父の飯は冷めても美味いぞ?」

「変な世辞は止めろ、鳥肌が立つ。いいからさっさと食え」

 エリックとしては特に世辞のつもりはなかったが、しかしこのメニューは温かいほうが確実に美味い。
 いそいそとスプーン片手に食事を開始する。
 黙々と食前の祈りを捧げているレティシア以外の面々は、リーダーを放ってさっさと食べ始めていたのはもうこの際だから気にしないエリックであった。

「……あー、飯を食いながらでいいから話を聞いてくれないか。
 実は一昨日の話なんだが、『千羽の白鷺亭』のジェシカが亡くなったそうだ」

「ジェシカが?」

 『陽光を求める者たち』にはその人物と面識があった。
 過去に同じ依頼を引き受ける事となった際に、協力して事に当たった女性冒険者である。

 特にスコットはその仕事に協力した際、彼女と二人で同じ持ち場を担当していた。
 そういう事もあり、たった一度の面識と言えど彼女の事はよく覚えている。
 何よりも、彼女の豪快で男勝りな性格と、――女性に対し甚だ失礼ではあるが――食人鬼オーガのような醜悪な容姿は普通の女性冒険者よりも印象強かった。

 しかし外見に似合わず意外と小まめな性格で、時々スコット宛に手紙を送ってきた。
 内容はといえば依頼の成功話や自慢話が多く、うんざりしてしまう事も多々あったが。
 やはり亡くなったとなればその手紙すら届かなくなる訳であり、それはそれで寂しいものがある。

「なんでも、魔物に襲われたそうだ。今は、彼女の冥福を祈ってやりなさい」

「あー、そうすっかぁ」

 何とも適当な調子でスコットは応える。
 あまりの無神経さにレティシアがきつい視線を向けるものの、スコットは素知らぬ顔をしている。

 そういう世界なのだから、冒険者が死ぬなんて当たり前の事だ。
 他人の冥福を祈る暇があるのなら、まずそれが自分らでない事を喜ぶべきなのだ。
 冒険者が冒険者に祈るなんてのは、僧侶や信心深い連中に任せておけばいい。
 それが、スコットの自論だった。

 とはいえ、全く何も思わなかった訳ではない。
 冒険者ジェシカは醜女しこめであったとはいえ、女性であった。
 女性が若くして命を散らす等、スコットにしてみればもったいない事この上ない。

 スコットは容姿だけで他人を判断する事は決してない。
 彼の目を通して見れば、ジェシカはしっかりとした芯のある立派なレディーだったのだ。
 スコットが祈るとすれば一介の冒険者に対してでなく一人の女性に対してだけだ。

 普段からは想像もつかないくらいに静かな食事を終えると、マリナは依頼の貼り紙を物色し始めていた。
 スコットは優雅に食後の紅茶を嗜んでいるところである。

「お! そうだ大事な事を忘れていたよ。スコット、お前さんに名指しで仕事があったんだ」

「はァ? わしにか?」

 スコットはいかにも訝しがった。
 今は冒険者をやっているとはいえ、かつては山賊の頭領として三桁近い人間を率いていた男だ。
 一般的な目から見れば立派な大罪人である。

 そんなスコットがやたらと目立つような真似を、知りもしない他人から名指しで仕事を頼まれるなどありえない。
 だのにわざわざ名指しする理由、となれば挙げられる可能性はマイナス方面しかない。

「そう邪推するな、指名相手は治安隊第三部隊隊長シャラン殿だ」

 リューン暮らしの短いスコットであっても名前ぐらいは聞いた事がある、街でも多くの人が絶賛する人徳者。
 その人物から名指しで仕事を頼まれたというだけでもかなりの自慢になるかもしれないほどだ。
 無論、それは一般的な冒険者にだけ適応されるもので、アウトローなスコットやガイアには関係のない話ではある。

「邪推するなってほうが無理じゃろ、そんなもん」

「捕縛目的ならわざわざ偽装の依頼なんて使わんだろ。
 そもそも名指しはお前さんだが、依頼は『陽光を求める者たち』に来ている。
 エリックはともかく、レティシアやクロエが罪に問われる事なんてないだろう?」

 ともかくとは何だ、と正当なツッコミを入れるエリックであるが、彼も夜な夜なチンピラ狩りを行っている変人だ。
 治安隊のお世話になった事は両手の指では数え切れない。

「実は数日前に話を伺っていたが、お前さんたちもここ数日仕事で帰ってこなかっただろう。
 そのせいか、俺もすっかり忘れていてな」

「薄気味悪ぃな……ちっとも狙いが見えねぇ」

「細かい事情は俺も知らんが、最近のお前さんの仕事振りが治安隊にまで届いているって事なんじゃないか?」

「おお、物凄ぇ前向きに置き換えたな。こちとら街中じゃあ手前の存在をひたすら隠蔽したいってのによぉ」

「ところで、仕事の内容は?」

 スコットは尚もぶつぶつ言っているが、マリナはお構いなしである。
 依頼、それも治安隊という大規模な機関からの名指しとあれば断る理由はまずない。
 とはいえ内容の吟味はしっかりとやらねば足元を掬われかねない。

「郊外の山奥にある廃屋に住み着いた蝙蝠を追い払って欲しい、との事だ。
 場所や賃金等の詳しい話は詰め所で話したいとか」

「ふぅん、内容は普通すぎるくらいに普通ね」

「……で、だ。
 実はついシャラン殿に格好つけて『請けさせます』って言ってしまったんだ。
 俺の、ひいては宿の面子を立てる上で受けてくれないかね?」

「はぁーっ!? てめっ、親父! 何を勝手な事をぉ!!」

 下手すればいつも以上に命の危険のあるスコットはわめき散らす。
 あくまで依頼の諾否は冒険者に権利がある。
 たとえ宿の亭主であっても不可侵な権利のはずだ。

 しかし宿の亭主としても言葉通り格好だけで安請け合いした訳では決してない。
 数週間前に、ここ『大いなる日輪亭』の専属冒険者である『月歌を紡ぐ者たち』が聖北教会からの依頼を見事完遂している。
 聖北教会といえば西方諸国でも最大規模を誇る機関であり、これを完遂した『月歌を紡ぐ者たち』の看板冒険者の座は不動のものになった。

 しかし宿の亭主は彼らだけが目立ってしまい、他の冒険者が萎縮し距離を置いてしまうのを恐れている。
 故に、聖北教会には劣るもののリューンでは相当に巨大な機関である治安隊からの依頼が、それも名指しで来ているのだからこれを逃す手はない。
 この依頼を『陽光を求める者たち』が完遂すれば、わずかに及ばないとしても『月歌を紡ぐ者たち』と張り合えるほどにはなるはずだ。

「もちろん請けるわ。こんな大口の依頼、滅多にないでしょ」

「ちょっとマリナさーん!? わし! わしの意向はぁ!?」

「スコットには我慢してもらうわ。というか、しなさい」

「理不尽すぎるぜこの冷血女!」

 しかしスコットの味方をするのはガイアくらいなもので、結局は依頼を請ける流れになってしまった。
 『陽光を求める者たち』はまだまだ安定とは程遠い、どこにでもいるような冒険者だ。
 以前請けた好事家の依頼を結果的には失敗した事により、殊更に売りとなる名声が欲しいところなのだ。

「ま、何かあっても大丈夫だろ、平気平気」

「適当な事言ってんじゃねーぞ正義の味方さんよぉ!」

「ガイアがいれば十分だろ?」

「あぁそうだがよぉ、万が一ってのがあるんだよ!
 つーか無理!
 相手の狙いも分からんのに予防策もなしに飛び込むとか鳥肌立つわい!」

 ぎゃあぎゃあとわめき続けるスコットをなだめて、ようやく『陽光を求める者たち』は宿を出た。
 色々と時間を食ったせいで、治安隊の詰め所に到着した時にはもう、日は高く昇っていた。
 『陽光を求める者たち』は、軽い身分証明を済ませるとすぐに奥の部屋へと通される。

 立派な執務室のデスクの向こうから、黒々とした髪がまだまだ現役であると印象付ける初老の男が一行を出迎えた。
 渋々、といった風にスコットは一歩前に出て、軽く挨拶を交わす。

「ども、何故かご指名されたスコットです」

「おお、君が……最近の活躍ぶりはよく耳にするよ。
 ぜひ私も君の力にあやかりたいと思ってね。

 っと、自己紹介が遅れたな。
 私はジェームス=シャラン、リューン治安隊第三部隊の隊長を務めている。
 聞きたい事は色々あるだろうから、遠慮なく聞きたまえ」

「んじゃ早速。なぁんでわしなんじゃい?」

「別に他意はない、ただ単に街角での高い評判を聞いてね。
 『大いなる日輪亭』のマスターに無理強いして君を雇えるように頼み込んだんだ。
 こうして面会できる機会があっただけでも嬉しく思うよ」

「……ほうほう、それはそれは。わしも人徳者と名高いシャラン殿と会えて光栄ですわい」

 そう言って、スコットは意外なまでに爽やかに握手を交わした。
 心なしかいつも以上に口の端がつりあがっているようにも見えるが。

「依頼の話をしても?」

 マリナが急かすと、シャランは咳払いひとつして口を開いた。

「我々第三部隊の管理地域である、とある山奥の廃屋に蝙蝠が住み着いてね。
 今はその近隣のみだからまだ心配事はないが、こういった人が多く住む街に夜間に飛行されてきては住民から苦情が来てしまう。
 その前に芽を刈りたい訳だ。
 しかしそんな事で治安隊を動かす訳にはいかなくてね、君たちの力を借りる事にした」

「……、では報酬はお幾らで?」

「銀貨六〇〇枚を考えている。
 蝙蝠を追い払うのみの仕事ゆえに大枚は出す事はできない。
 しかし、仮の話……あの廃屋に君たちの今後の冒険に役立つ何かがあるならば持って行っても構わないよ」

 特に依頼の内容や報酬に変わったところはない。
 蝙蝠を退治する目的も事前対応であり、凶暴化だとか変異種だとかの危険性を考慮してのものではない。
 報酬も一般的なもので、追加として与えられた権限も場所が山奥の廃屋となればそうおいしいものではないだろう。

 つまりは至って普通の依頼である。
 治安隊から直々、という要素がなければ請けたかどうかも怪しい内容だ。
 とはいえたったそれだけの依頼をこなすだけで治安隊からの信用を得られるのなら安いもの。
 今度ばかりはスコットも対して反対はしなかったので、エリックは依頼を請ける旨を伝えた。

「隊長、このような時にすみません。先日の会議の件で……」

 いざ出発しようとした矢先、ノックもそこそこに一人の青年が書類を手に部屋に入ってきた。
 平時より鎧を身に纏い剣を腰に吊るした姿から、彼も治安隊の隊員なのだろう。
 いかにも真面目そうな好青年だ。

「なんだレグルス! お前は空気を読むとか……待てよ、ならば丁度いい」

「丁度いい、とは?」

「いや、よく考えれば現地は深い山なのだ、案内役がいると便利かと思ってね。
 そういう事でレグルスよ、例の屋敷へ冒険者殿たちと同道しろ」

「この方たちと……? 分かりました、任務となればお受けしましょう」

 二つ返事で承諾した青年は、改めて『陽光を求める者たち』へ向き直る。

「……改めて。私はレグルスです。短い間ですが、よろしく頼みます」

「いんや、こちらこそ」

 軽く挨拶を交わした後、レグルスは用意をすると言って部屋を出て行った。
 もともと緊急出動が基本の治安隊であり、その準備は素早かった。
 彼を先頭に、リューンの街を離れて国境線上となる深い山道へと一向は足を進めていく。
 曰く、人の手があまり入っていない山道ゆえに、少しでも道を外し迷う事になれば縄張りを荒らされた事を腹立てる獣たちに襲われる事も少なくないらしい。

「そんじゃ道案内頼むぜぇ、獣にゃ襲われたくねぇからのう」

 スコットの笑みは、ただただ厭らしかった。



 日が傾き始めた頃、ようやく少し拓けた地に出た。
 そこで一行の目に映った光景。
 それは村と例えるには小さすぎる、数件の平屋が連なる集落であった。

「……それにしては」

「静か過ぎる」

 こんな人が来ないような山道の集落とはいえ、人の気配を全く感じない。
 そう、それはどの家からも同様だ。

「……例の蝙蝠屋敷はこの先だと聞いたが」

 ガイアの問いに対し、レグルスは肯定した。

 『陽光を求める者たち』は互いに顔を見合わせる。
 ここですら十分に山奥であり、街からは相当離れている。
 これより更に山奥にある屋敷に棲む蝙蝠が、遠く離れたリューンの街まで荒らしに来るだろうか。
 それとも、シャランの言う『街』とはこの集落を指すのだろうか。

 答えは否、だ。
 それならば『まち』、正式に言うならば『街』という表現はありえない。

「ほーん……」

 スコットがマイペースに列から一人離れ、大木の下の草の根を掻き分けている。
 そこには『何者か』がこの道を通り、どこかへと向かった形跡がある。
 その形跡というのは、道を作る為であろうと思われる、一部の草木に刃物で刈られた鋭い切り口である。

 一般的に考えれば、刃物をこうも理知的に扱えるのは人間あるいは知恵を持つ上級の妖魔のみ。
 つまり、この先にいるのは。

「何をしているんです!
 先ほども説明したでしょう、この先には飢えた獣たちが多数いるんです!
 貴方たちには大事な仕事がある、それを忘れて何をしようとしているんですか!?」

 レグルスの叱責が飛んだ。
 だが、当のスコットは涼しい顔で彼に向き直る。

「確かにのう、そうは聞いたがよく考えてみい。
 この獣道はどう見ても人工的に作られておる。
 つまり何かの異変に気づいた『生き残り』がこの先に避難した可能性だってあるんじゃぞ?」

「……貴方の推測が仮に合っていたとしても何度も言うように飢えた獣にやられている、そうに違いありません!
 とにかく、私は依頼人シャランの代理人でもあるんだ!
 その私の命令に逆らう事は許せない!」

 レグルスのあまりに強すぎる反対意見に対し、他の面々は神妙な――あるいは訝しがる――顔を隠せなかった。
 彼らの表情を見て、レグルスははっと我に返る。

「……すみません、言い過ぎました。
 仕事だけを優先してほしい、ただそれだけなんです。
 その後であればお好きなだけどうぞ、止めはしません」

「そぉーかい。じゃったら後でたっぷり調べさせてもらうとするぜ」

 飄々とやり取りするスコットは、相変わらず厭らしい笑みを浮かべたままだ。
 この時にはすでに治安隊ぐるみで何かを隠している、という疑惑は『陽光を求める者たち』に伝播していた。
 反対意見を誤魔化すように足を早めるレグルスの跡を、『陽光を求める者たち』が追いかける。
 先ほどとはわずかに距離を置いて、である。

「あら、これって……」

 その途中、とある家屋を通りかかった時だ。
 マリナが指差した先にあるのは、その家屋の外壁にある『不審な染み』。
 どす黒く変色してはいるが、その飛び散り方と生々しさにはひどく心当たりがある。

「……血痕ね」

「――噂は本当だったのか!?」

 突如レグルスが声を荒げた。
 その様子にエリックが首を傾げると、レグルスは腕を組みため息交じりに説明する。

「今から向かっている例の蝙蝠屋敷には、蝙蝠だけではなく何かが棲みついている噂があったんです。
 言いにくいのですが一説によると吸血鬼かもしれないと……確かに蝙蝠と吸血鬼は関連性深いですしね」

「ほーう、吸血鬼とな。そりゃ結構な相手じゃが……あんた随分と冷静じゃのう。わしゃもうビビッて夜中に一人で便所行けねぇよ」

「ま、まあ……所詮噂ですよ。
 その為、というのもおかしい話ですが、冒険者である貴方たちを雇ったのが本筋なのです。
 その噂を確かめてもらい、出来得る事なら排除してもらう……しかし、こうなってしまう前に助けられなかったとは……!」

 いかにもレグルスは悔やんだような表情を作る。
 そう、
 少なくともスコットやマリナにはそうであるようにしか見えない。

 吸血鬼。
 それが本当であれば現状の『陽光を求める者たち』で太刀打ちできるかどうかは微妙なところである。
 そもそも本来の依頼の内容に『吸血鬼の討伐』なんて文言は一言も入っていない。
 噂だと言い繕っておきながらその裏を取っていない事、意図的な情報の隠蔽が行われていた事は事実である。

 そして、血痕の他にも気になる点がある。
 血痕と共に外壁には傷跡が存在した。
 それは鋭利な刃物によって付けられたような、そんな傷だ。

 吸血鬼が極めて人間に近いタイプで剣を振り回す可能性もないとは言えない。
 根拠もなく人里を襲うような知能が足りていない吸血鬼が、わざわざ武器を使って人を襲うだろうか。

 ありえない、と断じるのは簡単だ。
 しかし、そうとなれば違う問題が生じる。
 では、誰が何の為にやったのか。

「おっと、この家は開いとるのう」

 スコットは言いつつ、端の一軒の扉を開ける。
 家屋の中を覗いてみるも、やはり誰もいない。
 不可解な情報のみが錯綜するこの村での調査は極めて重要だと判断したスコットは、屋内へ向けて足を踏み出す。

「……貴方がた冒険者は盗賊まがいの行動もするんですか?
 治安隊の隊員として、家屋の不法侵入を見逃す訳にはいかないですね。
 戻り次第、隊長にこの行為を伝えますがそれでもよろしいですか?」

「あんたクソ真面目じゃのう。隊長殿があんたを同行させた本当の理由は『監視』かと疑うてしまうわい」

「………………」

「ま、この手の事はわしら冒険者に任せておけい。
 そもそも見ろ、この村はどっからどう見ても廃村状態じゃねぇか。
 むしろ屋内に虫の息の人間がおったらどうする、ここには怖い怖い獣が潜んでる訳じゃあねぇんじゃろ?」

「……ふぅ。何がそこまでそうさせるのか分かりませんが」

 と、前置きした上でレグルスは進入の許可を出した。
 ただし自分が立会いの元である事、金品・貴重品の窃取は絶対に禁止とする事を条件として提示した。
 無論、スコットは二つ返事で承諾する。
 そもそもこの村に金品や貴重品なんかを期待していない、する訳がない。

 一行は屋内に入り、その内部を見渡した。
 だがこれと言って荒らされた形跡がある訳ではなく、ここ数日前まで普通に人間が生活していた跡が見られる。

「……ふん」

 スコットは床の隅に落ちていた、乾いた一枚の葉っぱを目聡く見つけて拾い上げた。
 細長く側面にぎざぎざがあり、網目状の葉脈。
 紛れもなく『麻』である。
 コカよりも中毒性は弱く、規制も比較的緩い薬物であるマリファナ。

 このような山奥なら原生の物がある可能性がある故に嗜好品として嗜んでいた可能性はある。
 が、少しでも道を外すと獣に出くわすほどの危険な山だとレグルスは語っていた。
 だとしたらこの村のように獣の通り道でない場所か何かで『栽培』しているのではないか。
 となれば一体何の為に、またその栽培場所はどこに存在するというのか。
 それ以前にこの集落は一体何故、数件ぽっちのあまりにも小さすぎるにも関わらず村として存在していたのか。

 いや、正しくは思い当たる節がない訳ではない。
 むしろ推測がつくほどである。
 が、この事をレグルスの前では言えるはずがない。

「……何かあったのですか?」

 スコットがマリナやクロエとアイコンタクトを取っていると、不審に思ったのかレグルスが近づいてきていた。
 ごく自然な動作で、スコットはそれを自分のポケットへとしまい込む。

「見た感じ金品などではなかったようですが、皆さん集ってこそこそしているので……」

「いんやぁ、大した事じゃねぇよ。とりあえずこれ以上気になる点はねぇなぁ」

 意外と目聡い、のではないだろう。
 スコットは厭らしい笑みにニヤニヤとした粘っこいものを付け加え始めた。

 調査は十分だと判断した事で、レグルスは一行を急かすように先へ進んだ。
 それから一刻ほど歩いただろうか。
 ようやく仕事の場所となる屋敷へと到着した。
 長年使用していないせいだろうか、屋敷の外壁は無数の蔦で覆われ、一部には亀裂が入っている。

 いざ、と扉へ手をかけ、ゆっくりと開いていく。
 その途端、暗闇の向こうから幾つもの黒い影が飛び出してきた。


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周摩

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