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『森の追跡者達』(1/2) 

 交易都市リューンから西に四日ほど移動した先にある晴藍せいらん渓流。
 とある噂を聞きつけたレギウスはそこにただ独りで向かっていた。
 険しい道のりで疲れた身体が、美しい渓流とその水飛沫で心身共に癒されていくようだ。

「ああら、お客さん?」

 白魚のような白く美しい足を揺らして、渓流の飛沫をぱしゃぱしゃしているエルフが、こちらを振り返って言った。
 エルフという種が元より美しい造形をしていると言ったって、このエルフは特別な魅力を醸し出している。
 いや、これは魅力という大雑把な括りでまとめてはいけないものだろう。
 魔術に造詣が深く、魔力に敏感なレギウスはそう感じた。

「ようこそ、ヘルブラウランツェの裔を預かるティンダーリアの元へ……とはいっても、もう里はないのだけれど。 歩き疲れたでしょう? ウンディーネとシルフィードに癒されながら座ってなさいな」

 自らをティンダーリアと名乗ったエルフは、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
 その笑みは彼女に心を開くのに一切の抵抗を無くすほどの威力を秘めていたのは間違いない。
 辛うじて踏みとどまったのは、彼女の背後に佇む多種多様な魔獣・精霊の群れを見てしまったからだ。

「ああ、この子たちを警戒してるなら心配しなくても大丈夫。みんな、あたしが召喚の仮契約を済ませて面倒みてるから」

「召喚……、てぇ事は精霊術師なのか?」

「ええ、ただのエルフの精霊術師よ。他のエルフよりちょっとだけ水や氷の精霊と仲がいいの。……昔は、あたし以外にももう少しいたんだけどね」

 最後にそう付け加えたのは、後悔からか回顧からか。
 わずかも経っていないのにレギウスの身体からはほとんどの疲れが吹き飛んでいた。
 さっき何気ない風に使役したウンディーネとシルフィードの力なのか。

「ただの、ねェ……」

 レギウスは晴藍渓流のそこかしこで寛ぐ魔獣・精霊の群れを眺め、

(現界させたまま侍らしておくなんざ只者じゃねェな……)

 これほどの数の魔獣・精霊を使役できるだけでもとんでもない。
 もし彼らの実力を同時に最大まで引き出せるのだとしたら、それだけで国ひとつが落とせるほどの力を秘めているだろう。
 もっとも、精霊術師本人にそのつもりは全くないのだろうが。

「俺は噂を聞いてここに来た」

「あら、どんな噂なの?」

 くすくす、と口元を隠してティンダーリアは笑んだ。
 試しているのかと勘ぐったが、どうにもそんな感じはない。
 ただ純粋に噂の内容が気になるのだろう。

「『晴藍渓流に不思議な獣を引き連れ、銀貨と引き換えに冒険者と獣の仲立ちをする美形のエルフがいる』って感じだ……獣ってのは精霊の類なんだろ?」

「あらやだ美人だなんて。そうよ、後ろの子たちはみんな精霊……異界より召喚された者たちなのよ」

「見たところどいつもこいつも高位の精霊みてェだが、どうして自ら契約を切る?」

 ティンダーリアは長くなるから噛み砕いて話すね、と前置きして、

「あたしは里を離れてから、あっちこっちを旅してきたんだけど。
 その時に、精霊術師の徴を持っていない相手でもいいから契約を結びたいって召喚獣に出会ったの。
 とは言っても、あたし独りじゃ契約できる数には制限があるし、いっそここに来られた人を対象にしてみたら、って思った訳なのよ」

「なるほどな、平たく言やぁ物好きの集いって事か」

「君、平たく言いすぎよ」

 そう言って、ティンダーリアは柔和な笑みを浮かべた。

「それじゃ遠慮する事はねェな」

「あら、契約したい子がいるの?」

「ざっと見回してみたが……気に入ったのはソイツだな」

 レギウスが指差した先には漆黒の毛並みの獣が寝転がって寛いでいた。
 姿こそは一見獅子のような姿だが身体の各所に走る赤いラインは脈打つように淡く光っているところを見ると、火炎の属性を持つ精霊なのだろうか。

「東洋の火鼠、またの名を火光獣。……ちょっと分野が違いすぎてあたしも詳しくは知らないけど、その皮は火を寄せ付けないって伝説があるわね」

「……火鼠の皮衣か」

「そう。知ってるの?」

「少しな」

 苦虫を噛み潰したような表情で、レギウスは息を吐いた。
 というのも『火鼠の皮衣』とはこの場所の存在を知る少し前に関わったばかりなのだ。
 思えば、その時に得た銀貨の後押しもあってここに足を運んでいるというのもある。
 運命という言葉で片付けるのが不可能なほどに、あまりにも整いすぎていた。

(きな臭ェな……)

 レギウスはとあると深く深く関わっている。
 まさか今回の件をそいつが引き寄せたとは思わないが、それでも警戒してしまうのも無理からぬ事だろう。

「火を扱うだけあって、結構残酷な性格なの。ただ、彼に主人だと認めてもらえれば守ってくれるわ」

「……正解か」

 そう、ぽつりと呟いた後、レギウスは契約の意志を見せた。
 支払った対価を受け取り、にっこりと笑んだティンダーリアは早速儀式の準備を始めた。
 儀式と言っても堅苦しい形式ばったものではなく、身体の一部に契約のしるしを刻むのみである。

『主の敵は我が敵、この炎をもって焼き滅ぼさん。主よ、行こうではないか』

 契約の儀式が終了した後、火光獣はそう語りかけてきた。
 その声は音として認識されず初めから文章として頭の中で処理されている。
 契約者のみと繋がる精神感応テレパスの回線だろうか。

「ああ、近々その力ァ見させてもらうぜ」

『構わぬ。我が力、存分にその目に焼き付けるが良い』

 ふん、と火光獣は鼻を鳴らした。
 誇り高き魔獣は意気込んでいるものの、やってもらう仕事といえばステラのお守りだ。
 ステラがリスに変化させられた事件以来、探していた対策のひとつである。
 魔術的な手段への対抗策とはならないものの、物理的な脅威に対しては一定の成果が上がるだろう。

 後日。

「よろしくね~! え、名前つけていいの? えっとね、えっとね……じゃあ君の名前は『ポチ』だよ~!」

 火光獣は新たな主人であるステラに、まるで犬に付けるような名前を頂戴したのはまた別の話。
 ちなみに獅子は猫科である。
 哀れ。



『――改名を要求する』

「面倒くせぇ却下」

 火光獣もといポチの何度目かの改名要求をさらりと跳ね除けた。
 見るからに気を落とした風のポチを尻目に、レギウスは今日の依頼を吟味する。
 近頃は依頼の質が悪い気がする。

 というのも、彼らの常駐する『大いなる日輪亭』の看板冒険者である『月歌を紡ぐ者たち』がつい数週間ほど前まで一時的に解散状態にあったからだ。
 一定以上の評価を得ている『月歌』が不在となれば別の宿に、と流れていった依頼も少なくないだろう。
 それがレギウスは気に入らなかった。
 何も『大いなる日輪亭』の専属冒険者パーティは『月歌』だけではない。

「駄目だねぇ、イマイチだよ。そっちはどうだい?」

 依頼の貼り紙を逆側から眺めていたマーガレットは肩を竦めていた。
 その表情は一応聞いてはみるが期待はしていません、といった雰囲気の笑みを湛えている。

「こっちもだ。ロクなモンねェな」

「うまい話なんてそうそう落ちてないとは言えねぇ、それならいっそ請けないほうがまだマシだよ」

「おいおい、あまり依頼を選り好みするんじゃない」

 けらけらと笑いながらそんな事を言うものだから、さすがに耐えかねたのかカウンターの向こうから宿の亭主エイブラハムが苦言を呈する。
 宿の亭主が冒険者とは何たるかを説教しようとした矢先、入り口の扉がベルを鳴らした。
 そちらに目を向けてみると、白銀の甲冑を身に纏った若者二人が物珍しそうに店内を見回している様子だった。
 甲冑の胸にはリューン治安隊を示す紋章が光っている。

 どうにも一見の客らしく、宿の亭主は説教を切り上げてそちらの対応へと回った。
 二言三言交わした後、その視線が『星を追う者たち』へと向けられる。
 治安隊の若者二人もこちらに気づいたようで、人当たりのいい笑みを浮かべつつ『星を追う者たち』が占領しているテーブルへと近づいてきた。
 いかにも真面目そうな茶髪の青年が一歩前に出て口を開く。

「はじめまして、僕はセイル。リューン治安隊に所属しています。こっちは同僚のジェド」

 ジェドと呼ばれた黒い癖っ毛の青年は、ぶっきらぼうに会釈だけで済ませた。
 どうにも冒険者にあまりいい印象を持っていないらしいが、こういう手合いをいちいち相手したところで銀貨は得られない。
 『星を追う者たち』は適当に自己紹介を済ますと、早速とばかりに依頼の話を求めた。
 すぐさまセイルは貼り紙に使う依頼書を取り出し、レギウスへと手渡す。

「森へ逃げ込んだ脱獄犯の逮捕、ねぇ……」

「リューンの治安を守る我々にとって森の危険は未知の脅威です。
 そこでその危険に対抗できる冒険者の方々の力をお借りしたいという訳です。
 我々としてはできるだけ早く脱獄犯の追跡に移りたいので、できればこの場でお返事を頂きたいのですが」

「いくつか聞きてェ事があるが質問しても構わねェか?」

 レギウスの問いに対し、セイルは快く首を縦に振った。

「まず森ってのはどこだ。危険度は?」

「脱獄犯が逃げ込んだ森はリューン南西の郊外に広がる『アウザールの森』と呼ばれる場所です」

「『妖魔の森』かぁ、なかなか面倒なところに逃げ込まれたものだね」

 アウザールは通称『妖魔の森』と呼ばれる森だ。
 それほど大きくはないが、古来より猛獣や妖魔の類が棲み付いており、地元の人間は滅多に立ち入らない場所である。
 冒険者でも手に負えない魔物が出た、という情報はないが危険である事には変わりない。

「二日前の夕暮れに森に入っていくのを近隣の住民に目撃されています」

「だとしたら今も森に留まっている保証はないね?」

「その通りです。しかしそれ以降の目撃情報はありませんし、森を捜索する価値はあると思います」

 聞き込みには随分骨が折れたんだ、とジェドがあとを引き継いだ。
 目撃情報が途切れている以上、森に入って痕跡を探す他ない、というのが治安隊の意見らしい。

「そうしてまで追ってるその脱獄犯ってのは誰だ?」

「ドラクロワ、という名に聞き覚えはありますか? リューンを根城に四件の殺人をはじめ、強盗、強姦、放火等、救いようのない悪党です」

「あぁ、裁判で斬首刑が決まってたってヤツか。何だよ、脱獄を幇助した仲間でもいたのか?」

「おそらく無いでしょう。過去の犯行は全て単独のようですし、仲間がいるという情報もありません」

 それほどの凶悪犯に、それも単独で脱獄されたとあっては治安隊の信頼に影響するのだろう。
 わざわざ冒険者に依頼してくるのも頷ける。
 しかし治安隊の管理する刑務所からたった独りで脱走するほどの手腕を持つ相手だ。
 単なる脱獄犯だとタカを括っていては痛い目を見る可能性がある。

「報酬は貼り紙にもある通り銀貨五〇〇枚です。治安隊の台所事情も楽ではありませんし、我々としても時間が惜しい。申し訳ありませんが、交渉には応じられません。ただし森の捜索が終われば脱獄犯の逮捕の成否に関わらず報酬をお支払いする事を約束します」

 森の危険度を差し引いても上手くいけば――否、下手すれば――事を構えずに銀貨五〇〇枚の仕事になる可能性があるのは魅力的ではある。
 脱獄犯ドラクロワが森に入ったのは二日前であり、通常であればまず追いつけるはずがない
 何しろこちらは手がかりを探しながら移動しなければならず、ただ距離を離せばいいあちらとは致命的なスピードの差があるからだ。

 結果的にこの依頼は森の探索、及び低級妖魔や獣とやりあう事になるはずだ。
 今回からは火光獣もといポチが戦力として加わっているため、いつもよりは有利に戦えるだろう。
 ポチもたまには暴れさせてやらないと名前の件で鬱憤が溜まりすぎているかもしれない。

 依頼を請ける旨を伝えると、セイルとジェドは支度をすると言い残して治安隊詰め所に戻った。
 正午きっかりにアウザールの森の入り口で落ち合う事になったレギウスらは適当に食事を摂って装備を整えた後、『大いなる日輪亭』を発った。



「評判通り薄気味悪い森だね」

 『星を追う者たち』の眼前にはじっとりとした湿気に包まれたアウザールの森が広がっている。
 森の入り口付近に立てられた札には危険を知らせ、立ち入りを厳しく戒める旨の記述が施されていた。
 人が寄り付かないという前評判通り、整備どころか道らしい道すらない。

「見たところあんまり大きな森じゃないけど、捜索には骨が折れそうだよね」

「その点に関しては心強い助っ人を連れてきましたよ。紹介します、ジャックです」

 少し遅れてやってきた治安隊の二人が連れていたのは一頭の狩猟犬だった。

「ワンちゃんだ! お~よしよし」

「彼にはドラクロワのにおいを覚えこませてありますから、追跡は彼に任せてください」

「へぇ、こいつは頼りになりそうだね」

「どっかのコソ泥小僧よりもな」

「一言多いやい、バーカ!!」

「気にすんな、火光獣ポチよりマシだ」

『主よ、我が力を犬程度と比べてくれるな』

「どうでもいいがオマエ、犬脅かすんじゃねェぞ」

 そんなやり取りをしつつ、『星を追う者たち』はジャックを先頭に追跡を開始した。
 この森は『妖魔の森』と揶揄されるほどには危険な場所である。
 のんびり探索しながら追跡していては危険度は雪だるま式に積み重なっていく。

 故に、追跡は迅速に行わなければならない。
 かといって道中の警戒が甘ければそれでも危険度は増す。
 結局はどちらも立たせながらぎりぎりの許容ラインを見極めながら進まなくてはならないのだ。

「広い森だ。僕だけじゃカバーできる範囲にも限界があるから、みんなも後方の索敵くらいは頼むよ?」

 ジャックとそのリードを取るセイルはあくまでカイルの指示したペースで進んでいく。
 殿しんがりはレギウスとマーガレットが務め、火光獣の傍にステラとマーガレット、ジェドが後詰として左右を警戒する。

 ドラクロワの痕跡は直線的に残っていた。
 森を突っ切ろうとしている人間がわざわざ回り道する道理はない。
 しかし、急に行き先を変えたらしい。

「水の音がするね~」

 野生児ステラの耳には川か湖が行き先の方角にある、との事だった。
 無論、他の誰にも半信半疑であったが、やがて行き着いた先に大きな湖が広がっている事でその認識を改めた。

「どうやらドラクロワはこの湖を渡ったようですね」

「そうみたいだ。ほら、そこに船の残骸がある。きっと自分が乗る分だけ確保して他のは壊しちゃったんだよ」

「泳いで渡れる距離ではありませんね……かと言って湖に沿うように迂回するとなればそれこそ日が暮れてしまう」

「その辺探してみよう。船着場はここだけじゃないかも。……あとさ」

 カイルは口元に人差し指を立てて、

「いるよ、何かが……」

 そう、小声で言った。
 『星を追う者たち』だけでなく騎士二名も察したのか、無闇に辺りを見回すような真似はしない。
 気づいていない振りをしながら、どうにか気配を探ろうとする。

「用心深くこちらの様子を窺ってるみたいだね、かすかな気配しか感じない」

「……ドラクロワでしょうか?」

「複数人の気配がするし、どうだろうね? ただ、ここからはちょっとした隙が命取りになるからさ、無闇に孤立しないほうがいいと思う」

 騎士たちもこの提案には賛成の様子だった。
 そもそも森での探索は冒険者たちに一日の長がある。
 郷に入っては郷に従うべきだと判断したのだろう。

 一行はつかず離れずの距離を保ちながら湖沿いに探索を続け、やがて一隻の舟を見つけた。
 どうやら補修の為に場所を移してあったようで、手入れは行き届いている。
 これを借りていざ対岸へ、と洒落込みたかったが、ここで解決すべき問題が存在する。

「こっちを探ってるその気配とやら、舟を出す前に片付けておくぞ」

「だねぇ。舟出してからだと狙い撃ちされるのが目に見えてる」

 カイルはこくりと頷くと、探索の振りをして範囲を後方の森へと広げていく。
 やがて、ハンドシグナルで索敵の結果を伝えた。
 種はコボルト、数は六。
 さほど強力な妖魔ではないが、少し数が多い。

 万全を期す為に、レギウスはターニャに目配せしつつ呪文の詠唱を始めた。
 対するターニャはリュートを取り出し、ふと気づいたように騎士二人に向き直った。

「騎士さんたち、ちょっと耳とじてもらっていい?」

「は……、耳を、ですか?」

「疑問に思うだろうが、やっておいたほうがいいよ。騎士様の職務中の居眠りは罰則モノ、だろう?」

 くすくす、と厭らしく笑むマーガレットを不気味に思いつつ、騎士二人は両手で耳を塞いだ。
 ジャックの耳もステラが塞いでいる。

「《裂き散らし風は鳴く、血飛沫上げる刃の走りを》……《断て》!」

 レギウスの放った【風の刃】がコボルトの集団に切り込んで行き、戦いの火蓋が切って落とされた。
 コボルトたちは思い思いの武器を手にこちらへ走り寄ってくる。

 それを確認してから、ターニャはリュートを弾きはじめた。
 優しい音色が奏でるのは明るい曲調の呪歌、それに乗せてターニャの歌声が森の中へ染み込んでいく。

「……!!」

 【妖精の歌】と呼ばれるその呪歌は、聴く者を眠りへと誘う力を持つ。
 ターニャ自身や『星を追う者たち』はすでに効果範囲から逃れる為の呪を刻まれていて、騎士二人は耳を塞いでいる。
 必然、その歌声に聞き入った妖魔たちは強烈な眠気にその体勢を崩した。

 数で劣る集団が一時的にも行動を封じられてしまえば結果は火を見るより明らかだ。

 真っ先に飛び出したのは火光獣である。
 鋭い牙でコボルトの一体の喉笛を食い千切り、更に死体には火が飛び散った。
 続いたステラがふらついたコボルトを槍の柄で叩いて位置を調整すると、ど真ん中に切り込んだマーガレットの大鎌がコボルトの頭をまとめて刎ね飛ばした。

「ひゃー、爽快爽快。こうも見事に決まると気持ちいいもんだね」

「悪趣味野郎め。まぁ、俺は楽できて結構だがよ」

 陽気に得物の血を拭うマーガレットを眺めながら、騎士二人は唖然としていた。

「コ、コボルトを見たのも初めてだが……」

「これほど滅茶苦茶……、いや破天荒な戦いを見るのも初めてですよ」

「オイ、ドン引きされてんじゃねェか」

「えー、やだなぁ心外だ」

 マーガレットは頬を膨らまして不満そうであるが、ちっとも可愛くない。
 むしろ顔色の悪さと相まって非常に不気味である。
 ともあれ、後顧の憂いを絶ったのであれば先を急がねばならない。
 一行は舟に乗り込み、対岸を目指して漕ぎ出した。

 警戒を解く訳にはいかないが、見晴らしのいい舟の上であれば奇襲の方法は限られている。
 先ほどの戦闘によって妖魔を倒した事もあってか、ある程度の精神的余裕が出たらしい騎士はぽつりぽつりと雑談を始めた。

「……やはりというか、ドラクロワは森を突っ切る腹のようだな」

「ああ、ひょっとしたらもう森を抜けているかもしれない」

「ちなみにドラクロワが森を抜けていた場合はどうなるんだ?」

「森の反対側は我々の管轄外ですから手出しができなくなります。あちら側の治安隊に追跡を依頼してこの件は終わりになるでしょう」

「くそっ、そうなる前に何とかオレたちの手で……!」

 ジェドが固く握り締めた拳を自らの膝に振り下ろしたその時だった。
 突如、対岸の森の中から高い笛の音が響き渡る。
 同時にコボルトの一団が弓矢を手に姿を現した。

「待ち伏せか。犬頭の割には賢ェな」

「ヘイ。ヘイ。冷静なのは結構だけどさ、このままじゃ格好の的だぜ。結構ヤバい状況じゃん、どうすんのさ」

「当然突っ切る。このまま退いたところで何の解決にもなりゃしねェし、そもそも時間の無駄だろうが」

「あーくっそー! 言うと思ったよちくしょう。という訳で騎士のお二人さん、ハリネズミになりたくなかったらどうか全速力でよろしくお願いしゃっす!!」

 もはや作戦らしい作戦もないまま指示を出された騎士二人は顔を青くしながらも、オールを握る手に力を込める。
 その間にも矢は放たれ、放物線を描きながら舟へと殺到していた。

「はいはいはぁ~い!!」

 ステラは船頭に立ち、自らの身長よりも長い槍をバトンのように振り回して矢を叩き落していく。
 揺れる船の上でまるで曲芸のような芸当であるが、驚異的なバランス感覚でそれを実現していた。
 それでも捌き切れない分はマーガレットの大鎌を盾代わりとして凌ぐ。

「防戦一方ってのも癪だよねぇ!」

 カイルは両手に持てるだけのナイフを構え、一斉に撃ち放った。
 【短剣掃射】という盗賊ギルドの投擲術であり、多勢に抗するには有用な技である。
 コボルトの群れに踊りこんだナイフは数匹の息の根を止め、そこまで至らずとも射撃の手を止める程度の効果はあった。

「《舞い踊る白刃よ疾殺を歌え、荒れ狂う隼の飛翔の如く》……《切り裂け》!」

 その間にレギウスの詠唱が完了する。
 彼が用いたのは【操刃の舞】という、あらかじめ印を刻んだ得物を自身のコントロール下に収める術式だ。
 カイルが投げ放ち、コボルドに突き立ったナイフが独りでに動き出し、再度彼らに襲いかかった。
 ある者は傷を抉られ致命傷となり、ある者は改めて急所を貫かれて絶命する。

 舟が接岸した時には、その場で生きていたコボルトはたった二匹だけであった。
 それぞれ膝や腿に刃を突き立てられて故に走れなかったのだろう。
 その二匹もすぐさま飛び出したマーガレットによって命を刈り取られている。
 一方、こちらの被害といえばかすり傷程度であり、奇襲を受けた事を鑑みれば奇跡のような大勝利である。

「レギウス、ちょっとナイフ回収するから待ってて」

「面倒くせェな」

「でもさっきの術式には事前に印を刻まなきゃダメなんでしょ。どっちにしろ面倒だよ?」

「………………」

 レギウスは得心したように息を吐くと、短く呪文を詠唱する。
 【操刃の舞】によってナイフは独りでに宙に浮かび、その刃を等間隔に地面に突き立てた。

「わーお、魔術って便利。ねぇねぇレギウス、ついでに水ん中くぐらせてさ、血を洗い落としてよ」

「それはオマエでやれ」

 言うまでもなく、レギウスの魔力も消耗品だ。
 これから何が待ち受けるか分からない森の探索を続ける以上、消耗は抑えるべきである。
 結局、ぶちぶち文句を垂れながらもカイルは全てのナイフから血を洗い落とし、丁寧に拭いてから再び懐にしまいこんだ。


To Be Continued...  Next→
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周摩

Author:周摩
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