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『森の追跡者達』(2/2) 

 近くのぬかるんだ地面で見つけた人間の足跡、それを隠蔽した不自然な乱れを発見した一行は追跡を開始する。
 岸に下りてすぐ目の前は崖が聳え立っていたが、どうやらドラクロワは痕跡を隠そうとあえて一度森の中に入ったようだった。
 切り立った崖沿いに少し歩くと、鼻をすんすんと動かしたジャックが一声吠えた。

「ドラクロワの臭いを発見したようですね。よくやったぞ、ジャック」

 頭を撫でられ上機嫌なジャックは、更に小さく吠える。
 事実、湖で臭いを消されていたらお手上げだっただけにお手柄である。
 ドラクロワも悠長に臭いを落とす事すらままならないほどに追い詰められていたのかもしれない。
 逆に考えれば、それだけ遠くに逃げられている可能性も秘めている訳だが、見失うよりはマシだろう。

「もう、かなり奥へ来てしまいましたね……」

「くそっ、まさか本当に森を抜けちまったのか?」

 それでも騎士二人は焦っている様子だった。
 ジャックが臭いを探らなければ先に進めない事が逆に彼らを押し留めている、そんな雰囲気だ。

「ドラクロワ、どこまでいったのかな……」

「さぁな。案外その辺にいるんじゃねェの」

「……あのね、私はまじめな話をしているんだけど」

「だから真面目に考察してやってんじゃねェか」

「どういう事です?」

 さすがに騎士たちも聞き捨てならなかったらしい。
 この希望の見えない状況をどうにかできるならレギウスの推測でも構わないといったところか。

「ドラクロワの野郎は夕暮れに森に入ったんだ。おそらくすぐに適当な場所を見つけて野営したはずだぜ。夜の森の恐ろしさは今更説明するまでもねェだろ?」

「ええ。しかし、それも二日前の話です」

「仮に昨日を森の移動に専念したとして、ドラクロワはどこまで進めると思う? たった独りで、脱獄したばかりでろくな武装もなく、土地勘もないこの森を、だ」

 複数人で移動するレギウスたちもコボルトの待ち伏せに遭っている。
 ドラクロワもただの一度も妖魔や獣と出くわさずに移動はできなかっただろう。
 加えて、ジャックが追跡する事で探索を省いているレギウスらと違い、彼は自らの能力で道を拓かねばなかったのだ。
 そんな悪条件では通常の半分も移動できなかったのではないか。

「なるほどねぇ、となるとあのコボルトたちもドラクロワの差し金だったかもしれないね」

「かもな」

 本来コボルトは夜行性であり、臆病な性質である。
 リーダーの存在もなくあれだけ見事な奇襲攻撃は極めて珍しい。
 もしドラクロワがコボルトのテリトリーにあえて痕跡を残し、人間の侵入に対して警戒させていたとしたら、強引ながらも納得はできる。

「では、ドラクロワはこの辺りで体を休めている可能性があるのですか?」

「言っとくが確証はねェぞ。俺たちにそう思わせる事が奴の狙いかもしれねェんだしよ」

 かすかな可能性を提示しただけで、レギウスはばっさりと切り捨てた。
 過度な希望は視野を狭める。
 ましてフィールドワーク専門外の騎士なら、なおさら厳しく制しなければ足手まといになりかねない。

「……む、」

 先頭のカイルがハンドシグナルで静止を促す。
 ジャックも座らせ、吠えないように注意した。

 森を抜けた先、岩肌がむき出しになっている崖にぽっかりと開いた洞窟。
 ジャックはその先に向かって臭いを辿ったようだ。

「……どうやらドラクロワはあの洞窟の中へ向かったようですね」

「面倒くさいところだねぇ。妖魔の森って呼ばれてる場所であんなあからさまな場所に洞窟なんて何かが住み着いてないほうがおかしい気がするよまったく」

 ぶちぶちと文句を垂れ流すマーガレットを無視して、レギウスは呪文を詠唱する。

「《星海より来たれ、輝く贄の羊》」

 【孤高の王】と呼ばれるそれは術者の周囲に星型の盾を展開する術式である。
 物理・魔術を問わず威力を半減させる強力な盾ではあるが、逆にどんな小さな攻撃にも反応して消滅してしまう欠点がある。
 故に草木に触れる可能性のある移動中は使用を控えていたのだが、この先は戦闘を避け得ないと判断したのだろう。
 彼は臨戦態勢に入っている。

 他の面々も同様に戦闘準備を整え、いざ洞窟へと足を踏み入れる。
 ひんやりとした洞窟内は意外なほどに広く、そして明るかった。
 天井やそこかしこに岩の切れ目があるのだろう。
 しかし、その直後に先頭のカイルは鼻を押さえて呻いた。

「げぇ、なにこれ……!」

 洞窟内には異様な臭いが充満していた。
 じっとりとした臭いは洞窟内には籠もるばかりである。
 普段知り得るものよりも数倍も濃いが、それは冒険者、あるいは騎士たちも良く知る臭いであった。

「血の臭い……。あーくそ、ともかく鼻が曲がりそうだよ」

 しかめっ面で、しかし鼻を押さえて片手を縛る愚行は犯さずに周囲を見渡した。
 人気はなく、奥には口の大きく開いた壺が置いてあるだけだ。
 その周りを飛び回る無数のハエの羽音は、一行の神経を不快に刺激する。

「あれが原因かなぁ?」

「見りゃ分かんだろ……つってもオマエは見るな」

 若干鼻声のステラをターニャに預けて、レギウスは壺へと近づいた。
 段々と不快な臭いが強まり、更にはハエも無遠慮に纏わりついてくる。
 口を開ければそこへ飛び込んでくるのは間違いなく、仕方なしに鼻で呼吸するも、血と臓物の発する独特の臭いを強制的に吸い込まされる。

 数歩の距離がとてつもなく長く感じた後、ようやくレギウスは壺の中身を覗き込んだ
 彼自身、中身が何なのか検討はついていたのだろう。
 鬱陶しいハエの群れが、既に彼の眉間に皺を刻んでいたので表情は変わらないようにも見える。

「……、男だな」

 足早に戻ってきたレギウスは体中に纏わりつくハエを叩き、追い払いながら短く言った。

「どうしました? 中には何が入っているんです?」

「オイ待て――」

 その様子を察せなかったのか、セイルは見よう見まねで口元を覆って壺の中身を覗きに行く。
 あのハエの大群の中では膨大な数の羽音で制止の声も聞こえない。
 やがて壺を覗き込んだセイルは呻き声を上げて壺から顔を逸らす。
 そしてハエの群れから逃げるように転がりながら戻ってきた。

「あ、あれは……!」

「見間違いじゃねェよ、ありゃ男の死体だ。バラバラだったが、体積から見て恐らくは一人分だな」

「……、」

「落ち着いてからで構わねェ。あの壺に収まってる奴がドラクロワに間違いねェか確認してくれ。でなきゃ先へ進めねェからな」

「……そう、ですね。分かりました。少しお待ちください」

 セイルは顔を青くして嘔吐を堪えながら、再び壺の中を確認する。
 すぐにハエに追い立てられるように戻ってきたが、今度は確実に顔を検めたようだ。

「……ドラクロワに間違いありませんね」

 その言葉に目を丸くしたジェドも、止せばいいのに壺の中身を確認した。
 すぐさま表情を凍りつかせて冷や汗を額に滲ませる。

「へっ……これでも悪党の最後にしちゃ、上出来だ……」

 強気に絞りだした言葉とは裏腹に明らかにその顔からは血の気が引いている。

「一体、ドラクロワに何が……」

「考察よりここを離れるのが先だ。オマエらもああなりたくはねェだろ?」

「しかし、せめてもの証拠に頭部だけでも持ち帰らなくては――」

 セイルが言い終える前に、小さな地鳴りのような振動が足元から伝わってきた。

「あらら参ったね。この家の主人様のお帰りだよ」

 振り返った先には洞窟の入り口、そこを塞ぐように一匹のオーガが立っている。
 この洞窟はオーガの棲み処であり、ドラクロワは不運にもここをねぐらとしてしまったのだろう。

「ドラクロワの悪運も尽きたって事だろ」

「……俺たちの悪運はどうなんだ?」

 ジェドがひどくもっともな問いを投げかけるも、その答えは得られない。
 オーガは我が家を荒らされた怒りからか、はたまた思いがけない夕食を前にした喜びからか、異様に興奮していきり立っている。
 不快に鼓膜を叩く方向と共にオーガが猛然と襲い掛かってくる。

「――オオオオオォォォオオオオオオオオ!!!」

「……ちっ!」

 叩き潰しの豪腕が地面を叩く。
 洞窟が広かった事が散開を容易にしており、一撃必倒のオーガが相手では僥倖と言える。
 だとしてもオーガを相手取るには近すぎた。
 彼が暴れて砕いた岩の破片が周囲に飛び散り、一行を薙ぎ倒す。

 マーガレットは素早くオーガの背後に回り込み、その背中を切りつける。
 彼女の得物たる大鎌は本来引き切るものであるが、オーガの筋肉の前ではさほど深い傷は負わせられない。
 かといって突き刺してしまうと抜けなくなり、最悪得物を失う羽目になる。

「あぁもう、これだから脳ミソまで筋肉詰まってそうなバカの相手は嫌いだよ!」

「文句言ってないできりきり動く! ほら来たよっ!」

 森の暴君たるオーガはハンマーのごとき両腕を振り回し、何もかもを破壊する。
 カイルは飛びのきつつナイフを投げ放つも、巨躯のオーガにはさしてダメージにはならない様子だった。

「《舞い踊る白刃よ疾殺を歌え、荒れ狂う隼の飛翔の如く》……《切り裂け》!」

 レギウスの【操刃の舞】によってカイルの懐から飛び出したナイフは、オーガの右目に突き立った。
 この世のものとは思えない、痛みからか怒りからかも分からないほどのオーガの咆哮。
 それを前にしてもレギウスは冷静だった。

「《裂き散らし風は鳴く、血飛沫上げる刃の走りを》――」

 呪文を紡ぐ。
 詠唱の間は精神的な集中が必要不可欠であり、どんな些細な事であっても心がブレてしまえば完了しない。
 それを補佐するのは前衛の役目である。

「ほらほら~、鬼さんこちら~!」

「どしたどしたー! 捕まえてごらんなっさーい!」

 火光獣の背に乗ったステラは槍でちくちくとオーガを突っつきながら駆け回る。
 カイルもありったけのナイフを、ステラに当てないように投げ続ける。
 致命傷にならずとも意識を向けさせればそれでいい。

「……《断て》!」

「――ッ!!」

 詠唱の完了と共に放たれた真空の一撃はオーガの喉を抉り、血肉を盛大に撒き散らす。
 【風の刃】は他の術式と違い、熱や冷気、あるいは異物で血管を塞ぐ事はない。
 肉を裂き、血を吹き飛ばすこの術式は血肉を持つ相手には特に有効である。

「――ゴッ……、ガッ、ゴボッ!!」

 喉元からあふれ出す血液に激しく咳き込むオーガは、よろよろと洞窟の外へ逃げていく。
 傍目から見ても致命傷である。
 追撃しなくてもすぐに絶命するだろう。

「あれが人喰い鬼と呼ばれるオーガ……、恐ろしい……冒険者の皆さんを雇って正解でした」

 肩で息をしながら、セイルはその場にへたり込んだ。
 ジェドも同様だったが、彼は疲れよりも怒りのほうを強く感じているらしい。

「ドラクロワのヤツめ、森の次は地獄へ逃げ込んだ訳か! あんな怪物でなく、人の手で断罪されるべきだったんだ!!」

「……しょうがないよ。とにかく首だけでも持って帰ろう。上への報告には証拠が要るよ」

 ジェドをなだめ、セイルは億劫そうに立ち上がった。
 彼もこの結果に何も思っていない訳ではなさそうだ。
 ドラクロワ入りの壺は、先ほどの戦闘に巻き込まれて砕け、中身が撒き散らされている。
 その中から首を拾った二人はきつく布で包んでから袋の中にしまい込んだ。

「それでは皆さん、森の探索はこれで終わりです。ご協力に感謝します」

「何言ってんだオマエ。むしろ本番はこっからだろうがよ」

「……は、それはどういう……?」

 レギウスは答えず、ただ静かにドラクロワの首が収まった袋を指差した。
 布製の袋には乾いていなかった血液がじわりと染み込んできている。

「この森は妖魔だけの森じゃねェんだぞ」

「そんなに血の臭いを撒き散らしながら移動してたんじゃ、獣に襲われるなんて当たり前だよねぇ?」

 レギウスとマーガレットの言葉に、今度こそ意味を理解した騎士二人は顔を青くした。



 洞窟の外ではオーガの巨体が仰向けに転がっていた。
 苦痛の内に絶命したのだろう、目を見開いて血塗れの口を大きく開けている。

「……にしても無理があるぜ」

 あの後、どうにか血が滲まないように四苦八苦した結果、皮袋に強引に押し込めるという荒業を繰り広げた。
 滲みはしないが、それでも血の臭いが撒き散らされてしまうのはどうにもならなかったのだが。

「にしても、まずいよ。もうすぐ日が暮れちゃう……」

 ターニャは焦りながらも確実に、騎士二人とジャックに指文字を施している。
 追撃の間は悠長に刻む暇がなかったが、ここでようやく【妖精の歌】に抵抗する為の呪を刻んでいるのだった。
 これからはおそらくこちらが追撃を受ける番だ。
 その度に味方の行動を阻害していては逃げられるはずがない。

「思ったより手間取っちゃったからね。これ以上面倒が起きる前に早く森を出たいもんだよ」

「――ッ! みんな止まって! 密集隊形を取るんだ、早く!!」

 マーガレットの指示により、一行に緊張が走る。
 誰もが声を潜めて息を飲んだ。

「……どうやらその『面倒』が起きちまったみてェだな」

「う、うわぁ!?」

 茂みからぬらりと現れ出でたのは、一匹の狼だった。
 しかし大きい。
 騎士二人も驚いている様子だ。

「く、くそ! あっちいけ!」

「止め――!」

 セイルは手近にあった石を掴んで狼へと投げつける。
 マーガレットの制止は一瞬遅かった。
 狼にとって、敵意をもって放られた石は宣戦布告である。

 がさがさと茂みを揺らして現れたのは狼、狼、狼。
 その数は優に一〇匹を超えている。

「どうやら、すっかり目をつけられちゃったみたいだよ……」

「ターニャ、オマエは火光獣ポチに乗れ。ステラとカイルは騎士二人と犬を連れて先行しろ。俺とマーガレットが殿だ」

 これ以上狼の群れを刺激しないように、レギウスは静かに号令する。
 しかし、その静寂もステラたちが反転した事で崩された。
 狼の群れが一斉に動く。

「――行け! 逃げるんだよ!」

 マーガレットは大鎌の一振りでわずかに狼の足を鈍らせる。
 狼とは素早くて賢く、それでいて爪牙は鋭い。
 ましてやそれらが群れで襲ってくるとなれば始末に負えない。

「ちっ、これでもまだ氷山の一角なんだろうぜ! 群れの数が不明瞭すぎる。ずるずる戦って消耗するよりゃ逃げを優先したほうがマシだ!」

 【風の刃】で狼を斬り飛ばしながら、レギウスは襲ってきたもう一方の狼を蹴りつける。
 乱戦になってしまえば前衛と後衛の区別などあってないようなもので、そんな中で呪文詠唱しなくてはならない魔術師はひどく不利だ。

「ぼうっとしてんじゃないよレギウス!」

 更に襲い来る狼を、マーガレットの大鎌の石突が跳ね飛ばした。
 距離を取りたいところだが、それではマーガレットに集中してしまう。
 下手すれば先行するステラたちのほうへ取り逃がしてしまう事だって考えられる。

「――チッ」

 一匹二匹倒したところで狼たちの気勢は削げない。
 逆に興奮させてしまっているきらいすらある。

「できれば一網打尽にしたいところだがね」

 マーガレットも同じ事を考えているらしい。
 彼女の大鎌もその気になれば広範囲を薙ぎ払えるが、前後の隙が大きく、とても敢行するだけの効果が得られるか怪しい。
 一か八かの賭けに出るよりは現状を維持すべきだと考えての愚痴のようなものだったのだろう。

「《舞い踊る白刃よ疾殺を歌え、荒れ狂う隼の飛翔の如く》……《切り裂け》!」

 【操刃の舞】によって後方から飛ばした刃が狼の群れを襲う。
 先ほどとは違い、カイルの持つ印つきのナイフを全て飛ばしたものの、効果はあまり芳しくなかった。
 狼が素早い事もあるが、数が多すぎた為か狙いが上手く定まらなかったのだ。

「ちょっとレギウス! いきなりやるなよ、びっくりするじゃんかー!」

 ぎゃーぎゃーとカイルの声が聞こえてくるが、レギウスは当然無視した。
 後退しながらの戦いである。
 放ったナイフの回収は絶望的だろう。

「――ッ、くそ!!」

 狼の一匹が、レギウスの脚に噛み付いた。
 痺れるような激痛に眉をしかめ、その身を硬直させる。
 転ばなかった事だけは不幸中の幸いだった。

「レギウス!!」

「俺に構うな! オマエはあいつらへの道を塞げ!!」

「ッ……分かったよ!」

 脇を通り抜けようとした狼を蹴り飛ばして、マーガレットは再び狼の群れと相対する。
 脚に噛み付いた狼をやっとの事で追い払うも、その怪我は決して軽いものではなかった。
 足首に穿たれた牙の跡から滔々と血が流れ出している。
 少なくとも歩く度に激痛が走るほどには行動に支障が出る傷だった。

 マーガレットもわずかずつ押されてきているように見える。
 何だかんだでレギウスのほうに狼が向かわないように立ち回っているのだろう。
 よく見れば彼女の衣服もあちこちが引き裂かれ、その周辺には赤い染みが目立つ。

(……、)

 後退のペースがひどく遅くなっている。
 おそらく、いや確実に。
 動けなくなったレギウスに気遣ったマーガレットの差配だろう。

 怒りがあった。
 誰に対するものでなく、自身に対しての怒りだ。
 こんな場所で何もできずにただ嬲り殺され、ただ朽ち果てていくのか。

(……ふざけやがって)

 状況を再認識する。
 狼は未だに数を増やしている。
 これまでの攻防でいくらか数を減らしたが、それでも次から次へと増援がやってきてきりがない。

 こちらの戦力は尽きかけている。
 騎士二人とジャックはこういった状況での経験に乏しく、戦力として考えないほうがいい。
 カイルとターニャは戦闘向きでなく、ステラを前衛に出すのはレギウス自身が許せない。

 レギウスも度重なる魔術の行使によって残存魔力が乏しくなってきていた。
 だが、そんな事は関係ない。
 たとえ魔力を全て吐き出しても、足りない分を生命力から補わざるを得なくても。

『《樹海の影もて降り注げ惑わしの種、抱きて眠れ茨姫》――』

 ここで死ぬ訳にはいかなかった。
 かの宿敵との決着をつけるまでは、死ねる訳がない。

『……《掻き抱け》!』

 詠唱の完了と共に、大地が蠢く。
 ざわざわと地より這い出てきたのは、周囲の狼の群れ全てを包み込むほどの茨の枝だった。
 茨は狼たちの足元に絡みつきながら次々に花粉を周囲に撒き散らし、それに包まれた狼は身体を横たえていく。

 【茨の海】と呼ばれる中級術式である。
 精霊界より催眠作用のある花粉をばら撒く茨を召喚する術式であり、具現化できる時間こそ短いものの足止めには最適解と言える。

「――チッ、」

 レギウスは胸を押さえてうずくまった。
 中級とはいえ効果範囲をそれなりに広く設定しなければならない今のレギウスにとっては術式である。
 体内の魔力が枯渇し、生命力から強引に魔力を作り出した結果、心臓に強く負担が掛かったのだ。

「レギウス!」

 いつの間にか、火光獣とステラが駆け寄ってきていた。
 来るなと叫びたかったが、その声すら出ない。
 足止めしているとはいえ、その呪縛が解ければ狼たちは再び襲い掛かってくるはずだ。

「どいてなよ、僕がやる……って、ちょっとレギウス、君軽すぎじゃあないかい? ちゃんと食事摂らないからそんなガリガリなんだよ」

 声が出ないのをいい事に言いたい放題のマーガレットである。
 後で覚えてろよと心中で悪態をつきつつも、レギウスはマーガレットに担がれて火光獣の背中に乗せられた。

「いくよ火光獣ポチ! 重くてもがまんしてね!」

 レギウスを抱きかかえるようにステラが後ろに乗った。
 ちなみに手綱のようなものはない。
 火光獣のたてがみをがっしと掴んでいるが、当の火光獣はあまり意に介していないようだ。

 狼たちが眠りこけている間に、一行は大きく距離を稼いだ。
 その後も細かい襲撃はあったものの、ステラとカイルが牽制しつつ後退を繰り返し、ついには撒く事に成功した。

 そして一行が森を出る頃には日はとうに落ち、夜の闇が辺り一面を覆い尽くしていた。
 帰路につきたいのはやまやまだが、走りっぱなしで足が言う事を聞かない。
 小休止した後に、一行は漆黒の帳が下りた街道を歩んでリューンへと戻った。

「ったく情けねェ」

 『大いなる日輪亭』、一階のテーブル席でレギウスは水を飲んでいた。
 ひと仕事終えたからといって彼は酒を飲まない。
 ステラに悪影響を与えない為という名目で極力飲酒を控えているのだった。
 酒癖の悪いターニャや酔っ払い易いマーガレットやらを止められるのはレギウスをおいて他にいないという切実な理由もあるのだが。

 結果的に今回の依頼は多くの課題を残す事になった。
 近接戦闘要員の強化、後衛火力の増大など、主に戦闘面に関してである。
 それでも『星を追う者たち』は護衛には向かないのかもしれない。
 レギウスにとってはどの依頼もステラの護衛をしているようなものなのだから。

 だからこそ、今回のように護られる結果になってしまったのは腹立たしかった。
 こんな調子ではとてもには勝てない。

(力が要る……もっと、絶対的な力が……)

 生まれた瞬間から宿命付けられた敵、ヴィルヘルム。
 レギウスとステラの人生を大きく狂わせ、今でなお苦しめる忌まわしい規格外の敵。

 宿敵の顔を思い出し、怒りがぶり返したレギウスはため息をひとつついて、杯の中の水を飲み干した。 



【あとがき】
『星を追う者たち』Lv3のシナリオはAsaさんの「森の追跡者達」です。
追跡や探索に不慣れな騎士を護衛しながら先導する内容になっています。
あと犬のジャック君はとても良い子です、可愛い!

『妖魔の森』と銘打たれているだけあって、出現する敵は数が多めです。
レベル1~3だと全体攻撃スキルがなかなか配布されず苦戦を強いられる事もあるのでスリリングな戦闘が楽しめますね。
ちなみに最近知りましたが、速攻で用事を済ませると何事もなく帰る事ができるみたいです。
リプレイの見栄え的にやりませんが……(笑)

今回のリプレイでは全体攻撃を多く採用しています。
レギウスの【操刃の舞】、【茨の海】、ターニャの【妖精の歌】やカイルの【短剣掃射】などですね。
集団戦闘での強さはおそらく『大いなる日輪亭』でトップになったはずです。

そして冒頭でティンダーリア様より火光獣を譲っていただきました。
ポチなんて名前つけてごめんなさい、でもちゃんと可愛がります(笑)


☆今回の功労者☆
カイル。実は【短剣掃射】はかなり活躍しています。

報酬:
500sp

≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『晴藍渓流のエルフ』(Leeffes様)
『森の追跡者達』(Asa様)

今回の使用カード
【風の刃】(『武闘都市エラン』飛魚様)
【孤高の王】(『アルタロ村(仮)』周摩)
【操刃の舞】(『碧海の都アレトゥーザ』Mart様)
【茨の海】(『忘れ水の都』指環様)
【妖精の歌】(『歌の一族』周摩)
【短剣掃射】(『武闘都市エラン』飛魚様)
【火光獣】(『晴藍渓流のエルフ』Leeffes様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
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