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第三二話:ロスウェル五月祭 叛逆者編(2/2) 

 そろそろあの少年に決断の時が迫る頃だろうか。
 戦いの合間にアイザックはそんな事を考えていた。

「楽しいな。やはり戦場というのは素晴らしい」

 独りごちながらも、魔狼を操る手を止めない。

 乱入者の二人はなかなかに面白い素材だった。
 何しろ、コヨーテが現れる以前とはまったく逆の戦闘スタイルへと変わったのだ。
 若き魔術師のほうは攻めが苛烈なものへと変じた。
 若き英雄のほうは守りが堅固なものとへ変じた。

 それは、彼らの内心を赤裸々に語っている事と同義である。

 若き魔術師の攻めが強くなったのはコヨーテを信頼していないからではない。
 そもそも魔術師というのは扱える魔力量に限りがある。
 船を止めるつもりで乗り込んできたこの魔術師は障害であるアイザックを除いた後にも船を操る魔力を残す必要があるのだ。
 だのに今はそういった配慮を全てかなぐり捨て、ただアイザックを消耗させるべく術式を放っている。

 若き英雄の守りが強くなったのはコヨーテを信頼していないからではない。
 気孔法や体術を主とした彼の戦闘スタイルはおよそ長期戦向きではない。
 彼には魔術を理解する頭脳などなく、船を止める方法も隣の魔術師任せだったのだろう。
 それ故に早々にへばってしまっては万が一の時に魔術師を庇えず、また全滅の危険性を低くしようとしている。

 それらは全てコヨーテという希望を前提に組み立てられていた。
 コヨーテが機関部を無力化すると信じたからこその攻め、コヨーテが戻ると信じているからこそ戦力を減らさないための守り。
 示し合わせたわけでもなかろうに、まったくもって見事としか言いようがない。

「我輩は貴様らが愛おしいぞ。あの少年を除いてもここまで心躍る相手がいるとはな」

「ハッ、いいのかよ、俺たちみてェな邪魔者にかまけててよ?」

「ふむ。貴様らは邪魔者ではないぞ。たとえ乱入者だろうが我が舞台に登れた時点で演者に変わりない」

「ふっ……、何を寝ぼけた事を言っている?」

「何があろうと、オマエの相手は俺たちじゃねェんだよ」

 単なる偶然か、はたまた彼らは知っていたのか。
 その瞬間、アイザックは目を見開いた。
 船が急激に速度を緩めたという事は、すなわち防御機構――『月姫の歌声』――の全てが止まったのだ。

「……なんだと?」

 信じられない、とばかりにアイザックは言葉を失っている。

 神殿――機関室――に施されている『月姫の歌声』は、あらゆるパターンを想定して神殿自体にも備えが存在する。
 侵入者が月姫を手にかけた場合、『月姫の歌声』は船を最高速度で街の中心へと叩き落す方法を取るはずだ。
 『月姫の歌声』を止めるならまだしも、機関を停止させる何かが存在する事実はアイザックにとって万が一にもありえないはずの事態だった。

「あの、少年……!」

 ややあって、神殿の入り口をくぐって出てきた人間は、一人と半分だった。
 足元が覚束ない『月姫』を支えながら歩くのは、その背に長剣を担ぐ銀髪赤眼の少年。

「これはしたり。やってくれたな少年……いや、コヨーテ・エイムズよ!」

「勘違いするな。これはただだけだ」

 るのはこれからだ、と言外にコヨーテは宣言する。

「あの布陣を突破し、傀儡と化した月姫を取り戻すのに、一体どういった手を使ったのか」

 くつくつと笑みを零しながらアイザックは右手を振るった。
 瞬時に空間に裂け目が生まれ、無数の魔狼が出現する。
 その量は先ほどまでレギウスやエリックを襲っていたものとは桁が違う。
 コヨーテとルナをぐるりと囲むように、全方位から魔狼の発射台が彼らに向けられている。

「試してみるかね?」

 合図と同時に魔狼は地を蹴ってコヨーテとルナへ殺到する。
 アイザックが行った指示には『牽制』など存在し得ない。
 不死の軍勢があればたとえ斬られようと突かれようと、ただその牙を相手に突き立て続ければいずれ向こうが倒れるからだ。

「ルナ、少し屈んでいてくれ」

 コヨーテは傍にいたルナを退避させず、逆に魔狼に襲われる自分の傍へと引き寄せた。
 血迷ったか、とレギウスもエリックも言葉を詰まらせる。
 アイザックですら眉間の皺を深くした。

「ッ――!!」

 神経を不気味に撫ぜるような湿っぽい殴打音が連続する。
 あまりの勢いに魔狼がその身を自らの速度で潰しながらも、コヨーテとその傍らのルナへ叩きつけている。
 ただの一撃で、神殿の入り口は魔狼の成れの果てによって赤黒く染め上げられた。
 それらの肉片が積み重なり、まるで小山のように盛り上がっている。
 たとえ剣で受け止めていたとしても、全方位からの突撃をまともに受けていては圧殺されるしかない。

「コヨーテ! ルナ!!」

 エリックが叫んでいた。
 ただ見ているしかなかったレギウスも、その拳を地面に叩きつけている。

「む?」

 最初に異変に気づいたのは、他でもないアイザックだった。
 彼は吸血鬼が無意識のうちに常時発動している【血液感知】から【生命感知】へ切り替えていた。
 何気なく行ったその観察によって、ひとつと半分の生命反応が消えていない事に気づけたのだ。

「……、まさか」

 一陣の風が木の葉を吹き飛ばすように、赤黒い肉片が一気に吹き散らされた。
 肉片の小山から現れたのは、やはりコヨーテとルナだ。
 不思議な事に、ルナはその真っ白な衣装を露ほども汚していない。

「コヨーテ……!?」

 顔を上げたルナが目を見開いている。
 その様子から、傍にいたはずの彼女ですら知らなかったのだとアイザックは理解する。
 コヨーテの背より生まれ出でる

「翼、だと? ダーインスレイヴで切り裂いた翼が何故蘇っている?」

 コヨーテの右の翼は一度目の戦闘の際にダーインスレイヴによって切り裂かれ、『死に続ける呪い』を植え付けたはずだ。
 傷だけなら――おそらくは彼が腹の傷を癒したように――該当箇所を除去すれば再生も可能であるが、両断してしまえば断面がくっつく事はなく、また新たな翼も発現できない。
 ダーインスレイヴの呪いとは、それほどまでに確実なものであるはずなのだ。

 だのに、コヨーテの右の背からはが月の光を浴びてきらきらと輝いていた。
 左の漆黒の蝙蝠のような翼とは対照的に、鳥類を思わせる白い翼だ。
 エコマの『六枚羽アマリリス』のように深紅の翼を発現する【黒翼飛翔】は見聞きした事があるが、こうまで純白の翼にはお目にかかった事がない。

「珍しい翼である。そして……、ふむ。いったい何をした?」

「……もう一度、試してみるか?」

「そうだな、試してやろう」

 意趣返しとばかりに言い放つコヨーテに、アイザックはむしろその目に歓喜の色を宿した。
 そして逡巡の後に、再び右手を振るって魔狼をコヨーテへと差し向ける。
 今度は地を駆ける魔狼を二頭だった。

 左右から襲い掛かる魔狼に対して、コヨーテは相変わらずその傍にルナを侍らせたままだ。
 彼の間合いに入った左の魔狼をレーヴァティンで斬り裂くと、その隙を狙った右の魔狼が牙を剥き出しにして迫り来る。
 一撃を放った直後のコヨーテでは避けられないが、その純白の翼で対処できるならしてみろ、という意図だ。

 しかしコヨーテはただ純白の翼を盾のように攻撃に合わせるだけに留めた。
 何故かと問わずとも単にそれで十分だったから、そうしたのだろう。

「ふむ。これはこれは」

 翼によって勢いを逸らされた魔狼は着地すると二、三歩進んだところで糸が切れたように倒れこんだ。
 ただそれだけで、魔狼はぴくりとも動かなくなってしまう。
 先に斬りつけて倒れていた左の魔狼にも純白の翼をぶつけると、同様に動かなくなってしまった。

 

「なるほど、なるほど……好いぞ、実に面白い。やはり我輩の判断は間違ってはいなかった、という事か」

 アイザックは何度も頷いてニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべる。
 初撃の魔狼群の攻撃を何なく捌いたのもこの力のためかと得心した上で、なお笑んだ。

「その白き翼。よもや半吸血鬼の貴様が特異能力を開花させようとは……俄然、貴様に興味が沸いたぞコヨーテ・エイムズ」

「特異能力……?」

 疑問を口にしたのはルナだった。

 コヨーテはただ睨めつけるだけで何も言わない。
 それだけで、コヨーテが全てを理解してその翼を操っている事をアイザックは悟った。

「貴様のそれは翼ではあるがその本質は単なる『黒翼』ではあるまい。でなければ不死の魔狼が絶命するなど有り得ん」

「……力を得た初戦がお前のように冷静なやつだと嫌になるな」

 図星だと白状しているようなものだ。
 だが、あくまでコヨーテは力の真髄については伏せる腹積もりらしい。
 時間の無駄であるが、それでもわずかな時間を稼ぎたいのだろう。

 だとすれば、それもまた一興。

「是非とも見せてほしいものだ。特異能力者の初陣に立ち会える事ほど稀少な体験はないのだからな」

「付き合っていられないな」

 コヨーテはため息をひとつついて、視線をレギウスとエリックへと向けた。

「お前たちは船の処理を頼む。ルナも一緒に連れて行ってくれ」

「……分かったよ。その力ァ、後できっちり説明してもらうからな」

「ああ、必ず」

 レギウスとエリックは心配そうにコヨーテの名を呼ぶルナを半ば無理やり連れ出し、神殿へ向かって駆け出した。
 神殿が停止したとはいえ、ロスウェルの頭上にはこの大質量が残ったままだ。
 彼らがそちらの対処を優先するのはなんら不思議な事ではない。

 だが、もはやアイザックにとってそんな些事はどうでもよかった。
 目の前に好敵手がいる。
 骨を断ち肉を削り血が舞い散る、自らが渇望してやまなかった『本物の戦い』がそこにある。

「さあ、第二幕と行こうではないか! コヨーテ・エイムズよ!!」

 紅蓮の夜はまだ続く。
 終わりの刻は、まだ遠い。



 不死の狼を絶命せしめた事実は、吸血鬼と半吸血鬼との戦いにおいて大きな変革をもたらした。
 端的に言えば、事態が膠着した。
 にやにやとして笑みを口元にたたえながら、アイザックは考えをめぐらせている様子だ。

 アイザック・グルージーの代名詞である『魔狼の証インセインハウンド』の真髄は狼への変化・使役を極めた部分にある。
 不死性の付与は副次的なものだったにせよ、純白の翼に触れられただけで絶命するのでは根本から問題が変わる。
 つまりコヨーテ・エイムズのあの翼は触れたものを絶命させる力があるのか、と。

「特異能力とは、吸血鬼の持つ性質を最大限にまで特化させたものを指す」

 しかしアイザックは吸血鬼の『王族ロイヤル』だ。
 こんな単純な予想などするはずがなかった。

「不死の存在を絶命させるに足る吸血鬼の特異性とは? 不死性の除去であれば、真っ先に思いつくのは血液操作である。特異能力に限らず吸血鬼の秘術の全ては血液を元に形成され、狼や蝙蝠など身体を切り離して操作する類の力であればそれらにも命令を携えた血液が巡っているのだ」

 血液は言うなれば情報の塊だ。
 もし血液の中に含まれる情報のひとつひとつを読み取れる何かがあれば、そこには狼を形作る情報や不死性を付与する情報などが存在するのだろう。

「かの『理解者』アルフレド・アイランズは血液の内部情報にまで干渉するに至った、という話を聞いた事がある。その実子である貴様がその能力に目覚めたのであれば、なんら不思議な事はなかろう」

「……特異能力が遺伝するとは知らなかったな」

「先ほども言ったが、特異能力を形作るは血液に刻まれた情報である。混じったとはいえ貴様にも特異能力者の血が流れているのであれば、同じとはいかずとも類似系の能力が開花する可能性は十分にある」

 コヨーテ自身はつい先ほどまで父アルフレドの特異能力の詳細を知らなかったのだが、どうやら遺伝の可能性は肯定されるらしい。
 何しろ、コヨーテ自身が理解している自らの特異能力はアルフレドのそれと似通っている部分が多いからだ。

「しかして謎は残るものだ。その純白の翼が特異能力によって発現したのだとしても、何故その形態を取るのか? 狼に特化した我輩の『魔狼の証』が黒翼を発現させず、黒翼に特化したエコマの『六枚羽アマリリス』が黒狼に特異性を付与しないのと同様、必ず何らかの要因がその翼を生み出しているはずなのだ。あるいはその翼は単なるフェイクであり力の本質は別の場所にある、という可能性もなくはないが、やはり純白というのは見た事がないのでな。まず有り得んだろう」

 その理由について、コヨーテは確信をもって理解していた。 
 こじつけだと指摘されればそれまでだろうが、それでもコヨーテは構わない。

「よって、我輩は貴様の特異能力を明かすところから始めねばならぬのだ。退屈だろうが付き合ってもらう」

「お断りだ!」

 アイザックが初見で力の本質が見抜けないようなら、知られる前に倒してしまえばいい。
 能力が隠れた状態の今であれば、あるいはアイザックを出し抜けるかもしれないのだ。
 レーヴァティンを携え、コヨーテは駆ける。

「実験一、これは先ほどやったな。では実験二だ」

 パチン、とアイザックは指を鳴らす。
 今までと違う動作に、コヨーテは警戒を強める。
 頭上に生まれた虚空はこれまでのものとは比べ物にならないほど巨大だった。
 そこからずるりと這い出てコヨーテの進路に立ちふさがったのはオーガよりも一回り巨体の人型の魔狼だ。

 まるで羆がそうするように、その強靭な腕を振り上げてコヨーテへと振り下ろす。
 コヨーテは翼による調整で進路を急速に変更し、難なくそれを回避する。
 叩きつけられた地面は爪牙によって強烈にえぐられていた。

「なるほど。特異能力の有無を除いてもその翼の防御にも限界というものがあるのだな」

 可能ならばそのまま脇を通り過ぎていきたかったが、あのアイザックが許すはずもない。
 二体目の大型魔狼を呼び出し、先の大型魔狼と併せて挟み撃ちにするつもりか。

「ッ……!」

 身体をぐるりと回し、その背の純白の翼を大型魔狼に叩きつける。
 その一撃を受けた大型魔狼はすぐに膝を折り、静かに地に伏した。

「ふむ。一〇や二〇の生命だとしても触れただけで対処可能か」

 動作のいちいちを観察しているその声が腹立たしい。
 その物言いから、彼が生み出せる魔狼は相当数に上る事は間違いなかった。

「実験三といこう。あぁ、頼むから実験の途中でくたばるような真似はよしてくれ。興が殺がれる事甚だしいのでな」

 次にアイザックが繰り出したのは無数の小型犬サイズの狼だった。
 威力は格段に落ちるだろうが、それでもこの数の狼に群れられては死ぬのが早いか遅いかの違いしかない。
 骨を噛み砕けなくても肉を食いちぎる力くらいはあるだろう。

 波のように攻め来る狼の群れを純白の翼で弾き、数匹を絶命させる。
 しかしその程度では雪崩を盾で防ごうとするようなものだ。
 翼といっても全身をすっぽり覆ってしまうほどには大きくない。

「くそっ!」
 
 コヨーテは翼で大気を叩いて高く跳び上がった。
 あの数に脚を狙われると面倒だ。
 空中でレーヴァティンを振るい、並み居る狼をまとめて切り裂いた。
 すると、それらは不死性を持っていなかったのか、切り裂かれた狼たちはそのまま動かなくなってしまった。

「おいおい、翼を使ってくれなければ困るぞ。……まぁ、よしとしよう。その翼は直接触れなければ干渉できない事は分かった」

 ひとつひとつの行動から、恐るべき正確さで能力の限界を見抜かれていく。
 あるいはそれがアイザックを強者たらしめる要素だったのかもしれない。
 純白の翼を得てなお、目の前の『王族』の底知れない実力に戦慄せざるを得ない。

「おや、どうした? 実験四に進みたいのだが、貴様には戦う意思がないのか?」

 アイザックの右手には呪いの魔剣ダーインスレイヴが握られていた。
 今度はあれで翼を斬り飛ばしてみるつもりか。
 特異能力を身体から切り離せるかどうかは、さしものコヨーテでも分からない。
 分からないが、それでもあの魔剣の刃をまともに受ければ死に繋がりかねない事は身をもって知っている。

「レーヴァティンッ!」

 コヨーテの持つ魔剣は炎を纏い、唸りを上げてアイザックへと肉薄する。

「ふむ。さすがにこれをまともに受けてはまずいか」

 繰り出す攻撃が全ていなされ、あるいは受け止められてしまう。
 それはレーヴァティンの持つ『邪なものを祓う力』を警戒しての事だろう。
 恐らく、もしレーヴァティンで傷を作ればコヨーテがダーインスレイヴで貫かれたように『治らない傷』ができるはずだ。

 レーヴァティンの炎はたとえ受けられても独立して対象を襲う事もできるが、かち合った瞬間に纏っていた炎が一気に消えてなくなっていた。
 ダーインスレイヴが魔剣としての力で『破滅』を司るのであれば、レーヴァティンもまた『破滅』の要素をもつ魔剣である。
 最初の戦闘の時のようにやすやすと呪われ、剣が折られてしまう事態は起こらないと予測したコヨーテの判断は正しかった。
 しかしダーインスレイヴの魔剣としての格がレーヴァティンの炎を抑えつけているようで、鍔迫り合いの最中では上手く火力の調整ができないでいた。

「そして、ふむ。ダーインスレイヴを絶命させ破壊する力はその翼にはないのであるな」

 あくまで余裕を崩さず、アイザックは観察に専念する。
 その間にも魔剣同士が火花を散らしているのに、だ。

「概ねであるが、」

 アイザックが指を鳴らし、二人の間に虚空が生まれた。
 そこから現れる魔狼――おそらくは牽制のため不死性を付与されていない――を翼で打ち払う間に、コヨーテは距離を取らされた。

「――理解したぞ。コヨーテ・エイムズよ。貴様のその力を」

「何だと?」

「どうやら、我輩の『魔狼の証』はさほど使い物にならんようだな」

 呆れたように言い放つアイザックに対し、コヨーテは冷や汗をかくほどに脅威を感じた。
 時間にして半刻にも満たない戦闘、そしてアイザックが言う実験はまだ四回しか行われていない。
 ただそれだけの小競り合いだけで判別されてしまうとは予想できるものではなかった。

「しかし納得のいくものだ。なるほどそれは貴様でなければ発現は不可能だっただろう」

「……本当に、嫌になるな」

「ふむ。そう腐る事はない。我輩これでも古株であるがゆえに、他の面々より多少は特異能力とも付き合いが長いのである。同時に、それに対する理解も深いのである」

 だからこそだ、とコヨーテは思う。
 もしこの翼を得た初戦の相手がエコマ・ノーザンクロスのような考えなしに直感だけで戦うタイプであったのなら、一切の情報を与えずに倒せていた可能性が高い。
 逆に、アイザックのように手数が多く観察に向く特異能力であれば、それはいわゆるコヨーテの特異能力にとっては天敵と表現してもいいほどに相性が悪かった。

「その翼は血液に含まれる命令を掻き乱していたのだ。魔狼に与えた不死性の情報を書き換えれば単なる黒狼になり、黒狼を形作る情報を書き換えれば絶命する。端的に言ってしまえば、貴様のそれは『吸血鬼の力のみを無効化している』。それから導き出される貴様の特異能力、それは血液操作でも黒翼特化でもない。その正体は――」

……お前の察した通りだよ」

 後を引き継ぐように、コヨーテは明かす。
 真相に辿り着いていたアイザックは満足げに頷いた。

「半吸血鬼とは完全なる吸血鬼となるか、吸血鬼を狩るハンターとなるかの二択を選ぶ運命にある種である。そして貴様が選んだ道は後者だ」

「……狼の使役、黒翼の変換。それらが吸血鬼の特徴であるのなら、『半吸血鬼が吸血鬼を狩る力』も特化できるはずだ」

 現に吸血鬼の組合には『完成者』ヘンリエッタ・ジェラードが存在する。
 吸血鬼の弱点すらを特徴として捉え、逆にその全てを無効化する力である。
 そんな例外があるのなら、コヨーテが辿り着いた半吸血鬼という例外も無理ではないはずだ。

「なるほど、そうして辿り着いたのか。など、思いつくのは貴様くらいのものだろうよ」

 コヨーテの純白の翼は魔狼を撫でるだけで絶命せしめた。
 それは魔狼を形成する段階で作成された命令情報や不死性を付与する命令情報を殺したからこそ、不死の抜け道を通る事ができたのだ。

 思い返せば、昼間にヒラギが暴走したときにルナが見たという翼は、この力の片鱗だったのかもしれない。
 直後に、『不死の王ノーライフキング』の力で作られた大質量の翼は跡形もなく消えていたのだから。

「しかしまだ分からぬ事がある。その半吸血鬼特化の能力が、何故純白の翼として発現したのか、だ」

「そんなもの、決まっている。……お前には分からないだろうがな」

「ほう?」

 素直にアイザックは首を傾げた。
 別にわざわざ教えてやる必要もないが、コヨーテはあえて明かす。
 それはこの力の源であり、またコヨーテがどうしても叶えたい願いでもある。

「この翼はお前やエコマのように戦いのためだけに存在するものじゃない。むしろ、とても攻撃に使えるものなんかじゃない……この翼は守るためにある」

 吸血鬼の暴威から大切な誰かを守るために。
 吸血鬼に侵された誰かを包み込むために。
 吸血鬼が奪おうとする誰かの命を失くさないために。

「お前たちが人間を襲い殺すというのならオレが守り、お前たちを殺す。運命にすら叛逆する力、それがオレの求めていた力だ」

 アイザックへレーヴァティンの切っ先を向けて、コヨーテは高く宣言した。
 もう、組合との衝突を避ける理由がない。
 たとえこの力に目覚める事がなくても、コヨーテはこうしていたに違いないのだから。

 半端者の半吸血鬼は、運命に抗って人々を守る英雄となるか。
 はたまた雑草のように毟られ朽ち果てるだけの歴史の塵芥となるか。
 賽は投げられた。

「……ふむ。今日この場に立てた事をヘンリエッタに感謝せねばなるまい」

 アイザックは先ほどまでの白々しいものではない、恐らくは心より賛辞の拍手で称えた。
 その表情からは余裕が消し飛んでいる。
 なくなったというよりは、真剣に戦いに臨むために心の贅肉を切り捨てたのだろう。

「どれ、我輩が貴様のそれに名をつけてやろう」

「要らないさ。もう決めている」

「ほう?」

 思いのほか興味深そうにアイザックは尋ねる。

「吸血鬼に対する叛逆の力。オレは、この力を『叛逆者リベリオン』と呼ぶ事にした」

 その名は吸血鬼の組合と袂を分かつという意思表示でもあり、誓いでもあった。
 これより先、コヨーテの名が語られる度に抗う意志を叩きつけられるように。

「叛逆の翼、か。良い名であるな」

 口元に薄く笑みを浮かべ、『魔狼の証』アイザック・グルージーは魔剣ダーインスレイヴを構える。
 『叛逆者』コヨーテ・エイムズはその力の象徴である白黒の翼を広げ、魔剣レーヴァティンからは炎が湧き出した。

 小手調べの時間は終わりを告げ、ここからは特異能力を備えた吸血鬼同士の殺し合いの時間が始まる。



【あとがき】
そんなにお久しぶらない、周摩です! 明けましておめでとうございます!
今回はタイトルの通り、『叛逆者』について情報を明かしています。
某所でつぶやきましたが、実は五月祭編で『叛逆者』は「まだ」出ない予定でした。
ですが、結果的に吸血鬼の『王族』の底知れなさが表現できたと思いました。
何しろ『叛逆者』の初登場だというのに一切格を落としてくれませんでしたもの……!

ちなみに『叛逆者』に至るまでに踏んできた段階は、これまでのリプレイを読んでいただければ少しだけ理解が早いかも、といったところです。
具体的には組合の吸血鬼が初登場する第一〇話、そこから出している『抗う』というフレーズ、『誰かを守りたい』という願い。
第二〇話では『誰かを守りたい』願いは『吸血鬼に襲われる人を守りたい』という明確な意志へと変じ、第三〇話では『仲間を守りたい』へとシフトしていっています。
そして第一六話のある一部分では『叛逆者』がその最大の強みを得るに当たって大きなヒントをもらっています。
気になる方は読み返してみるのもいいかもしれません。

今回は前回とは打って変わってすさまじいほどに安産でした。
年が変わって一週間程度で二五〇〇行という化け物じみたペースで、一日二〇〇行は余裕でした。怖い。
そのおかげで、このあとがきを書いている頃にはもう次回分まで書きあがっております。
しかし前回カットしたレギウスとエリックの場面はそのままなので、はじめに軽くあらすじを入れました。
その先の展開は、いずれまた!

さて、次回は本当に五月祭編クライマックスです。
『神族の帆船』とロスウェルの行く末は、コヨーテとアイザックの戦いの結末はどうなってしまうのか。
次のアップは相当早くなると思いますので、ご期待ください。
特にアイザックに関してはちっとも弱みを見せずに進んでいるので、筆者としても「どうやって倒せばいいんだ」と頭を悩ませたくらいには強敵です、彼。


当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
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