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第三五話:『Criss×Cross(後編)』(1/7) 

(五月二五日 八時四五分 交易都市リューン・大いなる日輪亭)

 エーレーンより大急ぎで帰路に着いた『月歌を紡ぐ者たち』は日が暮れてから『大いなる日輪亭』に戻った。
 一夜を明かした翌朝、手紙で知らされた名指しの依頼を持ち込んだ依頼主と対面した『月歌を紡ぐ者たち』は皆一様に驚いた。

「名指しの依頼って……エドガーさんからだったんだ」

「久しぶりだな。俺の事を覚えているようで嬉しいね」

 アレリウスの行商人エドガー。
 以前、『月歌を紡ぐ者たち』は彼の依頼を請けてアレリウスまでの道のりを護衛した。
 道中で山賊の襲撃を受けたものの、無事に切り抜けた事から好印象でコネクションを繋いだ人物である。

「この前は本当に世話になった。おかげで商談も上手くいったよ」

「それはよかった。それで、今回もアレリウスまでの護衛なのか?」

「いや、今回は別の仕事を頼みに来たんだ」

 そう言ったエドガーの表情は決して明るいものではなかった。
 名指しするだけあって尋常ではない依頼だと悟ったコヨーテも意識を改める。

「すまないが、まずはこれを読んでくれないか。昨日、俺が宿泊している宿に俺宛に届けられたものなんだが……」

 手紙にはやたらと角ばった筆跡が目立つ文章が書かれている。

「『お前の妹は預かった。返して欲しくば銀貨一〇万枚を一週間以内にカスミアン廃鉱山まで持って来い』」

「ありがちすぎて工夫が足りねぇ脅迫文だな」

「脅迫文にまでケチつけるのはやめてくれ。それで、差出人は……山賊『龍舞団』?」

「えーっ!? 確か『龍舞団』はどこかの冒険者に退治されたって話じゃ……」

「俺もその話は聞いてる。だから困ってるんだ。何でその、退治されたはずの山賊が一介の行商人である俺の妹を誘拐せねばならんのだ、と」

 エドガーは深くため息をつく。
 顔を合わせてから少しも経っていないのに、これで五度目だ。

「妹さんの安否の確認はしたんだよね?」

「もちろん、すぐに妹の通う学校へ駆け込んださ。結果は見てのとおりだが……」

「当たり前の事を聞くな。でなきゃここにゃ来ねぇだろ」

 失言に気づいたレンツォは軽く謝って引き下がった。
 わざわざ見せた脅迫文の存在があれば、依頼の内容は言うに及ばず。

「……君たちには妹が本当に山賊にさられたのか調査してほしいんだ。もしこの手紙の内容が事実だったなら、同時に妹を救出し、俺の前に連れてきてくれ。悪戯か何かだったなら犯人を見つけて、妹を俺の前に連れてきてもらいたい」

「人命を最優先、という事だな」

「ああ。必ず、俺の、前に、妹を、連れてくるんだ! 命や身体に支障がないなら何をしても構わん! ロープでぐるぐる巻きにしてでも麻痺や石化させてでも引きずり出してくるんだ!」

「……何か、すごく興奮してない?」

「俺はいたって平常心だ」

 鼻息を荒くしつつもそう言ったエドガーに、『月歌を紡ぐ者たち』は呆れるしかなかった。
 ここまで清々しい嘘は久しく聞いていない。

「あ、あのさ……もし、もしもだけどね? 万が一、妹さんがすでにお亡くなりになっていた場合は……」

 恐る恐る、レンツォは小さく手を挙げて訊ねる。
 この様子ではおそらく禁句ではあるだろうが、最悪の事態は想定しなくてはならない。

「……お前はとっくに俺の妹が死んでいると言いたいのか?」

「ひっ! い、いいえ! 滅相もありません事よ!?」

 もはや堅気の人間とは思えない鋭い眼光に射抜かれたレンツォは短い悲鳴をあげた。
 怯えすぎて椅子から転げ落ちそうなほどだ。

「……まぁ、あってはならない事だが万一、億一、いや兆一エルが殺されていた場合は証拠を持ち帰ってほしい。遺体が一番だが遺品や身体の一部など、妹だと確認できるものであれば構わない。その場合も依頼は成功と見なそう、……俺が正気を保っていればだが」

 つまり最悪の場合の保証はないという事だ。
 これは冒険者としては大きなマイナスであるが、エドガーの鬼気迫る様子に誰も何も言えなかった。

 あまりにも空気が悪くなったので、コヨーテは人数分の紅茶を注文した。
 何よりもまずこの依頼主に落ち着いてもらわなければ話ができない。
 一服の甲斐あって、少し経てばエドガーも冷静さを取り戻した。

「この脅迫状が届いたのが昨日で、件の廃鉱山までは半日以上かかる。期限は実質五日以内ってところだ」

「報酬は?」

「一〇〇〇枚を用意した。引き受けてもらえるなら前金として二〇〇枚を渡そう」

 良くも悪くもない、といったところか。
 もし山賊団が存在すればおそらく戦闘になるだろうし、危険が伴う。
 もし単なる悪戯だとしたら楽な部類に入る仕事だ。

「妹さんの事を聞いても?」

「名前はエル。歳は俺の二つ下だから……二〇歳だ。背は俺のアゴくらいの高さ、ブロンドの長髪に薄茶色の瞳。性格は……一言で表すとわがままだ。好奇心旺盛で色んな事にクビを突っ込みたがる……、何か、自分で言っててどこにでもいそうな気がしてきたな……」

「いや、いいから続けてくれ。何も目立った格好してなくちゃ探せない訳じゃない」

「その代わり、と言ってはなんだが、妹はリューンに留学する際に冒険者三名を護衛として雇って連れてきているはずなんだ。彼らもアレリウス領主の冒険者排斥政策で街に居られなくなり、今はリューンに拠点を置いている……まぁ、頭の痛い話だがエルは彼らがお気に入りらしくてしょっちゅう冒険の話をせがんでいるようでな。この脅迫状が事実だろうが悪戯だろうが、彼らは何かしらの事情を知っているはずだ」

「冒険者か……」

 バリーは眉間に皺を寄せて、指先でテーブルを小突いた。

「そいつらは信頼の置ける連中なのか?」

 時として冒険者は鬼にも悪魔にもなる。
 世の中の全ての人間が善でないように、冒険者にも金のためならどんな汚い仕事をも厭わない連中は大勢いる。
 今までの拠点を追い出されたのだとしたら金に困っていても不思議ではない。

「それについては心配ない。アレリウスでは結構名の知れた冒険者たちで、俺も何度か依頼をこなしてもらった事がある。とはいえ、それはアレリウスでの話だから、リューンでは星の数ほどいる冒険者パーティのひとつだろう。特に最近はアレリウス領主の冒険者排斥政策の締め上げで難民まがいの冒険者たちがリューンに多く流れているからな。地道に聞き込み、という訳にはいかないだろう。それに――」

 言葉を切って、エドガーは改めて冒険者たちに向き直る。
 その表情には先ほどまでの激しい感情は微塵もない。

「……君らを信頼していない訳ではないが、保険としてこれから身代金の調達をするつもりだ。俺の一番の目的は妹を無事に助け出す事……どうか、分かってほしい」

 エドガーもまた、――妹の死亡が最悪の更に下だとしても――最悪の事態を想定している。
 期限に間に合わない場合を想定して、折れる準備をすると宣言した。
 冒険者にとっては大いなる不名誉だ。

 どんな依頼主であろうと、どんな仕事であろうと、無用な心配をかけさせないほどの有無を言わさぬ実力。
 『月歌を紡ぐ者たち』は未だに『それ』を持ってはいなかった。

「こちらの事は気にしないでくれ。あなたはあなたが最善と思える手を打ってほしい」

「……すまない。ああ、こんな事なら意地でもエルから彼らの拠点の宿を聞き出しておくんだった」

 乱暴に頭を掻きながら項垂れるエドガーを前に、コヨーテは渡された情報に目を通す。
 羊皮紙に走り書きで記されたそれは件の冒険者の情報だった。
 多少の特徴はあったとしても大都市リューンの中では砂漠に落とした塩粒のようなもので、一人の女性だろうが三人の冒険者だろうが変わりない。

 少し考えさせてほしい、と告げてコヨーテは仲間を伴って場所を移した。

「……バリー、どう思う」

「十中八九ややこしい仕事だぜ。悪戯の可能性はひどく少ねぇ」

 バリーがそう判断したのにはそれなりの理由がある。
 長い間パーティを組んでいたのだ、それくらいの機微は感じ取れる。

「エドガーの妹の生死に関しちゃ五分五分だな。断言はできねぇが、おそらくは生きている確率のほうが少し高いくらいだ」

 あくまでも予測だと言い張るものの、バリーの言葉に弱さはない。

「もしこの山賊団が実在すると仮定した場合、腑に落ちない点が多すぎる。まず、なぜエドガーの妹を狙ったのか。大前提として、エドガーは商人だ。商人ってのは裕福の代名詞じゃねぇ。一時的に金を持っていたとしてもそれらは品物を売って初めて手にするモンだ」

「そんなの分かってるよ」

「だったらこの脅迫文を見てみろ。身代金の要求が銀貨一〇万枚だぜ? それもたった一週間だ。たった一人で行商しているような商人がたった七日間でそんな大金かき集められると思うか? 俺は不可能に賭ける」

「……どゆこと?」

「可能性はふたつ。ひとつは無理難題を吹っかけてエドガーを絶望させて楽しもうとする快楽殺人者のような思考。もうひとつはエドガーがどんな手を使っても銀貨一〇万枚という大金を用意すると踏んでるってところだな。俺の予想だと後者だ。根拠は……」

 バリーは静かにエドガーを指差す。
 正確には、妹の安否に関してひどく取り乱した彼を、だ。
 これだけ溺愛しているのなら、確かにどんな手を使ってでも身代金を用意してしまいかねない。

 そして犯人側としては身代金を手にするまで妹に手出しをしないのがセオリーだ。
 土壇場でカネを隠されてしまえば計画が水泡に帰す恐れがあるからだ。

「根拠はもうひとつある。脅迫文の差出人だ」

 そう言って示した脅迫文の末尾には『山賊「龍舞団」』と記されている。

「よく考えろ、山賊だぞ? 山賊ってのは山に棲みついたごろつきどもを指すんだ。そんな奴らがどうしてわざわざリューンまで来て商人の妹を誘拐して脅迫しなきゃならねぇんだ。そんな真似するくらいなら素直に山道の商人でも襲えばいい」

「そうするだけの価値があったという事か」

「どれだけの無理難題を吹っかけても人質を見捨てず、かつ身代金を用意できると予想している場合、すなわちエドガー近辺の事情に詳しい奴が犯人側に存在する事になる」

「だから同行していた冒険者を疑ったのね。主犯じゃないにしても協力者の可能性はある訳か」

「そうなると別の疑問点が浮上するが……キリがねぇから止めておくぜ。結論、この依頼は手がかりの少なさ以上に謎が多すぎる」

 これ以上は情報が足りない、とバリーは肩を竦めた。
 はっきりと断る事を勧めないのはこれが名指しの依頼だからか。
 冒険者は大胆すぎれば命を落とすが、慎重すぎても評価を落とす。
 彼らを頼って訪れた名指しの依頼であればなおさら、『月歌を紡ぐ者たち』の風評に関わる大事だ。

「請けたっていいとは思うぜ。だが失敗する可能性が高いのも事実だ」

「気が進まないか?」

「そりゃな。お前らはどうだ」

 バリーが促すと、他の面々も皆一様に目を逸らした。
 彼らもバリーと同じく『請けてもいい、しかし失敗するだろう』と感じているらしい。

「どちらでもいいのなら、オレは請けるぞ。オレたちを頼ってきてくれた依頼主を無碍にはできない……というのは半分建前だ」

「コヨーテ?」

「実はな、依頼主の妹エル、そして護衛の冒険者の内二名とは一度会った事がある。かもしれないんだ」

 以前エドガーの依頼を請けた日、路地でチンピラに絡まれていた女性を成り行きで助ける運びとなった。
 その時の女性、年の頃は二〇歳そこそこで背はエドガーのアゴくらいの高さ、ブロンドの長髪に薄茶色の瞳の『エル』と名乗った彼女は冒険者風の男二人を連れていた。
 エドガーから受け取った羊皮紙に記されている情報と、驚くほど合致している。

「もし違っていたのならそれでもいい。だが、知っている顔が危険な目に遭っているのなら――」

「分かった分かった。いつものコヨーテだろ? 納得してやるよ」

「……いや、これはオレのわがままなんだけど」

「分かりづれぇよ。もっと分かりやすくしろ」

 請ける事に納得してもらえるのならそれでいいはずなのだが、なんとなく適当に流された気がしてどこか腑に落ちないコヨーテであった。



(五月二五日 一〇時〇八分 交易都市リューン・ユーシェ学院)

 ユーシェ学院。
 それは交易都市リューンの東部に位置する大規模な学習院である。
 主に豪商や貴族の師弟が通う、いわゆる名門校に分類される場所だ。
 言うなれば冒険者という存在とは限りなく縁遠い場所である。

「似合わねぇなァ。ここに溶け込めるのなンざ、うちじゃルナかクロエくらいじゃねぇの」

「私服じゃないとダメだろう。さすがに修道服は目立つ」

 だというのに『月歌を紡ぐ者たち』がここを訪れたのは、捜索対象である依頼主の妹エルが通う学校だからだ。
 手がかりが少ない以上、失踪時の状況を詳しく知る人物と接触する事が最優先である。
 この学院にそういった情報を持つ人物が存在するかはさておき、可能性の高い場所から攻めるのが道理だろう。

「おい、そこの冒険者。ユーシェ学院に何の用だ?」

 正門近くが思っていた以上に閑散としていたとはいえ、やはり冒険者の装いは目立つらしい。
 こちらから声をかける前に警備と思しき男に呼び止められた。

「……まぁ、何の用があったとしても現在は学院関係者や生徒の家族以外は一切敷地内に入れられないのだがな」

 頭を掻きながら、警備の男は言った。
 学院の話を訊ねた際、エドガーも家族であるにも関わらず面会には常に警備兵を立ち会わされたくらいだ、と愚痴をこぼしていた。
 それでも普段はここまで厳重な警備体制は敷かれておらず、現在はユーシェ学院の生徒が殺人事件の被害に遭った事で完全休講中なのだという。

「悪いが帰ってくれ」

 取り付く島もなく、『月歌を紡ぐ者たち』は追い出されてしまった。
 せめて殺人事件の被害者がエルの失踪と関わりがあるのかだけでも聞き出せればよかったのだが、今の状況で冒険者は完全な部外者であり、立場が弱すぎる。 
 結局何一つ得るものがないまま、ただいたずらに時間だけを消費してしまった。



(五月二五日 一〇時三八分 交易都市リューン・西通り)

 手詰まりは早かった。
 エルはユーシェ学院の寮に寝泊りしているらしく、その寮も学院の敷地内とあっては手が出せない。
 結局、次の一手は地道な聞き込みになってしまう。

 しかしこの広大なリューンで闇雲に話しかけていたのではエルの情報にはたどり着けないだろう。
 ある程度の範囲を絞り込む必要がある。
 そこで手がかりとしたのはコヨーテの言葉だった。

「確か、この辺りのはずだ」

 二ヶ月前、エドガーの依頼を請ける前に遭遇した女性と戦士風の男と冒険者風の男の三人組。
 コヨーテは彼女らがエルとその護衛の冒険者だと推測したが、エドガーに訊ねてみれば正しくその通りだろう、との回答を得ていた。
 言葉を交わしたのあの時だけだが、あの三人組は嫌でも目立つ言動をしていたのは忘れていない。

「二ヶ月前、ってのはなかなか厳しいとは思うぜ。ヒトの記憶は脆いモンだ」

「それでもやるしかないさ」

 他に方法がないのだから仕方がない。
 中途半端な時間だったため人通りは少ないが、それでも数名からは話を聞く事ができた。
 そんな中、

「きゃっ」

「……ごめん。急いでるの」

 唐突に細い路地から飛び出してきた少女はルナを突き飛ばして、足早にその場を後にする。
 対するルナは薄汚れた路地に尻餅をついてしまった。
 近くに治安のよろしくない路地裏が潜んでいる西通りではさほど珍しくもない光景だが、相手がチンピラと少女とでは受ける印象の差が大きい。
 交易都市のモラルはどこへ行ってしまったのだろう。

「ルナ? 大丈夫か?」

「え、ええ……」

 力なく座り込んだままのルナに声を掛けると、彼女はようやくといった様子で立ち上がった。

「おや、これって……」

 チコが見つけたのは小さな手帳だった。

「さっきの女の子が落としたものかなー?」

「放っときなよ。そういうの、後から絡まれたら面倒だよ」

 両手で×を作りながら首を横に振るレンツォ。
 わざわざ忠告するという事は、それなりに苦い経験があるらしい。

「んー……、でもこれって」

 中身を検めていたチコは神妙な面持ちのまま、あるページで手を止めた。
 そしてページを開いたままレンツォに見せ付ける。
 そこにはユーシェ学院の校章と共に『ミア・アーツェン』という名が記されていた。

「……いい拾い物したねぇ」

「あの門を突破する鍵になる?」

「申し分ないさ。何しろ偶然拾っちゃったんだし? おまけにその持ち主と思しき人物に突き飛ばされた仲間が怪我した訳だし?」

「いえ。別に怪我はしていないのですが……」

 なんだかとても悪そうな顔になったレンツォを尻目に、ルナは呆れてため息をつくばかりだった。


To Be Continued...  Next→
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