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PC1:コヨーテ 

 そこは交易都市リューン。時は黄昏。
 数ある冒険者の宿の中、『大いなる日輪亭』はいつもの賑わいを見せていた。

 一階の酒場は、常連客と専属の冒険者、それと一般客数名が飲食しつつ談笑している。
 その宿で働く、最近抜け毛が気になってきた亭主エイブラハムと彼の娘であるアンナは大忙しだ。
 彼らは常連客や冒険者から親しみを込めて、それぞれ『親父』『娘さん』と呼ばれている。
 今日は遠出していた冒険者が予定より早く帰ってきたので、一際忙しかった。

「娘さん、エール追加だ!」

 ほろ酔いの常連客が上機嫌で追加を注文する。
 娘さんは元気良く「はいはーい、すぐ行きます!」と返事する。

「親父さんよう。『あいつ』はいないのかい?」

 カウンターで皿を洗っている親父に、常連客が問いかける。
 親父は手を止めずに、それに答える。

「『あいつ』なら買出しに行ってるよ」

「へぇ、こんな時間にかい?
 親父さんも人使いが荒いねぇ」

 常連客は娘さんから受け取った、冷えたエールをぐい、と呷る。
 酒のお陰か、いつもより饒舌だ。

「馬鹿、本当はそんなに急ぐ必要はないんだよ。
 だけどあいつが大丈夫だって言うから、頼んだんだ」

「そりゃ、あいつは若いし身体も頑健だ。
 チンピラくらいなら一捻りかも知れないな」

 そう言って、常連客は大笑いする。
 隣で飲んでいた常連客の連れは始めてみる顔だった。
 親父と常連客の会話が解らないという顔をしている。

「ああ、お前さんは知らなかったな。
 俺たちが話してるのは、この宿で働いてるコヨーテって奴のことだ」

「コヨーテ? 有名な奴なのか?」

「いんや、ちょっと変わった若造さ。
 なにせいっつも真っ黒の外套を着込んでてよ。
 肌は真っ白だし、瞳は真っ赤だ。
 本人は否定してるが、俺は白子アルビノじゃねえかと思ってる。
 それにな――」

「……おい」

 親父の低い一声が掛けられた。
 饒舌が過ぎた常連客は、見る見る顔が青ざめていく。
 『大いなる日輪亭』では、親父を怒らせることは絶対のタブーとなっている。

 理由は簡単、無事では済まないからである。
 親父は引退した身ではあるが、全盛期は凄腕の冒険者だったらしい。
 今では衰えてはいるものの、一対一の喧嘩ならまず負けないほどである。
 噂では親父の拳骨はトラウマもので、三日は痛みが消えないのだとか。

「俺の身内を貶すのは、その辺にしておけ」

 そんな親父の恫喝に、常連客はコクコクと頷いた。
 この親父を怒らせたら大変であることは、彼も重々承知している。

「……何度も言っているだろうが。
 あいつは白子じゃない。たまたま眼が赤かっただけだ。
 あの外套だって俺がくれてやったもので、あいつのお気に入りってだけだ」

「……そ、そうだよな。
 いやあ、義父思いの良い奴だよ、コヨーテは」

 常連客は適当に言い繕うと、勘定を済ませて逃げるように店を出る。
 連れもそれを追うようにして店を後にした。
 その瞬間、『今夜は機嫌が良い方だったのか』と宿内の空気も弛緩した。

 親父は洗い物を止め、片っ端から皿を拭き始めた。
 遠出から帰った冒険者も一様に部屋に戻っていったようだ。
 これで、ある程度は楽になるだろう。

「それにしても少し遅いか。
 コヨーテの奴、面倒に巻き込まれてなければいいが……」



「重いですよ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。ありがとう」

 酒瓶が十数本入った袋を軽々と持ち上げると、一礼して店を出る。
 コヨーテは背に店員の感謝の声を聞きつつ、宿へと歩き出した。

 夜風にサラサラと流れる銀髪は、月の光に輝いていた。
 黒く丈の長い外套に包んだ身体は、一見細いようであるが、その実締まっている。
 肌の色は白く、対照的な暗めの服装の影響もあってかなり目立つ。
 目鼻立ちは整っているが不健康そうな顔は、儚い印象を漂わせていた。

 月が分厚い雲に遮られ、夜の闇がリューンの街を包み込む。
 普通ならこの時間帯に外は出歩かない。
 灯りのない夜の街は、伸ばした手の先も分からないほどの暗闇なのだ。

 だが、ほぼ完全な闇にあっても、彼の歩みは止まらない。
 常人では在り得ない、血のように赤い瞳が写すのは闇ではなかった。
 昼間の街を歩くように軽快に、大通りの角を曲がる。
 空を見上げると、さっきまでの分厚い雲は流れ、代わりに薄い雲が月を覆っていた。

 そこでふと、女性の声を聞いた。
 どうやらこの付近の裏路地からのようだ。

(嫌な予感がする)

 コヨーテの野生の感が、そう言っていた。
 『コヨーテの直感は、外れることの方が少ない』とは、親父の言葉である。
 すぐに荷物をその場に置くと、声のした方へ歩み出した。

「――ひっ」

 今度ははっきりと、すぐ近くで女性の声が聞こえた。
 恐怖を感じた人間が、喉の奥から発する声のようだった。
 足音を殺して、その場に近づく。

 やがて、二人の人影を発見した。
 一人は大柄の男で、血に塗れたナイフを右手に持っている。
 よくよく見れば、男の足元には横たわり、ぴくりとも動かない女性の身体がある。

 もう一人は小柄な体型から女性と思われ、白い修道服を纏っている。
 震える彼女の手には聖印が握られている。

(どう見ても、穏やかな場面じゃなさそうだな)

 コヨーテは腰の剣に手を掛けると、敢えて足音を立てて歩み寄る。
 コッ、コッ、という足音に、二人の人影は同時にコヨーテの方を振り返った。

「……何をしてるんだ?」

 わざとらしく、コヨーテは男に問いかける。
 コヨーテの赤い瞳が、暗闇の中にある男のニヤリ、とした笑みを見つけた。
 次の瞬間には、男の右手が動いた。

「おっと」

 コヨーテには男の一閃が見えている。
 軽く地面を蹴り、ナイフの届かない範囲へ身体をずらす。
 男は常人なら見えないはずの一撃を避けられたことに驚いている。

 コヨーテは剣を鞘から抜いた。
 鞘の擦れる音が、男の動揺を更に煽る。
 ざり、と一歩退く音が聞こえたが、コヨーテはそれを隙と見る。

 一気に間合いを詰め、剣を片手で逆袈裟に振りぬく。
 乾いた金属音が夜のリューンに響き、数秒後にナイフが石畳に叩きつけられる。
 コヨーテの狙いは寸分違わず、男の右手のナイフを弾いていた。

「う、くっ……!」

 男が呻くような声を漏らす。
 凄まじい膂力で振りぬかれた剣による一撃は、自由が利かないレベルまで右手を痺れさせていた。
 ここで敵わぬと悟った男は、逃げ出すために足の位置を動かす。

「はあっ!」

 コヨーテは気合の一声と共に、右手の剣を男に叩き込んだ。
 方向を変えるために開いた腹に、刃ではなく柄頭がめり込む。
 見ただけで胃が縮むような鳩尾への一撃に、たまらず男は血反吐を吐きながら昏倒した。

「………………」

 コヨーテは剣を鞘に収め、横たわっていた女性の状態を確認する。
 既に事切れていることを知ると、開いたままの女性の瞼をそっと閉じた。

 次に、懐から布切れを取り出し、男の手足を固く縛る。
 力をセーブして打ち込んだため死んではいないが、いつ目が覚めるかはわからない。
 こうして拘束しておかねば逃げられる可能性がある。

 この作業を終えて、ようやくコヨーテは修道服の女性を見た。
 色素の薄い、銀色に近い蒼の髪に、健康的に白い肌。
 大人しそうな顔つきの少女だった。

「あ、あのっ……」

 先ほどの戦闘を、薄暗いながらも見ていた少女はそこで正気を取り戻したようだ。
 目の前で繰り広げられた非日常に混乱していたのだろう。

「もう帰った方がいい。
 夜は何かと物騒だ。
 それに君のような人間に、裏路地は不似合いだろう」

 コヨーテはそれだけ言うと、踵を返した。
 何故このような場面に遭遇したのか、疑問はあったが聞かない。
 感心できる事情だろうと、説教すべき事情だろうと、興味がなかった。

 それはそうと、面倒ではあるがこの事を自警団に報告せねばならない。
 この暴漢をこのまま放置するわけにもいかないし、骸となった女性も放っておけない。
 溜息を一つつくと、背後で感謝の言葉が聞こえた。
 敢えて何も言わず、そのまま歩みを続ける。

 コヨーテがこの面倒に首を突っ込んだのは、見返りを求めてのことではない。
 ましてや正義感からでも、現場を見た者としての義務感などではない。
 彼はこの行為が自分で正しいことだと判断したのだ。
 例え彼の力が及ばず、返り討ちにあったとしても後悔はなかっただろう。

 気が狂ってしまうほどの辛い後悔なら、遥か昔に体験していた。
 後悔の痛みを知れば、二度と味わいたくないという気持ちはあって当然だ。

「痛ッ――」

 そんなことを考えていると、心臓に針を刺されたような痛みが蘇った。
 立ち止まって空を見上げるも、そこには分厚い雲で遮られた夜の帳。
 気まぐれに望んだ、月の光はそこにはなかった。

 酒瓶の袋を担いだコヨーテは、過去の痛みを胸に感じながら夜のリューンを歩いていく。



【あとがき】
PCその1、コヨーテの登場です。
今回はPCの加入からガッツリやりますよ!
旧作(紅蓮の剣)のコヨーテとほぼ同一人物です。
ので、旧作を読まれた方はお分かりかも知れませんが、彼は純粋な人間ではありません。

宿の親父さんとは義理の親子ということになっています。
過去の話はまた追々。


以下、設定時の覚書。
・吸血鬼と人間のハーフ。出生に秘密アリ。
・意外と人間くさいところもあり、情に厚い。
・戦士としての素質を持っており、細いながらも身体は締まっている。
・彼の野生的なヤマ勘は当たる方が多いらしい。
・常に裾の長い、黒い外套を着ている。日差しから身を守るため、暗闇での戦闘を考慮してのことである。
・髪の色は、時々薄っすらと金色に見えるときもある。
・外見的にアルビノに間違われることもある。
・照れると鼻の頭を掻く癖がある。(特に意味ない)

・初期所持召喚獣
「吸血鬼の躯」:(『吸血鬼の組合』:周摩オリジナル)

○設定上の持ち物
・ロングソード
・黒の外套
◆コヨーテ(♂・若者) 無双型
(画像は自作です)
コヨーテ・エイムズ

PC画像は「Female」のカテゴリにありましたが、あまりにイメージぴったりだったので♂で使用させていただきました。
秀麗     貧乏     冷静沈着
秩序派    進取派    鈍感
過激     謙虚     硬派
お人好し

最も暗い過去と経歴を持っていながら、それをバネに頑張る英雄ヒーローみたいな感じ。
作者的に心情描写が一番楽な子。
身内ではこの子が活躍するシーンでは「カッコヨーテ」という別称がついていたり。
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周摩

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