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第三五話:『Criss×Cross(後編)』(6/7) 

 カスミアン廃鉱山の中はある程度は整備されているものの、やや広い洞窟のような雰囲気だった。
 入り口に程近いからか、洞窟ではありがちなじっとりとした湿気はあまり感じない。
 今はそれよりも全身にまとわりついた土砂を叩き落とすほうに気が向いていた。

「さすがドワーフと子供用に掘られた抜け穴だね」

「安全に潜入できたんだ。文句は言えないよな」

 コヨーテは苦笑しつつ、チコの頭の上に乗っかった土を払い落とした。

 『月歌を紡ぐ者たち』らは一昨日に廃鉱山の近くで出会った遺跡荒らしコンビが掘ったという抜け穴を通ってきている。
 どうにもあの後にも懲りずに再潜入を試みたようだが、廃鉱山内で再び追い返されたのだという。
 今度は罠の類ではなく、巨大な剣を持った人間の男だったようだ。

「どうした。何か気になる事でもあるのか?」

「ん? あぁ、ちょっとね」

 冒険者アイークは忙しなく辺りに視線を投げていた。
 パーティでは探索を担っているという彼の眼はレンジャーのものだ。
 彼の気づきは重要な意味を持つかもしれない。

「さっきの狂戦士バーサーカーの話だが、どうにも気になってね」

「ああ、それについては俺も思うところがある。大方、入り口の罠が機能停止したからその代わりってところだろ」

「それには同感だが、オレが気にしているのは別のほうだよ。実はその狂戦士に心当たりがある。というか、たぶん……」

 アイークの言葉を遮るように、大勢の足音が響いた。
 その足音は明らかにこちらに向かってきている。
 コヨーテらが陣形を整える間もなく曲がり角の向こうから姿を現したのは、三人の傭兵風の男たちだった。

「!! 冒険者だと!? なぜここに……!?」

 あからさまな動揺、そして敵意を向ける傭兵風の男たち。
 その挙動だけで山賊『龍舞団』との関わりは明確だった。

「ああ、ちょうどいい。エルはどこにいる?」

「エル? エルだと? ……そうか、貴様らロナルドの差し金か!」

「あ?」

「どにかく、ここに足を踏み入れた以上、ただで帰すわけにはいかん! 覚悟!!」

 傭兵風の男たちは一斉に剣を抜き去り、間合いを一気に詰める。
 多勢に無勢ならではの速攻戦だ。

 しかし十数秒後、傭兵風の男たちは一人を残して気絶させられていた。

「さてさて、お喋りタイムだ。黒幕は誰? どうしてエルを捕らえる必要があったんだい?」

「何も知らずにここに来たのか……相当なお人好しだな。知っていれば歯向かう気も起こらなかったろうに……」

 傭兵風の男は嘲笑して、

「エルなどという女はどこにも存在しない……ここにいるのはアレリウス領主の娘レネーとその仲間……父親に逆らう愚かな兄妹に利用されるだけ利用されて……無惨な屍を晒すがいいさ……!」

 罵りの言葉を最後に男は気を失った。
 ずいぶんと気の利く男だ、とバリーは笑う。

「ようやく全ての糸が繋がったな。まったく、こんがらがりすぎだぜ」

 疲れたように短く息を吐いて、

「麻薬密売の黒幕、それはアレリウスの領主だ」

「アレリウスって……この前エドガーさんを護衛して行った街ですよね? 領内における冒険者の活動を一切禁止した奇特な領主の治める街、でしたっけ」

「そうだ。おそらく冒険者排斥は自分が麻薬密売に関わっている事を知られたくなかったのが動機だろう。冒険者がいれば何らかの依頼をきっかけに麻薬の事がバレちまうかもしれねぇからな」

「愚かだな……」

 機会が多いだけで、冒険者は好きで悪事を追求している訳ではない。
 罪を暴くのは常に『誰か』であって一定の何かではないのだから。

「おそらく、以前エドガーを護衛して通ったあの街道に麻薬に関わる何かがあったんだろうぜ。街道沿いに出た『龍舞団』を名乗る山賊も領主の手駒だったと考えると辻褄が合う。覚えてるか? あの時の山賊ども、冒険者を狙って拘束しようとしていたんだぜ」

「そういえばそうだったわね。忘れかけていたわ」

「冒険者は排斥するくせに山賊を放置していた事は忘れてねぇだろ? ありゃあ、領主に逆らう反乱分子を誘き寄せようとしてたんだろうぜ。具体的には自分の娘をな」

「つまり領主側には彼女が冒険者をやっていた事なんてばれていたって事か?」

「領主となれば情報なんていくらでも集められるからな。必死に隠していたエルと隠されていたエドガーには悪いが、そういうこった」

 であればアレリウス領主が最初から冒険者にのみ的を絞っていた事にも説明がつく。
 そして実際に山賊を退治したという冒険者も、もしかするとターゲットであるエルたちだったのかもしれない。

「だが、これで少なくともエル……領主の娘が無事である可能性が高くなったな。レネーロナルドを誘き寄せるためのエサだ。彼女の無事である姿を見せないとあの兄が領主に従うとは到底思えねぇからなァ」

 皆が皆、一斉に頷いた。
 エルの仲間であるアイークも微妙な表情で頷いていた。

「それでもエルの仲間まで無事である保証はない」

「……無事である事を祈るしかないな」

「あぁ、それについてさっき言いかけた事なんだが」

 思いついたようにアイークが声を上げた。

「オレの仲間の事なんだが……無事じゃないかもしれないが生きてはいるかもしれない」

「確信できる何かがあったのか?」

「いや、確信はできないんだが。さっき話していた狂戦士がな……どうにもオレの仲間の一人にそれっぽい格好のヤツがいるんだ。アイツが生き残れているなら他の連中も何だかんだで死んでないんじゃないかと思ってな」



 一人目は奥まった場所にある、少し開けた場所にいた。

「ど、どどどうしよう……見つかっちゃったよぅ……か、勝てるかな俺一人で……ムリだよなぁ。コボルトにも勝てないもんなぁ。捕まっちゃったら殺されるんだよなぁ、やっぱり……殺されるのには慣れてるけどやっぱり死にたくなんかないし……、アキヨ……どうせ殺されるならまた君に殺されたかったよ……」

「あの……大丈夫、ですか?」

「わっ!!」

 滅茶苦茶に動揺して縮こまっている冒険者風の男に敵意や害意がないと判断してもっとも人畜無害そうなルナに声をかけさせたというのに、ひどく怯えさせてしまったようだ。

「や、やっぱり、俺……殺されるんですよね……?」

「……あんた、もしかしてイクヤって名前じゃないか?」

 コヨーテが訊ねると図星だったのか、冒険者風の男は目を丸くして息を呑んだ。

「あぁ、確かにこいつはイクヤだ。なんだ、知ってたのか」

 答えたのはアイークだった。
 彼の疑問ももっともだが、『月歌を紡ぐ者たち』も同様に疑問を感じていた。

「実は昨日の昼ごろにカーマインに会いに行ったんだが、そこで話を聞いたんだ。正確にはイクヤという冒険者と交際しているという少女からだが」

「アキヨが?」

「……託されたよ。『彼が生きていたら助けてあげてほしい』、ってな」

 イクヤは俯いたまま落雷に打たれたように固まってしまった。
 ややあって顔を上げ、

「早とちりしてホントにすみません。何せ普段から命狙われてばっかりだったもんで」

 超小声で「……その、アキヨから……」という言葉が聞こえたような気がしたが関与しないほうが賢明だろう。
 さっき固まっていたのは色々と複雑な心境が絡み合っていたのだろうか。

「あ、自己紹介します。俺の名前はイクヤ、一応冒険者です。最近リューンで流行ってる麻薬の調査の依頼を請けて仲間と一緒にここに来たんですが……いきなり巨大な敵に攻撃を受けて、みんなバラバラに逃げて離れ離れになっちゃったんです」

「巨大な敵?」

「人型をした魔物で緑色っぽい肌をしていましたが、俺には何だかさっぱり……」

 この出来事が時系列の最初なのだという。
 仲間の中で一番未熟で戦いが苦手だからと隠れていたらしいが、そのせいで他の面々とも合流していないらしい。

「この部屋ですけど、何か魔除けの結界みたいなのが張られてるみたいでコボルトなんかの下級妖魔は寄り付けなくなってるみたいです」

 鉱山が生きていた時に鉱夫が張ったものか、とバリーは推測する。
 ルナもかすかに神聖な気配がすると言っている。
 聖北系の結界なのだろうか。

「ここにいれば仲間が逃げ延びてくるかなとも思っていたんですけど……」

「まぁ、一番ヤバそうなイクヤは生きてたし、『あの馬鹿』は生きてそうだから大丈夫だろう」

 そう言って、アイークは肩を竦めた。



 『あの馬鹿』とはすぐに遭遇できた。

「――うおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 戦士風の大男が雄叫びを上げながら爆走してきたからだ。 

「ちょ、ちょっとガライっ!? ど、どうしたの、落ち着いて!」

 大男ガライは大剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。
 その一撃は地面を抉り巻き上げられた土砂が『月歌を紡ぐ者たち』を襲う。
 イクヤの呼びかけもまったく耳に入っていない。

「件の麻薬を投与されているみたいだな……」

「助けるべき相手のようだけど、こんな状態で四の五言ってられないわよね!」

 言いつつ、ミリアは駆け出した。
 壁を利用して首筋への跳び蹴りを繰り出すも、ガライはまったく意に介さない。
 件の麻薬は服用した者を凶暴化させ、身体能力を著しく上昇させる。
 投与された量にもよるがおそらく彼の膂力・耐久力は通常の数倍になっているだろう。

「おいイクヤ、【血清の法】くらい使えただろ? アイツをちゃっちゃと治したらどうだ?」

「ええっ! も、もし近づいて殴られたら俺じゃひとたまりもないですよ!」

「……ちょっと荒っぽくなってもいいよな?」

 一応の断りを入れてからコヨーテはレーヴァティンを手にガライと対峙する。
 結局叩きのめして落ち着かせる事になってしまった。

 力任せな剣閃ではあるが、それが一撃必殺級の威力を秘めているとなれば油断できない。
 事実、それを受け止めるたびにコヨーテの手を痺れさせている。

「ちっ、素体が人間だけあってラットとは桁違いね」

「だが、やりやすいだろう」

 まぁね、とミリアは軽く言ってのける。
 というのも、いくら凶暴化したとはいっても相手は所詮人間なのだ。
 人体の構造自体を変えてしまわなければ、その動きは高い精度で予測できる。

 後はコヨーテが彼の大剣を封じてしまえば詰みだ。
 いくら耐久が増したとはいえ、殴り続ければいずれは倒れる。

「……目は覚めたか?」

 一度気を失って正気を取り戻したガライは頭をさすりながら上体を起こした。

「う~~~ん……頭がガンガンしてやがるぜ」

「あれだけ暴れまわったんだもの。頭痛だけで済んだのは奇跡よ奇跡」

「あれだけボコボコにしておいて……いやなんでもない」

 ツッコミを入れかけたアイークだったが、言い切らずにやめた。
 結果オーライと取ってくれたのだろう。

「暴れた……? ッ、そうだ……俺は……! くそぉっ!!」

「落ち着けよ。興奮するとまた薬の効果がぶり返しちまうかもしれねぇぞ」

「っ……畜生! 俺は……俺はっ、アイツを助けられなかったんだ!」

 両手を地面に打ちつけ、懺悔するようにガライは叫ぶ。

「アイツが囮になって俺たちを逃がしてくれたってのに俺は……何もできなかったんだっ!」

 血を吐くような叫びだった。
 己の無力を思い知らされ大事な存在が消えてなくなるというのは、コヨーテにも覚えがある。
 ガライはひとしきり叫び倒すと、神妙な面持ちでコヨーテに向き直る。

「なぁ、アンタ……」

「コヨーテだ」

「……コヨーテ、頼む。俺を一緒に連れてってくれねぇか……? アイツを、……エルをこの手で助け出してェんだ! とてもこんなコト言えた義理じゃねェってのはわかってる。けどよっ……!!」

 コヨーテはそれ以上の言葉をガライに紡がせなかった。
 もちろん、コヨーテも言葉を投げかけたわけでもない。

 差し出したのは右手だけである。



 【眠りの雲】という術式は一対多において絶大な威力を発揮する。
 その魔術師はその事をよくよく理解していた。

「……ちぇっ」

 しかし、その魔術師は知らなかった。
 魔術の発生をいち早く察知するバリーという『眼』を、指示を受けて即座に行動できるコヨーテやミリアという『手足』を。

「なかなかやるじゃん。僕の魔法に耐えるなんて」

 距離をとるため岩陰から姿を現した魔術師は、まだ幼さの残る少年の姿をしていた。

「悪いけど、まだ僕は捕まるわけにはいかないんだ……悪あがきさせてもらうよ!」

 その物言いと、あまりにも場違いなその外見。
 もはや山賊集団の一味でない事は明白だった。

「待ってよセロカ! この人たちは敵じゃない!!」

 イクヤの姿を認めた魔術師はハッとして、すぐにアイークやガライにも気づいた。
 すぐに警戒を解いて短く息を吐くと、

「……な~んだ、領主の一味じゃなかったのか」

 パチン、と指を鳴らして【眠りの雲】を解除する。

「ごめんね、早とちりしちゃって。何せ僕、か弱いもんだから衝突は避けたかったんだ」

「気にすんな。魔術師が独りでこの状況なら俺だってそうするぜ」

 と、バリーが言う。

「しかし助かったよ。僕独りじゃとてもリーダーを助ける事はできそうにないし……エルを助けに行くんでしょ? それなら僕も一緒に連れて行ってもらいたいな」

「まぁ、」

 コヨーテは振り返って、

「――今更断る理由もないよな」

 セロカの仲間にもすでに三名に同行してもらっている。
 毒を食らわば皿まで、だ。



 先導役のレンツォがハンドシグナルを出す。
 『止まれ』から『コヨーテ』と続けて合図が送られてきた。
 音を立てないようにコヨーテはレンツォの元に移動すると、彼に倣って物陰から向こうを見た。

「……あれは」

 そこは廃鉱山の中とは思えない場所だった。
 篝火を反射する鈍色の鉄棒がいくつも等間隔に打ち付けられているそれは、例えるなら牢屋である。
 鉱山には本来なかった場所だからか、三面が鉄格子という異様な外観になっている。
 看守なのだろうか、牢の前には傭兵風の男がひとり、木箱に腰掛けていた。

 そして牢の中には長い金髪を後ろで括った、勝気そうな女性が囚われていた。
 コヨーテが以前にリューンの裏路地で出会ったあの少女に違いない。
 向こうもこちらに気づいたようで、声を上げずに目配せだけでその事を伝えている。

「ん、どうした。ここから逃げ出す算段でも思いついたのか?」

「……まぁ、そんなところね」

 適当に嘯くような調子で言って、エルは看守から見えないように身体を壁にしながら合図を出している。
 盗賊の符丁、という奴なのだろうか。
 コヨーテには伝わらなかった。

(敵か味方か? って聞いてるんだよ)

 通訳しつつ、レンツォも符丁で返答する。

「はっは、冗談にしては笑えんな。武器も盗賊道具もない貴様に一体何ができるというのだ。仲間も一人は実験台にされた、残った二人も投薬済み妖魔の山の前に一体どうやって立ち向かうと?」

「あなたには分からないでしょうね。まぁ、せいぜい今のうちに笑っておくがいいわ」

 軽口を交わしながらも飛ばされた符丁を受けて、レンツォはアイークたちを手招きで呼んだ。
 彼らの無事を確認したエルはにやりと笑み、鉄格子に少し手を触れた。

「おい、何をやって――な、何ぃ!?」

 まるで最初から鍵なんて掛かっていなかったように、軋んだ音を立てて牢が開く。
 狼狽する看守に対してエルは素早く接近して強烈な前蹴りを叩き込んだ。
 鳩尾を蹴られてうずくまった看守の後頭部に追撃のネリチャギをお見舞いすると、看守はそのまま気を失った。

「盗賊は道具を取られた時のために簡単な予備道具を仕込んであるものよ」

 もう聞こえてないでしょうけどね、と付け足してエルは口笛を吹く。
 随分と無茶をする女性だ、とコヨーテは呆れた。
 せっかく向こうが気づいていないのだから、こちらが注意を引くなり何なりすればリスクを減らせたはずなのに。

「エルー!」

「よかったわ、みんな無事だったのね」

 アイークたちはエルに駆け寄り、再会を喜んだ。
 しかしそれも束の間で、エルはすぐにコヨーテに向き直った。

「まずはお礼を言わなくちゃね。仲間を助けてくれてありがとう。……そして、あなたたちがここにいる理由も大体察しは付くわ」

「だったら話は早い。状況はいくらか把握しているか?」

「連中はこの抜け穴の奥で麻薬の原料のキノコを栽培してるわ。少し前に頭領っぽい男が戻ってきて少しピリピリしてる感じ。私としては、今のうちにここの麻薬関連のモノを全部ぶっ潰しちゃいたいんだけど……」

「分かるよ、オレたちだって同業者だ。あんたの請けた依頼がそれだったんだろう? だったらここにきて退けないよな」

「……ありがとう。でも気をつけて。中に巨大なバケモノがいるのよ。暗くて姿までは見えなかったけど私たちはそいつにやられたの」

 イクヤの話にも出ていた巨大な妖魔。
 それがあちらの手札にあるとあっては避けては通れない相手なのだろう。
 もしそれが手に負えない相手だとしたら、もしかすると。

(こちらも切り札を使わなきゃならなくなる、か……?)


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周摩

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