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第三五話:『Criss×Cross(後編)』(7/7) 

 廃鉱山とはいえ、最奥の通路は異常に広く高く造られていた。
 おそらくは件の巨大なバケモノが通行できるようになっているのだろうが、そのおかげでふたつの冒険者パーティ計一一名が同時に行動できている。
 先導するのはレンツォとエル、二人の盗賊だ。

「……これは」

 牢の部屋から程近い場所に、その栽培所は存在した。
 見渡す限りの壁面をびっしりと多い尽くす【龍舞茸】は冒険者たちを圧倒する。

「よくもまぁこれだけ貴重なキノコをこんなに殖やしたもんだね」

 これら全てが麻薬の材料となるのだ。
 どれだけの利益が生み出されるのか想像すらできない。
 それ以上に被害者の数もどれほどの数になるのか想像もしたくない。

 できれば先にこちらを処分したかったがこれだけの量だ。
 即座に処分できるものではない。

 キノコの海を乗り越え、続いた先はこれまでのどの部屋よりも広かった。
 おそらくは最奥である。
 そしてその場に立っていたのは、ひとりの男。
 長身痩躯でいかにも知恵者といった佇まいであるが、その眼光は鋭かった。

「とうとう追い詰めたぞ、覚悟するんだな」

「……追い詰めた、ですか。私は今まで何度もそう言って私を捕らえようとした人間を見てきたものですがね」

 男はくつくつと笑う。
 多勢に無勢という状況でも一切の余裕を崩さない。

「そうだ……あんたの顔、どこかで見たと思ったぜ。『闇の薬剤師』リチャード・コーヘン。違法ドラッグ専門の薬剤師さんよぉ」

 大麻などのありふれた麻薬から、果ては媚薬や無味無臭の猛毒まで調合できない薬はないという。
 薬物の扱いにおいてはリューンでも有数の薬剤のエキスパート。

「ほう、私の事をご存知で。それは光栄ですね」

「ついに薬剤師じゃ稼げなくなったのか? 山賊の真似事までやりだすなんざ笑い話にもならねぇな」

「今まで様々な薬を作ってきましたが扱っている種類が種類なのでね。ずっと日陰でコソコソしなければならない自分に嫌気が差しましてね。もう私も若くありませんしそれなりの土地を手に入れて美しい奥方でも迎えて静かに暮らそうと思ったのですよ」

 例えば、とリチャードは視線をエルへと向ける。

「――そこにいらっしゃるアレリウスのお嬢様のような方を、ね」

「……!」

 蛇のように絡みつく視線に、エルは思わず身じろいだ。

「ちょうどそのお嬢様の父上が良い儲け話を探していたというのでアレリウス領に寄ったのですが、そうしたら偶然にもただの伝説とされていた『龍舞団』の薬の製造法まで発見できましてね。私は薬の研究の支援を、お父上は薬のもたらす利益を欲し、こうして利害が一致したのです」

 やはりバリーの推測は当たっていたようだ。
 しかし向こうから答え合わせをしてくれるとは随分と饒舌な男だ。

「しかし困った事にお嬢様の兄上殿が私たちの計画に真っ向から対立しましてね。私はまだ光の下に出られない身ですので、私の存在が表沙汰になっては非常に困るのです」

「だからエルを餌に誘き寄せようとしたのか」

「ええ、それはもう苦労したのですよ。いやはや、冒険者というのは実に厄介な存在ですね。単純な損得で動かないなど不条理極まりない」

「褒め言葉と受け取っておこう」

 恨み節には軽口で返すのが一番だ。

「お嬢様の兄上殿を亡き者にしお嬢様を私の従順な妻として娶り、その後にお父上にいなくなってもらえば私のスイートホーム計画は完成するはずだったのですが……」

 リチャードはゆっくりと右手を上げた。

「まぁ、幸福に辿りつくには多少の苦難はつきものだと考えましょう」

 パチン、と指を鳴らした。

「ラローン! こちらへ来なさい!」

 合図と言葉。
 それを契機に廃鉱山が揺れ、天井からは砂と埃が剥がれ落ちる。

「クフフフ、今の私の最愛のパートナーを紹介しましょう……」

 リチャードの厭らしい笑みは止まらない。
 彼の背後から現れたのはオランウータンのような容貌に、岩色の肌を持つ巨人だった。

「なっ、トロール!?」

 ルナが驚愕していたのはトロールの存在にではない。
 その体長が通常のトロールとは比べ物にならない大きさだった。

「コ、コイツよ……! 私たちはコイツにやられたの!」

「……ちょっと待て。まさか、こいつも」

「ええ、ラローンは私の薬の実験体として非常に役立ってくれているのです。今回の薬でも大いに助かりました」

 件の麻薬の劇的な効果を考えると頑丈な肉体を持つトロールという種は実験台として有用だったのだろう。
 だがそれも凶暴なトロールを完全に使役し得る何かがなければ不可能だ。
 であれば目の前のリチャードという男は『それ』を持っている。
 警戒しなければならない材料が増えてしまった。

「馬鹿にはできないな」

 まだまだ未完成ですよ、とリチャードは嘲笑する。

「この薬が完成すれば各地に存在する反政府組織などにいくらでも需要が取れますからね。実に夢のある話でしょう」

「だが所詮は泡沫の夢だ」

「……ふん。減らず口だけは達者なようですね。さぁ、行きなさいラローン! この冒険者たちが今晩のあなたのディナーですよ!」

 リチャードの指示を受け、獣の咆哮を放つラローン。
 びりびりと響く威圧感を前にしてもコヨーテは一切退かない。

「――腹ぁ壊しても知らないわよ」

 一番槍はやはりミリアだった。
 速攻の双剣が閃き、トロールの胴に連撃を加える。
 決して浅い傷ではなかったはずなのに対して血は出ていない。

「クフフフフ、そんなもの!」

 見れば、リチャードの手には薬瓶があった。
 蓋を捨ててラローンに放り投げると、傷口を覆った薬剤が瞬時にその傷を塞ぐ。
 即効性の治療薬なのだろうか。

「ちっ、面倒な!」

 その間にもラローンの動きは止まっていない。
 叩き潰す一撃がミリアの頭上に振りかぶられ、

「ミリア、上!」

 その前にチコの速射がラローンの腕に突き刺さる。
 が、トロールの腕に何本の矢を突き立てたところで容易には止まってくれない。
 ミリアの回避行動は素早かったが、しかしラローンの巨大さの前ではまだまだ射程の範囲内だった。

「――どりゃああああああ!!」

 割り込んだのは大剣を構えたガライだ。
 ラローンの一撃を受け止め、なおも押し返そうとしている。
 なんという馬鹿力なのか。

「【魔法の鎧】が間に合ってよかったねガライ」

 【賢者の杖】を携えたセロカが言う。
 いつの間に唱えたのか、コヨーテたちにも【魔法の鎧】がかけられていた。

「すまない、助かる!」

 間隙を突いて、コヨーテのレーヴァティンが唸りを上げる。
 ガライが受け止めていたラローンの腕に炎をまとった斬撃が直撃する。

「――だあっ!!」

 渾身の力を込めて放たれた一撃は、ラローンの腕を真っ二つに切り裂いた。
 血の噴出す音と獣の咆哮が廃鉱山に響き渡る。
 一瞬にして辺りに鉄錆びた匂いが充満していった。

「なかなかやりますね……」

 それでも焦りを見せないリチャードはさらに薬瓶をラローンに放る。
 腕の断面に薬を塗りたくられたラローンは両断された腕を拾うと、無理やりそれをくっつけた。
 驚くべき事に、ラローンの腕はまるで元通りに動くようになっていた。
 トロールの再生力を鑑みても異常すぎる。

「うわぁっ!!」

 再生したその腕で振るわれた薙ぎ倒しはコヨーテら前衛をまとめて吹き飛ばした。
 【魔法の鎧】がなければ防御していたとしても腕が砕けていたに違いない。
 吹き飛ばされながらもコヨーテはレーヴァティンを地に突き立てて踏みとどまった。

「っ!」

 まるでそこが境界とばかりに、コヨーテの眼前に炎の障壁が立ち上る。
 バリーが唱えた【火炎の壁】がラローンの追撃を阻んだのだ。

「だ、大丈夫ですか!?」

 即座にルナとイクヤが治癒を施した。
 ミリアの傷は大した事はなかったが、ガライはまともにトロールの怪力に身を晒したのだ。
 イクヤの【癒身の法】でも完全には治癒できなかった。

「気張んなさい、ガライ!」

「わぁーってるよ!」

 エルの激励が飛ぶが、これでは埒が明かない。
 状況を打破するために必要な事は何か、それはひとつしかなかった。
 コヨーテはエルへ視線を送ると、彼女も気づいた様子で頷いた。

「バリー、ミリア! 足止めを頼む!」

「俺は!?」

「ガライは……無茶するな」

 コヨーテは言いかけて、

「……いや、やっぱり動かないでくれ」

 思い直してストレートに伝えた。
 彼には遠まわしな表現は分からないかもしれなかった。

「《残虐なる焔王のため息よ、欠片も残さず包み込め》――《囲え!》」

 【炎網の囲い】が唱えられ、ラローンを上から抑えつける。
 しかしトロールに元々備わっている【怪力無双】の前では一瞬の戒めにしかならない。
 その一瞬の時間を狙って、ミリアの双剣がラローンの足を大きく切り裂いた。

「はん! その程度!」

「……だったらこれはどうだ?」

 膝をついたラローンの身体を踏み台にして駆け上がり、頭上を取ったコヨーテはレーヴァティンを振り上げる。
 トロールの弱点である炎と再生を司る頭部への攻撃を同時に受ければどうなるか。
 あるいは一撃死すら有り得るか。

「――くっ!」

 振り落とそうとするラローンの身じろぎによってコヨーテは体勢を崩した。
 その最中に放った一閃は明らかに浅い。

「面倒ですねぇ」

 鬱陶しそうに吐き捨て、リチャードは更なる薬瓶を放り投げた。
 ラローンにではなくコヨーテに向かって、だ。
 嫌な予感がして、咄嗟にレーヴァティンで叩き割ったが、

「――っ!?」

 爆発が起こった。
 瓶の中に詰められていたのは可燃性の薬液だったのだろう。
 おそらくはレンツォのもつ【火炎瓶】と同じように空気に触れると燃え上がる仕組みだったのだ。
 爆風に吹かれて壁に打ち付けられたコヨーテは激しく咳き込んだ。
 
「コヨーテ!」

「――大丈夫だ!」

 コヨーテの持つレーヴァティンには火炎が纏っていた。 
 薬瓶の爆風を、同じ火炎による爆風によって押し返していたのだ。
 それでも完全には防げなかったが、動けなくなるほどのダメージは負っていない。

「クフフフフ、もう一発行きますか?」

 ぽん、と薬瓶が放られる。

「させるか!」

 放物線を描く薬瓶はコヨーテたちに届く前に打ち落とされ、再び爆発が起こった。
 打ち落としたのはアイークが放ったダガーだ。

「……む!」

「探しているのはこれかしら?」

 エルが掲げたのは小ぶりな道具入れだった。
 爆風の隙を突いて接近したエルは、リチャードが腰に括りつけていたそれを奪っていたのだ。
 コヨーテらがラローンとせめぎ合っている中、エルはずっとリチャードの急所、すなわち薬がどこから取り出されるかを観察していた。

「これでアンタは裸の王様よ、リチャード」

「くっ……なんという手癖の悪さ!」

 エルは意地悪そうに舌を出して、道具入れをずっと後方へ放り投げる。

「――ラロォーン!!」

 激昂したリチャードは乱暴に叫び、指示を出す。
 主の感情を読み取ったのか、ラローンは咆哮し、一層の凶暴性を増して暴れだした。

「薬品による支援もない。肉は切り裂けるし血は出る。だったら恐れるものはない!」

 コヨーテのレーヴァティンが、ミリアの双剣が、ガライの大剣が、バリーの火炎が、セロカの疾風が、チコの速射が、アイークの投擲が、ラローンを一斉に襲った。
 ラローンの攻撃はルナの【聖霊の盾】とセロカの【魔法の鎧】によって軽減され、一切が致命傷に至らない。
 いくらトロールの再生力でも補えないほどの傷が五月雨のように襲い、噴き出た血は水溜りとなった。

 トロールは不死ではない。
 麻薬を投与されたとはいえ、アンデッド化した訳ではないのだ。
 やがて生命の全てを搾り出した果てに、ついにラローンは倒れた。

「ラ、ラローン……せ、せっかくの、貴重な……!」

「この期に及んで実験体の心配か」

 もうとっくにリチャードは壊れていたのか。
 化け物を超越したラローンと自身の調合した薬剤があればこそ勝利を確信していたのに、それらを全て失った今、彼には何も残ってはいなかった。

「さて、こいつはどうする?」

「よっしゃ一発殴らせろ!」

「待ってよ、僕だって殴りたい」

「オレもだ」

「お、俺も……一応」

「じゃあこうしましょう。全員一発ずつ殴るって事で」

 エルの提案は実に賢明なものだった。
 はずだ。



 ドワーフのバルドが掘ってくれた抜け穴を埋め、コヨーテらは廃鉱山を後にした。
 元々人が寄り付くような場所ではないし、薬の精製方法さえなくしてしまえば【龍舞茸】はただの毒キノコに過ぎない。

「こんな……たった一枚の紙のために……」

 コヨーテは万感の思いを込めて、麻薬のレシピを放り捨てる。
 宙に揺れるレシピはレーヴァティンによって切り裂かれ、その火炎で存在をこの世から消し去られた。


 そして依頼人エドガーの待つ『銀の翼竜亭』に辿りついたのは翌日、五日目の早朝だった。
 早い時刻だった事もあってエドガーの声はよく響いてしまった。

「レネー!! ぶ、無事だったかあぁーーー!!」

「に、兄様! その名前で私を呼ばないでって言ったじゃないのよ!」

「心配掛けさせてくれて……まったく、どうしてお前はいつもいつも! お前に何かあった俺は……母上に申し訳が立たないじゃないか……レネー……!」

「……兄様、その……ごめんなさい」

 さしもの勝気なエルも兄には敵わない様子で、見る影もなくしおらしくなっている。
 彼女の仲間たちも皆一様に「あーあ」といった風に肩を竦めていた。

「あの様子じゃ妹さん当分はエドガーのそばから離してもらえなさそうだな」

「まぁ、予測はついてたけどね。命が無事だっただけでも僕たちラッキーだよ」

「……まったくだ」

 そう言って、みんなが笑った。


 リューンの西通りの一角に供えられた花の前で、ミア・アーツェンは祈りを捧げていた。
 今は亡き恋人に向けた追悼の祈り。
 傍に付き添うカーマインもただ無言で彼女に倣う。

「そう……、エルを助けてくれただけじゃなく仇まで討ってくれたのね」

 事の顛末を伝えてもミアは振り返らなかった。
 しゃがんだまま花へと視線を落とし、切れ切れの言葉を紡ぐ。

「これでラインも……浮かばれる、よね……」

「ミアさん……」

「……ぅっ……、うわあぁぁぁぁん!!」

 決壊は早かった。

「このバカ、バカ……バカライン……! どうして、どうして……っ!!」

 ミアの慟哭は西通りの朝に響き渡る。
 真実が明らかになったところで人間の命は戻ってこない。
 それを分かっているから、ミアはただひたすらに涙を流すのだ。

 コヨーテたちにできる事は、何もない。


 全ての事後処理を終えた『月歌を紡ぐ者たち』とエルら『奇妙な冒険者』は北通り、『銀の翼竜亭』の前で別れる事になった。

「今回、君たちには俺が思っていた以上に迷惑を掛けてしまったな……君たちの働きに見合うかどうかは分からないが報酬を受け取ってほしい」

 エドガーから渡された銀貨袋を受け取ったレンツォは眉をしかめた。
 事前に聞いていた報酬の額よりずっと重い。

「……意図した事ではなかったとはいえ、俺たち家族の問題にすっかり巻き込んでしまったからな。その侘びも兼ねて、だ」

「まったくだ。まさか依頼人まで身分詐称していたなんて思わなかったからな」

「これは手厳しい」

 冗談だよ、とコヨーテは微笑んだ。
 伝染するように、その場に笑顔が溢れた。

「俺はこれからアレリウスに戻って父の犯罪を明るみに出す。そして妹たちにはアレリウス領内の混乱を収めてもらう事にしたよ」

「アレリウス領内に限っては私も冒険者をやっていいってやーっと認めてくれたのよ。もちろん、いつかはアレリウス以外での活動も認めてもらうけどね!」

「我が妹ながらホントに懲りないヤツだ……」

 さて、とエドガーは話題を切り替える。
 いつまでもこうして話し込んでいる訳にもいかない。

「名残は惜しいが、そろそろ……」

「そうだな。これからも大変だと思うが、頑張れよ」

「大丈夫だ。妹たちの手に余る事件があったら君たちを頼るからな」

「それは……これからオレたちも忙しくなるんじゃないか?」

「んもぅ、二人とも……そんなに私って頼りないの?」

 一気にエルは複雑な表情になった。
 さすがに今回の件で多少は学び、反省したのだろう。
 あの勝気さが嘘のようだ。

「……な~んか、もしアレリウスで事件があっても、エルじゃなくてすぐにコヨーテさんたちに依頼しちゃうつもりとか」

「ありえるな、この兄貴なら」

「……俺もこの通り信用されていないのだからお互い様だろうが」

「あ、はは……」

 もはや乾いた笑いしか出ない。
 何だかんだで、彼らはこんな調子でうまくやっていくのだろう。
 一度でも修羅場を潜り抜けた冒険者は強くなる。

「……では、これで失礼する。何度も言うが、本当に世話になった。ありがとう」

「ああ、またな」

「――ちょっと待って!」

 別れの言葉を済ませ、踵を返したコヨーテを引き止めたのはエルだった。

「コヨーテにちょっと相談したい事があるの……悪いけど二人だけにしてくれないかしら。……あ、アンタたちは先に出発してていいわよ。私の足ならすぐに追いつくから」

「オレは構わないが……」

「やれやれ、コヨーテ殿にあまり迷惑を掛けないようにな」

 エドガーはため息をひとつついて、南東のアレリウスへ向かって歩き出した。
 その後ろを『奇妙な冒険者』の面々が続く。
 コヨーテも『月歌を紡ぐ者たち』へ目配せすると、各々が『大いなる日輪亭』へ向かっていった。

「ねぇ、コヨーテは『月歌を紡ぐ者たち』のリーダーやってて悩んだ事ってある?」

「悩み?」

「私、あの連中のリーダーをやってるんだけど……ホントに私がリーダーでよかったのかな、って」

(ああ――)

 コヨーテは理解した。
 彼女が聞きたかった事が何なのかを、そして彼女の問いに答えられるのも『月歌』ではおそらく自分だけだろう、と。

「今回の事だって私が自分の立場や実力を冷静に弁える事ができていれば、あなたたちにまで余計な迷惑を掛けずに済んだんじゃないかって……」

 懺悔のような言葉は続く。

「ううん、あなたたちだけじゃない。イクヤも元々はまったくの無関係だったのに、否応なしに巻き込む事になっちゃったわ。私の家族の問題なのに、みんなを巻き込んで……振り回しちゃって……」

 そう、彼女はかつてのコヨーテと同じ事で悩んでいた。
 立場や性質は違えど、悩みの概要はまったく同じだ。
 だからこそコヨーテは彼女に言葉を贈る事ができる。
 かつて経験し、打ちひしがれ、そして救われたコヨーテだからこそ。

「……やっぱり未熟だよ、あんたは。まだまだ冒険者としては半人前だ」

「そう……やっぱり――」

「――冒険者パーティのリーダーが仲間を信頼しなくてどうする?」

 諦めたようなエルの言葉を遮って、コヨーテは続ける。

「今回の事件であんたがリーダー失格だなんて思っている奴は一人だっていないだろうさ。断言してやってもいい。あんたは仲間の事を心配し、大切に思っている。だったらあんたの仲間だって同じだ」

「……、っ!」

「冒険者としてパーティを組んでいる以上、仲間の問題は自分自身の問題も同然……、あんたもそうじゃないのか?」

 半分は受け売りなんだけどな、とは言わなかった。
 仲間たちからコヨーテが受け取った言葉は、もはや彼の血となり肉となっている。

「全ての事が、必ずしも思い通りに行く訳じゃない。時に思惑は交差し、食い違い、やがて正面切ってぶつかり合う事だって少なくない」

「……、」

「だが、それでいいんじゃないか?」

「え……?」

 困惑するエルの表情に、きっとあの時の自分もこんな顔をしていたに違いない、とコヨーテは微笑む。

「――最後に全て分かり合えるなら」

 言葉は伝える。
 思いは伝わる。
 経験した者から、悩み苦しむ者へ。

 どうか、よき冒険を。



【あとがき】
今回のシナリオはほしみさんの「Criss×Cross(後編)」です。
前編とはまったく違う事件を追いながら次第に繋がっていく情報と、幾重にも重ねられた真実が見所ですね!
個人的にシティアドベンチャーものではトップクラスに好きなシナリオです。
リプレイを書くにあたって、少なくともこれはやるぞリストにばっちり記していました!

やはり大好きなのはラストの会話です!
適正レベルからも、これまでの冒険を積み重ねていればバッチリ納得できる会話かと。
リプレイではそれをずっと記してきているので分かりやすさもあるかなと思います。

そして途中で挟まれたあの『獣』の登場ですが、これはやっぱりシナリオ内にはありません。
これは後への布石といいますか、しっかり後で回収するつもりです。
知る人ぞ知る、あのアレです……!

さて、次回はちょっとした買い物タイムです。
そして色々と決着をつけたりつけなかったりしてくれればな、と……


【生き抜いたからこそ誰かに繋げる言葉がある】


☆今回の功労者☆
ミリア。リーダー代理とか潜入とか大活躍でしたね。

報酬:
エドガーの依頼:1200sp
警察の依頼:400sp

戦利品:
【紅曜石】
【龍舞の秘薬】
【薬入れ】


銀貨袋の中身→9077sp

≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『Criss×Cross(後編)』(ほしみ様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

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