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PC2:ルナ 

 そこは交易都市リューン。時は夜半。
 白を基調とした修道服を身に纏った女性は、道に迷っていた。

 確かこの辺りに冒険者の宿があったのだが、どうにも見つからない。
 迂闊にも宿名を聞き忘れるという失態を犯したため、人に尋ねることもできない。
 だが、これも神の与えたもうた試練と思い、彼女は独力で宿を探すことにした。

 彼女の手には銀色の聖印が握られていた。
 この聖印を握っていると、特別魔法の品というわけでもないのに勇気が湧いてくる。
 僅かな勇気を振り絞り、段々と暗くなってくるリューンの路地を、ぐるぐると回る。

 そもそもこの辺りはそう難しい地理ではない。
 彼女はリューンの出身ではあるが、この辺りに来るのは初めてである。
 元来活発な性格をしておらず、外に出ることも少なかったので、こういった事に慣れていないのだ。

 彼女はどんよりとした雲に覆われた空を仰いだ。
 自分の名前の由来たる月が見えない。
 彼女は、名をルナという。

「はぁ……疲れた……」

 ルナは歩き疲れ、歩みを止めた。
 見慣れない場所にあるという心細さと、どんどん暗くなってゆく街が彼女を精神的に疲弊させていた。

(このままではいけない。
 なんとしても、目的の宿にたどり着かなければ……!)

 そう決心するも、その結果はさして変わらない。
 余計に入り組んだ路地に入り込み、大通りの位置すら分からなくなってしまった。
 心が折れそうになりつつも、ルナは歩き続けた。

 ふと、日常では聞かない音が聞こえた。
 例えるなら、何かが落ちた音。
 それも小物を落としたような音ではない。
 どさり、という柔らかく質量のあるものが落ちた音だ。

 音が鳴ったのはすぐそこの角を曲がった先だった。
 あてもなく歩く事に疲れたルナは、吸い寄せられるように音の方へ歩き出した。

 そこで見たのは、彼女にとって非日常。
 しかし、裏路地では日常である殺人の現場だった。

 薄暗い裏路地に、人影が二つ。
 一つはしゃがんで、右手に握る何かを、もう一つの影に何度も何度も叩きつけていた。
 それは、僅かな月明かりを反射する鈍い光――すなわち刃物だった。

 しゃがんでいる人影が刃物を振り下ろすごとに、湿ったような嫌な音が響く。
 横たわった影は、ぴくりとも動かない。

「きゃ……!?」

 思わず、彼女は声を出してしまった。
 今まで修道院で閉鎖的な暮らしを送っていた彼女には、あまりにも刺激が強すぎる。

 当然、その声は刃物を突き立てていた影にも聞こえた。
 ゆっくりとした動作で立ち上がり、後ろを振り返る。
 返り血で服を真っ赤に染めた、大柄な男だった。

「――ひっ」

 男の持つ刃物がルナへと向いた。
 まるで『次はお前だ』とでも言いたげだった。

 特に治安の悪い裏路地では、こういった殺人者は少なくない。
 元々、そういった連中が集まる場所なのだ。
 運悪くここに迷い込んだ彼女には、暗い未来が待っているはずだった。

(……神よ)

 ルナはぶるぶると震えながらも、手にしていた聖印を握り締めた。
 あまりの恐怖に足が竦み、逃げ出すこともできない。
 か弱き彼女には、神に祈ることしかできなかった。

 ぎゅっ、と瞑った目には、完全な暗闇しか映らない。
 視界を完全に絶ったからこそ、あの音が聞こえた。
 コッ、コッ、という、石畳を叩く音、それは足音だった。
 思わず目を開け、音の方向へ視線を投げた。

「……何をしてるんだ?」

 凛とした声が、裏路地を通った。
 分厚い雲が途切れ、淡い月の明かりが声の主を照らしていた。
 どうやら声の主は青年らしかった。

 その青年は、まるでお芝居の役者のような整った顔立ちで、一部の隙もなくそこに立っていた。
 もし彼が役者ならば、その全身真っ黒という出で立ちは悪役の方が似合っている気がする。

 だが、ルナはそんなことは気にも留めなかった。
 彼こそは、神が送り出した救いの手に違いない。
 彼女にはそう思えたからだ。

 それから、彼女はずっと呆けていた。
 再び月が雲に隠れた、薄暗い中での戦闘は彼女の目にはほとんど映らなかった。
 それでも激しい金属音や、男の呻くような声、人の倒れる音がしたことだけは分かる。
 ここで起こった全てが彼女にとって非日常であり、なすすべなく呆けるしかなかったのだ。

 再び月明かりが辺りを照らした時、暴漢は地に伏し、青年はルナの方へ目を向けていた。

「あ、あのっ……」

「もう帰った方がいい。
 夜は何かと物騒だ……それに君のような人間に、裏路地は不似合いだろう」

 青年はぶっきらぼうに言った。
 何が起こったのか分からないが、とにかくこの青年がルナの命を救ってくれたことだけは理解できる。

 どうにか感謝の意を表そうとするも、青年はさっさと踵を返してしまったため、タイミングを逸してしまった。
 それでも、薄暗い中を不自然なほど早く歩く彼の背に感謝の言葉を投げかけることだけはできた。



「み……見つけたァ……」

 ルナはどうにか自力で、目的の宿を見つけることに成功した。
 もう夜も更けつつあったが、宿はまだ営業しているらしい。
 こうして扉の前に立っているだけでも、中の喧騒が聞こえてくる。

 青年と別れた後、ルナは激しく後悔した。

 いかに自分の失態といえど、こう暗くなっては先ほどのように命の危険もある。
 しかし目的の宿を見つけなければ、家に帰るなどできない。
 故に、あの青年に道を尋ねればよかったのだ。

(命を助けてもらっておいて更に助けを乞うなんて、恥知らずもいいところですけど)

 結果的には自力で目的を達成できることが嬉しかった。
 だからこうやって『余計な恥をかかずに済んだ』と思考することもできる。

「ごめんくださーい」

 ルナはなるべく大きな声で挨拶をして、宿の扉をノックした。
 中から、『お客さんだぜ!』『行ってこいコヨーテ!』という声が聞こえてきた。
 聞きなれない乱暴な言葉遣いに、ルナは軽くショックを受けた。

「いらっしゃい」

「んなっ!?」

 扉を開けたのは、先ほどの青年だった。
 さっき着ていた黒い外套はなく、代わりにエプロンを着けていた。
 そのエプロンがまた可愛い仕上がりになっており、物凄いギャップを感じる。

「あれ、君はさっきの……」

「な、な、な、なんであなたが!?」

 ルナはあまりの複雑な衝撃に、動揺が最高潮に達した。
 あまりの慌てように、青年も呆れ顔になる。

「とりあえず入るといい。お客さんなんだろう?」

 青年はルナに入るように促す。
 すっかり頭が混乱しているルナは、素直にそれに従った。
 宿の中はさまざまな酒の臭いで充満している。
 ルナは意外と酒好きであるため、特に不快感は感じなかった。

「どうぞ」
 
 ルナは青年の勧めたカウンター席に座る。
 彼自身はカウンターの中に入ったところを見ると、どうやら彼はこの宿で働いているらしい。

「ご注文は?」

「あ、それでは葡萄酒を適当に――ではなくっ!」

 お酒の誘惑に負けそうになりながらも、ルナは懐から一通の手紙を取り出した。
 羊皮紙を赤い紐で纏めたものである。

「え、と。これを宿の主人殿にお渡しして頂きたいのですが……
 聖北教会のヨルマから、と言えばお分かりになるかと」

「ヨルマだって!?」

 突然の大声に、ルナは驚いて椅子から転げ落ちそうになった。
 店の奥から宿の主人らしき男性が姿を現した。

「親父、手紙だってさ」

 青年はカウンターに置かれたままの手紙を指す。
 親父、と呼ばれた男性はすぐにそれを手にとって読み始めた。
 どうやらこの男性が宿の主人で間違いないようだ。

「………………」

 手紙を読み進めるにつれ、親父さんの表情は険しくなる。
 中に何が書いてあるか、ルナは知っている。
 親父さんは手紙を元通りに纏めると、改めてルナを見た。

「……君がルナ、で間違いないかな?」

「は、はいっ!」

 親父さんは答えを聞くと、再び黙り込んだ。
 ややあってふう、とため息をついた。

「冒険者になりたい、というのは君の意思かい?」

 険しい表情のまま、親父さんはルナの目を真っ直ぐ見つめる。
 あの手紙にはルナを冒険者として迎え入れて欲しい、という内容が書かれていたのだ。
 視界の端で青年は何も言わず、そのやりとりを見ていた。

「……はい」

 ルナは短く答える。
 冒険者になりたいという自分の気持ちの程を伝えたかったが、止めた。
 何しろ、彼は本物の冒険者だったのだ。
 若輩者の妄言に近い、その思いは蛇足に思えた。

「………………」

 こっそりと、誰にも見えないように青年は微笑んでいた。
 その笑みがどんな意味を含んでいるのか、それは青年にしか分からない。

「……今夜はもう遅い。
 宿代サービスしてやるから、泊まっていくといい。
 コヨーテ、奥の部屋へ案内してやってくれ」

 コヨーテと呼ばれた青年は頷き、鍵の束を手に取った。
 まさにその時、狙いすましたかのような瞬間――

『ぐうぅぅ~』

 ――と、腹の虫が情けなく鳴った。
 それが自分の腹の虫だと気づいたルナは、顔を真っ赤にする。

「……適当な賄いでいいか?」

「あ、えうっ……お、お構いなくっ……!!」

 あまりの狼狽ぶりに、コヨーテは苦笑いする。
 厨房に入ってすぐに、暖かな湯気の立つスープといくつかのパンを運んできてくれた。 
 どちらも質素ながら、とても良い匂いが漂う。

「どうぞ」

「うっ。し、しかし……」

「金は取らないよ。腹、減ってるんだろう?」

 ここまで言われては、最早断る理由はない。
 ルナは何度も感謝と恐縮の言葉を述べ、食事に手をつけた。

「美味しい……」

 季節の野菜を濃すぎない味付けで煮込まれたスープは、とても美味だった。
 野菜は口の中に入れた瞬間に崩れるほど、ほろほろに煮込まれている。
 パンにも齧りつけば、ほのかな甘みが口の中に広がる。

「口に合うなら、何よりだ」

 コヨーテは、若干満足げに言った。
 彼の様子から察するに、どうやらこの料理を手がけたのは彼らしい。

(私よりも料理が上手……)

 ルナはこれでも年頃の乙女である。
 料理の腕には多少の自信はあったし、たまに孤児院の手伝いで料理をした時などは大層喜ばれたものだった。
 だが、コヨーテは彼女も舌を巻くほどの腕を持っているのだ。

 その事実に自信を無くしつつも、ルナは千切ったパンを口に運んだ。



【あとがき】
PCその2、ルナの登場です。
コヨーテと同じく、旧作(紅蓮の剣)のルナとほぼ同一人物です。

聖北教会のヨルマさんに関しては、たぶん掘り下げません。
というか名前だけのちょい役ですから。

以下、設定時の覚書。
・リューンで代々騎士の家系であるイクシリオン家のご令嬢。
・母と兄二人を亡くしており、肉親は父しかいない。
・世界を知るため、僅かでも人を救うため冒険者となる。
・高貴の出ではあるが、謙虚な性格である。
・少々人見知りする方ではあるが、変なところで肝が据わっている。
・若干お酒好きな一面があり、普段は節制している。
・隠れ巨乳であり、ゆったりとした僧服なので分かりにくい。

・初期所持スキル
「癒身の法」:入手可能シナリオ「交易都市リューン」(GroupAskさん)

○設定上の持ち物
・棒杖(護身用)
・銀の十字架

◆ルナ(♀・若者) 標準型
(画像は自作です)
ルナ・イクシリオン

秀麗     都会育ち   裕福
厚き信仰   献身的    秩序派
勤勉     内気     謙虚
上品     お人好し

この子も若干暗い過去を持っています。
彼女はそれを受け止めて包み込んでいます。
作者的に会話に参加させることが難しい子。
性格が引っ込み思案だと、あんまり積極的に喋らないから困る。
というか他の面子が濃すぎるのかな……?
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周摩

Author:周摩
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