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ロスウェル五月祭 アナザーサイド/レギウス 

 すっかり日が暮れた深緑都市ロスウェルの住宅街、その屋根の上をひた走るひとつの影。
 正確には大きな猛獣の背に乗った魔術師が一人。

 火光獣ポチの背に跨って賢者の塔を目指すレギウスは奇妙な感覚を覚えていた。

「……妙だな」

『妙、とは?』

 少しも速度を緩めずに火光獣は問う。
 初めの内はこうして誰かを背に乗せる事に不満を漏らしていたが、今ではすっかり従順である。
 おそらくこの主には何を言っても無駄だと悟ったのだろう。

「仮にも今夜は五月祭だぜ。人が少なすぎやしねェか」

 ちらり、と火光獣は人間よりも広い視野で街を見渡す。
 中心街には未だに煌びやかな明かりが瞬いており、とても少ないとは言い難い。
 が、レギウスの言わんとしている事は分かった。

『何ぞ準備でもしているのやも知れぬ』

「魔術的な人払いか、あるいはもうとっくに皆殺しにされたか」

『後者は無かろう』

「可能性はあるぜ」

『血の臭いがせん。それに夜となったのはつい先刻だ。いくら最強の夜の眷属たる吸血鬼でもこの短時間では』

「先入観は捨てろ。吸血鬼が起こした事件に吸血鬼以外の存在が混じってねェと誰が断言できる?」

『……む、』

「第一、吸血鬼っつったら血液を扱うスペシャリストじゃねェか。血の行方なんざどうとでもなる」

『考えすぎではないのか』

「だったら良いじゃねェか。仕事が楽になって困る事ァねェだろ」

『しかし――』

「お喋りは終いだ」

 レギウスの向けた視線の先には、街一番の高さを誇りそびえ立つ賢者の塔。
 火光獣の速度であればもう四半刻も掛からないだろう。
 併設されている大学の庭を突っ切れば尚更だ。

 その庭も街と同様に静かで、人っ子一人見当たらない。
 しかしこの状況ではむしろ好都合だろう、ごちゃごちゃ人が居ては通行の邪魔だ。
 屋根から降りて、芝生の上を駆けさせる。

「――ッ、跳べ!!」

 急速な魔力の膨張を肌で感じ、レギウスは叫ぶ。
 即座に命令を理解した火光獣は高く跳んだものの、突風にあおられてバランスを崩した。

『む、ぐ――!』

 いや、ただの風ではない。
 灼けつくように熱い。

『爆発、だと!?』

 爆風により弾け飛んだ土砂がまるで矢のように襲い掛かってくる。
 火光獣の瞬発力がなければとても避けきれなかっただろう。

 直撃を受ければもとより、仮に避けられたとしても二段構えの凶器が対象をずたずたに引き裂く。
 何とも周到で残忍な、基礎を忠実に守ったようなセオリー通りの攻撃魔術だ。

「チッ、まただ! 右に跳べ!」

 着地した瞬間に、レギウスはまたも魔力の流れを感知し、即座に指示を出す。
 火光獣が地を蹴った一瞬後に遅れて地面から火柱が上がった。
 一度や二度に留まらず、その攻撃は何度も何度も繰り返されていく。

(狙撃か?)

 次第に爆発のタイミングが調整されていく感覚をおぼえ、レギウスは舌を打った。
 こうなってしまうと、だだっ広く遮蔽物の少ない大学の庭を選んだのは間違いだったと断ぜずにはいられない。
 だが、レギウスの判断に誤りはなかったはずだ。

(どうして俺の位置がバレた? いや、それ以前に何を材料に俺を敵だと判断してやがる?)

 レギウスは固定観念に囚われない。
 少し考えを巡らせればすぐに答えにたどり着けるような問いだとしても、必ず一度は熟考する。

「……迎撃かよクソッタレ」

 あからさまな人払いと初撃の命中精度、そして執拗な追撃を鑑みればその可能性が最も高い。
 おそらく大学の構内から賢者の塔周辺にかけて大規模な感知術式が敷いてあったのだろう。
 迎撃術式と必ずセットで用いられるそれは、あのセオリーを忠実に守った爆破の術式を見る限り、これまたセオリー通りに厳重に隠されていたのだろう。

 追撃間隔の正確性を見れば設置型の術式だろう、というのは予想できる。
 となれば、直撃を避けるためのジグザグ行動はほぼ無意味だ。

 問題はその起動方法であるが、こちらは単純な自動起動型と遠隔操作型法が存在する。
 術式に設定された範囲で対象を感知した場合に起爆する自動起動型であれば、レギウスのような不確定な侵入者への迎撃に向くものの、術者が関与しないため確実性に欠ける。
 反対に遠隔操作型は術者が術式の操作に集中するだけ確実性は増すが、不確定な侵入者への迎撃に向かない。

(セオリー通りだったら――)

 適材適所。
 人や物に向き不向きが存在するのなら、それらが最も効率的に力を発揮する場所に宛がってやればいい。
 遠隔操作型が不確定な侵入者への対応を不得手とするならば、まずは自動起動型に対応させ、それから切り替えればいいのだ。

(――この辺りか)

 そこまで読めたとしても、大学の構内に足を踏み入れた時点ですでに術中に陥っている。
 次第に間隔を詰められていく爆風に煽られバランスを崩した火光獣を狙い、イレギュラーな火柱が立ち上った。
 その盛大な火力は、静かに聳え立つ賢者の塔を山吹色に照らす。

 火光獣が放った火球の反動でわずかに直撃を避けられたが、それでも踏ん張れたのは当の火光獣だけだ。
 その背に跨っただけのレギウスはまるで木の葉のように吹き飛ばされ、大学の一室へと壁を突き破って突っ込まされた。
 未だに粉塵の舞う家屋の片隅で、レギウスは壁を背に座り込む。

「……ったくよぉ」

 その左腕は爆風によって凶器と化した材木や石の破片によりずたずたに切り裂かれ、血を流し続けている。
 幸いな事に太い血管は傷ついていない様子で、そこらから適当な布を拝借して止血を行うだけに留めた。

『無事か、主よ』

「指は動く、手首も動く。痛ェだけだから問題ねェ」

『無茶はするな』

「ここで寝てても何も解決しねェんだよ」

 吐き捨てるように言って、レギウスは再びポチの背に跨る。
 問題ないとは言ったが握力の低下は否めず、下手すれば振り落とされかねない。
 痛みの走る左腕をポチの首輪に通して固定する。
 万が一の場合にすぐに飛び降りられるようにあくまで軽めに、である。

「まずは爆発の仕組みを知る必要がある」

『ひとつ心当たりがある。爆発の一瞬前、爆心地に何か光る物が視界に入った』

「光る物だと?」

 その言葉に反応したレギウスは顎に手を当てて考え込む。
 実際に己の目で確認した訳ではないが、レギウスの脳裏にはひとつの仮定が立った。
 それを確認しようとしたレギウスはハッとした。
 腰に帯びていたはずの【理知の剣】が消失している。

(爆風で落としちまったか?)

 【理知の剣】は術式展開・呪文詠唱を補佐する魔具である。
 あれがあるのとないのとでは戦闘面において大きな差が生まれる。

「チィ、探し物が増えちまった」

「――もしやお探しのものはこれですか?」

 頭上からの声に、レギウスはゆっくりと顔を上げた。
 レギウスは魔術師であり、気配を読むよりも魔力を読むほうが得意だ。
 その彼がこの距離まで魔力のにおいすら漏らさずに近づかれているのだ、今更焦ったところでどうしようもない。

 くすんだ茶髪を揺らしながら真っ赤な瞳をこちらに向けているのは、明らかに人外の気配を漂わせる男だ。
 その手には月明かりを反射してきらきらと輝く【理知の剣】が握られている。

「一応聞いといてやるよ。誰だオマエ」

「私はアーサー・マクレーン。吸血鬼の『貴族』……、と言っても分からないでしょうが。まぁそれなりの階級の吸血鬼ですよ」

「謙遜も度が過ぎると嫌味に聞こえるモンだぜ。『貴族』って言やぁ上から数えたほうが早ェモンだろうが」

 おや、とアーサーと名乗った吸血鬼が反応する。
 吸血鬼でもなくそれに関わりの薄いはずのレギウスが『吸血鬼の組合』のみで伝わる階級を知っているとは思わなかったのだろう。
 事実、レギウスも例の『神族の帆船』の仕様書の端に記された注釈がなければ知りえなかった情報である。

「身近に『王族』がいるといまいち実感が沸かないものでして。それに、私の専門は魔術こちらですから」

 自嘲の笑みを口元に浮かべ、アーサーは【理知の剣】の切っ先をレギウスへ向ける。
 高速で迸る魔力を感じ、レギウスは火光獣の首輪を思い切り引っ張った。
 その異常行動が緊急を要するものだと瞬時に判断した火光獣は即座にその場を跳び退く。

「《火柱よ》」

 あまりにも短い詠唱。
 しかし確かに術式は発動し、火光獣が跳び退く直前の地面より巨大な火柱が天を衝く。
 避け遅れていれば消し炭は免れなかっただろう。

「逃がしません。――《火柱よ》」

 アーサーは続けざまに魔術を放つ。
 詠唱の短さによって通常では有り得ない速度での連続魔術。
 【理知の剣】のもつ詠唱補佐の賜物か。

「足で合図する。右で叩きゃあ右、左で叩きゃあ左だ。首輪ァ引っ張ったら真後ろだ、いいな!」

 その指示とほぼ同時に右足で火光獣の腹を叩く。
 火光獣の返答は直後の火柱の爆音によって掻き消されたが、彼はしっかりと指示に従っていた。

 家屋を抜け、再び大学の庭へとステージを移す。
 しかし遮蔽物のないだだっ広い場所では良いように狙い撃ちされるのは明白だ。
 再びジグザグ行動を取らせて、なるべく茂みのあるほうへと向かっていく。

「……チッ!」

 先ほどとは比べ物にならない速度で放たれる爆炎にレギウスの集中は乱されっぱなしだ。
 【理知の剣】による精神統一効果がないだけなのだが、本来は戦場において術式を組み立てるのは難しいものである。
 盾や囮といった役目をこなす前衛がいない戦いであれば尚更だ。

「ダメだな。とにかくアレを取り返さねェと話にならねェ」

『この状況で奴に近づけと?』

「察しが早ェのは評価してやる」

 はぁ、と火光獣の口からため息じみた呼気が漏れた。
 呆れ果ててはいるらしいが、それでも彼は大きく弧を描いて進路を真反対へと変える。
 この暴君が何の勝算もなく敵に向かっていくなど有り得ない。
 そう信じているからこそだった。

「おい、焦って俺の指示を無視するんじゃねェぞ」

『他人事のように言うな……』

 家屋を飛び出してより既に五〇を数えるほどの攻撃を受けつつも、火光獣はそれらを全て紙一重で躱している。
 というのも、レギウスはすでにアーサーの癖のようなものを見抜いていた。
 火光獣の脚力を警戒しているのか、一足飛びで接近できるような地点からは必ず壁を作るように互いの間に火柱が立ち上るのだ。
 万全の布陣と思わぬ幸運により手に入った魔具があっても一切油断がない。
 どうにも堅実な男のようである。

「……、」

 レギウスは火光獣の進路を弧を描くように指示を出し、わずかずつ内側に向けていった。
 安全地帯の確保と引き換えに、アーサーには火光獣の脚力を分析する時間と材料を与えてしまう。
 それでも近づかなければレギウスにも勝機はない。

「なかなかしぶといですね。なんだか楽しくなってきました」

 相手の声が届くほどの間合いに入った。
 再び火光獣の足元を狙う火柱が立ち、壁となって妨害する。
 はずだった。

「――解析完了だクソ野郎」

 まるで火光獣を避けるように彼の両脇で火柱が壁を作った。
 悠々と炎の抜け穴を通って、アーサーと同じ塀の上へ昇る。
 ここでようやく、二人の魔術師は真正面から相対した。

「な、に……!?」

【理知の剣】おもちゃが手に入ったからってはしゃぎすぎたな」

 火光獣の背中から、レギウスはアーサーを見下した。

「呪文詠唱ってのはリズムとテンポにも意味を持たせて成立してるんだぜ。いくら【理知の剣】で詠唱の短縮を図ろうが、オマエのそれはあまりにも呪文詠唱が短すぎる。つまりオマエが唱えていたのは起動術式じゃねェ。単なる解錠詠唱リリースワードだ。そしてその肝が……」

 こいつだ、とレギウスが指で弾いたのは月明かりを受けてきらきらと輝く小さな石だった。
 赤い光を反射するその小石は、世間一般ではガーネットと呼ぶ宝石である。
 放物線を描いて飛んでくる宝石に、アーサーの顔色が変わった。

「何度も聞かされたんだ、覚えてんぜ――《火柱よ》」

 短い解錠詠唱が終わった直後、空中の宝石が一瞬の輝きの後に巨大な火柱と化した。
 レギウスが奪い、制御した術式が炸裂したのだ。
 あまりにも巨大な火柱は熱風を撒き散らし、傍の屋根に立っていたアーサーを吹き飛ばし、強制的に地面へと叩きつける。

「くっ、貴様……!」

 呻きながらも、アーサーは共に落とされ放られた【理知の剣】へと手を伸ばす。
 しかし、まるで魔具が拒否するようにひとりでに動き出し、やがてその身を立てて空中へと飛んだ。
 放物線を描いて飛んだ【理知の剣】は本来の持ち主であるレギウスの手に戻る。
 誰かの手に握られていなければ印がつけられた刃物は【操刃の舞】によって奪還できるのだ。

「そうそう、オマエはそうやって何もかも手に入れられずに這いつくばってんのがお似合いだぜ三流魔術師」

「おのれッ!」

 見下され、激昂したアーサーは無手のまま魔力を練る。
 魔具の有無は魔術戦において決定的であるとは彼自身も良く知るところであろう。
 それでも距離を取らずに詠唱を優先するという事は。

「……魔術ってのは無から有を作るわけじゃねェ。小さな有を掻き集めて呼び出し、術式として発現する。オマエのもそうだ。宝石は単なる起動媒体であってそれ自体を動かすための術式が必要になる」

 レギウスと火光獣が立っている塀の上、そしてその周辺がチカチカと瞬いた。
 ガーネットにトルマリン、トパーズといった色とりどりの無数の宝石が、風にあおられるように蠢き、周囲へ降り注いでいた。
 つまりはこれがアーサーの行っていた遠隔操作型の迎撃術式だ。

「くだらねェ」

 ヒュガッ、とアーサーの首から漆黒の刃が生える。
 それは【操刃の舞】によって背後から襲い掛かった黒塗りの短剣だ。
 アーサーは三流だが、たとえ上等の魔術師であってもその喉を潰されれば詠唱は不可能だ。
 吸血鬼の治癒力があったとしてもそれを引き抜くまでの時間くらいは稼げる。

「解析は完了したって言ってんだろ。オマエがやったのは後処理がやっかいな宝石の場所をわざわざ教えただけだぜ?」

 レギウスの短い詠唱が、複数のナイフを操ってそこらに散らばる宝石を空中に跳ね上げた。
 続いて疾風の魔術がそれらを乗せてアーサーの周囲にばら撒いた。

「ッ、が――!!」

「これで掃除も済む――《火柱よ》」

 短い解錠詠唱によって解放された膨大な魔力は連鎖的に宝石に仕込まれた術式を食い破って暴走し、アーサーを中心に大爆発を引き起こした。
 爆風が周囲を薙ぎ払い、家々の窓を吹き飛ばす。
 瞬間的に跳躍し、空中へ逃れていたレギウスと火光獣は長い滞空を経て瓦礫の山となった塀の近くに降り立った。
 いくらか消費していたとはいえ、残火力の全てを一身に受けたアーサーはぼろ雑巾よりもひどい有様で爆心地に転がっている。

「……まぁ、吸血鬼の『貴族』だってんならこの程度じゃ死なねェんだろうが」

 レギウスは改めて腰に括り付けていた短剣を抜いた。
 対不死者用に誂えた銀の短剣である。
 これにも当然、【操刃の舞】の制御に置くための印を打ってある。

 もはやぴくりとも動けないアーサーの心臓に――とはいえどこが心臓かは非常に分かりにくかったが――銀の短剣が突き立ち、賢者の塔には再び静寂が戻ってきた。



 賢者の塔に突入したレギウスは、研究棟の一室でぐーすか寝ているクロエ・キャンベルを発見した。

「オイ、無事か」

「んー、むにゃむにゃ……ししょー、もうおぼえきれないですのー……えへへ」

「起きろクソガキ」

 訳の分からない寝言にイラついたレギウスは柔らかな弾力を返すクロエの頬を左右に引っ張った。
 驚いて飛び起きたクロエは顔を赤くしながら頬を撫でている。

「な、なにをするですのししょー! 寝こみをおそうなんて紳士じゃないですの!!」

「まァだ寝ボケてンのかコラ」

「ひゃっ、い、いたいですのししょー!」

 おしおきとして追撃の頬つねりを敢行した事で、クロエは今度こそ覚醒したようだ。
 きょろきょろと辺りを見回し、ここが賢者の塔の一室である事に驚いている様子だった。

「おかしいですの。まだおねむの時間にははやかったはずですのに」

「暢気すぎんだろオマエ」

「ねる子はそだつ、ですの」

「育つ前に死ぬかもしれねェんだ。眠かろうが働いてもらうぜ」

「死……!? い、いったいなにが起こっていますの!?」

 レギウスは「説明は後だ」と突っぱね、例の『神族の帆船』の仕様書をクロエに渡す。
 先ほどの戦いで破損や紛失しなかったのは僥倖だった。

「こいつの解析作業を大至急だ。名称見りゃ分かるが北欧神話系の資料を重点的に調べて紐解け」

「はぁ、『神族の帆船』……、豊穣神フレイがもつとされる帆船ですの?」

「多少知ってるからって先入観に囚われんじゃねェぞ」

「そのくらい、いわれずともわかっていますの!」

 ぶーっ、とふくれるクロエに後を託し、レギウスはすぐに研究棟を出る。
 
「ししょー、どこいくですの!? そのけがでうごくなんて無茶ですの!」

「休んでる暇ぁねェんだよ。生憎とやらなきゃならねェ事が山積みでな」

 再び火光獣を霊界から呼び出し、レギウスはその背にまたがる。
 そして思い出したように懐から短剣を取り出してクロエに放り投げる。

「あぶっ! 鞘つきとはいえあぶないですのししょー!!」

「オマエはこれを持って『蒼天の雫亭』に戻ってろ。エリックが首尾よくやってりゃそいつの印から俺の魔力を追えるはずだからな」

「??? よくわかんないですの」

「……女狐マリナにでも渡せば勝手に理解するだろ。ほらとっとと行け」

「むー!! ひとづかいがあらいですのーーー!!」

 寝起きなのもあってか少々ご機嫌斜めなクロエはぶーたれながらも研究棟を飛び出していった。
 レギウスもまた火光獣を駆り、再び夜の街へとその身を躍らせる。

 賢者の塔は解放した。
 じきにその機能を取り戻し、彼らは各々の判断でこれからの惨劇に立ち向かうだろう。
 孤児院にはエリックが向かっている。
 となれば、残るは。

「――レギウス!」

 中央通りに差し掛かったところで声をかけられ、レギウスは声の主へ視線を向ける。
 そこに立っていたのは魔導ランタンの光を受けて輝く金髪をなびかせている長身のエルフ――ミリア・アドラーク・グラインハイドであった。
 その傍にはレンツォ・ディ・ピントの姿もあったが、レギウスはミリアがこの場に現れた事に内心驚いていた。

「ずいぶん都合がいい時に現れるじゃねェか」

「あ? それよりなんだったのよさっきの爆発。あんたボロボロだし、なんか知ってるんじゃないの?」

「話せば長くなる……つーかその前に信じられるかどうかってところだがな」

 コヨーテの正体には触れないようにレギウスは何とか言葉を選んで説明を始めた。
 が、途中でミリアもレンツォも知っていると分かったので簡潔ながら包み隠さず全てを話した。

「……となりゃ私が宿に戻ってもやれる事はないわね。もちろんレンツォも」

「え、それじゃそのアイザックとかいう吸血鬼と戦うの? 無茶だよ、つい一昨日そんな奴と戦ってボロボロになってんだしさぁ!」

「吸血鬼は止めなくちゃならねェが、その前に大型魔具が街を蹂躙するおそれがある。俺たちはそっちの被害を最小限に食い止めなくちゃならねェが、とにかく時間が足りねェんだ」

 レギウス自身、あまりミリアと話した事はないが、彼女がキルヴィ出身のエルフである事は知っている。
 そしてその左眼周辺に刻まれた『黒化の刻印』が告げる事実もまた、彼はよく知っていた。
 その上で、レギウスは適材適所を判断する。

「街の中は俺たちがどうにかする。だからオマエはキルヴィの里へ行け。エルフたちに警告と避難を伝えるんだ」

「……里に、ね」

「眼帯でも用意しておくべきだな」

「フン、要らないわよ。……それにしてもあんた、結構いい度胸してんじゃない」

 レギウスは口の端をつりあげて応えた。

 時間がない。
 二人はそれ以上の言葉を交わさず、互いに目指すべき場所へと駆けだした。
 後ろのほうでレンツォが慌てている様子が聞こえてきたが、すぐに風の音に紛れて聞こえなくなる。

「――クソッタレが。よりにもよってこの街を狙いやがって」

 そんな彼の独白もまた、ロスウェルの夜の闇に溶けて消えていった。



【あとがき】
今回は五月祭編のレギウスサイドストーリーです。
五月祭本編にもがっつり役割を持って舞台に上がっていた彼は、コヨーテ不在の間はこう動いていたんですね。
そして本編に登場しておきながらナチュラルに消えていたアーサー・マクレーンもここにいました。
ごめんねアーサー……お疲れ!!

この話を書くにあたって、火光獣ちゃんの酷使が過ぎて大変でした。
大体このあとは空飛ぶ船に駆け上るんですよ。大変だ。

レギウスどうしてこんなに頑張ってんの? という方はぜひ『ウーノの追想』を読んでみてください。
ロスウェル五月祭は色んなキャラの最初の大きな分水嶺になるお話なので、後から追いかけても楽しめるように書いていきたいですね。
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周摩

Author:周摩
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