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『Mimic』(2/4) 

 教会のほど近くの墓地に、真新しい墓が二つ並んでいた。
 正確には墓石にはいまだに名前が刻まれておらず、どちらが吟遊詩人でどちらが雑貨屋の娘か分からない。

「まぁ、どっちも掘り返すんだから関係ないが」

 意気揚々とスコップを掲げるマーガレットであった。
 ちなみに穴掘り用のスコップは塀に立てかけられていたものを拝借した。

「ちょい待ち。詩人はともかく娘のほうは家族がいるんじゃない? 許可取ったほうがいいと思うんだけど」

「だめっていわれたらどうするの? 許しがあってもなくてもやることはかわらないよ」

「そりゃあ……」

「そうすることがふたりの真のとむらいになると……私はそう信じてる。きっとレギウスもそういうよ」

 カイルはガシガシと頭を掻いて、

「あー、もう。君の思い切りの良さにはほんと舌を巻くよ。やったろうじゃん」

「……ん。がんばって」

 ターニャはごく自然な仕草でスコップをカイルに向かって差し出した。

「いや待ってよ。なんで当たり前のようにこっちに渡すのさ」

「『やったろうじゃん』なんて啖呵切ったくせに……それに、私じゃ非力すぎて時間かかっちゃうよ。男の子でしょ、がんばって」

「うぐぐ……まぁ、レギウスがこの場にいたとしても『俺は頭脳労働担当だ』とか言って、どうせ僕に回ってくるんだろうしいいけどさぁ!」

 渋々といった様子で、カイルはスコップを手に土を掻き分けていく。
 マーガレットと並行して掘り進め、やがて二つの墓は暴かれた。
 雪が降る時期で良かったというべきか、遺体の傷み具合はさほどでもない。

「……、」

 男のほう――吟遊詩人――は年の頃は二十代後半から三十代と見える。
 死に装束を脱がせると、ぱっくりと開いた腹部が露出した。

「うん。腹部の傷は当然死後のものだろうし、それ以外の傷は胸の裂傷一つきりだ。鋭利な刃物のひと突きで殺されてる」

「真正面から胸をひと突きか。犯人は顔見知りの可能性があるな」

「その可能性は高いだろうね。彼は旅人とはいえ街に逗留してたのなら、人付き合いがまったくなかったわけじゃないだろうし」

「……そのうえ、ひと突きで死に至らしめている。非力じゃなさそう」

 改めて傷口を確認していくが、ほかに目新しい情報は得られなかった。
 せいぜい内臓の配置がめちゃくちゃになっていて、おそらく遺体を片付ける際に乱雑に押し込められたのだろう、という事だけだ。
 そのうち気分が悪くなってきたターニャは遺体から視線を外して深呼吸した。

「お? 右手の指先に汚れがついてる。なんだこれ……」

「……これ、油だね。楽器のお手入れにつかうこともあるから」

 彼が吟遊詩人である事を鑑みれば、同業者のターニャには一発で見抜ける事だ。
 だが、それよりも重要な情報がその油汚れに隠されているのを、ターニャは見逃さなかった。

「……オリーブのにおいがする」

 それは右手の指先にだけ付着していた。
 死亡時に身に着けていた衣服はすでにないが、おそらくは偶発的に付着したものではないのだろう。

「マーガレット。もういいよ。もういっかい埋めたげて」

「あいわかった」

 マーガレットが肉体労働している間に、ターニャとカイルはもうひとつの遺体――雑貨屋の娘――に目を向ける。
 年の頃は十代後半、まだあどけなさの残る風貌だった。
 白い腹に無残な切り口が開いている。

「……、詩人のものより損壊が激しい。胸に刀傷、死因はたぶん同じだと思う。やっぱりひと突きだ」

「う……」

「腹の裂き方がもっとずっと酷い……しかも内臓がごっそり抜かれてる? なんで? 吟遊詩人のほうにはあったのに」

「さすがに警備隊がもどしわすれたわけじゃないでしょ。詩人とちがって家族がいる雑貨屋の娘のほうを雑にあつかうとはおもえないし。
 ……それに、さっきの警備隊員がいってたよ。娘のときはほとんど血がながれてなかった、って。きっと別の場所で殺して、内臓をすてたんだよ」

「なんでそんな事を?」

「……、」

 さすがにレギウスほどターニャの頭の回転は早くない。
 考えをまとめる時間が必要だ。

「っ……」

 しかし強くなってきた寒風が否応なしに思考を途切れさせてくる。
 幸い、すぐ近くに教会がある。
 風が収まるまで休憩させてくれと頼んでも追い出されはしないだろう。
 二人がかりで手早く遺体を戻し、三人は足早に教会へと入っていった。

 昨日、日暮れ頃に訪れた時も室内をたたえる静謐さに息を詰めたものだった。
 まばゆい陽光が差し込むこの時分であっても、囁きさえかわすのをためらう静けさに満ちている。
 リューンの聖堂とは明らかに異なるのには理由がある。

 それは司祭以外の神職にあるもの、つまり修道士や修道女たちは生活において『喋ってはならない』とする、宗派の厳しい戒律がもたらすものであった。
 修道女はこちらに気づいても目礼を寄越すのみで、どうしても必要な場合は筆談で済ますという。

「そういえば、鐘楼の鍵を管理しているはここのシスターなんだっけか」

「聞いてみようか」

 カイルは適当な修道女に近づき、極めて軽く声をかけた。

「ねぇシスター、鐘楼を管理しているのはあなた?」

 修道女は俯けていた顔を上げ、目を瞬かせる。
 肯定を示す仕草に見えた。
 しかし声を出せない戒律がある以上、話を聞くには筆談となるが、ただでさえ多忙なシスターにあまり長く時間を割いてはもらえないかもしれない。

「――さよう。鐘楼の管理者は彼女です」
 
 そんな危惧を吹き飛ばす声が横合いからかけられた。
 声の主は立派な僧服を身にまとう初老をすぎたくらいの男であった。
 彼はホーの教会を任される司祭であり、『星を追う者たち』がこの街を訪れる理由となった仕事の依頼主でもある。

 受けた依頼というのが、宗教都市ラーデックで一〇年もの間審査を受けていた杯が、聖遺物として認定された。
 それを受け取るので道中の護衛をしてほしい、という話で、途中の野宿の際に狼を追い払った程度で無事に聖遺物と司祭をホーに送り届ける事ができたのだった。
 街に着いたのはつい昨夕の事だ。

「戒律により神の祈りのほかを口にする事ができませんので……質問があれば、かわりに私がお受けしましょう」

「たすかります。……鍵は彼女が? ひとつだけ?」

「はい、あの鐘楼は日に三度、鐘を鳴らすためにしか使われていませんので。その役目をこなす彼女が持っています。一つだけです」

「へぇ、彼女が鐘を撞いているのか。とても大きな鐘だったが、なかなか大変だろうな」

「まだ年端の行かぬ少女の頃から仕事としておりますので。積み重ねは技術を己のものにします。……と、これは皆様相手に、鳥に飛ぶ事を教えるようなものでしたな」

「……なるほど。ありがとうございました、たすかりました」

 冒険者と司祭の会話を見守っていた修道女がそっと頭を下げているのが見えた。

「ときに皆様、昨日はお世話になりました。もうリューンへお戻りに?」

「もう一仕事してからになりそうだよ。司祭さん、事件の話はもう聞いてる?」

「ええ……。そうですか、あれを、お調べに……」

 司祭の表情にさっと影が差す。

「……大公サウルは血に飢え、富に溺れた俗物でした。聖杯が戻ってきた事がその魂を刺激したのやもしれません」

「聖杯が?」

「さよう、あの聖杯は大公家ゆかりのものなのです。聖レダが礼拝で使っていた杯は大公家に譲られ、歴代の大公叙任の儀式はそこに自身の血を注いで飲む事で行われてきました。しかし大公サウルはそれだけでなく、異民族や、時には反逆の民を処刑して、その血を聖杯で飲んでいたといいます」

「うげ……そんなの、よく聖遺物として認定されたね」

「だから一〇年かかりました。聖レダが用いていたものであるのは事実ですし……
 大公は恐ろしい人物ながらもとは賢君でありましたし、ホーの都市としての発展は彼の手腕なくしてはありえませんでした。彼の持ち物はせめて後世のホーでは大事に残していきたい。私だけでなく、街の者たちもそのように考えております」

「……、」

「しかし、呪われた業に満ちた人物です。何かがその魂を呼び戻してもおかしくは……」

 司祭はそこまで口にすると、恐れるように両手をかき合わせた。

「どうしてもお調べになるのであればお気をつけください」

 この話は終いだとばかりに切り上げられてしまった。
 司祭といえどもホーの民である、という事か。

「それじゃあ最後にひとつだけ。大公サウルの聖杯について……いや、大公サウルの持ち物について、あるだけ見せてほしい」

「と、おっしゃいますと?」

「今回の件、大公サウルが深く関わっているとみて間違いない。となれば彼にゆかりのある品々を調査しておく事も事件解決につながる一助になるかもしれないからね」

 方便である。
 教会の人間も疑わしいから関わりのある品を見せろと単刀直入に言えるはずもない。
 しかしその建前が効いたのか、司祭は何ら疑う事なく保管場所へと案内してくれた。

「ここに集められているのは大公サウルにまつわる品々です。その身に纏っていたものや、日々愛用していたものなど、すべてを集めています」

「……革命が起こって処刑された割には多くないかい?」

「彼の持ち物は一度は革命軍がすべて接収したのですが、軍にも大公のかつての臣下や信奉者が多かったので、幸い破壊される事なく保存され、今は教会の管理下にあります。聖杯もそのうちの一つです。
 長くこのような場所で憂き目を見ていた事を心苦しく思っていましたが、今はそれも少し軽くなりました」

 司祭がそう嘆くほどに、保管場所にはところ狭しと物品が並べられていた。
 部屋には明かり取りの窓があったが、所蔵されている品々は劣化を防ぐためか、陽光が届かないよう配置されている。
 その中にあってやや目立つ位置に、件の聖杯が鎮座ましましていた。

「……?」

 それに違和感を覚えたのはカイルだった。

「もっと近くで見ても?」

 答えを待たず、違和感のもとを確かめるため間近からのぞき込む。
 聖杯は昨日の依頼を引き受ける際に見たのと同じ、ふちは黒く腐食しはじめているが、繊細な細工の施された銀の杯であった。
 しかし、杯の底には赤みのある雫が一滴あるのが見える。

「これ……、血だよ。間違いない。司祭さん、心当たりない?」

「………………」

 司祭は一瞬息を飲み、首を横に振った。
 心当たりがある、といった様子は見えない。
 ただ単純にその事実に困惑しているような表情だった。

「……何の血でしょう?」

「それは分からないけど、昨日ここに運び込んだ時にはなかったよね?」

「そう……だったでしょうか。ここへ安置した修道士が指でも切ったのかもしれませんな」

「……、」

 困惑する司祭に、しかしターニャたちはそれ以上の追及をしなかった。
 彼の様子を見る限り、何かを隠している風でもないし、誰かを庇っている様子もない。

 司祭に礼を述べて、三人は教会を後にした。
 さっきまで強かった風も幾分かは収まっている。

「どうだい? 犯人像見えてきた?」

「……うーん、どうかな。調べるところは調べたし、あとは警備隊の詰所で被害者の情報とかもらおうよ」

「そうだね。容疑者のアリバイとかも聞かないとだし」

 再び風が強くならないうちに、三人は足早に警備隊の詰所を目指して歩いていった。



 警備隊の詰所は外観からの印象通り、そう広くはない。
 ホーの一般的なレンガ積みの家を改造したのだと思われる。
 そのせいか、やけに立派な暖炉が設置されており、風吹きすさぶホーを練り歩いてすっかり冷え込んだ『星を追う者たち』三名を優しく温めた。

 街の警備だけでなく狩猟も行っているようで、壁には種々の獣の毛皮がかかっており、棚の上には狩猟用の罠やロープが無造作に積み上げられていた。
 忙しなく行き来する隊員たちの中に、今朝がた宿を訪れた青年を見つける。

「これは皆さん。何かお尋ねになりたい事でも?」

「ああ。だが、少々込み入った話になるはずだ。少し外せるかい?」

「わかりました。別の者に引き継ぎますので、少々お待ちください」

 促されるままに、三人は隅のテーブルに腰かけた。
 隅と言えど暖炉に近く、入口付近の寒風が気にならない、まさにベストポジションである。
 ややあって警備隊の青年が人数分のカップを運び、自らもテーブルに着いた。
 このクソ寒い日に暖炉の近くで熱い紅茶、この上ないもてなしだ。

「ところで、あとのお二人はどうされたのです?」

「レギウスなら天罰が下って寝込んでるよ。ステラはその付き添い」

「ええっ、て、天罰って……まさか大公サウルの!?」

「……絶妙にまぎらわしい冗談やめなさいな。ただの風邪なので、おきになさらず」

 普段なら風邪で寝込むレギウスなんて積極的に笑い話にするべき事態なのだが、こと大公サウルの怨念を半ば信じかけている警備隊の青年には冗談に聞こえない。
 カイルは肩をすくめて冗談だと嘲った。

「まず、現場と遺体をみてきたよ。ある程度の状況や死因はわかったけど、犯人をしぼりこむにはやっぱり被害者の共通点とかを調べないとだめかなって」

「はぁ……って、遺体を見たって、どうやってです?」

「むろん、ほりかえして」

「えええっ!? は、墓を暴いたんですか!?」

「あー、ちなみにこれレギウスの提案だからね」

「……や、やっぱり天罰なのでは?」

「いやいやいや、そりゃいくらなんでもレギウスだけ嫌われすぎだよ。だいたい、暴いたのボクとカイルだし」

 と、コントじみたやりとりは置いといて、

「まず、遺体の発見者について伺いたい。警備隊でも調査は進めたんだろう?」

「ええと、最初の発見者は主婦です。彼女から聞いた内容は、今朝がたお話しした通りです。
 雑貨屋の娘の遺体を発見したのは我々警備隊の者で……そこの男、彼です」

 青年が大きな声で呼びつけると、第一発見者である警備隊の男もまたテーブルに着いた。

「件の事件の捜査か……ああ、娘の遺体を見つけたのは私だ」

 警備隊が依頼主だけあって話が早い。

「前日の事があるので見回りを強化していたんだよ。ほとんど明け方に近い頃、塔から吊るされた遺体を見つけた。……二晩続けてそんな事があるなんて想像もしないだろう? 婆さんが寝物語にしてくれた死後の世界に迷い込んだのかと思ったね」

「それから?」

「すぐ詰所に戻って、当直の隊員を叩き起こして、中央や教会に連絡して、塔に登って、遺体をこれ以上傷つけないよう注意しながら引き上げて、他の隊員から娘の家に連絡させて……まぁ忙しいったらなかったよ」

「第一発見者が遺体を引き上げたとは初耳だが……遺体はどのように調べたんだ?」

「……?」

 警備隊の男は意図を図りかねて首を傾げる。
 またこの反応か、とマーガレットは短く息を吐いた。

「調べるもなにも……ひどい有様で見てられなかったからな。すぐに埋めたよ。年頃の女の子なのに、可哀想に……」

「なにも手をつけず、すぐにうめたんだね? 内臓をもどしわすれたからその辺にすてたってことはないよね?」

「ああ、そんな事はしちゃいない。内臓がどうかしたのか?」

 遺体発見時のまま埋葬された事が分かれば十分だ。
 適当にはぐらかし、礼を言って仕事に戻ってもらった。

「参考になりましたか?」

「ええ、まぁ……それじゃ、次。警備隊がしぼりこんだ容疑者についてきかせて」

 青年は咳払いをひとつして、捜査資料と思われる羊皮紙の束を開いた。

「吟遊詩人も雑貨屋の娘も、当日の日没までは姿を目撃されているんです。おそらく殺されたのは日が落ちてからでしょう。ホーの夜は冷えます。みな家路に着くのは早い。決定的な瞬間を目撃した者はおりません」

 だろうね、とターニャは頷いた。
 それは先ほどの第一発見者の発言からもおのずと見えてくる。

「怪しいと目している者は三名ほどいますが、みな『その時間は眠っていた』などと言っていて……」

「怪しんでいるということは、それなりに根拠があるんだよね? それをきかせて」

「はい。まずはこの男」

 青年は羊皮紙に描かれた人相書きを広げた。
 筋肉質なのか、やけにごつく描かれている。

「歳は三八、街の漁師です。三日前に酒場で吟遊詩人とちょっとした口論になっています。しかし喧嘩の内容はくだらないですね……酒に酔って、詩人の歌が気に入らないとかで文句をつけたようで。
 娘のほうとは一応面識はあるのですが、娘の家が営んでいる雑貨屋に客として買い物に行った事がある程度のようですね」

「それはすこし短絡的じゃない? 口論していた事実はあっても、内容をかんがえるとこの漁師が殺されていたほうが納得できるというか、動機としてみるにはよわすぎると思う」

「ターニャ、気持ちはわかるけど落ち着いて」

 どうどう、とカイルが宥める。
 同じ吟遊詩人であるターニャには歌を貶された怒りと悲しみが痛いほどわかるのだ。

「しかしこの男、詩人が殺された夜は珍しく酒場に来ていないんです。問いただすと『毎日酒飲んでろってか!』と青筋立てていましたが、まあ実際ほとんど毎日飲んでましたからねえ。
 娘が死んだ夜は、夜半まで酒場にいて、そのあとは家に帰ったと言っています」

「……一応、犯行は可能なわけだ」

 一通り喋り終えたのか、青年は新たな人相書きを広げた。
 顔に刻まれた大きな傷が特徴的な男だ。

「革職人の男、三〇歳です。こちらは雑貨屋の娘と親しく……というより恋仲であったと確認が取れています。
 ひと月ほど前に二人が言い争っているのを近隣の住民が見ています。男のほうが金にだらしないのを娘が怒っていたそうで、関係は良好だったとは言い難いのかもしれませんね」

「彼は、ここ二日間はどうすごしてたの?」

「詩人が殺された前後は特に変わらぬ様子で自宅で仕事をしていたようです。『亡霊なんて馬鹿馬鹿しい』と言っていたとか。娘が殺されてからは……家にこもって全く出てきませんね。
 詩人が殺された夜は、酒場で夜通し飲んでいるところが目撃されています、まあ、人目を避けて少し席を外す事はできたかもしれません。娘が殺された夜は『家で寝ていた』の一点張りです」

「……、」

 土地柄なのか、荒っぽい捨て台詞気味な証言で追い返されているような印象を受ける。
 これも大公サウルの亡霊だ怨念だという疑惑が捜査の足を鈍らせているのだろうか。

「三人目はこの男。歳はおおよそ四〇代です。彼は雑貨屋の娘の関係者ですが、娘に対して動機があるというより……娘の家に対してですね、ずいぶん揉めていたようなんです。
 彼が街外れに金物の店を開くというので、娘の家が金を貸したようなんですね。ところが早々に商いに失敗して、まあ見通しが甘かったんでしょうね……日々の生活も立ち行かず、借りた金を返すどころの騒ぎではなくなった。それで娘の親が彼に『金を返せ』と。彼は『ないものは返せない』と。こんなやりとりを毎日のようにしていたそうです」

「……娘のほうはそのトラブルとは直接関係ないのでは?」

 ですよねえ、と青年はばつが悪そうに笑みを作った。

「彼は詩人が殺された日から、恐ろしさのあまり『ほとんど家から出ていない』と言っています。娘が殺された日もそうです。まあ、街の者は程度の差こそあれみなそのような様子ですが……」

「なるほど、だいたいわかった。ありがとう」

 あまり証言を取れていないように感じられるが、事件が起こってまだ二日しか経っていない事を考えると致し方ない。
 それに、容疑者として調べられた三名に関しては決して無駄ではない。
 疑惑の犯人像の周りを埋め、ターニャは半ば確信しつつあった。
 
「宿にもどろうか。おそくなったけどお昼もたべないとだし」

「賛成。それに、ここらで一度情報をまとめたほうがいいよ」

「それに、レギウスのほうも心配だし……」

「素直に寝てると思うかい?」

「寝てなかったらむりやりにでも寝かすから」

 パキ、とターニャの拳が鳴った。
 レギウスの明日はどっちだ。


To Be Continued...  Next→
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周摩

Author:周摩
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