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『月歌を紡ぐ者たち』結成 

 そこは交易都市リューン。時は中夜。
 コヨーテらは各々エールのジョッキだったり、葡萄酒のカップだったりを手にパーティ結成を祝った。

 初めの内は自己紹介や身の上話などをしていたが、やがてこれからのことが話題の中心になった。

「でさ、パーティ組むってんなら名前が必要じゃない?
 だって僕たちは名前を売っていかなきゃいけないんだよ」

 レンツォがちまちまとピーナッツを齧りつつ提案する。
 その砕けた雰囲気は夕方の時とは大違いだ。

 あの後ミリアがフードを取り、エルフであることを明かした。
 その瞬間、レンツォが『女神だ……』と呟いて本性を現したのである。
 本来のレンツォは軽い性格であるらしく、口調もそれに伴っている。

「それより先にリーダー決めねぇとな。
 方針を纏める奴がいねぇと、動きづらいモンだぜ」

「それなら、バリ――」

「……かといって、俺はイヤだけどな。
 ガラじゃねぇんだよ」

 コヨーテとしてはバリーをリーダーに推したかったが、完全に先手を取られた。
 何も責任を押し付けようというわけではなく、精神面で最も頼りになりそうなのがバリーだからだ。

「私もパスね。当然チコも無理」

「僕もパスで。というか僕じゃみんなが不安になるだろ?」

 ミリアはすっぱりと、レンツォは割りと後ろ向きな理由で断る。
 残るはコヨーテとルナだ。

「ど、どうしましょう?」

 ルナはオロオロした様子で、コヨーテを見る。
 もしリーダーを押し付けられたら、という不安でいっぱいいっぱいなのだろう。

「……分かったよ、オレがやる。少し不安だけどな」

 諦めたようにコヨーテは言う。
 他に適任がいないのなら仕方がない。

「そう難しく考えるな。
 俺たちだって責任を押し付けるわけじゃない。
 何かあれば助言もするし、補佐もする」

 駆け出しならみんなそんなもんだ、とバリーは言う。
 何であれ、パーティの命を預かるのには変わりない。

(……後で親父に色々聞いてみよう)

 宿の親父は、以前は冒険者だった。
 なかなか引退前の話はしてくれないが、それでも冒険者というものを直に体験していたのだ。
 駆け出しとしての心得や留意点などを聞いても損は無いはずである。

「おう、お待ちどうさん。ミートパイの追加は誰だっけか」

「はいはーい、私だよー」

 どうやらチコはミートパイが気に入ったらしい。
 親父が運んできたそれを手早く切り分け、口に運ぶ。
 もぐもぐと幸せそうに口を動かす姿は、とても歳相応で見ていて微笑ましい。

「親父、リーダーはコヨーテになった」

 バリーが告げると、親父は一瞬だけ驚いた表情を見せた。
 それから得心したように頷く。

「ふむ……ちょっと待ってろ」

 親父は何を思ったか、厨房の隣の部屋に入っていった。
 そこは倉庫なのだが地下室への入り口も兼ねているため、関係者以外は絶対に立ち入れない。
 ややあって、親父は一振りの剣を手に戻ってきた。

「コヨーテ、お前にこれをやろう」

 渡された剣はとても普通ではなかった。
 端的に表せば、『でかくて重い』である。

 全長はチコの身長よりも長く、垂直に立てればコヨーテの胸辺りまである。
 飾り気がなく、どこまでも武骨なつくりだ。

 既存の剣と比べると、ややクレイモアに似ていた。
 だが、刃は人差し指の先端から第一関節ほどの幅があり、それに伴って二回りほど肉厚だ。
 見た限りでは、斬るよりも叩き潰す方が似合っているかもしれない。

「こいつは俺が冒険者の頃に使っていた剣でな。
 手入れだけは欠かしていないから、まだまだ現役なはずだ」

「良いのか、そんなに大事なものを」

「良いに決まってる。
 それに、こいつはまだ暴れ足りないと愚痴をこぼすような奴だからな」

「……ありがとう」

 コヨーテはふわりと笑って、呟くように言った。
 親父も笑っている。
 小さいながらも、親父には伝わったようだ。

「……なんだか、『月姫の歌』みたいですね」

 ふと、ルナが呟く。

「つきひめのうた? なぁにそれ?」

「あぁ何だっけ。僕の記憶が正しければ売れない吟遊詩人の書いた冒険譚もどきだったような」

「む、撤回してください。
 確かにヘンリー氏の作品はさほど有名ではありません。
 でも、だからって馬鹿にされていいものでもありませんよ」

 レンツォの蔑視するような物言いに、ルナが噛み付く。
 どうやらこのルナという少女は意外と頑固者であるらしい。

「……ルナ、その『月姫の歌』というのは?」

「あ、はい。
 『月姫の歌』というのは、吟遊詩人であるヘンリー氏の最後の作品です。
 内容は冒険者六名が『月の姫』を救うという、なんとも大層なお話になっています」

「ただ、ヘンリーは序章を書いた段階で病死。
 『月姫の歌』は完成することなく、失敗作として世に出てしまった。
 さっきレンツォが冒険譚もどき、と言ったのはこれだな」

 ルナの言葉を、親父が引き継いだ。

「『月姫の歌』に登場する冒険者の中に、『狼の少年』という剣士が出てくるんです。
 その少年は身の丈ほどの大剣を持ち、不器用ながらもパーティを纏めたとあります」

「それだけじゃない。
 『怠惰な魔術師』に『エルフの剣士』なんてのも出てる。
 どうだ、お前たちにそっくりじゃないか」

 聞いてみれば、なるほどコヨーテらと似通っている。
 ふつふつと興味が沸くのを感じる。

「いいな、うん。
 どうせだから、貰ってしまおうか」

「何をです?」

「パーティ名だよ。
 ここまで似てるんだ、『月姫の歌』から貰っても構わないだろう」

 考えるほどに、運命じみたものを感じてならない。
 どうにも『月姫の歌』から貰わないと変に感じられるほどだった。

「それが、序章ではパーティ名は出ていないんです。
 それぞれのメンバーが出会う前で終わってしまっているんですよ。
 ちなみに、タイトルの『月姫』も登場していません」

「だったらさ、オレたちが続きになればいい。
 『月姫の歌』……そう、月歌を紡いでいく存在。それがオレたちだ」

「……『月歌を紡ぐ者たち』か」

 バリーが呟く。
 その名前は、彼らが心中で思いついたものよりも遥かに上等だった。

 明日の彼らに何が起こるのか、それは誰にも分からない。
 これは彼らが紡ぐ物語。

 ただ月だけが、全てを見透かすように世界を照らしていた。



【あとがき】
ふいー、ようやく結成編終わりました。
ここまで長かったなぁ……
何はともあれ、次回からようやくシナリオリプレイやっていきます。

今回、色々固有名詞が出てきて面倒な回です。オリジナル色強すぎて申し訳ない……
『吟遊詩人ヘンリー』と『月姫の歌』は後々また出てくるかもです。
ちなみに月だとか吸血鬼だとかの単語が出てますが、某元同人サークル第一作目とは関係ありません。

コヨーテの剣(元親父の所有物)ですが、全体的にクレイモアに似ています。
刃の幅は約六センチメートル、重量は約一.八キログラムを想定してます。
親父さんもこれを使っていたので、彼も充分バケモノですねぇ。


初期銀貨袋の中身→1600sp
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この記事へのコメント

月姫と言うと某シェアト教の聖女様を思い出しますねぇ…。
…彼女を助けられるんなら誰もが喜ぶだろうな…。
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周摩

Author:周摩
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