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『優位なもの』(1/2) 

「馬車の旅ってのも良いものねぇ」

 どことなく上機嫌なミリアが呟く。
 彼女は出生の関係上、あまり馬車に乗る機会が無かったのだ。

「そうだな、歩かなくてもいいしな……だけどさぁ……」

 レンツォの肌を撫ぜる風に、湿った土のにおいが混ざっている。
 この馬車には、行商のために大量の根菜が積み込まれていた。
 馬車のあちこちに土くれや野菜の切れ端がこびりついている。

「……この土臭さには辟易するね」

 馬車の持ち主に聞こえない程度の小声で、レンツォは呟いた。

「そう? 私は結構懐かしくって好きだけどなぁ?」

 チコは初めて乗る馬車と、懐かしい土のにおいに心が躍っているようだ。
 冒険者になる前の、田舎暮らしが思い出されるのだろう。

 反対に、レンツォは生まれも育ちも都会であり、こういう土臭さとはほぼ無縁の生活を送っていた。
 加えて出身はアレトゥーザであり、農業にも馴染みが薄い。

「アリメ村までもう少しなんだ、我慢しろよ。
 片道一〇日を歩くか、高い金払って馬車を借りるよりマシだろ」

 バリーは「俺だって我慢してるんだよ」と、小声で付け加えた。

 『月歌を紡ぐ者たち』は馬車に揺られ、アリメ村へと進んでいた。
 今回の依頼は行方不明者の捜索である。
 一ヶ月の間に村人が行方不明になっている、と貼り紙には書いてあったが、実質貼り出されたのはいつ頃からか分からない。
 この貼り紙は長い間放置された、いわゆる売れ残りなのだ。

 報酬は悪くはないが、如何せん目的地が遠すぎる。要するに割に合わない仕事なのである。
 目的地であるアリメ村までは徒歩で片道一〇日弱かかる。
 問題は日数だけでなく、道中は山超えしなければならないため徒歩では辛いものがある。
 かといって、馬車を借りると赤字になってしまう。

 誰も見向きもしない依頼ではあるが、彼らが受けたのにも理由がある。
 偶然にも『大いなる日輪亭』に宿泊した農夫が、アリメ村からの行商人だったのだ。
 バリーがすぐに交渉し、道中の護衛を条件に無償でアリメ村まで運んで貰う事で話をつけた。

「馬車の旅なんて滅多に出来ない贅沢ですよ。
 もっと満喫したらどうです、レンツォ?」

 ルナがからかうように言う。
 普段のお返しといったところか。

「ぐぐ……なんでお前は平気なんだよ」

「私は修道院にいた頃にお野菜を扱った事はいくらでもありますからね。
 料理する事はもちろん、実際に育ててもいましたし」

「じゃあコヨーテはどうなんだ?」

 不意に話題を振られたコヨーテは、遠くの山々を眺めていた目を馬車内に戻した。

「農業の経験はないが、親父の手伝いで取引の場に立ち会った事がある。
 ましてやそれを材料に料理した事なんて数え切れないさ。
 オレは野菜を使ったスープが得意だからな……」

「へぇ、そうなんだ?」

 チコが興味を引かれたようだ。
 コヨーテのスープは、彼女自身の舌が認めた数少ない味である。

「じゃあさ、『親父特製スープ』の味付けってどうやってるか分かる?
 何の材料で作ってるか分からなくてずっとモヤモヤしてるんだよぅ」

「悪いが、名前に『親父特製』とついてるのはオレにも分からない。
 オレも気になっていたんだが、どうしても教えてくれないんだ」

「えー……」

 それからしばらく宿の料理で何が一番美味か、という話題で賑わった。
 話をしていれば気も紛れるもので、レンツォもにおいなど気にならなくなったようだ。
 ちなみに、最終的に『親父特製スープ』が一番美味という事で決定したらしい。



 五日後、コヨーテらはアリメ村に到着した。
 馬車の持ち主である農夫に村長宅の場所を尋ねると、無言でとある家屋を指差す。
 コヨーテが農夫に礼を言うと、無口な農夫は軽く頭を下げて畑の方へと去っていく。

 早速村長宅を訪ねた一行は、すぐに中に招き入れられた。
 サムア村長は、早速依頼の概要を話し始めた。

 一月半前、村の老婆が茸を取りに出かけて戻らなかったのが始まりだったという。
 すぐに捜索隊を組織して捜索にあたったが、手がかりは無く、更に捜索隊の若者が一人行方不明になった。
 その二週間後、村一番の怪力を誇る樵が、山に入って姿を消した。
 この時点で村長は村人へ山への立ち入りを禁じ、リューンへ依頼を出したのだという。

「行方不明は三人か……」

「いえ、それが……」

 村長は顔を曇らせる。
 話によれば、禁を破って山に入った者が二人いるのだという。
 そして二人ともまだ村に戻ってきていない。

「最後に行方不明になったのは村の子供……たった三日前です」

「五人か。ただ事じゃなさそうだな」

 コヨーテは神妙な面持ちで呟く。
 思っていた以上に事態は深刻なようだ。

「はい……どうかよろしくお願いします。
 こちらが行方不明者の五人の詳細です」

 村長が差し出したのは、黄色い皺の寄った羊皮紙だった。
 失踪した村人の情報が事細かに記してある。

「分かった、確認しておこう」

 コヨーテはそれを懐へと仕舞いこんだ。

「皆様には行方不明者を探し出す事、また、その原因を突き止めていただきたいのです。
 もし原因に妖魔や猛獣の類が絡んでいたとして、それを排除していただければ助かります」

「報酬は銀貨八〇〇枚とありましたが……
 もし原因を解明したとして、それが我々の手に負えないものだった場合、報酬はどうなります?」

「その場合は、また新たに冒険者の方を雇わねばなりません。
 よって皆様には半分の四〇〇枚をお渡しします」

 バリーの質問に、村長はすぐに返す。
 あらかじめこういう質問がある事を予想していたのだろう。
 それほどに、この辺鄙な村にとって今回の騒動は異常事態なのだろう。

(原因を突き止めるだけで四〇〇枚か。
 悪くはないな、これで『退く』という選択肢も選べる)

 流石にバリーは冷静である。
 若者が多いこのパーティにとって、バリーのような『抑え』の役は重要なポジションだ。
 出来る限り選択肢を増やす事で、危険を避ける事が出来るように配慮しているのだ。

「原因の究明か……
 この村で今まで妖魔や盗賊の類が出た事は?」

「時折、狼や猪の類は出ますが、妖魔などが出たという話は昔からほとんどありません。
 祖父の代にゴブリンが出たそうなのですが、村の狩人や山男が追い払ったそうで……
 如何せん貧しい村ですので、盗賊が出たという話もありません」

「……じゃあ、何か目撃情報は?
 怪しい姿を見たとか、行方不明者の死体を見つけた、とか」

「それが……捜索隊を出した時も全く手がかりは掴めませんでした」

「なるほど。依頼を受けるか、少し仲間と相談させて貰いたい」

 ここでコヨーテは会話を切り、仲間の方へ向き直った。
 その表情はわずかに曇っている。

「僅か一月半で五人もの行方不明者。
 そして死体すら発見される事もなく姿を消している。

 思っていたよりも厄介だぞ、これは……」

「死体すら発見されない、というところが凶悪だな。
 断定は出来ねぇが、猛獣の線はほぼ消えた」

 バリーも苦い顔を隠せない。

「どういう事です?」

「もし猛獣が人を襲うなら、まずその場で食事を始めるわけだ。
 狼や猪が、人間の骨まで残さず食べるか?

 仮に巣に持ち帰ったとしても、地面には引きずった痕跡が残るはずだぜ。
 いくら素人の捜索隊とはいえ、見つけられないとは考え難いだろう。

 ……そもそも大の大人を獣が持ち帰れるかは疑問だが」

「それってつまり……」

「そうだ。知能のある人間か、はたまた体格が人間と同じかそれ以上の妖魔ってとこか。

 ゴブリンやコボルトのような下級妖魔は人肉を喰らわない。
 つっても、それ以上の妖魔がこんな村にいる事の方が考えにくいがな」

「………………」

 全員が押し黙る。

 今までの依頼は、事前に障害となり得るものの情報は得ていた。
 だが、今回はそれをこちらが調べなければならないのだ。
 見えない敵を探さなければならない恐怖が、駆け出しの彼らには重くのしかかる。

「……だが、逃げ道は造っておいた。
 原因さえ見つけちまえば、それ以上は無茶する事もない。

 俺は依頼を受ける事に賛成だぜ、コヨーテ」

 バリーの言葉に、全員が頷いた。
 一抹の不安は残るが、バリーの言う通り無茶をしなくても良いからでもある。
 コヨーテは皆の同意を確認すると、依頼を受ける旨を村長に伝えた。



 村長宅を出た一行は、まず西のはずれにある家へ向かった。
 依頼を受けるにあたって、村長が案内役にニルという猟師をつけてくれたのだ。

「はいよ……待たせたんだぁ……」

 案内役のニルは痩せぎすな体格の中年の男だった。

「……!ンぷッ!!
 見ない顔だけど……ンぷッ!俺に何か用かぁ?」

 ニルはゲップを漏らしつつ、そう訊いた。

「……オレたちは行方不明者の捜索に来た冒険者だ。
 村長から聞いていないか?」

 コヨーテはゲップを繰り返すニルの無作法さに眉をしかめた。
 どうも『嫌な予感』がするとゲップが止まらなくなるらしい。
 分かりやすい察知法ではあるが、もう少し何とかならなかったのだろうか。

「あァ、村長から話は聞いてンだぁ……ンぷッ!
 俺は猟師をやってっから、ンぷッ!

 山の道案内はできるけどよぉ、あくまでただの猟師だぁ……ンぷッ!
 それに自分で言うのも何だが、俺ぁ臆病者なンだよぉ。
 あンたらが、化け物と戦っていても、俺は隠れてるからよ……ンぷッ!!」

「……分かったわ、よろしく頼むわね」

 顔を引きつらせながら、ミリアはそれだけ言った。

(なぁ、チコ。お前から見てこの猟師はどうなんだ?)

 ボソボソと、小声でレンツォが訊ねる。
 知らない山を闇雲に歩く危険は重々承知だが、案内役に不安があるのも事実だった。

(そうだね、案内くらいなら問題ないと思うよ。

 ただ、猟師としてはちょっと気が弱すぎるかな?
 でも、田舎の人間なんて大抵こんなもの。期待しすぎると後悔するよー)

 チコも肩を竦ませる。
 そんな二人を尻目に、コヨーテは懐から羊皮紙を取り出した。

「まずは行方不明になった人たちの情報を知りたい。
 彼らが姿を消す直前を知る者、または親類縁者の家を教えてくれ」

「あァ、分かったンだぁ……」

「まずは順番に行こう。
 一人目の行方不明者、老婆モーレ」

「モーレの婆ッさまに身寄りはいねぇンだぁ。
 仲ぁ良かったンは、あの家の婆ッさまだぁ……」

 ニルの案内もあり、一人目から順番に情報を集めた。
 老婆モーレは茸を採りに山へ出かけたという説が最も有力だそうだ。
 彼女が向かったであろう、茸の群生地の場所も聞き出せた。

 二人目、農夫ホアンは老婆モーレの捜索中に行方知れずとなる。
 彼の父親に話を聞いてみようと試みたが、自棄になっているらしく、取り付く島もなかった。
 結局、これについて有力な情報は得られなかったのは痛い。

 三人目、樵ガルスは隣村でオークを二匹も倒した経歴もある豪傑だという。
 樵仲間は彼が行方知れずになったのは、相当ヤバいのが住み着いたのかもしれない、と語った。
 皮肉にも、この見解はコヨーテらの考えと同じ方向を向いている。
 また、彼はおそらく薪を取りに行っていたという事で、薪の切り出し場を教えてもらった。

 四人目、婦人アンナは病の夫のために、禁を破って薬草を採りに行ったとの事。
 結局戻ってこず、夫は病気の悪化で町へ運ばれたのだそうだ。
 彼女が向かったとされる薬草の自生地の場所を教えてもらった。

 五人目、少年コウンは虫を捕りに行くと、小川へ向かったらしい。
 小川の位置を聞き出すとともに、誰も近寄らないらしい沼の存在も聞かされた。
 
「……情報をまとめるぞ」

 コヨーテが地面に拾った枝で図を書き始めた。
 『村』を囲むようにして『森』を書き、そこに得た情報とニルの助言で簡易的な地図を作る。
 そして姿を消したと思しき場所を○印で囲んだ。

「まず、行方不明者は全員山の中で姿を消している。
 そして山へ入ったのはそれぞれ自分の意思だ。
 以上の点を踏まえて、彼らは山で何者かに襲われた可能性が高い」

 既に分かっている情報でも、繰り返し確認する。
 情報の整理にはこうしてミスを防ぐ意味も存在する。

「原因が生物として、それが単独なのか複数なのかは現時点では分からない。
 これを前提として、山に入ったときは細心の注意を払う事」

 コヨーテの警告に、全員が頷く。

「次に、方針を決定しよう。
 山に入ったとき、まずどこへ向かうか、だ。

 ……今のところ大きく分けて五つ候補がある。
 茸の群生地、薪の切り出し場、薬草の自生地、小川、それと誰も近寄らないという沼……」

 ちらり、とコヨーテはバリーを窺う。

「……俺の意見は、ここだな」

 バリーは『小川』を指差す。
 『小川』は五人目の少年が行ったとされる場所だ。

「ここは行方不明者が新しいだけじゃない。
 小川って事は、地面は湿っているはず……
 上手くいけば足跡か、もしくは何らかの痕跡が見つかるかもしれねぇ」

「なるほどね。僕の出番ってわけか」

 レンツォは指を鳴らしてにやり、と微笑む。

「他に意見は?」

 コヨーテが問うと、チコが薬草の自生地へ行きたいなどと好奇心丸出しの意見を言い出したが、当然却下された。
 結局バリーの提案した『小川』へ向かう事で決定した。
 装備を再確認し、ニルを伴って山へと向かう。

 ふと、一行の向こう側の畦道から悲しげな旋律が聞こえてくる。
 音のする方向には、数人の村人があった。
 笛を吹く男、鐘を叩く老婆、そしてその後ろには棺を担ぐ男たち。
 よく見れば村人たちの手には聖北教会の聖印が握られている。
 どうやら葬儀の真っ最中のようだ。

「妙ですね?
 聖北の葬儀とは葬送の音楽も、様式も、所定の物とはまるで違いますよ?」

「あァ、この辺は俺らがガキの頃に、聖北の坊ンさンがやって来たンだぁ。
 で、今までやってた葬式と、聖北の坊ンさンが教えてくれた葬式がゴッチャになってるンだぁ」

 ニルの答えに、ルナは複雑な表情を浮かべたが、すぐに聖北流儀の祈りを捧げた。
 あの棺の中には、老婆モーレの夫が眠っているらしい。
 長年付き添った伴侶が突然いなくなり、元気を無くして逝ってしまったのだそうだ。

「……行こう」

 コヨーテらは悲しげな旋律を背に、山へと歩みを進めた。


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