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『盲目の道筋』(1/2) 

「報酬が銀貨一〇〇〇枚? 本当に?」

 依頼の貼り紙を読み上げていたチコに、レンツォが素早く反応した。
 チコが依頼書を差し出すと、奪い取るようにして取った。
 それは妖魔退治の依頼であり、報酬は確かに銀貨千枚と書かれている。

「ねー、本当でしょ?」

「うおお……しかもこの緑肌の妖魔ってゴブリンの事だろ? 今の僕たちなら楽勝じゃないか」

 追記されている妖魔の特徴には、『緑色の肌をしている』とも書かれている。
 出現した場所が、とある廃墟の地下である事から、夜行性であるゴブリンの可能性が高い。

「……妖魔の数は書かれていないか」

「まぁそんなもんだ。依頼主は隠居爺さんって話じゃないか。
 妖魔の姿に怯えているから、依頼を出したとも取れるわけだからな」

 慎重を期すコヨーテに、バリーは本を読みつつ言った。
 妖魔の数が分かれば、依頼はかなり安全で簡単なものとなる。
 それ故、情報が少ない依頼は報酬が高めに設定される事も間々ある。
 今回のケースはそれだろう、とバリーは解釈していた。

「その妖魔が棲み付いた廃墟はどの辺りにあるんです?」

 ルナが地図とにらめっこしていた。
 これはとある組合から地図の作成を依頼されたため以前から描いているものだ。
 ちなみに、こちらは予備として取っている分である。

「ここがリューンとして……この辺りにミューレルという町がある」

 コヨーテの指が、リューンの南側を指した。

「貼り紙によれば、ミューレルの更に南にその廃墟はあるらしい。
 地図にすれば……この辺りか」

 指を少し南にずらし、何も書かれていないところを指す。
 それでも、リューンからは徒歩七日といったところだ。

「こんなゴブリン退治で一〇〇〇枚の銀貨!
 こりゃあ受けない手はないよ!」

「俺も賛成だ。否定する要素が見つからん」

 レンツォに続き、バリーも賛成する。
 他のメンバーも異論はないようだった。

「分かった、受けよう」

 コヨーテは宿の親父に依頼を受ける旨を伝え、早速『月歌を紡ぐ者たち』は準備に取り掛かった。
 今回の目的地は、まずはミューレルの町である。
 歩き詰めの満身創痍の体では妖魔と戦えない。
 まずはミューレルの町で疲れを取り、それから廃墟へ向かおうという事だ。

 ミューレルは小規模な町だ。
 それでも交易都市リューンから程近いこの町は、宿場町としては栄えていた。
 旅人や冒険者が訪れる事の多いここでは、宿は充実していた。

 町へ着いた『月歌を紡ぐ者たち』は、早速宿を取る。
 宿での食事は可もなく不可もなくと言ったところだったが、ベッドはなかなかに柔らかかった。

 意外な贅沢に、道中では不十分だった睡眠をしっかり取る事ができた。
 翌朝、簡単に食事を済ませてから、コヨーテらは依頼主の家へと向かう。

 直接依頼主を訪ねて、情報を得るためだ。
 今回は銀貨一〇〇〇枚の依頼だ。
 余計慎重になるのも不思議ではない。

「では、依頼内容の確認を」

「内容は貼り紙の通りじゃ。
 緑肌の妖魔……おそらくゴブリンじゃろうが、彼奴らが地下に住み着いておるでな、退治してほしい」

「ゴブリンの数はお分かりで?」

 バリーの問いに、老人は間髪いれずに答える。

「さぁてな……
 わしのような肉付きの悪い爺にはゴブリンとて脅威でのう」

 とはいえ、渡された見取り図から読み取るに、地下はそう広くは無い。
 生息していると言っても、せいぜい一〇体程度であろう。
 今の『月歌を紡ぐ者たち』ならその程度の数、よほどの不覚を取らない限り死人がでる事はない。

「報酬は銀貨一〇〇〇枚との事ですが…」

「うむ、退治してくれれば間違いなく渡そう。
 わしは静かに独りで過ごすためにこの廃墟を買ったのじゃ。
 本来の目的が果たせるなら、一〇〇〇枚くらい安いものじゃ」

 その言葉に、レンツォは内心歓喜した。
 彼の見立てでは、この老人は世捨て人であり、金と暇を持て余している。
 この廃墟も、端金では買えないほど立派なものだ。
 それならば、今回の報酬の高さも納得がいくというもの。

「彼奴らは地下に住み着いておるからのう。
 地の利はきゃつらにあろう、努々ゆめゆめ油断なさるなよ」

 最後に、老人はそう助言した。
 廃墟を購入した際に貰ったという、地下の見取り図も渡された。

 問題の廃墟へ向かうと、すぐに地下への階段へと向かう。
 階段を降りきったところで、チコがランタンに火を灯す。

 人が使っていなかったのだろう、埃っぽくて視界が悪い。
 ランタンの明かりも、そう遠くへは届かない。

「さて、ここからは敵のテリトリーだからな。
 相手がゴブリンとはいえ、油断するなよ」

 分かってる、と言いたげにレンツォが周囲の調査を始める。
 ランタンの乏しい光源を頼りに、壁や床をくまなく調べ上げる。

「どうやらここは通路のようだ。
 両側は部屋になってるみたいだけど、扉らしきものは無い」

「見張りなんかもいませんね……
 見取り図によれば随分と広いみたいですから、先へ進みましょう。
 どうやらしばらくは一本道が続くみたいですし、レンツォは警戒してくださいね」

 馬鹿にするなよ、とばかりにレンツォは鼻で笑う。
 レンツォを先頭に、先に進もうとしたが、一人だけ動かない者がいた。
 それはコヨーテであり、腑に落ちないという表情をしている。

「……何か嫌な予感がするんだ」

 疑問の眼差しを向けられ、コヨーテはそう呟いた。
 コヨーテの直感は、外れる事の方が少ない。
 『大いなる日輪亭』ではそれを知らない者はいないほど有名である。

「それって……?」

「分からない。だが……」

 コヨーテにしては珍しく歯切れが悪い。
 嫌な予感はするが、原因が何かは分からない。
 それは、以前の依頼で魔族の少年と対峙した時の違和感とは違う。

 バリーは最悪の事態を想定し、レンツォの後ろに付く。
 後方からの奇襲はコヨーテに任せておけば万全だろうとの判断だった。

(何だ? 何が引っ掛かっている?)

 コヨーテの勘は万能ではない。
 『何か』を感じる事はできるが、そこまでなのだ。

「……進もう」

 仄かな明かりの中で、彼らは歩を進めた。
 コヨーテの直感は、外れる事の方が少ない。
 彼らはこの言葉を、否応なしに再認識する事になるとはこの時点では誰も思いもしなかった。
 数秒後、背後が轟音と共に落ちてきた天井で塞がれるまでは。



「……ちくしょう!」

 レンツォが忌々しげに壁を殴りつけた。
 普段なら敵のテリトリーでの無用心な行為は慎むべきである。
 だが、それを嗜める者は誰もいない。
 ただその地獄のような光景に、背筋を凍りつかせている。

「大丈夫か、ルナ」

「うぅ……ハァ、ハァ……」

 コヨーテはルナの背中を擦った。
 ルナは大きな瞳に涙を蓄えて、荒い呼吸を繰り返している。
 床には吐瀉物が撒き散らされている。

「……何なの……何なのよ、これ……?」

 チコも力なくその場にへたり込んでしまっている。
 その傍でミリアが眉を歪ませて、流れ落ちる冷や汗を拭う。

 背後が塞がれたとあれば、彼らは前に進むしか無い。
 コヨーテらは歩みを進めるが、しばらく進むと悪臭が漂い始めた。

 彼らにはこれが何の臭いかは判別できない。
 それほどまでに酷い臭いだったのだ。
 臭いの発生源であろう部屋の扉を開けたとき、その原因を目の当たりにした。

 部屋の中では、真っ赤な塊が幾重にも重なっている。
 その塊が人間の成れの果てであると理解するまで数秒の時間を要した。

 極度の精神的な疲労と悪臭が重なり、ルナは胃の中のものを全て吐き出してしまった。
 バリーやミリアも、全身の粟立ちが止まない。
 苦い顔で赤い塊を観察したコヨーテは、ある事に気が付いた。

「彼らは、冒険者だったようだな」

 なるほどよくよく見れば、その装備はただの旅人には見えない。
 中には、自らの得物を手に事切れている者もいる。

「だったら尚更、ゴブリンにやられたにしては妙だ!
 たかだがゴブリン風情が、こんなに大量の冒険者を殺せるわけがない!」

 確かに、死体の数は原型を留めているだけで十五名は超えている。
 それら全てが冒険者であるため、三つほどのパーティが全滅している事になる。

「なぁ、気づかないか? これらの死体は……そう古くは無い」

 腐敗が始まっているものもあるが、いくつかの死体はまだ新しい。
 それはつまり、この廃墟の持ち主たる依頼人が、冒険者を地下へ誘い入れて殺していると推理できる。
 今までずっと一本道であり、見取り図からも他に入り口が無い。
 最早その推理は正しいとしか言えなかった。

「コヨーテ……」

 ルナは力が入らないのか、コヨーテの腕にしがみつく。
 そしてぼそぼそと、何者かの名を口にした。
 それを聞いたコヨーテは、「あっ……」と、間抜けにも素っ頓狂な声を上げる。

……!!」

 ぎり、と歯軋りする音が、暗い空間に響く。
 バリーもその名を聞いて理解したのだろう、呆けたような表情を見せた。

「馬鹿な……」

 魔道士エイベル。
 かつて【賢者の塔】で天才と呼ばれ、その才を遺憾なく発揮していた魔術師である。
 彼が幹部に上り詰め、自身の研究所を与えられてから、彼は豹変した。
 何人もの罪無き人間を攫い、ホムンクルス開発の実験台にしていたのだ。

 その事実を知ったリューン騎士団と自警団は、すぐさま騎士と自警団の合同討伐隊を派遣した。
 だが帰ってきた報告は、討伐隊の全滅とエイベルの失踪を告げるものだった。
 憤慨した魔術連と騎士団は、各地に指名手配の貼り紙を出した。
 限りなく実物に近い似顔絵を添付し、なんとしてでも捕らえようとした。

 それきりエイベルは姿を隠した。
 捕まるどころか、まるきり二〇年間も音沙汰が無かったのだ。
 それ故に平和は戻り、人々の記憶からも次第になくなりつつあるのが現状である。

 コヨーテの感じた違和感は、これの事だった。
 依頼主の顔に見覚えがあったのだ。
 コヨーテは宿で働いていた頃、古ぼけた手配書を見た事がある。

「もう……嫌ぁ……」

 空気の重さと精神疲労に耐え切れず、チコが弱音を吐いた。
 連鎖するように、絶望感が辺りを漂う。

「くっ、急いで逃げるわよ!」

 どうにかこの場の空気を変えようと、青い顔をしたミリアが叫ぶ。
 ともかく部屋から出なければ、この陰鬱な気分はどこまでも落ちてゆく。
 ミリアは開けっ放しの扉から、一歩外に出た。

「ぐっ、がっ……!?」

 突然、ミリアの左肩を光が貫く。
 鮮血が噴出し、ミリアは低く呻いた。

「後ろからっ!?
 まさか、奴は追ってきている……!?」

 ミリアの言葉に、一行は慌てて立ち上がった。
 ここにいては間違いなく殺される。
 その恐怖心が、彼らの心を奮い立たせた。

「――走れェェェ!!!」

 背後に殺戮の魔術師の追撃を受けながらも、コヨーテらは走った。
 ミリアの身体を貫いた光は、どうやら【魔法の矢】のようだ。
 背後を見れば、恐ろしく遠い位置から魔方陣の煌きが見える。
 あれほど距離が離れているにも関わらず、まったく威力と精度を失っていないというのは常識では考えられないレベルだ。

 コヨーテは背中から胸部を撃たれた。
 偶然にも背負っていた荷物が盾となって貫通はしなかったが、攻撃の余波が肺に到達し、しばらくの間呼吸が苦しくなった。

 ルナは運悪く腿を撃たれた。
 衝撃で転びそうになったが、どうにかコヨーテが支える。
 走る速度はかなり落ちたが、それでも足を止めるわけにはいかない。

 バリーは腰の辺りを撃たれた。
 貫通はしたが、幸い重要な内蔵を避けていたため痛みはあるがどうにか走れる。

 チコは左肩を撃たれた。
 腕がだらり、と下がり、力が入らない。
 これでは自慢の弓術も使えない。

 ここで、ようやく永遠とも思われた通路に果てが見えた。
 目の前には木製の扉が立ちふさがっていた。
 最早扉の罠など調べている暇もなく、レンツォは開錠にかかろうとする。

「か、鍵穴が無い!?」

 鍵はかかっていないはずなのに、ドアノブを上下させても扉は頑として開かない。
 ガチャガチャとノブを回すが、ただ虚しい音を響かせるだけだった。

「うがっ……!?」

 扉に対して奮闘するレンツォの背を、光が突き抜ける。
 肺を傷つけたらしく、酷く咳き込みだした。

「くそっ、こうなったら強行突破しかない!」

 コヨーテは扉に得物を叩きつける。
 しかし、よほど強力に作られているのか、扉はびくともしない。
 それでも諦めるわけにはいかず、何度も何度も得物を叩きつけた。

「コヨーテ、光が……!」

 ルナの声が聞こえるが、今はそれどころではない。
 何故か今は【魔法の矢】が飛んでこない。
 今しかチャンスは無い、そう思っていた。

「みんなッ! 逃げて――!!」

 ルナの悲痛な叫びと同時に、背後に猛烈な悪寒を感じてすぐに横に飛びのいて伏せた。
 眼を閉じていたはずなのに、強烈に明るさを感じる。
 同時に、凄まじいほどの熱が周りの空気を焦がした。

 死を覚悟する時間すら、彼らには与えられない。


To Be Continued...  Next→
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