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『定められた死』 

 魔導都市カルバチアには市営墓地が存在する。
 その一般市民用に区画された墓地を、一人の男が歩いていた。

 濁ったようなくすんだ銀色の髪を女性のように紐で一纏めに結び、肌の色も男性とは思えないほどに白く滑らかだ。
 それとは対照的に着ている物はほとんどが黒単色で仕立てられているため、一層際立たせている。
 全体的なイメージである白と黒の二色を拒むように、真っ赤な瞳が自己を主張するように光る。
 彼の名はコヨーテという、『月歌を紡ぐ者たち』という冒険者パーティのリーダーである。

 彼の手には一輪の花が握られている。
 名前なんて知らないが、とにかく赤い花びらが目を引いた。

「おや、お墓参りですかな?」

 後ろから男に声を掛けられた。
 振り向けば、大柄ではあるがどこか気の弱そうな雰囲気を纏った男が立っていた。
 このカルバチア市営墓地の墓守を勤めている男だ。

「……旧い友人に会いに来ただけだ」

 コヨーテはそっけなく答えると、目的の墓まで歩いていく。
 一般市民用の墓地の端の端、他と比べると幾分か質素な墓石があった。
 そこに、『彼女』が眠っている。

「………………」

 言葉が出なかった。
 心を落ち着けようと、しゃがんで赤い花を墓石に添える。
 ひたすら赤いだけの花を選んだのにも理由がある。

(君は、オレの瞳を綺麗だと言ってくれたよな。
 オレは墓参りの常識なんて知らないし、君の好みなんて知らないから、君が好きだと言ってくれた瞳と同じ色の花を買ってきた。

 ……物凄く恥ずかしかったよ。オレが花を買うなんて似合わないにも程があるからさ)

 自嘲気味な笑みを浮かべ、すぐに止めた。
 ここには軽い気持ちで来てはいけない場所なのだ。
 コヨーテが『彼女』にした事は、どんなに償っても償いきれない。

……)

 コヨーテは立ち上がり、『ドロテア』と刻まれた墓石と向き合った。
 一つの決意、覚悟を彼女に伝えなけばならない。
 それは、とても勇気のいる事だ。

「オレは――」



 コヨーテは魔導都市カルバチアに来ていた。
 以前の魔道士エイベルの一件で大怪我を負ったルナは、まだ療養中である。
 それでなくても、『月歌を紡ぐ者たち』の冒険者としてのプライドはズタボロなのだ。

 『月歌を紡ぐ者たち』は現在、一時解散状態である。
 個々人で自分を見直し、失った自信を取り戻さなければならない。
 下手すれば、ここで全員の心が折れてしまう恐れもあったからだ。

 コヨーテは、『かつて都市だった荒野』を目指している。
 そこに彼の求めるものがある。

 バリーとミリアも、それぞれ求めるものを手にするために旅立った。
 チコはルナの面倒を見るために、リューンに残ってくれた。
 レンツォはというと、心配だとか何かと理由をつけてミリアについていってしまったが。

 コヨーテはルナの傷が癒えるまで傍を離れたくはない。
 そう思っていたが、とある冒険者と会い、とある覚悟をした事で未練を吹っ切った。
 ここで立ち止まっているわけにはいかない。
 ルナは大切な仲間だが、保護するべき対象とは違うのだ。

(必ず、戻る)

 再び強く胸に念じ、コヨーテは歩を進める。

 カルバチアの中心街は、リューンとさほど変わらないほど栄えていた。
 リューンと違うところを挙げるとすれば、冒険者の宿が少ないというところだろう。
 カルバチアは魔道師連合の本部が存在する、魔術師の街だ。
 市内には冒険者よりも魔術師の方が多いのだろう。

 コヨーテは適当に目に付いた酒場に入った。
 目的は勿論酒を飲む事だが、彼を良く知る者なら驚いただろう。
 なぜならコヨーテは自ら進んで酒を飲む事は少ないからだ。

「蒸留酒を」

 カウンターに座ってから、これまた適当に度の強そうな酒を選んだ。
 ヤケ酒という訳ではないが、胸につっかえたものを洗い流せるならそれでも良かった。

 眼前に出された蒸留酒を呷る。
 とても強いアルコールの味がして、正直コヨーテの口には合わない。
 だが、たまには酔っ払ってしまいたいときもあるのだ。

 墓参りなんて柄でもない事をしたせいか、過去の事を色々思い出していた。
 その影響か、気が滅入る。
 忘れようとは思わないが、気分を変える事で心の均衡を取り戻したいのだ。

 墓の下で眠る彼女との出来事も、細々とした事まで思い出した。
 いつの日か、とある理由で体調が悪いコヨーテに誰かがこう言っていた。

『いずれ人はみぃんな死んじまうんだよ。
 知ってるか? 人間には定められた死ってものがあるんだ。
 オマエは、それがもうすぐそこなんだろうよ。
 諦めてとっとと逝っちまいな』

 それはコヨーテの症状を診た大人の言葉だったか。
 幼かったコヨーテは、この言葉を真正面から信じ込んだ。
 常識を持たない彼にとって、正しい事と正しくない事の区別はつけられなかった。

 体調を崩して満足に動く事すらままならないコヨーテの世話をしたのはドロテアだ。
 彼女は誰に命令されるでもなく、そうした無償の心遣いを実行していた。

 故にコヨーテには信じられなかったのかもしれない。
 人がいずれ死んでしまうのなら、死にゆくコヨーテを永らえさせる事に意味はないはずだ。
 だから聞いた、『こんな事して何になるの?』と。
 返ってきた答えは、とてもシンプルなものだった。

『あのひとがいっている事が本当なら、なおさらコヨーテに生きてほしい。
 だって、いつかしんじゃうのならそれまでたのしく生きなきゃ後悔しちゃうでしょ?
 コヨーテはまだこっちにきたばっかりなんだから、いまからでも一緒にたのしい思い出つくろうよ』

 彼女はあの言葉を決して悲観的に捉えず、むしろ逆に考えていたらしい。
 コヨーテは物事の真偽は分からないが、彼女の言葉や考え方は本物だと感じた。
 そして、コヨーテは彼女のようになろうと努力する事になる。

「『いずれ人は死ぬ。定められた死を避ける事はできない』……、か」

 馬鹿馬鹿しい、とコヨーテが独り言のように呟いた。
 今のコヨーテを形作る事になった、正否のはっきりしない言葉。

「――え?」

 隣で呑んでいた金髪の青年が、怪訝な表情で聞き返す。
 どうやら聞こえていたらしい。

「悪い、酔っ払いの戯言だと思って聞き流して――」

「どうして、でしょうね」

 コヨーテが言い切る前に、青年が口を挟んだ。

「……僕も同じ事を考えていました」

「何だって?」

 今度はコヨーテが聞き返す番だった。

「定められた死は避けられない。例え運命を捻じ曲げても、その終着点は同じ」

 歌うように、青年は言葉を紡ぐ。

「でも、今回だけは『定められた死』を免れたい。
 彼女を……守りたい……」

 不審に思うコヨーテは黙っている事にした。
 もしかすると、この青年も酔っているのかもしれない。
 青年は不意に表情を消すと、コヨーテに向かって小声で言う。

「……少し、耳を貸してください」

 正直、あまり係わり合いになりたくはなかった。
 ただの酔っ払いなら、場所を変えて呑んでも構わないからだ。
 だがその真剣な表情に押され、耳を傾けてしまった。

「今夜、中央通りで人が死にます」

「……、何の冗談だ?」

 辛うじて、そう返せた。
 青年が何を言っているか分からない。
 やはり酔っ払いの戯言か、と思いかけたところで、青年は自嘲気味に笑った。

「冗談ならどれだけ良かったでしょうね……、この忌まわしいチカラに誤りがあるのなら、と思ったのは一度や二度ではありません」

「何を、言っている?」

「……貴方、お暇ですか?
 宜しければ、僕の戯言に付き合って頂けませんか?」

 青年は彼が注文していた赤い酒を呷る。
 不思議に思いながらも、コヨーテは首を縦に振っていた。
 どの道、今日はここで宿をとる予定だったので、知らない人間と呑むのも悪くはない。



「改めて聞くが、あんたは何者だ?」 

 コヨーテは得体の知れない者を見る眼差しで尋ねた。
 その視線の先には、例の青年が腰掛けている。

 ここはさっきまでの酒場ではない。
 青年が取っている宿の一室だ。

「あんたの言葉通り、人が死んでいた。中央通りでな」

 あれからしばらくして、外が急に慌しくなった。
 カルバチア治安隊の人間が走っていく様を見たコヨーテは、思わず酒場を飛び出していた。
 野次馬が集まっていた現場は中央通りで、『人が突然死んでしまった』と目撃者が話していたのである。

「そしてあんたは言ったな。『死が見える』と」

「……、ええ。先ほど予言したように、僕は他人の死を知る事ができます。
 といっても近い未来、凡そ一日以内の未来ですが。
 死が近い人の眼を見ると、その人がいつ、どのように死を迎えるか、鮮明に映像が見えてしまうのです」

 まるで懺悔するような物言いだった。

「俄かには信じられない話だ。
 だが、『未来視ヴィジョンズ』というチカラは聞いた事がある」

 『未来視』とはその名の通り、未来を視る事のできる能力である。
 詳しくは知らないが、その能力を生まれつき持っている人間がいるという事は何かの本で読んだ事がある。

「僕も周囲の人間も、最初は信じられませんでした。
 ですが、何度も死という現象が積み重なるのは事実なのです。

 ……私は、このチカラに抗いたい」

「具体的にはどうやって?」

「明日、娘が一人暴漢に襲われて殺されます。
 貴方にはその少女を守って頂きたい」

 青年は淡々と言葉を連ねていく。
 だが、腑に落ちない。

「中央通りの死は放っておいて、その少女だけ助けるのは何か理由があるのか?」

 我ながら痛烈な言葉を、青年に言い放つ。

「不公平だ、と言いたいのですか?
 病気だから助けられなかった、というのは言い訳にはなりませんが……

 『定められた死』は、僕の中ではとてもありふれたものになってしまった。
 彼女に出会うまで、僕は死を宣告された人を助けようという気は起きなかったのですよ」

 青年はそこで言葉を切り、力強く続けた。

「だからこそ、是が非でも守りたい」

 不思議と、熱意が感じられなかった。
 嘘や偽りでは説明できない謎が、青年にはある気がする。

「全てを話してはくれないのか?」

 青年は無言で答えた。

「……まぁいいか。報酬は?」

「銀貨五〇〇枚でお願いします」

「いいだろう」

 コヨーテは謎だらけの青年の依頼を受ける事にした。
 はっきり言って、この依頼主は不明瞭なところが多すぎる。
 冒険者にも依頼を受けないという選択肢はあるし、突っぱねる権利もある。

 それでもコヨーテが首を縦に振ったのは、ドロテアの言葉を思い出したからだ。
 『定められた死』から救い出せば、ドロテアに近づける。

 



「あの娘です」

 青年が示した先には、青果商と親しげに話す十五歳くらいの少女がいた。
 あんな少女が、つまらない暴漢に襲われて死んでしまう。
 その事実に反吐が出そうだった。

「気づかれないように彼女を見張りましょう。
 『死の映像』だと、襲われるのは夕刻です」

 青年の腰にはショートソードが吊ってある。
 恐らくは護身用として持っていたのだろう。

「……一つだけ聞いておきたい」

「何です?」

「あんたは昨日こう言ったな、『彼女以外の人間を助けようとは思わなかった』と。
 だが、それは嘘だ。
 あんたの剣は、普通に平穏に生きていれば有り得ない使われ方をしている。

 ……
 『定められた死』とやらは避けられたのか?」

 青年は表情を歪めた。
 嘘を見抜かれた事よりも、質問に対して答える事に苦しんでいるように見える。

「……死の映像は変える事ができました」

 それきり、青年は黙りこくった。
 彼の言葉は、そのまま『定められた死』を避け得なかった事を証明しているのだ。

……)

 コヨーテは拳を握り締めた。
 絶対に終わらせてやる。
 あんな小さな女の子を、運命なんかに殺させてはならない。

 日が傾きだした頃に、彼女は買い物を終えて帰路についていた。
 ふと、人気のない路地に入っていく。
 後ろから様子を窺っているコヨーテと青年も、少し遅れて路地に入る。

(来たか)

 角を曲がったところで、少女の前後に人影が現れた。
 どうみても良い印象を与えない外見の男たちは、下卑た笑みを浮かべて少女を取り囲んでいる。

「おンやぁ。こんな場所をお嬢さんが一人歩きとは危なっかしくて見てられねぇぜ」

「……へぇ、なかなかの可愛コちゃんじゃねぇか。
 こりゃ高く売れそうだぜ」

 男二人はそれぞれ自分勝手な事を言っている。
 対して少女は怯えた風で、懐から何かを取り出した。

「……近寄らないで!」

 気丈にそう言い放つ彼女の手には、刃物が握られていた。
 それを見た男二人は、激昂して少女に襲い掛かろうとする。

「ここで正義の味方登場、ってところだな」

 コヨーテは青年と目配せすると、一気に路地へ身を飛び込ませた。

 剣は抜かない。
 相手が素手だろうが、全力を持って排除するべきなのだが、今は使わない。
 運命とやらがコヨーテの剣を使って、あの少女を殺してしまうかも知れないと考えたのである。

「な、何だテメェら――ぐべっ!?」

「それはさっき言っただろう、正義の味方だよ!」

 突然の乱入者に驚く男との距離を縮め、アッパーカット気味に顎を殴りぬける。
 ふらついたところで、開いた腹に強烈な蹴りをねじ込む。

「ぶぉ、がっ……!」

 身体をくの字に曲げて、男はうずくまった。
 それを見た片割れは激昂して、コヨーテに掴みかかる。

「おおおッ!」

「ぶべらっ!!」

 青年の怒号と共に、思い切り振り下ろされたショートソードの柄が男の脳天に直撃していた。
 あまりの痛みに掴む手を緩めた男は、コヨーテの渾身の右フックを腹に喰らって沈んだ。

 二人の暴漢が倒れた後、コヨーテは彼らの意識を確認する。
 その間、少女はこちらを見て驚いたように身を固くしていた。
 振って沸いたような救いに戸惑っているのだろうか。

「あ、あなたは……」

「大丈夫?」

 青年の言葉に、少女は首を縦に振った。

「長居は無用だ。別の場所に移ろう」

「分かりました。
 僕が逗留している宿に行きましょう。

 一緒に来てもらえるかい?」

 最後の一言は、少女に向けたものだ。
 少女は面食らいながらも、小さく『はい……』と答えた。



 宿に戻ったコヨーテは報酬である銀貨五〇〇枚を受け取って、自分の部屋で休む事にした。
 青年は少女のために『夜道は危ないから』と、別の部屋を借りていた。
 
 深夜、真っ暗な部屋の中で青年は眠る。
 寝台に近づく小柄な影は、彼の安らかな寝息に耳を傾けた。

「……ごめんなさい」

 小さな呟きと共に、静かな部屋に鞘擦れの音が響いた。
 真っ暗な室内でも妙に存在感をアピールする鋭い刃が、振り上げられる。

「そこまでだ」

「――ッ!?」

 影の、驚きの声と同時に室内に光が戻った。
 コヨーテがランプに火を灯したのだ。
 刃を握る人影、それは紛れもなく

「こんな事だろうとは思っていたよ。
 あんたの持ってるその短剣、一般人なら諸刃は持たない。

 そっちも。下手な寝たフリは止めたらどうだ」

 コヨーテが視線を向けると、青年はバツが悪そうに起き上がった。
 その様子に、少女は歯軋りする。

「……気づいていたのね」

 それを無視して、コヨーテは青年を見据えたまま尋ねる。

「死の映像が見えたか?」

「……彼女を、殺さないでほしい」

 青年は険しい表情のまま、搾り出すように声を出した。

「それがあんたの結論か。
 だが、こっちの女の子はやる気みたいだぞ」

 少女は短剣を握り直し、低い声で言う。

「私は! あなたたちを殺さなければならない!」

 すでに覚悟は決まっているようだ。
 その事実に、コヨーテは苦い表情をする。

(参ったな、どうしたものか)

 殺せ、と言われれば殺せたかもしれなかった。
 彼女はこちらを殺す気で襲い掛かってきているし、コヨーテとしても死ぬ気はさらさらない。
 だが、青年は殺さないでくれと言った。

 彼我の距離はわずか一〇歩ほど。
 短剣の必殺の間合いからは、わずかに外にいる。

(どちらにせよ、迷っている暇はない、か!)

 少女は三歩分の歩幅を、一歩で詰める。
 恐るべき速さでコヨーテを突き殺さんとする少女。
 対するコヨーテは左手に握った『それ』を、間合いごと振りぬいた。

「!!」

 それは、コヨーテの部屋のベッドから拝借してきた白いシーツだった。
 単なる眼くらまし。
 それに過ぎないはずのシーツを、少女の短剣が裂いた事によって、別の意味が出てくる。

 、という意味が。
 左から右へ振りぬかれたシーツは、短剣を横から引き摺った。
 ほんのわずかにずれた狙いは、コヨーテのわき腹を通り抜けていく。

「う、あああああああ!!」

 少女は吼えた。
 コヨーテの右拳が、眼前に迫っている事を知ったから。

 ゴドン! という重たい衝撃が、少女の顔面へと突き刺さった。
 勢いに乗せられて、華奢な身体が後方へ吹き飛ぶ。
 少女はそのまま壁に背中を打ちつけ、肺の中の空気を全て吐き出してしまった。

「ゲホ、うぅ……!」

 少女は咳き込み、呻きながら立ち上がる。
 その瞳には彼女を傷つけた相手に対する『憎しみ』は無かった。
 あるのはただ、漠然とした『恐怖』だけだ。

「もう、止めろ」

 コヨーテは剣を抜いた。
 威嚇のためだけに抜いたのだが、効果はあったようだ。

「……!」

 少女の喉がひくっ、と鳴る。
 コヨーテと青年を交互に見て、やがて目を閉じた。

 次の瞬間。
 少女は、

「なッ……!?」

 太い血管が裂け、噴水のように赤い液体が飛び散る。
 急いで駆け寄ろうとするコヨーテを拒むように、少女は血に濡れた短剣を突きつけた。

 二、三歩たたらを踏んだ少女は、寝台に躓いて倒れる。
 少女の手から短剣が滑り落ち、床とぶつかって鈍い音を立てる。

「死んで、いますか?」

 青年の抑揚のない声が背後から聞こえる。
 問うまでもない。
 少女はぴくりとも動かなかった。

「……あんた、最初から自分が死ぬ事で運命を変えようとしたのか?
 それとも、死の映像を見ていたから安全だと知っていたのか?」

「僕は……」

 叱責するようなコヨーテに対して、青年は表情を変えない。

「……死の映像は変える事ができる。
 だけど、それは結局死の映像でしかない。

 『定められた死』は避けられない。
 途中の運命は歪められても、その終着点は同じなのです」

 表情を変えずに、だが涙が流れていなければおかしいと思えるほど震えた声で心中を吐露していた。

「分かっていた。分かっていたはずなのに……!」

 その場に崩れ落ちた青年を残し、やり切れない気持ちのままコヨーテは宿を出た。
 彼の慟哭を背に、コヨーテは中央通りを歩いていく。

 運命に抗えずに叩き潰される事は、コヨーテにも経験がある。
 そこから這い上がるか、ずるずると沈められるか。
 それは本人次第だ。

(折れるなよ)

 折れなければ、いつか必ず運命に打ち勝てる。
 そう、思っていた。
 思わなければならなかった。

 コヨーテもまた、運命に負けながらも抗い続けるちっぽけな存在に過ぎないのだから。



【あとがき】
今回はクエストさんの「定められた死」です。
テーマが『死』なので、とてもシリアスな雰囲気が楽しめます。
暗殺者を退けた後の主人公の台詞、あれってどっちが青年の本音なんでしょう?
私は前者だと解釈しています。

その辺も含めて、コヨーテにぴったりなシナリオだったと思います。
おまけに墓参りシーンも入れられて満足です。
冒頭のドロテアについて、コヨーテの過去についてはまた後ほど。

それとちょびっとですが、某シナリオの墓守さんが登場してます。
魔導都市カルバチアの市営墓地といえば、彼を登場させなければいけない気がしました。
もしかしたらそちらもリプレイするかもです。

描写していませんが、コヨーテは銀貨一〇〇〇枚を持っての一人旅です。
コヨーテ、バリーが一〇〇〇枚、ミリア組とリューン組が一一〇〇枚ずつ所持してます。
これから結構長い間、パーティがバラバラになります。


☆今回の功労者☆
当たり前ですけどコヨーテ。暴漢も暗殺者も無傷勝利。

報酬:
500sp

銀貨袋の中身→1500sp(総計:4700sp)


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『定められた死』(クエスト様)

今回使用させて頂いたキャラクター
『エイベル』(出典:『盲目の道筋』 作者:takazo様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
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