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『隠者の庵』 

「トマック村?」

 バリーは酒場でエールを呷っていた。
 隣にはがっしりとした体つきの男が、安物の葡萄酒を美味そうに呑んでいる。

「あぁ。何でも、変人がそこに住み着いたんだと。
 平和な村だったらしくてな、村人は大わらわなんだそうだ」

「そいつはそんなに危険なのか?」

 バリーは追加でエールとつまみを注文して、つまらなそうに尋ねる。
 男は気にせず、上機嫌で話を進めた。

「いやぁ、それはないだろうよ。
 トマック村って言やぁ、辺鄙って言葉がこれ以上ないくらい似合う場所だぜ。
 そんなところになんて居やしないさ」

「チッ……、相変わらず悪趣味な野郎だぜ」

「フフン。このレフェル、友人の弱点は全て把握済みだぜ?」

 そう言って、レフェルは片目を閉じた。
 レフェルはリューンの自警団に所属している。
 その関係で、魔道士エイベルの事件にバリーが関わった事も知っていた。

「クソッタレが。職権乱用してんじゃねぇよ」

「酷い言い草だな。 
 普段からロクに働かない事で有名なバリーが冒険者になったってだけでも驚きなのに、今度は挫折を知らないお前がへこたれてやがる。
 友人として心配してやってんだぜ?」

「フン、どうだか」

「だから、こうやって非番の日にお前の手伝いしてやってんじゃねぇか」

「適当に目に付いた貼り紙を剥がしてきただけだろうが。
 大体な、冒険者でもない奴が勝手に他人の食い扶持奪ってきてんじゃねぇよ」

 ここはいつもの『大いなる日輪亭』ではない。
 リューンの北部に位置する、小さな冒険者の宿だ。

「大体よォ、俺が何やってんか知ってんのか?
 魔道書の解析だぜ、脳筋のテメェの出番じゃねぇんだよ」

 バリーはカウンターに置いている魔道書を軽く指先で叩く。
 これは彼の父が遺した遺産である。
 今までロクに研究できなかったせいか、未だに魔道書の理論を解析できていない。

 魔道士エイベルに絶対的な力の差を思い知らされたバリーは、魔術師としてのプライドを致命的に傷つけられていた。
 取り戻すためには、更なる高みへ上らなければならない。
 その最初の一歩は父の遺した魔術を解き明かす事から始めたかったのだ。

「まぁまぁ、結果的に芳しくねぇんだろ?
 だったら気分を入れ替えて真面目に働くってのもアリだと思うぜ」

「チッ……」

 バリーは軽く舌打ちして、改めて貼り紙に目を通す。
 レフェルの言葉通り、魔道書の解析は思った以上に進んでいない。

「へぇ、お前にしちゃあ悪くねぇモン取ってきたな」

「ん、そんなに割りのいい仕事か?」

「さァな。だが、上手く事が運べば銀貨三〇〇枚がノーリスクで落ちてくる」

「なんだそりゃあ、自警団の給金が馬鹿らしくなるぜ」

 レフェルはおどけたように肩を竦め、安酒の葡萄酒を一気に呷った。

「トマック村はこっから北へ二日ってとこだな。
 中央行路からは外れてるが、特に危険はないと思うぜ。

 まぁ、気分転換って事で行ってみたらどうだ?」

「ハン。そんな気分で外に出たら闇の餌食だぜ」

 バリーは鼻で笑う。
 得てして旨い話には裏がある事を、彼は考えていないようだった。

 しかし、バリーはその依頼を受ける事にする。
 本当に件の変人が危険人物なら、村人に被害が出ていてもおかしくないはずだ。

 話し合いで済む仕事なら、受けてやっても良かったのだ。



「何卒、宜しくお願いいたします……」

 村長のしわがれた声を背に、バリーは例の庵へと足を運ぶ。
 結局村長からはまともな情報は得られなかった。
 だが、少なくとも人間ではあるらしい。

「化け物の可能性は消えたか。
 後は話が通じる相手である事を祈るばかりだぜ」

 やがて、例の庵に辿り着いた。
 到着が遅かったため、辺りはもう暗い。
 それが後押ししているのか、庵はただならぬ雰囲気を放っている。

「失礼」

 バリーは短く言って、ドアをノックする。
 が、しばらく経っても誰かが出てくる様子はない。
 外出しているのかとも考えたが、人の気配は確かにする。

(歓迎されていないようだが、仕方がない)

 バリーは油断なく、【理知の剣】を抜いてドアノブを捻る。
 鍵は開いていたらしく、古めかしい音を立ててドアが開いていく。

 室内は薄暗かった。
 乏しい蝋燭の灯りが揺れて、薄暗い闇をわずかに照らす。

「……何の用じゃ?」

「――うおっ!?」

「冒険者か何かの様だが……このシュレックに何の用事だ」

 いきなり暗闇から声を掛けられて、思わず間抜けな声を出したバリーは内心安堵した。
 どうやら話は通じるらしい。

 ようやく蝋燭の灯りに目が慣れてきたバリーは、シュレックと名乗る男を見て吃驚した。
 落ち窪んだまぶたの置くにはコヨーテと似た赤い瞳、乏しい灯りでも判る死人のように青ざめた肌。
 精気のない表情は、彼を『幽鬼』と表現するのが最も相応しいように思えた。

「俺はトマック村の村長から依頼を受けた冒険者だ」

「なるほどな」

 わずか一言だけでシュレックは、バリーが何者か、また村人がどういう意図でバリーをここへ寄越したのかを見抜いた。

「では、君は村人にこう伝えてくれたまえ。
 『ここには恐ろしい魔術の研究をする魔術師がいる。死にたくなければここには近づかないようにしろ』とな。

 あぁ、後はこう付け加えてくれ。
 『奴の身体は魔物に捧げられている。下手に殺してしまえば、村に大量の魔物が押し寄せるだろう』とね」

「……本気かよ」

「さて、どうだかな」

 正直、下手な嘘より性質が悪い。
 バリーに確かめる術はないし、彼の持つ雰囲気はそれが冗談ではない事を物語っているようにも見えた。

「……信じるか信じないか、それは君の自由だ。
 だがね、村人がこの庵に近づかぬと約束するのなら、私も村人には一切手を出さないと約束しよう」

 バリーは怪訝な表情で、シュレックを観察した。
 どうにも腹の底が読めない相手だ。

「君も知っているだろう、魔術師にとって『約束』とはどんな意味を持つのか」

「フン、お見通しか」

 シュレックはニヤリ、と口の端を吊り上げて、バリーの持つ【理知の剣】を見ている。
 【理知の剣】は魔術の道具マジックアイテムである。
 そこから、バリーが魔術師である事を見抜いたのだろうか。

「用は済んだかね?
 だったら、もう帰りたまえ」

「……あんたは何者だ?
 ただの魔術師とは思えねぇ」

 詮索するバリーの言葉にも、シュレックは表情を崩さない。
 喜怒哀楽の感情が欠けているのかもしれない、とバリーは感じる。

「私は魔術師だよ。
 それも、力の凡そを失った、ただの隠居爺だ」

「力を失った、とは?」

「……知っているかね。
 人が力を追い求めれば追い求めるほど、それ以外の力を失う。

 私は永遠とも思われる永い時間を得たが、反対にたくさんの力を失った。
 人を愛する力、夢を見る力……、力を求めている最中は気にも留めなかった力が、今ではとても恋しい」

 永遠の命を手にする魔術、
 まさかシュレックはそれを求め、そして成功したのか。
 普段のバリーなら馬鹿馬鹿しい、と一蹴したのだろうが、この老人が冗談を言っているようには見えなかった。

「……私には死する事すら許されていない。
 私はここで、自ら刻み付けた運命の目を掻い潜る術を研究している。

 全く、甚だ滑稽だと自分でも思うよ。
 不老不死を追い求め、それを手にしたかと思えば、次は死が欲しくなる」

 そう言って、シュレックは感情の伴わない表情で無理やり笑った。

「君はどうだ。
 不老不死に興味があるかね?」

 どんな答えを待っているのか、シュレックはバリーに尋ねる。
 バリーはほとんど反射的に口を開いた。

「興味ねぇな」

「ほう」

 シュレックは感心したような声を上げる。

「人は本来の意味で不老不死になれない。
 そもそも人間は死ぬようにできてるんだ。

 いくら寿命が延びようが、いつかは精神は老いるし心は死ぬ。
 心が死んだ人間なんざ、そいつはもう人間じゃねぇ。
 もっと別の、魔物じみた何かになっちまうだけだ。

 ……不老不死なんてくだらねぇよ。
 人間を捨ててまで得るものが、永遠の虚無なんざ笑えねぇだろ?」

 バリーの言葉に、シュレックは押し黙った。
 シュレックはまさに今、それを味わっているから。

「……久しぶりに面白い人間に出会えた気がする」

 シュレックはそう言って、笑った。
 今度はほんの少しだけ、感情が見えた気がした。

「そうだ、冒険者家業を営んでいるのなら魔法に興味はないかね?
 今の私には不要のものだが、君の役に立ちそうな魔道書ならいくらでもある。

 死ぬための研究も、それなりに費用を食いつぶす。
 この愚者を助けると思って、私に残された最後の財産を買い取ってはくれんか?」

「そっちにゃ興味はあるぜ。
 だが、今はそっちの魔道書は買い取れない」

「気が向いた時で構わんよ。
 どの道、死ぬ事などできないのだからな」

「……こいつを見てくれ」

 バリーは懐から、例の魔道書を取り出した。

「こいつを解析してぇんだ。
 今の俺じゃ力不足なんだ、あんたの知識を貸して欲しい」

 シュレックは無言で、バリーの魔道書を手に取った。
 パラパラとページをめくり、内容を読み取っていく。

「……銀貨一〇〇〇枚で、決定的なヒントを売ろう」

「ヒント? 完全に解析はできねぇのか?」

 シュレックは首を横に振った。

「残念だがな、ここの設備じゃ難しいだろう。
 私の与えるヒントを持って、北のロスウェルにある賢者の塔を訪ねてみるといい。
 ロスウェルの研究所を借りる事ができれば、容易く読み解く事ができるはずだ。

 あぁ、リューンは止めておけ。
 失踪していた魔術師の大罪人が再び現れたとかで、ゴタゴタしているらしいのでな」

 十中八九、というより間違いなくエイベルの事だろう。
 この老人はどこから外の情報を仕入れているのか、興味はあったが聞かない。
 どうせはぐらかされるに決まっている。

「つってもよォ、俺は研究所を借りるカネなんざ持ってねぇぞ。
 あんたのヒントを買っちまえばほとんど素寒貧だ」

「何も銀貨だけが人の心を動かす訳じゃない。
 その方法も含めて、銀貨一〇〇〇枚で売ろうじゃないか」

「クソ、意外と商売上手じゃねぇか」

 二人の魔術師はニヤリ、と笑いあう。
 バリーは最初から他の選択肢を選ぶつもりはなかったのだ。



 数日後、深緑都市ロスウェルの賢者の塔に、とある魔道書が納められた。
 その魔道書は『炎網の囲い』という魔術の理論を記した原本である。
 著者はオスカー・という。

 魔道書を持ち寄った赤毛の魔術師は、その魔道書を担保に研究所を借りた。
 ロスウェルの魔術師数人がバックアップした事もあり、遂にその研究は実を結んだ。

 結局、賢者の塔は安い買い物をしたと思っているのだろう。
 赤毛の魔術師が得たのは魔術の知識のみ。
 魔道書の原本を管理し、その知識を販売する権利は賢者の塔にある。

 だが、赤毛の魔術師は気にしていない。
 本当に大切な事は、魔道書の知識を得る事じゃない。

 秘められた魔術を誰かのために使う事が、最も大事なのだと気づいているのだから。




【あとがき】
今回はFuckin'S2002さんの「隠者の庵」です。
いやぁ渋いです、シュレックさんむちゃくちゃ渋い!
お店シナリオでもかなりの知名度を誇るこのシナリオは、私の中じゃどこか
『あって当たり前』のような雰囲気になっちゃってます。

解読と感知のキーコードを持つアイテムが貰えるのもお得ですよね!
本命の魔術も、派手さはない代わりに堅実な魔術が多くて通好みです。

すみません、ちょびっとズルしちゃいました……
バリーは隠者の庵で決まりだな、とか思ってプレイしようとしたら
「三人以上でプレイしてください」ってメッセージが出まして。
他にバリーに合う一人プレイシナリオも見つからず……、結局全員で庵に突撃しました。
作中ではバリー一人で行った事にしてます。


☆今回の功労者☆
当たり前だけどバリー。特に何もやってないけど。

報酬:
300sp

戦利品:
【解読の巻物】
【識者の棒杖】

購入:
【炎網の囲い】-1000sp→バリー
(深緑都市ロスウェル)

銀貨袋の中身→300sp(総計:4000sp)


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『隠者の庵』(Fuckin'S2002様)
『深緑都市ロスウェル』(周摩)

今回使用させて頂いたキャラクター
『エイベル』(出典:『盲目の道筋』 作者:takazo様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
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