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『Goodnight,Boy』 

「くそ、ラクスマンめ」

 とある吸血鬼に悪態をつきつつも、森を抜けるために足を動かす。
 コヨーテは手の中にあるペンダントを睨んで、深くため息をついた。
 この、いかにも高価そうなアクセサリーは、ラクスマンの私物である。

 実はあの吸血鬼、幾つもアクセサリーや宝石類を所持している。
 個人的な趣味なのでとやかく言わなかったが、長々と講釈を垂れるのだけは鬱陶しかった。

『こいつを、リューンまで運んで欲しい』

 ラクスマンから受けたのは、たったそれだけの簡単な仕事のはずだった。
 何も届け先がヤバい組織だったり、モノ自体が危険なわけではない。
 いたってノーマルな届け先で、モノも普通の品である。

(まぁついでだし、と安請け合いしてしまったのが悪かった)

 そう、この品にはある秘密があったのだ。
 それに気付いたのは、ラクスマンの元を発った翌朝である。

 コヨーテは依頼主を見極める事の重要性を、ついこの間学習したばかりである。
 こうも易々と嵌められた理由は、ひとえにラクスマンという存在の影響が強い。
 要するに、コヨーテは吸血鬼ラクスマンを心のどこかでは信頼していたのだ。

(甘い、な……甘すぎる)

 これが仲間と受けた依頼だったらと考えると、数日前の自分を殺したくなる。
 あれだけ痛い目に遭わされたのに、まだ懲りていない自分に腹が立つ。

 がくり、と膝をつきそうになる。
 さすがに疲れがピークに達してきている。
 ラクスマンが仕切っている『吸血鬼の組合』から数日、ロクに休んでいないのだ。

「ん、あれは……」

 斜め前方に、二頭立ての馬車が走っている。
 コヨーテは森の中を突っ切っているため、少し走れば馬車に追いつけそうだ。

「おーい、止まってくれ」

 横合いから馬車の前方に出て、停止を促す。
 馬車を駆る御者は、手綱を引いて馬を止めてくれた。

「その格好、冒険者かい? 何か用かね」

「ああ、リューンの冒険者だ。
 この馬車、方角的にリューンに向かっているみたいだが……」

「まぁね。なんだ、乗っけて欲しいのかい?」

 御者の言葉に、コヨーテは無言で頷く。

「……ま、いいさ。寝不足みたいだし、このままリューンまで歩かせるのも気の毒だ。乗ってきな」

「悪いな」

 コヨーテは眼の下のくまを擦り、チップとして適当に銀貨を数枚渡した。
 この森から半日歩けばリューンに着く程度の距離だ。
 馬車なら一眠りするくらいの時間はあるだろう。

「少し寝かせてもらう。あんたの言う通り、寝不足なんでね」

「どうぞ。藁があるから、野宿より上等だろう?」

 馬車の荷台には藁が敷いてあった。
 何を運んでいたのかは知らないし、聞こうとも思わないが、なるほど野宿と比べれば上等だ。

 コヨーテは剣を下ろし、手の届くところへ置いて横になる。
 横臥してすぐ、コヨーテの意識は深い闇の底へ落ちていった。



「あら、もしかして旅籠のお客様ですか? どうぞごゆっくり」

 育ちの良さそうな女性が、柔和な笑みを浮かべて挨拶をする。
 彼女の首には、高価そうなペンダントが掛けられている。
 コヨーテがラクスマンから預かったものと、全く同じものだ。

、この夢か……)

 そう、この光景を見るのはこれが初めてではない。
 数日前にラクスマンからペンダントを受け取った翌日の夜から、ずっと同じ夢を見ている。

「あら、他のお客様かしら」

 ぱたぱたと女性が入り口へ向かって走っていく。
 その背を追うように、彼女の息子であろう少年も付いていった。

「あっ……!?」

 いざ開けようとしていたドアが、急に乱暴に開け放たれた。
 闖入者は隻眼の男で、片手剣を持っている。
 一目で強盗と分かるその男は、女性に向かって剣を振りかぶる。

「ぼ、坊や逃げて、早く――!」

 言い切る前に、鈍く光る凶刃が女性を袈裟に切り裂いた。
 鮮血が舞い、壁にもたれかかる様に女性は動きを止める。
 強盗は彼女へ歩み寄り、胸の高価そうなペンダントを引きちぎった。

「か――」

 目の前で母親を殺され、呆然としていた少年が、それに反応した。

「返せ、返せよ! それはママのだ!」

 あろう事か強盗へ詰め寄り、ペンダントを取り返そうとしている。
 それを鬱陶しそうに眺める強盗は、少年の腹を思い切り蹴飛ばした。

「返せ……ママを、そのペンダントを返せ……
 返さないと許さない……絶対に、許さない……」

 呻きながらも、少年は言い放つ。

「……黙れ、このクソガキィ!」

 いい加減面倒になったのか、強盗は少年を斬りつけた。
 額が割られた少年は、盛大に血を撒き散らして絶命する。

 強盗は走り去り、残ったのは母子の死体だけだ。
 夢の最後は、いつもこうだ。
 やがて死んだはずの少年は起き上がり、こう呟くのだ。

「ママは……?
 ママがいない、ママの匂いがしないよ……」

(………………)

 コヨーテはその様を黙って見ている。
 最初の内はどうにか止めようともがいてみたが、無駄だった。
 強盗を殴り飛ばそうとしても、母子を逃がそうとしても、彼らの身体に触れられなかったのだ。

 ここはコヨーテの夢の中なのに、主であるコヨーテが干渉できない。
 明らかに、第三者の意図が介入した現象である。
 そしておそらく、この少年が原因なのだろう。

「……坊や、君のママはもういないんだ」

 なるべく言葉を選んで、コヨーテは少年に告げた。
 昨日は希望を持たせるような言葉を告げて、今回は現実を告げてみる。
 だが、最終的な結果は同じで、強制的に夢から追い出されてしまった。



(……どうすればいい)

 何度目かの自問を繰り返す。

 あまり詳しくはないが、これは呪術の一種だろう。
 とはいえ、あのような少年が呪術を完璧に習得しているとは考えにくい。
 少年の無念が偶然『形あるもの』たるペンダントに宿り、こうした悪夢を所持者に見せているのだろう。

(あと少しの辛抱とはいえ、もし呪いが解けなかったらと考えると面倒だ)

 コヨーテは吸血鬼ではあるが、半分は人間である。
 人間である以上、睡眠を取らなければ体力は回復しない。

 このペンダントを届け先に渡して、呪いが解ける可能性はある。
 だが、それが原因で『月歌を紡ぐ者たち』の名を貶められても困る。
 何が何でも、コヨーテが呪いを解かなければならない。

(これが呪いだと仮定して、解呪法は……)

 ルナのような聖北の僧侶ならば、少年の鎮魂を執り行う事で解呪を行えただろう。
 むしろ彼女とは反対側に位置するコヨーテには皮肉である。

 バリーのような魔術師になら、呪術そのものを突き崩す方法がある。
 呪術に使用される力のベクトルを、術者自身に跳ね返す魔術が存在するのだ。
 当然、これは魔術的な要素が強く、魔術師でもないコヨーテには不可能である。

 一般的には、呪術を構成する因子を変質させる事が有効な解呪法である。
 分かりやすく言えば、怨念の元を絶つ事だ。
 今回であれば、少年の心を救う事でこの呪術は解けるはずだ。

(だが、どうやって?)

 一番分かりやすいのは、夢の中に出てきた強盗を誅殺し、少年の無念を晴らす事だろう。
 だが、どこにいるかも分からない人間を探し出して殺すなんて、非現実的にも程がある。

 それよりも、強盗から母子を護る事ができれば、少なくとも夢の中の結末は変わるはずだ。
 だが、護るには彼らに触れなければならない。

(触れる事さえできれば、どうとでも出来るのにな)

 コヨーテは自らの得物を握った。
 夢の中の出来事は何度も見たお陰で、完全に把握している。
 強盗が母親を斬る前に、返り討ちにするくらい楽なものだ。

 そんな事を考えていると、いつの間にか景色が暗転した。
 やがて背景はぼんやりと、旅籠の一室となる。
 どうやらそのまま眠ってしまったらしい。
 気がつかない内に寝てしまうほど、疲れてしまっているのだろうか。

「あら、もしかして旅籠のお客様ですか?」

 いつものように、女性が話しかけてくる。

「まぁ、。もしかして、名だたる剣士様でいらっしゃるのかしら?」

「……、え?」

 いつもとは違う展開だ。
 ふと見れば、コヨーテの手には剣が握られている。

「あら、他のお客様かしら」

(――拙い!)

 ドアに走り寄ろうとする女性を制し、コヨーテは一歩前に出る。
 予想通りのタイミングで迫り来る強盗の剣を、自らの剣で弾き返した。
 今までになかった状況に驚きつつも、コヨーテは柄を握りなおす。
 もしかしたら、この母子を救えるかもしれない。

「何だ、テメェ!」

 コヨーテは答えず、横薙ぎに剣を振るう。
 強盗は辛うじて防御するが、あれでは両手が痺れてしまっただろう。
 流れるようにコヨーテは剣を返し、そのまま強盗を袈裟に切り裂いた。

「――ッ!?」

 まるでそれが当然のように、コヨーテは強盗を斬った。
 元々夢の中とはいえ、コヨーテは強盗を殺そうとは思っていなかった。
 これも呪いが影響しているのかもしれない。

 しかし、どこか妙な感覚だ。
 人を斬ったというのに、虚無感だの罪悪感だのを感じ得ない。
 まるで人の形をした別物を斬ったような感触だった。

 何はともあれ、これで呪いは解けるはずだ。

「坊や、これで君たちは助かる。君のママはいなくならない」

「……ううん、分かってるんだ」

 少年は、首を横に振る。
 その額は裂け、傷口からは真っ赤な鮮血が流れ落ちていた。
 気がつけば、傍にいたはずの少年の母親は、壁際でいつもの死体になっている。

「僕もママも殺された。ちゃんと覚えてるもん……」

 少年は虚空を見つめ、歯軋りした。

「大切なペンダントも奪われた……許さない、絶対に……!」

 怨嗟の声を最後に、再び背景が暗転する。



(……、ダメか)

 眼を覚ましたコヨーテは、深くため息をついた。
 ふと剣に眼をやると、いつの間にか鞘から抜かれていた。
 それだけでなく、何故かべっとりと血液で染まっている。

(まさか、だろ)

 さっきの夢で、コヨーテは剣を握っていた。
 今まで夢に剣が現れなかったのは、単純に剣を持っていなかったからなのだろうか。
 どうやら、あの夢は現実とどこかでリンクしているらしい。

(だが、それが何になる?)

 武器を持って母子を助けても、解決しなかった。
 結局のところ、全く進展していない。

(考えを戻そう。
 呪いを解除するには、少年の心を救う必要がある。
 それは必ずしも母子の命を救う事とイコールではないみたいだ。

 唯一の手がかりといえば、このペンダントだが……)

 このペンダントは、元々母子のものだったはずだ。
 これをあの少年に返せばいいのだろうか。

「おや、恋人への贈り物か何かかね?」

 不意に、御者の声が聞こえた。

「いや、そんなのじゃない。それよりあんた、これが何か知ってるのか?」

「それはわしの生まれた地方の習慣でね。その中に香水を入れて持ち歩くのさ。
 わしの故郷じゃ大人の女性はみぃんな持ってたんだよ。
 あんたのそれみたいに豪華なのは、大抵恋人に贈ったりするもんさ」

「……そうなのか」

 少年は言っていた、『』だと。
 もしかすると、これは。

「上の方に蓋があるだろう、開けてご覧なさい。
 前の持ち主の香水が残っているかもしれんぞ」

「………………」

 コヨーテは御者の言う通りに、ペンダントの蓋を開けた。
 もしかしたらそこに答えがあるのかもしれない。

「ほう、これは……」

 御者は目を細めた。
 ペンダントの中の香水は、まだ生きている。
 辺りに漂うのは優しく柔らかで、どこか温かい気分にさせてくれる香りだった。

、か」

「ん? 何か言ったかい?」

「いいや、ただの独り言さ。
 それより、これからもう一度眠らせてもらうよ」

 振り返った御者は、コヨーテの姿に眉をしかめる。
 これから眠るというのに、首には例のペンダントを下げ、剣を抱えて眠ろうとしているからだ。

「おや、剣を抱いてないと眠れない性質かい?」

「今は、ね」

 コヨーテは意味深な言葉を残して、すぐに深い眠りに落ちた。
 単純に疲労や寝不足が重なった事もあるが、一刻も早く少年の心を解き放ってやりたかったのだ。



 コヨーテが再び夢の世界に入ると、いつもの光景が目の前に展開された。
 今回も得物を手にしていたため、死体の数は一つ多い。

 床に転がっているペンダントを手に取ると、コヨーテは少年に向き直る。

「ママ……」

 少年はいつも通りに血塗れの身体で、虚ろな瞳を向けてくる。
 あまりにも幼く、悲痛な瞳だ。

「君のママはもういないんだ」

 以前と同じ言葉を、少年に浴びせる。
 少年の求めるものは、生前の母親ではないのだ。

「だが、これをよすがに眠るといい」

 コヨーテがペンダントの蓋を取り外す。
 すると瞬く間に辺りに強くはないが、優しく包み込むような香りが広がる。
 そう、それはまるで香りだった。

「ママ……?」

 バギン! というガラスの割れるような音がしたかと思うと、世界に亀裂が走った。
 見る見る、少年の血糊が薄くなり、やがて抉れていた頭部の傷もなくなる。

「君が探していたのは、ママの匂いだったんだな」

「うん……、ずっと探してた。ペンダントをあけてくれる人を」

 少年は部屋の中央で横たわる強盗の死体を見つめる。
 その瞳には、もう憎悪の色はなかった。
 あるのはただ、深い悲しみの色。

「あいつは、どんなに訴えてもペンダントをあけてくれなかった。
 あいつが狂死してからペンダントは大勢の人の手を渡り歩いたけど……
 みんな、僕を怖がって逃げて。誰も気付いてはくれなかった」

 強盗を現実で殺したのは、少年なのだという。
 恐らくは、それが契機だったのだろう。
 少年の呪いが、ペンダントの所持者に無差別に降りかかるようになってしまったのは。

「でも……」

 少年は口元だけで、淡く微笑んだ。

「ようやく気付いてくれた。
 ママの匂いを、返してくれた」

「もう、いいんだな?」

 もう未練を残さず、天に昇れるかという問いである。
 少年は、それに対して頷く。

「死後の世界がどうなっているかは知らないが、会えるといいな。君のママに」

「うん、ありがとう。お兄ちゃん……」

 少年はまるで眠るように眼を閉じた。
 目尻には、わずかに涙がにじんでいる。

「さようなら、坊や。いや――」

 少年の身体が完全に消えると同時、世界に走った亀裂が音を立てて崩れ去った。
 世界の向こう側は、完全な闇。

「――おやすみ、坊やGoodnight,Boy

 コヨーテもまた、瞳を閉じた。
 辺りに漂う『母親』の香りをわずかに感じながら、深く深く眠りの底へ落ちていく。



【あとがき】
今回はほしみさんの「Goodnight,Boy」です。
個人的に、完全一本道の読み物系短編シナリオでは五指に入ります。
母と子の絆を思い出させてくれる作品でした。

個人的な解釈として、少年の憎しみは強盗が狂死した瞬間に消えたんだろうと思います。
残ったのは、大好きな母を目の前で引き裂かれた悲しみだけ。
どれだけ強盗を憎もうが、もう相手はこの世の人ではなくなっている。
憎むべき相手もおらず、求める母はどこにもいない。
それが更に深い悲しみの連鎖に繋がり、癒して欲しくて今回の事件が起こったんだろうなと思います。

思えばコヨーテは母親の顔も、名前すら知りません。
香水の匂いを母親だと感じたのは、決して経験や記憶ではないのです。
彼もまた、母親の愛を求めているのですよ。

あ、ちなみに呪術云々は適当です。
今回は一般的なイメージの『解呪』をそれっぽく説明しただけにすぎません。


☆今回の功労者☆
当たり前ですけどコヨーテ。前回買ったスキルが回ってきませんでしたねー……

報酬:
300sp

支払:
馬車代→-7sp

LEVEL UP
コヨーテ→3

銀貨袋の中身→1193sp(総計:2717sp)


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『Goodnight,Boy』(ほしみ様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
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