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『オリストゴールの森』 

(とある秋晴れの日・AM10:23)

「『大いなる日輪亭』の冒険者とは、君か?」

「いかにもー」

 訝しがる男に、チコは薄い胸を張って答える。
 一応宿の親父からの手紙を見せたら、茶と茶菓子を出してくれた。

 チコは、『狩りの業を教えて欲しい』という依頼を受けてここにいる。
 宿の親父から直々に、チコに依頼が舞い込んだのは数日前の事。
 普段世話になっている宿の親父から頼まれたとあっては無碍に断るわけにはいかない。
 それ以前に、狩りの腕を見込まれたとなれば頬も緩むというものだ。

 目の前のカラックという男は、宿の親父の旧友らしい。
 宿の親父は彼に借りがあるのだとかで、宿内で一番の弓の使い手であるチコが選ばれたのだった。

 ここはオリストゴールという名の森だ。
 チコの故郷とはだいぶ違うニオイがするが、どこか居心地が良い。

 オリストゴールの森は古来から、狩人の住処として知られていた。
 近年では多くの狩人が街へ流れてしまい、半ば廃れ気味なのだそうだ。

「それでも、俺の元に弟子入りしたいって奴がいたんだよ」

「学徒が狩人に、っていうのは珍しいね。芳しーの?」

 チコは茶を啜り、興味深そうに訪ねる。
 カラックは狩人だった。
 今、彼の左腕は肘から先が消失している。

 何でも『森の主』に襲われた際に、弟子を庇ってこうなってしまったらしい。
 そこまでして助け、まだ一人前の狩人にしたいというのなら、相当の才能の持ち主なのだろうか。
 そう、チコは予想していた。

「いや。元々勉強ばかりしていたせいか、才能はからきしだ」

 それでも自分を慕ってやって来たのだから、と見放す気にはなれなかったそうだ。
 チコは他人から見放される事の辛さを知っている。
 だからこそ、このカラックという男にはとても好感が持てた。

「報酬はこれといってないが、料理くらいはもてなそう。
 なに、隻腕だろうがちょっと工夫すれば料理くらいはできる」

 元々、報酬は『宿にルナを預ける』という条件だったため、それで承諾する。

 チコはパーティの全員が戻るまで、リューンから離れる気はなかった。
 以前の依頼で傷ついたルナが心配だったからだ。
 そこでチコは宿にルナを任せる事を条件に、今回の依頼を承諾したのだ。

「それじゃ、行ってこよっかな。彼はどこに?」

「ロビンの奴なら、今は裏にいるはずだ。矢をこしらえるように言ってある」

 チコは頷いて、小屋の扉を開け放った。



(とある秋晴れの日・AM10:40)

 なるほどロビンという少年には素質がない。
 それは歩き方からでも分かる、挙動の無用心さが物語っている。
 一般人よりはまだマシだが、恐らくカラックに少しだけ習った結果だろう。

 すでに森へ出ているというのに、これでは危なっかしい。

「いーい? 狩りっていうのは戦争と良く似てるの。
 相手は人間じゃないし、人間よりも臆病ですばしっこい。
 だけど、相手に気付かれずに攻撃すれば有利ってところは同じだよ」

「はぁ……」

「ただし、戦争と違って相手が必ずいるとは限らない。
 相手はこちらから見つけるものであって、向こうに見つけられては元も子もないの。
 だから気配を消す必要がある、分かる?」

「ど、どうにか」

 ロビンは元々学徒らしい。
 だからチコは狩人の基礎を、まず頭に叩き込ませようとしているのだ。

 狩人とは経験の上に成り立つものである。
 知識は準備の段階までで、一度狩りに出てからは経験がものをいう。
 チコの技術も、全て経験から成り立っている。

「よっし、それじゃーいってみよー。
 最初は私が先頭を歩くから、獲物を見つけたら合図するね」

 チコは狭い獣道へ足を踏み入れた。



(とある秋晴れの日・AM11:34)

「よーく狙って……」

「はい」

 チコが見つけたのは、鹿の群れだ。
 大人しく草を食んでおり、距離もそう遠くない。
 絶好の獲物である。

「狙う場所は分かる?」

「頭、ですか?」

「……なるべくなら一矢で命を奪えればいいけど、頭は止めたほうが良いよ。
 ほとんどの生物に通用する事だけど、頭っていうのはとても小さくて狙いにくいものなの。
 一撃で絶命させる実力がないのなら、腿の辺りを狙うのがベストね」

 腿を射れば、素早く動く事はできなくなる。
 狩猟とは獲物を捕獲する事が目標である。
 考えなしに矢を射ても、無益に動物を傷つけてしまうだけだ。

 ヒュン! という風切り音がして、視界の奥で鹿の群れが慌てて散っていく。

「め、命中しましたよ!」

 見れば、一頭だけ倒れている牡鹿がいる。
 矢が刺さった場所は、脚だった。
 恐らく腿を狙ったのだろうが、狙いが外れたらしい。

 鹿の脚は細い。
 今回ロビンが射抜いたのは偶然だろう。

「まだよ。今度こそ命を奪うの」

 チコは興奮するロビンを嗜めるように言い放つ。
 牡鹿に限らず、生き物が苦しむ姿は見るに耐えない。
 『命を奪う者』としての義務は、果たすべきなのだ。

「見てて」

 チコは自前の弓を構え、矢を番える。
 狙いを定める時間は一瞬だけ、気がつけば牡鹿の首には矢が突き立っている。
 足をジタバタさせていた牡鹿も、やがて身体を固くして動かなくなった。

「ロビン君は射方は悪くないんだけど、どうにも狙いがずれてるみたいね。
 たぶん、弓か矢のどちらかが歪んでるんだと思う。
 このままじゃ変な癖がつくかもしれないから、調整のためにも一度小屋に戻ろうか」

 そこで言葉を切って、ちらりと倒れた牡鹿を見る。

「そろそろお昼だしね」

 獲物は早めに血抜きしなければ肉の味が落ちてしまう。
 その様子は都会に住んでいてはなかなかお目にかかれない程度にショッキングなものだろう。
 チコは手馴れたものだが、どうもこのロビンという少年にはきついかもしれない。

(ま、がんばってねー)

 と、口には出さずに適当に応援してみるチコだった。



(とある風の強い日・PM01:14)

 今日は風が強く、ロビンの狩りも芳しくない。
 だが、それを理由に狩りに出なければいつまでも成長しない。
 どうにか風を読む方法を教え、そろそろ精度も上がってきた頃だった。

「あいつは……!」

 見れば、視線の先には巨大な熊が何かを貪っていた。
 体長はチコの二倍はあろうかというバケモノっぷりだ。

(見れば見るほど立派な熊ね。たぶん、アレがカラックさんの言ってた、この森の主かな)

 そんな事をチコが考えていると、突然ロビンは矢を番えだした。
 それを、慌てて止める。

「ちょっと、何してるの!?」

「殺すんですよ! あいつはカラックさんの腕を噛み千切った仇です!」

 ロビンの眼は、激しい憎悪に彩られていた。
 今まで幾度と無く獲物を狩ってきた方法だ。
 今回も、今まで通りに事が運ぶと思っているのか。

「バカ、気付かれない内に退くよ。アレには手を出ちゃダメ」

 諭すような口調で、チコは言う。
 当然、ロビンは納得いかない。

「そうか、チコさんは奴が怖いんですね? 先輩といってもやっぱり小さい女の子ですからね!」

 恐らく、彼だけでは熊を倒す事はできないと分かっているはずだ。
 仇を前に退けず、協力者の前に進めない。
 こうしたやり場の無い怒りが、矛先をチコに向けたのだろう。

「どう思ってくれても構わないけど、手を出す事だけは許さないよ。
 もし私の忠告も無視して、決死の覚悟で熊と戦うって言うのなら――」

 チコは腰の弓を構えた。
 

「――私が君を殺すよ」

「な、何故……!」

「のんびり説明している時間なんてない。
 五つ数える内に決めて。
 五……四……三……」

 カウントダウンするたびに、キリキリと弦が音を立てる。
 その様子に肝を冷やしたロビンは、慌てて弓を収めた。



(とある風の強い日・PM01:57)

「何だって、主に会った!?」

「うん、結構深くまで行ってみたの」

 カラックの元へ戻ったチコは、開口一番そう伝えた。
 飄々と語るチコの背後には、複雑な表情を浮かべるロビンがいる。

「まだ、納得してないんだ?」

「当たり前です。どうしてあんな事を……」

 はぁ、とため息をついてチコは椅子に腰掛ける。

「君さ、森の中で私を臆病者呼ばわりしたけど、別に私は熊なんて怖くないの。
 私が世界で一番怖いって思っているのはね――」

 ここで、チコの表情が消失した。
 後に表れたのは、憂いの表情だ。

「――人間だよ」

「……?」

「人間は数が多いし、他の動物よりも強いし、知恵もあるし、何より余裕がある。
 だから生きていく中で欲が出る、快楽を求めようとする。
 自分のためなら他の生物を省みる事もなくなる。

 そして、身勝手な欲望で人間や自然を殺し始める」

 チコはとある依頼で魔術師に命を狙われた。
 一手遅ければ、他の仲間も殺されてしまっただろう。
 あの時を思い出すたびに、人間が恐ろしくなる。

「それが……、関係があるんですか?」

「あるよ。私も、

 ロビンはますます訳が分からない、といった表情をする。
 対して、チコは憂いの表情を強くしている。
 知る者が見れば、かつて『大いなる日輪亭』で見せたあの表情だと分かっただろう。

「とにかく、私はこれ以上この森に関わる事はできない。
 君も森の最奥に行けるくらいは成長した事だし、私はそろそろリューンへ戻るよ。

 いいでしょ、カラックさん?」

「あんたが認めるのなら、構わんぞ。後はこちらで知識の類を叩き込むとするさ」

 カラックは割と簡単に終了を認めた。
 第三者の立場から見ても、ロビンは充分に成長しているだろう。
 依頼内容を考えると、充分に条件は満たしている。
 もうすぐ雪の降る季節である事も後押ししたのかもしれない。 

「早速、明日にでも出発するね。
 んじゃ私は今から挨拶回りしてくるから」

 そう言ってウインクすると、チコは外へ出た。



(とある曇りの日・AM00:12)

 チコは用意されていた部屋で横臥している。
 眠れない。
 昼間のあの問答が、スッキリしないままなのだ。

「はぁ……」

 少し大人気なかったかな、と呟いてみる。
 実年齢はチコよりもロビンの方がいくつか上なのだろうが、人生経験ではチコの方が上回っている。
 恐らく、人生経験だけならチコはルナよりも大人だろう。

(いい加減、受け止められると思ってたのになー)

 眼を閉じれば今でも、あの光景が蘇る。
 村が、そこら中が桶をひっくり返したように真っ赤に染まった光景。
 所々にアクセントのように臓物が飛び散り、手足が転がっている。

 中央の広場には、通常では有り得ないほどの巨大な羆が横たわっている。
 その回りには、ある程度原型を留めた人間の死体が文字通り散らかされていた。

 これら全てが、当時一〇歳にも満たないチコが引き起こした惨事の結末である。

 きっかけはほんの些細な事だった。
 チコはただ認めて欲しかった。
 『自分は優秀』な狩人だと、幼くても一人前なのだと。

 だから、村を囲う森で一番の獲物を狩る事にした。
 チコの二~三倍はあろうかという羆の首に狙いをつけ、矢を番い引き絞り……放ってしまった。
 結果は前述の通り、ただいたずらに羆を激昂させただけである。

 幸いチコは逃げる際に足を滑らせて滝壷へ落下、羆の追撃を振り切る事が出来た。
 その後、どうにか村へ戻ったチコは一面の赤色を脳裏に刻み付ける事になる。

「………………」

 ギチリ、と歯を食いしばる音が、月明かりも入らない真っ暗闇に響く。
 後悔という言葉では生温い。
 自分なんて生まれてこなければ良かった、という後悔に似た絶望。

 それでも、生きなければならなかった。
 村中の人間の命を奪っておいて、自分だけが責任を逃れるように命を絶ってはいけない。
 のうのうと、恥を撒き散らすように、どこまでも醜く生きて罪を背負い続ける事が、チコに出来る唯一の贖罪だった。

 こんな贖罪のための人生なんて、誰かに押し付けてはいけない。
 こちらへ道を踏み外そうとするのなら、教えてあげなければならない。
 望んでその道を選ぶのなら、殺してあげなければならない。

 個人のわがままが村を滅ぼしたように、大切な仲間を傷つけるかもしれないから。
 他人がどうなろうが知った事ではないが、チコはこれ以上失いたくなかった。
 大事な居場所を守るためなら、人を殺す事だって迷わない、躊躇う事などあってはならない。

(コヨーテ、ルナ、バリー、ミリア、レンツォ……)

 彼らは、チコの真っ黒な内面を知らないだろう。
 もし何かの拍子でこれが露見したら、彼らはどういう反応をするだろうか。

(……寝よう)

 答えの出ない疑問なんて、考えるだけ無駄だ。
 明日には出発するわけだし、数日後には再び彼らに会えるだろう。

 ゆっくりと眠りに落ちてゆくチコの脳裏に、彼ら一人ひとりの笑顔が浮かんだ。
 その時、なんとなくチコは思った。
 チコの心の奥底に潜む真っ黒な部分を、彼らは否定しないんだろうな、と。

(むしろ喜んで受け入れて、一緒に『痛み』を背負うくらいはやってのけそうだねー……)

 勿論、全てはチコの妄想だ。
 本当に受け入れてくれるかは分からない。
 つまり、彼らはそういう幻想を見せてくれるほどに、チコの中で大きい存在になっているという事だ。

(……寝よう)

 もう一度、今度は固い意志を持って眠りに臨む。
 さっきと違うのは、思考からの逃避ではなく、

(早くみんなに会いたい、な……)

 まるで誕生日を心待ちにする子供のように、チコは眠りに落ちる。
 その表情には、一切の邪気はなかった。



【あとがき】
今回はSARUOさんの「オリストゴールの森」です。
PCがロビン君を操って成長させる、シミュレーションRPG(?)みたいなCardWirthでは珍しい、一風変わったシステムが印象的なシナリオです。
プレイしていく内に段々ハマってきて、ノーセーブで二時間くらいやってたらうっかりウィンドウを消してしまって涙目になったのは良い思い出です。

オリストゴールの森にはさまざまなキャラクターが登場します。
中でもスーさんが可愛すぎてどうしようもなかったです。クーデレって……いいよね。
出し切れなかったキャラクターが多いので、またいつかリプレイするかもですね。

今回はチコでシリアスです。
元々特徴的な要素を放り込んだキャラクターなので、そういった苦悩は付き物なんですが、これはちょっとやりすぎた気がします。
事件の発端は言うなれば『天才の驕り』なんですが、彼女はあまりにも幼く、純粋だったのが悲劇です。
今のチコはある程度バカやってますが、それは本文の通りに『醜く』生きるため、または過ちを繰り返さないように余計な事を考えないようにするための防衛本能だったりします。

書き終えてから、本当にやりすぎたと反省しています。
絶対に救われない人生歩んでるんですよね。ごめん、チコ。

ちなみにリューン組の銀貨はチコとルナで折半しました。
つまり一人五五〇枚ずつです。
今回、あんまりノーリスクで稼ぎすぎるのもどうかと思ったので、プラス一〇〇〇枚になったところで止めました。
まぁ、チコの生活力が凄まじい、という面では悪くはないのですが。

これ書いてる途中で色々ごたごたしてたら、どうにもモチベーションが維持できなくなりました。
仕方ないので他の事をやってたらアラ不思議、気がつけば二週間経ってる!?
久しぶりに執筆再開して、どうにか形にまでなったんですが、前半部分にこんな覚書が。
『モイラさんとの会話、○○ネタも交えて』
恐らくごたごたが起こる前はモイラさんとの会話とか滅茶苦茶書きたかったんだろうなと思います。

やっぱりモチベの維持って大事ですねぇ。


☆今回の功労者☆
チコ……というよりロビン君かな。ごっつぁんです。

報酬:
なし

戦利品:
牡鹿の角×5→クルダットへ売却:250sp
筆銀の羽×3→クルダットへ売却:300sp
ラビの耳×1→クルダットへ売却:400sp
赤い実×9→モイラへ売却:90sp
青い実×2→モイラへ売却:20sp
木の実×10→モイラへ売却:100sp
※総計:1160sp
燻製肉×7
モイラの秘薬×2
闇の砂時計
鉄鉱石×5

銀貨袋の中身→1710sp(総計:3877sp)


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『オリストゴールの森』(SARUO様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。


○以下、前回の記事(『Goodnight,Boy』)の拍手レスです。
(名前アリのコメントでも、一応名前は伏せさせていただいています)



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周摩

Author:周摩
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