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『ささやかな宝』(2/2) 

「……うん、これにするよ。サイズも悪くない」

 どうやら決まったみたいだ。
 ふとルナが視線をコヨーテに移すと、そこには以前と同じような黒ずくめの彼がいた。

「あらら、結局黒ずくめなんですか」

「色々あるのさ。オレとしては黒ずくめの方がやりやすいから」

「……レンツォみたいな事を言いますね」

「まぁ、似たようなものだ」

 盗賊の中でも暗殺者に分類される者たちは、暗闇からの奇襲では黒い服装を好む。
 光がなければ黒い服装は視認しにくいからだ。
 レンツォは暗殺が得意ではないが、暗闇に溶ける事で生存確率を上げられれば僥倖、だとか言っていたのだ。

「それはそうとルナ、ちょっとこっちへ」

「? 何です?」

「座ってくれ」

 言われるがままに、ルナは椅子に腰掛けた。

「はいはーい、それじゃ失礼しまーす」

「えっ? えっ?」

 唐突に髪を櫛で梳かされていく。
 背後に居るのは声からしてアンジュだ。

 ルナは髪を弄られるのは案外苦手である。
 それでも抵抗せずになされるがままなのは、アンジュの手捌きが思いの他上手かった為だろう。

「はい、はい、はいっと、……出来た!」

 アンジュはしばらく髪を弄くった後、ルナの後ろ髪を前に垂らした。
 そして、とても良い笑顔で鏡をルナの眼前に差し出す。

「わぁー……!」

 そこでは、真っ白なリボンで一つ結びにされたルナの後ろ髪が、淑やかに存在を主張していた。
 リボンはただ白いだけでなく絶妙なフリフリ具合を持ち合わせており、少女のような無邪気さも垣間見える。

「気に入った? 可愛いでしょ?」

「か、可愛いです! 私には勿体無いくらい!」

 リボンの印象はかなり控えめである。
 聖職者として節度を守るべきだと常々主張するルナでも、この控えめな可愛らしさには敵わない。

「いやいやルナも可愛いって!
 リボンと相乗効果で何倍も可愛いよ、コヨーテもそう思うでしょ!?」

「あぁ、そうだな。

「ッ……!!」

 同じ『可愛い』という言葉でも、同姓と異性では大きく印象が違う。
 恐らくコヨーテも何気ない一言のつもりだったのだろうが、ルナにとっては恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちがせめぎ合い、何だか複雑な気分になっている。

「しっかしコヨーテの目利きも馬鹿にできないのね。
 とても黒ずくめの格好してる人とは思えないわよ」

「放っておいてくれ。
 ルナには白が似合うと前々から思っていたんだ」

 どうも彼らの口ぶりからすると、このリボンを選んだのはコヨーテのようだ。
 それが何だか妙に嬉しくて、咄嗟に彼らから顔を背けてしまった。
 見なくても顔が真っ赤になっているのが分かるし、口元がニヤけて戻らないのも分かる。

「ッッ~~~~~~~~~~~~!!!」

 たまらず、ルナは両手で顔を押さえて店を飛び出してしまった。
 このだらしない顔を、コヨーテにだけは見られたくなかった。

 背後でコヨーテがルナの名を呼ぶのが聞こえたが、立ち止まる訳にもいかない。
 こんな顔を見られたら、それこそ恥ずかしくて生きていけない。



「ルナ!? ……どうしたっていうんだ?」

 コヨーテはルナが駆けていった扉の方へ目を向け、唖然としていた。

「悪いアンジュ、代金はここに置いておくから!」

「ちょっと待ってコヨーテ」

 追いかけようとしているのか、コヨーテは銀貨袋を半ば叩きつける様にテーブルに置く。
 だが、ここで彼にがむしゃらに追いかけられてもルナが可哀想だ。

「えっとね、ルナが走っていっちゃったのは、きっと誰も悪くないの。
 彼女にも色々事情があって、今は少しだけ混乱してるだけなんだと思う。

 だからね、ほんの少しだけでいいから、ゆっくりと追いかけてあげて。
 彼女に考えを整理する時間を作ってあげて」

「……? 分かった」

 口ではそう言っていても、恐らく分かっていない。
 やはりコヨーテも『彼』と同じく、女性の気持ちに無頓着なのだろう。
 そういう性格が、どれだけ女性を悩ませているかも知らずに。

「じゃあ、また今度ね。ルナにもよろしく」

 コヨーテは頷きで返すと、自分の荷物を持って店を出た。
 走り去っていくコヨーテを目で追い、やがて見えなくなってから、ようやくアンジュは溜め息をついた。

(……しかし、勝手に応援しちゃったけど、そういう仲なのよね?)

 アンジュの目には、コヨーテの好意はルナに向いているように見えた。
 ルナにリボンをプレゼントしたいと言い出したのもコヨーテだし、彼の外套をルナが着ていた事も、そういった親しい仲だからだと思ったのだ。

 何だかルナも満更ではないような感じだったし、同じ境遇の友達として応援したかったのも事実。
 ついつい張り切ってしまったのもそういう理由からだ。

(よく考えたら、コヨーテって恋愛事には疎そうだし……
 そもそも、店に入ってきた時も買い物袋を持ってたし。
 まさかデートとかじゃなくて、普通の買い物としてここにきたのかしら?)

 そうだとしたら、とんでもない朴念仁だ。
 もしルナが少しでも彼に好意を向けているのなら、それこそ可哀想すぎる。

「ハッ、よく考えたらルナってばどう見ても冒険者の服装じゃなかった!
 という事は……という事はッ! アレは勝負服ッ……!?

 コ、コヨーテってば! コヨーテってばァァァ!!」



 ルナはようやく足を止めた。
 気持ちの整理が付いた訳ではなく、単純に息切れしたからだ。
 ぜぇぜぇと肩で息をしながら、ルナはそれでも歩き続ける。

『可愛いと思うよ』

 なんて勿体無い言葉だ、とルナは思う。
 そんな台詞は彼が好意を向ける相手に、それこそ愛を囁く場面で使ってくれればいいのに。

(愛を、囁く……?)

 もし彼がそのつもりだったのなら。
 一瞬だけそんな考えが浮かび、ルナは再び顔を真っ赤にして首をぶんぶんと横に振った。

 彼は何気ない一言のつもりだったはずだ。
 そうでなければ、困る。

(……困る? 何に?)

 自分が聖職者だから。

(だから、好意を向けられるのはダメ?)

 そんな事はないはずだ。
 聖職者といえども人とお付き合いは出来るし、結婚だって出来る。
 そもそも、誰かが誰かを好きになるという気持ちは、誰かが制限していいものじゃない。

(仲間、だから?)

 それも、どこか違う気がする。
 聞いた話によれば、宿の親父さんは現役冒険者だった頃、パーティ内での恋愛の末に結婚したらしい。

(私は、コヨーテの事を嫌っているの?)

 そんな訳がない。
 でも、だったら、何故。

 答えが出ない。 

「ルナ」

「きゃあ!?」

 思索しているところに不意に声を掛けられて、思わず叫んでしまった。

「だ、大丈夫か?」

 声の主は、両手を荷物で一杯にしたコヨーテだ。
 ルナとは違い、ほとんど息を切らした様子はない。

「え、えぇ。大声出してすみません……」

 言いつつ、ルナは視線を逸らす。
 さっきまで考えていた内容が内容なだけに、視線を合わせ辛い。

「……何か、悩みがあるのか?」

「悩み、ですか?」

「今日のルナはは何だかぽーっとしてる事が多いしさ。
 さっきの行動だって、ちょっとヘンだったし……
 もし、何か悩んでいる事があるのなら、相談に乗るぞ」

「え、えーっとですね……」

 まさか、本人の前でさっきの悩みを相談する訳にもいかない。
 いくら世情に疎くて恋愛経験皆無なルナでも、それくらいは分かる。

?」

「はい?」

「朝も熱があったし、もしかして悪化したのか!?
 まずいな、タチの悪い風邪じゃなけりゃいいんだが……!」

「………………」

 本気で風邪の心配をしているコヨーテを見ていると、何だか変な感じだ。
 何かこう、さっきまであれだけ悩んでいた自分が、物凄く滑稽に思える。

「……ぷふーっ!」

 遂に吹き出してしまった。
 いきなり笑い出したものだから、コヨーテも唖然としている。

「あははははっ!
 だから、風邪じゃないって言ってるじゃないですか、やだなーもう!」

「ん? じゃあ何か悩みが?」

「ぷぷぷ……悩んでなんかありませんよ。
 あ、そうだ、アレの理由が知りたいです。
 どうして私には白が似合うんですか?」

 とにかく元気を取り戻した事に安堵したのか、コヨーテも微笑を湛えて、

「ルナって、オレとは正反対に真っ白だから」

「ぷふふふふ……た、単純……!」

「くっ、悪かったな。単純な理由で」

 拗ねたのか、コヨーテは足早に歩を進めた。
 さすがに悪かったと反省しつつ、ルナは慌ててコヨーテの後を追う。
 と、そこでようやく思考に余裕が生まれたのか、忘れていた大事な事を思い出した。

「あああああ、しまった!
 リボンつけたまま出てきちゃった!
 か、返してこないと!」

「もう代金は支払ってあるから、大丈夫だよ」

「す、すみません……宿に戻ったらお返ししますので……」

「いいよ、別に」

「そういう訳には……!」

「それはオレが買ったものだから、ルナの好きにしていい。
 気に入ったのなら使ってくれると、オレとしても嬉しい」

 そこまで言われては、ルナも折れるしかなかった。
 生涯で初めて、家族以外の人間から貰ったプレゼント。
 嬉しくないはずがない。

 一番のお気に入りのアクセサリーになる事は間違いなかった。



「チコ、これは美味いよ。
 でもやっぱりそっちの狗肉は僕の舌には合わないよ」

「えー、レンツォの味音痴ー」

「……でもまぁ、確かにクセが強すぎるわね。
 香草で上手に誤魔化してるみたいだけど」

「うぇーミリアまでそんな事言うー!?」

「まァ、保存食の味にとやかく言うのはナンセンスな気もするがな」

 二人が宿に戻ると、何だか懐かしい顔が、懐かしいいつものテーブルを占領して食事していた。
 よく見ると、テーブルの上には大量の瓶が置かれている。
 どうやら宿の料理ではなさそうだ。

「みんな、帰ってきたのか」

「おう、久しぶりだな」

「あー、コヨーテとルナだ。
 ただいまーそしておかえりー」

「やぁ、元気してた?」

「コヨーテも戻ってたのね。ルナ、もう動いて平気なの?」

「ええ、もうバッチリですよ!」

「そーだ、二人も味見してみる?
 チコ特製の保存食、獣肉の香草漬け。
 今回のは特に自信作だよー!」

 いつものテーブルに、いつものメンバー。
 たった三〇日しか離れていなかったのに、この瞬間がとても愛おしく感じる。

「全員揃ったか」

 カウンターの向こうから、親父さんが顔を出す。
 その表情には喜びと、これからの展開に対する期待が込められている。

 それを察したコヨーテが、にんまりと笑みを作って、

「あぁ、『月歌を紡ぐ者たち』の再結集だ!」

「そりゃめでたい!
 めでたい時は何をする!?」

 親父が何を言わんとしているのか察したバリーが、

「美味い酒と美味い料理を、思う存分かっ喰らうに決まってんだろ!」

「はん、酒と料理つってもウチのメニューは多彩が売りだ!
 何をかっ喰らいたいか、言ってみな!」

 ここで、全員が察したらしい。
 『月歌を紡ぐ者たち』、全員が声を一つにして、

「「「「「「『』!!!」」」」」」

「よし来た!
 待ってなテメェら!
 最高の酒と最高の料理を食わしてやる!!」

 親父の言葉を引き金に、一階で飲み食いしていた他の客まで沸き立つ。
 これは、『大いなる日輪亭』では良く見るやりとりだ。
 慶事があれば、こうやって酒場全体で盛り上がるのが常となっている。

「何だ何だお前ら、戻ってきてやがったのか!」

「あー、コヨーテさんお久しぶりです!」

「よっしゃあ、今宵は飲み明かそうぜ!」

 基本的に、冒険者というのはお祭り好きの集まりである。
 何だか分からないイベントでも、酒と料理を楽しく飲み食いできればそれで良いのだ。

 娘さんがにっこり笑顔で、人数分のエールを持ってくる。
 ルナには、本人の希望で葡萄酒だ。

 コヨーテはエールを持つ手を高々と掲げ、宴の始まりを告げる。

「『月歌を紡ぐ者たち』の帰還を祝して――乾杯!!」



 余談ではあるが、宴の最中にこういうやりとりがあった。

「あれー、どしたのそのリボン」

「これですか。ちょっとした気分転換ですよ」

「似合ってるじゃん。可愛いよールナ」

「ふふ、ありがとうございます」

 また、別のテーブルでは、

「あら、いつものあの書物はどうしたの?」

「あれか。ありゃあ売っ払っちまった」

「えええ!? あれって大事なものじゃなかったの!?」

「いいンだよ。大事なのは書物じゃねぇ、中身だからな」

 それまた、別のテーブルでは、

「でね、その少年の正体は……!」

「本物の犬だった、って落ちか?」

「うおおおおい! 先んじて言わないでよぉぉぉぉ!!」

「う、悪い。なんとなく予想できてしまったから……」

「くぅ、悪気ゼロなのが逆にムカつくっ……!」

 そうしたやりとりは宴の熱気に押されて、やがて全体と混ざり合う。
 彼らの宴は始まったばかり。
 コヨーテの服が新しくなっただの、ルナがオシャレに目覚めただの、バリーが新しい術式を習得しただの、チコが指導した若狩人の話だの、レンツォが面白おかしく語る珍道中だの、ミリアが遭遇した犬耳少年がとても可愛かった話だの、積もる話はたくさんある。

 今宵は眠れぬ夜になりそうだ。


【あとがき】
今回はY2つさんの「ささやかな宝」です。
……なのですが、前半と後半はオリジナルになってしまいました。
店シナリオだとこうなっちゃうから、目次にあるように制限しているわけですよ。
本当はもうちょっとアンジュさんとおしゃべりさせたかったり。

「ささやかな宝」は初回プレイ時に500sp分の割引券がもらえるのが嬉しいですね。
リードミー曰く『マイ配布アイテムの補完』の意味合いが強いらしく、個性的な配布アイテムが豊富です。
魔術師や僧侶が使うものから、戦士や精霊術師、踊り子までカバーされています。
そんな配布アイテムを、割引券で無料または半額程度で購入できるのは、駆け出し貧乏パーティには嬉しいところ。

ルナが白いリボンなら、コヨーテは黒いリボンにしよう、とか思ってたんですが残念ながら却下に。
戦士のコヨーテにとって行動の範囲を一つ減らすのは結構死活問題だったりしますので。
というかソロプレイシナリオの主人公を張る事が多いので、自然と行動のし易さが重要視されるんです。

今回はルナのフラグ立てるだけにしておこうと思ったら、想像以上に長くなってしまいました。
やりたい事を全てつぎ込んだ結果がコレです。絶対コレ悪い例ですよ。
ちなみに、ルナの好意がコヨーテに向いているのは事実でも、それが恋愛感情かと問われればノーです。
これからの展開次第ですね。

今回地味にコヨーテとルナの年齢明かしています。
十七歳ってかなり微妙な年齢だと思います。
十六歳はまだ子供、十八歳ならもう大人、じゃあ十七歳はというと?
そのまんま大人と子供の中間、言うなれば子供が大人になる年齢というところでしょうか。

コヨーテが自分の格好に無頓着なのは、ひとえに吸血鬼であるからです。
以前、本編で書いていたように、吸血鬼は鏡に映らない=ファッションは気にしないという訳です。
半吸血鬼は、鏡には半透明にしか映りません。

さて、次回からようやくパーティでの冒険の再開です。
地味ーにアイテムの売却やら金券の清算やらやってます。
そしたら出発前より銀貨増えてますね(笑)

それと、使用キャラクターの著作権表記を改めて行う事にしました。
以前のものはあまりに足りなさ過ぎると感じていまして、今更ながらの追加です。
前回までの記事にも、引用したキャラクターが登場した話の全てに追記しています。

パーティ再結集・次回からレベル3の冒険という事で一つの区切りとし、ブログのテンプレートを変更しました。
ついでに目次もちょびっと編集してます。

※11/11追記※
あまりにも投稿を焦りすぎた結果、分割が必要な長さになっていたにもかかわらず、そのまま投稿してしまいました。
今回、改めて記事を分割編集したものを投稿しております。
ご迷惑をおかけしました。


☆今回の功労者☆
なし(冒険シナリオはやっていないので)

購入:
【祈りのクロス】(【値引きの証】と交換した扱い)→ルナ
【白いリボン】-500sp→ルナ

売却:
くま(犬の恩返し)→+50sp
100sp券(犬の恩返し)×2→+200sp
宝玉(キーワードを解け!?)→+300sp

銀貨袋の中身→4527sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『ささやかな宝』(Y2つ様)

今回使用させて頂いたキャラクター
『アンジュ』(出典:『甘い香り』 作者:楓様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
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