≪ 2017 05   - - - - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 -  2017 07 ≫
*admin*entry*file*plugin

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


『石の棺』(1/2) 

 『月歌を紡ぐ者たち』は再結集してから数日間、リューンを中心とした細々とした仕事を選んだ。
 薬草の採取だの、荷物の配達だの、確実に信用を得る為には欠かせない仕事だ。
 ここ三〇日の不在は、少なからず『月歌を紡ぐ者たち』の信用を落としているはずである。
 落ちた信用は少しでも回復する必要がある。

 更に数日が経過したある日。
 朝から依頼をチェックしていたレンツォが、一枚の貼り紙に目をつけた。
 どうやらヨークという田舎村で、蝙蝠による家畜への被害が出ているらしい。

「蝙蝠退治か。報酬はちょっと控えめだが、そこそこ釣り合うんじゃない?」

「どうでしょうね?
 私は家畜を襲うってところが気になりますけど。
 凶暴なタイプの蝙蝠だとしたら厄介じゃないですか?」

「家畜を襲うってのは眉唾モンだがな。
 蝙蝠の肉食・血液食は相当珍しいんだぜ、大半は虫を喰って生きてんだからよ。
 まぁあれだ、多少の誇張表現ってトコじゃねぇの?
 実際には家畜に纏わり付いてた虫を食ってた蝙蝠を見た村人が勘違いした、とかな」

「えー、なにそれ。いいのそんなんで?」

「多少の誇張は『表現の食い違い』って事になるのさ。
 誇張の真偽はともかく、村人の目にはそう映ったと言い張られたらそれまでだからね。
 でも、それなら特に危険はないって事でいいんじゃない?」

「そう上手くはいかないわよ。
 活動範囲が狭いから案外知られていないけど、蝙蝠も伝染病の媒体になる動物なのよ。
 もし本当に家畜を襲う肉食・吸血食の蝙蝠なら、余計に危険性も高まるわ」

「その可能性は低いだろうな。
 蝙蝠が伝染病の媒介になるという情報が知られていないのは、その存在がごく稀である証拠だ。
 それに依頼の内容からして、オレたちは蝙蝠の巣を叩くだけだろうし、対処法はいくらでもある」

「そーだねー。
 蝙蝠に触らなくても煙で燻したり、遠距離から打ち落として焼いちゃえば良さそうだし」

「ハン、それならむしろ好都合だぜ。
 俺もこの三〇日間、ただ遊んでた訳じゃねぇからな。
 奇しくも蝙蝠を追っ払う程度なら、最適の術式を習得したところだ」

「ん、だったら決まりか。
 他に意見のある者はいないか?」

 見回してみるが、否定的な意見はなさそうだ。
 コヨーテらは宿の親父に依頼を請ける旨を告げ、早速準備に取り掛かった。



 ヨーク村に着いた一行は早速村長宅へ向かい、話を聞いた。
 蝙蝠は元々村外れの洞窟を住処にしており、家畜が襲われるようになったのは一〇日前からとの事だ。
 依頼の内容はいたってシンプルであり、蝙蝠を洞窟から追い払えばいいらしい。

「まだ昼前だし、情報の収集から始めようよ」

 村長宅を出るなり、レンツォが口を開く。
 戦闘場所になる洞窟内部の情報が得られなかった事に不満があるらしい。

「それには同感だ。
 情報ってのはいくらあっても困る事はないからな。
 しっかし一軒ずつ村人を訪ねるってのも面倒な話だよなぁ」

「それなら、村人が集まる場所に行けば良いじゃないですか」

「ンな場所があんのか?」

「ありますよ。……、というか見てなかったんですか?」

 呆れたように、ルナは村で最も目立つ建物を指す。

!」

 ルナによれば、この村には敬虔な聖北教徒が多いらしい。
 偶然にも今日は日曜日だ。
 村人のほとんどが教会に祈りに出ているのだろう。

「うーん、こんな小さな村には勿体無いくらい立派な教会だなぁ」

「失礼ですよ、レンツォ」

 ルナはレンツォの軽口を窘めつつ、教会の扉を開けた。

「おや、冒険者の方々ですか。何か御用ですかな?」

「お初にお目に掛かります、神父様。
 私たちはリューンの冒険者『月歌を紡ぐ者たち』です。
 この度は件の蝙蝠退治の依頼を請けてやってまいりました」

「おお、あなた方が……!
 遠路遥々よく来てくださいました。
 この村の住人は皆、蝙蝠たちに悩まされておりますからな」

 修道服を着たルナが話しかけた事も効果があったのだろう。
 神父は特に警戒する事なく、すんなりと話を聞いてくれた。

「……つまりこの村で洞窟に入った人間はいない、と?」

「そう言う事になりますな。
 この村には『とある伝承』が残されておりまして、それの影響で村人はおろか子供でさえも洞窟へ入ろうと考える者はおりません」

 憮然とした様子のレンツォに対し、神父はやや困ったような表情で答えた。
 こういった情報のない場所の探索では、レンツォが重荷を背負う事になるのだ。
 それを感じ、レンツォはがっくりと肩を落とす。

「それで神父様、その伝承とは?」

 神父ははっきりとした確証はないのですが、と前置きして、

「言い伝えによりますと、その棺には吸血鬼が封印されているらしいのです」

「吸血鬼だと?」

 不穏な単語に反応したのはコヨーテである。
 彼自身が半分吸血鬼の血を持つため、こういった言葉には鋭敏なのだ。

「ただし、旧い文献に記されたのみの情報ですがね。
 私も実際に棺の存在をこの目で確認した訳ではありませんからな」

 聞けば聞く程、胡散臭い話である。
 そもそも棺があるのかどうかすらも怪しいのでは、信憑性はかなり低いだろう。

「もし洞窟に『石の棺』がありましたのなら、触れないで頂きたい……」

「分かってる。オレたちも無駄な危険は犯したくないからな」

 信憑性は低い、だがそれだけでは説明できない事もある。
 例えば、村人の誰もが避けるという洞窟。
 洞窟の中には蝙蝠が住み着いているのだから、多少は納得できる。

 だが、たったそれだけの要素では弱い。
 特に好奇心旺盛な子供なら、そういった危険を分からずに洞窟に入ってしまう事もあるだろう。
 それを止められるのは、断固とした親の躾しかない。

 もしかしたら、本当に吸血鬼が存在するのだろうか。



 洞窟の中は、当然ながら暗い。
 よって先頭を歩くコヨーテと、殿を歩くルナがそれぞれ松明を持った。

「暗いなぁ……
 コヨーテ、もうちょっとこっち照らして」

 ブチブチと愚痴っているのはレンツォである。

「はいはい愚痴らないの。
 大体、この洞窟って天然モノでしょ?
 誰もここには立ち入らないんだから、罠なんて無いでしょうに」

「万が一の可能性を潰すのが僕の役目なのさ」

 現に、洞窟の入り口には立ち入りを禁止する立て札のみしかなかった。
 あれでは村の外から流れてきた誰かがここに住み着いていてもおかしくない。

「レンツォ、動かないでねー?」

「ん? どうしたのチコ――!?」

 ひゅん! という風を切る音がしたかと思うと、ぼとりとレンツォの傍へ何かが落ちた。
 見ると、それは矢に貫かれた蝙蝠だ。

「お出ましか……」

 コヨーテは剣を抜いた。
 彼の【夜目】は、以前と比べて格段に良くなっている。
 恐ろしい数の蝙蝠は、キーキーと不快な鳴き声を洞窟に反響させながら、コヨーテたちに襲い掛かってくる。

「丁度良い! お前ら離れてろ!
 《残虐なる焔王のため息よ、欠片も残さず包み込め》――」

 バリーの詠唱が始まった。
 蝙蝠の大群を追い払おうと得物を振り回していた前衛たちが、一斉にその場から飛びのく。
 コヨーテは群れに向けて剣風を浴びせて後退し、ミリアはコヨーテの影に追従するような動きで、レンツォは慌てて地面を転がる。

「――《囲え!》」

 詠唱の完了と共に、バリーは【理知の剣】を横一文字に振るう。
 すると、剣の切っ先から蝋のような白い網が、炎を纏って飛んでいく。
 その網は大群を漏れなく包み込むと、洞窟が昼間のように明るくなる程の火力で蝙蝠を焼いた。

「うわ、すっげ……」

 ギィギィと蝙蝠の断末魔が聞こえ、独特の異臭が洞窟に漂う。
 急な後退要求に体中を泥だらけにしたレンツォは、バリーに文句を言うのも忘れてその光景に見入っていた。

「この【炎網の囲い】の真価は集団戦でこそ発揮される。
 蝙蝠程度ならイチコロ、炎に耐えても半分実体化した網が動きを阻害する。
 ま、足止め効果はそう長く保たねぇのが難点だがな、それでも集団を牽制できる術式ってのは貴重だろ?」

 バリーは父親の遺した術式を掌中に収めた事が嬉しいのか、いつもより饒舌だ。
 軽く辺りを見回してみても、生き物の気配はしない。
 難を逃れた蝙蝠も、先ほどの炎に驚いて逃げてしまったのだろう。

「これで一件落着ですね。何だかあっけない気がしますけど」

 ルナがほっと胸を撫で下ろす。

「待って、何よあれ?」

 ふと、ミリアが何かに気が付いた。
 指差す先に松明を近づけると、大きな石の塊が行き止まりに鎮座している。

「これが例の石棺か……」

 コヨーテの言葉に、全員がはっとした。
 よくよく見れば石の塊は正方形をしていて、角など細部が申し分程度に整えられている。
 この中に吸血鬼が封印されているという話だが、それも納得できてしまう程にその石棺は重厚さを醸し出していた。

「ふむ、棺自体はかなり頑丈に作られてるね。
 作られてから相当年月が経ってるみたいだけど、全然劣化していないし。
 胡散臭い話だったけど……どう思う?」

「まず、あり得ないだろうな。
 吸血鬼を封印するメリットなんざゼロに近い。
 心臓を貫いてしまえばそれで終わりなんだ。
 わざわざ封印を解かれる危険を残す馬鹿はいないだろう」

 レンツォが問い、コヨーテが答えた。
 答えてからも、コヨーテは腑に落ちない何かを感じている。
 合理的でない事柄の裏には、何が隠されているのか。

「……だが、こんな丈夫な棺をこんな誰も通らないような場所に置くのも意味がない。
 つまり『何か』が入ってるんだろうな、この棺には。……、吸血鬼とは言わないが」

「ふぅん……、気になるね。開けてみよっか?」

「だ、ダメですよ!
 神父様も言っておられたように、この中には吸血鬼が封印されているかもしれないんですよ!?」

「それは無いってコヨーテも言ってるだろ?
 大体、盗賊の僕に目の前の箱を無視しろなんて拷問に近いね」

「馬鹿ね、止めておきなさい。
 余計なことはしない方が身のためよ。
 こういう村では余所者は常に疎まれるんだから。

 それにこの依頼はもう終わったわ、村に戻りましょう」

 好奇心で棺を開けようとするレンツォを、ミリアが窘める。
 ルナは少し安心した様子だった。
 本気で開けられたときの事を心配していたらしい。

「馬鹿言ってないで帰るぞ。
 意外と時間を喰ってるみたいだからな、もうすぐ日も暮れるぞ」

 足早に洞窟を引き返すバリーにつられ、皆もそれについていく。



 村へ戻った一行は報酬を貰い、日が暮れかけていたので村長の家で一晩厄介になる事にした。
 数日振りのまともな食事を口にした一行は、旅の疲れもあってすぐ眠りに落ちた。

「皆様! 起きて下され!」

 『月歌を紡ぐ者たち』は朝早くに、村長の狼狽した声で起こされた。

「ダイルが……、村のものが……殺されております!」

 不穏な言葉に、男性陣三人の表情が変わった。
 この声は女性陣の休んでいる部屋にも届いているのだろうか。

「……、すぐに行く。
 バリーはルナたちを連れてきてくれ。レンツォ、オレたちは先に行くぞ」

「了解」

 コヨーテとレンツォは、装備を整えずに外に出た。
 意図的に整えなかった訳ではなく、休む時も装備を解いていないのだ。
 そもそも軽装のコヨーテは剣を取るだけで戦えるし、レンツォは衣服の至る所に刃物や道具を所持している。

 他のメンバーは素早く起きても、最低限の装備を整える必要がある。
 だからこそ、この二人なのだ。

「こちらです」

 村長が誘導した先には人だかりがあり、傍目にも何かあったことが分かる。
 コヨーテは人ごみを掻き分け、村人の死体の傍まで来た。
 すぐにレンツォは死体の調査を始める。

「どうだ、レンツォ」

「……殺されたのは夜の間だね、血が完全に乾いている。
 得物は細い刃物……いや、爪のようなものかな?
 それでズタズタに切り裂かれてる。
 出血が酷いから、死因はそれだろうね」

 レンツォが調査をしていると、不意に人ごみから声が上がった。

「……コイツは『ヨークの吸血鬼』の仕業に違いねぇ!」

「そんな、アレはただの御伽話のはずでしょう!?」

「だったら誰がこんな酷い事をするんじゃ!」

 恐慌状態に陥った村人を村長が宥めようとするが、一向に収まらない。
 かといって、こちらから収集をつけられる立場ではない。

(まずいな……
 オレたちは余所者で、おまけに武器も持っている。
 犯人に祭り上げられなければ良いが……)

 そう、この場で最も怪しいのは余所者のコヨーテたちなのだ。
 今の村人たちは恐慌状態に陥っているためその事実に気付いてはいないが、それも時間の問題だろう。

「皆さん、落ち着いてください。
 まだ『ヨークの吸血鬼』の仕業と決まったわけではありません」

「おお、神父様!」

 そこには神父が立っていた。
 事態を聞いてやってきたのだろう。

「それに、恐れることはありません。
 神の思し召しか、今この村には冒険者の方々がいらっしゃいます。

 彼らは主の使いとして、この村のために現れたのでしょう。
 ですので皆さんは落ち着いて、ご自分の家にお戻りください」

 村人は『神父様がそう仰るのなら』とばらばらと散っていく。
 コヨーテの不安は、神父の機転でどうにか回避できた。



「……皆様方にお頼みしたい事がございます」

 一旦村長の家に戻った一行は、村長にこう切り出された。
 次々と収拾のつかない事態に陥ったため、酷く憔悴している。
 村長の頼みとは、やはり村人の死の解明だった。

「もし本当に『ヨークの吸血鬼』の仕業であるなら、ワシらの力ではどうしようもありません。
 盗賊や妖魔の仕業だとしても、危険であることには変わりませんからな……」

「それは分かっている。
 オレたちとしても、見過ごして帰るつもりはない。

 ……それよりも村長、『ヨークの吸血鬼』について教えてくれ」

「大昔、この地方で暴れまわったとされる怪物の事です。
 お恥ずかしい話ですが、ワシらの世代ではこの程度の事しか分からんのです。

 ヨークの吸血鬼については教会の神父にお聞きくだされ。
 教会に関連する書物が収められておるはずですし、彼の方がより詳しく知っておるはずです」

「村長、報酬は上乗せしてくれるよね?」

「勿論です。追加の報酬はお支払いします」

 レンツォはこういうところが抜け目ない。
 依頼の内容は村人の死の解明、すなわち調査である。

 そもそも吸血鬼が相手では太刀打ちできるはずがない。
 それを理由に依頼を打ち切っても、村の方で専門の機関に頼ればいいだけだ。
 別にコヨーテらの名声に関わる事ではない、それが当たり前なのだから。

 早速教会に向かった一行は神父に協力を仰いだ。
 神父は快く応じ(もっとも、彼が『月歌を紡ぐ者たち』を神の使いに祭り上げたのだが)、『ヨークの吸血鬼』に関連する書物を探して貰う事になった。

「しばらく時間は頂きます。何分、大昔の記述ですからな」

「分かっています。
 その間、私たちで村の周辺を調査する事にします。
 犯人が盗賊や妖魔である可能性も否定できませんからね」

 神父の祈りの言葉を背に、一行は教会を出た。
 まず、彼らは村人の死体のあった中央広場へ向かう。
 手がかりがロクにないので、現場を再び調査するしかないのだが。

 人気は全くなく、遺体も然るべき場所に運ばれたのだろう、地面には血痕だけが残されていた。
 最初に違和感を感じたのはコヨーテだ。

「……、妙だ」

「どうしました?」

「出血が多すぎる」

 地面には乾いた血痕が黒々と残されている。
 だが、ズタズタに引き裂かれた死体を鑑みると、多すぎる事はないかに思われる。

「もし犯人が吸血鬼だったとして、人を襲うのは何の為だ。
 当然『食事』だろう、吸血鬼が快楽殺人者のような嗜好を持ってるなら話は別だがな。

 大体、この場所はあまりに堂々としすぎている。
 こんな目立つ場所で、わざわざ食事以外で人を殺そうとはしないはずだ。
 無意味に人を殺して、隠れて……これじゃ何がしたいのか分からないだろ?

 それに、今になって急に表に出てきた理由も分からない。
 『ヨークの吸血鬼』は大昔に暴れまわったという話だ。
 わざわざ俺たちに見つかるために出てきたわけでもないだろう」

「……確かに。
 コヨーテの言う通りかもしれん。
 これは吸血鬼に見せかけた何者かの仕業かもな……

 だが、一概にそう決め付けるのも良くない。
 一応頭の片隅に留めておこうか」

 バリーらの後ろで地面を注意深く調べていたレンツォが、

「微かにだけど、森の方へ足跡が続いてる。
 辿ってみよう」

 カツン、と靴を鳴らして歩みを始めた。


To Be Continued...  Next→
スポンサーサイト


この記事へのコメント

この記事へコメントする














(△お好みの文字サイズになるまでクリックしてください)

周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

Info.
当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。