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『石の棺』(2/2) 

「こりゃ間違いなく誰かが野営した後だね。
 上手い具合に落ち葉の下に潜り込ませてるようだけど、僕の目は誤魔化せない」

 レンツォが得意げな顔で落ち葉を掻き分けると、そこには土に混じった黒焦げの木片が出てきた。
 ここまでの調査結果をまとめ、バリーが推理する。

「この状況で分かることは二つ。
 一つはここで野営した奴は村の人間じゃないって事。
 村人なら村が目の前にあるのにわざわざ野営はしねぇだろうよ。

 そして足跡が広場に向かっていた事を考えると、今回の事件に何らかの関わりがあると見て良さそうだな」

「犯人が吸血鬼って可能性はほとんどなくなったってトコね」

 チコがほっと胸を撫で下ろす。
 吸血鬼という存在に緊張していたルナも、安心したのか口を開いた。

「そろそろ村に戻りませんか?
 村人でない誰かがこの近くにいて、しかも犯人の可能性があるなら村が危険ですし。
 それに、神父様の書物探しも終わっているかもしれませんよ」

「それもそうね、急いで戻りましょ」

 一行は急いで村に戻ったが、何か異変が起きた様子は無い。
 教会に戻った一行は神父に経過報告を済ますと、早速吸血鬼について聞いた。

「皆様は吸血鬼という種についてどれだけご存知でしょうか?」

「吸血を行う不死の怪物……ですよね」

「棺桶で寝起きすると聞いた事があるぜ」

「霧や狼、あと蝙蝠にも変身できるよねー?」

「日光や流水、十字架が弱点って良く聞くわね」

「吸血鬼に血を吸われた処女・童貞は吸血鬼になるらしいね」

「心臓を銀製の武器で貫けば高確率で消滅させられる」

 各々、自らの知識の中の『吸血鬼』を口にする。
 いくつか間違った知識もあるが、コヨーテは口出ししない。
 あまり訂正するのも変だし、話が逸れるのを避けたのだ。

「そうです、良くご存知ですね。
 『ヨークの吸血鬼』も例に漏れず、血を啜る事で力を蓄えるようです。
 驚異的な不死性を持ち、例え五体をバラバラにしても一日で元通りになったとの記述もありました。

 【亡者退散】や【聖水】など、神聖なる攻撃が効果的ではありますが、それは一時的なもの。
 しばらくすると復活してしまうそうです。

 更に、日の光に晒されても夜になって光がなくなれば元に戻る、とも……」

「馬鹿な! そんな吸血種は聞いた事がないぞ!?」

 思わず、コヨーテは叫んでいた。
 わずかでも日光を浴びた吸血鬼の肌は焼け爛れ、ぐずぐずに融けてしまうのが通常だ。
 それを、夜まで耐えるなんて有り得ない。

 通常、吸血鬼は自らの弱点を覆せない。
 人間が水中で呼吸できないのと同じで、どう努力しても補えないものなのだ。
 『日の下を歩くものデイウォーカー』と呼ばれる吸血鬼も存在するが、彼らはとある術式を用いて光を屈折させているだけで、日光そのものを克服した訳ではない。

 もし、『ヨークの吸血鬼』が本来の意味で太陽を克服したのなら。
 厄介程度で済む相手ではない。

(だからこその封印、か)

 もしかしたら、『ヨークの吸血鬼』は銀をも克服していたのかもしれない。
 封印しただけで放置されているのは、そういった理由もあったのかもしれない。

 だが、それなら吸血鬼とは呼べない。
 吸血鬼を遥かに凌駕した、計り知れない『突然変異体ミュータント』。
 どうやってたおせばいいのか、まったく検討がつかない。

「『ヨークの吸血鬼』が封印されるまでは、それこそ数多くの犠牲が出ました。
 とある賢者様がお作りになられた、吸血鬼を眠ったままの状態にする魔力の込められた指輪。
 これが指にはめられて、ようやく吸血鬼は眠ります」

「ちょっと待って。
 指輪を吸血鬼の指に、ですって?
 どうやったらそんな芸当が出来るのよ!?」

「【蜘蛛の糸】という魔術はご存知でしょう?
 賢者様は数十人の魔術師と協力してようやく吸血鬼の動きを封じ、その隙に指輪をはめたとあります」

「クソッタレ、魔術師何十人で『ようやく』かよ。
 俺の手持ちの術式じゃ時間稼ぎにもなりゃしねぇ」

 バリーは吐き捨てるように呟く。
 彼の習得した【炎網の囲い】は一時的な呪縛効果がある術式だが、あくまで副次的作用である。
 呪縛効果を最大に発揮する【蜘蛛の糸】を大勢の魔術師が一斉に撃っても『ようやく』というのなら絶望的だ。

「……、実はかの賢者様は吸血鬼が復活した時を考え、【蜘蛛の糸】の術式が封じられた杖を残されました。
 これを用いれば、吸血鬼の動きを『一時的』に止める事ができるはずです」

「その杖は、今どこにあるの?」

「杖はこの教会の倉庫に納められているはずです。
 私はそれを探しにすぐに倉庫に向かいます。
 皆さんは洞窟へ行って、棺の調査をお願いします」

「ちょっとちょっと、待ってよ神父さま!
 今から私たちが洞窟へ行って、もし吸血鬼が起き上がってたらどうするの!?」

「チコ、だからこそ今なんだよ。
 まだ日中の今なら、洞窟の外へ逃げれば夜まで時間は稼げる」

 逆に言えば、夜までがタイムリミットだ。
 そこから先はお子様閲覧禁止・R指定のオンパレードだろう。

「……行くぞ、みんな」

 ルナは神父から、『万一のため』と聖水を受け取っていた。

「クソ、これだけ頼りない『万一のための準備』なんて初めてだぜ」

 バリーはそう一人ごちた。
 かといって、洞窟へ向かう事には否定的ではない。
 なぜなら、今までの話は全て過去の話だからだ。

 今、この時代に『ヨークの吸血鬼』が復活している可能性は限りなく低い。
 野営の跡があった事を考えると、夜盗が犯人である線が高いはずなのだ。



 例の洞窟の調査を行っていたレンツォらは、最悪な光景を目の当たりにしている。

「こりゃ酷いね……
 外傷は喉元の切り傷だけだと思うんだけど、全く血が出ていない。
 というよりカラッカラに乾いちゃってて、まるで枯れ木だ」

 その、見るからに夜盗か何かの格好をした男は、石棺のすぐ傍で死んでいた。
 ご丁寧に石棺の蓋は開けられ、空っぽの中身を覗かせている。
 男の傍らには鍵爪が転がっていた。

「なるほど、この形状……
 僕の記憶違いでなければ、村人の傷の元はコレだね」

「ちょ、ちょっと待ってください!
 だったら、彼は誰に殺されたんですか!?」

 そう、現実に男が殺されている以上、誰かが手を掛けなければならない。
 村人が犯人という可能性は限りなくゼロに近い。
 場所が場所だけに、もっと怪しい存在が眠っていたからだ。

「これか……、どうやら『ヨークの吸血鬼』は実在していたようだな」

 コヨーテが拾い上げたのは指輪だった。
 蓋の開いた石棺の傍に、指輪。
 それらが示す一つの事実に、ルナは絶句した。

「神父が言っていた封印の指輪だろうな……
 そして吸血鬼がいないという事は、恐らくこの男が指輪を盗もうとして封印を解いたんだ」

「待ってください……、つまり、その、吸血鬼はもう目覚めてしまったという事ですか!?」

「そうだ、急いで戻るぞ。
 『ヨークの吸血鬼』は目覚め、洞窟の外へ出ようとしたはずだ。
 だが、まだ日中だと分かったらどこかへ身を潜めた。
 それがこの洞窟である可能性は高い。当然だ、元々ここは遮光に優れた洞窟なんだからな」

 一斉に、コヨーテの言葉を聞いた全員の背筋が凍った。
 この仄暗い洞窟に、吸血鬼が潜んでいる。
 可能性を考えただけで、これほど恐ろしい事はないだろう。

 誰とも無しに、入り口へ向けて走り出した。
 運が良かったのか、『ヨークの吸血鬼』は洞窟から離れていたのか、一行は無事に洞窟の外へ出た。
 まだまだ日は高く、それが彼らの心を少しだけ安堵させる。

 だが、そう時間は残されていない。
 日が落ちるまでもはや四時間もない状況で、できる事は。
 一行は真っ先に教会へと向かった。

「神父!」

 コヨーテは挨拶もそこそこに、洞窟の奥での出来事、『ヨークの吸血鬼』が存在し、かつ復活を遂げてしまった事などを簡潔に話す。

「……吸血鬼の封印は、既に解かれていたのですか」

 唖然とした表情の神父は、それだけ呟いた。

「吸血鬼は、夜にこの村に現れるのでしょうか?」

「その可能性は高い……、というより確実だな。
 目の前に食事があるのに手をつけない吸血鬼はいないさ。

 だから、オレたちは夜にむけて準備をしなくちゃならない」

 具体的には吸血鬼の行方を探る事、こちらの戦力の確認、あとは仮眠だ。
 できれば村人の誘導もしておきたかったが、今から四時間ぽっちでは森の中で夜を迎える事になってしまう。
 吸血鬼云々がなくても、夜の森は危険極まりないので避ける必要があった。

「神父様、杖は見つかりましたか?」

「え、ああ……、こちらが例の杖です」

 呆けていた神父は、壁に立てかけてあった杖を手渡した。
 いかにも古そうな杖だが、バリーが言うには充分実用に耐えるとの事だ。

「私は、もっと文献を探ってみます。
 もしかしたら、明確な弱点が記述された書物もあるかもしれません」

 そう言って、神父は再び倉庫へ消えた。

「正直、逃げ出したい気分ですよ……」

 神父の姿がなくなり、ぽつりとルナの本音が出た。
 受け取った【束縛の杖】を握り締め、必死に震えを堪えている。

「そうだ、逃げるって選択肢は?」

「……、当然アリだ。
 だがな、俺たちが逃げ出したらこの村は全滅だろォな。
 その罪悪感を上手く回避する方法を考えられるんなら教えて欲しいぜ」

「そうね、それはさすがに寝覚めが悪いわ。
 でも現実問題、吸血鬼を退治しなきゃいけないんでしょ。
 あの指輪をもう一度吸血鬼の指にはめる方法を考えなくちゃ」

「つーかこの指輪、まだ生きてんのか。
 何の魔力も感じ取れねぇんだがよ」

「それは大丈夫だ。
 見たところ、これは魔力を内臓しないタイプの魔具だろう。
 本命は指輪の内側、指に触れる場所に貼られている、薄く磨いた宝石だ」

 コヨーテは指輪を観察し続ける。
 他のメンバーは、それをポカンと見ているしかなかった。

「ん、やっぱりな。
 これは吸血鬼特有の魔力に反応する術式だ。

 指にはめる事で血液中の魔力を読み取り、術式が始動する仕組みだな。
 術式が食う魔力は、そのまま吸血鬼から吸い取って行うみたいだ。
 なるほど、半永久的に吸血鬼を封印するための仕組みって訳か」

「……おい、コヨーテ」

 唖然としていたバリーが、ようやく口を開けた。

「どうしてそこまで詳しく分かる?
 お前って魔術は専門じゃないだろう?」

「実はこの三〇日間で、宝石類のレクチャーをから受けたのさ。
 しかも、ただの宝玉と魔具の違いを見分ける方法なんてのもあってな。
 コレは理論自体が簡単な術式だから、どうにか読み取れただけだ。

 しかし鬱陶しかっただけのレクチャーが、意外なところで役に立つものだな」

 コヨーテは軽く言っているが、実は相当スゴい事なのだ。
 たったの三〇日間で、曲がりなりにも魔具である指輪の解析をやり遂げてしまった。

「ま、まぁ何にしてもよ。
 その指輪が使える事は分かったんだし、どうやって吸血鬼の指にはめるかを考えましょ?」

「そうだね、時間もない事だし……」

「それについて、事前に話しておきたい事がある。
 あくまで推測の域を出ないんだが――」

 タイムリミットは刻一刻と近づいている。
 ヨークが闇に飲まれるか否か、それはこの作戦が重要な鍵を握る。



 漆黒の闇に支配された森が、僅かな月明かりに照らされる。
 そこへ浮かび上がるのは、青黒い肌を持つ化け物の姿が一つ。

「来たか……」

 『月歌を紡ぐ者たち』は村の外で吸血鬼を待ち伏せた。
 はたして吸血鬼は現れ、今はコヨーテ一人を前に対峙している。

「貴様ハ……何者ダ?」

 永い時間封印されていたからか、元々かは分からないが、酷く聞き取り辛い。

「もう一度、あの棺で眠ってもらう」

 コヨーテは長剣の切っ先を吸血鬼に向けて言った。

「フ……クク、フフフフフ……!」

 それを聞いた吸血鬼は、薄気味悪い笑い声を上げる。
 ふと、吸血鬼は突然無表情となり、コヨーテの顔をまじまじと眺めた。

「貴様ハ……?
 コレハ、我ラの同胞ト同ジニオイガスル?
 イヤ、ソレニシテハ薄汚イ人間ノニオイモスルナ……?」

 ふと、吸血鬼は引き裂くような笑みを見せる。
 そして合点がいったように、首を何度も縦に振る。

「ソウカソウカ、貴様ハカ……!

 図ニ乗ルナヨ小僧!
 貴様如キ卑シイ身分が、貴族ノーブルタル我ニ刃向カウナゾ……身ノ程ヲ知レ!!」

 子供なら、いや大人でも震え上がってしまいそうな威圧感。
 異形の吸血鬼が放つそれは、まるで威圧の刃だ。

 だが、コヨーテは臆しない。
 堂々と、むしろ勢いを受け流すような軽口を織り交ぜる。

「薄汚い人間だと? 卑しい身分だと?
 言ってくれる、その薄汚い人間に封印された貴族様が」

「貴様!」

 吸血鬼の社会には、それぞれの吸血鬼に階級が存在する。
 通常は『従者サーヴァント』、『下等レッサー』、『ノーマル』、『貴族ノーブル』、『王族ロイヤル』といった具合に分けられている。
 また、例外的に『不死の王ノーライフキング』という特別枠も存在する。

 それらの階級は単純に力の優劣によって決まる。
 『従者』よりは『下等』、『下等』よりは『並』の方が強力である。
 そして、コヨーテのような『半吸血鬼ダンピール』は『従者』の下、つまり最下層だ。

 吸血鬼が激昂するのも当然だ。
 そんな最下層のクズに馬鹿にされたのだから。

「良カロウ!
 寝覚メニハ極上ノ処女ノ血ガ欲シイ所ダガ、貴様ノ薄汚イ血デ我慢シテヤロウ!!」

 そして、その激昂はコヨーテの狙い通りだ。

「吸血鬼の分際で、お喋りが過ぎる……いい加減眠って貰おうか」

 コヨーテは吸血鬼を睨みつけ、剣を握り直す。

「ククク……! ナラバ、ヤッテミルガイイ……!」

 吸血鬼はコヨーテに飛び掛る。
 鋭いナイフのような爪を、強靭な両腕から繰り出してくる。

「くっ!」

 それを同時に長剣で受ける。
 永きに渡って封印されてきた為か、そう腕力は強くない。
 とはいえ、同じ『貴族』であるラクスマンに劣るというだけで、人間とは比べ物にならない。
 それ故、一歩の後退は半ば以上が演技ではなかった。

 吸血鬼はそれを見て、にやりと表情を狂喜に歪ませる。
 元々吸血鬼という種はこういうものだ。
 戦いの中に生き、戦いのために戦い、戦いに狂っている。

(オレは、お前とは違う……
 戦いの為に、己の為に欲した力なんかじゃない……!)

「――今だバリィィィィィ!!」

「《囲え!》」

 唐突に、近くの茂みから炎を纏った魔力の網が飛来する。
 バリーの放った【炎網の囲い】の狙いは吸血鬼だ。

「甘イ……!」

 吸血鬼は退かず、むしろコヨーテに詰め寄る事で網を回避した。
 この行動は、単にコヨーテを逃がさないだけでなく、広範囲に及ぶ網を再度撃てなくする為だ。
 唐突な援護を一手で封じ込める吸血鬼は、まさしく戦いのプロフェッショナルと言える。
 だが、これも想定内である。

「甘いのはお前だ」

 距離を詰めた吸血鬼の左腕を、コヨーテが掴む。
 体内の血の力を最大限に引き出し、身体能力を上昇させる。
 驚異的な身体能力と動体視力によって相手の身体を掴み、動きを制限する。

 コヨーテの父が遺し、ラクスマンから受け継いだ【鬼手捕縛】。

「クッ、貴様ァ……!!」

 吸血鬼はコヨーテの手を怪力で振り払い、どうにか逃れる。
 完全に計算違いだったのだろう。
 距離を詰めればコヨーテに、離れればバリーに捕まる。

「チィッ!!」

 吸血鬼は、村へ向かって走り出す。
 コヨーテの予測した通り、吸血鬼は戦いを止め、屈辱の退却という手段を取った。
 封印されて数十年、その間にも指輪に魔力を吸い取られ、食事もしていない。
 吸血鬼が『貴族』の割に力が弱いのは、そういった原因もあるのだろう。

(ここまで踊ってくれて感謝するよ、吸血鬼)

 『ヨークの吸血鬼は霧や狼、蝙蝠には変化出来ない』、これがコヨーテの立てた推測だ。
 恐らくは日光を克服した代償として失ってしまったのだろう。
 ヨークの吸血鬼の長所と短所は、伝承が如実に示している。

 『吸血鬼は【蜘蛛の糸】で縛られ、指輪をはめられた』という文章は、いくつもの事実を伝えている。
 まず、【蜘蛛の糸】に捕まったという事は、霧には変化出来なかった事実。
 そして指輪をはめられたという事は、動きを止められた後に別の生物へ変化して逃れられなかったという事実だ。

 そしてもう一つ、コヨーテが単独で、臆さず堂々と吸血鬼と対峙したのにも理由がある。
 それは、コヨーテを『吸血鬼を相手にしても怯まない、熟練のヴァンパイアハンターである』と相手に思わせる事だ。
 そして、半吸血鬼である事に気づいてくれた事も大きい。
 半吸血鬼は一般的に、『吸血鬼となるか』『吸血鬼を狩るか』の二択しかない種族と言われている。
 大昔に封印された吸血鬼なら、これらを十二分に理解しているはずだ。

 コヨーテ――ヴァンパイアハンター――を相手にするだけなら負けはしないだろうが、バリー――厄介な【蜘蛛の糸】に似た魔術を扱うヴァンパイアハンターの片割れ――を同時に相手にするのなら、下手すれば敗北の憂き目に合う。
 吸血鬼には、こう錯覚して欲しかった。
 そして、それらをちりばめたこの作戦は、概ね成功している。

「今だ!!」

 コヨーテの合図と共に両脇の茂みから大量の石や矢が飛来する。
 夜目の聞く吸血鬼は、それらを全て避け、あるいは叩き落した。

「ヌッ!?」

 更に、村への道の真ん中にはミリアが、【束縛の杖】を持っていた。
 予め準備してた合言葉マジックワードを唱えると、杖が淡く光って【蜘蛛の糸】の術式が発動する。

「ウ、オオオオオオッ!?」

 吸血鬼は見事なまでに、白濁した粘つく糸に絡め取られた。

「クズ共ガァァァァァァ!!」

 吸血鬼は吼えた。
 今まさに、眠る前に眼に焼き付けた忌まわしい指輪が、レンツォの手によって再びはめられてしまったのだから。

 ルナ・チコ両名の遠距離攻撃は、本命である【束縛の杖】から注意を逸らすための囮であった。
 夜目の利く吸血鬼の相手であるための、万全の布陣といったところか。

「オノレェ! 下種ノ分際デッ!!」

「うわっ!?」

 吸血鬼は最後の力を振り絞って、自らを戒める呪縛を打ち破る。
 その衝撃で、近くにいたレンツォが吹き飛ばされる。

 術式が作動しているのだろう。
 もはや吸血鬼には一歩を踏み出す力も、指輪を外す力もない様子だ。

「大人しくしろ。お前はもう敗れたんだ」

 コヨーテが、吸血鬼へと足を進めている。
 吸血鬼は怨念と狂気の視線を、半端者へと向けた。
 そして、再びあの引き裂くような笑みを見せる。

「タダデ封ジラレルト思ウテカ!」

「――ッ!?」

 吸血鬼は、倒れ掛かるように腕を伸ばし、刃のような爪を振り下ろす。
 最期の一撃を、コヨーテは剣を盾として防御する。
 たかが悪あがき、と判断しなかったのは僥倖だった。

「なッ!」

 バギン! という著しく神経を逆撫でる金属音がしたと思うと、刃がゆっくりと地面に横たわる。
 コヨーテが握っている剣は、中程でねじ切られたようにして折れていた。
 これまで数多の敵と戦い、その頑丈さを以ってコヨーテを支えていた剣が、

「口惜シヤ……」

 一撃を見舞った吸血鬼はそのまま地面に倒れ、次第に動かなくなった。



「もう二度と封印が解かれない事を願うよ……」

 吸血鬼を石の棺へと戻した一行は、全ての後処理を終えてから村を出た。
 特に棺への封印は厳重に施し、事の顛末は全て教会へ報告しているため、このような事件は二度と起こらないはずだ。

「それにしても……剣、折れちゃいましたね……」

「……あぁ」

 コヨーテの腰には、吸血鬼に殺された盗賊の私物だった安物の剣が吊ってある。
 折れてしまった剣は、大切に布に包んだ上で背負っている。

「剣が元に戻る訳でもないし、いつまでも悔やんでいても栓のない事だ」

 コヨーテがあの剣を大切にしていた事は、誰もが知っている。
 一度でも彼が粗末に扱ったところを見た事がないし、戦いにおいてもがむしゃらに扱うのではなく、重量を活かした戦いをしていた。

「しかし、あれだ。
 そんな安物の剣じゃ、お前の力は発揮できないだろ?」

「確かに。これは少し軽すぎるし、以前のと比べれば脆いだろうな」

「いや、恐らく二~三回の戦闘で折れちまうだろうよ」

 コヨーテの膂力を鑑みれば、その言葉も現実味が強い。

「どうすんのさ。
 今はそうでもないけど、いつまでも剣を買い直せる程の余裕があるとは限らないよ」

「かといって、剣を折らないように手加減して戦ってもらうのも変だしねー」

「戦士に手加減して戦え、って言うのは侮辱だぜ。
 そンなら壊れにくい鎚矛や斧を使って貰った方がまだマシだ」

「でも、急に武器を変えたら戦いにくいんじゃないですか」

「戦いにくい程度じゃ済まないわよ。
 そもそも、戦い方が違うから武器にも特徴があるわけだし。
 下手すれば、普段の戦力の半分も発揮できないわ」

「八方塞がりか……」

 折角、吸血鬼を封印するという偉業を成し遂げたのに、どうにも気が滅入る。

「悩んでいても仕方がない」

 その雰囲気を打ち破ったのはバリーだ。

「とにかく、頑丈な剣を探すしかないだろ。
 幸い、ここからそう遠くない場所に大きな町もある。
 リューンに戻る前に、そっちへ寄ってみるか」

「……それもそうだな。
 今回の依頼では予想以上にランタンの油を使ってしまった。
 火口箱の石もだいぶ磨り減っている。
 何があるか分からないし、そういう消耗品もここらで補給しておいた方がいい」

「そうと決まれば早速行こう、その街へ!
 ……ところでバリー、そこってなんて名前の街なの?」

 バリーは目を細め、遥か遠方にあるはずの山を見つめる。

「希望の都と呼ばれる、フォーチュン=ベルだ」
 


【あとがき】
今回はおぺ吉さんの「石の棺」です。
個人的に吸血鬼が大好きなもので、新PTを作るとついついこのシナリオをプレイします。
最後の黒幕は二パターンありますが、やはり大物を相手にすると面白いですよね。
いつか呪縛なしで指輪をはめてみたいものです。
それはそうと前回買ったスキルを全然試せませんでしたけどね、特にミリア。

前半の地の文無しの会話、誰が誰の台詞か分かりました?
なるべく一人称やらを避けていますが、できるだけ口癖や口調の違いを演出してみました。
レンツォ→ルナ→バリー→チコ→レンツォ→ミリア→コヨーテ→チコ→バリー→コヨーテの順です。
なんとなく雰囲気で察して貰えると嬉しかったり。

作中で登場した、吸血鬼の階級はY2つさんの公開された設定を一部流用しております。
『リプレイ書きの戯れ言〈5〉』
色々とお世話になります。
こっちの作品での設定も、近々公開できたらいいなぁ。
あんまり深く考えていなかった(階級制度と明確な弱点しか考えていなかった)ので、纏めるのが大変です。

さて、次回は本編中で言っているように、フォーチュン=ベルへお邪魔します。
とはいっても、目的はあの人のあのお店ですけどね。
超有名シナリオの上、既にY2つさんもリプレイされているので、緊張と不安しかないです。


☆今回の功労者☆
ミリア。杖は自動配布で彼女に渡りました。


報酬:
蝙蝠退治→400sp
吸血鬼退治→500sp

戦利品:
聖水×2

銀貨袋の中身→5427sp

≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『石の棺』(おぺ吉様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

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