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『凍える森のファシア』(4/4) 

『ふぁしあさまは もりがきめた まもりびと』

 ふんわりとした甘い花の香りがする妖精は、たどたどしい発音で言う。
 警戒心の強いはずの妖精は、『自分たちはファシアの知り合いだ』と伝えたルナを全面的に信用したようだ。
 どうやら、ファシアという存在は森の住人一人一人に到るまで信頼されているらしい。

「森が決めた?」

 そういえば、ソフィアも似たような事を言っていた気がする。
 
『もり ふぁしあさまを まもりびとにした。
 もり ふぁしあさまを いじめる』

「守り人にした? いじめる?
 どういう事です、森には意思があるのですか?」

『……ふぁしあさま しんぱい』

「ああっ……」

 ルナの疑問に答える事なく、妖精は飛んでいってしまった。
 妖精の少ない言葉では、いまいち要領を得ない。
 仕方なく、冒険者たちは更に足を使う。

「あれれ。こんにちは、だれかさん?」

 今度はぬいぐるみのような外見の妖精が、ふわふわと雪の上を飛び回っている。
 彼(彼女?)はこちらへ近づき、ルナの近くでスンスンと鼻を揺らす。

 どうやら、先ほど会った妖精の香りにつられたようだ。
 ルナはミシアと呼ばれた妖精から、同じ香りのする花を受け取っていた。
 ぬいぐるみのような妖精が花を欲しがるので与えたら、ひどく喜んだ。

「ねぇ、ファシアとこの森について教えてくれない?」

『いいよ、いいよ。お花、くれた、くれたもの』

 ぬいぐるみのような妖精も、若干たどたどしい口調で話し始めた。

 ファシアは、森に代わって森を護る事を義務付けられた『人間』であった事。
 森はファシアに『膨大な魔力』と『永遠を生きる力』を与えた代わりに、森から出る事を禁じた事。
 そして、森が許す――守り人としての使命を解除し、呪縛を解放してファシアを消滅させる――までファシアはずっと囚われたままなのだという事。

「……森が、ねぇ」

 ファシアの言っていた『自分で命を絶つ事ができない』というのは、森が禁じているのだという。
 彼が守り人として森の呪縛を受け入れた際に、そういった制約も同時に結ばされたのだろう。

「ねぇ、まるで森に意思があるように話してるけどね。
 妖精ってみんなそういう考えを持っているものなの?」

 少なくとも、チコを含む冒険者たちはそういう認識はない。
 妖精たちの言う『森』とは、森そのものを象徴するような大妖精を指すのだと考えていたからだ。

 だが、ぬいぐるみのような妖精の返答は意外なものだった。

『森は、森よ。森、いる。あっち』

「何だって?」

『こっち。こっち』

 レンツォの驚きの声を遮るように、妖精はぴょんぴょんと跳ねて雪道を進んでいく。
 冒険者たちはそれを追いかけていった。
 やがて、妖精は雪の降り積もった大木の前で止まった。

『……森。怒ってる、怒ってる』

 急に、妖精は小刻みに震えだした。

『ファシアさまが、魔力を使いすぎた。
 だから、怒ってる。
 ソフィアさまのせいで、ファシアさまがむりをするから。
 怒ってる、怒ってる!』

 震えながらも、妖精は叫ぶ。
 やがて頭を抱えて、苦しそうに大木の前を右往左往する。

『怒ってる……こわい、こわい、こわい。怒ってる、怒ってる!』

 不自然に顔を歪ませた妖精は、『こわい』と『怒ってる』を連呼する。
 その姿は、まるで天災に怯える人間のような、生々しさと危機感を醸し出している。

「ちょっと、大丈夫!?」

『こわい、こわい、こわい!』

 遂に、妖精はその場から逃げ出した。
 そのただならぬ様子に、冒険者たちは一抹の不安を感じる。

「……何だったのよ」

「尋常じゃない怯え方だったな。
 あの妖精が言っていた『森』というのは、結局何なんだ……?」

 バリーがその疑問を口にした時、明らかに自然風でない旋風が一行を薙いだ。
 一気に冷気を浴びた冒険者たちは、一様にその場で風に抗う。

「な、何だこれ?」

「おい……おいおい冗談じゃねぇぞ!?」

 引きつった表情のバリーは、本気で隕石が嵐になって降ってきたのだと勘違いした。



「みんな、上だッ!」

 叫びながら、コヨーテは【レーヴァティン】を振り回す。
 同時に、ガラスが砕けるような高い音が響く。
 バラバラと散るのは、細かい氷の破片。

「きゃっ……何これっ!?」

「雹だ! それも相当デカい!」

 上を見上げると、曇った灰色の空に丸っこい影がいくつも見える。
 これら全てが、拳大の雹である。
 明らかに、自然なものではない。

「痛ッ……! くそ、どっから降ってきてやがる!?」

 風が吹き荒れる度に、冒険者たちの体制が崩される。
 その隙を狙ったかのように、雹が冒険者を襲う。
 
「みんな、ひとまず耐えるんだ!
 まともに喰らうとマズい、とにかく避けろ!

 レンツォ、チコ! お前たちは雹の出所を探ってくれ!
 ミリア、お前はバリーの援護だ!
 バリー、お前は例の炎の術式が準備できたら、すぐに上空へ放ってくれ!
 ルナ、オレから離れるな!」

 一息で指示を飛ばすと、コヨーテは真上の雹をいくつか纏めて砕く。
 どうやらこの雹は風に乗って飛んできているらしい。
 風に相対するように立つと、ルナを背後へと回らせる。

「ちくしょう、キリがないわ!」

 ミリアは本来スピードタイプの戦士だ。
 今はバリーを背に踏ん張っているため、回避を主体とする戦術を取れない。

「――《囲え!》」

 ここで、バリーの唱えた【炎網の囲い】が発動する。
 雹に狙い撃ちにされるという極限状態にありながら、その発動のスピードと正確性は中堅レベルに達している。

 迂闊に風に向けると押し返される危険があった。
 故に、バリーは上空に向けて放つ。

 それが、思わぬ効果をもたらした。
 炎が掻き消されないように放ったはずの炎が、消えたのだ。

「レンツォ!」

「あぁ、分かってる!」

 明らかに不自然なその現象を見逃すレンツォとチコではない。
 二人は注意深く観察し、やがて見つけた。

 大木の頂上付近。
 その枝に、大きな氷の塊が下がっている事を。

「バリー! アレだ!
 アレがこの風と雹を操ってる!」

 レンツォの叫びは、決定的だった。
 何故なら、どれだけ離れていようが絶対に命中する魔術師の基礎術式【魔法の矢】をバリーが習得しているから。
 それが命中すれば、氷の塊くらい粉々に砕け散るだろう。

「《穿て》――ッ!?」

 だが、決定打にはならない。
 バリーの詠唱が、何故か中断された。
 その場でがっくりと膝をついたバリーは、この寒さであるにも関わらず、全身が汗だくになっている。

「バリー! どうした、何をされた!?」

「くそ……、魔力を食われちまった……!」

 ぶるぶると震えるバリーの手は、【理知の剣】を取り落とした。
 あの様子では、【魔法の矢】を再度唱える事すら難しいだろう。

「魔力を吸い取るのなら、方法は一つだ! チコ、頼んだぞ!」

 魔術が通用しないのなら、魔力に頼らない方法で物理的に破壊する他ない。
 そして、氷塊の位置を鑑みるに、適任はチコの弓矢だ。

「わ、分かった!」

 チコは矢を番えて弓を引き絞る。
 相手は動かないかかし同然だ。
 彼女の腕なら、目を瞑っていても命中する距離。

 しかし、この風がなければの話だ。

(く、ぅぅ……!
 右に一、二、三……いや、二……か、風向きが変わった……!)

 必死に位置を調整しようとするも、殴りつけるような追い風が、向かい風が、横風が、それをさせない。
 おまけに、その間にも雹は降ってくるため、まともな体制すら保っていられない。

「……無理だよっ! 条件が悪すぎる!」

「だったら、条件を整えるまでだ! ミリア、全員分の援護を頼む!」

 ミリアの返事を待たず、コヨーテは走り出した。
 チコとは真反対の方向だ。

「中々無茶言ってくれるじゃない! ――了解よ、リーダー!!」

 威勢の良い返事を返すも、ミリアの背中を冷たい汗が流れた。
 ただでさえ絶え間なく降り続く雹の雨を、ほとんど一人で押えなくてはならないのだ。

「しくじったらタダじゃおかないわよ、コヨーテ!!」



 嬉しかった。
 心無い者が見れば、コヨーテは一人だけで戦場から逃げ出したように見えるだろう。
 だが、ミリアや他のみんなはそんな事を微塵も考えずに背中を押してくれた。

 だからコヨーテは本気で謎を解き明かす。

 コヨーテには解せない事があった。
 バリーの放った【炎網の囲い】が、何故風で掻き消されたのか。

(あの氷塊は、魔力を吸い取る事ができる。
 実際にバリーはそれにやられた訳だし、何かの魔術的な罠に掛かった訳でもないから、恐らくある程度の距離が開いていても可能なものなのだろう)

 だったら尚更、何故なのか。
 魔力を吸い取る事は、向こうの利になるはずなのに何故。

(吸い取れなかったんじゃなく、吸い取らなかったんだ。
 それには理由があって、可能性は二つ。

 一つは、氷塊だから炎……即ち熱に弱いという可能性。
 もう一つは、単純に物理的な攻撃は、風で逸らす戦術を取っている可能性だ)

 以前バリーに聞かされた【炎網の囲い】の理論を記憶の中から探す。
 曰く、術式として放たれた半透明の網は、半分実体化しているのだという。
 それを物理的な攻撃だと判断したのかは分からないが、可能性を試す価値は出てきた。

(そして、分かっている事が一つ。
 あの氷塊が操れる風は一種類だけだ。
 さっきチコの攻撃を逸らすために掻き回していた間、こちらへの風はかなり弱かった。
 つまり、多方向からの攻撃には弱いんだ)

 そこまで分かっていながら、コヨーテにははっきりとした勝算はなかった。
 コヨーテが、ミリアが、チコが、誰がミスをしても全体の敗北に繋がる。

 しかし、恐れはなかった。
 今の自分にやれる事は、最大限やり尽くす。
 彼女らも、そう思っているに違いないのだから。

「……よし、離れたおかげで風も弱い」

 チコたちと距離を取ったのは、火を熾したかったからだ。
 いくら新しい火口箱を揃えていても、あの強風の中では火は熾せない。

 だが、誤算もあった。

「ちくしょう、使えそうな木がない……!」

 ファシアの森は吹雪に覆われていたため、相当乾燥している。
 だから枯れ木の一つや二つを期待していたのだが、どうやらこの辺りは森の最奥部らしく、重たい雪が枯れ木を湿らせていた。

 こうしている間にも、ミリアたちは雹に打たれているのかもしれない。
 迷っている暇はなかった。

 コヨーテは手近な杉の木の枝を折り、自分の身長程もある棒を作る。
 そして首に巻いたマフラーを解くと、棒にがんじがらめに巻きつける。
 急いで、しかし冷静に、火口箱を扱う。

 小さな火種をマフラーの上へ落とすと、乾燥したマフラーはすぐに発火した。
 完成したのは、『燃える投槍』だ。

 そして、走る。
 助走という意味合いでも、ミリアたちの負担を一秒でも軽くするために、走った。

「ミリア――」

 改めて前方を見ると、信じられない光景が広がっていた。

 ルナやバリーたちは、一箇所に固まっている。
 相変わらず雹は彼らに降り注いでいるが、ほとんどの雹が空中で破砕していた。

「驚いた……ミリア!」

 歓喜のあまり、彼女の名を叫んでいた。
 自分の無茶な指示を『了解』と答えてくれた彼女は、舞うように、飛ぶようにしてみんなを守ってくれている。

 彼女が体得したのは、深緑都市ロスウェルで独自に発展した『双剣術』だ。
 その中の、基礎的でありながらも確実性に富むその技は【飛影剣】という。

 感心してばかりもいられない。
 あの氷塊を砕いてしまえば、全てが終わる。

「う、おッ――ぉぉぉおおおあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 吠えて、投げた。
 相手の身体を掴み、行動を束縛する程の力で投げ飛ばす技【鬼手捕縛】。
 これは、その応用だった。

 ただの杉の棒でも、その異常なまで速度があれば、人すら殺しきれるだろう。
 当然、拳大の氷塊では耐え切れるはずもない。

 コヨーテと氷塊の間に、雹交じりの風が妨害をかける。
 だが、雹程度が直線的に迫る棒に当たる訳もない。
 自然と、氷塊は風での防御へと切り替える。

 棒の直径は、人差し指の第一関節くらいの広さしかない。
 それを拳大の氷塊にぶつけようというのだらか、少しずらされただけでも致命的だ。

 風は下から掬い上げるように吹いた。
 それに煽られ、棒はくるくると回転しながらあらぬ方向へと飛んでいく。
 滅茶苦茶に吹いた風が、炎すら押さえつけていた。

 外れた。
 だが――



 コヨーテは自信満々に言い放つ。
 そもそも彼は宣言していたはずだ、『チコのために条件を整える』と。
 投槍は囮である。

 全ては、チコの矢が風に妨害されないようにするため。
 囮に対して風の防壁を一瞬でも使うのなら、その隙を見逃すようなチコではない。

「オレたちの狩人ハンターは、お前程度の大きさでも外さない。
 逸らすべきは、オレの攻撃じゃあなかったんだよ」

 バキィィィン! と、激しく金属同士が擦れ合うような音が、ファシアの森に響いた。

 チコの放った矢は、寸分の狂いもなく氷塊のど真ん中に命中していた。
 しかし、矢が直撃したにも関わらず氷塊が砕けていない事は意外であったが。

 更なる反撃が来るかと思いきや、雹はおろか風すら収まった。
 どうやら、氷塊は完全に沈黙している。

「――ッはぁぁぁ~~!!」

「おい、大丈夫かミリア!?」

 その場に身体を投げ出したミリアの傍に、コヨーテが駆け寄る。
 どうやら、全員分の援護というのは相当無茶していたらしい。
 無理もないが、ミリアはかなり疲弊していた。

「お疲れ、ミリア」

「か、貸しにしとくからね……?」

「借りておくよ、ありがとう」

 二人は拳を突き合わせて、笑った。



「……んで、これって何なの?
 氷の塊かと思ったら矢を弾くくらいの強度はあるみたいだし。
 こうやって近くで見ると、宝石みたいだね」

「どれどれ……って、うわ!?」

 氷塊を拾ったレンツォは、急に脱力してその場に尻餅をついた。

「何これ……力が抜けていく……?」

「さっき魔力を吸い取っていたが、生命力まで吸い取ってやがんのか?」

 忌々しそうにバリーが観察する。
 どうやらさっき魔力を根こそぎ奪われた事を根に持っているらしい。

『あー、いたいた!』

 声のする方へ振り向くと、最初に会った風の妖精がこちらへ近づいてきた。

『キミたち何してんのさ!?
 ファシア様が、森が変だって言うから見に来たんだけど……
 もしかして、この木に何かした?』

「こちらからは何も?」

『ああー! その宝石は!』

 妖精は、レンツォの持つ氷塊――宝石――を見て叫んだ。

『ど、どうして持っているの!?』

「どうしてって……」

『それは森の……森のものだよ。
 森の魔力が込められていた、宝石なんだよ……』

『だけど、ファシア様が魔力を引き継いだから……
 その宝石は、今あるはずがないんだよ』

「あ? 待てよ。つまり、これが森の魔力の器だってぇのか?」

 バリーはほとんど核心を突いていた。
 先ほどの戦闘でも体感した通り、この宝石は魔力を吸い取る力を持っている。
 あまりに吸い取る力が強力すぎて、魔力に変換される前の原材料である生命力すらも吸い取ろうとしている。
 力が強いという事は、許容範囲が大きいという事でもあるのだ。

「だったらよ、これを湖に放り込みゃ魔力を凝縮できるんじゃねぇか?」

『それはダメだよ……森が怒っているの』

『そうでなければ、森がその宝石をまた生む訳がないもん』

『森は、ファシア様をどうしちゃうの?』

『森は、許してしまうの?』

 妖精たちは、何かに怯えるように呟く。
 さっきのぬいぐるみのような妖精のように『森の怒り』に怯えているのか。
 それとも、『森』の考えが分からないから、ただ困惑しているだけなのか。

「何にせよ、試してみるしかないな。
 『森』の意思がどうであれ、ファシアとソフィアを助けるにはそれしかない。
 キミたちだって、ファシアに死んで欲しくはないだろう?」

『それは……』

 それきり、妖精たちは黙ってしまった。
 『森』への恐怖とファシアへの信頼が、彼女らの中で渦巻いているのだろう。
 何にせよ、時間がないのは事実だ。

 コヨーテらは、急いで湖まで戻った。


「お前たち……なんだ、その宝石は?」

 レンツォの持つ見慣れない宝石に、ファシアは怪訝な表情を浮かべる。

「この湖の魔力を、こいつで凝縮させる。
 離れていろ、ファシア」

「何――!?」

 すでに岸に上がっているファシアの姿を確認すると、レンツォは宝石を放る。
 弧を描きながら湖に着水――しなかった。
 水に触れる寸前で、宝石は眩い光を放ったのだ。

「うわあっ!?」

 恐る恐る目を開けると、そこには何もなかった。
 ただ、久方ぶりに見る土の色が新鮮に見える。
 どうやら、湖の魔力は全て吸い取ったらしい。

『ファ、ファシア様!?』 

 妖精の驚く声に振り返ってみると、そこにはファシアが佇んでいる。
 そこにはかつて森の守護者として冒険者たちを追い返した彼の姿はない。
 まるで、ただの人間のような雰囲気だ。

「……無い……力が、どこにも無い」

「嘘……!?」

 湖とファシアは離れていたはずだ。
 彼の方に魔力が残るように、あえて距離を取らせたはずなのに。

「ファシアと湖の魔力がリンクしていたのが原因だろうな。
 わずかな魔力をも貪欲にかき集めた結果、ファシアに残された魔力すら奪い取ったんだろう。
 魔力に変換されていない生命力まで吸い取られなかったのは僥倖だがな」
 
 こうなってしまったら、彼には森の守護者なんて務まらない。
 名残を惜しむように、ファシアは宝石を手に取る。

「森は、私を見捨てたのだな。
 守護者としての役目を疎かにした、私を……」

 ファシアは、手の中の宝石をじっと見つめた。
 様々な感情が混ざり合ったその表情からは、何も読み取れない。

「だが、守護者でなくなったという事は、選択肢を選びなおせるという事だ。
 ファシア、今のお前ならば……ソフィアを救う事に腐心しても、誰も文句を言わない」

「冒険者……」

「お前は力を失い、永遠も失った……
 だったら、ソフィアと共に歩める道を築けるんじゃないか?」

 畳み掛けるように、バリーも口を開く。

「その宝石の魔力は森の魔力……すなわち、全盛期のお前の魔力が詰まっている。
 それだけありゃあ、ソフィアの氷柱の術式を再起動はおろか、術式を正式な手順を取って解除する事もできるだろうぜ」

「だが……失敗してしまえば、彼女はきっと……消えてしまう」

「できるさ」

 一瞬の迷いも無く、コヨーテは即答する。

「それを可能にするだけの想いが、お前の中にあるはずだ」



『ファシア……それに、皆さんもお揃いで。どうしたのですか?』

「君を救おうと、集まってくれたんだ」

 ファシアは一旦目を閉じ、そして覚悟を再確認するように口を開く。

「氷柱から、解き放つと……
 解き放つ事ができると、信じて……!」

 ファシアは宝石を掲げると、何かを唱えた。
 その明瞭な声は静かな空間に心地よく響く。

 バギン! という激しい音と共に、氷柱が一気に砕けた。
 氷の破片が擦れ合い、パラパラと音を立てて真っ白な雪の上へと落ちていく。
 落下する氷の破片に叩かれ、雪煙が激しく舞う。

 ファシア、妖精たち、冒険者たち、その場の全てが、その様子を必死で見守る。

 やがて雪煙が晴れる。
 その場には、

「あ、あ……」

 ファシアの声が、雪原に通る。

「ソフィ……!」

「ファ、シア……私……」

 立っている者はいない。
 だがソフィアは、その場に

 数百年の永きに渡って氷柱に閉じ込められていた反動だろう。

 宝石の魔力は、氷柱の魔法からソフィアを完全に解き放った。
 彼女の髪は数百年ぶりの風を楽しむように靡き、瞳はファシアを、妖精たちを、冒険者たちを捉えた。

「ソフィ……ソフィ……!」

「ファシア……!」

 彼らは互いに触れ合い、そして見つめ合う。
 ソフィアが氷柱に閉じ込められてからずっと、願っていた事だ。

『やった、ソフィア様!』

『良かった、本当に良かった……!』

 妖精たちはわんわんと泣き出した。
 彼女たちにとっても、悲願だったのだ。

 ファシアは守護者としての力も、永遠を生きる命も失った。
 だが、それよりも価値のあるものを守り、得る事ができた。
 それ以上の幸運が、どこにあるというのだろう。

『キミたち、ありがとうね!』

『って、あれ? ボーケンシャたちは!?』

 そこにはもう、彼らの姿はなかった。
 しかし、足跡はずっと遠くの森まで続いている。

「ありがとう……彼女を、私を救ってくれて……ありがとう……」

 そちらに向かって、ファシアは涙を流して頭を下げた。


「はー、寒い」

「大丈夫ですか、コヨーテ」

「マフラーも燃やしちゃったからなぁ……首周りが寒いよ」

 コヨーテたちは、すっかり吹雪の収まった森を歩いている。
 ファシアに吹雪を操る力がなくなった事で、強制的に術式が中断されたのだろう。
 今は静かな、美しい森に戻っている。

 あの場で、彼らにできる事はもうなかった。
 美談の結末は、森のみんなで噛み締めてもらえばいい。
 感動に水を差さないためにも、彼らは何も言わずに引き上げたのである。

「しかし、これから森はどうなるんだろうね。
 守護者もいなくなったから、これから大変なのかな」

「そうでもないかもね。
 これからは、森自身があの二人を守る事になるんじゃない?

 あの宝石って、森からの贈り物だったと思うの。
 彼女を救いたいと願う、ファシアへのね」

「何それ、非現実的ロマンチックじゃん」

「確かにな。
 だが、一概にはそうとは言えないかもしれないぜ。

 森は本気で怒っていたのかもしれない。
 本来の仕事を果たさない森の守護者なんて、必要ないからな。

 だけど、森はすぐにはファシアを切り捨てなかった。
 ……森だって、俺たちと同じように二人を救いたいと思っていたのかもな」

 ファシアとソフィア。
 あの二人にはバッドエンドは似合わない。
 そう思っていたのは、冒険者たちだけではなかったのだ。

 確証はない。
 だが、それを考えるだけでも、心の中が暖かく感じた。

「しばらく経てば、この森からも雪はなくなるんだろーね。
 暖かくなれば、綺麗な草花が森を彩ってくれる……」

 耐え難い孤独の寒さに震える冬は終わった。
 あの二人には、一足早い春が届いたのだ。



【あとがき】
今回は夜月さんの「凍える森のファシア」です。
夜月さんの読み物系シナリオは本当に心温まる話が多いですよね。
冬になるとやりたくなるシナリオの一つです。
戦闘は若干甘めですが、物語のテンポを阻害しない程度の味付けが素晴らしいです。
特にグリズリーを持ち上げるのは斬新でした。

よーやっと出せました、シエンス様!
時系列的には、サラさんが帰ってくる前ですね。
本当にお待たせしました……まさか一ヶ月も更新できないとは思わなかった……!
なんかバリーが凄い事口走ってますが、作者的には「そのくらいいけるんじゃね?」とか思ってます。
ついでに後輩パーティのレギウスも出てます。
レギウスってのはあれです、この間の雑記でカード画像を描いた黒髪碧眼です。

マフラーは一五世紀が発祥らしいです。
当リプレイはY2つさんの『風を纏う者』とクロスしている関係上同じ一四世紀の時代設定なので、実は存在すらしていない可能性もあります。
ですが、一応CardWirth的なパラドックスだと思って頂けると助かります。
まぁ、『ろけっとらんちゃあ』が存在する世界観だから、あまり細かくツッコむのも変ですよね?

ひとまず、チコの心はここで救われました。
「早ぇなオイ」というツッコミはごもっともです。
しかし、いつ終わるかも分からないリプレイ記ですので、フラグの回収はなるべく早めに行います。
ただでさえ六人という大人数を、それぞれ個別にエンディングにもっていかなきゃなりませんしね。
あ、かといってチコの物語がこれで終わりって訳ではないです。
これからの彼女の成長と活躍にご期待ください。

ちなみに、作中で珍しくコヨーテが自己主張(川に入る場面ですね)しています。
あれは吸血鬼の弱点が『流水』である事に起因します。
半吸血鬼でも流水に浸かれば、時間と共に急激に体力を消耗します。
弱い者なら皮膚がただれるレベルですね。
コヨーテは体力の消耗だけですけど。

妖精たち可愛いなぁ……
思わず彼女たちの台詞はノーカットで行こうと思ったくらいですよ。
リプレイではテンポの都合上やむなくカットしましたが、あれは必見です。

とりあえず、今回はできるだけ前回以前で購入したスキルやアイテムを使いました。
そのせいで戦闘シーンが無駄に長い長い。

実際にシナリオをプレイしていただけると分かりますが、あんな戦闘じゃないんですよ本当は。
でも、こういうところで私という著者の個性を出していきたいと思います。

今回のシナリオプレイ時間は約三〇分です。
次回はリードミーに一時間以上って書いてあるシナリオをリプレイする予定ですので、また一週間では書きあがらない事をここに宣言しておきます。


☆今回の功労者☆
チコ。戦闘が少なかったので、ストーリー的に。

報酬:
1000sp

戦利品:
【光弾の書】×1

銀貨袋の中身→4347sp


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『凍える森のファシア』(夜月様)

今回使用させて頂いたキャラクター
『トマック村の隠者』(出典:『隠者の庵』 作者:Fuckin'S2002様)
『シエンス=シュナーベル』(出典:環菜様のリプレイより)
『アタトゥ・ルジア』(出典:『竜殺しの墓』 作者:ブイヨンスウプ様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。
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周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

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周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

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