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『みえないともだち』(6/8) 

「ふわあぁ~……」

 グリグオリグ修道院の資料室に、ルトラの欠伸が反響した。

「……ちょっと、疲れましたね」

「そりゃ朝からずーっと調査調査だもん。
 昨日はリスクブレイカーの襲撃もあったし寝不足なのも分かるけど、もうちょっとだから頑張ろー」

 実際、完全アウトドア娘のチコにしては相当辛抱していると思う。
 コヨーテは本棚の最上段に手が届かないチコの代わりに、ごっそりとその段の書物を下ろした。

「そうですね、ようし!」

 ルトラは両手で頬を叩き、気合を入れる。

「それじゃあ頑張りましょう!
 今日中にここを調べつくしますよっ!」

 気持ちを入れ替えたからか、ルトラはさっきまでウトウト船を漕いでいたとは思えないペースで仕事を再開した。
 昨日の晩、コヨーテから今回の聖務はお飾りだと告げられた為、てっきりやる気を失くすものだと思っていたが、案外芯はしっかりしているみたいだ。

「コヨーテ、こちらもダメです」

「それじゃ、こっちを頼む」

「……本の山は見飽きました」

 ルナも相当堪えているみたいだ。
 奇跡的に資料が残っているのはいいのだが、その量が尋常じゃない。

 おまけに資料の中身は修道院の運営に関するものがほとんどだった。
 荘園の収穫量だとか、ワインの出来高だとか、記録資料が大半を占めている。
 だが、それらしい資料が見つかった前例があるから妥協はできない。

 バリーが発見したその資料には、要約するとこう綴られていた。

『グリグオリグはこの地にて、一件の吸血鬼事例を解決した』
『グリグオリグの功績により、荘園一帯から危機は去った』

 吸血鬼事件が実在したという事実に、全員が息を呑んだ。
 吸血鬼は確かにこの地に存在し、グリグオリグに討たれたのだ。
 旧時代の仮名遣いで記され、文献の劣化具合もその時代のものである事を裏付ける。

 更に、最後の一文には驚愕の事実が綴られていた。

『グリグオリグはこの魔物を修道院地下霊廟に封印し、魔物の力の源である左腕を切り離し、これを教皇庁に奉納し、封印した』

 グリグオリグは自分の名がつけられたこの場所以外に修道院を持たない。
 つまり、ここの地下にその魔物――吸血鬼――が封印されているというのだ。

 ルトラはこの事実を知り、封印された吸血鬼の存在を証明する事ができれば誰もグリグオリグの列聖を批判する事はできないのだと、俄然張り切ってしまった。
 確かに、お飾りだと思われていた調査で聖人としてのグリグオリグを証明すれば、誰もがルトラの功績を認めざるを得ない。

(ウソを真実に変える……か)

 詰まるところ、今のルトラの目的はそれだろう。
 教会の汚い部分を覆い隠すには、それしかない。
 彼女自身の名誉の為にも、教会の名誉の為にも、彼女は張り切っているのだ。

「……ん?」

 新しく資料を取ると、その間から一枚の書類が落ちた。
 この書類だけ全て古代語で記されているようで、保存状態が有り得ない程に良好だ。
 恐らく魔法で保管されている可能性が高い。

「みんな、ちょっとこれを見てくれ」

「何これ、何語なのさ」

「オイオイ、全文が上位古代語かよ。
 こんなもん俺どころかレギウスの野郎だって読めねぇだろうよ。
 ルトラさんはどうだ?」

「……ちっとも分かりません」 

 パーティの知恵袋たるバリーでも、本職のルトラでも解読できないのならお手上げだ。
 仕方なく、ルトラの所属する『史跡局』へ持ち帰ってもらおうとするが、バリーが止めた。

「一応、解読する手段はあるんだ。
 今じゃ手に入らねぇ消耗品だからケチっただけだぜ」

 そう言って、バリーは荷物袋からスクロールを取り出す。
 紙面に記された呪文を読み上げる度に、スクロール上の文字が焔を伴い、消えてゆく。

「――《読み解け》」

 呪文の詠唱が終わると、バリーはスクロールを仕舞う。
 そして改めて書類へ向き直ると、ぴくりと眉を動かした。

「……なるほど。
 こりゃちょっと、とんでもない発見かもしれないぜ」

「えッ!? グリグオリグに関する書類なんですか!?」

「そうみたいだぜ。
 こいつぁどうやらグリグオリグ宛の手紙みたいだな。
 差出人は……驚くなよ、ラディケ・メッカニアだ」

「ラディケ・メッカニアってセワードの言っていた、グリグオリグを擁護していたっていう領主の名前だね。
 で、で? どんな内容なのさ?」

 急かすレンツォを鬱陶しそうに遠ざけて、バリーは手紙を読み上げる。


『――グリグオリグ師
 彼女の様子は如何でしょうか?
 地下霊廟に幽閉してから、一月ほどが経過した事と思いますが、何らかの兆候は現れましたでしょうか?

 例の男に関する情報の収集ですが、残念ながら今のところは芳しくありません。
 ですが、師の研究の為にも、娘の為にも、そして彼のものの毒牙にかかった妻と私自身の為にも、必ずや探し出してみせる覚悟です。
 師は何も心配せず、研究を続けてください。

 必要な物資、人材等がありましたらいつでも屋敷の方まで使者をおたてください。
 領民よりご希望に添うものを探し、直ちに送らせて頂きます。
 もちろんこれまでのように、アレンケの方から調達されても構いません。
 そもそもあの村はその為にあるのです。

 彼女の『維持』に関しても、さすがにこれまでのように小動物のみという訳にはいかないでしょう。
 同様に調達ください。

 教皇庁が、師の残した研究資料を基に例の件について独自の調査を開始したという情報を掴みました。
 いずれ師のところにも、教皇庁の息のかかったものが紛れ込むかもしれません。
 充分なご注意を。

 一刻も早い師の研究の成就とパメラの安寧を心よりお祈り申し上げております。
 父と子と聖霊の御名に於いてエイメン、御身に聖北の加護あらんことを――
 ――ラディケ・メッカニア』


「……どういう事なんでしょう」

「正直なところ、これだけでは判断できないな。
 気になるところは多々あるが、やはり『地下霊廟に幽閉して……』という部分が面白い。
 さっきの文献に記されていた事と合致するが、一部分だけ違うところがある」

「……さっきの文献によれば、地下霊廟に幽閉されたのは『吸血鬼』だったはずですね。
 だけど、この手紙では『彼女』とされているし、どうやら生きながらえさせているみたいです」

 どちらの文書が真実なのかは分からない。
 もしかするとどちらの文書も真実ではない可能性もあるが、今の時点ではどうとも言えない。
 結局のところ、地下霊廟を調査すれば分かる事だ。

「なぁバリー、少し気になったんだが……グリグオリグが封印した吸血鬼ってのは女なのか?」

「……さてどうだろうな。
 確かに今までの情報の全てが真実だとしたら、吸血鬼が女だというのは至極真っ当な結論だ」

 コヨーテらは親父の言葉を思い出していた。
 宿で聞いた、酔いどれオヤジの商人が見たという賊に盗まれた『女の指』。
 何とも嫌な予感しかしない。


 その後、目ぼしい資料は発見できなかった。
 大量の資料の中には気になるキーワードがいくつか出てきてはいるものの、グリグオリグの列聖に関するものとは程遠い。
 
「……ようやく終わりですね」

「よくもまぁ、一日でアレだけの資料を調べつくしたものだと自分を褒めてやりたいよ」

 グキグキと関節の音を鳴らしてレンツォは伸びをする。

「さて、後は地下霊廟をどう処理するか、ってところだけど」

「そうですね。
 もしそこに吸血鬼が封印されていたのだとしたら、わたしたちの大勝利ですよっ!」

「………………」

 バリーは無言で、天井を見上げている。
 その表情は暗い。

「あら、バリーさん浮かない顔してどうしたんです?
 ……ひょっとして、吸血鬼が怖いんですか?」

「ンな訳ぁねぇだろ。
 吸血鬼って種と関わるのは初めてじゃあねぇ、大して恐怖は感じちゃいねぇよ。
 ただ、ちょっと引っかかる事がある」

 それは、コヨーテも感じていた。
 結果としてどの資料にも記されていない、一つの疑問。

「……、か?」

「その通りだコヨーテ。
 普通、退治するより封印する方が危険度は高いしリスキーだ。
 術式の劣化で封印が解ける事もあるだろうし、何より第三者が簡単に復活させちまう可能性もある。

 吸血鬼の退治方法は様々なものが伝承で伝えられている。
 心臓に白木の杭を打ち、聖別した油で熾した焔で灰になるまで焼く。
 残った灰は川に流し、棺とその中の土は聖別して廃棄する……

 封印するチャンスがあったのなら、これら全ての手法を試せばそれでよかったはずだぜ。
 伝承に残るくらいなら、どれかは正解だったはずだ。
 なのに、何故?」

 それに答えられる者はいなかった。

「……バリーはまだ地下霊廟にそれが封印されていると踏んでいるのですか?」

「資料を見た限りじゃ信用はできねぇな。
 だが、もしアレが伝承じゃなく真実だとしたら……物見遊山程度で地下に行くのは危険だ。

 大体よぉ、封印されたという保証はどこにもないんだぜ。
 ただ力のいくらかを失って、棺の中で力を蓄えているだけなのかもしれない。
 魯鈍ろどんな民衆がそれを『封印した』と思い込んじまったってぇのは案外ありそうな話だろ?」

「………………」

「まぁ、あくまで吸血鬼が実在したという仮定での話だがな。
 ……どうだルトラさん?
 これでもまだ、聖務に己の身を投げ出す覚悟はあるか?」

 ルトラは一瞬迷った表情を浮かべて、

「……別にわたしが霊廟の調査をしなくても、グリグオリグは列聖されてしまうんですよね」

 この聖務がお飾りだというのは、最早周知の事実だ。
 地下に存在するのが何かが不明な以上、わざわざ危険を冒す必要もない。
 だが、彼女は強かった。

「いいえ、ダメですそんなんじゃ。
 教会の意図に妥協して、自分を曲げて逃げたりなんかしたら、わたし……

 ――とにかく、霊廟の調査はゼッタイに行いますッ!」

 確固たる意志の下に、ルトラはそう言い放つ。
 その覚悟からは、この聖務をお飾りなんかでは終わらせない、必ず自分の手で真実を調べてみせるという意志が読み取れた。

「ルトラさん……」

 今の彼女には、初めて会った頃のようなぼんやりとした感じは見られない。
 わずかながらではあるが、強い責任感じみた決意がまなじりの辺りに現れている。

「男の顔になったな……」

「女です」

 ぴしゃり、とツッコまれた。



 外に出ると、資料室の内部とそう変わらない闇が広がっていた。
 丸一日資料調査に費やした結果がこれだ。
 すっかり夜も更け、しばらくすれば空も白んでくるだろう。

「――ん」

 パキッ、と。
 小枝が踏み折られる音が聞こえた。
 コヨーテはその方向へ目を向けると、何かがその場を通り過ぎて、物陰に隠れた。
 向かう先は、位置から考えると礼拝堂の方だろう。

「どうしたの、コヨーテ」

「今、礼拝堂の方へ何かが横切ったみたいだ。
 残念だけど、それが何かは分からないけどな」

「……気になるのなら、少し調べて見ますか?
 例の『影』の件もありますし、神経質過ぎる程には調べておいて損は無いと思いますよ。
 という訳でレンツォ、キリキリ働いてください」

「うぇ~い……クソ、何か僕だけ働きすぎじゃないか?」

 愚痴を言いながらも、レンツォの仕事は正確で早い。
 さっさと調査を済ませ、地面に何者かが通ったらしい痕跡を発見した。
 どうやら何者かが礼拝堂に向かったのは間違いないようだ。

「んん?
 この足跡、靴を履いてるみたいだ。
 どうやら左翼棟から続いているみたいだし、そっちから何者かが侵入したって線が一般的な推測かな」

「左翼棟って、あの穴が開いていた……?」

「とりあえず、礼拝堂の方を調べてみよう。
 ルトラさんはどうする、ここで待ってるか?」

「じ、冗談じゃありません。
 一緒に行くに決まってるじゃないですか、もちろん!」

 慌ててルトラが着いてくる。
 本当はもう休みたいのだろうが、不安なのは同じらしい。


 礼拝堂への壊れかけの扉を開けると、チコはランタンに火を灯した。
 その乏しい灯りを頼りに、レンツォは床を調べ始める。

「……どうやら先客は常連さんみたいだね。
 特定の箇所だけ、埃が全く積もってない」

 かといって、ここに定住している者が居るという訳でもない。
 生活臭を感じないし、ゴミもない。

「ここかな。
 足跡はこの亀裂の中に消えて行ってる。
 侵入者がこの亀裂を使ってるってのは間違いないよ」

 その亀裂は、とても小さかった。
 チコでも入れるかどうかといった程度の大きさで、大人はまず入れない。

「その亀裂、地下に続いているみたいですね」

 ルナが指差す先には、階段があった。
 地下へ続いているという事は、地下霊廟に続いているのだろう。

「よし、行ってみよう。
 みんな、準備はいいか?」

「あっ、待ってください。
 【聖霊の盾】……、防御の秘蹟を起こします。
 さっきは奇襲でしたから間に合いませんでしたけど、今度こそ」

 ルナは銀の十字架を握り、目を閉じて聖句を紡ぐ。

「――《主よ、護り給え》……」

 祈りの言葉が終わると共に、淡い光が一行を包み込んだ。
 柔らかな光はやがて止み、薄っすらとした透明の膜がそれぞれを包んでいる。

「これは【聖霊の盾】と呼ばれる秘蹟ですね。
 神聖なる不可視の膜が、庇護者を傷つけんとする刃を鈍らせると言われています。
 すごい、見たのは初めてですよ」

「ルトラさんの部署じゃあまり見かけないのは仕方ありません。
 この秘蹟は元来、十字軍クルセイダーのように戦場にあって望まれたものですから。
 ……あれ、どうしましたコヨーテ?」

「いや……なんというか、ホッとした」

 くどいようだが、コヨーテは半吸血鬼だ。
 そんな邪悪な存在が神の秘蹟なんて受けたら、この身体がどうなるか想像に難くない。
 【聖霊の盾】は直接身体に影響せず、その周りを包むタイプのものだったのは僥倖だった。

「それじゃ、行こう」

 何はともあれ、コヨーテらは階段を降りていく。
 コツ、コツ、と反響する音は、闇の彼方へと消えていった。

「コヨーテさん……ここ、何だか……怖いです」

 しばらく歩いて、ルトラがそう呟いた。
 いつのまにか、外套の裾をガッシリと握られている。

「……大丈夫だ、ルトラさんは何も心配しなくていい。
 そのままオレの後ろに隠れてじっとしていれば、何があってもオレが守ってやるさ」

「……ハイ」

 それきり、ルトラは黙ってしまった。
 安心したのか恐怖を堪えているのかは分からないが、どちらにせよ物音を立てないでいてくれるのはありがたい。

 それからどれだけ歩いただろうか。
 薄暗い階段では時間の感覚も狂ってしまいそうだ。

「……思っていたよりも深いんだな。
 まだ終わりが見えてこな――」

「――伏せろッ!!」

 レンツォの声が響いたかと思うと、複数の鈍い音が木霊する。
 一体何が起こったのか混乱する一行に、つい最近聞いた声が聞こえてきた。

「――ちぃッ! かわしやがったかッ、つくづく世話の焼けるヤツらだぜッ!!」

「この声はセワードか!
 今度はどこに隠れてやがるッ!」

 セワードが関わっているという事は、さっきの音はクロスボウの矢が階段に突き刺さった音だろう。
 その事実と、飛来する矢を感知したレンツォに驚きつつ、相手の位置を探る。

「どこに隠れてるって?
 ハン、ここにいるぜぇ……?

 最も、オマエさんがたには見えないところだ。
 そこで、最後のお祈りでも捧げてなッ!」

 それきり、セワードは言葉を発さない。
 声の位置を探られるのを警戒したのだろうが、どのみち反響する階段では位置など探れない。

「見つけたよコヨーテ。
 ヤツの矢は床に刺さってる。
 って事は、上からこっちを狙ってるって事になるよ」

「ルトラさんは後ろに隠れてて。
 ――さぁてどうする?
 私としてはさっさと階段を昇って忌々しいリスクブレイカーの顔面をぶん殴ってやりたいけど」

「オレもミリアの意見に賛成だ。
 何度か撃たれるかもしれないが、下に逃げて追い詰められるよりはマシだろう」

 その意見に異を唱える者はいない。
 全員が頷くと、コヨーテは【レーヴァティン】とその鞘を両手に持ち、盾代わりとする。

「行くぞ! いち、にの……さんッ!!」

 その合図で、全員が階段を駆け上がる。

「――チィッ! 血迷ったか!?」

 階段に、セワードの焦った声が響く。
 ほぼ同時に弦が震える音が聞こえ、鈍い音が連続する。
 先頭を走るコヨーテが何本かを打ち落とすが、さすがに捌き切れない。

「――うぐッ!」

「バリー!」

「大丈夫だ、走るのに支障はない!
 ちくしょう、大したもんじゃねぇかルナ!」

 【聖霊の盾】の膜が矢をわずかにずらした結果、急所からは外れていた。
 セワードとしては焦りを増すばかりだろう。

「クソッタレがァァァ! 来るんじゃねぇッ!」

 セワードの声から、ついに余裕が消えた。
 さっきまではある程度狙いを絞っていたのだろうが、今度は闇雲に撃ち始めたようだ。
 その影響で後方を走るチコやミリアにも矢が当たってしまった。
 幸運な事に、誰もがかすり傷程度で済んでいたのはルナのお陰だろう。

「――ええい! とんだ計算違いだクソッタレ!」

「追い詰めたわよこの野郎! 覚悟しなさい!」

「クソが……んっ!?」

 何かに気づいたセワードは、にんまりとした笑みを浮かべた。
 不審に思ったコヨーテがそちらを見ると、小さな人影が物陰から顔を出している。

「しまッ――!」

 気づいた時には遅かった。
 セワードは一足飛びに人影に近づくと、背後を取った。

「――きゃ!」

 その人影は、少女だった。
 髪も肌の色も服装すら白っぽい彼女は、名をメアリという。

「おおっと、動くなよ……
 冒険者の皆々様はともかく、聖北教会の聖女サマが相手ならこういう手もアリだろぉ?」

 セワードは手の中のナイフを、少女の細い首にそっと触れさせた。
 目の見えない彼女としては、誰かも分からない相手に拘束されて喉元に冷たい何かを押し当てられた状況というのは、どれだけの恐怖なのだろうか。

「リスクブレイカー、貴様ッ……!」

 コヨーテの怒りの声に、セワードは余裕の無い笑みで返した。
 恐らくどうやって逃げるかの算段を立てているのだろう。

「そ、その手を放しなさい!
 さ、さもなくば、アナタに神罰が下りますよッ!」

「ほう、そいつは一体どんな神罰だい?」

 そう言って、セワードはナイフをゆらゆらと揺らす。
 あの刃がほんの少しでも肉を裂けば、少女の命は散ってしまうだろう。

 あれだけ密着されていては、ナイフを弾く事も適わない。
 素振りを見せるだけでも、容赦なく細い首は裂かれてしまうだろう。
 それだけ、セワードという男には隙がなかった。

 隙があるとするならば、今この時。
 コヨーテらから離れた誰かにとってだろう。

「――な、に!?」

 一体いつの間に現れたのか、セワードの背後には濃紺のローブを纏った『影』が立っていた。
 コヨーテの驚愕の表情を読み取ったセワードは怪訝な表情を見せ、

「――えっ?」

 首が、宙を舞った。


To Be Continued...  Next→

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周摩

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