≪ 2017 07   - - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 - -  2017 09 ≫
*admin*entry*file*plugin

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


『みえないともだち』(7/8) 

「きゃあああああああああああ!?」

 ルトラの叫びが礼拝堂に木霊し、セワードの首はゴロゴロと床を転がる。
 新たな敵にコヨーテらが身構えている隙に、メアリは逃げていった。

「うわぁ!」

 『影』は、今度は迷わずレンツォの持つランタンを叩き落した。
 夜目が利き、地の利のある相手に対しての最悪の状況だ。

「レンツォは灯りを早く!
 チコはオレのところへ来てくれ!」

「あいっさー!
 だけど何を……ひゃん!?」

「お、おいチコ、変な声を出すなよ」

「だってコヨーテが変なところ触るから……」

「肩に手を置いただけだろう。
 ――ってルナ、変な目でオレを見るな!」

 こんな状況で少女に手を出すような趣味は無いのだが、弁解する暇もない。
 『影』が本格的に動き出す前に、先手を打たなければならないのだ。

「チコ、矢を番えてくれ」

「いいけど、私何にも見えないよ?」

「オレが目になる。
 タイミングも指示するから、指を離すだけで射出できるようにしてくれ」

 チコは了解と頷き、矢を番える。
 コヨーテは【夜目】を使い、『影』の動向を探る。
 どうやらあちらも様子見の段階らしく、目立った動きを見せない。

「チコの握り拳を一とするぞ……右に三だ。
 チッ、相手もこちらが何をしようとしてるのか理解したみたいだな……左に七!
 身体を反転させろ……そして右に三、上に一と半分――放てッ!!」

 指示通りにチコは狙いを調整し、矢を放った。
 放った本人ですら、命中したかどうかが分からないというのは異様だろう。
 だが、コヨーテには見えていた。

「命中……したはずだが」

 呟いた瞬間、視界の端にあの濃紺のローブを見た。
 避けていたのか。
 ローブの端が無残に裂かれているところを見ると、紙一重だったらしい。

「助かったよコヨーテ、チコ。
 お陰で悠々と灯りを点けられた」

 レンツォの言葉が終わる前に、礼拝堂が仄かな明かりに満ちた。
 『影』に二度も灯りを落とされたのは、虚を突かれたからに他ならない。
 警戒態勢にある今なら、三度も下手を打つレンツォではないだろう。

「《穿て》!」

 灯りが点いた瞬間、戸惑いで硬直した『影』を貫いたのは、バリーの唱えた【魔法の矢】だ。
 一筋の光は『影』の右足を貫き、四散する。

「よし、これで!」

 『影』の動きは目に見えて鈍っている。
 チコの放った矢を弾き、避けるだけで精一杯といった感じだ。

「――覚悟ッ!」

 朽ちてボロボロの椅子の残骸を飛び越え、一瞬の内に『影』の背後に回ったミリアは双剣を閃かせ――

 ――

「ウソでしょ!?
 【魔法の矢】でブチ抜かれた脚で、【飛影剣】が避けられるなんてッ!」

 どうやら相手は尋常じゃない再生力を持っているらしい。
 だが、【魔法の矢】が直撃した時に怯んでいたところを見ると、痛みは感じているようだ。

 そして、夜目も持っていて、鋭いナイフを持っていて。
 ――ナイフ?
 違う、あれはナイフなんかじゃない。
 細長い刃に見えたあれは、ナイフなんかじゃない。

……?」

 ぽたり、と『影』の指先から赤い滴りが床へ落ちる。
 まさかそれでセワードの首を刈ったというのか。

 
 

 コヨーテの脳内が、激しく音を立てて回る。
 答えを探して駆け巡る。

 夜目を持ち、ナイフよりも鋭い爪を持ち、強靭な再生力を持ち、しかし痛みは感じる。
 統合すると――

「お、まえ……まさか……!」

 コヨーテは疑問を確信へと変える為に、『影』との距離を詰める。
 すかさず、鋭い爪の一撃が無造作にコヨーテへと迫る。

 速い。
 だが、それまでだ。
 ほんの少し側面から打撃を与えて軌道をずらしてやるだけで、狙いは大きく外れた。

 片手では到底扱えない重量の【レーヴァティン】が唸りを上げて、『影』の心臓目掛けて恐ろしい速度で襲い掛かる。
 しかし、遅かった。
 爪の攻撃からの回避行動で一瞬遅れていたらしい。
 またしても身体をずらされ、ローブを浅く裂くだけに留まった。

 渾身の一撃だっただけに、避けられたのは非常にマズイ。
 『影』の武器は鋭利な爪であり、徒手だ。
 回避からの斬り返しは圧倒的にあちらが早い。

 闇の中にあっても鈍く光る爪が、眼前へと迫り――

「ッ――!?」

 ――桶の水を撒き散らしたような音がして、赤い液体が周囲に散った。
 湿った重量感のある音が響き、痙攣しながら地に落ちた。

 『影』の爪がコヨーテの顔面に突き立てられる一瞬、コヨーテの鼻先を掠めるように瞬時に二本の剣が上下していた。
 視界の端に、無理な体勢から斬撃を放った代償に椅子の残骸に突っ込むミリアが見えた。
 ついでとばかりに足元の右腕を蹴り上げるレンツォの姿が見える。

(――助かった)

 この一瞬を無駄にしない為に、コヨーテは【レーヴァティン】を腕の力だけで振るう。
 それに呼応して、『影』は残った左腕を防御へと回す。

 次の瞬間には『影』の左腕はあらぬ方向へ放られていた。
 チコの矢が左腕を弾いてくれたのだ。
 大きく開いた胴体へ、一切合財の遠慮も慈悲も無く【レーヴァティン】が突き立てられた。

「オオオオオオォォォォォォォォォォォォォ――ッ!!」

「――やった!?」

 誰かの声がしたが、コヨーテは油断しない。
 すぐに引き抜き、その首を落とさんと半回転した遠心力を利用して剣を振るう。
 相手がこの程度の傷で動けなくなるのなら、それはそれで良かった。

「ダメかッ!」

 コヨーテの一閃は、防御に使われた左腕を浅く斬り裂くだけの結果となった。
 腹に大穴を空けてからのこの動きは、確実に人間だとか猿だとかの域を超えている。
 そもそも心臓を狙った一撃を咄嗟に身体を捻って致命傷を避けた動きからも、それは見て取れる。

 不利と悟ったのか、『影』は身を翻して逃走を図った。
 不安定な足場も気にせず、椅子の残骸の合間を縫って飛ぶように移動していく。

「――逃がさないよッ!」

 ステンドグラスを破り、外へと逃げようとした『影』へ、チコの放った矢が突き立つ。

「オォォ――ッ!!」

 修道院の外から、野獣のような咆哮が聞こえてきた。



「あああああああ! 貴重なステンドグラスがぁ~~!!」

「逃がすかッ!」

 ルトラの場違いな叫びは無視して、コヨーテは『影』の後を追って破られたステンドグラスから飛び出した。

「おい、一人で先行するな!」

 慌ててバリーが叫ぶが、その時には走り去っていく音が聞こえた。
 いつの間にか夜が明けていたらしく、ちっとも暖かくない太陽の光が雲間から溢れている。
 遮るもののない雪原の風は、刺さるように冷たかった。

「よし、足跡は残ってるな。雪原で助かったぜ」



 これだけしっかりと残っているのなら、レンツォのようなプロフェッショナルでなくても見分けはつく。
 見ると、段々と歩幅が狭くなり、次第に這いずるような跡へと変わっている。
 これなら追いつくのも時間の問題だろう。

「バリーさん……アレってわたしを襲った『影』ですよね。
 一体何者だったんですか、アレは?」

「……さァな。

 あのローブの意匠は、感じとしては聖職者、修道士のそれだったな。
 洗練度から想像すると、一〇〇年前後は遡るけどな」

「一〇〇年前の修道士……?
 まさか、あれはグリグオリグ派の修道士だった……なんて事はありませんよね」

「どうだろうな。
 ひょっとすると案外いい線いってるかもしれないぜ。

 だが、どてっ腹に風穴開けてもビュンビュン跳び回るようなヤツだ。
 得体の知れない何かってのが一番有力かもな」

 しばらく走った先、そこでコヨーテは地面にしゃがみこんでいた。
 一瞬、怪我をしているのかと思ったが、どうやら無事なようだ。

「……足跡が途切れていやがる。コヨーテ、ヤツはどこへ?」

「見ろ」

 コヨーテの手には、濃紺の布地が握られていた。
 それはさっきの『影』が着ていたローブに違いない。

 肝心の中身について訊こうとバリーが口を開き、そのまま閉じる事ができなかった。

「……なん、だこりゃあ?」

 バリーの見ている前で濃紺のローブは真っ白になり、ボロボロと崩れていく。
 風に吹かれたそれは小さな粉となって、やがて消えてしまった。

「……灰……に?」

「中身はもう消えてしまった。
 そこに雪が窪んでいるところがあるだろう、そこだ」

 指差す先には、確かに不自然な形に雪がえぐれている箇所があった。

「ど、どどどどどういう事なんでしょう?」

「ヤツは吸血鬼だった、って事さ。
 暗闇でも見える夜目を持ち、ナイフよりも鋭い爪を持ち、受けた傷を即座に回復するだけの再生力を持ち、一流のリスクブレイカーにもオレたちにも気取られない程度に気配を消せる。
 気づいたのはさっきだが、そもそもヒントはあったんだ」

 それが、至るところで目にした『封印された吸血鬼』というキーワード。

「で、では、さっきの『影』が、グリグオリグが封印した吸血鬼という事なんですか?」

「……どうかな。
 封印されていたって割には結構自由に動き回っていたし、仮に封印が解けていたというのなら、さっさとこんな場所はオサラバしているはずだ。
 吸血鬼にとっては教会だとか修道院だとかって場所は嫌悪の対象なんだ。

 ……結局、地下霊廟に行って確かめてみるしか方法はないみたいだな」

「そう、ですね……」

「だが、相応の危険は覚悟しておいてもらう。
 考えてみてくれ、アレが吸血鬼だというのは事実。
 だったら、

 それはもうこの地下霊廟に封印されているという吸血鬼以外に有り得ないだろう。
 つまり、吸血鬼の封印は解かれている可能性がある」

「オイオイ、それじゃさっきの言葉と矛盾するぜ。
 封印が解けてるのならさっさとオサラバじゃないのかよ」

「そこはオレにも分からない。
 だが吸血鬼の下僕が存在する以上、可能性は三つある。
 封印が解かれているか、封印が解かれる前の下僕なのか、もしくは……」

 コヨーテは苦い顔をして、言葉を切った。
 まるで有り得ない絵空事を口にするように、一瞬の間をおいてから再び口を開く。

「……もしくは、吸血鬼は、だ」

 しん、と音がなくなった。
 確かに有り得ない。
 有り得ないが故に、それを実証できない状況というのは気味が悪い。

「本当かよ?」

 間抜けにも、それだけしか言えなかった。

「……可能性は限りなく低いが、無いとは言い切れない。
 だが封印されていないにも関わらず、修道院の地下霊廟から逃げ出さないところを見ると、万全の状態ではないらしい。
 恐らくは切り離されて教皇庁へ送られた『左腕』が影響しているのだと思う。
 地下というのは厄介だが、今の状態なら外へ逃げる事くらいならできるはずだ」

 そう言ってはいるが、コヨーテの心中では一つの声が渦巻いていた。
 、と。
 もし吸血鬼と相対したのなら、自分はこの本能に近い命令に逆らって逃げられるのだろうか。


 結局、コヨーテの言葉に押されるように地下霊廟へ向かう事になった。
 下手に時間を浪費して日中に逃げる距離を取れないのは致命的だからだ。

 しかし、丸一日の資料調査とセワードの襲撃、『影』との戦闘の影響で全員がボロボロだった為、わずかな時間に休憩を取る事にした。
 あまり悠長に構えてはいられないが、一行は保存食での食事を摂った。
 食事は摂れる時に摂った方がいい。
 腹が減っては何とやら、だ。

「コヨーテさん、そういえばメアリちゃんはどこへ行ったのでしょう?」

「……忘れていた。
 だが、怪我をしているようでもなかったし、心配する事はないだろう。
 それに、彼女は友達に会いに何度もここへ来ているのだから」

「何ですって、それは本当ですか?」

「ちょっと考えれば分かるさ。
 左翼棟の亀裂と礼拝堂の亀裂、あの辺りに残っていた足跡は彼女のものだろう。
 どうやってあの『影』から逃れていたのかは分からないけどな」

「まさか、あの『影』とか地下霊廟の吸血鬼が友達だと?」

「否定はできないな。
 目の見えない彼女にとっては、人間だろうが獣だろうが吸血鬼だろうが友達になれる。
 案外、あの『影』が友達なのかもしれないな。
 リスクブレイカーに捕まって死の瀬戸際だった彼女を救ったのは、あの『影』なんだから」

「………………」

 ルトラはそれきり黙ってしまった。

 彼女も気づいていたのだろう。
 『影』がセワードの首を刎ねた後、ローブの裾を翻してメアリを庇っていた事に。
 そして、あれだけ俊敏な動きの『影』が、彼女が逃げる事にだけは無頓着だった事に。

「メアリちゃん……あなたの友達って、一体誰の事なの?
 さっきの『影』?
 地下霊廟の吸血鬼?

 それとも……それとも、わたしたちには見えない誰かなの?」

 不安と疑問で下がった眉を天へ向け、ルトラは呟く。



「いよいよか……」

 コヨーテらは巨大な金属製の扉の前に立っている。
 セワードに襲撃された階段を降りきった先にあったのは、地下霊廟への頑丈な扉だった。

「ん……? 扉の表面にも文字みたいなものが刻まれてるね、バリーお願い」

「……また古代語かよ。ちょっと待ってくれ」

 バリーは愚痴るように呟くと、文字の解読に移る。
 一通り読んだ後、まとまった言葉を口に出した。

「生命の源である神よ、私たちの主のうちに私たちの復活の希望は輝き、死を悲しむ私たちにも、永久とこしえの生命の約束によって慰められます。
 故パメラを偲んでここに集う我々の祈りをお聞きください。
 主が再び来られる時、我々と共に新たにされ、神である御身をありのままに見て――」

「……いつまでも共にあなたの栄光を讃える事ができますように。
 私たちの主の御名に於いて――エイメン」

 途中から、解読のできないはずのルトラが諳んじていた。
 疑問に思うコヨーテらの視線に、神妙な面持ちでルトラは口を開く。

「……『命日祭の祈り』の結びの祈祷です。
 パメラという方の冥福を祈り、刻まれたものだと思います」

「パメラって言ったら、例の手紙で名前が出ていたはずです。
 一体、誰なのでしょう……?」

「この先に、その答えがある。
 ……開けるぞ」

 ゴゴゴ、と重厚な扉は開かれた。


 玄室に足を踏み入れた瞬間、荘厳な雰囲気が肌で感じられた。
 その場所はまるで、教会の大聖堂にいるような気分にさせられる。

 霊廟は殺風景ながらも、相当広かった。
 それだけ、中央にぽつんと鎮座ましましている金属製の棺が異様に映った。
 そして、その周辺に散らばるカラカラに干からびている小動物の死骸も異様な雰囲気に拍車をかけている。

「……にしても豪勢な棺だねぇ。
 中で眠っているパメラってのは、さぞかし名のある人物なんだろうね」

「文献を信じるならこの棺に眠っているパメラという人物こそが、封印された吸血鬼という事になる」

「……オイオイ、こりゃまた頭の痛い事で」

 バリーは棺の一部分を指し示して、頭を抱えた。
 扉と同様に、棺の表面には古代語で文字が刻まれていた。

『幾千の夜を越えようとも 全ての想いを御身に捧ぐ その肉体は滅びようとも パメラ・メッカニア その魂よ不滅なれ』
 
 それが、刻まれた文字の意味らしい。

「メッカニア……」

 メッカニアという姓は、何度も目にしてきた。
 この修道院一帯を統治していたイーサーン領主が、ラディケ・メッカニアという名だった。

「うわぁ……嫌なもの見ちゃった……!」

「これって……小動物の死骸にしては大きいですよ? まさか……!?」

 そこらに散らばる死骸に目を向けると、いくつかの骨は大きい。
 傍に衣類と思しき布地が落ちている事を考えると、人間と推測するのが一番だろう。

「ざっと見て一〇人分くらいはあるね。
 これがあの『影』の食事跡だと思うかい?」

「たぶん、違います。
 実は私、この光景を以前にも見てるんです。
 木の枝で串刺しにされた小動物の死骸……確か、渡り廊下の近くだったと思いますけど」

 彼ならわざわざここへ持ち込んでこずとも、ルナが見たように出先で食事を終えられる。
 つまり、棺の中に眠る吸血鬼は封印から解き放たれている、という事だろう。

「……この棺ってえらく丁寧に手入れされてるよ。
 間違いなく誰かがこの棺を管理してるはずだ。
 その誰かってのは、中で眠ってる本人かもしれないけど。

 ついでに、最近ここに出入りした人間の痕跡もあるね。
 ここに住み着いているって訳じゃなく、足繁く通っているって感じかな」

「それって……」

「メアリ、だろうね。
 ほらそこの亀裂、一階の礼拝堂から続いているみたいだし。
 彼女じゃ開けられない重厚な扉も、障害にはならないみたいだね」

 という事は、彼女は毎回ここへ来ているという事だろうか。
 彼女の言う友達とは、パメラの事なのだろうか。

「さて、ルトラさんどうする?
 この棺を開けてしまうか、それとも放っておくか」

「……どうしたらいいんでしょうか、コヨーテさん……わたしは、どうするべきなんですか?」

「アンタにこれを開く義務はない。
 もし中に吸血鬼がいて、それが活動できる状態なのだとしたら、アンタもオレたちも必要のない危険に晒される事になる。
 それにだ、どのみち教会の調査団が来たらそいつらにこの棺はこじ開けらてしまうんだからな。

 だけど、ルトラさん」

 何かを諭すような物言いに、ルトラは目を伏せて頷く。

「……ハイ、開けるべきだと思っています。
 本音を言うと恐ろしくて仕方がないのですが、この目で確認したいのです。
 教会で『悪』とされる魔物が、真にこの世から滅ぼすべき存在であるのかどうか……」

 教会という組織を信じられなくなったという訳ではないのだろう。
 だが、彼女は迷っている。
 今回の聖務で、彼女は知らない世界を知る事が、どれだけ重要で意味を持つのかを識ったのだから。

「だったら、何を躊躇する事がある?
 開けて、その目でしっかり確認するんだ」

「でも、もし吸血鬼がいたら……みんなが危険に――」

「――オレたちを雇ったのは何の為だよ。

 オレたちは教会に雇われた訳じゃなくて、ルトラさん、アンタに雇われたんだ。
 昨日も言ったが、オレたちはアンタの命令に従うし、全力で守る。
 だから、アンタは自分の思った通りの事をやればいい」

 それが依頼人と冒険者の関係だ。
 そして『月歌を紡ぐ者たち』は、それを遂行する。

「……分かりました、開けましょう。
 って、もちろん開けるのは皆さんですけど」

「ま、分かりきってたけどね」

「わたしへの口答えは規約違反にしますよっ。
 大体、わたしの力じゃこの石櫃の蓋を動かすなんてとてもムリですし」

「いいわ、どのみち依頼人に危険な役目は任せられないし。
 ……という訳でレンツォ、頼んだわよ」

「えええええ!? どどどどうして僕なのさ!?」

「アンタが一番適任だからに決まってるじゃない。
 私とコヨーテは石櫃を開けるのに片手になるとマズいじゃない?
 ルナはもしもの時の生命線、バリーやチコも接近戦は不得手。
 となると後は身軽なアンタしかいないじゃない」

「待った待った、やっぱり僕だけ損してる!
 これは気のせいじゃなくて確実だっ! 断固拒否するうううううううう!!」

 広い地下霊廟の玄室に、レンツォの情けない声が木霊した。


To Be Continued...  Next→

スポンサーサイト


この記事へのコメント

この記事へコメントする














(△お好みの文字サイズになるまでクリックしてください)

周摩

Author:周摩
しがないリプレイ書きのブログです。

Info.
当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、あれば相互リンクさせていただきたいと思います。

周摩のシナリオはこちらへどうぞ。

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。