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『お嬢様と伯爵』(3/3) 

 七夜目、この日も夜の始まりは伯爵の妨害から始まる。

「……そちらから会いに来ているのだ。そう威嚇する事はないだろう」

 いい加減見慣れたはずの怪鳥の仮面は、相も変らぬ威圧感をもって佇んでいた。

「まるで怯える猫のようだが……貴方は堂々としているべきなのだ。高貴なる吸血鬼として。もう少し自覚を持たなければ今後が辛いぞ? 貴方は私には勝てないのだから――」

「……、」

 マリナは黙して応えない。
 だがそれが正解なのだ。
 いかに伯爵といえど、遊戯のルールを覆す方法はない。
 何を言われようと、ぐっとこらえていればあちらは手出しができないのだから。

「……興が醒めてしまったな」

 あちらもそれはよくわかっているのだろう。
 内心では歯噛みしているかもしれないが、そんな素振りは一切見せずにさっさと退いてしまった。
 盤面はまだ覆されていない。
 だが、マリナがにじり寄って来ている事だけはわかるはずだ。

「あたしは負けない……!」

 マリナにとっても保守的な行動をしている暇はない。
 ターゲットを絞って二夜で確実に吸血し、眷属にする必要がある。
 そんなプレッシャーにも負けず、マリナはこの七夜目に獲物の吸血鬼に成功する。
 当然その後は吐き戻してしまって散々だったが、敗北はまだ確定していない。

 屋敷に戻ると、その夜の戦果をすでに把握しているだろうジャックは多くは語らなかった。

「いよいよ明日は最終日ですね……悔いだけは残さないように行動してください」

 泣いても笑っても残り一夜。
 この夜にマリナがしくじれば敗北だ。
 実に分かりやすく、そして残酷な夜が訪れる。

「……悔いといえば。ひとつ気になっている事があるのだけれど」

 マリナの手には一冊の本――件の吸血鬼辞典――が握られていた。
 お嬢様として屋敷に招かれて以来ずっと手元に置いていた本であるが、一部のページは貼りついてしまっていて中身が読めなくなっていた。
 しかも該当するページが『カプーチュの吸血鬼』についての記載だったため、特に気になる部分である。

「これを読みたいのよ」

「わわっ、お嬢様! 突然投げないでください、はしたないですよ!」

「水をはり、そのページを浸して頂戴。それからゆっくり開くのよ。そっと優しく、女を扱うようにね」

「……お嬢様、はしたないですよ」

「そういえばジャック。あなたは女と寝た事はあるのかしら?」

「――手先の器用さには自信がありますので! お任せください!」

 顔を赤く染めたジャックはとっとと部屋を出ていき、すぐに水をはった大皿を手に戻ってきた。
 マリナの指示どおりにゆっくりとくっついたページに水を浸す。

「強引にこじあけたら破れてしまうわ。焦らず、そーっと開くのよ」

「ゆっくり、そっと、ですね……」

 ジャックは優しく繊細な動きで本の読めなかったページを開いていく。
 その指使いが、彼が何らかの技術を持つ玄人であると教えていた。

「随分と器用ね。まるで盗賊……」

「フランケンシュタイン家では外科医術など、色々な技術を徹底的に教えられましたから」

「……、」

 聖北教会が幅を利かせているこのご時世、外科医術などは異端とされて久しい。
 が、すでに吸血鬼の隠匿を行っている一族だ。
 今さら指摘する事でもない。

「それよりもお嬢様。そのページにはどのような内容が書かれているのです?」

 マリナは開かれたページに目を通す。
 そして絶句した。
 ジャックの呼ぶ声も耳に入らないほどにそこに書かれている記載に目を奪われ、様々な憶測に思考が奪われた。

「………………」

 それからどれだけの時間が経ったのかはよくわからない。
 だが東の空が白み始める前に棺桶に潜り込んだ事は分かる。
 気が付けば、マリナは再び夢の中に放り込まれていた。

 前夜と同じく、マリナは椅子に座って『窓』の中の物語を見せられている。
 登場する二人は、やはり少女と伯爵であったが、少女のほうは以前見た姿とは違っていた。
 心臓を奪われて殺されてしまったのだから当たり前といえば当たり前なのだが、その二人の姿にマリナは強烈な違和感を覚えていた。

『……今晩から貴方も吸血鬼の仲間入りだ。喉がやたらと渇くようになる。その渇きを癒すには人間の血液を啜るしかない……衝動は繰り返し襲ってくる』

『ふざけないで! 勝手に化け物にされて……納得できるわけないじゃない!』

『ならば賭けをしよう。古くから続く遊戯を。吸血鬼らしい血塗られた遊戯を』

『遊、戯……?』

『勝者の欲する物を捧げるのだ。私は貴方の心臓を、貴方は人間に戻る方法を』

『人間に戻る方法があるのなら私はどんな事でもするわ……絶対に戻ってみせる!』

『契約は成立した。遊戯を執り行おう……説明は従者から聞きなさい』

 そのやり取りには覚えがあった。
 マリナも少女と同じように伯爵に抗い、声を張り上げた。
 それに対し、してやったりとばかりに遊戯を持ち掛けてきた伯爵の姿も覚えている。

 ならば、これはマリナの番の記憶なのか?

(――違う! これは……、『伯爵』の……!)

『もう、下がれ。話は終わりだ』

『言われなくても! 貴様の顔など見たくないもの!』

 そう吐き捨てて、少女は駆け去っていく。
 その後姿を眺めながら、『伯爵』は独白する。

『貴方を負の連鎖に巻き込んでしまい済まない……私には……には、こうするしか……』

「……それでもあたしには、こうするしかなかったのよ」

 今、何と言った?
 自分の口が意図せずに動き、『伯爵』の台詞を奪っていた。
 更に、目の前の『窓』に映る伯爵は怪鳥の仮面に手をかけ、一気にそれを脱ぎ去る。

(これは……夢よ!)

 そこにあったのは、誰あろうマリナの姿であった。
 『窓』の向こうのマリナはこちらへ視線を向けると、口の端を釣り上げて壮絶な笑みを浮かべる。
 それが見慣れた自分の姿だというのに、マリナは声にならない悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。

「これは夢よ!!」

 無理やり目を開けると、再び暗闇だった。
 思わず手をぶつけてしまったが、そこが棺桶の中だと理解してわずかに安堵した。
 まさか棺桶の中だという事に安堵する日が来るとは思ってもみなかったが。

 悪夢を見た理由ならわかっている。

「……あの本のせいだ」

 『カプーチュの吸血鬼』はマリナが知っている吸血鬼伝説とさほど内容は変わらなかった。
 六〇年に一度降る大雨があり、雨が降った後には水に囲まれた街だというのに伯爵と呼ばれる吸血鬼が消えている。
 ただ、その内容の他に著者と思われる人のメモ書きも存在した。
 伯爵に関する記載の隣に。

 『連鎖』、『呪い』、そして『交代』と。

 それが意味するところとは、つまり。

「やめよう」

 呟いて、マリナはゆっくりと棺桶から身を起こした。
 いくら考えても埒が明かない。
 たとえ答えに辿りついたとしても、それを証明できる人物は一人しかいない。
 何においても、この遊戯に決着をつけなければ何も始まらないし終わらない。

「……、」

 いい夜だ。
 ふと、外に出たマリナはそんな感想を抱いている事に気づいた。
 今夜こそが八夜目、遊戯における最終日。

 出だしは変わらない。
 『先読み』の者から伯爵の居場所を聞き出し、そこへ向かって妨害する。
 まずはそこで細かい一勝を得て、最後の獲物に迫らなくてはならない。
 絶対に欠けてはならない、勝利へのピース。

「……は?」

 だというのに、伯爵の姿はどこにもなかった。
 『先読み』の者が示した場所をくまなく探しても、いくら気配を探っても見つからない。
 欠けてはならないピースが欠けた音がした。

(そんな、まさか、『先読み』が外れたというの……!? この局面で!?)

 いや、マリナも危惧していたはずだ。
 『先読み』の力があれば伯爵の動きはほぼ封じられる。
 となれば伯爵とお嬢様の間に著しい優劣が発生するため、それを無効化する何らかの手段が存在する可能性があった。

 まさか、伯爵はそれを手に入れたというのか?
 昨夜のあの言葉は単なる動揺を誘うためでなく、勝利を確信した余裕から出たものなのか?
 時間はいかなる者にも平等に、しかし無慈悲に流れてゆく。
 もたついている暇などない。

 今からでも『先読み』の者に接触して伯爵の居場所を再度視てもらうべきか。
 あるいはすぐにでも切り返して唾をつけていた獲物を探しに行くべきか。
 あるいは『先読み』の者を信じてこの場所で伯爵探しを続行するべきか。

(ああ、ダメ――!)

 視界がぐにゃりと歪み、再びあの感覚が襲ってくる。
 六夜目、心の弱いところを責められて前後不覚となったあの感覚。
 冗談ではない。
 他の夜ならいざ知らず、最終日にそんな状態になってしまえばまずもって勝機は失われる。

.『おまえの考えた作戦でダメだった事なんて一度もねえだろ!』

 だというのに、どうしてこんな時に鹿の声が聞こえた気がするんだろう。

『ちょっと不安になってるだけだ! 実際は超いい感じに事が運んでるはずだぜ!』

「……本当にそうかしら?」

『あったりまえだろ!!』

 思えばこの数日間、ふらふらとゆらゆらと揺れに揺れまくった。
 マリナに芯が通っていない事の証明だったのだろう。
 それほど曖昧な存在がこれまで冒険者としてやってこれた事実は、ひとつの結論を証明するピースとなる。
 つまり、マリナをマリナたらしめるような芯を通してくれる存在が傍にいたからだ。

 幼少期に植え付けられたネガティブな思考を打ち破るようなポジティブさ。
 太陽のごとき光を纏い、しかしあたたかな光で包み込んでくるような、そんな感覚。
 すなわち、マリナに足りないものとは『勇気』をおいて他になかった。

「……こんなの幻聴に過ぎないのに」

 マリナの心の内には勇気が沸き上がっていた。
 そして同時に、幻聴ではないあの馬鹿の声が聞きたくなった。

 勝たなくてはならない理由が、ひとつ増えた気がする。



 棺桶の蓋を持ち上げ、マリナはその身を起こした。
 八夜に及ぶ遊戯は終わり、九夜目となる今日は勝敗の結果が明かされる夜である。

「お嬢様、おはようございます。勝敗の発表は伯爵様の住処である廃教会で行われます」

「わざわざ敵の本拠地に出向くの?」

「……お嬢様」

「いいわ。分かってるわよ。ここまできてジタバタしないわ」

「……私も共について行かせていただきます。まいりましょう」

 屋敷の正面から自分の足で外へ出る。
 思えばこれまでバルコニーから蝙蝠となって飛び行く以外の方法で屋敷に出入りした事がなかった。
 もはや見知った道を、まるで我が街のように執事ジャックを従えて歩く。

 ややあって伯爵の住処たる廃教会に辿りついた。
 心の安寧を保つためにも、あの日以来ここを訪れるのは今夜がはじめてである。
 ジャックに対してはああは言ったが、やはり尻込みしてしまう。

 ここで遊戯の勝敗が発表される。
 マリナの運命が決まってしまう。
 沸騰した水のように、不安と恐怖がグツグツと湧き上がってくる。

 ――かあ。

 鴉が鳴いた。
 ふと、マリナの視線が跳ね上がる。
 廃教会のてっぺんに、一羽の鴉がこちらへ睥睨するように留まっていた。
 ばさばさと他の鴉が羽ばたき、抜け落ちた黒い羽根が鬱陶しくも視界を遮ってくる。

「――!?」

 黒い羽根が降りかかったその刹那、鴉は一瞬にして怪鳥の仮面、伯爵の姿へと変じていた。
 吸血鬼の持つ変換能力。
 伯爵は鴉の姿でこちらを見ていたのだ。

「ようこそ、我が住処へ。貴方の事を待っていた……ずっと、ずっと、狂おしいほどに」

 伯爵は天を仰ぎ、まるで謡うように言葉を紡ぐ。

「忌々しき『伯爵』という『呪い』から解放されるのだ。今回こそ、……

「……戯言ね。とっとと入るわよ」

「この歓び、貴方にはまだ分からないだろうな。まぁ、いい。お入り」

 廃教会の扉に手をかける。
 この八日間、できる限りの事はした。
 吸血鬼として振舞う苦痛に耐え、このふざけた遊戯に打ち込んできたのだ。
 すべては人間に戻るために。

 それでも恐怖は拭えない。

「……お嬢様」

 ジャックの声に応えられるだけの余裕がない自分が情けなく思える。
 しかしそんなマリナ自身を信じなければならない。
 結果を知るために、一歩を踏み出す勇気を。

(なんて言わなくても分かってるわよね、

 どこかで誰かが頷いた気がした。
 廃教会の古ぼけた扉が軋む音がやけに大きく感じられる。
 教会の中はすでに廃されただけあって長椅子のような調度品のほとんどがなく、身廊がやけに広く感じられるほかは普通の教会と変わりなかった。
 祭壇の近くにはすでに伯爵と、伯爵の世話係であるフランケンシュタイン家現当主であるビクターが立っていた。

「さぁ、こちらへ。……ジャックもここから先ははじめてだろう」

 ビクターが促したのは祭壇の奥にある扉、その向こうであった。
 どうやら隠し部屋への通路らしく、すぐに下りの階段が姿を現している。

「まいりましょう……足元にお気をつけください」

 明かりもないその地下への階段が、死者を飲み込む魔獣の顎(あぎと)のようにも見える。
 そんな妄想を思考の隅へと追いやり、先に進んでいった伯爵と追従するビクターの後を追ってマリナとジャックもまた地下へと降りていく。

「ここ、は……」

 地下室へ降り立った瞬間、世界が変わった。
 とにかく地下室に似つかわしくない、広々とした部屋のように感じられた。
 階段のある一辺以外の三辺には無数の鏡が並べられていて、実際の広さが分かりづらくなっているだけかもしれない。

「……、」

 そんな鏡ばかりの部屋において、全身をすっぽり覆う衣装の伯爵はともかく顔を晒しているマリナは、まるで透明人間のように身体だけが透けて鏡に映っていた。
 こうして客観的にみるとだまし絵のようで、しかし自分の動きに追従して動く衣服がやたらと気味が悪い。

「お嬢様どうぞこちらへ。ジャックも早く来なさい」

「お爺様! ここは一体……!?」

 歩きながら左右の壁の鏡をのぞき込むと、ジャックとビクター以外に映り込む者がいた。
 この街の人々――否、これは双方の眷属たちの姿だ。
 鏡にはここにはいないはずの眷属が映り込んでいるのだ。

「お嬢様はお気づきになりましたか。この部屋の鏡には特殊な魔法がかけられております。眷属に腕輪をつけさせたのもこのため……伯爵様とお嬢様の背後の鏡にはそれぞれの眷属が映されております」

 互いに記録を持ち寄る事もできただろうが、それでは簡単に改竄できる。
 単に数の多寡によって勝負が決まるのであればこうして目の前で数えたほうが双方に遺恨が残らないという事だろう。
 そしてカウント自体もジャックは伯爵の眷属を、ビクターはお嬢様の眷属を数えるという徹底ぶりだ。
 やはり遊戯自体は双方に公平なルールの下で行われ、その結果発生する『譲渡』も公平正大なまま行われるのだろう。

「……何か言いたげな顔をしているな」

 従者二人が眷属数を数えている間、手持無沙汰となったのか、伯爵はそう切り出した。
 あるいは別の何かを期待しているのかもしれない。
 どちらにせよ、伯爵には話したい事が山ほどある。

「……この街の吸血鬼の呪いについて、この遊戯を通して気づかされた事があるわ」

「それは興味深いな。どんな事に気づいたというのだ」

「あなたもあたしと同じ存在……だって事よ」

「……、」

「この街の『伯爵』は昔からいた。ただし単一じゃない。代替わりして連綿と続いてきたのよ」

 仮面のせいで伯爵の表情は見えない。
 だからマリナは言葉を続けていく。

「……伯爵がなぜ心臓を望むのかずっと謎だった。それもようやく分かったわ……伯爵は遊戯によって心臓を奪い、その心臓を使って人間に戻るのよ。そうやって伯爵は代替わりする。お嬢様から、伯爵へ」

「……、」

「ジャックたちフランケンシュタイン家も呪いの一部。表向きは伯爵を人間としてサポートするための従者……、しかし裏向きは心臓を移植するために必要な外科医としての役割を持っていたのよね?」

 外科医療の技術はフランケンシュタイン家が持ち、代々継いできたものだとジャックは言っていた。
 移植のためと考えるのが自然だろう。

「あなたに心臓がない理由は、先代の伯爵に奪われたから……あなたはあたしと同じだったの」

「ふ、ふふ……」

「伯爵?」

「――そうだ。その通りだ」

 伯爵は怪鳥の仮面に手をかけ、それを一気に脱ぎ去った。
 一瞬、悪夢を思い出してぎょっとしたが、すぐにその素顔がマリナのものではない事に気づく。
 しかし夢で見た顔なのは間違いない。
 遊戯に敗れて伯爵――おそらくは先代の伯爵――に心臓を奪われていた、あの少女の顔だ。

「そこまで理解した貴方とは素顔で話したい。……この遊戯は繰り返されている」

 伯爵は怪鳥の仮面を忌々しげに放り投げる。

「この遊戯は私が知っているだけで三〇〇年は続いている。そして、これからも途絶える事はない。皆、人に戻りたいと望み、同じ行動を取らざるを得ないのだ……それがこの遊戯の恐ろしさだ」

「でも、心臓だったら――」

「普通の人間や弱い吸血鬼では駄目なのだ。構造が変わった身体に適合しない。だから、貴方を吸血鬼にして遊戯を持ち掛けた」

「……、」

「新米の吸血鬼は『うつわ』があっても『ちから』が足りない。それでは代替の心臓にはならない。『ちから』は吸血する事で蓄えられていく……自分が敗北するリスクを負ってでも『ちから』をつけさせる必要があり、ゆえに吸血遊戯をけしかける必要があった」

 なぜ力尽くではなく『遊戯』を介すのか。
 もうひとつの謎も解けた。

「だから、ひたすらあたしを煽ってきたのね。移植に耐えられるような、申し分のない心臓を手に入れるために……」

 だが、最後の謎が残っている。

「でも、街中の人間から選べたはずなのに、どうしてあたしを勝負の相手に選んだの?」

「……貴方の眼や立ち振る舞いの中にかつての自分を見た。貴方なら遊戯に乗るという確信があった。想いや願いを守るためならば、たとえ納得がいかない事であっても受け入れる。状況を打破するため行動を起こす。死に物狂いでその物事に当たる。そんな性質の持ち主だと思った」

 半分は買い被りだ。
 確かに遊戯には乗ったが、その後の行動はマリナ自身が困惑するほどに消極的であった。
 最終的には伯爵が予想した通りにはなったが。

「だが、そんな事がわかってももう遅い……結果は出ているのだから」

 ぎらりと赤い瞳を剥き、マリナを睨めつける。

「……『先読み』の力を用いて妨害してきたのは貴方が初めてだが、それ以上にその速さに驚かされた。しかし四夜目までに開いた差は覆しようがないほど大きいはずだ。貴方の血液から記憶を読み、精神的にも攻めさせてもらった。次にこの仮面を被り、吸血鬼を生み出し、遊戯を開催するのは……貴方だ」

 伯爵の眼は悲しげだった。
 誰かを犠牲にしなければならない自分を責め、良心の呵責に苦しんでいる。
 なりたくもない化け物にされてしまった、マリナと同じ眼だった。

「たとえ――」

 彼女の悲しみも、苦悩も、同じように経験したマリナには彼女を責める気なんてなかった。
 たとえ、彼女がマリナを巻き込んだ張本人だとしても。

「あたしが敗れたとしても、今後一切、遊戯は開かないわ。あたしにはもう、それだけの気力はないから」

「……虚言だ。口ではそう言っていても貴方はいずれ遊戯を始める……!」

「ねぇ、伯爵。あなたにも覚えがあるはずよ。初めて人の血を啜った瞬間の、化け物になってしまった感覚と、人間に戻れなくなるような不気味な感覚を」

 少女ははっとした表情を浮かべ、次の言葉を待った。
 図星、なのだろう。
 マリナと彼女は同じなのだから。

「あたしは化け物にはなりたくない。だから血を吸ってもほとんど吐き戻してしまったわ。もしこれが原因で移植に耐える心臓になっていなかったら申し訳ないけれど……いくら勝利のためだ、人間に戻るためだと誤魔化していても、身体が人から血を吸う事を受け付けられなかった。だから、他人を化け物に変えてあまつさえその心臓を奪うなんて……確信を持って言えるわ。あたしには無理よ」

「……だが、そんな事を言っても」

「あなたには分からないかもしれないわね。だけど、それが現実よ。あなたとあたしは同じだと言ったけれど、まったく同じなわけじゃない」

 だって、とマリナは目を細めた。

……化け物に落とされても人間に戻る事を諦めず、独りでも負けずに這い上がろうとするなんて、それが強さでなくて何だというの?」

「……、」

 想いの力はすなわち強さだ。
 執念とも言い換えられるそれは人間なら誰しもが持っている。
 しかし、同時に良心の呵責に押しつぶされそうになる弱さもまた背負っているのは、人間の特徴と言ってもいい。
 強くもあり、弱くもある、そんな曖昧で不安定な存在こそが人間なのだから。

「……集計が終わりました。お二人とも心の準備は大丈夫ですか?」

「いつでもいい。心の準備など昔に済ませてある」

「お嬢様も、よろしいですか?」

「……ええ」

 ついにこの時が来た。
 重い音が何度も何度も聞こえてくる。
 心臓の鼓動だ。
 一定のリズムを刻む、自分の心臓。

(まだ、大丈夫……まだ、これはあたしのもの……)

 きっと勝てると、吸血鬼から人間に戻れるのだと言い聞かせる。
 伯爵に対しては格好いい事を言ったが、それでもやはり人間に戻りたい。

 ビクターと、そしてジャックの口から宣言された眷属の数は。
 数は――。



 マリナと伯爵は教会の外に出ていた。
 わずかではあるが月の光を浴びるマリナに対し、しかし伯爵はひさしの陰から出られない。
 それこそが勝者と敗者を分かつ絶対の境界線であるかのように。

「……雨を浴びれば戻るなんて都合がいいんだか悪いんだか」

 ほんのわずかな差によって勝利したマリナは、その望みが果たされる時を待ち続けた。
 ジャックとビクターは廃教会の一室で、十字架に偽装させた古代の遺失物を起動する準備を進めている。
 それを用いて人為的に雷を起こし、雨を降らせるのだという。
 単なる雨でなく、聖なる力をもった雨だ。

 その雨を浴びた吸血鬼は人に戻るのだという。
 遊戯の中で吸血され魅了された者もすべて元に戻る。
 そう、敗北した伯爵以外は。

「雨もまた流れる水……吸血鬼である身体は触れる事ができない。戻る過程の最初は苦痛らしい」

 穏やかな口調で伯爵は語った。
 その苦痛すら歓びであったはずなのに、今はそれを伝える事しかできない。

「……流水に拒まれ囚われた者が流水によって解放される。ふっ、皮肉な事だ」

 だから、伯爵はひさしの陰から出られない。
 伯爵の身で吸血鬼を人間に戻す雨を浴びてしまえばどうなるかは明白だ。

「――!!」

 轟音と共に光が走った。
 廃教会の十字架から、力の奔流が紫電となって伸びていく。
 その光が行き着いた先は、空を覆う黒雲だった。

 しばらくすると雷光に呼応するように黒雲に動きがあった。
 ゴロゴロという雷の音とともに、街の空気が、雰囲気が湿っていく。
 呆けたように黒い空を見上げていると、雨のしずくが次々に降ってきた。

「――っ!」

 その水滴が当たった個所が、疼いた。
 ちくちく、ちくちくちくちくと。
 熱をもった何かが雨粒が当たった皮膚から注入され、内部に浸透していく。

「あああっ――!!」

 それは想像を絶する痛みだった。
 鋭く細い槍に次から次に刺されているような激痛が、延々と襲ってくるのだ。
 歯を食いしばり、痛みに耐える。

 身体がもとに戻るのに必要な痛みだからだ、
 これまで散々マリナの行動を縛っていた吸血鬼の『枷』が、液体に溶け出し、身体から抜けていくのが実感できるからだ。

(あたしの身体が人間に戻ってきている……!)

 身体を抱きすくめてまだ続く痛みに耐える。
 その様を、伯爵はただじっと眺めているだけしかできない。

「おめでとう。これで貴方はこの街の呪いから退場できる……この光景を見るのは二度目だ。あの日の誓いは脆くも崩れ去った。……当然かもしれないな」

 その笑みは自虐的であったが、それでも初めて見る伯爵の笑みだった。

「私の身勝手から始まったこの遊戯、貴方の勝利で終わるのが……相応しかったという事だろう」

「伯爵……」

「いや、恨めしき伯爵からの言祝ことほぎなど貴方には不要か」

「あたしはあなたを責める気はないわ。同じ境遇を味わった者同士、分かり合える事だってあるはずよ」

「……そうか。貴方は……不思議な人だ。私は貴方にこの呪いを押し付けようとしたのに」

「確かにあなたによって巻き込まれたけれど、人間に戻れた今、もう水に流すわ。……それでも、この呪いの連鎖は許せないけれど。こんな胸糞悪い呪いなんて、なくなってしまえばいいのに」

 伯爵は静かに頷き、

「……呪いがなくなるべき、か。確かにそう、その通りだ。けれど、私には勇気がなかった」

「ある、の? 呪いがなくなる方法があるの? だったら教えて。あたしが消してみせる!」

「……、」

「もう、あなた独りで苦しむことはないわ。なけなしの勇気しかないけど……、あたしもいるから!」

 マリナは彼女と同じ経験をした。
 彼女が味わった悲しみ、苦しみ、境遇、それらすべてを理解した。
 ならば冒険者であるマリナがとるべき行動は一つだ。

「あたしは冒険者よ。だから依頼して。助けてほしい、困っている、状況を打開したい、って。……そうすれば、あたしはあなたの味方よ」

 乗りかかった船を途中退場するなんてできない。
 少なくともマリナが知っているあの馬鹿ならそう言うはずだ。
 その精神を知る者として、一端の冒険者として、この悲しみの連鎖を絶ち切りたかった。

「……これまで伯爵となったものは代々、次の伯爵に呪いを押し付けてばかりだった」

 しばらく押し黙っていた伯爵が、ようやくその思いを言葉にしはじめた。

「勝利しこの街から逃げる事と、敗北後の停滞しかなかった。そんな身勝手な……化け物だった」

「あなたの代でそれを終わらせればいいわ。あたしと一緒にね」

「……、呪いをなくす方法はひとつ、――伯爵が消えればいい」

「なに……!?」

「そう、私が消滅すればいい。それで、呪いの連鎖は消える……!」

「そんな――!」

「――日の光を浴びて、肌が焼け爛れた事があった。あの時は、ビクターが泣いて大変だった」

 唐突に、伯爵は穏やかな調子で話を切り替えた。
 何事か分からず、マリナは困惑のうちに言葉を飲み込む。

「ふふ、不思議そうな顔をしているな。『あの老人が?』と言いたげだ。だが、誰にだって最初はある。幼年期、思春期、青年期を経る。成長すると同時に、老いていく、それが人生。……けれど、吸血鬼は違う。その『当たり前』から切り離された存在だ」

「……、」

「それが『伯爵』であり、『呪い』……私は我が身可愛さのあまり、愛する者と同じ時を過ごせなかった。歴代の伯爵の採ってきた嫌悪すべき行動をなぞるしかなかった。……でも、今なら」

「……この雨に打たれればあなたも人間に戻る。だけど、心臓のないあなたは」

「そうだ」

 吸血鬼なら心臓を失っても誤魔化せるかもしれない。
 だが、人間の身で心臓を失ってしまえば、もう死ぬしかない。
 否、死ぬ事ができる。

 しかし、それでは。
 マリナが死ねと言ったようなものではないか?

「貴方が気に病む事はない。結果はどうあれ、私は伯爵の呪いを絶ち切る選択肢を採りたかったのだから」

「はく、しゃく……」

「ありがとう、マリナ。これは私より前の代の伯爵と、私からの礼だと思ってほしい」

「……それは、違うわ。これはあなたとあたしの意志! そうでしょ!?」

「そうだ。二度と犠牲者を、お嬢様をこの世に出さないという意志だ」

 伯爵は笑っていた。
 吸血鬼然とした高笑いでも自嘲を込めた笑みでもない。
 伯爵などという肩書を得る前の、人間の少女の笑みだった。

「私を許し、手を差し伸べてくれて感謝する。貴方と会えてよかった。本当に、心からそう思う」

 そう言って、伯爵は一歩足を踏み出した。
 すでに豪雨と化した雨粒は、容赦なく伯爵にも降り注ぐ。
 わずかもしない内にその小柄な全身をずぶ濡れにさせた。

「――!」

 痛みをこらえながら、しかし伯爵は呻く事すらしない。
 その痛みがもつ意味を彼女は十二分に理解しているのだ。

「……ごめんね。あたしは……自分自身の無力さに腹が立つわ。あなた独りを死に追いやってしまう事が、その力のなさがとても悔しい」

「悔しがれるという事は……そうやって後悔しない選択肢が見えている者の特権だよ、マリナ。だが、気に病む事はない。貴方のおかげで、私は人間としての尊厳を取り戻す事ができるのだから」

 伯爵はまっすぐにマリナを見つめた。

「呪いは消える。負の連鎖は断ち切られ、二度と犠牲者が出る事もなくなる。だから、私たちのこの選択は間違っていない。正しいはず」

 そうだ。
 間違っていない。
 ……なんて、言えるはずがなかった。

(それでも、あたしたちは決めたんだ)

 この呪いを消す、と。
 だから、マリナはただ頷いた。

「貴方は私に一歩踏み出す勇気をくれた。ありがとう、マリナ」

「……っ!!」

 悲痛な少女の笑み。
 マリナは自分に強く言い聞かせる。

 決して目をそらしてはならない。
 彼女の最期を見届けなければならない。

 決して悲しんではならない。
 涙を流してはならない。
 歯を食いしばって耐えねばならない。

 ――これで彼女も、街も、忌まわしき呪いから解放されるのだから。

 だから、祝え。
 少女が倒れ伏し、その胸から血を溢れさせても、雨に打たれて人間に戻れたからこそだ。
 異変を感じ取り駆け付けたビクターの腕の中で眠る彼女が安らかに微笑んでいる事も、人間として、『エルチ』として死ぬ事ができた証なのだから。

 これがカプーチュの街で起こったお嬢様と伯爵による最後の遊戯、その顛末である。
 結果としてエルチは絶命し、マリナは生き残った。
 だが、呪いを背負って死にゆく事と、死んでいった者たちの意志を受け継いで未来へ運ぶ事、どちらも重く困難な道である事に変わりはない。

 マリナは生きなくてはならない。
 彼女とともにカプーチュの吸血鬼を滅ぼしたエルチの魂の一部は、すでにマリナに受け継がれている。
 街に縛られ、街から出る事叶わず逝った彼女のためにも。

 自分を通して、エルチに外の世界を見せてあげたい。
 かつてお嬢様だった彼女らは自由になった。
 もはや彼女らを縛るものなんて何もない。

(エルチ……)

 まずはリューンを。
 マリナがずっと帰りたかった『大いなる日輪亭』を見せてあげたかった。

 そして、マリナを通してエルチにも勇気を与えてくれた、あの馬鹿も。
 もののついでに。
 気が向いたらで。



【あとがき】
『陽光を求める者たち』、ソロシナリオは蜂蜜御飯(ハチミツさん、ユメピリカさん)さんの「お嬢様と伯爵」です。
ある街に閉じ込められてしまったPCが吸血鬼にされてしまい、元の人間に戻るためにとある『遊戯』で勝敗を競う一風変わったシナリオになっています。
リードミーにもあるとおり『陣地取り合戦』なのですが、見事に吸血鬼との融和を果たし、物語としても破綻がほぼないよう組み込まれています。
また当シナリオはNEXT仕様であり、当時ほとんどVer1.28をメインに使っていた筆者にとっては衝撃的ともいえる美麗で画期的なインタフェースに驚かされたものです。
ストーリー面でもシステム面でも隙のないこの作品ですが、リプレイで通ったエンディングの他にもいろいろありますので是非プレイしてほしいシナリオです。

そして作者の蜂蜜御飯さん(ハチミツさん、ユメピリカさん両名)には格別の感謝を。
リードミーにも攻略情報の公開は差し控えるようにとあったため事前にお伺いを立てましたが、快く了承をいただきました。
(こ、これでもしアウトな部分があったらとひやひやものですが……!)

さて、今回のシナリオの主役はマリナでしたが、彼女に関してはほとんどこれまで語る場面がなかった事もあり、謎多い人物ではありました。
やたらとエリックに突っかかったりツッコミを入れたり制御したり……色々やっていましたが、ようやくその理由について少しだけ語ることができました。
マリナにとってエリックとは、という問題については自覚したところもありますし、これから少しずつ描いていきたいところです。
そしてマリナはこの後、五月祭へと向かう事になりますが……彼女だけは『呪われし者の昼と夜』にNPC出演しているので(月歌の第三〇話参照)そのあとになります。
実は『呪われし者の昼と夜』に出演した事もあってマリナにお嬢様になってもらったという……そのための逃げ役!

今回をもって『陽光を求める者たち』のリプレイは一応の完結となります。
この先、深緑都市ロスウェルに入り五月祭の事件に巻き込まれ、エリックとマリナはついに因縁の相手であるイザベラとパイソンに出会います。
エリックをはじめとしたメンバー全員が一癖も二癖もある連中ですので、事あるごとに活躍し、大暴れしてくれる事を願います。

『陽光を求める者たち』はサードパーティなので、とにかく個性を押し出した面々をそろえてやろうと始まりました。
おかげで戦闘力も参謀力も高い、やたらと強力なパーティに仕上がったものの、個性が暴れて個々の連携がうまく取れない、そんなちぐはぐな集まりでした。
パーティメンバーが壁となって立ちはだかるような事態が生まれたりしましたが、エリックは未来を見据え、未来を切り開き、未来に進む存在として生み出したので、割とうまい具合に進んでいたりもします。

これからエリックが辿る運命は悲惨なものになりますが、それでも彼は立ち上がり、未来を掴むために戦い抜くのでしょう。


☆今回の功労者☆
マリナ。ここまで生にしがみつくキャラになるとは思わず……お疲れ!

報酬:
なし


≪著作権情報≫
今回プレイしたシナリオ
『お嬢様と伯爵』(蜂蜜御飯様)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基に周摩が製作したリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。

『お嬢様と伯爵』(2/3) 

 今でも後悔している。
 あの日、興味本位に覗いた廃教会。
 あそこに行かなければこんな事にはならなかった。

 この街にある吸血鬼伝説のゆかりの場所。
 軽い気持ちで訪れた教会にいたのは、――怪鳥の仮面で正体を隠してはいたものの――本物の吸血鬼だった。
 気づいた時にはすでに逃げ道は失われ、残るは戦って切り抜ける道だけだった。

 しかしマリナの修めた技はすべて対人間用に研いだ暗殺の技だけしかない。
 闇に紛れる事も不意を突く事も、ましてや鋼線で首を絞めるなどというあまりにも遅すぎる技では吸血鬼の前には無力でしかなかった。
 あっという間に吹き飛ばされ、なすすべもなく壁に叩きつけられる。
 衝撃が肺を貫き、その中の空気が絞り出されて、マリナの意識が遠のいていく。

 それでも、マリナは死ぬわけにはいかなかった。
 奥歯を噛み締めて踏みとどまり、眼光だけを吸血鬼に向けて放つ。

『いい加減、諦めたらどうだ。貴方はよくやった。もういいだろう』

 朦朧とする意識の中、吸血鬼の腕が自分に伸びてきたのが見えた。
 酸欠でガタガタになった脳みそは吸血鬼が発する言葉の意味も理解しなかったが、それでも差し出された腕が自分の命を刈り取らんとする死神の鎌である事は理解できた。

 惜しむほどの人生じゃない。
 むしろ続けている意味すら失っているはずの人生だ、消えてしまっても構わない。
 はず、だった。

 この瞬間において、マリナはただひたすらに死にたくなかった。
 人生の価値だとか意味だとか、そんな小賢しい言葉で誤魔化せないほどに、マリナは生きたかった。
 ここで死ぬわけにはいかない。
 たとえ這いつくばって泥を啜ってでも生き延びられるなら、マリナは喜んでその道を選ぶ。

 ふと、右手に硬く冷たい金属が触れた。
 重たい剣だ。
 吹き飛ばされた際に巻き込まれて砕かれた鎧が手にしていた剣。
 普段なら無駄な足掻きだと貶し、潔く美しい死に方を選ぶのだろう。
 だがマリナは醜い足掻きをするため一切迷わずにその剣に全てを賭けた。

 間違いなく不意を突けた。
 吸血鬼の最も有名な弱点である心臓。
 勝利を確信できる唯一の位置にマリナは剣を突き立てていた。

『――!?』

 手応えが一切ない。
 普段鋼線を用いた暗殺を得意とするマリナとて人を刺し殺した経験くらいある。
 だのに、この手応えの無さは、一体。

 ここでマリナの記憶をぷっつりと途絶えた。
 酸欠の身体で派手に動きすぎたのだろう、すでに体力の限界だったのだ。
 その後、目を覚ましたマリナの前に現れた男が告げたのは、自身が伯爵と呼ばれるあの吸血鬼の血を受けた事、そしてこれから伯爵との遊戯を行う事だった。

『お初にお目にかかります。私はビクター……フランケンシュタイン家の現当主でございます』

 執事姿の老人の淡々とした説明も、ほとんどマリナの耳には入らなかった。

『私は伯爵様付きでございます故、お嬢様には我が孫であるジャックに世話係を任せました』

 自分が化け物に殺されかかった事実すら夢であれと願うばかりなのに、よりにもよってその化け物と同じ存在にさせられたなどと、到底信じられるものではなかった。

『この街は貴方も知っての通り水に囲まれております。貴方は外へ出る事は叶いません。そのため、我々がいるのです。昼間やお嬢様の行けない街の外、そういったところで働く我々が』

 しかし流れる水に対して異常なまでの恐怖感、日光に対しての忌避感は否応なくその事実を突きつけてくる。

『分からない事があればジャックにお訊ねください。それでは失礼させていただきます』

 たとえ望んでいなくとも、この時からマリナはお嬢様と呼ばれる吸血鬼となった。
 執事ジャックを従え、血を啜る化け物に。

(……、)

 マリナは再びそんな夢を見ていた。
 二夜目に見た夢は吸血がトリガーとなったのだとぼんやりと考えていたが、今回のこれは一体何が原因だったのだろう。
 寝起きの頭ではあるが、マリナは考えを巡らせる。

 光陰矢の如しとは言うものの、今思い返せば遊戯の折り返しである四夜目まではあっという間に過ぎ去った印象だった。
 相変わらず伯爵には裏をかかれっ放しで、結局一夜目より後の三日は一度たりとも妨害できずじまいで終わった。
 そもそもこの広いカプーチュの街でピンポイントに居場所を突き止める術はただひとつしかない。

 『先読み』の力。
 眷属となったターゲットとジャックはその力をそう呼んでいた。
 どうやらその特異な力を用いれば伯爵の居場所が分かるのだという。
 この力があれば夜毎に伯爵の邪魔をする事が可能となり、すなわち伯爵はこれ以上自身の眷属を増やせないという事である。

 四夜を経て妨害が成功したのは一度きり。
 今後は『先読み』の力で毎夜妨害できるとしても、伯爵はすでに三名の獲物を眷属としている事になる。

(――あぁ、そうか)

 あんな夢を見たのは予想が的中して安心したからではない。
 むしろその逆。
 マリナが一度唾を付けた獲物を容易に奪い去られるという、当初考えていた最悪の事態を迎えたからか。

(思い出せ、という事かしら)

 遊戯に敗北すればマリナは心臓を失う。
 それは人間としての生を完全に奪われてしまう事に他ならない。
 だからこそマリナの身体が、精神が、あの時を思い返させたのか。

 恐怖と絶望。
 ないはずの猶予が与えられ、目の前に勝利がちらついただけで浮かれてしまうなんて、救いようのない馬鹿だ。
 泣いても叫んでも、残りはあと四夜、行動にして八回しかない。
 その内の半分を伯爵の妨害に費やしたとしても、大きくリードされている現状を変えるためにはより眷属数の多い獲物を仕留めなくてはならない。

(現在唾をつけた獲物は……一名。四回のチャンスでモノにできなくては……、いいえ。伯爵はすでに三名の吸血に成功している事を加味すればこちらも同数の吸血に成功しなくては勝ち目は薄い)

 マリナが最初に目を付け眷属とした『先読み』の力をもつ獲物は天涯孤独の身で、他に捧げる眷属が存在しなかった。
 力の代償といえばその通りなのだが、すでに吸血数で劣るマリナにとっては手痛い状況である。
 眷属とするのに二回の吸血が必要であれば、伯爵を完璧に妨害できたとしても勝ち目はひどく薄い。

(……失敗できるのは一度限りね)

 光が見えたかと思えば、すぐに遮られる。
 マリナはどうしても闇の中から、陰の中から出られない身なのか。

 それでも全力を尽くすべきだ。
 四夜目終了時点で三名、合計にして四度の吸血を行っている。
 ここで折れてしまっては彼らに行った何もかもが無駄になってしまう。
 何のためにもならないのに危害を加え、生き血を啜るなんて弁明の余地もない化け物の所業だ。
 そんなものを許してはいけない。

 億劫そうにマリナは棺桶の蓋を押し開け、ゆっくりと外へ出た。
 新たな夜が始まる。

 その日、第五夜にして初めてマリナはまっすぐ目的地に向かい、伯爵を待ち構えた。
 すでに『先読み』の力をもつ眷属から情報を得ている。
 伯爵ともあろう吸血鬼が即断即決で獲物に手をかけるとは思えないが、それでも行動は早めに行っておいたほうが良い。

「……マリナか。貴方に会うのを楽しみにしていた。これは運命だな」

 突如として背後からかけられた声。
 お嬢様たるマリナに対してこうも気安く声をかけてくる存在を、マリナはただ一人しか知らない。

「伯爵……!」

 相も変わらず酔狂な怪鳥仮面の姿で伯爵は闇からぬらりと出でた。

「貴方のために用意しておいたモノがある、受け取れ」

 そう言って伯爵が差し出してきたのは、古典的な吸血鬼の服装――襟立の黒マント――と伯爵がつけているような歪な仮面だった。
 まるでハロウィンの仮装である。
 そうさせた張本人が飛ばすにはあまりにも腹立たしいジョークだ。

「……どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのかしら」

「気に入らないと突き返す、か。格式美というものがわからないようだな」

 まるで冗談ではなかったかのような物言いに、マリナは逆に肝を冷やした。

「しかし、今や貴方も吸血鬼なのだ。それは動かしがたい事実。……忘れるな」

 それだけ言い残すと、怪鳥の仮面は再びぬるりと闇へと溶けていった。
 あれだけ奇抜な恰好をしていても、闇に溶けて後は一切の気配を感じられない。
 
(……、)

 ぱしん、と両手で軽く頬を叩いた。
 遊戯において伯爵と相対するのはこれで二度目だ。
 相変わらず自身が窮地に立たされている事実は変わらず、やるべき事も見えている。
 固まった足の呪縛はすぐに解け、マリナもまた夜に溶けて獲物を探しゆく。

 早めに伯爵を妨害できたとはいえ夜は長くない。
 あっという間に夜は進み、やがて東の空が白む気配を感じたマリナはお嬢様の屋敷へと戻った。
 いつものようにバルコニーから屋敷へ入ると、出迎えたジャックがぎょっと目を丸くしている様子が見えた。

「お嬢様……そのご様子だと伯爵様に会われたのですね」

「あぁ、……はらわたが煮えくり返るという言葉の意味をよく理解できたわ」

「お、お嬢様。落ち着いてください」

 マリナのただならぬ雰囲気に、ジャックはひたすら気圧されていた。

「兎にも角にも、お嬢様は伯爵様の邪魔をしたのです。勝利に一歩前進したと思いましょう」

「分かっているわ。そんな事より――」

 マリナが本当に腹を立てているのは伯爵に会った事ではない。

「『あれ』の説明はしてくれるんでしょうね?」

 この夜、マリナは唾を付けていたもう一人の獲物に二度目の吸血を成功させた。
 それだけなら単に喜ばしい事なのだろうが、問題はその獲物が口走った言葉のほうだ。

「……ええ、分かっています。父の事ですね。なぜリストに入れたのかと仰りたいのですね?」

 意外なほど素直に、あるいは観念したように、ジャックは語り始める。
 伯爵をサポートし続けるフランケンシュタイン家の永続のため、彼の父は貴族の娘に婿入りした。
 いわゆる政略結婚というものだが、それによって彼の父は代々の役目を継げず、やがて生まれたジャックは現当主である祖父ビクターに奪われてしまう。
 外面も内面も醜い妻と結婚させられた反動か、ストレス発散のはけ口を求めて彼の父は次第に酒と女に溺れてゆく羽目になるのだった。

「そんな父の望みはお嬢様の眷属となる事でした。……どうかお許しください」

「……、」

 ジャックの話を聞いていれば、彼の父の本当の願いがフランケンシュタイン家に対するささやかな反抗である事くらいすぐにわかる。
 おそらくは彼自身もそれを理解しているだろうが、しかし父親の尊厳とフランケンシュタイン家の時期当主として、それに触れられないのだろう。

(……だけど、だとしても。肉親を吸血鬼に差し出すなんて理解できない)

 肉親を遊戯を構成する駒のひとつとして無機質に捉えている事実に変わりはない。
 ターゲットリストをつくる際、彼はどんな気持ちで父親の名前を連ねたのだろう。
 それを親子の情だと表現するのならば、フランケンシュタイン家はどこか歪んでいるような気がしてならない。

(まるで伝染病ね)

 マリナもまた伯爵自身から直接『感染』させられた身だ。
 彼らが事実としてねじ曲がっている事は明白に理解できる。

(あたしはああはならない……!)

 それが良き方向に向かうのか、それとも二度と這い戻れぬ谷底へ落ち行くのかはともかく、マリナは再び初志を胸に遊戯に臨むのだった。



「今夜もまた出会うか……なるほど、意図的に私を妨害しているのだな」

 六夜目。
 今宵も『先読み』の力をもつ眷属から伯爵の居場所を割り出している。
 順調に伯爵の邪魔ができている状況に、マリナの心にもわずかな余裕ができ始めている頃合いだった。

「その努力に免じて、今は貴方に花を持たせてやろう」

 伯爵は一歩身を引き、「だが――」と言葉を続ける。

「儚い希望を紡ごうともがく貴方の手は純白ではない。ひたすらに真っ赤なのだ。私と同じく、な。それを忘れている貴方はすでに化け物なのだ」

「……!?」

 まるでがつんと頭を殴られたように、マリナは衝撃を受けた。
 伯爵は、何を、言っている?
 単なる負け惜しみでない事が、なぜかマリナには理解できた。

「そ、そんなの……、あたしは忘れてなんか――!」

 果たしてそうか?
 本当に、は忘れていないのか?
 この手が清くなくとも掴める何かがあると思っているのか?

「!?」

 その疑問は誰あろう、マリナ自身の心の裏より湧き出ていた。
 自分の手が汚れている事くらい知っている。
 純白などと夢見た事すらない、自分のものとも他人のものとも分からぬまでに混じりあった、しかし同じく血液によって赤黒く汚れているなど百も承知だ。

 しかし、ならば、なぜその手をすすがない?
 なぜ汚れ切ったままで良しとしている?

 ――そんなのは決まっている。
 マリナはその汚れた手を自分のものとは認めたくなかったのだ。
 どれだけ汚れようと、どれだけの清い命を奪おうと、その赤黒く染まった手はマリナのものであるにも関わらず、マリナ自身は認知しようとはしなかった。

 だからこそランプの火に吸い寄せられる羽虫のように、マリナは光に誘われた。
 見るに堪えない赤黒い手とは比べるべくもなく清く美しい純白の手。
 それはが持つ純潔性ゆえであるが、あまりにも強い光に、マリナにそれが自分の汚れた手を浄化したように見えた。
 むろん、そう見えただけだ。
 本質は何も変わっちゃいない。

(だのに、あたしは……!)

 その輝く手が羨ましくて、欲しくて、しかし手に入らなくて、それでも。
 いつか自分もこうなれるのではないか、という淡い期待を抱くに至った。
 汚れた手から目を背け、やがて訪れると信じた浄化の時を待ち続けた。
 そんなものが来る未来など存在しないというのに。

「伯爵は……」

 すでに目の前に怪鳥の仮面は存在しない。
 それでも、マリナはその疑問を口にせざるを得なかった。

「見抜いて、いる……の……!?」

 どっと冷や汗が噴き出し、マリナは身体を震わせた。
 他人がどうかは知らないが、少なくとも自身がより多くの秘密を抱え、その内を明かさず生きてきたという自覚はある。
 それを、あろう事か伯爵などという化け物に見透かされ、あまつさえ揺さぶりに利用されてしまった。

 所詮は単なる陽動だと笑い飛ばす事もできた。
 しかし、マリナにとっては到底看過し難い大事であった。

 それからカプーチュのどこをどう巡ったのかも記憶にない。
 気が付けば夜は更け、少しもしない内に空が白み始めるだろう。
 忘我の内にあっても獲物を探しに街を練り歩いたのだろう疲労感だけを抱き、マリナは屋敷へと戻った。

「……あの、お嬢様。如何なされたのでしょう……?」

 帰ってから、マリナはずっと布で手を拭いていた。
 狂ったように何度も何度も、傍目からは汚れなんて見えないというのに。

「なんでもないわ……」

「……何があったかはわかりません。ですが、お嬢様……お嬢様のお手は綺麗ですよ」

 擦りすぎて赤くなった手をじっと見る。
 マメが潰れて硬くなった暗殺者の手だ。
 お世辞にも綺麗には程遠い。

「ふっ、ありがとうね。あなたの下手な嘘のおかげで大事な事を思い出したわ」

「嘘をついた覚えはありません。お嬢様の手は綺麗ですよ」

 血に染まっていて当たり前なのだ。
 マリナは暗殺者であったが、今は冒険者なのだから。
 自分のために戦う事を決めた冒険者なのだから。

 欲しいと願って何が悪い?
 羨ましく思う気持ちの何が悪い?

(伯爵が心臓を求める事と、どれだけ差があるというのよ)

 マリナはただ羨望を抱いて夢想したに過ぎない。
 だが伯爵は他人を化け物に変えておいて、その上で心臓を要求している。
 何の事はない、事の大小はあれど同じ穴の狢だ。

(――であれば何も遠慮する事なんてない)

 どっちを向いてもクソ野郎しかいない。
 今さら相手を蹴落としたとしても非難されて省みるほど清くないのだ。
 ならば勝つべきだ。
 勝って自らの望みを果たすべきだ。

 結局、忘我の内に廻った夜は獲物を見つける事はできなかったようだ。
 いよいよもってただの一度も失敗が許されない局面まで追い詰められた。
 残り二夜しかない状況でなんだか時間の進みも早く感じられる。

 精神的なダメージは深いが、ともあれマリナは棺桶に潜り込み、次の夜を待つ事にした。

 しかしこの夜もまた夢を見た……否、今まさに見ているところだ。
 いわゆる明晰夢というやつだが、夢の主導権を握っているのはどうやらマリナではないらしい。
 マリナは暗闇の中にただ一人、椅子に座らされているだけで、眼前にはぽっかりと開いた四角い『窓』の向こうで展開される物語を見せられているだけなのだ。

 『窓』の向こうもまた暗闇で、そこでに二人の人影が相対している。
 白髪の少女と、その向かいには見慣れた怪鳥の仮面が立っている。
 よくよく見やれば少女は驚愕に目を見開いており、反対に伯爵は小刻みに震えながら大笑いしている。

『ふはははははは!! 現実とは常に残酷で無慈悲なもの……!』

『……っ! ……負けた!? そんな、嘘でしょ……あれだけの人を眷属にしたのに!!』

『私のほうが一枚上手だった。それだけの話だろう』

『そんな……!』

『――約束は覚えているだろう?』

 ぴたりと笑い声を止め、伯爵は真剣な声色でそう言った。
 その言葉の意味を飲み込んだ少女は、一転して恐怖の表情を浮かべる。

『ひっ……、嫌……嫌よ!!』

 少女はじりじりと後ずさる。
 しかしすぐに壁に追いつめられて身動きが取れなくなってしまった。

『さぁ差し出したまえ! 捧げたまえ! 私がもらい受ける!!』

『わ、私はただ、ヒトに戻りたかった……誰も傷つけたくなかった……吸血なんか、したくなかった……!』

 眼前に迫る伯爵の手は死神の鎌を思わせる禍々しさを放っている。

『……でも、それでも!! 思いを押し殺して頑張ったのに!!』

『痛み、悲しみ、怒り、無力感、絶望……貴方の心に湧き上がる負の感情はよく分かる。だが、勝負は勝負。そしてすでに遊戯の決着はついた。貴方は私に敗北したのだ!』

『来ないで! 近寄らないで!』

 少女は必死に叫ぶも、伯爵は止まらない。
 その右手がゆっくりとゆっくりと少女へと迫り、

『――!!!』

 少女の叫び声が響く。
 引き抜かれた伯爵の手にはまだ脈動を続ける心臓が握られていた。

『ふっ……はははははははっ!!!』

 少女のすすり泣く声と、仮面のせいでくぐもって聞き取り辛い笑い声。
 そして、もうひとつの声。

『お嬢様、お嬢様! しっかり!!』

 若い男の声。
 そして水の音。
 街を囲む忌々しい川の流水音じゃない。

『お嬢様、お嬢様!』

(これは……雨音?)

「――お嬢様!」

 唐突に夢は醒め、マリナはその両目を開いた。
 視界に入ってきたのは黒髪で眼鏡の青年、ジャックだった。

「よかった……酷いうなされようだったので……一体どのような悪夢を?」

「悪夢……」

 マリナがさっきまで見ていた夢の話をしたら、ジャックは何やら考え込んでしまった。
 そして何か決心するかのようにゆっくりと顔を上げて話を切り出す。

「……もしかすると、伯爵様の記憶を共有してしまったのではないでしょうか?」

「共有?」

「お嬢様は伯爵様が血を分けられた存在です。この遊戯を通してお嬢様が吸血鬼として成長し、その結果として伯爵様と感覚を共有……」

「分かった。もういいわ」

 まるで的外れとも言えない憶測に、マリナは背筋がひやりとして言葉を打ち切らせた。
 血を吸えば吸血鬼の力は自然と高まっていく。
 遊戯の終盤、いよいよ心臓を奪われるか否かという局面に差し掛かった段階で記憶の共有が行われるのであれば、それは悪趣味としか言いようがない。

(それに、伯爵はあたしの心を見抜いているようだった)

 あちらは最初から万全なる吸血鬼だ。
 血液から記憶を引きずり出すのなんてたやすい事なのだろう。

(どちらにせよ、これは伯爵からのメッセージ……『次はお前だ』、か)

 あの意地悪そうな伯爵のやりそうな事ではある。
 しかし、その中でもマリナには一つだけ気にかかる点があった。

(遊戯に勝利した伯爵は……あの心臓をどうしたのかしら?)


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周摩

Author:周摩
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